Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅳ.-3〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅳ.『黒いハヤブサ』 妖精紫アイコン2 ~ 伝説の勇者 ~  剣月紫ライン

「魔除けの護符(アミュレット)って……? 」  新入りの傭兵が、タイガに、おそるおそる尋ねた。 「ああ、ダンの剣には、白魔法の護符がついてるんだ。ベアトリクスを出る前に、 友達の巫女が付けてくれたんだと。普通は、神殿に行って頼むんだが、すげえ金が かかるんだぜ。魔道士の塔だか、魔道士協会だかだと、もっとらしいけどな。まった く、いい友達持ってやがるぜ、ダンのヤツ」  タイガは、視線を、ダンとソルジャーの戦いへと戻した。  黒い魔物じみた動物は、緑色の目をぎらぎらとさせ、牙だらけの口を開け、唸り声 を上げ、威嚇(いかく)した。  唾液が、牙の間から、したたり落ちているその様は、狂犬めいている。  ダンは、充分な間合いを取り、剣を逆手に持つと、縦に構えた。  その足元で、小石がジャリッと音を立てたとき、黒いデモン・ソルジャーが、唾液 をまき散らし、飛びかかった。  ガツッ!   巨大な爪を、剣が盾になって防ぐ。  先と同じように煙が吹き出すが、それだけでは、ソルジャーの致命傷にはならない ようだった。 「なんて力だ! タイガでも、かなわなかったのがわかる! 」  目の前のソルジャーの形相は、一層、凄まじい。  ダンの首を食いちぎろうと、牙を剥き、顔を近付けた。 「ギャッ! 」  悲鳴を上げ、弾かれたのは、ソルジャーの方であった。  ダンの右脚が、ソルジャーの腹を蹴り飛ばしたのだった。  体勢を立て直す時間を与えずに、ダンの右拳が、顎を突き上げる。 「グエッ! 」  ソルジャーは面食らい、飛びすさった。 「二〇〇六号、そいつは、村人や野盗とは一味違うようだ。心してかかれ」  軍人は言い放った。  唸り声を発しながら、距離を置いて、恨めしそうに睨むソルジャーの方も、ダンを、 一筋縄ではいかない獲物だと、用心しているようだ。  その様子を見て、ダンは、ふと思った。 (なんで、魔物が、人間の言うことを聞くんだ? あの化け物、さっきから、まるで、 あいつら軍人の言うことが、わかるみたいだ。召喚された魔物なら、確か、その召喚 士の言うことしか聞かないはずだ。といって、あいつらは、魔道士には見えねえし、 ……どうも、召喚術の魔物とは、違うように思える)  だが、今は、そのようなことは、関係なかった。  ダンは、それ以上、ソルジャーや、彼らのことを深く考えるのはやめた。 「ガオオオオオ……! 」  地面を蹴ったソルジャーが、ダンに向かう。  僅かに地面を蹴っただけで、右から来ると見せかけ、左へと方向を変えた。  その跳躍力からも、常人の何倍もの筋肉、運動能力を備えているのがわかる。 「へん! フェイントをかけるとは、器用なことするじゃねえか! 」  不敵な笑みを浮かべていたダンが、その動きを見切るには、それこそ、常人以上の 観察力、精神力を要する。  ソルジャーが爪を振り上げ、ダンが躱(かわ)そうというところだった。  牙に覆われた口から、緑色の液砲が飛び出した。  意表をつかれたダンが、目を見開く。  次の瞬間、見ていた者すべての目の前から、ダンの姿が消えたのだった!  「……き、消えた!? 」  黒服の男たちも、ソルジャーも、動揺し、必死に彼の姿を探す。  彼らだけではなく、タイガや仲間の傭兵たち、まだ近くにいた村人たちも。 「俺は、ここだ! 」  そう、天から声が振って来たと思うと、  ごとり……!   誰もが、信じられない光景を、目にしていた。  いきなり、ソルジャーの頭上に現れたダンが、黒い魔物めいたソルジャーの首に、 剣を振り下ろしたのだった。  デモン・ソルジャーは、声も上げずに、ただ首が、地面に転がった。  ダンが着地した。  彼は、息を飲む人々の前で笑うと、肩に手を添えて言った。 「助かったぜ、ジャック! お前が来てくれなかったら、ちょっとヤバかったかも な! 」  ダンの肩には、サイスの治療を終えたエルフが、ちょこんと乗っかっていた。  ジャックの特殊な能力で、ダンは、一瞬で、空間の中を移動したのだった。 「なっ、なんということだ……! 」 「またしても、我々のデモン・ソルジャーが……! 」  二人の軍人は、これまでのクールな外見と異なり、冷静さを欠いていた。 「……お、おのれ、よくも……! 我らの組織を、甘く見るでないぞ! 目にもの 見せてくれるわ! 」 「ま、待て、少尉! 」  驚き、逆上した男は、もうひとりが止めるのも聞かずに、ダンへ走り出し、腰に 差してあったサーベルを引き抜いた。 「この俺に、ケンカ売ろうってのか? 上等だぜ! 」  ダンの身体が、またしても、ジャックの能力(ちから)で、ふわりと浮かぶ。  サーベルを手にした男は、逆上したあまり、気が付いていない。 「ちょうどいい。お前らには、この俺の伝説を作り上げる手伝いをしてもらおう! 」  ダンの身体がさらに浮かんだと思うと、瞬時に降下し、男の突き出したサーベルを、 逆に迎え撃った。  サーベルは、ダンの持つロング・ブレードに、打ち砕かれた。  男の目が、黒メガネの奥で見開かれたとわかる。  さらに、ロング・ブレードは、黒い服の肩に食い込むと、そのまま、胸まで、剣は 下ろされた。  ダンは地面に降り立ち、倒れた男の身体から、剣を抜いた。  男が悲鳴を上げ、のたうち回った。 「少尉! 」  もうひとりの男が駆け寄ると、ロング・ブレードが、男の鼻先に、つけられた。  男は、仲間を助けることも出来ずに、腰を抜かし、尻を地面についた。  ダンが笑う。 「いいか、よく覚えておけ。俺は、傭兵団『真ハヤブサ団』のリーダー、『黒い ハヤブサのダン』だ! お前ら、この村から、手を引け。もう二度と、ここへは来る んじゃねえ。わかったか! 」  男は、自分の身体が震えているのがわかった。  ダンの剣に恐怖を感じていた。  組織の中で、厳しい鍛錬をこなしてきたこの自分ですら、この青年にはかなわない と悟っていると、誰もが容易に想像できた。 「……伝説の……勇者!? 」  男は、伝説など信じてはいなかったであろうが、ダンを見て、はっきりと、口に していた。  男を尻目に、タイガ、サイス、残りの傭兵、村人たちは、歓声を上げて、ダンを 取り囲んだ。 「ああ、勇者様! ありがとうございます! 」 「村を魔の手から救っていただき、本当に、なんとお礼を申し上げてよいやら! 」  村人が口々にダンを褒め讃えた。  老人たちは、「ありがたや! ありがたや! 」と、手をすりあわせ、何度も深々 と頭を下げ、子供たちも、「勇者様だ! 勇者様だ! 」と、集まり、騒ぎ立てて いた。


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 その夜、村では、宴が開かれた。  大きな焚き火を取り囲み、傭兵団は、村人たちに、もてなされていた。  ダンにしてみれば、村を救ったのは、あくまでもついでであったのだが、山脈の 抜け道もわかったことで、目指していたナルガス公国へは、一晩、この村に宿泊して からでも、充分間に合うため、遠慮なく、宴に招かれたのだった。 「まったく、おめえは、すげぇヤツだぜ、ダンよぉ! 」  ダンの横では、タイガが、顔中に笑みを溢れさせて、杯(さかずき)にたっぷりと 酒を盛り、ダンにも注いでいた。  もう片方の隣では、すっかり怪我の治ったサイスが、ちびちびと酒を啜り、その 横には、女戦士アスタルテがいる。彼女は、特に笑いもせずに、目の前にある果実 などを、静かに食べていた。 「いつもながら、無茶なヤツだぜ、お前は。だが、俺の老婆心など、いつも不要に 終わっちまう。お前のことは、心配するだけ無駄だな」 「ははは、ひでえな、サイス! これからも、心配してくれよ! 」  ダンが笑いかけると、サイスも口の端を少し上げる程度であったが、彼は、それ でも笑っているらしかった。  その様子を眺めるアスタルテと、ダンの視線が合う。  ダンが微笑むと、アスタルテも、ほんの少しだけ笑顔を見せた。  焚き火を前に、村の踊り子たちが、その村で代々伝わる踊りを、披露した。  傭兵団も、村人たちも、陽気に歌い、踊りに加わる者もいた。  ダンたちのところには、村人から次々と酒や食べ物が運ばれ、崇(あが)めるような 言葉をかけられた。  宴も終わり、それぞれが、家や宿屋へと向かう頃であった。 「勇者様」  長老である老人が、ダンに声をかけた。  振り向くと、長老の一歩後ろには、焚き火の前で踊っていた踊り子もいた。  黒い髪が腰まであり、薄手の布を、露出した衣装の上から、はおっている。  まぶたには、きらきらと光る青い粉を付けていて、唇は、深紅に塗られていた。 「踊りの筋も良い、村一番の器量良しですじゃ。金も宝も何もない村ですゆえ、この ようなおもてなしくらいしか出来ぬのが、まことに情けないのですが。他にも必要な ものがありましたら、遠慮なく、おっしゃってくだされ」  女は、すらりと長い脚で、長老の隣に進み出た。  その美しい顔立ちは、宴の興奮がまだ冷めやらぬためか、村を救った勇者を前に、 心をときめかせているのか、わずかに上気していた。  ダンは、その美しい踊り子の、完璧に化粧された顔を見つめたが、彼の瞳には、 特に、何の感動もあらわれてはいない。 「タイガには、木の実酒と体格のいい女を。器量は問わない。サイスには、煙草 (たばこ)とクス酒を持たせてやってくれ」 「かしこまりました」  長老が、深々と、頭を下げる。  それを背に、ダンは宿へと向かって行き、踊り子が、その後に続いていった。


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 朝早く、アスタルテは水を汲みに、小川へやってきた。船で渡る川ではなく、 山からの湧き水である。  朝の柔らかな日差しが、水面をきらきらと光らせている。  アスタルテは水を手ですくい、顔を洗った。 「よう。早いな」  その声に振り返ると、ダンも、水筒を手に、来たところであった。  別段、いつもと変わらない笑顔であったが、アスタルテの目は、表面以外のところ まで射抜いていた。 「どうかしたのか、ダン? 何か、気になることでも? 」  ダンの瞳に驚きが現れるが、すぐに、思い直したように、小さく笑った。 「やっぱり、鋭いな、アスタルテは。お前には、どんなヤツも、隠し事は出来ないだ ろうな」  ダンの笑顔は、いたずらを母親に見付かった子供のように、隠しても無駄と観念 したものだった。 「昨日の話を、お前は、どう思う? 」  そう問われたアスタルテは、不可解な顔になった。 「昨日の話とは……? お前が連れ込んだ女の話か? 」 「ちげーよ! 」  真顔のアスタルテに、ダンは、少しだけ頬を赤らめた。 「俺が連れ込んだんじゃないだろ? いきさつを、よく思い出してみろよ」 「ああ、わかっている」 「そ、そうか。なら、いい」  ダンは、咳払いをしてから、真面目な顔になった。 「昨日のあの組織、あんな魔物じみたソルジャーなんてものを作り出して、あれは、 ちょっとヤバそうだったな。あんな技術だか魔術だかを持ってるってことは、何か 巨大な悪の匂いがする」 「ああ、そうだな。それで、お前は、あの組織を潰そうだとか、まさか、考えている というわけではないのだろう? 」 「ああ。奴らが、例え『悪』だとハッキリわかったとしても、俺には、かかわりの ないことだと思う。俺たちの目標の邪魔をしない限り、奴らを、こっちからぶっ潰し にいこう、などとは思わない」 「だろうな。お前なら、そう言うと思った」 「お、おう。だからな、俺が、昨日から気になってて、お前に尋ねたのは……」  アスタルテは、表情も変えないまま、応えた。 「もうひとりの、伝説の勇者のことだな」  ダンの表情が引き締まってから、緩んだ。 「……さすがだな。やっぱり、お見通しってわけか」  首を引っ込めたダンは、溜め息をついた。 「伝説の剣を持ち、影みたいなドラゴンを操り、妖精を連れているとも。いったい、 どんなヤツなんだ……? 」  独り言のように、言葉は、彼の口をついて出ていた。 「伝説の剣……俺が、最も欲しかったものだ。それを、二つも、既に手にしていると は……! 俺とそんなに年も変わらないような話だった。そいつは、いったい、どう やって、二つの剣を、手に入れたんだ? 」 「『強く願い、努力すれば、手に入る。だが、執着し過ぎると、己を見失い、いずれ 破滅の道をたどる』ーー私の国の格言だ」 「最もかも知れねえ。だが、俺は、今よりも、もっと強くならなくちゃならねえんだ。 今のところ、俺のロング・ブレードは無敵だが、伝説の剣には、かなわないだろう。 どうにか手に入れられないものか……」  ダンは、拳を握りしめた。 「それと、影のようなドラゴンを操るとは、どういうことだ……? 」  アスタルテが、静かに口を開く。 「巨大な剣はバスター・ブレードと言ったな。その剣のことは、残念ながら、私は 知らないが、ドラゴンを操るというのは、心当たりがある。ドラゴンと心を通わせる 『ドラゴン・マスター』という者が存在すると聞く。もし、そうだとすると、その男 の持つもうひとつの伝説の剣とは、『ドラゴン・マスターの持つ剣』かも知れない」 「ドラゴン・マスターだって? 」  信じられないとばかりに聞き返すダンに、アスタルテは、うなずいてみせた。 「昔、私の国にもいたらしい。ドラゴン・マスターの伝説は、幼い頃から、聞いて いたが、半分お伽噺(とぎばなし)だと思っていた」 「もし、そんなドラゴンを操るようなヤツが、俺の野望の前に立ち塞がり、敵として あらわれたら……! 」 「それでも、お前なら、突き進むのだろう? 」 「ああ、もちろんだ」 「ならば、問題はあるまい。伝説の武器を持っている者が、すべて伝説の戦士とは 限らないと、私は思う。すべては、実力だ。伝説の武器を使う力量次第。お前には、 実力がある。すでに、妖精も付いている。そう武器にこだわることはない」 「だがな、戦士として、武器に興味はある。こだわりもある。当然のことだ」  アスタルテは、黙って、ダンを見つめた。 「ダン、何を焦っている? 」 「……焦ってなんか、いない」  仏頂面になったダンは、さっさと水筒を小川に浸すと、もと来た方向へ、帰って 行った。  アスタルテは、水筒に、小川の水を汲(く)んだ。 「あんた、ハヤブサ団の傭兵ね」  アスタルテの後ろには、昨夜の踊り子が立っていた。  踊り子たちの中で、一際、美しかったと、アスタルテは思い出す。彼女が、ダンと 同じ宿に向かったことも。 「私に、なにか用か? 」  踊り子は、アスタルテの、無愛想な、表情のあまりない顔を見つめてから、褐色に 日焼けした腕や、脚の先までを眺めていた。 「あんた、あの勇者様の女……? 」  そう問いかけた女を、アスタルテは、いぶかしげに、見つめ返す。 「そんなわけ、ないか……」  踊り子は独り言をいい、ふっと笑った。  アスタルテは水筒を腰に下げると、立ち上がる。 「あの勇者様ってさ、もしかして、女が嫌い? 」  踊り子の声に、引き留められたアスタルテは、首だけ振り返った。 「さっきから、なんなのだ? 商売がしたいのなら、ダンではなく、他の男のところ へ行け」 「まあっ、そんなんじゃないわよ! 」  踊り子が、腰まである長い髪をかき上げ、立ち上がった。  そして、腕を組むと、余裕に満ちた笑みで、見下すように女戦士を見た。 「勇者様は、雄々しくて、素敵な方だったわ。筋肉のしまり方なんかも全然違って いて、私の知っているどの男よりもたくましかったわ。あのように、強くて男らしい お方と一緒にいられるのも、この持って生まれた美貌の特権というのかしら?  おかげで、今までいい思いをして来られたわけ」  女は誇(ほこ)らし気であった。  アスタルテは黙っていた。  しなやかで女性的な身体付きの、その女と向かい合ってしまうと、アスタルテが 筋肉質であることが強調されてしまい、男らしく見えてしまう。  といって、アスタルテが、それを悲観しているようではなかった。 「……だけどね」  踊り子は、少々淋しそうな目になって、うつむいた。 「勇者様は、私には、目もくれなかった。目の前の私を、見てはいなかった。心は、 どこか遠くにあるように思えたわ。そんなこと、今までなかった。あんなお方は、 初めてよ。この私が、彼の心までは、落とすことが出来なかったなんて……! 」  女は、半信半疑な口調で呟くと、アスタルテを向いた。  自分は、決して、他の女にも、この女戦士にも、見劣りしてはいないはず、と言い たげな表情だった。  そんな彼女を、アスタルテは、どこか憐れむようにも取れる目を向けた。 「ダンは、自分を見失うことはない。彼には、大きな目標があるのだ。それを成し 遂(と)げるまでは、何者も、彼の心を動かすことは出来ないだろう」  踊り子は、しげしげと、女戦士を見つめる。 「ねえ、あんた、本当に、勇者様の女じゃないの? 」 「しつこいぞ」  アスタルテは、眉をひそめた。 「彼には、もっとふさわしい女性がいるはずだ」  それだけ言うと、アスタルテは、踊り子にはもう構わずに、去って行った。  村の奥にそびえ立つ山脈。  その裾に、『真ハヤブサ団』は集合していた。  半数はウマに乗り、後の半数は、歩いて行く。  昨日の軍人と、村の老人たちの言う通り、山の向こうの国への抜け道となる洞穴が、 垂れ下がった木の枝に覆(おお)われ、隠れていた。 「ナルガス公国は目前だ。皆、気合い入れて行こうぜ! 」 「おう! 」  ダンの呼びかけに、傭兵団は、勢いよく拳を上げて、応(こた)えた。  彼の両脇にいるタイガ、サイスのウマには、酒ツボが、新たにつり下げられていた。  そして、『黒いハヤブサ』のダンの肩の上には、いつものように、ちょこんと、 妖精が乗っていたのだった。


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 暗闇の中。  灯りらしきものは、ろうそくの灯(とも)った燭台のみだ。  ぼんやりと、ところどころが、照らされている。  その点々と置かれた燭台からすると、室内は、広々としていることが見て取れる。 「それで、少尉は、ただの剣士などに殺(や)られたというのか」 「は。以前、グラドノスキー少佐が接触した、我々に楯突(たてつ)いた者とは、別人 のようであります」 「報告によれば、伝説の剣バスター・ブレードと、ドラゴンを操る剣を持つ青年は、 ケイン・ランドールといい、特殊な格闘技を操る娘は、マリス・アル・ティアナと。 他にも、魔法剣の使い手である金髪の傭兵なども一緒であった、と」 「我々も、そのように聞いておりましたが、今回の青年は、三〇人ばかりの傭兵団を 率いる、『黒いハヤブサのダン』と名乗っておりました。剣も、伝説の剣ではなく、 普通のロング・ブレードに、魔除けの札を貼ったものでありました。容姿や剣など、 報告を聞く限りでは、ケイン・ランドールとは違っていたので、別人ということは 明らかです」  声だけが、殷々(いんいん)と響いている。  暗闇の中で、黒い軍服に身を包んだ男は、床に片膝をついて、より頭を低くした。 「皇帝陛下、いかがいたしましょう? 」  別の方向から発せられた声が、尋ねる。  奥の一角には、香が焚(た)かれていた。  魔道士の使うインカの香とは、違う香りだった。  そこに座る者が、ゆっくりと顔を上げる。  全身を黒いフード付きマントで覆い、枝垂(しだ)れる植物のように、冠からぶら 下がった、数ある装飾品に隠れ、顔は見えない。  飾りがぶつかり合い、じゃらじゃらという音を立てる。 「余のソルジャーたちが、人間の若造どもなどに……! 」  それは、ひどく年を取った男の、絞り出されたような、聞き取りにくい声であった。  西洋の言葉ではあるが、どことなく、東洋に近い訛(なま)りのようなものも感じら れる。 「バスター・ブレードは北の巨人族のもの。ドラゴンを操る剣とは、ドラゴン・マス ターの持つ剣であろう。二つの伝説の剣を持つ戦士などとは、長年生きて来た余でも、 聞いたことはない。ヤミ魔道士たちの間でも、既に、脅威(きょうい)となっていると いう」  しばらく、沈黙が流れてから、声は、再び絞り出された。 「今いる強化人間どもでは、まだまだ世を握るのは、難しいようだ。さらに、強化し、 改良する必要がある……! 」  その言葉に、すべての者が、頭を低くした。


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