Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅳ.-1〜
アニメ紫妖精右タイトルdragonバナー1アニメ紫妖精左

~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅳ.『黒いハヤブサ』 妖精紫アイコン1 ~ 傭兵団 ~  剣月紫ライン

 とある山村。背後は山脈に覆われ、前方には、いくつかの小山が連なっている。  その辺りは、ぽつりぽつりと、山の間に出来た、小さな村の集落があった。  最後の山を下ると、川が流れている。  その川を隔てて、町があった。  それほど大きな町ではないが、旅人や商人が行き交い、山村からすれば、活気 づいていた。  町と山村の集落とは、渡し船によって、交流があった。  二人の傭兵のようななりをした男が、川を渡り、町へ向かう。  二人は、町の酒屋の扉を開けた。  仲間であろうか、三〇人あまりの、同じような傭兵たちが集まり、木の実酒を飲ん でくつろいでいた。  その中に、ひとりだけ異色の戦士がいる。  日焼けした褐色の肌に、黒い皮の防具を身につけ、腰に剣を差している。黒く、 つやのある、まっすぐな髪は、肩のところで切りそろえられていた。  明らかに、他の豪傑たちとは違う、まだ若く、しなやかな戦士だ。  二人の男が、その戦士に近付いていった。 「アスタルテ、川の向こうは、山村の集落だ。その向こうは、山脈で、行き止まりだ と。モンスコール王国と東洋を隔てている山脈ほど巨大ではないが、ウマで越えるの は、厳しそうだ」  アスタルテと呼ばれた戦士が、顔を上げる。  女であった。  切れ長の黒い瞳は、凛としていて、唇も、キッと結ばれている。  肌の色が濃く、黒髪であっても、その顔立ちは、東洋の者とは違っていた。  といって、ベアトリクスを始めとする西洋とも違う。  砂漠地帯で見かける人種であった。  男たちの中にいれば細身ではあるが、町の娘などと比べれば、腕も脚も筋肉で引き しまっていた。  アスタルテは、組んでいた腕をほどき、椅子から立ち上がった。 「わかった。リーダーには、そのように伝えておく。お前たち、ご苦労だった」  男のような毅然(きぜん)とした態度で、表情も変えずにそう言った女戦士は、酒場 を出て、宿屋へと向かった。  宿屋の一室から、灯りがこぼれている。  アスタルテは、話し声のもれる扉の中へ、そっと入ると、入り口の壁に寄りかかっ た。  男が数人、テーブルに地図を広げ、話し合っていた。  中心の、黒い短髪を立たせた、西洋風の男が、彼女に気が付く。 「どうだ? 」  男の鋭い眼光は、まるでタカのようだ。  まだ若い、少年と青年の間ほどに見えるが、若年さを感じさせないほど、男は、 威厳を放っていた。  誰が見ても、彼は、組織を率いる中心人物であった。 「偵察にやった者たちが、戻った」  どことなく、砂漠地方のものと思われる多少の訛(なま)りのある西洋語で、アスタ ルテは言った。 「それで? 」 「川は船で渡ることが出来るが、その先の山村の向こうは山脈で、ウマでは難しい」 「そうか」  男は地図に目を戻すと、そのまま話し合いを続ける。 「山脈を越えられないとなると、ナルガス公国へは、遠回りして入ることになるな」 「いくさに間に合えばいいが……」 「もうひとつ、この町から山をぐるっと回っていく方にも、使者を送ってある。奴ら が戻ってから、検討してみよう」  話し合いの間中、アスタルテは、男たちの談合に入ることなく、ひとり黙って、 部屋の片隅に寄りかかったままだった。  そして、もう一方の使者も戻り、しばらくして、話し合いは終わった。  黒髪のリーダー格の男が、アスタルテを振り向いた。 「山を迂回して行くことになった。予定を早めて、明朝出発する。皆に、そう伝えて くれ」 「わかった」  他の男たちとアスタルテが出て行こうとすると、部屋に残ったリーダーの男の肩 から、何かが飛び立った。  それは、人のてのひらにちょうど乗るくらいの、小さなヒトーー妖精であった。  耳が大きく尖り、髪の毛は黒い。目は緑色に光り、表情のない、いかにもヒトとは 別の生き物のようだ。  エルフの中でも、小さな種族であった。  エルフは、男の肩から、テーブルの地図に降り立つと、山村の裏にある山脈の辺り に立ち、地図をじっと眺めていた。 「ジャック、もう地図はしまうぞ」  男がそう言うと、エルフは、さっと、男の肩に飛び乗った。  それを見ていたアスタルテが、口を開く。 「私の祖国エウリュリュプトでは、『伝説の勇者には妖精が付く』と言われている」  男が、フッと笑った。 「伝説の勇者か……。そりゃ、光栄だな。だが、ジャックを見つけたのは、お前だ、 アスタルテ」 「私は、『目』が良かっただけ」 「それでも、お前がいたから、ジャックに出会えた。感謝してる」 「何を改まって」 「だがな、アスタルテ、俺の野望は、ただの勇者なんかでは満足しねぇ。言ったろ?  俺は、自分の国を築いてやるって」 「ああ。ジャックがお前を選んだ時から、私には、それも可能だと思えてきたのだ。 そして、皆も。だから、皆、お前についていくのだ」 「ちぇっ。俺の実力だけじゃ、不服かよ。なあ、ジャック? 」  男は、肩に乗った妖精に苦笑いしてみせた。  妖精は、うんともすんとも言わずに、緑色の瞳で、男を見つめ返している。  アスタルテは、微笑して言った。 「おやすみ、伝説の勇者ダン」 「おう」  アスタルテは部屋から出て行き、自分の部屋へ向かった。  リーダーの男とは、まさしく、マリスやマーガレット、カルバン、パウル、 クラウスの幼馴染みである、ベアトリクスから失踪したダンに、ほかならなかった。


草ライン草ライン

 早朝、ダン率いる傭兵団は、町外れの広場に集合していた。これから、山を迂回し、 いくさのため傭兵を募集しているというナルガス公国目指し、出発しようというとこ ろである。 「待ってくれー! 」  町人が何人か、血相を抱えてやってきた。  黒いウマに乗ったダンは、それに気が付いた。 「この町に滞在していた傭兵団っていうのは、あんたたちなんだろ? 」 「お願いだ! 助けてくれ!」 「我らの町の唯一の姉妹村が、野盗の襲撃にあったんだ! 」 「なんだと? 」  傭兵団では、ざわめきが起こった。 「さきほど、農作物を運搬(うんぱん)しようと、渡し船に乗った商人が、山村の上げ た狼煙(のろし)を見て、慌てて引き返してきたんだ」 「あの村には、腕の立つ者なんかいない。こんなこと頼む義理じゃないこたぁわかっ てるが、あんたがた、すまないが、村のやつらを助けてくれないか? 」 「頼む! 助けてやってくれ! 」  傭兵団の中は、ざわめいていたが、さほど動揺することなく、リーダーの決断に まかせられた。  隣にいる大柄な、リーダーの右腕風の男が振り向く。 「ダン、どうする? 」  ダンは、男を、にやっと見返した。 「決まってるじゃねぇか、タイガ」  ダンの答えを察した、もう片方の隣にいた、中背の、痩せた男が慌てた。 「ちょっと待ってくれ、ダン。そんな野盗どもにかまっていたら、出発が遅れる どころか、仲間にも、いくさの前に傷を負わせてしまうことになるだろう。俺たちは、 ナルガス公国へ、急がなくてはならないんだぞ。この町には、宿泊させてもらったが、 宿代だって払ってる。これ以上の義理は、ないはずだ。大事な戦力を欠いてしまう ようなことは、すべきじゃない」 「わかった、わかった、サイス」  ダンは笑ってサイスを見てから、皆に呼びかけた。 「確かに、俺たちは、この町には、なんの義理もない。だが、いくさの前に、軽く ウォーミング・アップなら、しておいてもいいだろう。野盗どもを血祭りにあげ、 それで、出発の門出を祝おうぜー! 」 「おーっ! 」  ダンが拳を振り上げたのに続き、傭兵たちも拳を上げた。 「皆、俺に続け! 」  ダンが黒ウマを駆り立て、傭兵団が続いて行く。 「しょうがねえな」  サイスは仕方のなさそうに、だが予想はしていた展開らしく、少しだけ笑うと、 ウマを走らせた。  ダンたちが、山村と町をつなぐ川へと急いでいると、既に町の中でも、野盗たちが 暴れていた。  体格のいい禿げ頭や、モヒカン、ボサボサに髪を伸ばし放題の者たちが、こん棒や チェーン、斧、段平などを腰に差し、叫びながら、走り回っていた。 「いやがったな」  ダンがウマの足を止め、面白そうに舌舐(したな)めずりした。まるで、子供が、 オモチャを見つけたように。 「なあ、やつら、なんだか様子がおかしくないか? 」  大柄で、無精髭(ぶしょうひげ)を生やしたタイガが、ダンの隣に並ぶ。 「そうだぜ、ダン。町を襲っているのかと思えば、……どうやら、なにかに怯えて いるようだ」  サイスも、解(げ)せない顔になる。  よく聞くと、野盗たちは、口々に「助けてくれー! 」と叫んでいた。  町人を襲っている者もいたが、怯えるあまり、そのような行動に走っているように 見える。  ダンは、ウマから飛び降りると、走り回っているモヒカン男を捕まえ、胸ぐらを 掴んだ。 「おい、てめえら、ここで何してる? 」 「うわああああー! 」  モヒカン男は叫んでいて、まったく話にならなかった。 「こいつっ、正気に戻れっ! 」  パンパンッ! と、ダンが、野盗の頬を平手で殴ると、いくらか落ち着いたが、 目は、恐怖に見開かれたままであった。 「助けてくれ! 」 「ああ? 助けろだと? なに言ってやがんだ。てめえらが、村人襲ってるんじゃね えのかよ? 」 「ちっ、違うっ! そ、そりゃあ、そんなこともやっていたが、違うんだ! やつら が、仲間を……ああ! やつら、人間じゃねぇっ! 」  タイガとサイスが、顔を見合わせた。 「こいつ、何言ってんだ? 」 「人間じゃないって、どういうことだ? 」  ダンが真面目な顔で、モヒカン男を見る。 「おい、てめえ、もっとちゃんと話せよ。人間じゃねえって、いったい何がだ? 」  モヒカン男は、ガタガタ震え出すと、ダンの手を振り切り、喚(わめ)き散らしなが ら逃げ出した。 「どうやら、野盗どもは、何かから逃げてきたらしい。町を襲ってるわけじゃなさ そうだが、町は混乱している。ちょっとだけ、住民のやつらを助けてやろうじゃねえ か! 」  そう言い、さっとウマに跨(また)がったダンは、町の中心へと走り出した。  皆は、賛成の雄叫びを上げ、彼の後ろについていった。  野盗のひとりが、道の中央で、老人を殴り飛ばしているのを見つけたダンは、ウマ から飛び降りると、野盗に飛び蹴りを喰らわせた。  野盗は、どうっと倒れた。 「大丈夫か、じいさん」 「おお……! どなたか存じませぬが、ありがとうございますだ! 」  老人を抱え起こすダンの正面では、野盗が、むっくりと起き上がったところだった。 「いてえな、小僧! いきなり、なにしやがる! 」 「ふん、てめえが、罪もねえじいさんを、襲っていやがったんじゃねえか」 「襲ってたんじゃねえっ。そのジジイが邪魔だったから、ぶっとばしてやったんだ よ! 」 「やっぱり、襲ってたんじゃねえかよ」  ダンは笑うと、老人を逃がし、野盗に向き直った。  だが、野盗の方は、何かを思い出したような顔になると、一刻も早く立ち去ろうと、 駆け出しかけた。 「待て。人間じゃねえやつらってのは、どこにいる? おめえら、そいつから逃げて きたんだろう? 」  野盗は、ダンを、ぎょっとした目で、振り返った。 「お、お前、どうして、それを……? ま、まさか、やつらの仲間……!? 」  みるみる顔が青ざめ、怯えたように、その場から逃げ出そうとする野盗の首根っこ を、ダンが素早く掴み、抱え込んだ。 「あいててっ! 小僧のくせに、なんて力だ! 」  身体は、ダンの二倍はあろうかという大男である。それが、首を脇に抱え込まれた だけで、身動きが取れない。 「ほらほら、絞め殺されねえうちに、答えた方が身のためだぜ。いったい、何があっ たんだ? 」  野盗は苦しそうに呻きながら、やっとのことで話し始めた。 「俺たちは、あの山脈の裏側を根城にしていたが、そこへ突然、化け物が現れたのよ。 あれは、間違いなく、化け物だった! 」  ダンが、眉をひそめた。 「魔物か? 」 「魔物といえば魔物かも知れんが、俺たちだって、下等な魔物くらいは見たことは ある。あれは、そんなもんじゃねえ。もっと人間に近いような……いや、もしかした ら、中等以上の魔物なのかも知れねえが、そいつが現れて、いきなり、俺たちを襲い やがったんだ。そしたら、それを操るような人間も現れてよう、その魔物みてえな ヤツを、抑えたんだ。仲間の一人がかかって行ったら、またその魔物を使って、 あっという間に、仲間をやっちまったんだ! その時の光景ときたら……! 俺ぁ、 あんな凄まじいものは、今まで見たことがねえ! 」  そこで、ダンが手を緩(ゆる)めたので、野盗は、地面に倒れ込んだ。 「こっ、こらっ! いきなり、手ぇ放すじゃねえっ! 」  大男は咳き込みながら、しめられていた首を押さえた。  ダンは、腕を組んで、考えていた。 「魔物みてえなモンを操る人間……? 確か、魔道士の使う術で、魔物みてえなモン を呼び寄せることができるとかって、聞いたことはあるが……だが、なんで、人間を 襲わせるんだ? 」  ダンが、ぶつぶつ言っていると、野盗が、むっくり起き上がった。 「へっへっ、この俺様を放したのが、運のツキだったようだな、小僧。よくも、首を 絞めてくれたな。この礼は、倍にして……! 」  と、野盗が、持っていたトゲのついたこん棒を、両手で振り上げた時であった。  野盗の口からは、鮮血が飛び散り、地面に、ひっくりかえった。  ダンの突き出した右腕が下ろされ、拳についた血を、振り払う。 「うるせえんだよ。おめえらの考えてることなんか、お見通しだ。おめえらのような 野盗とは、こっちも付き合いが長いんでね」  野盗が倒れたのを見もせずに、そう言うと、何事もなかったのように、ウマに跨が ったダンは、町の奥へと急いだ。


剣月紫ライン剣月紫ライン剣月紫ライン Indexボタン Backボタン Nextボタン