Book8看板 Dragon Sword Saga8 〜Ⅴ.-1〜
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~ 第8巻『古代の魔法』 ~

剣月青ライン  Ⅴ.『過去』 妖精青アイコン1 ~ 過去 1~  剣月青ライン

「やっと本気になったようだな」  上目遣いに、ダグトが、にやりと笑う。 「待って! 」  ラン・ファの声に、皆は振り返った。 「戦う前に、聞いておきたいことがあるの」  ヴァルドリューズの腕の中から、怪我をした腕を庇いながら、よろめくように、 一歩進み出た彼女が、ダグトを見据えた。 「ダグト、あなた、なぜ、そうもヴァルドリューズにこだわるの? 古代魔法まで 手に入れて。仮にも、私たちは、幼い頃からの知り合い同士。戦うことに、意味なん てあるの? 最強になったのなら、魔道士の塔からも籍を抜き、あなたの目の前には 二度と現れることのなかったヴァルドリューズに、わざわざ挑むことはないんじゃな いの? 」  ダグトは、やれやれと、肩を竦めた。 「わからんのか? もう少し、ものわかりのいい女だと思っていたが、仕方がない。 全部話してやろう。お前達の想念も取り込んで」  ダグトは、両手を抱えるような形に持ち上げ、呪文を唱えた。  そして、真顔になり、ヴァルドリューズを向いた。 「俺は、幼い頃から、ラン・ファが好きだった。そして、お前のことが、憎かったの だ、フェイ・ロン」  ダグトが、ヴァルドリューズを、もとの名で呼んだ。  静まり返った三人の間で、ミュミュには、人間たちの情念のようなもの、特に、 ダグトの強い情念が、伝わったように、ビクッとした。 「このおじちゃん、ヴァルのおにいちゃん、ラン・ファおねえちゃん……、みんな、 小さい頃からの知り合い……幼馴染みだった……!? 」  ミュミュは、三人を見つめていた。 「これを、見るがいい」  ダグトが後ろを振り返り様に仰ぐと、アジトの割られていない窓に、ある映像が 映し出された。  ラン・ファにも、ヴァルドリューズにも、見覚えのある風景だ。  そこは、東洋の大国ラータン・マオのある街中、すなわち、三人の故郷であった。


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 木造の建物が映る。  東洋の伝統的な体術を学ぶ道場である。  東洋でも、特に、ラータン・マオでは、身体と精神を鍛えるため、子供達は男女 ともに、武道を習うのが、昔からの習わしとなっていた。  木造の床の上では、黄色に赤い縁取りのある上下、腰に黒い帯を巻いた道着を着た 子供たち、幼い子から十代半ばほどの子までが、それぞれに練習をしていた。  皆、東洋人の特徴である浅黒い肌に、黒い目、黒髪である。  中でも、特に、目鼻立ちの整った少女がいた。  髪を二つの団子のように、頭の両端で丸めている。  外見だけではなく、その子の武道の腕も、目を見張るものがあった。  明らかに、彼女よりも背の高い男子を、背負い投げた。  ひとりの大柄な、初老の男が、彼女に近付いていく。  えらの張った、顎の突き出た厳格な顔の男だった。 「ラン・ファ、手首の返しが甘いぞ」 「はい、お師匠さま」  老師は、幼いラン・ファの手を取って教える。  ラン・ファは一礼すると、練習を続けた。  休憩時間になると、子供達は集まり、わいわい話を始める。  ラン・ファの家は、ラータン・マオの外れ、南方にあった。  人口も少なく、道場もなかったので、少し名の知れたこの道場に通うため、親元を 離れ、住み込みで生活していた。  同じく住み込みの子供達も、両親には、なかなか会えずに、淋しい思いをしている せいか、子供達同士は仲が良った。  毎日、親が迎えに来るような近所から通っている子に対して、意地悪をしてしまう 子もいたが、道場の中では、ケンカはご法度だったため、師匠に見付かれば、厳しく 罰せられる。  ラン・ファたち住み込みの子供たちは、寄り集まって座り込み、喋っていると、 窓際に、ひとりでいる少年に気付いた。 「ねえねえ、あの子、誰だっけ? 」  仲間のひとりが、誰にともなく問いかけた。 「あんなヤツ、この道場にいたっけ? 」 「ほら、代々格闘家のウォン家のフェイ・ロンだよ」  ラン・ファは、フェイ・ロンを、じっと見つめた。  黒いつややかな髪が、窓から入る風になびいている。  その横顔は、あまりに整っており、感情を表に出さないところが、大いに子供離れ しているため、他の子供たちは、彼には、なかなか寄りつこうとはしなかった。 「ハーフなのかな? 肌の色は一緒だけど、目は碧(あお)いし、私たちとは違う国の 人みたい」  ラン・ファが言った。 「それが、あいつだけ、一族とは、目の色も、顔つきも違うんだってよ。不気味だよ なぁ」 「不気味? とてもきれいな顔だと思うけど……? 」 「ああ~、ラン・ファ、フェイ・ロンのこと、好きなんでしょ~? 」  ラン・ファの隣にいた少女が、ひやかした。それを聞いた周りの少年たちは、途端 に口を噤む。 「まさか、喋ったこともないのに。……ただ、あの子って、いつもひとりじゃない?  どうして、みんな、あの子と遊ばないのかな? 悪い子には見えないのに」  ラン・ファがそう言っても、隣の少女は、からかうように笑うだけであった。  少年のひとりが答える。 「あいつ、なーんか近寄り難いんだよなー。話しかけても、あんまり喋んないし」 「ふうん……」  ラン・ファ自身も、フェイ・ロンは近付きにくいと思っていたことには変わりない ので、自分から話しかけてみようとは思わなかった。  よく見ると、彼が窓の近くに立つと、いつも小鳥や虫たちが、やってくるようだ。  彼も、そのような生き物は嫌いではないらしく、手に止まらせるなどして、可愛が っているようであった。  ラン・ファは、自分よりも、二つ年下の、その少年を、しばらく見つめてから、 仲間との会話に戻った。  組手の練習をしていた時だった。  ラン・ファは、仲の良い少女と組んでいる。  この日は、選ばれた少年たちだけが、ある型を教えられていた。  それを、すぐに組手に取り入れられたのは、フェイ・ロンであった。  以来、目立たなかったフェイ・ロンは、技を覚えるのが誰よりも早いと、皆の間で 注目されるようになっていった。  真面目に修練に取り組んでいる姿も、師匠には買われていて、武道の筋もいいと 褒められていた。  それが、逆に、子供たちからすると、より一層、彼には近付き難くなってしまった ようでもあった。  ラン・ファが同じ住み込みの子たちと、道場の中を掃除していると、少年たちが、 決まって、フェイ・ロンのことを悪く言うのを、よく耳にした。  武道の腕は、彼の方が上だったため、挑むこともできないのが余計に悔しかったの か、彼らは、もっぱら悪口だけで、済ませていた。 「あんなふうに、影で悪口を言っているだけなんて、かえってみっともないわ」  ラン・ファが口を尖らせて、友達に言うと、友達の少女は、またしても、冷やかす ように笑うので、ラン・ファも、しまいには、何も言わなくなった。  その少年たちが、ある時、フェイ・ロンを捕まえた。 「おまえ、生意気なんだよ! 」 「親が武道家なら、わざわざここの道場に来なくたって、いいじゃねえか。親の道場 で習えよ! 」  師匠が席を外した隙をついて、少年たちが、フェイ・ロンを取り囲み、攻め始めた。  囲まれたフェイ・ロンの方は、相変わらず、子供らしくない無表情な瞳のまま、 少年たちを、じっと見据えている。  うんともすんとも言わない彼に、とうとう少年たちの怒りは爆発した。 「なんだ、てめえ! 俺たちよりも、ちょっと技を覚えてるからって、バカにしてん のか!? 」  ひとりが、シュッと拳を突き出した。  パシッと、フェイ・ロンが手の甲で払い除ける。  カッとなった少年は、今度は蹴りを繰り出すが、それもまた手でよけられてしまっ た。  他の少年たちも、攻撃を開始していたが、フェイ・ロンは全てよけ、少人数だけを 相手に出来るよう躱しながら、対抗していった。 「何をしている! 」  騒ぎを聞きつけ、師匠が飛んできた。  暴れていた子供たちは、静かになり、横一列に並んだ。  見ていた少女たちが、先にケンカを売ったのが少年たちの方だと言いつけるが、 師匠は、公平に罰すると言う。  ひとりずつの肩を、後ろから、幅の細い、分厚い板で、力強く叩いていく。その 痛さに、泣き出す少年もいたほどだ。  師匠は、なぜか、フェイ・ロンには、他の子供たちよりも強く叩いていた。ケンカ をしかけた子たちよりも。  一見ひどい扱いではあったが、師匠が、それだけ、彼には強くなって欲しいと、 期待を込めているのだろう。そう感じた、ある少年は、悔しさに唇をかんでいた。  少年たちが、痛さのあまりに泣き出しても、自分だけは泣くまい、こんなことで すら、彼に負けるわけにはいかない、彼は、自分よりも強く叩かれているのだから、 とでも自分に言い聞かせているように、肩と背の痛み耐えているようであった。  最後まで泣かなかったのは、フェイ・ロンと、その少年、つまり、始めに彼に殴り 掛かった少年ティエ・ジエンーーそれが、ダグトであった。  ティエ・ジエンは、フェイ・ロンに対するライバル心から、一層、修行に励むよう になっていった。だが、追いついたと思えば、引き離されるという、ままならない 思いを繰り返していくうちに、いつしかフェイ・ロンしか目に入らなくなり、彼を 負かすことが、知らず知らずのうちに、目標となっていた。  ティエ・ジエンが、彼を目の敵にする理由は、他にもあった。  ラン・ファと同じく住み込みで生活している彼からすれば、近所から通うフェイ・ ロンは、羨ましい限りである。  近所であっても、フェイ・ロンの両親は、滅多に道場に姿を見せることはなかった が、近くに家があるというだけで、充分、彼を妬む理由になった。  これまでは、そのような子供たちは苛めて、憂さを晴らしていたのが、フェイ・ ロンにはそれが出来なかったのが、彼にとって、一番面白くないことだった。  ましてや、武道の腕も、どんなに頑張っても、彼を超せないのも、忌々しさが募る 一方だった。  ある時、突然、フェイ・ロンが、道場に来なくなった。  体調でも崩したのだろうと、始めは誰も不思議にも思わなかったのが、何日しても 現れないので、次第に、噂になっていった。  誰かが、師匠から聞いたことでは、彼は生まれつき、非常に魔力が高かったため、 人よりも早く魔道の修行に入ることになったのだと。  これには、師匠自身もショックを受けたようであった。  このまま鍛えていけば、武道の達人となる素質を持っていたと見込んでいただけに、 師匠にとっては、フェイ・ロンが辞めることが残念で、仕方がなかったのだった。  そして、もうひとり、ショックを受けたのは、ティエ・ジエンであった。  彼を叩きのめし、いつかは追い抜いてやろうと思っていた目標を失った。  フェイ・ロンのいなくなった道場では、気の抜けたようになってしまったことを、 誰もが感じながら、鍛錬を重ねていた。  次に、ラン・ファが、道場から出て行くことになった。  東洋が誇る最強の武術を操る女武道家が、道場を見学した際に、彼女に目を留めた のだった。  それまで、あちこちの道場を回ったが、これはと思う少女に出会えなかった、是非、 自分の技『武浮遊術』を伝授したい、そう老師に切り出したのだった。  これには、老師も渋ったが、どうしてもと、女がねばるので、ラン・ファと彼女の 両親とも話をし、彼女を手放すことになったのだった。  すっかり活気がなくなり、師匠もイライラして怒りっぽくなってしまった頃、今度 は、ティエ・ジエンまでが、辞めることになった。  目標を失ってしまった彼は、どうしても、フェイ・ロンに勝ちたいと思うあまり、 自分も魔道の勉強をしたいと申し出したのだった。  そのような理由で武道を辞めることは許さぬと、さんざん師匠に怒られるが、調べ てみると、彼の魔力も、常人より、かなり高いことがわかる。  彼の両親の魔力は普通であったが、父親の家系に、魔道士がいた。その素質を、 彼が受け継いでいたようだった。  フェイ・ロンは、自宅に魔道士の教師が来て、マンツーマンで魔道の修行をしてい たが、ティエ・ジエンは、道場の近くにある、魔道の学問所に住み込むことになった。  それから、しばらく月日が経った。  女武道家に、『武浮遊術』の訓練を受けていたラン・ファは、夕飯の買い出しに、 町へ出向いた。ここでも、住み込みには変わりなかったので、家事も手伝わなくては ならない。  まだ十三歳ほどであった彼女だが、道場に住み込んでいた時と、同じような生活で あったため、苦とは感じていないようだ。  町中には、いろいろな露店が並んでいる。野菜や果物を売っている店があれば、 スープの屋台や、ちょっとした食べ物の店も、乱雑に並んでいた。  その雑踏の中で、ぴたりと、ラン・ファの足が止まった。  見覚えのある人物を見つけたのだった。  フェイ・ロンであった。  彼は、屋台で買った、肉と魚の入ったスープを、通りから離れた石段に、腰かけて、 啜っていた。 「フェイ・ロン」  ラン・ファが、人混みを抜け、走っていく。  フェイ・ロンは、顔を上げるが、何も喋らない。 「あたしよ、コウ・ラン・ファ……ラン・ファよ。あなたと一緒の道場にいたわ」  フェイ・ロンは、不思議そうに、ラン・ファを見るが、よくは覚えていないようだ った。 「今、おうちで、魔道士の勉強をしているんでしょう? どう? 進んでる? 」  話しかけにくかったはずのフェイ・ロンに対し、ラン・ファは、いい機会だと思っ たのか、石段を上がると、彼の隣に座り、気軽に話しかけていた。 「魔道の勉強って、どんなことするの? 」 「……他の人には、話しちゃいけないって、言われてるから」  まだ声変わりをしていない、少年の声だった。  初めて口をきいたフェイ・ロンを、ラン・ファが嬉しそうに、微笑んで見つめた。  彼の方は、何事もなく、ただスープを啜っている。 「……ずいぶん、辛そうなスープね」  ラン・ファは、フェイ・ロンの手元を覗き込んだ。  赤い香辛料の粒に、油の浮いた赤いスープ。野菜の切れ端と、肉の破片、魚の身が 少々入っているだけだ。 「いつも道場の帰りは、おなかが空いてたから、このスープを飲んでから、家に帰っ てたんだ」  フェイ・ロンがスープの入った木の器を、差し出した。  食べ物を分け与えるのは、東洋の習慣であったため、特に珍しいことではない。  ラン・ファは、フェイ・ロンの、東洋の人種には珍しい碧い瞳に、一瞬見蕩れた ように見つめてから、器を受け取り、スープを啜ってみる。 「なにこれ! かっらーい! 」  すぐに咳き込み、顔をしかめて、器を返す。 「そう? 」  フェイ・ロンは、平気な顔で、ラン・ファが辛いと思ったスープを啜り続けていた。  気が付くと、彼の隣には、小鳥が降りてきていた。  フェイ・ロンは、膝の上に乗せていた、野菜の詰まった饅頭をちぎると、小鳥に 放った。  小鳥は、それをついばむと、さえずり始めた。  別の小動物、ネズミやネコも、いつの間にかやってきて、彼の横に座ったり、肩の 上によじ登ったりしていた。 「どうして、フェイ・ロンの周りには、いつも動物がたくさん寄ってくるの? 」  ラン・ファは、今まで不思議に思っていたことを、この機会に尋ねる。 「さあ、わからないけど……。動物って、自然に寄ってくるものなんじゃないの? 」 「そんなことないわよ。飼っているんならともかく、野生の動物は、滅多に人には 寄ってこないものよ」 「そうだったのか……」  饅頭を食べ終わった小鳥が、はばたき、フェイ・ロンの頭の上に乗った。  彼は気にもせず、スープを啜る。鳥は、彼の頭上から落ちないようにと、足を踏ん 張っていた。 「そんなに大変なら、頭の上に、乗らなきゃいいのに」  と、ラン・ファが、鳥に向かい、おかしそうに笑った。  スープを飲み終えたフェイ・ロンが、膝の上に飛び乗ってきた、白い毛の長いネコ を抱き上げ、ラン・ファに渡した。 「うわぁ、かわいい! 」  ラン・ファは、ネコを抱きしめた。  ネコは、バタバタと足を動かして暴れたが、フェイ・ロンが、やさしく微笑むと、 自然と、おとなしくなった。  ラン・ファは、この子でも笑うことあるんだ、と少し安心したように、彼を眺めて いた。  その一部始終を、物陰から、見つめていた者がいた。  ティエ・ジエンであった。  彼もフェイ・ロンと同じく魔道の道を選んだが、魔道士の教師たちに「心がよく ない! 」と叱られ、思うように修行が、はかどらないでいた。  むしゃくしゃして歩いている最中に、フェイ・ロンを見つけた彼は、咄嗟に隠れた。  そして、ラン・ファが加わり、彼らが動物たちとたわむれているのを見ているうち に、以前にも増して、激しい嫉妬と憎悪が、その表情に沸き起こったのだった。


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 窓に映った映像は、そこで静止した。  暗闇の部屋に差し込む唯一の月明かりの中で、ダグトが、ヴァルドリューズの方を 向いて、重く口を開いた。 「あの時から、ラン・ファは、貴様に釘付けだった」 「……そんなこと、あったかしら? 言われてみれば、あったようにも思うけど……」  ラン・ファが首を傾げた。  そして、ヴァルドリューズ本人は、そんなことは、まったく覚えがなさそうで あった。  ミュミュは、まだラン・ファの張った球の結界の中で、ふわふわと浮かんでいて、 三人の顔を、それぞれきょろきょろと、見回していた。  ダグトが表情を変えずに言った。 「お前との因縁は、成人し、正規の魔道士となってからも続く」  窓には、魔道士の塔の建物が、映し出された。  そこには、今よりも、二年ほど前のヴァルドリューズがいた。  そして、そこから始まる話は、今のヴァルドリューズの記憶にも新しいことで あった。


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