Book9看板 Dragon Sword Saga9 〜Ⅱ.-3〜
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~ 第9巻『時の歯車』 ~

剣月紫ライン  Ⅱ.『女王誕生【後編】』 妖精紫アイコン3 ~ 切り札 ~  剣月紫ライン 証書とロッド

「どうだい? わかったかい、ギルシュ? 」  広間の沈黙の中で、セルフィスが、静かに尋ねる。  ギルシュは口を開いた。 「恐れながら、この状態では、わかり兼ねます。鑑定の際に、部屋で、インカの香 その他、特殊魔法道具を使いたいのですが、よろしいでしょうか? 」  女王が、ザビアンを見る。 「ザビアン、そなたたちでは、わからないのですか? 」  ザビアンが、また頭を下げる。 「恐れながら、陛下、魔力を嗅ぎ分けるというのは、決して、どの魔道士にもできる ことではありませぬ。このギルシュは、まだ若年の未熟者ながら、特殊な能力には 長けておりますゆえ」  渋々納得した女王は、ザビアンとドロワの二人を付き添わせることで、ギルシュの 部屋で鑑定することを許可した。 「ザビアン殿、少々お尋ねしたいのですが……」  部屋へ向かう最中、ザビアンの後に続くギルシュが、丁寧な口調で切り出した。 「なんだ? 」  振り返りもせずに、ザビアンが返答する。 「王女殿下が、得体の知れない魔道士と旅をしていることは、ドロワ殿からお聞きし、 存じ上げておりましたが、先程のお話では、もうひとり剣士が加わっていたとか。 いったい、どのような男だったのでしょう? 」  ギルシュは無邪気に、だが慎重に言った。 「外見から、傭兵らしいことはわかったが、少し気になることがある」  ザビアンの横顔を、ギルシュが、眉をひそめて覗く。 「後で陛下にもご報告するつもりだが、その男は、伝説の剣を持っていたのだ」 「伝説の剣……ですか? 」  ギルシュが不思議そうな顔をする。  ザビアンが初めてギルシュを振り返った。 「その剣は、マスター・ソードだといった。正式には、『ドラゴン・マスター・ ソード』であろう」 「ドラゴン・マスターの使う剣……ということですか? 」  ギルシュは不可解な表情で、ザビアンを見つめる。その時、隣にいるドロワの目の 端が、ピクッと動いたのを、見逃さなかった。 「マスター・ソードとは、いったい、どのような剣なのでしょう? 」  ギルシュは、さも何もわからないといった様子で、ザビアンに尋ねた。 「正義を貫き、悪を倒す。その程度しか知らぬが、使い手は、意外にも、普通の気楽 な青年であった」 「そうなんですか。ドロワ殿は、いかがです? マスター・ソードとやらのことは、 何かご存知ですか? 」  ギルシュは何気なく、ドロワに話を振ってみた。  ドロワは、驚いたようでもあったが、すぐに何気なさを装った。 「私も、その程度のことしか、存じ上げませんね。マスター・ソードは与えられた 人間にのみ、秘密も伝授されるそうですから」 「へえー、さすがに、何でもよくご存知ですね! 」  ギルシュは、大袈裟に感心してみせた。ドロワは咳払いして、ギルシュから視線を 反らした。  ザビアンが、再び口を開く。 「気になることに、その青年は、もうひとつ剣を持っていたのだ。私たち魔道士団と 触発した時には、使用してはいなかったが、なんとも大きな剣であった。あまりにも 大きかったため、腰には差せず、背負っていた」 「そ、そんなに大きな剣を、ですか? 」  ギルシュは驚いた。ドロワは、まったく反応していなかったが、ギルシュには、 それが自然を装った不自然な反応であると取れた。 「その青年の名は? 」 「確か、王女は、彼を、ケインと呼んでいた」  ザビアンの言葉にも、ギルシュにも、ドロワはもう何の興味もないように、ただ前 を見据えるだけである。  ギルシュも、それからは、黙って、部屋へ向かった。  部屋から戻ったギルシュは、ザビアンとドロワの後に続いて広間に現れ、証書を セルフィスに差し出した。  人々は、彼の言葉を待つ。  ギルシュが、顔を上げた。 「僅かですが、王女殿下の魔力は感じられました。従って、この証書は、本物だと 思われます」  広間は、何度目かのざわめきで、共鳴していた。  女王は、羽扇子で、ほころんだ口元を隠すと、セルフィスから証書を受け取り、 かかげてみせた。 「この通り、先代のベアトリクス国王の最後の王女マリスは、正式に、王女の身分を 放棄しました。今日を限りに、王女探索のための騎士団、魔道士団は解散とし、本来 の仕事に復帰するよう、気持ちを新たにしてもらいたい」  ようやく、女王の、王女に対する執念はおさまったように、人々には思えた。


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 その後は、いろいろな打ち合わせや会議が行われ、セルフィスとギルシュが自室に 戻ったのは、その日の夜になってからであった。  いつものように、ギルシュが結界を張ると、セルフィスが待ち構えていたように、 切り出した。 「ねえ、ギルシュ、あれで、本当によかったの? 結局、証書は、お母様のもとだし。 正直に言うと、僕は心配だな」  ギルシュは、にっこり笑って、セルフィスを見た。  そして、手を差し出すと、空中から、何かがパッと、彼のてのひらに現れた。


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   それは、紛(まぎ)れもなく、広間で見たマリス直筆の証書であった。  セルフィスは、驚きのあまり、言葉も出なかった。  ギルシュが不敵な笑顔になる。 「女王陛下が持っているのはニセモノ。こちらが、正真正銘マリス様の証書です」  セルフィスが、みるみる笑顔になっていく。 「ああ、ギルシュ! きみって、なんて素晴らしいんだ! 」  セルフィスが、ギルシュに抱きついた。 「だけど、ザビアンとドロワの二人が、目の前で見張っていて、どうやってごまかせ たんだい? 二人とも、この宮廷では、一、二を争う敏腕の魔道士だって、言われて いるのに」 「確かに、あのお二人は、魔道士としての能力は、宮廷一かも知れません。しかし、 魔道を知り尽くし、使いこなして、実際の能力以上のことをやってのける方法を 知っている、抜け目のない魔道士としては、私が一番でしょうね」  ギルシュが、にやっと笑ってみせた。  セルフィスは、好奇心に瞳を輝かせた。 「それで、どうやったんだい? 」 「なあに、簡単なことですよ。実は、私には、証書を拝見したあの時点で、マリス様 の魔力を感じ取れたのです。部屋に行って、インカ香や魔法道具が、どうのこうの 言っていたのは、なんとかニセモノとすり替えようと思ったからです。いくら私が 小ズルくても、あのような、たくさんの魔道士の目を、ごまかすことは難しかった ものですから。  私が、『マリス様の魔力ではない』と言ってしまえば、ザビアン殿が叱られ、また マリス様も、ベアトリクスの精鋭たちに追われるはめになってしまいます。それが、 うっとおしくて、あのような証書を、自らお書きになったのだと、私なりに解釈し、 せめて、それからは解放して差し上げようと思ったのです。もっとも、女王陛下の 許可が、あのように簡単に出るとは思いませんでしたが」 (といって、あの女王陛下が、マリス様のことを諦めたと考えるのは、まだ早いかも しれませんが)  その言葉を心の中で付け加えてから、ギルシュは続けた。 「自分の部屋へ行った私は、インカの香を焚(た)き、それを証書の隣に置いて、精神 を統一するふりをしました。二人とも、見逃すまいとして、じっと証書を見つめて いましたよ。ですが、インカの香とともに、私の魔法の効果はアップし、あの二人に 気付かれずに、催眠術のようなものをかけることに、成功したのです」 「それじゃあ、あの証書は……」 「あれは、私が自分で書きました」  ギルシュは、こっけいな調子で、肩をすくめてみせた。  セルフィスは、声も出せずに、目を見開いた。 「できるだけ、筆跡を似せて。といっても、マリス様の筆跡のわかるセルフィス様 以外の、王室の先生たちは、今後、証書を見ることはありませんから、バレることは ないと思います。用紙は、魔道士が普段の職務で使っているものでしたので、簡単 でした。王家の紋章でも入っていたら、ニセモノを作るのに、もっと時間がかかった でしょうけどね」  セルフィスは、つくづく感心して、ギルシュを見つめていた。 「僕も、この間、きみが王家の聖杯を見つけてきてくれなかったら、余裕の演技なん て、していられなかったよ。これで、切り札が、二つになったね! お母様は、 マリスの王位が消滅したように、世間には公表するだろうけど、この二つの切り札が ある限り、マリスには、まだ王女の資格があるということだね! 」  嬉しそうに証書を握り締めるセルフィスを、ギルシュは、微笑みながら見つめて いた。


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 ひとり部屋に戻ったギルシュは、実は、セルフィスほど、手放しには喜べないで いた。  マントを脱ぎ、ごろんとベッドに転がると、天井を眺めた。  頭の中には、女王が即位して二ヶ月ほどの頃ーー今から三ヶ月ほど前のことが、 浮かんでいた。  女王が雇ったヤミ魔道士のうちのひとり、蒼い大魔道士の部下であるドロワは、 何かとギルシュに、ちょっかいを出していた。  その日も、ドロワの送り込んだ、下っ端の魔道士数人が、ギルシュの後をつけて いき、見張っていた。  わかっていて、ギルシュは、あえて、ベアトリクス国内の辺境へと向かった。 そこで、なんとか彼らを撒(ま)こうと思っていたのだ。  すると、その辺境で、思いがけない人物に出会ってしまった。  彼が、足元に落ちていた、普通のものよりも大きな剣を、不思議に思い、拾い上げ た、その時だった。 『それを、こちらに返してくれないかしら? 』  砂漠の中から、赤い衣装に身を包んだ、ひとりの少女が現れた。  オレンジに輝く茶色の巻き毛、勝ち気な態度に、不敵な笑顔ーーそれは、忘れも しない、アメジストの瞳の王女、マリスだった。  やっと会えた喜びを、ギルシュは、必死に抑えなくてはならなかった。  岩の後ろに隠れているヤミ魔道士たちの存在に、気が付いていたからであった。  セルフィスの計画のためには、マリス救出は、宮廷の者には、一切知られてはなら ない。  ドロワの主人である蒼い大魔道士が、マリスのことまで狙っていることは知らなか ったが、自分の足を引っ張ろうとするドロワに、この計画がバレるのは、最も危険だ と判断したため、始めは彼女の敵であるような素振りをした。  そして、彼は、なんとか、ドロワの使いたちを出し抜き、始末することに、成功 したのだった。 『セルフィス様は、今でも、あなたのことを……お待ちになっています。私が、特殊 な結界をお張り致しますから、一瞬でも、殿下にお会いになってはいかがですか? 』  マリスをセルフィスに会わせれば、セルフィスから、秘密部隊のことや、聖杯、 行方不明の国王のことなど、いろいろ伝えることができると思った。  だが、マリスは、セルフィスに会うことを、拒んだ。 『あたしの勝手な言い訳を、押し付けて悪いけど、お願いよ、彼とは会わせないで。 今、会ったら、全部終わりになってしまうわ! あたしは、彼と一緒にいたくなって しまう。そうなるわけにはいかないのよ。まだまだ、倒さなくちゃいけないものは 多くて、だけど、あたしを助けてくれる仲間も出来たの。あたしは、城の中でぬく ぬくしているよりも、その人たちと魔物を倒していくことに決めてるの。その方が、 あたしだって、生きてるって思えるんだもの』  その必死な彼女の様子に、ギルシュは、何も言えずにいた。  彼女が、まだ城にいた時、宮廷での生活は、彼女には合わない気がしたのを、思い 出す。 (あの辺境で、お会いした時、俺は、なんで、マリス様を、もっと強く引き止める ことが出来なかった? 無理矢理にでも、セルフィス様のところへ、連れて行かなけ ればならなかったはずだ)  天井を眺めながら、ギルシュは、そう考えていた。  ギルシュには、マリスの気持ちが理解できた。  そして、彼女を密かに想う彼であったからこそ、今は、マリスの思うようにさせて あげることが良いのだと、判断してしまったのだった。  このことは、それから三ヶ月経った今でも、セルフィスに打ち明けることが出来 ないでいた。  王子は、マリスをなんとかベアトリクスに連れ戻し、彼女の身の潔白を証明したい。 それは、自分も同じだった。 (正直なところ、俺には、どちらが正しいのか、わからない。セルフィス様がお考え のように、陰謀にはめられたマリス様を連れ戻して、この国を、再び平和に、正しく 導くのが、一番だとも思っていたけど、あの時、辺境で、マリス様に会ってから、 わからなくなった……) (マリス様は、あの大きな剣ーー確か、バスター・ブレードとかって、ザビアン殿が 言っていたがーーそれを持つ剣士や、ヴァルドリューズさんとも旅を続けている方が、 合っているように、俺にも思える。俺のカンでは、彼女の守護神が、戦いの中に生き ることを宿命付けているからだ) (王女の身分も、あの人は、本当にいらなかったから、あのような証書も書いたんだ ろう。……ということは、彼女は、セルフィス様のことは、もう完全に、諦めてしま ったんだろうか? )  ギルシュは、居たたまれなくなって、寝返りを打った。 (彼女は、本当に、ベアトリクスには、戻る気はないのかも知れない。辺境でお会い した時の、あの様子では、セルフィス様には、まだ未練があるようだったが、新しい 仲間とも、楽しくやっておられるようだ。伝説の剣を持つ剣士が、ダンさんではなか ったのが、せめてもの救いだな)  ほっとしたような微笑を浮かべるギルシュであったが、どこか淋しくも感じていた。 (ま、時は、どんどん移り変わっていってることには、違いないや。俺には、この まま、あの女王が、この国を治め、ひどい政治をしようが、また陰謀を働こうが、 王位がセルフィス様に移ってから、この国を立て直したっていいとも思う。マリス様 が戻られたところで、あのお方に、一国の女王が勤まるかどうか……。どうせ、また 逃げ出そうとするんじゃないのか? 以前のように)  くすっと笑いをもらしてから、またもや、考える。 (所詮は、俺なんかが、ひとつの国の未来を、どうにか変えられるわけないんだから、 今は、あれこれ考えてもしょうがない。すべては、なるようになるのだから。俺は、 その手助けになればいいのさ)  毛布に包まったギルシュは、目を閉じ、静かに眠りについた。


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