Book8看板 Dragon Sword Saga8 〜Ⅲ.-3〜
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~ 第8巻『古代の魔法』 ~

剣月青ライン  Ⅲ.『廃墟のアジト』 妖精青アイコン3 ~ ダグトとラン・ファ ~  剣月青ライン

「なによ、急に入ってきて、なんのつもりよ? 」  ラン・ファは立ち上がり、テーブルの上の削りかけた宝石が見えないよう、さりげ なくハンカチをかけた。  ダグトは、じっと、ラン・ファを見ながら、手にしている高級なドレスと、宝石の 詰まった箱を差し出す。 「そういうものは、いらないって言ってるでしょう? 特に、あなたからは、何も 受け取るわけにはいかないわ」  ラン・ファが、ムッとした顔になる。  ダグトは表情もなくラン・ファを見つめていたが、そのうち、持っていたドレスと 宝石箱を、ベッドの上に放った。 「置いていっても無駄よ。どうせ、私は、あなたからもらったものなんて、一切身に 付けるつもりはないんだから。さ、出て行ってちょうだい。用もないのに、女の部屋 に、いつまでもいるもんじゃないわ」  ラン・ファが冷たくあしらうと、ダグトが彼女の肩を掴んだ。  ラン・ファは、一層冷たい目でダグトを見た。  ダグトの目が、ピクッと怖じ気付いたかに見えたが、ラン・ファの顎を掴み、無理 矢理上に向かせると、強引に口づけた。 「おねえちゃん! 」  ミュミュが心配そうに叫ぶが、すぐに、ダグトがラン・ファを突き放した。  ダグトの唇の端から、僅かに血が流れていた。  ラン・ファは、無言のまま、彼を睨む。 「ラン・ファ、なぜ、そうも俺を拒絶するのだ? こんなにも、心からお前に尽くし ている俺の気持ちが、なぜわからんのだ! 」  ダグトは切れた唇の血を拭おうともせずに、顔を紅潮させた。  ミュミュが怯えた目で、ダグトと、ダグトを睨んだままのラン・ファとを見る。 「この部屋にある調度品も、ドレスも、皆、お前のために手に入れてやったというの に、いつもいつも、いったい何が気に入らんと言うんだ! 」  ダグトが怒鳴り散らした。  だが、彼女の凛とした態度は、変わらなかった。 「勝手に物を押し付けておいて、それが、愛情だと言えるの? 私には、そんな豪華 な物は必要ないって、いつも言ってるでしょう? どんなに、あなたが尽くした気に なろうと、私の気持ちは変わらない。あなたを受け入れることは、どんな状況であれ、 絶対に有り得ないのよ」  その言葉に触発され、ダグトの顔には、ますます怒りが現れる。 「そこまで、俺を拒むのか!? 強気でいられるのも、今のうちだぞ。俺にそんな口を 利いたことを、すぐに後悔させてやる! 」  ダグトが呪文を唱えると、部屋の四隅から、じわじわと黒いものが沸き出していっ た。それらは、人の腕ほどもある、足はないが、節足動物に似た体節(たいふし)を 持つモンスターであった。  黒いモンスターは、一斉に、ラン・ファに襲いかかった。  魔力を増強するネックレスを持たないラン・ファでも、ある程度の防御結界を張る ことは出来るが、下等なモンスターと違い、それらは結界を食い破っていく。  実態が浮かび上がっては消え、いくら弾き飛ばしても、また現れる。  とうとう、ラン・ファの両手両足に絡み付き、彼女の動きを封じ込めた。 「おねえちゃん! 」  ミュミュが叫ぶ。  ダグトは、笑った。 「お前には、『武遊浮術』があるからな、迂闊には、近付けん。だが、そうなって しまえば、さすがのお前でも、自由に動くことはままならんだろう」  ダグトが合図すると、ラン・ファの身体は浮き上がっていき、ベッドに仰向けに、 どさりと落とされた。 「おねえちゃん! おねえちゃん! 」  ミュミュの悲鳴のような声と、ダグトの悦に入った笑い声とが重なった。  ベッドに押さえつけられたラン・ファは必死にもがくが、やはり、魔物を振り切る ことは出来ない。 「どうだ、ラン・ファ? 俺には、敵(かな)うまい? いい加減、諦めて、俺の女に なれ。俺の女になれば、一生、何の不自由もなく、贅沢な暮らしが出来るのだぞ。 どんな奴らがかかってこようが、俺には敵うものか。俺は、最強の魔法を手に入れた のだからな! 」  ダグトはベッドに上がると、ラン・ファの顔を見下ろした。 「最強の魔法……? 」 「そうだ。今の魔法の原点にもなっているという。従って、どんな上級の魔道士で あろうとーー例え、ヴァルドリューズほどの者であろうと、それには、敵わないのだ。 古代魔法を手にした俺だけが、この世で、最強の魔道士なのだ! 」 「古代魔法……! 」  ラン・ファの瞳が、大きく開かれた。 「……そういうことなの。わかったわ。あんたの使う何か特殊な魔法っていうのが」 「わかったところで、お前には、どうしようもない」  ダグトが、ラン・ファの胸に、手をかけた。 「おねえちゃん! おねえちゃんに何するの! やめてー! 」  泣き叫ぶミュミュを、ダグトが一瞥する。  その細い目に睨まれると、ミュミュは、恐怖のあまり、すくんでしまった。  どうすることも出来ずに、テーブルの上から、ハラハラしながら見ているしかない。 「俺と、一生共に暮らせ、ラン・ファ。俺は、この世で、最強の男になったのだ! 」  ダグトが、ラン・ファの襟元を引きちぎり、手首を掴むと、あらわになった健康的 な褐色の肌に、食いつくように乱暴に口づけた。  ミュミュはおろおろしているうちに、次第に、しくしくと泣き出してしまった。  ふと、何も抵抗しなくなったラン・ファを、観念していると思ったダグトは、顔を 上げて確かめた。が、彼の見たものは、彼女の観念した表情ではなく、冷たい、だが、 どこか憐れむようでもある黒い瞳だった。  その彼女の瞳に、ダグトの手は思わず止まった。 「……哀れな人。あなたが、どんなに最強の男になろうと、そんなことでは、私の心 は動かないというのに。例え、強くなくても、人の心を動かせる人っているのよ。 強さだけが人間の価値を決めるのではないわ。私は、相手に強さなんて、求めない。 やさしい心があればいい。それがわからないあなたを、受け入れることなんて、絶対 に、有り得ないのよ」  ラン・ファは、キッと、すぐ真上にあるダグトの顔を見据えてから、続けた。 「私の心を無視した行動を取りたいなら、そうすればいいわ。そうすればするほど、 私は、あなたを軽蔑する。そして、いつか、絶対に殺してやるわ! 」  ラン・ファにのしかかっていたダグトは、彼女の鋭い視線に、一瞬たじろいだ。 「くそっ! どいつもこいつも、俺をバカにしやがって! 」  吐き捨てるようにそう言うと、ラン・ファに背を向け、ふいっと部屋から姿を消し た。  同時に、ラン・ファの手足を押さえつけていたモンスターたちも、ぼわぼわと消え ていったのだった。 「お、おねえちゃーん! 」  ミュミュが泣きながら、ベッドによじ登り、起き上がったラン・ファに飛びついた。 「大丈夫? 大丈夫? なんにも出来なくて、ごめんね! 」 「いいえ、そんなことないわ、私は大丈夫よ。それよりも、ミュミュちゃんには、 怖い思いをさせちゃって、その方が心配だわ」  ラン・ファが、いつものやさしい表情で、ミュミュを撫でる。  ミュミュは、一旦頷くが、慌てて、首を横に振った。 「ミュミュ、全然、こわくなんか、なかったよ! ホントだよ! 」  必死にそう言うミュミュに、ラン・ファが微笑んだ。  ラン・ファはミュミュを撫でると、ベッドから降り、胸まで裂けたドレスのまま、 壁に備え付けてある大きな姿見の前に立った。 「あ~あ、こんなにしちゃって。まったく、あいつは、女の扱いがなってないんだか ら。あんなに乱暴なんじゃ、どんな女も逃げ出しちゃうわよ。それにしても、私の服 は、これ一着しかなかったし、かと言ってあいつのくれたくれたモンなんか着るのは、 まっぴらだし……」  ラン・ファは部屋の中をきょろきょろ見回した。  壁にかけてある大判の布に、目が留まる。東洋風の織物である。  ラン・ファはそれを壁からはずすと、端同士を捻(ねじ)って首の後ろで結び、 ドレスを脱いでから、布を身体全体に巻き付け、腰の横でもう一方の端と端とを 結んだ。 「これで、よし、と」  布の長さもちょうどよく、背の高いラン・ファでも、膝下まで隠れるほどであった。  そうして見ると、それがただの壁かけではなく、そのような服であったかのようだ。  東洋では、大判の布を、そのように、服の上から羽織ることもあった。  ミュミュは口を開けて、ぼうっと見とれていた。 「ミュミュちゃん、悪いけど、宝石を削るのを、手伝ってくれない? 」  ミュミュが、ハッとして、ラン・ファを見直した。 「もうこんなところ、我慢できないわ。なんとか今夜中に、あいつの持って来た宝石 全部を粉にして、『魔除け』を作ったら、ここから脱出するのよ」  ラン・ファの真剣な瞳に、ミュミュも頷いた。


草ライン草ライン

 ダグトは、時空の合間を『光速』で移動していた。  魔道士の塔での出来事があった上、ラン・ファにまで拒絶され、ヴァルドリューズ は、いつまで経っても見つからない。  なにもかもうまく行かないことで、相当にイライラとしていた彼は、どこか小さな 異次元の森でも破壊して、すっきりしようという危険な考えになっていた。  その手頃な場所を探している最中だ。  ふいに、彼の表情が変わる。 「見つけたぞ……! ついに、見つけたぞ! 」  ダグトは方向転換し、スピードを上げる。  彼が地に降り立つと同時に、風圧が起こった。  人間界とは明らかに違う、巨大な木々ばかりが茂る、密林であった。  泥のような沼があり、大型の爬虫類系動物が、這いずっていた。  辺りを見渡していたダグトが、再び『光速』で飛ぶ。  密林が少し開け、小さな沼がいくつもある。  そこに立つ、ひとりの黒いマント姿を見つめるダグトの表情が、薄笑いへと変わっ ていく。 「とうとう見つけたぞ、ヴァルドリューズ。手こずらせやがって! 」  ヴァルドリューズは、普段のような表情を現していない顔で、ダグトを見る。 「今は、あの女男は一緒ではないらしいな。お前に、あんな仲間がいたとは、俺も 知らなかったぜ」 「ダグト、ここでは、ここの生物に迷惑がかかる。場所を移そう」  ヴァルドリューズの申し入れに、ダグトは、口の端を上げてみせた。 「その必要はない。すべてなくなれば関係ないだろう? 」  ダグトはヴァルドリューズから目を反らさずに、てのひらを横にかざした。  ひゅうっ……ボワッ!   放たれた炎が、密林を焼き尽くす。  そばにいた爬虫類系生物たちが、慌てて、悲鳴を上げ、逃げ惑った。 「やめろ! 」  ヴァルドリューズが、ダグトの腕を掴む。 「なんだ、最初から、こうすれば良かったのか」  ヴァルドリューズの表情に多少の怒りが現れたのを、ふふんと、満足そうに笑った ダグトは、彼の手を乱暴に振り解くと、威力を増した火の球を、続けざまに放った。  ごおおおお……!   燃え盛る炎。木々や草花が焼け、バチバチと音を立て、煙が舞い上がる。 「ふう、なんとか間に合った! 」  ダグトとヴァルドリューズからは、少し離れたところだった。  吟遊詩人が、まだ被害のない密林の中に現れる。  小動物を腕に抱え、大型の動物たちは、彼の周りに円形に集まっていた。  ダグトの放った火球が落ちるよりも早く駆けつけた彼が、辺りにいた動物たちを、 結界で守って運んだのだ。 「いきなり、なんてことするんだ、あいつは! もう少しで、『この世界』の生態系 がくずれるところだった」  吟遊詩人は動物たちを避難させながら、遠巻きに、二人の魔道士を見ていた。  戦闘は、既に始まっていた。  二人の間には、充分な距離があり、その間を、いくつもの火球や稲妻が飛び交うが、 相手に達することなく消えていく。  二人は宙に浮き、激しく空中でぶつかりあった。  それは、普通の人間の目には、あまりの速さ故に、見ることは出来ない。  それが見える者は、彼らと同じ上級魔道士か、それ以上の実力を持つ者と言えた。  だが、吟遊詩人には見えていた。 「驚いたな。ダグトのヤツも、結構やるじゃないか。あんなに黒魔法の実力があるん だったら、なにも古代魔法なんて引っ張り出さなくたって、充分、ヴァルドリューズ とやり合えるだろうに」  ダグトの方は、いつの間にか、魔道士の持つ、宝玉のついた杖(ロッド)を取り出し ていた。  対するヴァルドリューズは何も持たず、ダグトのロッドを素手で防いでいる。  ヴァルドリューズが杖を使っているところは、旅の仲間たちも見たことがない。  激しい空中戦を目で追いながら、吟遊詩人は呟いた。 「杖を持たない主義の魔道士か……。どちらが有利とは言えない。すべては、実力で 決まるのだから」  ダグトは、まだ古代魔法は使っていない。  このような激しい戦いでは、呪文など唱える暇はなかった。  次々とロッドから魔法を発動させるので精一杯である。  ロッドでなら、唱えなくともできる魔法が増えるのだ。  ロッドを持たないヴァルドリューズには、唱えなくとも使える魔法が多いのを、 ダグトは熟知していた。  黒魔法だけでは、自分の方が不利だと思うダグトは、古代魔法を使うチャンスを、 ヴァルドリューズに魔法攻撃をしかけながら、または回避しながら、虎視眈々と狙う。  そして、そのような彼の胸の内は、ヴァルドリューズにもわかっていた。  必ず切り札として、古代魔法を使うだろうが、そうはさせまいと、ダグトの動きを 封じることに専念する。  二つの黒い影は、いつまでも空中で激しくぶつかり合っては弾き飛び、再びぶつか り合うを繰り返す。  その戦況を、腕を組み、じっと見据えている吟遊詩人の瞳も、油断なく光っていた。


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