Book8看板 Dragon Sword Saga8 〜Ⅳ.-3〜
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~ 第8巻『古代の魔法』 ~

剣月青ライン  Ⅳ.『勇気をもって』 妖精青アイコン3 ~ 勇気をもって 2~  剣月青ライン

 窓から差し込む月明かりだけが、部屋を照らす。  隅に立つダグトが、じろりと冷たい目で、戸口に向かい、剣を引きずるミュミュを 見下ろしていた。  その威圧感は、普段とは比較にならないほどだった。  ミュミュは、途端に震え上がり、身動きが出来なくなってしまった。 「羽を取ってしまえば、何も出来まいと思っていたが、この俺の部屋に忍び込み、 このようなことをしていたとは……! 帰る途中、どうも屋敷の様子がおかしいと 思えば……! 」  恐怖のあまり、声も出せないでいるミュミュは、扉を挟んですぐ側にいるラン・ ファを、呼ぶことも出来ないでいた。  ただ、口を開け、ダグトを見つめているばかりだ。 「おのれ、ラン・ファの入れ知恵だな? あの女……! 」  ダグトが、口の中で、歯をきしませた。 「ラン・ファと共謀し、俺を油断させて、ここを出るつもりだったのだろうが、残念 だったな。俺を侮った罰として、ヴァルドリューズを始末する前に、まずは、貴様を 片付けてやる! 」  ダグトの腕が上がり、ミュミュに向けられた。  ミュミュがかたく目を閉じ、ダグトから顔を背けたと同時に、彼のてのひらから、 黒い闇の球が現れた。  球は黒く放電しながら、ミュミュに向かって発射された。  だが、ミュミュには、何も起こらなかった。  まったく何も起こらなかったわけではない。誰かが、ふわりと、自分に触れたのは わかった。  ミュミュが、うっすら瞼を開けてみると、ラン・ファの胸に抱えられていた。 「ふう、間に合ったわ! 」  ラン・ファが額の汗を拭う。  ミュミュを抱えていない方の手には、赤い石の付いた剣が握られている。  まさに、ミュミュが苦労して運んでいた剣そのものだ。 「ダグトの気配がしたから、帰って来たのはわかっていたわ。勘付かれたなら、結界 に触れてももう関係ない。ミュミュちゃんが扉の側まで運んできてくれてたから、間 に合ったのよ。私ひとりで、この部屋に入ったら、いくら、この至近距離でも、剣を 手にする前に、ダグトに勘付かれてしまうところだったわ。あなたの勇気のおかげよ、 ミュミュちゃん! ありがとう! 」  ラン・ファが笑顔で、ミュミュにウィンクした。  ダグトがミュミュに魔法を放つ直前に、部屋に転がり込み、剣をつかむと、ミュ ミュを庇い、ダグトの黒い電光球を弾き飛ばしたのだった。  その際、掠ったせいで、ミュミュを抱えている方の腕には、赤く炎症している部分 があった。 「おねえちゃん、ケガしてるのっ!? 」  ミュミュが驚き、心配そうにラン・ファを見上げた。  ラン・ファはミュミュを安心させるように微笑んでから、ダグトを見据えた。 「首飾りは見つけることは出来なかったけど、こうして、剣さえ戻ってくれば、 今までのようには行かないわよ」  ラン・ファは、ダグトに剣を構えてみせ、挑発するように微笑んでみせた。 「ラン・ファ! お前は、なぜ、俺の気持ちがわからんのだ!? 素直に、俺と暮らす ことを選んでいれば、一生、お前の好きに、生きさせてやったものを……! 」  ダグトの顔には、一層、怒りが浮かぶ。 「いくら言っても、ホントにわからないのね!? 私は、あなたといるだけで、好きに は生きられないのよ。自由になるには、あなたから離れるしかないの。あなたと 戦って、例え、命を落としたとしてもね! 」  ラン・ファは剣を下ろすことなく、剣先をダグトに向けた。 「なぜ、そこまで、俺を拒むのだ!? なぜ、その妖精に微笑むように、この俺には 微笑まぬのだ? 素直に従えば、俺だって、お前をひどい目に合わせることはない のだぞ! 」 「人の心に命令なんて出来ないのよ。私があなたを拒むのは、あなた自身がそう させているの。それがわからない人と一緒にいても、辛いだけだわ」 「これ以上、俺に楯突くというのなら、手加減はしないぞ! 」 「そんなの、覚悟の上だわ」  忌々しそうにラン・ファを睨んだダグトは、両手を持ち上げ、呪文を唱え始めた。  首飾りで魔法能力の向上したラン・ファであれば、上級魔道士と対等に渡り合えた だろう。  そのことは、ラン・ファ自身も、よくわかっていた。  魔力増強首飾りを取り戻せなかった彼女は、覚悟を決めていた。  倒すことは出来ないかも知れない。  ならば、せめて、ミュミュだけでも逃がさなくては、と決心していることは、彼女 の瞳を見れば、明らかだった。 「やめてーっ! 」  突然、ミュミュが泣き叫んだ。  涙がぽろぽろと、頬に流れ、ダグトを強く見据えている。 「おじちゃんは、ラン・ファおねえちゃんのこと、好きなんじゃないの? 好きなの に、なんで、ひどいこと出来るの!? 」  ダグトの瞳が、ピクッと、ひそめられた。  小さな妖精の、涙に濡れた顔をも、忌々しげに睨む。 「小娘、貴様の知ったことか! 」  ミュミュを自分の肩の上に乗せたラン・ファは、ダグトの放つ、更に巨大な電撃球 を、剣を両手に持ち変え、払い飛ばした。  かなりの衝撃であったが、僅かに顔を歪めただけで、すぐに剣を構え直した彼女は、 ダグトから、視線を反らさずに言った。 「ミュミュちゃん、こいつは、私のこと、本当に好きなんじゃないの。こいつが好き なのは、自分よ。自分の力を見せつけて、誇示して、ただ満足していたいだけ。 そんな人が、人を愛せると思う? 自分のことも、よくわかってはいない。人のこと もわからない。自分のことだけを必死に守って、誰のことも愛せない、悲しいヤツ なのよ」  ラン・ファの言葉に、ダグトの目が、なおも吊り上がっていく。  顔は上気し、怒りが心頭に達しているのは、一目でわかる。  拳をわなわなと震わせ、憎悪に燃えた瞳を、ラン・ファにぶつけた。 「黙れ! 俺を侮辱することは許さん! ラン・ファ、例え、お前であろうとな! 」  部屋の中で、ダグトの周りにだけ、風が起きた。  風はすぐに勢いを増していき、勢いよく窓を押し開け、部屋の中を吹き荒れた。  ラン・ファもミュミュも、ダグトのパワーを、びりびりと、全身に感じていた。  巨大な魔力を解き放とうとするダグトにも、ラン・ファは、片方の手をつき出し、 ミュミュを抱く自分の周りに、結界を張った。  暴風は、部屋中のものを吹き飛ばして行った。  窓は割れ、水晶球も床に落ちて割れる。  部屋の外に蠢くモンスターたちまでが、風で飛んで行った。 「無駄なことだ。ここは、俺の部屋。もともと、俺の結界の中なのだ。首飾りのない お前如きが、結界を張ったところで、何の意味もない」  ラン・ファの体が、風に押され、後退していく。  一層、結界に力をそそぐが、それでも、風に押されるばかりであった。 「どうした? 減らず口さえも、きけなくなってきたか? 俺を侮辱した罰だ。 それを償うには、高い代償を払ってもらうぞ! 」  にやりと笑ったダグトの目が、引き締まると、腕を振り上げた。  その途端、暴風はラン・ファ目がけ、叩き付けるように吹いたのだった。 「ああっ! 」  ラン・ファの結界は通じず、剣で振り払うことも出来ずに、ラン・ファの身体は、 部屋の外まで吹き飛ばされた。  さびれた回廊の壁に、容赦なく、彼女の身体が叩き付けられるーー!   ラン・ファは、瞬時に、ミュミュだけを結界で包んだ。  叩き付けられる衝撃に、ミュミュは、おそらく耐えられないと思い、反射的に、 そうしたのだった。小さく張った結界ならば、大きな結界よりも防御力を強化する ことが出来る。  シャボン玉のような結界にくるまれたミュミュは、暴風の中でも、ふわりと浮く ことが出来た。  自分の結界を解いたラン・ファが、じきに壁に激突することは、目に見えていた。  ダグトは、その様子を、悦に入ったように、目を細めて眺めていた。  いくら、鍛えていた彼女の身体であっても、その衝撃には、無事では済まされない であろうことは、ミュミュでもわかる。 「おねえちゃん! よけてー! 」  ミュミュが、泣き叫んだ  ラン・ファは、剣で向かい風を遮(さえぎ)るのが精一杯だ。身体は、高速で、壁に 向かう。  次の瞬間、ダグトの目が見開かれた。  彼女が壁に激突する前に、壁が、ガラガラと崩れ落ちたのだった。  ラン・ファは、自分の身体が、しっかりと抱きとめられたのを感じ、目を開いた。  壁が崩れたところから現れた人物が、彼女を抱きとめていた。  ラン・ファの瞳は、その人物を目にした途端、大きく見開かれた。  肩まで伸びた黒い髪、浅黒い肌に、整った顔立ち、黒いマント姿ーー彼女の記憶、 そのままの男であった。  男も、彼女を見て、驚きを隠せなかった。  普段のように、表情には現れにくいまでも、僅かに動揺した様子が、切れ長の、 碧い瞳に浮かぶ。 「……まさか、こんなところで……! 」  思わず、男の口から、そんな言葉が洩れた。  それまで、ラン・ファの中で、張りつめていたものが、一気に弾き飛んだ。 「フェイ・ロン……! 」  東洋の発音だった。  黒曜石の瞳が潤むと、ラン・ファは、男の胸にしがみつき、思わず顔をうずめた。  腕の中の彼女を、男は見つめていた。 「どうして、俺の後を、ついて来られた? 」  ダグトが冷淡な表情で、問う。  表情とは裏腹に、瞳は、憤っている。 「同じヘマはしない。それだけだ」  男は冷静に返した。 「ヴァルのおにいちゃん! 」  結界の中のミュミュが、泣きながら、ぷわぷわと浮かび、近付いた。 「ミュミュ……! 無事だったか? 」  結界を引き寄せるように、てのひらに乗せて初めて、男はーーヴァルドリューズは、 ハッとした。  ミュミュの背に生えていたはずの、二対の羽が、なかったことに。  ミュミュの身体には、包帯が巻かれていた。  状況を察した彼の瞳には、これまで見せることのなかった怒りが、徐々に現れて いった。  ヴァルドリューズの、ラン・ファを抱く腕に、力がこもった。 「ダグト、やはり、貴様には、手加減は無用のようだ」  その何の感情もこもっていないような口調に、ラン・ファが顔を上げる。  明らかに、彼のいつもの口調であって、そうでない。  それは、ラン・ファだけではなく、ミュミュにも、ダグトにも、伝わっていた。


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