Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅲ.-3〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅲ.『手探りの旅』 妖精紫アイコン3 ~ マーガレット一行と黒い騎士団 ~  剣月紫ライン トアフ・シティー

※9巻では、登場人物「スー」→「サラ」に変えました。 他の巻も徐々に「サラ」に統一していきます。m(_ _)m 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  トアフ・シティーでは、カルバン、パウル、クラウス、マーガレットの四人は、 相変わらず、食堂で、資金集めに精を出しているところであった。 「待ち人来たり、だぞ」  店主の声に、クラウスたちが客席をのぞくと、五人の団体がわいわい言いながら、 木のテーブルに着いていた。  背の高い、黒い長髪の、少々露出が過ぎる甲冑の女戦士に、キャッキャと笑い声を 立てている、金髪カーリーヘアをリボンで二つに結わえた、魔道士風マントを羽織っ た少女、格闘家であるような、中背で筋肉質の、難しい表情をした男、金髪で貴公子 風の剣士、それと、一見して魔道士だとわかる、肩にコウモリを止まらせた黒ずくめ の中年男ーー店主から聞いた通りのなりをした五人組であった。  マーガレットが、おそるおそる五人に近付いて行く。その後ろに、心配そうに、 カルバンがついていた。 「さーて、何を食べようかしら」  背の高い女戦士が、ウキウキと言った。 「マリリン、ホキホキドリのパン包み揚げがいいな〜♥」 「何だ、その得体の知れないトリは? 俺は、そんなもの食わんぞ」  魔道少女に、格闘男が、険しい顔で答えている。 「レインボー・トラ魚のベジタブル・アンカケもいいわねぇ。美容に良さそうで」 「俺は、そんな甘いんだか酸っぱいんだかわからんものは嫌だ」  女戦士にも、格闘男は、険しい顔を向ける。 「もう、ダイは好き嫌い多いんだから。いいじゃないの、お嬢さん方の食べたいもの でさ」  貴公子剣士が口を挟む。 「そうよ、クリスの言う通りよ。あんた、そんなに自分の主張ばっかしてると、女に モテないわよ」  女戦士が、呆れ顔になるが、格闘男は言い返す。 「結構だ。俺は、女などに、うつつを抜かしているヒマはない」 「マリリン、地ドリのジャム煮がいい〜!」 「キサマは、なんでいつもそう気持ちの悪そうなものばかり、食いたがるんだっ!」 「やだやだ! マリリン、トリが好きなんだもん〜!」 「だから、トリは悪くないが、調理法を変えろと言ってるんだ!」  魔道少女と格闘男の争いに、女戦士は呆れた顔で見続け、魔道士は無言である中、 貴公子剣士が、にこやかに割り込んだ。 「まあまあ、ダイ、大人気(おとなげ)ないこと言わないでさ。じゃあ、ダイは、なに が食べたいの? 」 「俺は、いつものヨークシャー・ビーフのタン・ソルトでいい」 「それって、ウシの舌でしょう? キャーッ! ゲテモノー!」 「何を言う、ウマいの知らんのか!?」 「あ、あのう……」  なかなか入り込めないでいたマーガレットが、やっと声をかけた。  長い長髪をかき上げた女戦士が、マーガレットに気付いた。 「あら、ちょうどよかったわ、注文よろしくて?」 「あっ、あのっ、そうではなくて……あなた方が、『現実主義の黒い騎士団』の皆 さんですか?」  一同、騒ぐのをやめ、マーガレットに注目した。  マーガレットは、緊張に、顔を赤らめながら、両手を揉み絞っていた。 「確かに、私たちは、『現実主義の黒い騎士団』よ。して、何用かしら?」  長い髪を指に絡ませながら、色っぽく、得意気な顔で、そう言ったのは、女戦士の サラであった。  マーガレットは、ごくんとつばを飲み込むと、思い切って、切り出した。 「皆さんに、折り入って、お頼みしたいことがあるんです」 「なんでぇ〜、マリリンたちなのぉ〜?」 「皆さんは、この町切っての『つわもの』だとお伺いしたので。それに、魔道士の方 も、いらっしゃるとか」  マーガレットは、魔道少女マリリンの、首からぶら下がっている、小さい水晶球に、 目を落とす。 「その前に、メシだ! 腹が減っては、いくさは出来ん!」  格闘男ダイが、イライラしながら、テーブルを叩く。 「すみませんねぇ、彼、腹が減ってると、心が狭くなるんですよ。だから、砂漠でも、 トカゲの取り合いなんかで、いつまでも……」 「クリス! 余計なことはいい! それより、メシだメシだ!」  収拾がつかなくなってしまったため、マーガレットたちは、彼らの食事が済むまで、 おとなしく見守ることにした。 「それじゃあ、まずは、そちらのお名前から。そして、ご依頼内容を、お聞ききしよ うかしら」  食事を終えたサラが、長い脚を組み替えた。  カルバンが、ドギマギした様子で、垣間見ている。 「はい。私は、ある国の神殿に勤める巫女で、マーガレットと申します。こちらは、 カルバンです」  マーガレットとカルバンは、小さく頭を下げた。 「実は、……ある人たちの居場所を、探して欲しいんです」 「どんな人たち?」  ダイはまだ、ガリガリのトリの足に、干涸(ひから)びたように引っ付いている皮ま でも食べようと、がっついている。マリリンは、焼き菓子を頬張っていた。  それらを見回してから、マーガレットは、サラに視線を戻して、言った。 「女の子ーー私と同じ一六歳で、色が白くて、髪は明るい茶色で。不思議な紫色の瞳 をしていて、……ベアトリクス出身の女の子なんです。女の子と言っても、武道や 剣術にも長けているし、……ああ、そうだわ! 以前、このトアフ・シティーでは、 赤い東洋風の衣服を着ていたこともあったみたいで……」  マーガレットは、だんだんサラの表情が険しくなっていくのを見て、焦った。 「ごっ、ごめんなさいっ! なんだか、とりとめなくなっちゃって……。私、緊張し てしまって……!」 「いいえ、それよりも、……その女の名前は?」 「偽名使ってるかも知れないけど、……マリスです」 「ブーッ!」  突然、ダイが、口の中の物を勢いよく吐き出したので、マーガレットもカルバンも、 びっくりして固まった。 「マリスだとぉ〜?」  ダイが、初めてマーガレットとカルバンに注目した。睨みつけるかのようだ。 (なっ、なんで、この人、怒ってるのぉー?) (だ、大丈夫だ、マーガレット、俺がついてる)  マーガレットとカルバンは、目配せし合う。 「ちょっと、ダイ、静かに。ねえ、あなた、そのマリスって娘、もしかして、超イケ メン魔道士を連れていない?」  サラが、いくらか冷静を装った口調で尋ねる。  マーガレットの表情が、みるみる明るくなっていった。 「そうです! 確か、ヴァルドリューズさんて言ったと思います。それから、伝説の 剣を持ったケインて剣士の人も、一緒みたいです」 「なにぃ〜、ケインだとぉ〜?」  ますます、ダイの目が鋭くなるのには構わず、サラが言った。 「いいから、続けて」 「は、はい。それと、後は……」 「確か、もうひとり、金髪の剣士もいるとか。神官服の巫女も一緒だって、聞いて ます」  マーガレットに、カルバンが、後ろから口添えする。  はあ、とサラが溜め息混じりに、呟いた。 「……どうやら、そのマリスって娘、私たちの知ってる女と、同一人物らしいわね」  マーガレットもカルバンも、身を乗り出した。 「そうなんですか!? 良かったー、皆さん、マリスとお友達だったんですね!」 「んなワケないだろーっ!」  ダイが叫ぶと、二人は飛び上がった。  サラも、頭を抱えながら、頷いている。  マリリンは、ぽかんと口を開き、陰気な雰囲気をまとった魔道士は、何も反応して いなかった。 「……あのぅ、それでは、引き受けては、頂けないんでしょうか?」  おずおずと、マーガレットが尋ねた。 「いいじゃないですか、サラさん、引き受けても。マリスさんたちとは、知らない仲 じゃないんだし、僕も、久しぶりに、クレアさんの顔も見たいしなぁ!」  と、暢気(のんき)な声を出したのは、金髪セミロングの傭兵、クリスであった。  サラも、笑う。 「そうねえ、今度こそ、あの超イケメン魔道士を、落としてみせようかしら?」 「俺も、あのケインとやらとの決着が、まだだったな。その前に、マリスには、 トカゲを取られた恨みもあるし、金髪の軟派な傭兵も気に食わん」  ダイも続いた。 「なあ、マーガレット、こいつらとマリス、もしかして、会わさない方が、いいん じゃないか? 」  カルバンが、こっそり耳打ちする。 「そんな気もするけど、ここは、しょうがないわ。会った時に、マリスには、自力で なんとかしてもらいましょう」  マーガレットは、なんとなく垣間(かいま)見た、彼らとマリスたちとの確執 (かくしつ)めいたものよりも、一刻も早くマリスに、ギルシュからの伝言を伝え たいと、気持ちが逸(はや)っていた。 「さて、マリリンちゃん、さっそく、やつらの居所を占ってちょうだい」 「オッケ〜!」  マリリンが、首にかけていた水晶球をはずし、テーブルに乗せた。 「その前に、サーちゃん……」 「あっと、そうだったわ」  サラは、すっくと立ち上がると、手を腰に当て、高飛車な態度と威圧感を背負って、 マーガレットたち二人を見下ろした。 「お代ははずんでもらうわよ。なんてったって、私たちは『現実主義の黒い騎士団』 なんですからね」  噂の通りだと、マーガレットとカルバンは顔を見合わせてから、「よろしくお願い します」と、頭を下げた。 「さ〜て、それじゃあ、いくよ〜。ププリカパパララ、水晶球さん、見せておく れ〜、ププルルル〜!」  マリリンは呪文を唱えながら、水晶球には触れない高さで、両手を撫でるように 交差させた。  カルバンもマーガレットも、食事を運んで近くを通りかかったクラウス、パウルも、 その様子をじっと見守った。  しばらくして、マリリンが、両手をテーブルの上に置いた。 「どうだった、マリリンちゃん?」  サラが声をかけると、マリリンは首を横に振り、さらに、球を見つめた。 「おかしいなぁ、なぁ〜んにも映らないよぉ〜」 「なんですって?」  黒い騎士団は、顔を見合わせた。黒ずくめの魔道士も、ちらっと、マリリンの水晶 球を見た。  マーガレットもカルバンも、どうしていいかわからず、そのまま、彼らの様子を 伺っているしかなかった。  怪訝(けげん)そうな顔のマリリンが、再び、じろじろと水晶球を覗き込む。 「……やっぱりダメだぁ。なにも映らないよ。おかしいなぁ、マリリンほどの実力が あれば、あの魔道士が結界張って移動していたとしても、なんとなく、移動の跡が つかめるはずなんだけどなぁ〜。  それに、あの巫女のおねえさんは、まだ魔道士としても新米だから、魔力を隠し 切れなかったりするんだけどねぇ〜。こんなこと、初めてだよ〜」  それは、ケイン、マリス、カイル、クレアはドラゴンの領域へ入り、宿敵との戦い を控えたヴァルドリューズが、例の吟遊詩人を名乗る少年の、不思議な能力(ちから) で、別次元の森へと、連れられていた時に相当していた。  そのため、例え、能力のある魔道士であっても、見つけ出すことは、ほとんど不可 能だった。  マーガレットたちは、落胆した。 「せっかく、これでマリスに会えると思っていたのに……」 「また振り出しにもどったな……」  溜め息をつく、マーガレットとカルバン、それを遠目から見ていたクラウス、 パウルも、肩を落とした。 「見つけられなかったとはいえ、もらうべきものは、もらうわよ」  少しのうしろめたさもなく、サラが、仁王立ちになって言い放った。 「ええ、それは、もちろんです」  意気消沈しながらも、マーガレットが代金を払おうとした時だった。  クリスが、口を開いた。 「そう言えば、僕とマリリンさんが最後に会った時は、マリスさんたちは、ヨルムの 山のふもと、タイスランの町に行きましたよ」  マーガレットも、カルバンも、クリスを振り返った。 「本当ですか!?」 「本当ですよ、お嬢さん。しかも、ごく最近。その町から、『ドラゴンの谷』を目指 す、とかなんとか。今も、まだその町にいるとは限りませんが」  クリスが、何気なくマーガレットの手を握った。それに気付く様子さえもない彼女 は、興奮したまま、クリスを見つめていた。  マリリンが、ポンと手を叩いた。 「そうだよ、そんなこと言ってたよ! もしかしたら、本当に、ドラゴンの谷なんか に行ったのかなぁ〜? だとしたら、マリリンの水晶球にも、映らなかったわけ だ〜」 「『ドラゴンの谷』だとぉ? そんなところ、行けるものか」  ダイが鼻をふんと鳴らす。 「そのタイスランの町って、どこにあるんですか?」  マーガレットが、クリスに尋ねた。 「ここから、西の方ですよ。大分、遠いなぁ。マリリンさん、連れていってあげては、 いかがです?」 「ご厚意はありがたいんですが、今は、あんまり持ち合わせが……」 「じゃあ、僕のポケットマネーで。ね、マリリンさん、この宝石で、手を打ってくれ ないかな?」  クリスが、ポケットからピンク色の大きな宝石を取り出して、マリリンの目の前に 差し出した。 「やだ。それ、イミテーションでしょぉ〜?」 「ははは、バレちゃいましたか」  クリスは、もう一度、マーガレットの手を握り直した。 「というわけで、すみません、なにもお手伝いできなくて。ウマでも買って行った方 が、我々に頼むより、安くすむと思いますよ」 「あ〜あ、クリスったら、バカ正直なんだからぁ〜。それじゃ、商売にならないじゃ ないのぉ〜」  マリリンもサラも、呆れてクリスを見ていたが、クリスは、にこにこと笑っていた。 「それじゃ、お代を払ってもらいましょうか?」  サラが、手をスッと伸ばした。  マーガレットが、言われた通りの金額を支払うと、ふところは、またしても淋しく なってしまったのだった。 「ほーっほほほほっ! それでは、今後とも、『現実主義の黒い騎士団』をごひいき に!」  そう笑い声を残し、黒い騎士団の一行は、店から去って行った。 「またツケか……」  店主のつぶやきが、ボソッと聞こえる。 「あのー、彼らは、なんなんでしょうか?」  マーガレットが、ぼう然と尋ねる。 「金さえ払えば何でもやる、よろず屋みたいなもんだな」 「はあ、そうなんですか……」  マーガレットたち四人は、続行して、同じ店で働くことになった。  タイスランへは、いつになったら行けるのか。  行けたとしても、その時には、もうマリスたちは、別の場所へと、旅立ってしまっ ているかも知れないと考えると、四人は、改めて、この当ての無い旅の重みを感じた。 「私たち、とんでもないこと、引き受けちゃったのかなぁ?」  自信のなさそうな声で、マーガレットが、仲間たちに呟いた。  三人は、なんとも答えることは、出来なかった。  マーガレットが、泣きそうな顔になった時、そこへ、クリスだけが、戻ってきた。 「そうそう、マリスさんて、ベアトリクスの出身だったんですね。なるほど、あの 容姿は、ベアトリクス人ならではの、美しさだったのだと、納得しました。ところで、 彼女、貴族でしたよね? もしかしたら、かなり、高位の貴族だったのでは?」  ふいなことで、マーガレットは面食らったが、クリスがどんな人間かもわからず、 ましてや、黒い騎士団とマリスが友好関係ではなさそうだと知ってしまうと、黙って いた方が無難だろうと、咄嗟に、なんとかとりつくろった。 「さあ。でも、そんなに高位の貴族でしたら、私も、『マリス』だなんて、気軽に 呼び捨ては出来ませんけど」 「なるほど、それも、そうですね」  クリスは、にこやかに笑いながらも、顎に手を当てて、考えるような姿勢になった。 「しかし、ケインさんのあの騎士(ナイト)ぶりは……。ああ、実は僕、マリスさん たちの『白い騎士団』と、行動を共にしていたことがあるんですよ」 「『白い騎士団』!? マリスは、そう名乗っているんですか? 」  マーガレットが話に食いつき、カルバンも、クリスに注目した。 「ええ、そうです。普段は、白い甲冑をお召しになっていまして、おそらく、それで、 そう名乗ったのかと。ああ、最近、お会いした時は、町娘のような服装でしたがね、 少年服の時もあります。どれも、よくお似合いで。  神官服のクレアさんも、時々町娘の格好をしていまして、長い黒髪の美しい、 マリスさんとはタイプの違う美少女で、やさしくて、かわいらしい人なんですよ!」  ウキウキと話すクリスを、カルバンの目は、「こいつ、女の話をするために、 わざわざ戻ったのか? それほどまでに、女好きなのか?」と言いた気に、 だんだん呆れていくが、マーガレットは、聞き逃すまいと、真剣である。 「金髪の傭兵は、カイルさんて言います。彼は、魔法剣の使い手でね、なかなかの 腕前で、イケメンです。僕のライバル的な位置の人といったところでしょうか。  ヴァルドリューズさんが超イケメンという話は、もう知っていますね? 僕が同行 した時は、彼は不在だったので、魔法の方は、直に拝見したことはないんですが、 ただ者ではない雰囲気はありますね。それから、もうひとつ」  クリスは、人差し指を立てて、おおげさに、目を見開いてみせた。 「珍しいことなのですが、……『白い騎士団』には、妖精がついてるんですよ」 「妖精……ですって!? 」  マーガレットもカルバンも、目を見張った。 「ええ。美少女ニンフのミュミュちゃんだそうです。そう自己紹介してました。 『白い騎士団』に、というより、どうもケインさんに付いてるようなのですが。僕が 同行した時には、たまたまなのか、その妖精もいませんでしたねぇ」  唖然としている二人に、クリスは、改めた口調で、語りかけた。 「知ってます? 噂では、『伝説の戦士には妖精が付く』……って」 「伝説の戦士!? そうか! だから、そのイカレ野郎は、伝説の剣を、二つももって やがったのか!」 「イカレ野郎……?」  思わず口走ったカルバンに、クリスが目を丸くした。 「ケインさんのことですか? 別に、イカレてませんよ」 「イカレてないのか!?」 「ええ。彼は、いたって普通の青年です」 「そうか! 助かったー!」  安心するカルバンの横では、マーガレットが「ほら、つまんないこと気にしなくて、 良かったでしょ?」などと言っている。 「僕が、マリスさんを、高位の貴族じゃないかと思ったきっかけは、マリスさんの 雰囲気もそうですが、ケインさんの態度も大きいんですよ。彼は、口調こそは普通で も、マリスさんに対して、実に、紳士的に接しているんです。まるで、騎士ーー ナイトのように。  いつも、必ず、マリスさんに付き添い、守っています。あれは、マリスさんに対し て、特別な感情を抱いている、という風にも見えます」 「特別というと?」 「『愛』ですよ」  マーガレットに答えたクリスは、ウィンクしてみせた。 「は? あのマリスに? あんな男女(おとこおんな)に?」  カルバンが、眉間に皺を寄せ、思わずそう返していた。  今度は、クリスが、眉間に皺を寄せた。 「いくらなんでも、男女(おとこおんな)はないでしょう? ……まあ、確かに、彼女、 見た目は美しいけど、あの強さはハンパないし、無茶な作戦立てるし……ですが」  後半は小さく言ってから、クリスが真面目な顔で、二人を見下ろした。 「伝説の戦士と、大国の貴族のお姫様。端(はた)から見れば、お似合いの二人ですが、 付き合ってはいないと、はっきり言っていました。なぜ、付き合わないんでしょう か?」  じっと見つめるクリスの視線上で、マーガレットは、目を見開いた。 「さあ? 私に聞かれても」  隣にいたカルバンが、首を傾げながら、言った。 「単に、そのケインてヤツが、一歩踏み出す勇気がないだけ、なんじゃねぇの?」 「まあ、そうかも知れませんね」  クリスは、カルバンに調子を合わせて、笑ってから言った。 「僕には、理由のひとつに、ケインさんが、身分を意識しているせい、というのも、 あるんじゃないかと思えて。マリスさんの身分が高過ぎて、ナイトになるしかないの では、と。  だから、僕は、マリスさんのことを、貴族の中でも、高位な方なのではないか、 と思ったんですよ。それも、かなりの」  マーガレットは、表情を変えずに、クリスを見ていた。 「それか、マリスには、他に、好きな人がいるのかも知れないわ」 「ああ! そう言えば、そうだったかも知れません!」  クリスが、思い出したように手を打った。 「以前、黒い騎士団と白い騎士団で、対決したことがあったんです。その時に、 マリスさんがお花に詳しくて、オレンジ色の大輪の花『ファナ・ローズ』の名前を 当てたんです」 「なんなんだ? 対決って、クイズの対決だったのか?」  カルバンが呆れた顔を、クリスに向けるが、クリスは続けた。 「そうしたら、『セルフィスが、あたしに最も似合うよって、言ってくれたお花なの』 って、頬を染めてましたよ」  にこにこと微笑みながら、クリスが、マーガレットをのぞき込んだ。 「『セルフィス』って、誰です?」 「さあ。知らないわ」  マーガレットは、目を反らした。 「ベアトリクスじゃ、別に、珍しくない名前だぜ」  いつの間にか近付いたクラウスが、口を挟んだ。  クリスは、改めて、メガネをかけたクラウスの冷静な顔を、見つめた。 「男にも女にも付けられる。どうせ、マリスが、小さい頃に遊んでた、近所のクソ ガキかなんかのことだろう」 「ああ、なるほど! 子供の頃の、かわいらしい思い出だったかも知れないんです ね!」  クリスは、合点がいった顔になった。 「これ以上、うちのマーガレットに何か用でも? まさか、あんた、ナンパじゃない だろうな?」  クラウスがメガネの奥から睨むと、マーガレットが、びっくりしたように、クリス を見た。  クリスは、ぱちぱちとまばたきをしてから、笑ってみせた。 「ははは、バレちゃいましたか。それでは、僕は、そろそろ。またお会いするような ことがあれば、よろしく」 「また資金が出来た時に、よろしくお願いしますよ、黒い騎士団さん」  クラウスが言うと、クリスは皆に手を振って、もう一度、店の扉から出て行った。 「あいつ、なんだかんだ、マリスたちの詳しい情報、教えてくれたな!」 「マリス一行が白い騎士団て名乗ってて、仲間全員の名前もわかったし!」  カルバンに寄っていったパウルとカルバンとが、喜んでいると、クラウスが、 しかめっ面になった。 「逆に、俺たちに、探りを入れに来たのかも知れない。あいつの剣の鞘には、紋章が あった。貴族だってことだ。平民と貴族の違いは、なんとなくわかるんだろう。 少なくとも、マリスが貴族だってことは、否定しなくて正解だったな。ウソだと 見破られると、ますます怪しまれるところだった」  クラウス以外の三人は、顔を見合わせてから、真剣な表情になり、クラウスを 見上げた。 「こっちがマリスを探すことだけに、気を取られてたら危険だな。同時に、俺たちの 正体も、バレないように気を付けないと」  三人は、クラウスのセリフに、深刻な顔で、うなずきあった。


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