Book8看板 Dragon Sword Saga8 〜Ⅰ.-3〜
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~ 第8巻『古代の魔法』 ~

剣月青ライン  Ⅰ.『魔道士の塔本部』 妖精青アイコン3 ~ 甦る古代魔法 ~  剣月青ライン 魔法書とロッド

 ヴァルドリューズが、東へと飛ぶ。  あまりの早さに、魔道用語では『光速』と呼ぶ。  だが、いくらも行かないうちに、彼は、進むのをやめなければならなかった。  魔道士の塔から、少し離れた森の上であった。  背後に気配を感じた彼は、振り向きもせずに、口を開いた。 「来たか」  その一言は、背後の人物を言い当てていた。  まさしく、彼の探し求めるダグト本人に違いなかった。 「くっくっく……。まさか、本当に、魔道士の塔まで来るとはな。自分の立場が わかっていないのか、それとも、そんな判断も出来ないほど、動揺してるのか」  ヴァルドリューズは、その声に、ゆっくりと振り向いた。  何の感情も映し出してはいない碧い瞳が、古くからの知人をとらえる。  東洋を思わせる顔立ち、酷薄そうな細い瞳、こけた頬をした、痩せた背の高い男は、 嫌味な笑い方をした。  そのダグトの横には、二人の魔道士がいた。  二人は、警戒しているように、油断なく、ヴァルドリューズを睨んでいる。  彼ら三人は、ヤミ魔道士を取り締まっている最中だと、ヴァルドリューズは推測 した。 「ミュミュは、どうした」  表情を変えることなく、ヴァルドリューズが、ダグトに尋ねる。 「そんなに、あの妖精が大事かね。あんな、なんの役にも立たない、無力な生き物が」  腕を組んだダグトが、ヴァルドリューズを、蔑(さげす)んで笑う。 「私は約束通り、お前との過去の因縁に決着をつけるために、こうして来た。もう ミュミュを人質に取る必要はないだろう。早く自由にしてやれ」  ダグトは、細い目を一層細めた。 「珍しく、感情的になってるじゃねえか。天才魔道士ヴァルドリューズ殿ともあろう お方がよぉ。俺は、正々堂々と、お前と勝負する気はない。お前の苦痛に歪む顔さえ 見られれば、それでいいんだからな」  ダグトは、笑い声を立てた。  ヴァルドリューズは何も言わずに、ダグトを見つめ、僅かに眉が動いた。  傍(はた)から見れば、ヴァルドリューズは冷静そのものであるのだが、昔から彼を よく知るダグトには、彼の心情を、少なくとも、他の人間よりは、感じられていた。  残りの二人は、どうしたものかと、顔を見合わせていたが、ヴァルドリューズを 捕えるには、今がチャンスと目配せをし、呪文を唱え始めた。 「おっと、お前たちは、もう用なしだ」  ダグトの声に、二人は驚いた。 「なぜだ、ダグト! 」 「ヤミ魔道士は捕えよとの上からの命令ではなかったか! 」  ダグトの視線は、冷たく、彼らに注がれる。 「俺が、必ず、ヴァルドリューズを突き出してやる。だから、お前たちは、こいつを 見なかったことにしておけ」 「なにを言うのだ、ダグト。上の命令は、絶対のはずだ。勝手なことは許されぬ。 みすみすヴァルドリューズのような大物を逃したとあれば、お前にも処罰が待って いるのだぞ! 」 「だから、絶対に、こいつを逃がしたりはしないって、言ってんだろ? こっちには、 切り札があるんだからよ。ただ突き出して、罰するだけじゃ面白くねえ。もっとも、 『魔神グルーヌ・ルー』を呼び出せる貴様は、単なる処罰では、済まされないことは、 わかっているが」  ダグトの、ヴァルドリューズを見つめる瞳が、ぎらっと光る。 「ついてこい、ヴァルドリューズ。長年に渡る貴様への恨み、一気に、はらしてやる」  ヴァルドリューズの碧い瞳も、鋭くダグトに向く。 「お前には、特に恨みはなかったが、ミュミュを巻き込んでしまったことは、私にも 責任はある。ミュミュの様子によっては、手加減はしない」  ダグトが、忌々しいそうに言った。 「俺に恨みはないだと? 手加減はしないだと? お前は、ああまでした俺のことを、 恨みもしなければ、本当の実力を見せたことはないとも言うのか? てめえ、どこ までも、俺をバカにしやがって……! いいだろう、貴様のその思い上がりを、なし 崩してやるぜ! 」  ダグトの姿は瞬時に消えた。  後を追うヴァルドリューズも消える。  取り残された魔道士たちは、どうすることもできず、しばらく二人の消えた後を 見つめていた。


空間

 ヘイドの言っていた通り、ダグトの影は、東の方向へ向かっていた。  その後に、ヴァルドリューズが、ぴったりとついていく。 「この辺がいいだろう」  ダグトが突然止まった。  ヴァルドリューズも止まると、そこは、まだ空間の中であり、景色は奇妙な色合い を見せたままである。 「ここが、どうかしたのか、ダグト。お前のアジトではないはず」 「まあ、そう慌てるなよ」  ダグトは腕を組み、ヴァルドリューズから視線を反らすと、遠くを見つめた。 「魔道ってのは、いったい、誰がどうやって編み出し、何を目的としたのか、お前は 考えたことがあるか? 」  ヴァルドリューズの返事などは待たずに、ダグトは続けた。 「俺は魔道士になり、お前の後を追うようにしてきた。その時、ふと考えた。一番 始めに考えついたやつのことを。もしかしたら、思い付いたのは、人間ではなく、 別の種族から教わったのかも知れない……とかな。最近になって知ったんだが、 魔道士の塔本部には、魔道の礎(いしずえ)とも思われるものが、ずっと保管されて いたんだ。魔道士の塔は、所属している魔道士にさえ、秘密にしておく事柄が多いの は、お前も知っているだろう。上層部の人間ばかりが、情報を独り占めしてやがるん だ」  ダグトは、ちらっとヴァルドリューズに目をやるが、反応がないのがわかると、 面白くなさそうに、口の中で舌打ちした。 「俺は、そんな面白そうな情報を、秘密にしてるなんて、もったいない話だと思った。 俺たちの、日頃、何の意識もせずに使っている魔法の原点とも言えるものが、発見 されてるんだぜ。せめて、本部の人間にだけは、それを公表する義務があるんじゃ ねえか? オイシイとこは、上が独り占めだぜ。それじゃあ、俺たちが、いくら上級 ランクになろうが、差がつくじゃねえか」 「それが、『使えるもの』であるとわかれば、公表するだろう。上層部では、まだ 対処の仕方がわからぬだけだろう」  平静なヴァルドリューズに、ダグトは、ますます面白くなさそうに、顔を歪めた。 「お前は、ベーシル・ヘイドに可愛がられてたから、上層部贔屓なんだろうけどよ、 あいつらだって、何を考えてるか、わかりゃしない。それこそ、『そいつ』を使って、 世界を制するつもりかも知れない。そうなりゃ、いつまでたっても、俺たちの時代 なんて、来るわけがねえ。だから、俺は、こっそり手に入れてやったのさ。『そいつ』 の一部をな」  ダグトが、にやっと笑った瞬間だった。  ハッと、ヴァルドリューズが顔色を変えて飛び退き、ダグトと、大きく距離を取る。  ぼわぁっ!   二人の間の空気が揺れた。  ヴァルドリューズには、何も見えなかった。  ただ透明な影が、すぐそこに現れ、それに呑まれると危険な気がしたのだ。 「さすがに、勘がいいな」  くっくっくと、ダグトが笑う。  彼の手には、いつの間にか、宝玉のついた木の杖が握られている。 「ダグト、何を……! 」  ヴァルドリューズが、見上げる。  ダグトは、にやにやしながら答えた。 「どうやら、貴様ですら、まだ知らなかったようだな。古代魔法の威力を」 「古代魔法……!? 」  ヴァルドリューズの頭の中に、ベーシル・ヘイドの言葉が甦る。 「まさか、ダグト……! 」  僅かに困惑した様子のヴァルドリューズを見て、ダグトは、満足気に笑う。 「眠らせたままでは、宝の持ち腐れだから、この俺が、甦らせてやるのさ。究極の 魔法をな! 」  ダグトは杖を大きく振るい、何かの呪文を唱えた。  ヴァルドリューズの知らない呪文だ。  突如、杖から、透明の何かが噴き出した。  それは、次第に巨大なヒトのような形を作っていく。 (これは、まさか……ゴーレム!? )  ヴァルドリューズが、さっとてのひらをかざし、結界を張るが、その巨大な透明の ゴーレムは、結界に触れても、何も感じなかったらしく、彼の身体を一瞬で覆い尽く したのだった。 (呪文が効かない!? )  透明のゴーレムは、ヴァルドリューズの全身を覆うと、真っ白に染まり、彼の姿は、 外からは、まったく見えなくなった。 「ふはははは! どうやら、お前の力を持ってしても、古代魔法には及ばないらしい。 もっとも、現在の魔法とは、原理も異なるらしいから、対抗できるはずもないのだが」  ダグトは腕を組み、悦に入った様子で、白い巨大な人形の、丸まって、びくとも しない背を、見下ろした。 「さて、お前の探していた妖精だがーー」  ダグトは、懐に、手を入れた。  ちょうど、てのひらに乗るくらいの、羽を生やした小さな人間のような少女が、 周りを薄い膜ででも出来たような球の形に覆われ、ふわふわと浮かび上がった。 「ここにいるが、その様子では、見て確かめることも出来まい」  おかしそうにダグトが笑う横では、球の中の妖精は、びくびくした態度で、その 光景を見た。 「ふん。恐ろしくて、声も出ないか。あれが、お前を助けに来た魔道士のなれの果て だ。まったく口ほどにもない奴だ」  ダグトが笑うのが聞こえると、妖精は、固まっている白いものを、じっと見つめた。 「……お兄ちゃん? 」  怯えながら、声をかける。 「ミュミュ、……ミュミュか? ……無事か? 」  白い塊から聞こえたのは、確かに、妖精の聞き慣れた声である。 「お兄ちゃん? ヴァルのお兄ちゃんなの!? ミュミュを助けに来てくれたの?  お兄ちゃーん、お兄ちゃーん! 」  だが、必死に抜け出そうとするヴァルドリューズの意志に反して、白い個体は、 ますます彼の身体をしめつけた。 「どうしたの? お兄ちゃんなら、そんな石の人形なんか、やっつけられるでしょ う? どうしたの? 」 「はっはっはっ、チビ、あれは、ただの魔物などではないのだ。魔道士の使う魔法 などは、まったく効かないのだ」  ミュミュは驚いて飛び上がると、自分を包んでいる球の膜を破ろうと、懸命に手で 押すが、膜は破れそうもない。 「お兄ちゃん、大丈夫? 大丈夫? 頑張って! なんとか、ゴーレムをやっつけ て! 」  ヴァルドリューズを必死に励ますミュミュだが、ダグトの言う通り、彼がいくら 呪文を唱えようが、発動した魔法は、まるで、すべてゴーレムの身体に吸収されて いくように、効果はなかったのだった。 「貴様は、もうおしまいだ。残念だったな、ヴァルドリューズ。だが、せめて、もう 少しだけ、寿命は与えてやる。貴様が苦しみ、俺に呪いの言葉を吐きながら、どう することも出来ずに、みっともなく死んでいくのを、たっぷり観賞させてもらうと しよう」  そのダグトに対し、ミュミュが、球の中で飛び上がった。 「なんてこと言うの!? ヴァルのお兄ちゃんと、勝負するんじゃなかったの?  ずるいよー! ちゃんと魔法で、対決しなよー! そうしたら、ヴァルのお兄ちゃん が、あんたなんかに負けるわけないんだからねっ! 」 「やかましい妖精だ」  ダグトは、面倒臭そうにそう言うと、ミュミュの入った球を、一撫でするような 仕草をした。  途端に、ミュミュの音声だけが途絶え、口をパクパクさせて、膜を叩いているだけ となった。  ダグトの声が、かろうじて耳に届いていたヴァルドリューズは、もがきながら、 呻くように言った。 「ミュミュを……ミュミュを、放して、やれ……! 」  彼をしめつける白い人形ごと、ダグトは冷たい目で見下ろした。 「こんな妖精がどうなろうと、知ったことではないだろう。どうせ、貴様は、死ぬ しかないのだ」  そう呟くと、ダグトは、ミュミュを懐にしまい、杖をもう一振りした。  白い塊ごと、ヴァルドリューズの姿は、あえなく、そこから、ふっと消えた。 「ざまあ見ろ、ヴァルドリューズ! 」  勝ち誇ったようなダグトの笑い声は、いつまでも、空間の中に、響いていた。


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