Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅶ.-3〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅶ.『科学と魔道』 妖精紫アイコン3 ~ VSハガネ・ロボット ~  剣月紫ライン

「博士! ギロック博士! こちらにいらしたんですか」  老博士が、ハッカイの店を出て、しばらく、よたよたと歩いていると、白衣を着た、 度の厚いメガネをかけた男が、追いかけてきたのだった。 「おお、スコットくん!」  拡大鏡をかけていない方の目を、大きく開いて、博士は、助手である痩せた男を 見た。 「試作品ロボット第2号の方は、いかがでしたか?」 「ダメじゃ。所詮、凡人どもには、ワシら天才の考えなど、理解できぬものなのじゃ。 しかも、魔法を使う小僧なんぞが出て来おった」 「ええっ? それは、本当ですか!?」 「うむ。2号は、残念ながら、その少年の手にかかって、今は氷漬けじゃ」 「なんとむごいことに……!」  助手スコットは、驚愕のあまり、口を開いたままである。 「ところで、スコットくん。何を慌てているのかね?」 「ああ、そうでした!」  スコットは、メガネの位置を直すと、きりりとした表情になり、背筋を伸ばした。 「喜んでください、博士! 例のものが完成いたしました!」 「なに!? それは、本当かね!?」  博士の目の色が変わる。 「さっそく、基地へ向かおう!」  ギロックとスコットは、タイスランの町を後にした。 「まだクレアたちは、戻らないのかよー」  ハッカイの居酒屋では、カイルが不機嫌になっていた。 「ミュミュのヤツも、いつの間にか、いなくなっちまうし、皆、俺がもとの超イケ メンに戻れなくなっても、いいのかよ」 「まあまあ、カイル、もうしばらくの辛抱よ」  マリスが、おかしそうに笑いをこらえながら、なだめる。  ふと、ケインが、カイルの背を、のぞきこんだ。何かが、もぞもぞと動いているの だ。  よく見ると、それは、小さな妖精であった。 「……なにやってんだ、ミュミュ? そんなとこで」 「ケインー! たすけてー!」  その声に、マリスものぞきこんだ。  そこでは、カイルの頭に巻いていた、ほどけかけた包帯に絡まっているミュミュが、 足をバタバタさせていたのだった。 「いったい、どうやって、そんなとこに絡まったんだ?」  首を傾げながら、ケインがミュミュを救出すると、ミュミュは、彼のてのひらの上 に、ちょこんと乗った。 「ミュミュ、いいところに! この俺のケがを治してくれっ!」  包帯のほどけかけた、目だけが現れている顔に、ミュミュは「ひゃっ!」と縮こま った。 「こわいー」 「いいから、早く治せよ!」 「ひゃあっ!」  カイルの形相に、ますます怯えたミュミュは、空中に、パッと消えてしまった。 「こらー、ミュミュー! 消えるんなら、俺を治してからにしろー!」  カイルが喚くが、ミュミュの気配は、どこにもなかった。  ギー、ガッチャン、ギー、ガッチャン……  奇妙な音が、外から聞こえていた。  ケイン、カイル、マリスが、窓から顔をのぞかせると、片方の目に拡大鏡を被せた ギロック博士と、白衣を着た度の厚いぐるぐるメガネの男、そして、人の頭一つ分は 大きい、ブリキでできた不格好な人形とが見えたのだった。 「出て来い! 魔法使いの小僧め!」  得意気に、博士が杖を振り上げ、声を張った。 「ワシじゃ、ギロック博士じゃ! こりゃ、クソガキ! 貴様のクソ魔法など、この ブリキ・ロボット10号には、イヌのショウベンほども効かぬわ!」  ……じいさん、博士の割りには、言葉が汚いな……。  ケインは、ちょっと、そう思った。 「あのじいさん、魔法に負けたのが、よっぽど悔しかったんだな」  カイルが、ははっと、力なく笑った。 「あのブリキが、じいさんご自慢の機械仕掛けの人形らしいわね。よし、ケイン!  あいつを、ぶっ壊しに行きましょう!」  またぶっ壊すのかと、ケインはマリスを横目で見るが、 「だって、向こうから売って来たケンカじゃないの。遠慮することないわよ」  やる気満々の表情で、マリスは指をボキボキならした。  ケイン、マリス、カイルは(今度は、カイルは自分の足で歩いていた)、外に出た。 「ふん、来たか。ここでは、本領発揮するには、ちと狭い。ついて来るがよい」  博士の片方の目が、意地悪く光ると、さっさと歩き出した。  三人は、博士と助手、ガチャン、ガチャン音を立てているブリキ人形の背を見なが ら、進んで行く。  背中の丸まった老人の、拡大鏡をかけていない方の目は、薄暗くなりかけた景色の 中で、ぎらぎらと光っており、一見、悪人そのものであった。  助手の男は、不潔そうな灰色のボサボサ頭に、厚いメガネ、痩せて、ひょろひょろ と歩いているので、突風でも起きれば、すぐに吹き飛んでしまいそうだ。  機械仕掛けの人形は、木の人形と違い、足部分を使って歩いているが、ぎこちない。 遠目からは、甲冑を着た騎士にも見えなくもないが、あまりにも不自然な動きである。 「あんな動きの鈍そうなヤツに、なにが出来るんだ?」  カイルが小声でケインとマリスに言った。二人とも、最もだと頷いた。 「着いたぞ、ここじゃ」  見晴らしの良い丘だった。時は、夕刻。あたりは、夕焼けが美しい。 「さあ、皆の者、出て来るのじゃ!」  ギロック博士が杖を振り上げると、ガッチャン、ガッチャンと音が聞こえ、博士の 連れているブリキ人形と似た、寸胴な人形たちが現れたのだった。 「なっ、なんだっ!? 一〇体もいるじゃないか! おい、汚ねえぞ!」  カイルが博士をにらんだ。 「かかか! ワシは何も言っておらんのに、のこのこついてきた貴様らが、マヌケな のじゃ!」  博士も助手も、してやったりと笑っている。 「ふん、面白いじゃない。それでこそ、遠慮なく、暴れられるってもんだわっ!」  マリスが、ケインのプレゼントしたアイアン・ナックルを装着した手で、薪割り用 の斧を構え、にやりと笑った。  ケインも、どうしたものかという顔をしていたが、とりあえず、マスター・ソード を引き抜き、構えは取ってみた。 「あ、俺は怪我人だから、今回はパスするぜ」  包帯を巻き付けているカイルは、岩陰に、さっと隠れ、顔だけをのぞかせた。  銀色のブリキ・ロボットたちの頭上では、アンテナが、ジージーと音を立て、くる くると回り出した。 「ゆけっ! ロボット軍団よ!」  ギロック博士の声が、茜色(あかねいろ)の空に、響き渡った。  ギーガッチャン、ギーガッチャン……  ブリキ・ロボットたちは、本体と同じ銀色にかがやく斧を手に、ケインたちに向か い、少しずつ進んでいく。 「遅いっ!」  じれったくなったマリスが、ロボット軍団の中へ駆け込み、そのうちの一体の腹を、 斧でさばいた。  ぶしゅーっ!  黒い液体が、ロボットの腹から吹き出した。  よけたマリスの足にも、ひっかっかる。 「なによ、これ、……油!?」 「ぶわっははは! このロボットたちは、先ほどの人形と違って、原油を燃料として 動くのだ! ここで、火を放ったら、どういうことになるか、わかるか? 魔法など よりも大きな炎が出来るぞ!」  ギロックは、狂気じみた表情で笑った。  隣にいる白衣を着た痩せた男も「ひひひ」と笑っていた。 「お前たちは、人間の役に立つロボットを作ってるんじゃなかったのか!」  ケインが、二人をにらみつける。 「いかにも、そうじゃ。これらは、さっきまでのお手伝いロボットと違い、軍事目的 として造った。どこかの国に売りつけるつもりじゃったが、その前に、お前さん方の ような、聞き分けのない子供らには、実験がてら、お仕置きしてやるのにちょうど よい!」 「ふんっ、あたしをお仕置きしようなんて、一〇〇年早いのよっ!」  マリスは、腹を真っ二つに割ったブリキの人形を踏み付けると、それが持っていた 斧を奪い取った。自分の持つ薪割り用のものよりも、柄が長く、頑丈であり、戦闘 向きであると見たのだった。  さっそく、その斧で、次々と、ロボットたちを壊していく。 「なんという非情な娘だ!」  助手のスコットが、頭をかきむしり、悲鳴に近い声を上げる。一体を造るのに 費やした月日が、一瞬で失われていく無念さを、嘆いていた。  博士の方は、悔し気に奥歯をかみ締めていた。 「スコットくん、よーく見ておくのじゃ。ブリキ(彼ら)に何が足りなかったのかを。 今後の新しいロボット制作のためにも!」 「はい、わかりました、博士!」  悔し涙を流しながら、助手がそう返答した頃には、ケインも、剣でブリキたちを 引き裂き、ロボットたちは、あっさりと破壊されてしまったのだった。 「博士っ、速過ぎて、足りない部分すべては把握し兼ねますが、なんだか色々と 問題点があったように思います!」 「あ、ああ、そうじゃな」  マリスは斧を方に担(かつ)ぎ、得意気に、ふふんと笑った。 「軍事目的なんて、まだまだね。これじゃあ、人間の方が、よっぽど役に立つじゃ ないの」  一〇体のブリキ・ロボットたちを破壊し、初めて、マリスとケインは気が付いた。  もう一体だけ、ロボットが残っていたのを。  見た目はブリキと似ていたが、黒く鈍い光を放つ、重厚なロボットだ。 「あれ、なあに?」  岩陰に隠れていた、包帯だらけのカイルのところに、ミュミュが現れた。 「さあな。なんでも、あの技師たちが造った、とっておきのロボットらしいぜ」 「ロボット?」 「機械じかけの人形のことだ。木の人形、ブリキの人形ときて、最後は、あの鉄みた いな人形なんだろう」 「あれ、強いの?」 「今までのロボットどもを見る限りでは、たいして強くもなさそうだが、まだわから ねえ」  包帯を巻いているので、カイルの表情こそは見えないが、鉄色のロボットと、 ケイン、マリスから目を離さずに、真面目な声色だった。 「カイル、ケガ治してあげようか?」  ミュミュが、ぱたぱたと羽音を鳴らす。 「いや、まだいい。あいつは、魔族じゃないから、俺の魔法剣の『浄化』も効かない だろう。といって、あんな鉄のカタマリなんかを、直接斬ったりしたら、魔法剣が 刃こぼれしちまうかも知れねえからな。もう少し、ケインたちに任せて、様子を 見よう。いいか、俺のことは、俺が『治してくれ』って言うまで、治すなよ」  ミュミュは、目をぱちくりさせた。 「カイル、それって、戦いたくないから、ケガしたままでいたいの?」 「ふっ、バカを言うんじゃない。戦いたいのは山々だ。そんなの決まってるだろ?」  カイルの表情は、やはり包帯に隠れていて、ミュミュには、伺い知ることは出来な かった。 「最後は、そいつみたいね」  マリスは挑発的な笑みを浮かべていた。  ギロック博士の隣にいる鉄人を、ギロック博士とスコットは、見上げた。 「博士、このハガネ1号に、もしものことがあったら……!」 「構わぬ。ワシらは、もっと偉大なロボット制作に励まねばならぬのだ」 「は、博士! ……ウウッ!」  度の厚いメガネを外し、白衣の袖で目をこする助手の肩に、博士は、慰めるように 手を乗せた。  それから、ギロックは、ケインたちに向かい、声を張り上げた。 「次は、ハガネ・ロボット第1号じゃ! これは、明らかに軍事目的で造った試作品 じゃ。今までのようには、いかんぞ!」  ケインは、戦うことに、少し遣る瀬ないような、なんとも後味の悪いような気が していた。  相手が人間ではなく、ロボットだとしても、バサバサと斬ってきたことに、罪悪感 を感じなくはなかったのだった。 「さあ、ケイン、次もさっさと片付けましょう!」  反対に、マリスはやる気充分であるようだ。 「楽しそうだな」 「なによ、そんなの、いつものことでしょ?」  けろっとしている彼女を見ていると、ケインも、もうどうでも良くなって来た。 「ゆけっ、ハガネ・ロボット!」  ギロックは、スコットから受け取った、アンテナの付いた四角い鉄の箱のような ものを受け取ると、いくつかあるつまみを操作した。  ロボットは、鎧のような身体を軋(きし)ませて、数歩だけ進んだ。  そこで、腕を突き出した。  なにかがいきなり大量に飛び出す。  黒く、丸みを帯びた形をした、指先ほどのものだ。  マリスが斧で打ち返そうと、触れた途端、  ドゴーン!  それは、爆発したのだった。 「大丈夫か、マリス!」  ケインが駆け寄る。  爆発はたいしたことはなく、マリスは、煙に咳き込んだだけで、どこにも怪我は なかった。 「ぶわーっははは! それは、弾丸じゃ! 小さくても、火薬が詰まっておる。接触 すれば、爆発を起こすようになっとるんじゃ。どうじゃ? 剣や斧で、こやつに斬り かかる前に、銃弾を浴びることになろうぞ! いくさでは、そこらの剣士どもより、 よっぽど頼りになることじゃろう!」 「確かに、近付けないんじゃ、俺たち戦士にとって、不利だな」  ケインが、マスター・ソードを低く構えた。 「ほほう。いよいよ、魔法を使うかね?」  博士の目が引き締まった。 『剣に棲まいし黒き竜ーーダーク・ドラゴンーーよ  今こそ目覚め  偉大なるその力を  貸し与えよ!』  ケインが、剣の柄を握り直す。  ギロック博士の目が光り、助手スコットも、おびえるように物陰からのぞく。  ケインの横では、マリスが期待に満ちた目で見ていた。  ーーが、何も起きなかった。  ケインの額から、汗が、頬を伝っていった。 「ちょっと、どうしたの?」  マリスが、怪訝そうに、ケインの顔をのぞきこむ。 「……あまりのバカバカしい戦いに、ダーク・ドラゴンが力を貸してくれないらしい」 「ええっ?」  マリスが、残念な、呆れたような顔になった。  ギロックは、杖を振り上げた。 「おい、どうした、小僧! 魔法はまだか! はやくしろ! ハガネ・ロボット1号 は、貴重な試作品なんじゃぞ! 計算では、その威力はあまりにも凄まじいと推測さ れ、魔法やその他の衝撃を実験したことはないのじゃ! その記念すべき、初実験を、 試させてやろうというのじゃぞ! ありがたく思って、はやく魔法を出さんか!」 「悪いが、魔法は今は使えない」  真面目に答えるケインに、博士の目には、みるみる失望の色を浮かんでいく。 「なんじゃと!?」  ギロックは、がくっと、身体の力が抜けたように、座り込んだ。 「博士! 大丈夫ですか?」  慌ててスコットが飛び出し、ギロックの隣にかがみ込んだ。  ギロックは、遠い目になった。 「あれは、いつのことじゃったか……。若かりし頃のワシは、鉄よりも頑丈な物質は 造れぬものかと、日々研究しておった。錬金術に興味を持っておった友人と協力し 合い、長年の歳月を積み重ね、やっとのことで出来上がったのが、この『超特殊 ハガネ』なのじゃ」  ふいに、博士は立ち上がり、ケインたちを見た。 「その貴重な研究の末に出来た『超特殊ハガネ』の作り方は、貴様らなどには教えて やらぬ! 最も、教えたところで、真似できるとも思えんがな!」  博士と助手は、高らかに笑った。 「超特殊ハガネは、ちょっとした魔法ごときでは倒れぬ。剣やその他の武器もじゃ。 いくさでも役立つことは間違いない。どこかの戦争好きな国にでも、売るとしようか のう。ふふふ」  ギロックの目が、ぎらりと、あやしく光った。 「そして、ここからが、ブリキ・ロボットと一味違うところじゃ。ハガネ1号は、 先の銃弾だけではないおそろしい科学的武器を、携(たずさ)えておるのじゃ!」  博士の目は、ますます、ぎらぎらと光り出した。 「撃てっ! ハガネ・マシンガン!」  叫ぶと同時に、手にしていたリモートコントローラーのボタンを押す。  ハガネの指先からは、先ほどよりも勢いよく、弾丸が発射された!  ケインとマリスは、横に散り、回避する。  と、同時に、マリスが、ロボットに向かい、走り出した。 「あっ、マリス! 気をつけろ!」  ケインが援護のために、マリスの後を追う。  マリスは、斧を素早く回転させ、弾丸を振り払った。  煙にまかれながらも、突き進んでいく。 「ふふん、バカな小娘だ」  博士は、にやっと笑う。  ロボットの目の前にたどりついたマリスが、斧を横に構えた時だった。 「ミサイル発射!」  ギロックが叫ぶと同時に、操作機のボタンを押した。  ロボットの腹が上に開くと、拳大の、先の尖った弾丸が、後方から火を噴き出し、 発射すると、マリスに直撃した。  派手な爆発の後、もくもくと煙が立ちこめる。  吹き飛ばされたマリスの身体は、地面に、背から落ちた。 「マリスッ!」  ケインが血相を変えて駆けていき、岩にかくれていたカイルも飛び出し、ミュミュ も続いた。


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