Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅶ.-2〜
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~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅶ.『消えたバスター・ブレード』 妖精青アイコン2 ~ その後 ~  剣月青ライン 癒しの谷

「別に、コブの他には、悪いところはないみたいだわ。わざわざ『治療』するほどで もないし、このまま寝かせておけば、そのうち、目を覚ますでしょう」  癒しの谷に戻った一行は、泉近くの岩に、ケインを座らせるように寄りかからせた。  てのひらを翳し、診察を終えたクレアは、荷物から出した布に、谷の水を含ませ、 気絶したままのケインの、後頭部を冷やすため、頭に縛り付けた。  マリスは膝を抱えて、ケインの側に座り、彼の寝顔を眺めていた。  ベビードラゴンも、ケインの近くを、うろうろと歩き回り、心配そうに、たびたび 彼の頬を、ぺろぺろ舐めてみたりしている。 「マリスを助けに行っておいて、バスター・ブレードは回収されるわ、落石で気絶 して、逆にマリスに助けられるとは。まったく、頼りになるんだか、ならないんだか、 わかんないヤツだな、ケインは。ま、ケガはコブくらいで、たいしたことなくて、 良かったけどさ」  カイルが、ほっとしたように笑い、ドラゴンたちから分けてもらった木の実を、 かじった。  マリスは、マグマの異世界でのことを、思い出していた。  膝を抱え込んで座り、気恥ずかしさに火照る顔を埋(うず)めた。  本当に良かったのか、まだ多少の後悔のような動揺が続き、鼓動も早いままだった。  カイルや、クレアは、マリスが疲れているのだろうと思い、それほど気にせず、 一件落着とばかりに、寛(くつろ)いでいる。  眠っているケインの胸元が、服の合間から覗く。  均整の取れた、引き締まった筋肉が、垣間見える。  その弾力を、マリスは覚えている。  いけないものでも見てしまったように、慌てて目を反らした。 (……あの胸に抱きしめられていた? さっきも、……ううん、その前に、デモン・ ソルジャーの毒に侵(おか)された、あたしを看病してくれてた時も、エルマの洞窟 でも……もっと前にも、そんなことがあったような……) (なんで、今まで平気だったのかしら。あの童顔に隠されてて、気付かなかった? ) 『あたし、ケインのことを……ただの頼れる人以上に……思っていたみたい』 『そばにいて。あたしを護って』  言ったことのない自分の言ったセリフにも、カーッと赤くなった。 (どうしよう……。実際、セルフィス以外の人を、ちゃんと好きになったことなんて、 今まで……)  だが、側に、誠実な彼がいてくれたことは、自分の中でも、大いに心強かったこと に気付く。  計り知れない実力で護っても、彼女には見返りは求めない、穏やかで誠実な彼の 想いなら、受け入れてもいい、と思った。 (……ケインなら……)  マリスの中に起こった感動は、まだ残っていた。  ふと、ベビードラゴンが首を持ち上げ、一声鳴いた。  ケインが、うっすら、目を開けたのだった。 「おっ? 目を覚ましたか? 」  カイルは、木の実を食べるのを止めずに、ケインを見た。 「良かったわ。たいしたことなくて」  クレアも安心したように、ケインを見るが、マリスは、落ち着かない思いで、彼を 見た。 「あれ? 俺は、いったい……? いてて。なんだ? 」  状況がよくわからない彼は、辺りの景色を見渡し、そこが、癒しの谷であることは、 わかった。  頭の後ろに違和感を覚え、手で探る。 「頭が、なんだかズキズキすると思ったら、うわー、なんだ、このこぶは? いつの 間に? 」  そう言うケインを、隣で、マリスは、目を丸くして見ている。 「おいおい、覚えてないのかよ? 」  カイルが呆れた顔になった。 「えっ、なにを? なあ、マリス、マグマのとこで、一体、何があったんだ? 俺、 なんで、こんなとこに、こぶ出来てんだ? 」  顔をしかめながら、後頭部を気にするケインを見て、マリスは拍子抜けしていた。 「お、覚えてないの? あたしも、よくわかんないけど、なんか、ちょうど、ケイン の頭の後ろに、石が落ちてきたみたいよ。そう言えば、あの吟遊詩人が、後ろに浮か んでたから、彼なら、何が起きたか、見えたんじゃないかと思ったんだけど」 「なにっ!? 吟遊詩人が現れたのか!? 」  即座に反応したのは、カイルだった。 「ええ。だけど、……なんか怒ってるみたいな顔してて、すぐに消えちゃったわ」 「はあ? なんなんだ、あいつは……! 」  ケインは、顔をしかめた。  カイルも続いて、文句を言った。 「早く、俺たちを人間界へ返して欲しいのによ~、また消えたって、どーゆーつもり なんだよ? だったら、なんで、一瞬現れたんだよ? 」 「俺たちを、からかってるのか? 」 「まったく、ふざけんじゃねーよなぁ! 」  カイルとケインが文句を言っていると、別の布を、谷の水でぬらしてきたクレアが、 ケインの頭を縛っていた布と交換した。 「あら? こぶが、もう小さくなってるわね。他に、吐き気とかはない? 」 「いや、特には。そう言えば、頭が痛いのも、おさまってるなぁ」 「随分、治りが早いわね。やっぱり、癒しの谷の水だからかしら? 」  クレアが、新たに、ケインの頭に布を巻いていると、何かを思い出したように、 カイルが手を打った。 「そうだった! 癒しの谷の水を、持ち帰って、売るんだったぜ! 」  カイルが荷物から、空き瓶をいくつか取り出し、呆れるクレアを手伝わせて、 わいわい騒ぎながら、瓶に谷の水を組み入れている。 「ねえ、ちょっと」  マリスが、ケインの服を引っ張り、声をひそめた。 「バスター・ブレードが消えたのは、覚えてる? 」 「ああ、覚えてるよ。いきなり消えて。巨人族が、回収したっぽかったよな」 「じゃあ、……その後のことは……? 」 「え〜っと、ベビーに二人で乗って、……どうしたんだっけ? 」 「覚えてないの? 」 「う〜ん……」  ケインは腕を組み、首を捻った。  思い出せそうにない彼に、マリスは、思い切って、切り出した。 「あたしのこと、……好きだって言ってくれたの、覚えてないの? 」 「えっ、俺が……!? そんなことを……」  ケインは非情に驚き、ポッと頬を染めたと思うと、必死な顔になった。 「ごめん! 王女のきみに、しかも、セルフィス王子のいるきみに、そんな迷惑な こと言うなんて……! ホントにごめん! きっと、マグマの熱さで、どうかしてた んだ! 」 「マグマの……熱さで……? どうかしてた……? 」  ケインは、ますます真剣な表情になった。 「正直に言うけど、今の俺は、マリスに、そんな横恋慕するようなつもりはないから、 安心してくれ。マリスのことは、今まで通り、本当に、心から、仲間だと思ってる から。信じてくれ! 」  マリスは、あんぐり口を開けた。 「周りは、溶岩が冷めて固まった、ごつごつした赤黒い岩ばかり。下では、マグマが ぼこぼこ言ってたし、隣には、ベビードラゴンーーまるで、悪夢のようなシチュエー ション……! そうよね、あんなところで、愛の告白なんか、普通するわけないわよ ね」  考えながら言うマリスの様子から、ケインは、彼女が怒っていないようだと思い、 安心した。 「そうそう! いくらなんでも、マグマをバックに、告白するなんて、考えられない って! 」  かるーく笑うケインに、どこか、引っかかるマリスであったが、続けた。 「じゃあ、……あたしの言ったことも、……覚えてないの? 」 「なにを? 」 「……そばにいて。あたしを、護って………………………………………………とか」  マリスは頬を赤らめ、うつむいた。  恥ずかしさを押し殺し、勇気を出して、言ったつもりだった。  ケインは、ふっと、包み込むような瞳を、マリスに向けた。 「そんなこと、当たり前だろ? 俺がマリスを護るのは」  マリスが顔を上げる。  その頬が、ますます赤く色付いていき、瞳が輝いていく。 「きみを護って、ベアトリクスで待ってる、セルフィス王子に送り届けるのが、俺の 使命なんだからさ。ヴァルにも頼まれたし、俺には、きみを護る義理があるんだから」 「使命……? 義理……? ……ヴァルに頼まれたから……? 」  マリスの微笑みかけた顔は、こわばっていく。 「あたし、この間、直筆の証書を、ベアトリクスの宮廷魔道士ザビアンに、出した でしょ? あれが国で正式に受理されれば、もう王女じゃないんだけど……。だから、 ベアトリクスに帰ることは、考えなくても……」 「いや、それはダメだ。ヴァルだって、言ってた。きみは、いずれベアトリクスに 帰らなくてはならない人間だって。俺だって、マリスは、国に帰ったら陰謀を片付け、 王子と結婚するのが一番いいんだと思う。そのための手伝いなら、何でもするから」  誠実な瞳だった。彼女の知る、彼の、真っ直ぐで、純粋な想いの現れた瞳。  だが、つい先とは、どこかが違う。 『マリスを、ベアトリクスまで、送り届けなきゃいけない立場なのに、……本当に、 それが出来るのか、だんだん自信がなくなってきて。抑えようと思っても、きみを 見るたびに、話をするたびに、想いは強くなるばかりで……』 (……って、言ってることが、違うじゃないの! )  ケインのセリフを思い出すうちに、マリスの目の端が吊り上がり、むかむかが、 こみ上げていく。 「バカッ! もういいっ! 」  怒ったマリスは、すっくと立ち上がると、ズカズカ歩いて行ってしまった。  谷の水を汲んでいたカイル、クレアも、びっくりして、振り返った。 「えっ? なんで? なんで、怒られなきゃなんないの? 俺が、何したっていうん だ? 」  まったくわけがわかっていないケインが、二人を見るが、カイルもクレアも、顔を 見合わせるばかりだった。


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 マリスは、なんとなく解せない思いでいた。  ケインの反応を、ただの照れ隠しだろうかとも考えてみるが、そうとも思えない。  それどころか、目が覚めてからの彼の表情からは、これまでの、彼女への想いを 抑えているような感情は、現れていなかったように見えた。 (少しくらい記憶が飛んじゃったとしても、気持ちまで変わるなんてこと、あるの かしら? ケインたら、ホントに、マグマの熱で、ぼーっとなっちゃっただけなの?  でも、あの時のケインは、一時の感情に、流されてるようには、見えなくて……本気 だったように思えたし……) (バカバカ! 『あたしを護って』なんて、あんなこと言ったの、初めてだったのに。 それだけ、あたしも、ケインならいいと思ったのに……、なんで忘れてるの? )  男というものは、彼女が信用すると、やはり、てのひらを返すように、逃げて行く のか。  ケインが彼らと同じとは思えなかったが。 (結局、あたしって……、よっぽど、男運が悪い……? )  がくっとうなだれるマリスの近くには、ベビードラゴンが、木になっている赤い実 に食いついているところだった。  彼女に気が付いたベビードラゴンは、小首を傾げた。 「わ~ん、ベビー! 」  いたたまれなくなったマリスは、ベビーに抱きついた。 「ピギャー! 」  驚いたベビーは、翼を広げ、バタバタした。 「ベビーは、全部見てたわよね? ケインたら、ひどいわよね? もー、男なんか、 ホントにホントに、信じないんだからーっ! 」


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