Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅳ.-2〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅳ.『黒いハヤブサ』 妖精紫アイコン2 ~ 遭遇 ~  剣月紫ライン

 川岸では、渡し船を前に、ダンとタイガ、サイスが並ぶ。 「なあ、ダン、本当に、向こう岸へ行くつもりか? 野盗どもは、町を襲っていた わけじゃないんだから、わざわざ行くこともないと思うけどな。こんなことしてる うちに、ますますナルガス公国へ向かうのが、遅れるぜ」  サイスが再びそう言ってみるが、ダンの瞳を見れば、一目瞭然であった。  サイスは、肩をすくめて、今度は、タイガを見た。  彼の視線に気が付いたタイガは、にやっと返す。  「やれやれ、こっちもか」と言うように、再び、サイスが肩をすくめた。 「狼煙(のろし)は向こう岸からって、言ってたな。今は、上がってないみたいだが」  ダンは前方を見据え、渡し船に乗る順番を、サイスに指示させてから、船に乗り 込んだ。  ダンと数人の傭兵たちを乗せた第一便が、川を渡って行く。  船の前方で、腕を組んで立つダンの後ろ姿を見ながら、不思議そうな目をしていた 傭兵のひとりが、タイガに耳打ちした。 「タイガさん、なぜリーダーは、こんな縁もゆかりもない村なんかを、助けようと するんスかね? 俺ぁ、サイスさんの言ってることの方が、正しいと思うんスよ。 こんなことをしている間に、ただでさえ遠回りをしなくちゃならねえナルガス公国が、 さらに遠くなっちまう。リーダーの目的は、ナルガスと敵国のいくさに参加すること だったんじゃなかったんスか? 最初から参加した方が、配当金だっていいし」  タイガは、その傭兵の肩を叩いた。 「まあまあ、おめえらがそう思うのも無理もねえが、ダンは、ちゃんと考えちゃあ いるのよ。俺もサイスも、ダンの最初の仲間だからな。その辺りは、よくわかってる ぜ。あいつぁ、向こう見ずに見えるかも知れねえが、ちゃあ~んと、頭ん中では、 作戦立ててんのさ。なにしろ、あの強力な軍隊を誇るベアトリクス王国の元騎士で、 幼い頃から、アレキなんとかって兵法を学んでたってんだからなぁ。俺たちならず者 の傭兵とは、モトが違うのよ」 「ベアトリクスっつったら、すげえ大国じゃねえっスか! リーダー、あんなところ の出身だったんスか! しかも、騎士ってことは貴族!? 」 「それも、ベアトリクス金獅子団って最強の隊を率いる、ランカスター将軍の遠縁で な、元は平民出身だが、功績を認められて、実力で貴族の称号を手にしたんだ」  タイガの話に、傭兵の目は、驚きと尊敬が入り混じったかがやきを、たたえて いった。 「すげえ! だけど、そんなこと、俺らの前では……」 「ふりかざさないだろ? その謙虚さが、俺ぁ気に入ったのよ。もし、ヤツが、 いくら実力があっても、鼻持ちならねえヤツだったら、この『荒くれ傭兵』と言われ ていた俺だって、付いて行こうなんざ思わねえぜ! 」  タイガは無精髭(ぶしょうひげ)を手でこすりながら、付け加えた。 「ヤツが寄り道をしようとしてまで、この町や村を助けようとしているのも、俺には わかる。あいつは、強い者に向かって行く習性なんだ。そして、勝ってみせる。 今までだって、絶対に無理だと思われた敵にも、勝ち抜いてきた。人数じゃないん だって、俺ぁ思ったぜ。あいつには、剣の腕だけじゃなく、気迫も備わってんだよ。 その辺の腕自慢どもとは段違いの、なんつうかなぁ……鬼神のような、とでもいうの かな。戦いぶりを見りゃあ、おめえだってわかるぜ、新人! 」  ばしっと、傭兵の肩を叩くと、タイガは豪快に笑った。  村へ着くと、ダンたちの思っていたほどの惨劇にはなっていないようである。  野盗の姿も見えない。  閑散とした空気が、村中を包み込んでいる。 「妙だな……」  ダンが呟いた。 「野盗が、この村を襲っているって聞いたが、どこにも、そんな跡は見られない。 それどころか、なんだ、この静けさは? 」 「リーダー、あの方向に煙が」  傭兵のひとりが指さした方では、黒い煙が、細く燻(くすぶ)っている。 「よし、とにかく、あそこへ行ってみよう。おい、新人、次のサイスたちの便が来る まで、そこで待機していろ。そして、後に続くよう伝えておけ」 「了解っス! 」  ダンたちは、新人の傭兵を、その場に残し、進んでいった。  木でできた小屋のような家が立ち並ぶ中には、誰もいる気配はない。密集している 家々の合間を抜けて進むが、どの家も、どこにも破損した様子はない。  野盗の襲撃に遭(あ)ったというのは、町人の勘違いではないだろうか?   そのような考えが、皆の頭の中を掠めた時、そこにたどり着いた。  村の人々が、全員集まっているのか、広場には、人が溢(あふ)れんばかりであった。 その奥の方で、黒い煙が上がっている。  ダンは何も言わずに、近くにあった木によじ登り始めた。  彼が、人だかりの向こうを見ようとしているのが、タイガにはわかった。タイガは、 大柄で、木に登ることは出来なかったが、長身を生かし、人混みの後ろから、首を 伸ばした。  木の上のダンが見たものは、大衆の前で、ゴミの塊のように見えるものが、篝火 (かがりび)のようにされ、その横には、二人の黒い軍服を着た男が、村人に話をして いる光景だった。 「なんだ、あの男たちは? 軍人みたいだが……」  不可解な顔で呟くダンが、男たちの後ろに、目を留める。  それは、黒々した、人とも思えないものだった。  しゃがんで、背が丸まったままでも、充分大きい。立てば、人間の二倍はありそう だ。  ボルトのような、大きなネジがいくつもついた太いベルトを、身体のあちこちに 巻き付けている。  手が長く、だらんと垂(た)らし、指の先に生えている長い爪は、牙のようだ。  尾も生えている。  髪の毛の一本もない頭の左右には、エルフのように尖った耳があり、眉もない目 全体は、緑色のガラス玉をはめ込んだように光っていた。  今はおとなしくしているが、暴れ出したら、人間などひとたまりもない威力を発揮 しそうだ。 「野盗の言ってた化け物ってのは、あいつのことか。なるほど、見るからに、魔物だ ぜ! 」  ダンは、後方の、自分たちが渡って来た川の方にも、目をやった。 「サイスとアスタルテたちも追いついたか。言いつけ通り、残りの隊は、向こうの町 で待機してるな」  それを確認すると、ダンは、木をするすると下りて行き、タイガの隣へと並ぶ。  軍服の男が、声を張り上げた。 「……というわけで、このように、突然の野盗の奇襲も怖くはない。その上、病気や 怪我(けが)も、我々の組織が派遣する、薬商人の薬で助かるのだ」  その説明が聞き取れたダンは、ハッとした。 「そうか、あの燃やされていたのは、ゴミじゃなく、野盗たちか! あの化け物が やったに違いない! 」 「なんだか、うさんくせえな」  タイガも、イヤな顔をして、ダンにささやいた。ダンも、わかっているというふう に、頷いてみせる。 「何を言うのです。いくら、世界の危機が来ようと、悪魔に魂を売るなど、間違って います。魔王を崇拝するとは、それこそ、神への冒涜(ぼうとく)。今までのように、 神を信じてついていくべきです」  灰色の神官服を身につけた、祭司長らしき男が、進み出て、強い口調で言い切って いた。 「ほほう、我々の話を聞いても、まだそんなことを言っているのか、じいさん? 」  黒服の男は、黒めがねの奥で、不気味な光を放った。 「そうだ、祭司長様の言う通りだ! そんな話は、信じられるもんか! 世界の危機 が来るなんて、なんで、あんたたちにそんなことがわかるってんだ! でまかせに 決まってる! 」 「ワシは医者だが、あんたらの言う、病気も怪我も治ってしまう万能薬なんぞは、 ありえない。素人の生兵法(なまびょうほう)が、一番危険なのじゃ。だいいち、 そんなものを売られたら、他の薬商人の商売もあがったりじゃ」  口々に反対の声が上がると、二人の男は、口元をつり上げて言った。 「どうやら、我々の話を信じぬ者が、まだまだいるようだな。それでは、これなら どうだ? 」  男のひとりが、ヒュッと口笛を吹くと、後ろに控えていた黒い生き物の目が、カッ と開いた。  それが祭司長を見たと思うと、驚異的な跳躍力で、軍服の男たちを飛び越え、 まっすぐに腕を突き出した。  その牙のように鋭い爪は、祭司長の腹を、突き刺したのだった。 「ああっ! 」  祭司長の叫びは、村人の悲鳴で、かき消された。  腹からは、どくどくと血が吹きこぼれた。  祭司長の目は、信じ難い事実に見開かれ、震えながら、化け物と、黒い男たちとを、 ただただ見ていた。 「どうした? お前の敬愛する神とやらに、祈ってみてはどうだ? 神が、本当に 存在するならば、貴様を助けてくれるんじゃないのか? 世界の危機が来ても、 真っ先に、お前たち神官を救うのではなかったか? 」 「……か、神を、試すようなことは……しては、ならん……」  老人の口からは、かろうじて、そのような言葉がもれていた。 「いもしないものに祈ったところで、どうにもなるまい。お前たちの信じてきたもの などは、所詮は、こんなものなのだぞ」  男の声に、村人は身を寄せ合い、おろおろしている。 「おい、医者。お前の言う通り、我らの万能薬があれば、お前達の商売は上がったり だろう。それならば、せめて、そんな気苦労はしないよう、すませてやろう」  もうひとりの男の合図で、緑色の目をした化け物が、今度は、医者に向かった。  尖った、ぎっしりと詰まった歯で、医者の首にかぶりつく。  村人たちは目を覆う。再び、悲鳴が上がった。  医者も、祭司長も、がくんと、足元から、地面に崩れた。 「これで、医者もいなくなった。だが、我らに素直に従う者は、万能薬で、病気も 怪我も、心配はいらない。このデモン・ソルジャーがいるかぎり、野盗たちからも、 村を守ってやれる。お前たちの生活は、なんら今までと変わることはないのだ」 「有り難く思え」  二人の合図で、デモン・ソルジャーと呼ばれた黒い魔物のような生き物は、おとな しく引き下がった。  村人たちは、倒れている祭司長と医者に駆け寄り、泣き叫ぶ者もいれば、恐ろしさ のあまり、すくんでしまった者、狂ったように叫び回るものなどもおり、混乱が続い ていた。 「ひでえ! いくらなんでも、無茶苦茶すぎるぜ! 」  タイガが、吐き捨てた。  遅れて到着したサイスも、タイガに続き、真面目な表情で呟いた。 「やつら、いったい何の組織なんだ? あの化け物を、デモン・ソルジャーとかなん とか言っていたが」 「ありゃあ、合成獣(キメラ)か? 」 「キメラなんて、そうそう作り出せるもんじゃない。これは、意外と大きな組織かも 知れない」  サイスのセリフが終わると、タイガが、ダンを見た。 「おい、ダン、やつら、なんかヤバそうだぜ。引き返して、ナルガスへ急ぐことに しよう」  だが、タイガがそう言うにもかかわらず、ダンは、ずかずかと、人混みの中へ、 入っていき、人々をかきわけて、進んで行ったのだった。 「お、おい、ダン、待てよ! あんな化け物じみたヤツ、相手にするのは、無謀だ ぞ! 」  タイガもサイスも慌てて、ダンを引き留めようと追いかける。  彼らの後方では、静かに見守るアスタルテの瞳があった。 「聞きたいことがある」  人混みの中から現れたダンに、軍服を着た男二人が、振り向く。 「なんだ、小僧。お前は、この村の者ではなさそうだな? 」 「それでも、我々に従うというのなら、歓迎するがね」 「へっ、そんなんじゃねえよ」  ダンは肩をすくめて、笑った。 「この村の向こうは山脈だと聞いたが、お前たち、その山脈を、どうやって乗り越え てきたんだ? そこの灰になっちまった野盗どもも、山脈の向こうにいたんだろ? 」 「やれやれ、道を尋ねてくるとは、とんだ迷子だな」  男たちは、見下したように、笑い出した。 「山脈を隔てて隣の国と、この村とで、昔使われていた抜け道があったのだ。なあに、 特に、この村にあてがあったわけではないのだが、来てみれば、野盗どもが、のさば っていて、邪魔だったものだから、道を開けてもらったまでだ」 「抜け道か。そいつは、いいことを聞いたぜ。それと、もうひとつ、ついでに聞くが、 お前ら、何モンだ? この村に、新しい宗教でも広めに来たのか? それも、魔王を 拝む? あんな獰猛(どうもう)なペットまで連れてるたぁ、どうやら、ただの薬売り でもなさそうだし、見えて来ねえなぁ、何が目的なんだ? 」 「見た通りだ。我々は、来たる世界の終わりに備え、人類を救うために、活動して いるのだ」 「その、『世界の終わり』ってのは、なんなんだ? 具体的に、どうなるっていう んだ? 」 「今、村人の前で説明すると、余計に混乱するので、徐々にと思っていたが、貴様は、 なかなか度胸があるようだから、特別に教えてやろう。近いうちに、魔物たちの逆襲 が始まるという、魔道士たちの中では、信憑性(しんぴょうせい)のある予言が、 伝わっている。それは、一年先か、一〇年先かはわからぬが、それに対抗するには、 魔道士の魔法や、神官の術、または人間の兵士たちの戦力では、到底かなうものでは ないのだ」 「なるほど、それで、そこにいるキメラみたいなモンを開発し、それに備えてるって わけか」  ダンは、どうやら、彼らは、一応、本気らしいと思った。薬や用心棒代は、その ソルジャーの開発資金か何かに、あてるつもりなのだろう、と。  いや、本当は、そのキメラを軍事目的として作り出し、兵器として、各国に売るの が目的なのかも知れない。ありがちな話を引っ張り出して、体(てい)よくこじつけて いるだけかも知れない。  そうも思えるのだが、だからといって、それらと自分とは、何の関係もない。  祭司長や医者が、目の前で殺されても、それは、彼らと村人の問題だ。  うさん臭い組織であることには違いないが、ナルガス公国のいくさの相手とも違う ようなのもわかった。  ダンは、先を急ぐことに決めた。 「それじゃ、邪魔したな」  ダンが再び村人の間を通り、仲間のところに戻りかけた。 「待て、小僧。その、肩に止まっているものは、なんだ? 」  軍服を着た男のひとりが、こわばった声で尋ねた。  ダンの肩の上には、いつの間にか、エルフが現れていたのだった。 「妖精!? 」 「まさか!? 」  男たちだけでなく、村人の中でも、ざわめきが起こっていた。 「なんだ、ジャック、いたのか? 」  ダンが笑いかけるが、ジャックは、黒い生き物を、じっと見つめていた。  そして、黒い生き物ーーソルジャーの方も、ジャックに気が付くと、突然、唸り声 を上げたのだった。 「どうしたのだ、二〇〇六号」  その声に、ダンが気が付くと、ソルジャーの黒い額の横には、そのような番号が 焼き付けられていた。  軍人らしき男のひとりは、ソルジャーの様子がおかしいことに気付き、近付いて いった。  もうひとりの男が、ダンを見て、ハッとした。  正確には、ダンの肩に乗ったものを見て。 「貴様、もしや、以前、我々の組織と、遭遇したことはないか? 」  奇妙なことを聞くとばかりに、ダンは不思議そうな顔をして、男を見る。  ソルジャーをなだめていた男も、ダンを振り返った。 「そうだ。他の隊の報告では、以前、接触した戦士は、ちょうど貴様くらいの年格好 で、妖精を連れていたと聞く。伝説の剣を二つ持っていたとも……! 」 「片方の剣では、黒い影のようなドラゴンを操っていた、とも聞いたぞ! 」  こわばった顔の二人の男を、改めて、ダンは見つめた。  タイガ、サイスも驚いて、顔を見合わせる。 「伝説の剣を二つも!? 」 「それに、ドラゴンだって!? どういうことだ!? 」 「しかも、ダンの他にも、妖精を連れたヤツが……!? 」  ダンには、その言葉は、聞き流せなかった。  それどころか、突き刺さるような衝撃を受けていた。  ダンの脳裏には、女戦士アスタルテの言葉が、響いた。  『伝説の勇者には妖精が付く』と。 「巨大な伝説の剣バスター・ブレードと、ドラゴン使いの剣を合わせ持つ、貴様が 例の戦士ーーケイン・ランドールなのか? 」  男が訊(き)くと、ダンは、口を引き結び、彼らを睨み据えてから、答えた。 「俺は、お前らなんか知らねえし、その戦士とも違う」 「例え別人でも、その可能性のある者を、みすみす逃すわけにはいかぬ」 「貴様を、我が組織に連行する! 」  緊迫した空気を察知して、タイガとサイスが、ダンのもとへ駆けつけた。 「おい、ダン、ケンカなら付き合うぜ」  隣で、タイガが、にやにや笑っている。 「仕方がないから、俺も付き合うか」  サイスも、クールに笑ってみせた。  黒いソルジャーは、がるるるるる! と唸り、今にも飛びかかりそうだ。  村人たちは、また新たな戦いが始まるとばかりに、一目散に逃げ出し、辺りは一層、 混乱をきたしていた。 「二〇〇六号、あやつらを生かすな! 」  男がダンたちを指すと、それを合図に、デモン・ソルジャーが飛び出した。 「はっ、速いっ!? 」  サイスが、よけようと身を躱(かわ)したが、一瞬遅れた。  手にしていた剣は、武器クローのような、ソルジャーのかぎ爪に弾かれ、飛んで いった。  同時に、サイスの右腕は、食いつかれた。 「サイス! 」  タイガが、通常のものよりも大きい段平を振り下ろすが、ソルジャーは、接触する 直前に、ひょいっと飛びすさった。  腕を食いちぎられることこそなかったが、サイスの右腕からは、鮮血がしたたり 落ちていた。 「サイス、大丈夫か!? 」  ダンがサイスに駆け寄り、目は油断なくソルジャーを捕える。 「気をつけろ、ダン。あいつ、見かけによらず、身軽な上に、力もある」  サイスの顔が、貧血で青ざめている。 「ジャック、治してやってくれ」  ダンの肩からサイスの腕に飛び移ったエルフは、両手を、怪我の部分に向け、 不思議な光を放った。 「そりゃあっ! 」  タイガが段平を振りかざす。  ソルジャーは、片手でそれを受け止めた。  体格は、ほぼ五分であったが、タイガの手は止まってしまい、それ以上、剣を押す ことも引くことも出来ないでいた。  タイガの額に、汗がにじむ。 「なっ、なんだ、こいつの、この力は!? この俺の剣が、びくともしねえ! 」  『荒くれ傭兵』の異名を持つ彼ですら、ソルジャーの前では、敵ではないのか。  傭兵たちも、アスタルテの後ろから、信じられない思いで、食い入るように、 ソルジャーに見入った。 「サイスは、傭兵団の中でもスピードはダントツだ。タイガの力だって、並み外れて る。なのに……! 」  ダンが、呟いた。  人間離れしたソルジャーは、動物よりも、魔物に近いと思えた。 「もし、魔物の要素があるなら、この剣なら、効くかも知れない! 」  ダンは、握っていた右手の剣に、力をこめると、一気に、ソルジャー目がけて駆け 出した。  タイガの剣が押し上げられていき、ソルジャーのもう片方の手が、タイガをも毒牙 にかけようと、突き出された時だった。  ガシャッ!   ソルジャーの緑色の目が、わずかに見開かれると、突き出したかぎ爪の手は、 ダンの剣の先を掴んでいた。  剣と接触したところから、煙が吹き出し始めた。 「オオオウウウウウ……! 」  呻き声のような獣じみた声を上げ、ソルジャーは手を引く。  すかさず、ダンが、ソルジャーの腕に斬りかかった。 「オオオオオオオ! 」  斬り落とされはしなくとも、ソルジャーの黒い腕からは、どす黒い、緑色をした 血が、ぼたぼたと垂れ始めた。 「なんとなくわかったぜ。やっぱり、そいつは、魔物だったんだな? 」  余裕のあらわれたダンの声に、軍服の男たちの目が、ピクッと揺れた。 「この剣には、魔除けの護符(アミュレット)が貼ってあるんだ。普通の剣では、 かなわなくても、この剣でなら、相当のダメージがあるはずだぜ」  不敵な笑いを浮かべたダンは、続けた。 「サイス、タイガ、下がっていろ。こいつは、俺がやる! 」


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