Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅶ.-3〜
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~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅶ.『消えたバスター・ブレード』 妖精青アイコン3 ~ バスター・ブレードの行方 ~  剣月青ライン チュイルの村

 ところ変わって、ある小さな村の一角。  田園風景に囲まれた木造の家の中では、ひとりの背の高い、精悍な顔つきの男が、 木彫りの置き物を手に、ナイフで仕上げているところだ。  年の頃は、四〇過ぎ。  黒い髪を後ろで束ね、ナイフは左手に持っている。  切れ長の、焦げ茶色(ダーク・ブラウン)の瞳は、ナイフの彫る先を、一心に見つめ ていた。 「お邪魔するよ」  ふいに、若い男の声がして、男は手を止め、顔を上げる。  目の前には、見たことのない少年が立っていた。  華奢な中背の、薄茶色の髪に、髪と同じ色の瞳。  男にしては、艶(なまめ)かしさすら感じさせるその少年は、彼には覚えのない者 だった。 「誰だ、貴様は。どうやって、俺の近くへ来られた? 」  男は、鋭い口調を、少年に向けた。  白い薄手の衣に身を包んだ美少年は、感心したような微笑みで、返す。 「その眼光を見る限りでは、現役の頃と、実力は、今も変わっていないんだろうね、 レオン」  レオンと呼ばれた男の瞳が、ぎらっと光る。  少年は気にもせず、語り続けた。 「時間がないんだ、レオン。悪いけど、何も聞かずに、この剣を、受け取ってくれな いか? 」  少年が、右手を、すっと持ち上げると、段平よりも大きく、分厚い剣が、浮かび 上がったのだった。 「そ、その剣は……! 」  レオンの表情が変わる。  置き物を彫る手も、止められた。 「あやうく、マグマに落ちて溶けるところだったんだけど、間一髪で、僕が拾って おいたんだ」  レオンは、わけがわからなそうに、大剣を見つめるばかりだった。 「元々のバスター・ブレードの持ち主、レオン・ランドール。僕は、きみの息子の ケインを見守っている者だ。息子さんには、マスター・ソードをもっと鍛えてもらわ ないと困るんでね。一つしかなければ、おのずとそちらを鍛えることになる。 せっかくだけど、これは、やっぱり、きみが持っていてくれないかなぁ? 」  レオンは、じっと少年を見る。 「だけど、それも一時的なもので、いずれは、返してもらうつもりだよ。ずっと僕が 預かっていると、巨人族が、剣を取り返しに来てしまうかも知れないでしょう?  そうなると、ここが一番、剣の保管場所に、向いてるんじゃないかと思って」  あっさりと、そう言う少年に、レオンは、油断のない瞳で返す。 「貴様、なぜ、そんなことまで知っている? 」  少年は、肩を竦めた。 「僕は別に知らなかったんだけど、マスターから、そう聞いたんだよ」 「なにぃ? マスターだと? 」  レオンは、ますますうさん臭そうに、中性的な少年を、じろじろ見た。 「ああ、そうそう、こっちの手を治しておかないとね」  少年はしゃがむと、レオンの、ナイフを持っていない方の手に向かって、自分の てのひらをかざした。 「……なんのつもりだ」  いくらか、レオンの表情には、動揺が見えていた。  それには取り合わずに、美しい少年は、レオンの持つ木彫りに、視線を移す。 「あーあー、こんなに左手ばっかり器用になっちゃって。まったく、素直に『魔道士 の塔』に行って、右手の病気を治してくれば良かったものを。でも、魔道士じゃ、 高くついちゃうけど、僕が治してあげればタダだからね。やっぱり、きみって、運が いいのかもね」  ケラケラ笑う少年を、レオンは、少々呆れた目で見た。 「バスター・ブレードを作った巨人族は、戦いを好むと聞く。その大剣を預かって いるだけでも、戦いに巻き込まれる可能性はあるかも知れない。ケインに剣を返す までは、きみに死んでもらっては、困るんでね」  『治療』は、既に始まっていた。  レオンは、黙って、そのまま『治療』を受けていた。 「さあ、これで治ったよ。とにかく、時間がないから、僕は、もう行くね」  立ち上がる少年に、レオンが鋭く声をかけた。 「待て。お前は、いったい、何者なんだ? 」 「ただの吟遊詩人だよ」  にっこり笑った美少年が、部屋を出て行く。  その後を、レオンはすぐに追ったが、彼の姿は、もうどこにもなかった。


ゴールド・ドラゴン

エピローグ 「やあ、遅くなって申し訳なかったねぇ。つい、いろいろと用事が重なっちゃった ものだから」  四人の前には、久しぶりに、例の吟遊詩人が現れ、その美しい顔立ちを、暢気に ほころばせていた。 「お前さあ、ケインの味方なんだろう? だったら、もうちょっと早く出て来てやれ よ。魔族に誘拐されて、死にかけちゃうしさ、まったく危ないところだったんだぞ」  カイルが詩人に文句を言った。 「ごめんよ。だけど、なんとかなったでしょう? 僕は、別に、無敵のカミサマって わけじゃないんだから、あんまりそういうことでは、アテにしないでもらいたいんだ けどなぁ」  薄茶色のセミロングの髪を、さらっと指で梳(す)くと、吟遊詩人は、思い出した ように、クレアに微笑んだ。 「きみの活躍は見ていたよ。どうだい? 僕の言った通り、ちゃんと魔法が使えた だろう? きみの白魔法がなければ、皆、助からなかったんだよ。ケインを助けたい 一心だったからこそ、スランプも乗り越えて、あんなにすごい魔法が使えたんだよ」 「私、特にケインのためというよりも、とにかく、ここで私が頑張らなくちゃ、皆が 死んじゃうって思っただけなんだけど……」  微笑みながら、クレアが言った。 「いいや! きみは、ケインのために頑張ったんだ! 自分じゃ、それに気付いちゃ いないだけなんだ! 」  吟遊詩人が、珍しくムキになって、言い聞かせるので、クレアは、あいまいに頷き、 そういうことになってしまった。  それを、訝(いぶか)し気に、ケインたちは見ていた。 「そんなことよりもさあ、早く、俺たちを、元の世界へ、返してくれよ」  カイルが、ぶうぶう言った。 「ああ、そうだったね。ごめん、ごめん」  吟遊詩人は暢気に笑った。  ドラゴンたちが、周りに集まり、名残惜しそうに、人間たちを見送る。  白金のドラゴン王が、ゆっくりと進み出た。 『人族よ、世話になった。感謝している。あなたがたの進む道に、幸多かれと願って いる。ゴールド・ドラゴンの祝福が、いつも、あなたがたの上にあるよう』  王は翼を広げ、羽ばたいた。金色のキラキラとした細かい粒子が、四人に降り注ぐ と、すぐに消えたが、彼らの身も心も、少し浮かんだように感じられた。  ケインたち一行は、深々頭を下げた。 「グピー、グピー! 」  ベビードラゴンが、すぐ近くにまで寄ってきて、ケインに、すがるような目を 向けた。 「ベビー、お別れだな。きみと会えて、楽しかったよ」  ケインは、親のような気持ちで、ベビーの首を撫でた。 『ベビーに、名前を付けてやってくれぬか? 』  ケインが振り向くと、スグリが現れた。 「俺が? 」 『そうだ。我々の名前は、竜族の古語から来ているが、ベビーは、我々の未来。未来 に相応しく、新しい感覚の呼び名はどうかと思う。王とも、そのように話していた』 「ドラゴンの王よ、本当ですか? 」  ケインは、驚いて、王を見る。  王は、ゆっくりと頷いた。  ケインは、ベビーに向き直った。 「俺が、名前を考えてもいいのか、ベビー? 」 『グルルル、ピー! 』  まるで、良いと答えているように、ベビーは一声鳴いた。 「う〜んと、じゃあ……『ブレイヴ』はどうかな? 俺たちの使う西洋語で『勇気』 を意味するんだ」 『なるほど、ブレイヴか。良い名だ』  王もスグリも、他ドラゴンたちも、満足げに頷いた。 「ブレイヴ、きみのことは、そう呼んでもいいか? 」  ベビーは、ケインの言葉を理解したように、羽ばたきながら、『ピー! 』と、 力強く答えた。 『いつか、我々の力が必要になった時は、いつでも呼んでくれ、ドラゴン・マスター よ』 「スグリさん、あなたと一緒に戦えたこと、ずっと忘れません……! 」  瞳を潤ませたケインは、改めて、スグリとブレイヴを見つめた。 『ドラゴン・マスター・ケイン、私も、お前のことは忘れない。また会おう! 』 「さようなら、ブレイヴ! スグリさん、ゴールド・ドラゴンたち! またいつか 会う時まで! 」 『おう! 困った時は、いつでも呼んでくれ! 』 『また会おうぜ! 』  わかり合えるとは思えなかったドラゴンと人間との間には、『友情』や『同士』と いうような絆が、互いに強く感じられていた。  吟遊詩人が、半月形の結界で、自分と四人を包んだ。  ケインが思い切り手を振る。  マリスも、カイル、クレアも、結界ごと浮かび上がっても、手を振り続けていた。 「それじゃあ、行くよ。ひとまず、元の世界へ」  吟遊詩人のその言葉と同時に、ケインたちは、ドラゴンたちの視界から、一瞬で、 姿を消し去った。


空間移動

「……不思議な体験だったな」  時空酔いをしないよう、人間たちは外の景色に背を向け、頭を寄せていた中で、 ケインが呟いた。  マリスが顔を上げ、「そうね」と答えた。  カイルも、クレアも、微笑みながら、頷いた。 「おかげで、俺たち、ちょっと強くなった気がしないか? 」  カイルが、皆を見回し、ウィンクした。 「だよな! 」  ケインが笑った。  マリスも、クレアも、笑った。  さまざまな景色が、瞬時に移り変わっていく外を見ていた吟遊詩人は、ちらっと、 ケインとマリスとを見比べていた。 (今のところ、特に変化はないようだけど、あの溶岩のところで、ちょっと目を離し た隙に起こった白い風ーーあれが、気になる。二人の運命が、変わってなければいい んだけど。……まさか、僕のミスってことで、マスターに怒られたりしないよな? )  そう考え、思わず身震いする。


ラインライン

 結界が解け、四人が辿り着いたのは、もとのハッカイの居酒屋の前であった。 「あれ? 魔石を探しに、妖精の国に向かってたんじゃなかったのか? 」  ケインが、吟遊詩人を見る。 「へえ、なかなか勘がいいねぇ。だけど、そこへ行くには、大事な『鍵』が必要だ ろ? 」  皆は、はっとして、吟遊詩人の端正な顔を見つめた。 「……ミュミュ……そうだミュミュなら、妖精の国の場所を知ってるに違いねえ! 」  カイルが、興奮して言った。 「でしょう? だから、『彼』が、あの妖精を連れて帰ってくるまでは、きみたちは、 なんでもいいから、時間を潰して待っていてくれ。また滑稽なお芝居でもやってみれ ば? 」  美少年は、自分の思い付きが、さも傑作であったとでも言うように、ひとりで、 腹を抱えて大笑いしていた。 「それじゃあ、またね! 」  皆が呆気に取られている中で、唐突に、彼は宙に浮かび、消えてしまった。 「……なんなんだ、あいつ……? なにを、そんなに急いでるんだ? 」  宙を見上げて、ケインが、ぼう然と呟いた。 「まったくもう、人間たちが、余計なことばっかりするから、僕の仕事が増えてしょ うがないじゃないか。忙しいったら、ありゃしない! 」  少々疲れを感じながら、吟遊詩人は、次なる目的地へと、猛スピードで移動したの だった。


暗い森

 そこは、暗い森であった。  地上のどこともつかない、薄気味悪い緑色をしたツタばかりが、痩せた木に、絡み 付いている。  みしり  枯れ枝の地面を踏みしめる、ひとりの男がいた。  真っ赤な地に、派手な黄色い斑点のあるヘビが、木の枝に緩く巻かれたロープの ように、何重にもなって、巻き付いている。  目ばかりが大きく見開かれた、奇妙なトリもいる。  その中を、黒いマントに身を包んだ、その男が、平然と通り抜ける。  ギャア、ギャア!   暗い夜のような空では、不吉なトリの鳴き声が、響き渡っていた。  普通の人間であれば、真っ先に、逃げ出したくなるような黒い森だ。  男は、顔を上げて、空を見つめた。  星はない。  男には、ここがどこであるのか、見当もつかなかった。  自分の目指し、求めていた場所とは、似ても似つかぬところであることには、違い なかったが。 「やっと見つけた。こんなところにいたのかい? 」  不気味な森にふさわしくない、明るい声がし、それは、男の目の前に、ふっと現れ た。宙に浮かんだ格好で。  男は、目の前に現れた美少年には、関心がないのか、眉ひとつ動かさない。  関心がないどころか、驚きもしなかった。 「ごめんよ。今日は、なんだか用事がいっぱいあって、しかも、全部タイミングの 難しいことばかりだったもんだから、ちょっと手間取っちゃってさ。でも、もう用は 全部済んだから、やっと、きみを、目的のところまで送っていけるよ」  男は、碧い切れ長の瞳を、美少年に向け、初めて口を開いた。 「お前が、私をここに連れてきたのだろう。今さら、何を言う」  平坦な落ち着いた声が、浅黒い肌の男の口から流れた。 「だから、おわびに、きちんと送り迎えしてあげるって、言ってるじゃないか」  中性的な顔立ちの美少年ーー例の吟遊詩人が、からかうような茶色の瞳で、東方の 魔道士を眺めた。 「余計なお世話だと、言ったはずだ」  無表情な、こちらも相当な美形である魔道士が、冷たく突っぱねる。 「そう言わないでさぁ。ねえ、怒らないでおくれよ。あの妖精のおちびちゃんを、 助けたいんでしょう? 僕も、是非きみには、彼女を救い出してもらいたいんだから さぁ。そのためには、協力するって、言ってるじゃないか」  馴れ馴れしい吟遊詩人に、魔道士の碧眼が、じろりと向けられる。 「なぜ、お前が、そんなことをする? 」 「僕が今、護ってる人には、是非必要なんだよ、妖精の力が。その護っている人って のは、きみの関係者でもあるんだけどなぁ」  魔道士は、油断のならない目で、美少年を見る。 「いい加減なことを言うな」 「いい加減なんかじゃないよ。きみと一緒に旅をしている人だよ」  吟遊詩人は、にっこり笑った。 「知ってるはずだよ。ドラゴン・マスター・ソードの使い手、ケイン・ランドールを。 ね? ヴァルドリューズ」  魔道士はーーヴァルドリューズは、目の前で微笑む吟遊詩人を名乗る少年を、 黙って見つめていた。  その瞳は、何も語ってはいない。  だが、僅かながらに、細められていたのだった。


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