Book8看板 Dragon Sword Saga8 〜Ⅰ.-2〜
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~ 第8巻『古代の魔法』 ~

剣月青ライン  Ⅰ.『魔道士の塔本部』 妖精青アイコン2 ~ 魔道士ヘイドの話 ~  剣月青ライン 魔法書とロッド

「記述によれば、一〇〇〇年前の神族と魔族の戦いによって、破れた闇の帝王 『ダーク・デスター』が、一〇〇〇年の時を経て復活すると、魔族の間に言い伝えら れている。そして、モンスターの増殖は、『ダーク・デスター』の復活が近いことを 示す、と」  それは、ヴァルドリューズが魔道士の塔本部に勤めていた当時、上層部と、一握り の魔道士にしか知らされていないことであった。ヴァルドリューズも、そのひとり である。  そして、彼は、それを、ベアトリクスの伝説の大魔道士からも、告げられていた。 「予言に出て来る『七つの星』や『黒い盾』『金色の竜』などのキーワードは、未だ 解明されてはおらぬ。上層部では担当グループが、日々研究に当たっているが、限界 も感じて来ている。そこで、世界に散らばる大魔道士たちとコンタクトを取り、研究 に協力を求めようということにもなった。だが、ほとんどの大魔道士は伝説上の者で あり、実際には、ごく僅かしか存在しない。そこで、お前に、その辺りのことを、 尋ねてみたかったのだ」  ヘイドは、険しい視線を、ヴァルドリューズに向けた。確信を持った目であった。  ヴァルドリューズは、ゆっくりとまばたきをしてから、口を開いた。 「私が出会ったことのある大魔道士は、二人。ひとりは『蒼い大魔道士』ビシャム・ アジズ。もうひとりは……、ベアトリクス王国元宮廷魔道士、『黒い大魔道士』と 呼ばれるゴールダヌス殿です」  ヘイドの青い瞳は見開かれ、唇が開くが、声は出ない。  しばらくして、絞り出すような声が漏れた。 「……あの伝説の大魔道士たちに、出会ったというのか! ヴァルドリューズ」  驚愕に見開かれた(とは言うものの、普通の人間の驚愕した時ほどではなかったが) ヘイドの瞳を、ヴァルドリューズの碧眼は、平然と受け止めた。 「……信じられぬ……! あのお二方に出会うとは……! 」  ヘイドは我に返って、改めてヴァルドリューズを見直した。 「しかも、お前は、ここに、こうして無事でいる。大魔道士ーー特に、蒼い大魔道士 に出会って、無事でいたものなど、魔道士の塔始まって以来かも知れぬ」 「そうだろうか? 」 「何を言うか。蒼い大魔道士と出会い、正規の魔道士のままでいられた者など、存在 しない。皆、彼の魔道に見入られ、魔道士の塔から脱し、彼の手先へと寝返った者 のみが、生きることを許されているのだ。ここ魔道士の塔本部でも、何人の重要な 魔道士たちが、彼に奪い去られていったことか……! 」  球議から手を放し、少し気持ちを抑えてから、ヘイドは再び質問した。 「もう一方(ひとかた)の、ゴールダヌス殿の目撃情報は、どれも曖昧なものであり、 大半が、彼の名を語った偽物だった。お前は、本物のあのお方にも、出会ったという のだな? 」  ヴァルドリューズが頷く。  その右手の人差し指が、自分の額を指す。 「このカシス・ルビーは、ゴールダヌス殿から頂いたものだ。私の魔力が高まったの も、彼の魔力(ちから)を分けてもらったことが大きい」  ヘイドの表情は、こわばったままであった。 「……魔力を……、大魔道士の魔力を、分けてもらっただと……? 」  ごくんと、ヘイドが唾を飲む。 「……どうりで、もとから高かったお前の魔力が、更に高まったわけだ。……そして、 お前は、ゴールダヌス殿から、何を命じられたのだ? 」  ヴァルドリューズは、静かに答えた。 「ベアトリクスのマリス王女を守り、共に、世界に湧き出たモンスターを、一掃する こと」  ヘイドは、しばらく言葉を発しなかった。  じっと、ヴァルドリューズの表情のない瞳を見据えていたが、やがて、口を開く。 「そうか。それで、お前は、ベアトリクスの出奔した王女と、旅をしていたのか」  ヴァルドリューズの目が注意深く、考え込むように黙ってしまったヘイドに、 注がれた。  それに気が付いたヘイドは、少しだけ表情を和らげた。 「心配するな。これ以上は、そちらの事情に立ち入らぬ。伝説の大魔道士の命令と あらば、私たち一介の魔道士たちは、滅多に踏み込むことはできない。大魔道士 クラスの者の考えていることなと、そう簡単に理解出来るものではないのだから」  ヴァルドリューズの瞳が、多少和む。 (ヴァルドリューズのバックについているのが、ゴールダヌス殿であるとわかれば、 こやつと王女が組み、禁呪をおかしているという噂にも、目をつぶるしかあるまい。 ここで、真相を知ってしまえば、私も、魔道士の塔上層部として、黙っているわけに はいかず、こやつを捕えねばなるまい。だが、大魔道士殿のお考えであれば、魔道士 の塔と言えども、手を出すことは出来ぬ。道理で、こやつの周りには、大きな力が 働いているような気がしたものだ)  ヘイドがそれ以上踏み込んで来ないことがわかると、ヴァルドリューズも、緊張が 解けた。 (お許し下さい、ベーシル・ヘイド殿。いくら上司であり、信頼して来たあなたで あっても、ゴールダヌス殿の計画は、詳しく打ち明けることはできない。ましてや、 魔物の予言の、二つ目の解釈なども……) (本当のことなど、誰にもわかりはしない。大魔道士殿の解釈ですら、曖昧な部分が 多いのだから) (グルーヌ・ルーの力を使って調べたところ、大魔道士殿の計画も、マリスに獣神を 召喚し、無敵の戦闘力を手に入れたところで、彼女とーー正確には獣神と、魔界の王 との一触即発は避けねばならぬのかも知れないのだ)  真実を究明しない限り、やたらに話せば、混乱に陥れるだけだと、彼は思っていた。  事実、彼が、それを打ち明けたのは、ただひとり。  当のマリスではなく、途中から旅に加わった、伝説の剣を持つ戦士ケインだけで あった。  その時のやり取りが、脳裏を駆けめぐる。 『よくそんなこと、簡単に言えるな? 魔道を極めると、人間らしい感情は無くして しまうもんなのか!? お前は、マリスと、少なくとも一年は一緒に旅をしてたっての に、彼女に対して何も情は湧かなかったのか? 彼女は、ただの『サンダガー』を 召喚させる道具で、お前が彼女を護るのは、魔王に対抗するまでなのか? 暴走すれ ば、マリスを斬るなんて淡々と言うし……!』 『サンダガーを守護神に持ったのと、一国の王女だったということが重なったために、 陰謀に巻き込まれ、ややこしい敵に追われることにもなって……結局、マリスは、 自分で自分の身を守るしかないのか……? 』  年齢よりも幼く見えてしまうことを、気に病んでいたケインであったが、遣る瀬な さと、もどかしさが、熱い思いとなって噴き出すその様子からは、幼さは感じられな い。 『ヴァルなら、守ってやれるじゃないか。お前のような上級魔道士ならーーあの蒼い 大魔道士だって、一目置いてるようだったお前の力なら、マリスを守ってやることが 出来るじゃないか』  黒の大魔道士ゴールダヌスと匹敵する力を持つと言われている、蒼い大魔道士 ビシャム・アジズは、マリスの高い魔力と、守護神である獣神に、深く関心を持ち、 彼女の祖国ベアトリクス王国をも、手に入れたがっている。  蒼い大魔道士には、現在の魔道士の中では、敵(かな)う者はいないとされている。  魔道士の中でも、かなりの実力を持つと言われる、ここにいるヴァルドリューズも、 ベーシル・ヘイドでさえも。 『だから、お前が助けてやれ』 『魔道士は剣を持たない。だからこそ、時には、剣が脅威に思えることがある』 『魔道士の力を持ってしても出来なかったことーーすなわち、マスター・ソードを 手にすることが出来たというのに、なぜ、お前は、その剣を使おうとしない? なぜ、 魔石をすぐに探さなかった? お前には、彼らを倒すことが出来るかも知れない。 その威力を、身を以て経験したことのあるお前になら、想像の付くことではないか? 』  そうケインに告げたことは、ヴァルドリューズの本心であった。  ただ、伝説の武器を手にしているから、という安易な理由で、知り合ったばかりの ケインを、簡単に信用したのではなかった。  剣の腕だけでなく、彼が注目したのは、その誠実さであった。  マリスと二人を旅をしている頃、腕っ節を自慢する傭兵が、現れたのを覚えている。  彼女とは恋仲であったにもかかわらず、誠実味に欠けており、いざと言う時は、 真っ先に逃げ出すという始末であった。 『愛情なんて、思ったほど、心をつなぎ止めてはいないものね』  そうマリスが投げやりに言ったこともあったが、彼は、それは的確ではない、 と思った。  『愛情』が、ということではなく、逃げ出した彼自身と、厳しい精神修行から逃げ 出したかったマリス自身にも、問題があったのだと、彼だけは見抜いていた。  その後に知り合ったケイン、カイル、クレア、妖精のミュミュとの旅は、楽しく、 充実していたせいか、マリスも逃げることはなく、またヴァルドリューズの気持ちも、 彼らによって、徐々に解きほぐれていることも事実であった。 『ある剣士の青年とも出会うだろう。その青年が、私たちの運命に、大いに力を貸し てくれることだろう』  魔神グルーヌ・ルーは、そう予言した。  剣の中の剣と言われている、北方の巨人族の持つ大剣バスター・ブレードと、魔力 を司る神ジャスティニアスの造ったドラゴン・マスター・ソード。  ヴァルドリューズは初めてケインと会った時に、直感で、この青年だと思った。  彼は、ケインと行動を共にして行くうちに、漠然とではあったが、ケインに対し、 信頼感を抱くようになっていった。 「さて、今日も、お前から、重大な情報をもらった」  長い沈黙の後、ベーシル・ヘイドが口を開く。 「例え、禁呪を犯していようと、やはり、お前のことは、泳がせておくに限る。だが、 ヤミ魔道士狩りに精を出す連中には、いちいち説明してはおられん。魔物の予言の話 すら、知らぬ者ばかりなのだから。話せば、大混乱になり兼ねぬ。悪いが、追手は 自分でなんとかしてもらおう。お前ならば、それくらいは、うまく立ち回ってくれる であろう」  ヘイドは、すまなそうな顔で言った。  ヴァルドリューズも、わかっているというように、無言で頷いた。 「蒼い大魔道士はともかく、ゴールダヌス殿は、今、どのようにしておられる?  少々変わった方だと聞くが……? 」  ヴァルドリューズの表情が陰った。 「……大魔道士殿は、ベアトリクスで、ヤミ魔道士グスタフによって、倒された」 「……なんと……! 」  ヘイドは再び驚愕した。 「大魔道士ほどのお方が、ヤミ魔道士如きに!? 」  ゴールダヌスがマリスとヴァルドリューズに魔力を分け与えたため、彼自身の魔力 が急激に下がり、結界が弱まってしまい、敵に見つかったのだと、ヴァルドリューズ が説明する。  納得しようとするヘイドではあったが、どこか腑に落ちない思いでいる様子だ。 「……それでは、ゴールダヌス殿を探し、お知恵を頂くということは、もう無理で あるのだな。お前と王女が、あのお方に、最後に出会った者であったか」  ヘイドは、なんとも言えない表情で呟いた。  ヴァルドリューズは、ふと思い出したように口を開いた。 「私たちの他に、もうひとり、彼に出会った魔道士がいる。今でも正規の魔道士とし て、健在なはずだ」  ヘイドが顔を上げ、ヴァルドリューズを見つめた。 「伝説の大魔道士に出会った魔道士が、まだ他にもいるというのか? それは、 誰だ? 」  正規の魔道士であれば、答えても差し障りはないと、ヴァルドリューズは判断した。 「ベアトリクス王国王子セルフィスの、側付き宮廷魔道士で、ギルシュという男だ」 「ギルシュ……はて? 名前は、聞いたことがあるような……」 「私と入れ替わりに、魔道士の塔本部に入ったと聞いた」  ヘイドの瞳が開かれた。 「おお、思い出したぞ。彼は、ベアトリクス前国王の側付きであったバルカスに、 引き抜かれて、ベアトリクスの宮廷魔道士となった者であった。確か、出身もベアト リクスであったな。お前とは違い、あまり人目を引かず、目立たなかったので、私も つい忘れておったのだが、……そうか、あやつも、大魔道士殿にお会いしたひとりで あったか」  ヘイドは懐かし気に、目元をほころばせたが、すぐに表情を曇らせた。 「バルカスは、私の同期であり、親友であったが、魔道士の塔にも、顔を出さなくな り、行方が知れなくなってしまった。ベアトリクスでは療養中の国王が、突然、姿を くらませ、その直後に、実妹である今の女王が即位したと聞くが……。バルカスの 失踪も、国王の失踪と関係があると、私は踏んでいるのだが、……いや、ここでは、 関係のない話であったな」  ヘイドは呟いた後で首を横に振ると、ヴァルドリューズを見上げた。 「ベアトリクスでは宮廷魔道士が多く、組織も古くから独自のものがある。宮廷魔道 士の長が、ガグラから若いザビアンに代わってから、あまり魔道士の塔にも報告に 来なくなったので、あちらの状態が、今ひとつ掴めなかったのだが、機会があれば、 ギルシュにも話を聞いてみたいものだ。王子の側付きとなると、彼がこちらに赴くの は難しいであろうな。折りを見て、訪ねてみるとするか」 「できれば、彼とは、あなたご自身が、内密に会って頂きたい」 「わかっておる」  ヘイドが微笑んだ。 「あの国には、魔道士の塔は、深くは干渉しない。何せ、魔道士の塔支部が、独立し ているかのようなものだからな。加えて、城内では陰謀が張りめぐらされている、と いう噂も聞く。魔道士の塔では、そのような厄介事には巻き込まれたくはないのでな。 大魔道士とのコンタクトを図ろうというのも、上層部のみでの話。下の者どもは、 一切知らぬこと。ギルシュに会わねばならぬ時は、私が直接彼のもとへ赴くことに なろう」  その彼の言葉に、ヴァルドリューズは安心した。 「いろいろと、貴重な話を聞かせてもらったな。この間も同様であったが、お前の方 からは、私には、何も尋ねなかった。今度こそは、お前の欲しい情報を、差し障りの ない範囲で、答えよう」  ヴァルドリューズは、もとの表情のない顔に戻ると、静かな声で尋ねた。 「ダグトの行方を、教えて頂けないだろうか? 」 「お前の同僚であった、あの男か」  ヘイドは腕を組み、しばらく何かを考えていた。 「あの男は、謎が多い。本部に、ちゃんと勤務はしているが、よくない噂もある。 お前とも、何かあったのか? 」  ヘイドは、ヴァルドリューズを気遣うように、見上げた。  ヴァルドリューズの表情は、変わらない。 「彼に会うのなら、心してゆくがいい。あやつは、昔から、お前に対抗意識があった だけでなく、……『あるもの』を、手に入れたと思われる。魔道士の塔内でも内密に してきた、ある重要なものが、近頃、紛失したことと、関係しているのではないか、 と上層部では睨んでいるのだが、なかなかその証拠を掴めないでいる。もし、ダグト が、その『あるもの』を手にしてしまったのだとしたら……恐ろしいことになるやも 知れぬぞ」 「それほどに、強大な力なのですか? 」  ヴァルドリューズの問いかけに、ヘイドは首を横に振る。 「わからぬ。だが、今の魔道では、対処のしようがないのだ……! 」  思い詰めた様子のヘイドであったが、気を取り直し、だがまだ重い口調で告げた。 「ダグトのアジトは、『さかさまの森』の近くにあると聞く」 「さかさまの森……? 」 「次元を超えたどこかに、そう呼ばれるところがある。その近くに、彼の隠れ家が あると言うが、謝って、その森に足を踏み入れてしまえば、二度と抜け出すことは 出来ない。ダグト自身は、なぜだか行き来が可能だが、特殊なアイテムでも持って いるのかも知れぬ。そのような危険を冒(おか)さずとも、次の彼の出勤日は三日後だ。 その時に会えるよう、私が、こっそり取りはからっても良い」  ヴァルドリューズは首を振った。 「せっかくのお言葉だが、三日も待っている余裕は、私にはないのです。直接、奴の アジトへ向かう。『さかさまの森』の方向を教えてもらいたい」 「大いに危険だぞ。それでも、行くというのか? 」  慎重に頷くヴァルドリューズを、ヘイドは、じっと見つめ、窓の外を向いた。 「どうやら、お前の決心は固いようだ。『さかさまの森』は、ここから、東の方向へ 二つばかりを町を越え、森林地帯から、空間に入ると近い。そこからは、勘で行くの だ。気を付けるのだぞ」 「かたじけない。それでは、これで、失礼する」  簡単な挨拶の後、ヴァルドリューズは、室内から姿を消した。 「なんとまあ、素っ気ない奴よ。その辺は、変わらなんな」  誰もいなくなってしまった部屋で、ヘイドは苦笑した。 「しかし、奴は、以前とは、どこか変わったようだ。昔は、職務に忠実ではあったが、 意志というものは、あまり感じられなかった。若いくせに、妙に冷めた奴だと思って いたが、……今の様子では、大分、人間らしい感情が出て来たようだ。それなりの、 熱いものが感じられるわ」  ヘイドは、窓の外を見ながら、独り言を言い、微笑んだ。


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