Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅲ.-2〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅲ.『手探りの旅』 妖精紫アイコン2 ~ 訪問客 ~  剣月紫ライン トアフ・シティー

 四人が食堂で働いて、数日が過ぎた。  マーガレットはカウンターの中で調理を手伝い、青年三人は届けられた食材を厨房 へ運んだり、料理を客席に運んだりしていた。  昼食を摂りに来た警備員の制服を着た男が二人、カウンターに腰を下ろした。 「前領主様の敷地の警備は、もう必要ないと思うが」 「いや、でも、まだ妖魔がうろついてるし」 「前ほど強力な妖魔でもないだろ。正直に言うとな、俺ぁ、もう、うんざりなんだよ、 妖魔がよ」 「ああ、わかるぜ」 「この際、徹底的に駆除して、新しい領主様のお屋敷を、建て直した方がいいぜ」 「そうだよなぁ。ちょっと高くつくかも知れないが、『黒い騎士団』に頼んでは どうだ? 」 「おお、あの賞金稼ぎの『黒い騎士団』か! 」  二人の警備員は、そんな話をしながら、食事を続けていた。  その日の仕事が終わり、カルバンたちが、宿屋に帰ろうとした時だった。  クラウスが、ふと店主に尋ねた。 「ここの領主様というのは、最近になって、代替わりしたのですか? 」  店主がクラウスを振り返る。 「ああ、つい最近な。代替わりとは言っても、子供はいなかったから、遠い親戚がな」 「お屋敷は、燃えてしまったのだそうですね。火事でも、あったのですか? 」 「いや、それが、どうも奇妙な噂があってな」  店主は眉をひそめると、小さな声で語り始めた。  クラウスが店を出たところで、カルバンたち三人が、待っていた。 「遅いじゃねえか、クラウス。なに話し込んでたんだよ」  落ち着かない様子で、足元の小石を蹴っていたカルバンが、待ちくたびれたように 言った。 「どうかしたの? 」  と言うマーガレットに、「宿に着いてから話すよ」と返したクラウスのメガネの奥 では、不敵とも取れる笑みがこぼれていた。 「ねえ、いったい、どうしたっていうの? 」 「早く教えろよ、クラウス」  パウルもカルバンも、ベッドの上に、ボスッと音を立てて座り、マーガレットは、 椅子に、品良く腰かけた。  窓の外を見ながら、腕を組んで立っていたクラウスは、やっと、彼らを振り返った。 「前トアフ・シティー領主セバスチャンの屋敷の周りには、以前から妖魔、つまり 下級の魔物がうろついていた。賞金を懸(か)けていたのも野盗にではなく、中級以上 のモンスターにだったそうだ。それが、ある時、突然、屋敷が炎上し、妖魔らしい 焼死体も発見されたんだと」 「ちょっとぉ、やめてよ、気持ち悪い! 」  マーガレットは、身体を抱え込むと、身震いした。 「ま、まさか、その領主って、魔物だったんじゃ……! 」 「だから、やめてってば! そんな不気味なこと、口にしないでよ」  パウルのセリフを打ち消すように、マーガレットは、胸のところで、神の印を 切った。 「領主が魔物だったとしたら、おかしくないか? なんで、魔物が、賞金を懸けて まで魔物仲間の死体を集めてるんだよ。まさか、生き返らせてたってんじゃ、ない だろうな? 」 「そこまでは、俺もわからない。だが、店に来る常連の警備員たちの話では、その 領主のところを尋ねた最後の客人は、ひとりの、まだ二〇歳前くらいの少女だったと いう」  クラウスの言葉を受けて、皆の表情が引きしまった。 「ま、まさか、……マリス!? 」  皆を見回しながら、カルバンが、おそるおそる口にした。  が、クラウスは、首を横に振った。 「それにしちゃあ、様子が違い過ぎるようだ。珍しい娘だったから、警備員も覚えて いたらしい。その女は、栗色の、長いストレートな髪に、深い青い色の瞳の、超美 少女だったと。というのも、単なる噂だからな、実は、マリスだったのかも知れない」  それは、魔界の王子の術を借りた、ケインの変装であった。術によって女性化した ケインと、妖精ミュミュによる計算外れの、滑稽(こっけい)な死闘が繰り広げられた などとは、ますます彼らの知るところではなかった。 「それに、その火事の後も、妖魔たちが、ちょろちょろしていて、警備員たちも困っ ていたところ、マリスと旅の仲間に似た連中が、退治したともいう」  しばらく、クラウスが沈黙した。話す内容を、頭の中で組み立てているようだ。 「それで、クラウス、お前は、いったい何を言いたいんだよ。もったいぶらずに、 早く教えろよ。俺は、そんなに頭もよくねえから、それだけじゃ、何のことやらわか んねえし、気も短いんだよっ」  じれったそうに、カルバンが、貧乏揺すりをしている。  クラウスは咳払いをしてから、続けた。 「ベアトリクスを立つ前に、ギルシュが言ってたことを覚えてるか? 」  唐突な質問に、三人は、きょとんとした。 「マリスの手掛かりのことか? 腕の立つ魔道士と、バスター・ブレードを持った 男が、一緒だってんだろ? 」 「他には? 」  パウルが、首をひねりながら、クラウスに答える。 「えーっと、確か、宮廷魔道士のザビアンが、マリスと接触したのが、このトアフ・ シティーだってことか? 」 「マリスは、魔物を倒す旅をしているんだそうね? 」  マーガレットもパウル、カルバンの顔を見合いながら、言った。 「それと、もう一つ、あったはずだ。『強大な魔力を使用した痕跡(こんせき)があれ ば、そこに彼女がいたということ』だと、マリスが、ザビアンに言い残した……そう 言ってなかったか? 」  三人は、ハッと顔を見合わせる。 「その屋敷が燃えたのは、よほどの業火だったらしい。もしかしたら、マリスと同行 している魔道士の放った魔法かも知れない。そして、魔物らしき死体は、真っ二つに 割れていたという。それは、バスター・ブレードによって、引き裂かれたのかも知れ ない……」  クラウスの話す内容に、全員、固唾(かたず)をのんだ。 「なるほど、ピッタリくるじゃねぇか、クラウス! お前、天才だぜ! 」  カルバンが喜ぶと、パウルもマーガレットも、嬉しそうな顔になった。 「ちっ! 単純でいいぜ、お前らは」  舌打ち混じりに、クラウスがそう言ったので、三人は、すぐさま黙った。 「いいか、俺の推測なんて、ただのつじつま合わせだ。それが出来たところで、次の マリスの行き先なんて、まだ何もわからねぇんだからな」 「ああ、そうか……」  三人は、うなだれた。  クラウスが、一息ついてから、口を開く。 「これは、客たちの噂話なんだが、『現実主義の黒い騎士団』って賞金稼ぎの常連が、 この町を拠点としているらしいんだ。中には、魔道士もいるという。俺が、思うに、 その魔道士に、大きな魔力の痕跡をたどって、マリスたちの居場所を占ってもらえ ないものだろうか」  他の三人の表情が、さあっと明るくなっていく。 「ナイスアイデアだぜ、クラウス! 」 「さすが、ハヤブサ団の作戦部長だっただけあるぜ! 」 「本当、いい考えだと思うわ! 」  カルバン、パウル、マーガレットが口々に褒め、クラウスが珍しく、にやっと笑う が、すぐに真顔になり、付け加えた。 「ただし、その『黒い騎士団』に何か依頼する時は、すっごく金がかかるらしい」  三人の表情は、どんよりと曇った。 「……それって、まだまだ資金集めをしなくちゃならないってこと? 」  マーガレットの気の抜けた声には、誰も、うなずくことすら出来なかった。  数日経っても、黒い騎士団は、一向に現れない。  彼らは、そのまま、辛抱強く、店を手伝っていた。


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 ところ変わって、ベアトリクス宮では、定期的に行われる宮廷魔道士たちの会合が、 終わったところだった。 「ギルシュ、お前に客人だぞ」  魔道士のひとりに呼び止められ、セルフィス王子の側仕えであるギルシュは、来客 室へと向かう。  そこは、貴族たちの謁見の間とは違い、質素な室である。  ごく稀(まれ)に、魔道士達の家族などが、訪れたりする時に使われる。  ギルシュが部屋に行くと、知らない老人がソファに腰かけて待っていた。 「えーっと……、どこかでお会いしましたっけ? 」  軽く会釈をしてから、ギルシュが、いつもの気さくな調子で問いかけた。  老人は、真っ白な髪が、覆(おお)い被(かぶ)さって、ほとんど隠れてしまっている 目をぱちぱちさせ、口元も、白い髭に覆われていたが、もごもごと喋り出した。 「ちょっと散歩をしたいんじゃが、いい道を知らんかね? 」  歯がないのか、ひどく聞き取りにくい発音だ。 (なんだ、このじいさんは? )  ギルシュは、心の中では顔をしかめていたが、そのようなことは、おくびにも出さ ずに、にっこりと笑う。 「ご案内しましょう。とっておきの場所があるんですよ」  そう言うと、老人と一緒に、さっそく室を出て行った。  ベアトリクス城から城下町を抜け、ギルシュが案内したのは、森に囲まれた湖の ほとりであった。 「ここまでくれば、魔道士達の結界も大丈夫じゃろう」  老人が、もごもごとそう言うと、突然、くるくると、小さな竜巻が地面から噴き 出し、老人を包み込んだ。  それが、すぐにおさまると、まったくの別人の姿があった。  ギルシュの目の前には、背の高い、銀髪の男が立っていたのだった。 「久しぶりだな、ギルシュ」  その顔を見るなり、ギルシュは、深々と頭を下げた。 「『魔道士の塔』上層部、ベーシル・ヘイド殿。お久しぶりでございます」  ヘイドは頷いた。 「事を内密に運びたかったもので、あのようなおいぼれの姿で、訪れることとなって しまったが、さすがは、バルカスが一押しの後輩だな。私の正体に気が付いておった とは」 (いや、全然わかんなかったんですけど……)  だが、ギルシュは、やはり、そんなことは、おくびにも出さなかった。  といっても、彼は、マリスがまだ宮廷にいた頃、彼女の守護神を、オーラによって 感じ取ったことのあるほど、人のオーラに敏感な魔道士である。それは、どの宮廷 魔道士にも出来ないことであった。  老人が、まさかのヘイドであったとはわからずとも、そのオーラに邪気は感じられ なかったからこそ、親切心で、景色の良いこの湖まで案内したに過ぎなかったのだっ た。 「ヘイド殿ご自身が、わざわざお出でになるとは。わたくしごときに、どのような ご用件でしょうか?」 「その前に、確かめたいことがあるのだが。お前の上司バルカスの消息を知りたい」  ギルシュの表情が曇り、うつむいた。 「……そうですか。『魔道士の塔』には、報告は行ってなかったのですね」  唇をかみしめてから顔を上げ、ギルシュは、ヘイドを真正面から見据えた。  二人を囲んでいた空気が、微妙に揺れたのを、ヘイドは感じた。 「ふむ。結界か。用心深いことだな」  ギルシュが、重い口を開いた。 「……バルカス殿は、亡くなられました。……抹殺されたんです」  ヘイドは言葉を失った。  悔しそうに地面に視線を落とすギルシュを見つめる。  ギルシュから事の真相を知ったヘイドは、しばらく無言であった。  その表情は、友人の死を悼(いた)むようでもあり、どうしようもできないもどか しさに、いらだちを覚えているようでもあった。 「国の内情には関与しないのが、魔道士の塔であったが、そのバルカスを殺めたのが、 ヤミ魔道士ならば、実に由々しき問題だ」  ヘイドは続けた。 「魔道士の塔ヤミ魔道士狩り部隊でも、ベアトリクスへの潜入は後回しとなっている。 ためらっているとも言える。このような言い方は、語弊(ごへい)があるかも知れんが、 この国を避けているとも言えるのだよ。  というのも、この国は、東洋に続き、魔道に長けており、宮廷魔道士たちが、独自 の組織を築いているだろう? 介入してしまえば、魔道士の塔との衝突は、避けられ まい。  魔道士の塔としては、面倒は、なるべく避けたいのだ。ただでさえ、いろいろな 問題が山積みなのでな。かかわっては、いられないというのが、本当のところなのだ」 「それは、充分に存じております。ですから、おそらく、宮廷魔道士長ザビアン殿も、 報告なさらなかったのでしょう。バルカス殿ほどの魔道士が、命を落としたとなると、 魔道士の塔も、重い腰を上げざるを得なくなると踏んで。  それと、もうひとつ、女王が、報告を止めたとも考えられます。ご自分の陰謀を 伏せておくためでしょう。宮廷魔道士は、下手をすれば、魔道士の塔よりも、国家に 忠誠を尽くすと言っても、過言ではありませんから、女王の命令は、絶対的なのです」  ギルシュの答えを聞くと、ヘイドは深い溜め息をついた。 「なぜこの国の魔道士たちは、そのようになってしまったのか……」  ギルシュは、しばらく沈黙してから、顔を上げた。 「わたくしも、この国の出身だから、わかるんですが、……おそらくは、この国に 根付いている伝説が関係しているのでは、と」 「伝説だと? 」 「はい。ご存知かと思いますが、この地には、あの伝説の大魔道士ゴドリオ・ゴール ダヌスが住んでいたという。そして、その彼が、大昔のベアトリクス宮廷に仕えて いたという噂でございます。それが、宮廷魔道士となる者たちにとっては、とても 誇り高いものなんだと思います」 「なるほど」  ヘイドは、一旦ギルシュを見つめて、再び口を開いた。 「話が出たところで、本題に入るが、ギルシュよ、お前は、その伝説の大魔道士 ゴールダヌス殿に会ったことはあるか? 」  ギルシュは、驚いて、まばたきをした。 「これはこれは唐突な。なぜ、わたくしに、そのようなことを? 」  ヘイドは面白そうな目で、くすりと笑いをこぼした。 「なるほどな。なかなかお前は、抜け目がないと見える。こっそり結界を張るのにも 慣れておるし、一見親しみやすいが、そうなんでもかんでも喋るというわけではない らしい。さすがに、ヴァルドリューズが、私直々に、おまえに会うよう忠告しただけ あるわ」  ギルシュの目の端が、ピクッと動いた。それは、ヘイドにしかわからないほどの、 微妙な動きであった。 「バルカスが、お前をかわいがっていたのと同様に、私にも、かわいい後輩がおって な。それが、ヴァルドリューズなのだよ。知っていよう? 今こそ、お尋ね者となっ てしまったが、魔道士の塔切っての優秀な若手であった、あの男だ」 (ヴァルドリューズさんが、……この方に、俺のことを……!? )  ギルシュの鼓動が、大きく鳴っていた。 (本当に、まだ旅をしているんだ。あの方と……マリス様と……! )  ヴァルドリューズの名前ひとつでも、ギルシュにとっては、生々しいような、居て も立ってもいられなくなるほどの思いが、湧き出てくる。  ギルシュは、ヘイドに、彼の居場所を問いたくてしょうがない衝動にかられるが、 やっとのことで、それを抑えた。 「あの男が、唯一信用している魔道士らしいな、お前は」  ヘイドが、微笑した。 「そ、そんな、俺なんか……! 」  と言いかけたギルシュだが、すぐに思い直した。 (でも、ヘイド殿に、俺の名前を出したってことは、そうなのか? )  そうだとすると、あの無愛想で、何を考えているのかわからなかった魔道士も、 なかなかいいヤツかも。それに、見る目がある。……などと考え、思わず、笑みを もらしてしまった。 「えーと、その、……ヴァルドリューズさんは、お元気でしたか? 」  その間の抜けたセリフに、ヘイドは、吹き出しながらうなずいた。 「まあ、あやつは、いつも無愛想なのでな、よくはわからんが、あれで元気なの だろう」 「それで、そのぅ、王女殿下も……? 」  ギルシュが、おそるおそる尋ねる。 「おお、そう言えば、あやつと私が会った時は、この国の例の王女は、一緒ではなか ったが。これまで、二度、あやつと出会ったが、二回とも、王女は見かけなんだな」 「えっ? マリス様は、ご一緒ではなかったというのですか? 」  ギルシュの顔色が、さーっと変わっていった。 (ちょっとぉー、ヴァルドリューズさん、何してるんです? ちゃんと、マリス様を お守りして頂かないと、困るじゃないですか。そんなことじゃあ、返していただき ますよ! )  ギルシュが、むっつりしていると、ヘイドが思い出したように言った。 「まあ、それは、たまたまだったのかも知れん。彼が旅に出てから、私と初めて会っ た時、王女ではなく、ある青年を連れておったな。伝説の剣を二つ持つ青年であった」  ヘイドに向き直ったギルシュが、真顔で尋ねた。 「バスター・ブレードと、ドラゴン・マスターの剣を持った、ケインて名の青年です か? 」 「ほう。そんなことまで、知っておるのか? 」  ヘイドが感心して笑った。 「やはり、ヴァルドリューズさんとマリス王女は、その伝説の剣を持つケインと旅を していたのですね」 「おそらく、ヴァルドリューズと別行動の時は、その青年が、王女の護衛をしている のだろう。人と群れることのなかったあの男が、それだけ、その青年の腕を見込み、 信頼を寄せているということに違いない」 「……なら、いいんですけどね。どうも、剣士などに、王女殿下の護衛が勤まるのか と、ちょっと疑問なんですがね。それは、自分が魔道士だからかも知れないですけど。  もちろん、ヴァルドリューズさんの実力は認めてますし、マリス様本人だけでも、 相当お強いんですよ? 伝説の剣を持っているにしたって、剣士なんかに、あのお方 を、ちゃんと守れるんですかねぇ」  ヘイドは、少々ムキになっているように見えるギルシュを、おかしそうに見た。 「お前は、マリス王女の味方なのか? 王女のことは、この国では、謀反人扱いして いると聞くが? 」  途端に、ギルシュは、首を引っ込めた。 「すみません。今のは、内緒にしておいてください。宮廷に、このことがバレると マズいんで」 「私には、関係のないことだから、安心するがいい」 「ああ、恩に着ます、ヘイド殿! 」  おかしなやつだと笑いながら、ヘイドは、ギルシュの地味な風貌(ふうぼう)を、 親しみを込めた目で見ていた。 「話の続きだが、ヴァルドリューズの話では、お前も、ゴールダヌス殿に会ったこと があると聞く。今、魔道士の塔で抱えている問題が、かなりの規模のものでな、我々 だけでは、どうしようもなくなってきたので、大魔道士殿方のお力を、お借りしよう ということになったのだ。そこで、お前に、会いに来たのだ」  ギルシュは、少し困ったように、首を捻った。 「それが、以前は、この湖のほとりに住んでおられたのですが、どういうわけか、 ある時から、大魔道士様の念が、ぷっつり途絶えたのです」 「途絶えたとは……? 」 「わかりません。私には、感じられなくなったのです」  ヘイドの表情も、険しくなった。 「やはり、ヴァルドリューズの言ったことは、本当だったのかも知れん。ゴールダヌ ス殿は、もうこの世には、おられないのだと」 「この世には、おられない……!? 」  ギルシュは驚いて、ヘイドの顔を見つめた。 「知らなかったのか? ゴールダヌス殿は、そのお力を、ヴァルドリューズに分け 与え、魔力の弱まったところを、ヤミ魔道士グスタフに襲われたようなのだ」 「……! 」  ギルシュは、言葉を無くして、立ちつくした。 (……そうか。だから、ここへ来ても、なにも感じられなかったんだ……。それでは、 マリス様たちは……! )  ギルシュの心臓が、不安に、速くなる。  彼を見つめていたヘイドは、少しの間沈黙し、再び話し始めた。 「バルカスが認め、ヴァルドリューズまでもが認めたとなると、お前には、普通の 魔道士以上の力があるのかも知れぬ。私の正体も、はなから見破っていたようだった しな」 「い、いえ、それは……」  ギルシュが小さい声で言いかけるが、ヘイドは続けた。 「実は、最近になって、発見されたものがあった。それは、今まで謎とされていた、 魔道の原点ともなるべきものかも知れない。ヴァルドリューズにも話したが、この世 には、古代魔法というものがあったのだ」 「古代魔法……ですか? 」  ギルシュは、眉間に皺を寄せた。 「そう怪しむな。気持ちはわかるが」  苦笑しながら、ヘイドは、続きを話す。 「この世の未知の部分、未開の地とされている場所に、古代魔法のカギを解く謎の 石板が、隠されているという。未開の地といえば、この国の辺境もであろう?  もし、見つけることがあれば、私に知らせて欲しい。  お前ならば、ヴァルドリューズとは違って、まだ私には会い易いだろう。 歴(れっき)とした正規の魔道士なのだから、堂々と、魔道士の塔を訪れることは 出来よう」 「その石板とやらは、見てすぐにわかるものなのですかね? 」 「わかるだろう、お前ならば」  ギルシュは、なんだか調子良く扱われたような気がしないでもなかったが、ヘイド の頼みを聞き入れることにした。  そして、二人は、それぞれの職務に戻る。  魔道『光速』で城に向かいながら、ギルシュは思った。 (古代魔法ねぇ……マユツバもんだが、ヴァルドリューズさんもかかわっていると いうんなら、信憑性がある。一応、気にかけておくか。いずれにしろ、あの辺境は、 ベアトリクスでも、本格的に調査することになりそうだからな)


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