Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅶ.-2〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅶ.『科学と魔道』 妖精紫アイコン2 ~ 試作品ロボット第二弾 ~  剣月紫ライン

 ケインがマリスの手を引き、街中へ歩いて行く。 「マリスの好きそうな店、前に見つけたんだ。こっちだ」  マリスの鼓動が、どきんと鳴った気がした。  あたしのために、わざわざ探してくれた? もしかして、少しは記憶が戻ったと か?  どんなお店かしら?  「前から、マリスには、こういうのが似合うと思ってたんだ」と、服やアクセサリ ーの店に入る。  貴族が旅の際に着るような、控えめな旅行着を試着したマリスに、「きれいだよ」 とケインが微笑むーー。  そんな場面を想像していると、マリスの頬が、染まっていく。  いざ店に着いてみると、ケインが連れて行った店の前には、鎧と剣の置き物が飾ら れていた。


武器屋

「なっ? マリス、武器見るの好きだっただろ?」  まったく邪気の無い笑顔のケインが、マリスを見る。 「アストーレの武器・防具屋も、楽しそうに見てたもんな」  そういうことは、覚えてるのね。  マリスは、ケインを見上げた。  もうちょっとロマンチックな発想、ないのかしら?  ……えっ、ロマンチックって、……なによ?  何気なく浮かんだ考えを、すぐに打ち消した。  セルフィスの時みたいに、貴族の生活じゃないんだから。一般庶民は、服装やら アクセサリーだとか、そんな気楽なものじゃないんだからと、思い直したのだった。  武器や防具を眺めているうちに、マリスは、いつの間にか、ウキウキと見入って いた。  知らない外国製の武器もあり、意外と楽しめた。  自分で買うつもりだったが、ケインがプレゼントしたいと言って譲らなかったので、 ケインの予算的にも、軽くて使いやすいアイアン・ナックルに落ち着いたのだった。  帰り道、マリスは尋ねた。 「いつの間に働いてたの? 知らなかったわ」  ケインは笑った。 「マリスが図書館に通ってた間、俺は、ハッカイの紹介で、よろず屋やってたから。 よろず屋の仕事って、仕事らしくないのばかりだからさ、気付かなかった?」  マリスは、なんだか嬉しく思った。  魔物退治やその他で、まとまった金をもらってきた彼女には、地道に人々の役に 立ち、感謝された報酬でプレゼントしてくれたことが、ありがたく思えたのだった。  これまで、そのように考えたことすらなかったと、気が付いた。  マリスは、手にはめたアイアン・ナックルを、じんわりと、嬉しそうに見る。 「ありがとう。これ、絶対壊さないわ。大事にするね」  ケインは、にっこり笑った。 「それなら目立たないし、装備もしやすいから、ベアトリクスに帰った後も、王子を 護ってやれるだろ」  マリスの足が、ピタッと止まる。 「記憶……戻ってない……」  そのマリスの呟きは聞こえていないケインは、にこにこと笑ったままだ。 「良かったー。マリスのためにも、王子のためにもなるものを、あげたかったんだ!」  マリスは、複雑そうな顔で、もう一度、アイアン・ナックルを見つめた。  その時、爆発音が聞こえた。  ケインとマリスは、顔を引き締めて見合うと、音の方へと駆け出した。  ある食堂の、天井が破壊されていた。  二人が駆けつけるが、店の中は瓦礫(がれき)と煙で、見通せない。 「ケ~イ~ン~……」  その息も絶え絶えのかすれた声に、ケインとマリスが振り返ると、瓦礫の下から、 カイルと、中年の男が見えた。  ケインが瓦礫をどけ、マリスが、店主である男を引っ張り出し、次にカイルを 引っ張った。  二人は、髪も衣服も黒焦げになっていた。  クレアもラン・ファもまだ戻らない。  ケインとマリスは、店主とカイルに肩を貸し、町の医者へと連れていった。


草ライン草ライン

「いてててて!」  痛がるカイルの全身に、薬を塗りたくり、医者が包帯を巻いた。 「見た目ほど大変なケがではない。黒いのは、火傷(やけど)ではなく、煤(すす)じゃ からのぅ」  老年の医師は、そう言うと、今日はなんだか忙しいとぶつぶつ言いながら、他の 患者を診ていた。 「たいしたケガじゃなくて良かったな」  ケインがほっとした顔で言った。 「ああ、俺の美貌が!」  包帯(ほうたい)を巻かれた手で鏡を見ながら、カイルは、煤の充分取り切れていな い自分の顔と、少々縮れた輝きを失った金髪とに嘆いていた。 「もうすぐ、クレアたちも戻ってくるわ。ちゃんと治療してもらえば、大丈夫よ」  マリスが、ほっとした顔から、少し真面目な表情に変わった。 「それで、いったい、どうしてそんなケガしたのよ? あなただったら、船が沈没 する前に逃げ出すネズミのように、その魔法剣様が、危険を察知してくれて、とっく に逃げられたはずじゃなかったの?」  カイルが、まだ手鏡を離さずに、答えた。 「だから、この程度で済んだんだよ。なにしろ、店の天井は、ぶち抜けちまったんだ からな。店の客と、あの店長を助けてたら、逃げ遅れたんだよ。もっとも、今までの 俺だったら、そんな時は、自分だけ逃げてたから、無傷で済んだはずだがな」  カイルは、ギロック博士の連れた、木の人形の話をした。 「偉いじゃないか、カイル! 俺は、てっきり、魔道士の女の子口説こうと、何か 失礼なことでもして、炎の術でもくらったのかと思ったぜ!」 「お前なあ……」  カイルは、感心しているケインをにらんだ。  ケインとマリスは、カイルを両脇から抱え、ハッカイの居酒屋に戻った。 「クレアもラン・ファさんも、まだ戻らないのか。ミュミュも、どこ行ったんだ?  こんな時に限って、いやしねえ! 早く治さないと、怪我の跡が、顔に残っちまう!  ああ、なんだか小腹が減ったぜ。のども乾いた!」  文句を言いながら、ほとんど全身包帯巻きのカイルは、椅子に腰かけ、マリスが 口元まで運んだ焼ブタの薄切りを、頬張った。  ケインも、カイルに言われるまま、ミルクのツボをかたむける。  実際は、それほどの大怪我ではなかったのだが、カイルがあまりにも痛がるので、 二人は、ほぼ彼の言いなりになっていた。  いれば必ず叱るであろうクレアがいないのをいいことに、怪我を口実に、カイルは、 わがまま放題であった。 「ハッカイさん、ここも気を付けた方がいいぜ。さっき、俺がいた店で、小柄で背中 の丸まった、拡大鏡みたいな片メガネをしたじいさんが、ロボットとかいう木の人形 に、掃除だとか仕事を手伝わせてみろとかなんとか言ってたからな、気を付けなよ、 ここにも来るかも知れないぜ」  カイルが忠告すると、カウンターの中から、ハッカイは微笑んだ。 「もしそのロボットってやつが、言うことを聞いて、作業してくれるんなら助かるが、 俺は、自分の店で出すものは、自分の手で作りてえなぁ。こう見えても、昔から 美食家だったんだぜ。うまいものが食いたくて、とうとう自分で作るようにまで なっちまったんだ。  俺が、この店で出すのは、どれも腕によりをかけて作ったものだ。ただ、決められ た分量通りに、調味料を使えばいいってもんでもない。その時の加減に合わせて出来 るようになるには、料理人としての経験が大きい。俺の弟子たちならともかく、機械 人形には、そんな判断は出来ないだろう」  と、ハッカイが語っていた最中であった。  バタンと扉が開くと、そこには、小柄な老人と、人の形をした木の人形とが現れた のだった。  カイルの目付きが鋭くなった。 「噂をすれば、なんとやらだぜ。あいつが、今話した、博士を名乗るじいさんと 木偶(でく)人形だ。あのじいさん、同じような人形を、いくつも作ってるらしいな。 俺が見たヤツは、爆発しちまったからな」 「ふ~ん……」  ケインもマリスも、カイルの世話を焼きながら、じっと、老人と、木で出来た人形 を見つめた。  カイルの話した通り、片方だけ拡大鏡を付けた老人は、人形を後ろに連れ、 ハッカイへ向かって行った。 「あんたが、この店の店主かね? ワシの作ったお手伝いロボット試作品第3号を、 試してはみないかね? なぁに、試作品じゃから、給料は、一ヶ月ほんの銀貨一〇枚。 どうじゃ、お得じゃろう?」 「ハッカイさん、そいつが、今まさに、俺が話していた、ギロックとかいうイカレ じいさんと、イカレロボットだぜ!」  カイルが叫んだ。 「なんだね、お前さんは? ミイラ男かい? いきなり人をキチガイ呼ばわりはない じゃろう」 「なんだと!? 俺がこんな姿になったのは、すべて、てめえのせいだろ!」  カイルとギロックの間に、厨房から出て来たハッカイが入り、穏やかに切り出した。 「それで、じいさん、あんた、もし仮に、俺が、そのロボットを使ってやったら、 どうするんだい? 給料もそんなにかからないんじゃ、あんたに何の得があるんだ ね?」  人の好いハッカイの笑顔と態度に、博士は、気を良くして答えた。 「ワシは、この世に、科学で貢献しようとしておる学者のうちのひとりじゃ。今の 世の中は、魔法を使う者が偉いとされているかのようだが、魔法が人々の生活を良く したことと言えば、病気や怪我を治療することや、攻撃呪文でモンスターを退治する くらいじゃ。  もっと人々の身近な部分で、役に立ったことは? 例えば、掃除、洗濯、料理…… どれも出来ぬではないか。それなのに、魔道士の塔やら魔道士協会というところは、 威張り散らし、人々も、魔道を使う者を尊敬すらしておる。本当は、自分たちの普段 の生活なぞ、何も楽になってはおらぬというのに」  博士は、顔を上げ、まるで何かに宣言するように、口調を強めた。 「ワシは、魔道などは信じぬ! 信じられるのは、科学のみじゃ。魔道よりも発達の 遅れておる科学を、今にもっと実用的に応用できるよう研究を続ける! 魔道などと いう曖昧(あいまい)なものではなく、科学という確かなもので、この世に貢献するの じゃ。  金が欲しいわけではない。ワシの作ったロボットが、おぬしたちの役に立てること がわかれば良い、それだけで満足なのじゃ。今は掃除くらいしか出来ないロボットの 開発が主じゃが、もうじき、すごいロボットも出来る予定じゃ。それが完成すれば、 人々も、魔物は魔道士や剣士たちにしか倒せないという概念を、取り払えるはず」  ケイン、カイル、マリスは、顔を見合わせた。  突拍子もない話に、ハッカイが、半開きにしていた口で、そのまま尋ねた。 「じいさん、あんたの話だと、……そいつのような木の人形が、そのうち魔物まで 倒せるようになるってことかい?」  博士が、誇らしい笑いになる。 「魔物撃退用は、木製ではない。もっと頑丈であり、巨大であるのじゃよ」 「へえー!」  ハッカイは、なんとも言えない様子で、ギロック博士とロボットを眺めていた。 「なあ、今の話、どう思う?」  カイルが顔を歪めて、ケインとマリスに問いかけ、そのまま続けた。 「俺は、今までいろんなところを旅して来て、あんな動く人形なんかには出くわした こともないし、聞いたこともない。ただひとり、科学を、人々の生活に役立てようと していたヤツを知っているが、そいつと違うのは、魔道に対抗意識が強いところだ。 それが、ちょっと気になるぜ」  ギロックを見つめていたカイルは、マリスを見た。 「ベアトリクスではどうだった? あそこなら、他の国よりも進んでいるからな。 科学の情報、なんか入ってこなかったか?」  マリスが首を傾げる。 「う~ん、あそこは、魔道の方が盛んだったからね。科学者も、いないことはなかっ たけど、研究しているばかりで、特に、何かを開発するようなことはなかったと思う わ。  ああ、そう言えば、士官学校の兵法の時間に、聞いたことがあったわ! 鉛や鉄を 溶かして形状を変え、大砲とか銃とかって武器を作れば、剣と違って、遠くの敵も 倒すことができるんですって。  ベアトリクスやその他の大きい国も、軍事目的として、その開発を進めてたけど、 結局、実用できるところまではいかなかったし、黒魔法の方が、遥かに威力があった から、魔道と武器の生産の方に、資金を回すようになったわ。西洋では、どこも そんな感じかしら。東洋はわからないけど、やっぱり科学よりは、魔道に力を入れて いたんじゃないかしら」  その間にも、ギロックは、自分の科学論を、ペラペラと語っていた。 「……というわけで、このロボットたちを実際に使用していただき、店主方のご意見 を聞き、改良を加え、より実用的にしていきたいと思っておる。だから、ワシが、 あんたや他の店に、この木人形を置いてもらいたいというのは、決して、金儲けの ためではないんじゃよ。世界に科学で貢献できれば、ワシは、それで満足なんじゃ!」  彼の目には、その意思の現れであるように、強い光が浮かぶ。  それを認めた上で、ハッカイは、口を開いた。 「じいさんの考えは、よくわかったよ」 「それでは、おぬし……!」  ギロックの表情が、期待を込めて明るくなるが、ハッカイは、残念そうな顔で、 首を振った。 「いや、悪いが、じいさん、うちは、今の従業員たちと、開店当初から頑張ってきた んだ。例え、その人形の方が出来が良かったにしても、あいつらを首にしてまで、 そいつを使いたいとは思わねえ。そそっかしいヤツ、失敗するヤツもいるが、俺は そいつらを、人間的に買っているんだ。そんなわけで、俺には、あんたの研究の協力 は出来そうにない。悪いが、他を当たってくれないか?」  老博士の片方の肉眼からは、みるみる光が失われていった。 「今まで、ワシの話を、ここまで聞いてくれた者はおらんかった。せっかく、お前 さんならば、ワシの研究の偉大さを、わかってくれたと思ったんじゃが……」 「もちろん、じいさんの心がけは立派だよ。その志に協力したいのは山々なんだが、 できない事情があるんだ。悪く思わねえでくれ」  すまなそうにハッカイがそう言うと、老人は、まだ諦めがつかず、しつこく食い 下がっていたのだが、ハッカイの気が変わりそうもないとわかると、その態度は急変 した。 「ワシが年寄りだからって、うまいことを言って、追い返そうとしとるんじゃろう?  ワシの言うことなんぞ、どうせホラだとでも思って。年寄りをバカにすると、今に 痛い目を見るぞ!」 「いや、じいさん。じいさんをバカになんか……」 「いいや! おぬしだけでなく、今まで交渉して来た者どもも、皆、ワシの言うこと をまともに聞き入れなんだ。世界のために科学で貢献しようという、ワシの尊い志を、 誰もわかろうとせんかった! 所詮(しょせん)、イカレた老いぼれジジイのたわごと としか思わなかったんじゃ!」  博士は、カッカと怒り出すと、後ろに突っ立っている木の人形を振り返った。 「3号、ワシらをバカにする人間どもに、お前の力を見せてやるのじゃ!」  博士が人形の背の突起を操作すると、人形は、頭のてっぺんから、蒸気を吹き出し、 店の中を、突然、人が走るほどの速さで、あちこち移動を始めた。  人間と似た形の足がありながらも、それは動かさず、足の裏についたいくつかの 小さな丸い部品が回転し、すーっと地面を滑るように進んでいる。  人形型ロボットは、テーブルや椅子にぶつかっても構わず突き進み、それは、 カイルたちに向かって来たのだった。 「うわー、来るなー!」  カイルが、腕で顔をかばいながら叫ぶと、ケインが、カイルの前に立ち、木の人形 を押さえた。 「脅すのは、やめろ!」  ギロックは、人形を手で支えるケインを、じろじろと見回した。  栗色の髪に、青い瞳でキッとにらむ、幾分、童顔の青年である。 「科学で、この世に貢献しようという、じいさんの話を聞いて、立派だと思っていた けど、受け入れられなかったからと言って逆恨みして、その人たちを脅したり、 仕返ししたりするのは、筋違いじゃないか」 「小僧、貴様なぞに何がわかる! ワシは、褒めて欲しかったわけではない。ワシの 意思を、世の中に広めなければ意味がない。口では賛成しておいて、実際に協力出来 ないという方が、よっぽど筋が通っておらんではないか。そんなことでは、ワシの 言ったことを本当に理解したとは言えん。皆、口ばかりで、科学の必要性を、わかっ とらんのじゃ!」 「わかっていても、そういうわけにはいかない事情が、人それぞれあるんだ。それ くらい、わかるだろ?」 「やかましいっ! 凡人の事情など、天才には通じぬわっ!」  ギロックが、動きをケインに押さえられている人形を、「返せ!」と言って、 引っ張っていると、 「ケイン、こんなヤツに、言い聞かせたってダメよ」  マリスが立ち上がり、ケインの隣に並ぶと、にやっと笑った。 「どうやら、このじいさんは、この木偶人形を、ぶち壊してやらないと、わからない みたいよ」  マリスが、手を組み合わせ、ボキボキと鳴らすのを横目で見たケインが、ぼそっと 言った。 「さも、ぶっ壊すのが楽しそうだな」 「あら、気のせいですわ」 「いいぞ、マリス! やってやれ!」  カイルは、包帯を巻いた腕を、ぶんぶん振り回した。  だが、マリスがまだ何もしないうちに、木の人形の頭の上から出ていた蒸気が、 一層勢いを強め、内部からは、バチバチッと、プラズマのようなものが走ったと思う と、突然、頭の上が発火したのだった。 「やばいっ! また爆発する! ハッカイさんも、皆も、逃げるんだ!」  カイルは慌てて椅子から立ち上がり、店の外へ走るが、足の包帯がほどけて絡み、 転んでいた。  それには構わず、マリスが博士をにらんだ。 「中の機械が故障したの?」 「おそらく、部品に使っておる金属が熱を持ち、木の水分と反応したのかも知れん。 2号と同じ原因か。3号の木は充分乾かしておいたつもりじゃったが……」 「何を冷静に分析してるのよ。木で出来てたら燃えやすいに決まってるでしょう!?  ロボットには不向きな材質だったのね。あんた、ホントに、ちゃんと考えて造ってる の!?」  マリスは、博士の襟首をつかんだ。 「く、苦しいっ! 放さぬか!」  そうしている間にも、ケインの押さえている人形は、ガタガタと揺れ出した。 「マリス、博士を連れて離れろ!」  マリスはギロックを小脇に抱えると、部屋の隅に連れて行った。  それを見届けてから、ケインは、人形の腹を、蹴り飛ばした。  人形がガタガタと後退すると、腹からも、足の付け根からも、発火した。 「ダーク・ドラゴン、力を!」  同時に、ケインが、マスター・ソードを引き抜き様に、振り下ろした。  刀身全体が青白く光ると、無数の細かい氷の粒が、吹き付けるように、人形全体を 覆っていった。  火は消え、焦げた人形は動きを止め、間もなく、巨大な氷漬けとなった。 「おおお! なんということじゃ……!」  博士は思い切り見開いた目で、氷の岩に閉じ込められた人形に駆け寄るが、どう することも出来なかった。 「貴様、魔法を使う者であったか」  背を丸め、がっかりした博士は、ケインを振り返る。 「科学は魔道に劣ってはおらぬ! 今度会う時には、それを証明してみせようぞ。 その時は、ビビるでないぞ、小僧!」  ケインに、指を指して宣言した博士は、カイルの脇を横切り、よたよたと店を出て 行った。 「その前に、安全対策、万全にしとけよー」  ケインは、呆れた顔で、博士の背に向かって返した。 「いやあ、ケインがいて助かったな!」  ハッカイが、厨房のカウンターの中から、ひょっこり顔を覗かせた。 「にしても、その剣は、黒魔法が使えるのか?」 「ああ、今は、黒魔法だけな」 「へえー……! レオンも、バスター・ブレードって、どデカい剣を使っていたが、 お前も、なんだかすごい剣を持ってるんだなぁ!」  ハッカイは、鞘に納めたマスター・ソードと、ケインとを、まじまじと見ていた。 「それより、どーすんだよ、これ」  カイルが腕を組み、店の中央に、どんと置かれた氷のかたまりを、あごで指す。  椅子に座らずとも平気そうであったが、そこは誰も突っ込まないでおいた。 「このまま、ここに置いとくわけにはいかないし、といって、壊すのも、気が引ける なぁ」  ケインが、氷の中の、ぴくりとも動かない人形を見る。 「あら、でも、あの博士、このロボット置いてっちゃったから、もういらないんで しょう? ケインが壊すのに抵抗あるんなら、あたしが斧で割ってやるわ。木の部分 は、乾かせば、薪に使えるわよ」  マリスが、にっこり笑う。 「……やっぱり、ぶっ壊すんだな」  横目で見るケインであったが、ハッカイの家の斧を刃こぼれさせないためにも、 部分部分を、黒魔法の炎で氷を融(と)かしたところから、マリスや従業員たちが分断 していったのだった。


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