Book8看板 Dragon Sword Saga8 〜Ⅳ.-2〜
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~ 第8巻『古代の魔法』 ~

剣月青ライン  Ⅳ.『勇気をもって』 妖精青アイコン2 ~ 勇気をもって ~  剣月青ライン

 ダグトの部屋の前につくと、ミュミュが、鍵穴から、中の様子を覗く。 「おねえちゃんの言う通り、あったよ! 剣も首飾りも、別々のところに置いてある よ! 」  はしゃぐようなミュミュの声に、頷き、ラン・ファはミュミュをてのひらに移らせ、 鍵穴の高さまで持ち上げると、調理場から持ってきた細い棒をミュミュに渡す。  ミュミュは棒を抱え込んで、鍵穴に差し込み、ガチャガチャと動かした。  その間に、ラン・ファは、もう一方のてのひらを、ドアや壁に向けてみる。  やはり、ダグトの結界が張られている気配がある。  そのうち、カチャッと小さく音がする。  ラン・ファが棒を受け取ると、結界の関係ないミュミュが、ノブを掴み、回した。  ギー……  扉が軋みながら、開いていく。 「……案の定、中も結界だらけね」  部屋に入る前に、手を翳してみたラン・ファが、面白くなさそうに笑う。 「ミュミュ、行ってくるよ」  ミュミュがぴょんと床に飛び降りると、とっとっとっと走っていく。  妖精に結界は関係ないというのは本当らしく、ダグトが勘付いて、戻って来る気配 はない。  ラン・ファは祈るような気持ちで、ミュミュを見守っていた。  宝石箱は、椅子の上に、無造作に置いてある。  以前と違うのは、箱に鍵がかけられていることだった。 (本当に、あの首飾りが入っているのかしら? あの宝石箱は、壊れていたはず。 直したのかも知れないけど、ダグトのことだから、ダミーってことも……)  ラン・ファは、ミュミュを呼び止めた。他に、それらしいものがないかどうか尋ね る。  ミュミュもいやな予感がしたらしく、その箱には触れずに、他を当たってみた。  散々探した後、ふと、水晶球の下敷きになっているビロードの布が、台の脚まで 覆っているのを見付け、ぺらっとめくってみる。  すると、壊れた宝石箱から、はみ出ている青い石の首飾りが見えた。 「おねえちゃん、あったよ! 」  ミュミュが、小声で、はっきりと告げる。 「良かったわ。それじゃ、ミュミュちゃん、お願い」 「うん」  ミュミュが、そうっと箱に手を伸ばす。はみ出している首飾りを取り出そうと、 ふたを開けようとする。 「あれっ? 開かないよ」  ミュミュが焦って、首飾りを無理矢理引っ張るが、一向に、抜ける様子はない。 「ミュミュちゃん、もしかしたら、それもダミーかも知れないわ。剣の方はどう? 」  諦めたミュミュは、壁に立て掛けている赤い宝石付きの剣に、走り寄った。  細工の美しいロング・ソードによじ登っていき、てっぺんまで行くと、重心を かけて、剣を床に倒す。  鞘についた紐を引っ張るが、ミュミュには、重過ぎるせいで、なかなか進まない。 「う~ん、う~ん……! 」  ミュミュは精一杯、剣を引き摺る。ほんの少しだけ、剣は出口に向かった。 「ミュミュちゃん、頑張って! 」  ラン・ファに勇気づけられたミュミュが、紐を小さな肩にかつぎ、必死に引き 摺っていった。


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 別次元の密林で起きている魔道士たちの戦いは、未だ続いていた。  被害が及びそうな範囲にいた動物たちを、吟遊詩人が密かに連れ出し、安全な場所 へ避難させるのは終わっていた。  ダグトは、ちらりと、地上に目を向けると、すぐにヴァルドリューズを見直す。 (ふん。やはり、あの女男も一緒か。というと、白いゴーレムを呼び出しても、 またあの若造に食い止められてしまう。白のゴーレムがだめなら、他のものを……! )  ヴァルドリューズの放つ、銀色の電光を、間一髪で躱したダグトは、細い目を、 更に細めた。 (あのやかましい妖精とラン・ファを、見せしめに連れてくるか。古代のものを呼び 出し、ヴァルドリューズの足を止め、女男がそれを解除する一瞬の間でも、充分間に 合う。まずは、女男を殺し、ゴーレムを召喚してヴァルドリューズの力を封じ、その 目の前で、あの妖精のヤツをいたぶってやろう。死んでしまっても構わん。次に、 ラン・ファだ。ヤツの目の前で、俺のものにしてやる。その後で、ヤツをゆっくり いたぶって、あの世へ送ってやろう! )  ダグトの杖を、ヴァルドリューズが手の甲で受け止める。  その後、シャッと音を立てて、ヴァルドリューズの指が、ダグトの頬を掠めた。  慌てて距離を取ったダグトが、頬に手をやる。ぬるりと、赤い液体が、指を伝った。  ダグトの表情が、怒りへと変わっていく。 「貴様、この俺の顔に、よくも傷をつけやがったな! もう、こんな生温(なまぬる) い戦いはやめだ! 目にもの見せてくれる。覚悟しろ! 」  表情の変わることのないヴァルドリューズに向けて、ダグトが呪文を唱えようと した時、一瞬、ヴァルドリューズの姿が消え、即座に、ダグトの目の前に現れた。 「なっ……! 」  ダグトが、よける間もなかった。  青い透き通った刃を寝かせたような光が、ヴァルドリューズの掌から数本飛び出し、 一瞬で、ダグトの身体を突き抜けていったのだった。 「ぐわっ! 」  ダグトが落下していくが、地面に叩き付けられることなく、ギリギリのところで、 ふわりと風をおこし、起き上がる。 「て、てめえ……、そんな技まで、隠していやがったのか……! 」  ダグトが、青い光の貫いた腹のあたりを、手で押さえ、荒い息をしながら、 その瞳に憎悪を募らせ、ヴァルドリューズを見上げた。  腹を抑えている掌からは、ダメージを回復する光線が出ている。  ヴァルドリューズの表情は、どこも変わりがなく、それが更に一層、ダグトの 怒りに火をそそいだ。  ダグトの姿が消える。  再び現れたのは、吟遊詩人の目の前だった。 「お前から、先に殺してやる。死ね! 」  はっと目を見開いた吟遊詩人に、ダグトは、掌をかざすと同時に、唱えておいた 呪文を放った。  吟遊詩人の身体に、光が集結すると、パアーッと飛び散った。  その跡には、なにも残ってはない。  すべて、一瞬の間に起きたことだった。  ダグトは、吟遊詩人の気配が、まったく消えたのを確認してから、空に浮かんで いるヴァルドリューズ目がけ、呪文を唱えた。  白いゴーレムが、ぼやぼやと現れる。  ヴァルドリューズが、宙から、地上に降り立った。 「バカめ。自ら、やられに来るとはな! 」  ダグトが残忍に笑う。  白いゴーレムは、完全に姿を現すと、ヴァルドリューズに向かっていった。  だが、彼に触れる直前で、ゴーレムの動きが止まる。  前回のように、彼を丸め込むことはしない。 「どうした、白いゴーレムよ。なぜ、そのまま、ヴァルドリューズを押し潰さん? 」  ダグトは、困惑してゴーレムを見る。  何度命令しようと、ゴーレムは、ヴァルドリューズに触れようとはしなかった。 「なるほど。さすがに、効果はあったようだな」  ヴァルドリューズが片方の腕を上げる。その手首には、茶色い紐のようなものが 巻き付いていた。 「なぜだ? なぜ、ゴーレムは、俺の言うことを聞かない!? 」  困惑したまま、ダグトが、ヴァルドリューズを見る。 「これは、あの吟遊詩人の髪の毛で作られたブレスレットだ。これをしていれば、 白いゴーレムは、私には手を出せぬということであった」  ダグトの額に汗が浮かぶ。こめかみには、血管が浮き出ていた。 「あの野郎は、いったい何者なんだ!? 古代魔法に対抗する術(すべ)は、未だに 見つからないにもかかわらず、なぜ、あいつには、ゴーレムは、手を出すことが 出来んのだ!? 」  ダグトが、悔しそうに、足を踏み鳴らした。  ヴァルドリューズは、黙ってそれを見ている。 (こうなったら、切り札どもを、連れてくるしかあるまい……! )  そう考えたダグトは、ヴァルドリューズを一瞥すると、またしても、一瞬で姿を 消した。  ヴァルドリューズも空間に入ったため、そこから姿を消した。 「ふふん、貴様が、この俺に追いつけるものか! この間も、撒いてやったのを、 忘れたか。言っておくが、これは、古代魔法の力ではないぞ。俺の術が、パワー アップしたのだ! 」  背後にぴったりと付いているヴァルドリューズを尻目に、ダグトはスピードを上げ た。  途端に、ヴァルドリューズとの距離が出来ていく。 「はははは! 貴様は、俺には追いつけん! 一生な! 」  ダグトは、物凄い速さで、空間を渡って行き、あっという間に、ヴァルドリューズ の視界から消えてしまった。


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「よいしょ……、よいしょ……! 」  妖精は、必死に、剣を引きずっていた。 「ミュミュちゃん、あと少しよ、頑張って! 」  ラン・ファに励まされながら、僅かに進む。 (羽があったら……! )  ミュミュは剣の鞘の紐を引っ張りながら、何度もそう思った。 (羽があったら、こんなの簡単に持ち上げられるのに……! 空間の中だって、自由 に行き来できる。おねえちゃんのことだって、連れていってあげられる。そうしたら、 みんなのところに戻れるのに……! )  それを思うと、悔しくて、涙がにじむ。  非力な自分にも腹を立て、ミュミュの頬を、悔し涙が伝っていった。  ラン・ファの方も、ミュミュの応援に気を取られてばかりはいられなかった。  先ほどから、不吉な気配が、じわじわと迫っているのだ。  ラン・ファは、宝石を削って混ぜ合わせた七色の粉を、調理室から持ってきた様々 な形の包丁に、さっとふりかけ、あたりの様子を伺っていた。  ぐるるるるるるるるる……!   獣の唸り声のようなものが、近付いてくる。  屋敷の異変を感じ取ったと思われるモンスターたちが、外から侵入してきた様子に、 ラン・ファは勘付いた。  モンスターたちは、その姿を、今、あらわにした。  全身獣毛に覆われた、上半身が人間で、頭と下半身が獣という獣人、コウモリの ような羽を生やした小人のインプ、魔ガラスなどが、暗い回廊に現れた。  モンスターたちは、一斉に、ラン・ファ目がけて、突進していった。  ラン・ファは、東洋的な武道の構えを取ると、片手には長い調理用ナイフを、もう 片方の手には、銀でできた突起の多い肉たたきを握り、手前のモンスターから対抗 していった。  魔法の粉を振りかけたナイフで、魔ガラスを切り裂き、銀の肉たたきをナックル 代わりに、獣人を吹っ飛ばす。  後から後からやってくるモンスターたちを、一度に数体蹴り上げて遠ざけ、その間 に、他のモンスターをばさばさと薙いでいく。  だが、やはり、ただの調理器具は、本物の剣のようにはいかず、いくらもたたない うちに、折れてしまった。  他の器具に取り替えても、同じことだった。  なので、ラン・ファは、丈夫な肉たたきだけを手にし、何も持たない手を、 モンスターたちにかざし、短く呪文を唱えた。  大きな炎の球が、飛び交っているインプや、魔ガラスたちを、勢いよく飲み込む。  モンスターたちは、叫び声を上げながら、次々と消滅していった。 「なるべくなら魔力は使わないでいたかったものだから、これまで使わないで来た けど、首飾りがなくても、これくらいの魔法は使えるのよ。悪く思わないでね」  ラン・ファは、モンスターたちにウィンクすると、次々と、手を休めることなく 呪文を発動させ、近くに来たものには、肉たたきで殴り飛ばしていった。  謎めいた東洋では、魔道士の軍隊もあるという。戦士たちは、そんな魔道士たちに も対抗できるよう、訓練もしていた。ただし、それは、個人の持つ魔法能力次第で あったが。 「おねえちゃん、どうかしたの? 」  部屋の外が騒がしいのを、不審に思ったミュミュが、涙声で問いかけた。 「ちょっとモンスターが出て来ちゃったものだから。だけど、大丈夫! ミュミュ ちゃんは、早く剣を……! 」 「う、うん」  モンスターと聞いて、一気に不安になったミュミュではあったが、なおさら早く、 ラン・ファに剣を渡さなくてはと、必死に肩に担ぎ、足を速めた。  一歩ずつ、一歩ずつ、ラン・ファのいる廊下へと近付いていく。  ミュミュの一歩なので、あまり進んでいるようには見えないのだが。  ようやく、出口に近付いた時、部屋の奥で、風圧が起こった。  ミュミュが驚いて、振り返ると、部屋の隅には、ダグトが立っていた! 


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