Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅵ.-2〜
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~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~

剣月紫ライン Ⅳ.『魔空間』 妖精緑アイコン2 ~ 魔空間での戦い ~ 剣月紫ライン

黒羽ライン
魔空間
黒羽ライン
黄金クロス

『もう少しというところで……! 小娘、余計なことを! 』  半透明から、姿をまったく消してしまったダーク・ドラゴンの竜巻から、抜け出せ たリリドの青白い姿が、マリスとケインの正面に浮かんだ。  白髪の混じった青いだらしない髪で、顔半分を覆い隠した、死人のような顔では、 赤い唇が、人間の血液をしたたらせ、光っている。  その中に覗く緑色の舌は、バスター・ブレードによって損傷したが、まだ短い舌が 残っていて、それが生き物のように、赤い液体に染まりながら、唇の上を這っていっ た。 「やっぱり、あんたの舌が、ケインの心臓を掴んで、あちこちから、血を吸ったの ね? 」  頭のふらつくケインに肩を貸したマリスが、リリドを見据える。 「あんただけは……あんただけは、絶対、許さないわ! 覚悟しなさいよ! 」  マリスが、右手に持ったバスター・ブレードを、リリドに向けた。  いつもの大胆不敵な笑顔ではなかった。 (……もしかして、怒ってるのか? )  暗い闇の魔空間では、ただひとり、マリスの姿だけは黄金色に輝いているため、 彼女の表情は、見ることが出来る。  ケインは、マリスの横顔を見て、思った。  これまで、どの敵にも見せなかった憎悪が、彼女の整った面に、明らかに現れて いた。 「ベビー、今のうちだ、行ってくれ。そして、もう一度、ここへ来る勇気があるんだ ったら、俺のマスター・ソードを持って来てくれ」  ベビードラゴンは、一声鳴いて応えると、もと来た方向へと飛び立った。 『逃がしはせぬ。ドラゴンの生き残りよ……! 』  リリドの低い声と同時に、飛び上がったベビードラゴンへと、右手が伸びていく。 「そっちこそ、させないわ! 」  ケインに肩を貸したまま、マリスが、バスター・ブレードで防いだ。  骨ばかりの腕が、バスター・ブレードに弾かれる。  が、その前に、左手が硬質化した鞭となり、ベビードラゴンを追っていた。 「ベビー、はね返すんだ! きみなら、出来るはずだ! 」  ケインが声を振り絞った。 (ベビー、運命を、はね返すんだ……! )  ケインは、必死で、そう念じた。  鞭が達する時、ベビーが一声鳴いた。


金放電

 バチバチバチバチ……!   金色の雷が、四方八方へと放電した。  絶叫を上げたのは、リリドの方であった。  リリドは、慌てて左手を引っ込めるが、またもや、火傷のように燻(くすぶ)って いる。  左肩から腕全体が、枯れた木のように、茶色く固い皮が、パリパリと、剥がれかけ た。  彼女だけでなく、ケインも、マリスも驚きを隠せないでいた。  ベビードラゴンの姿は、見えなくなった。 『……何も出来ないものと思っていれば……やはり、ゴールド・ドラゴン族は、子供 でも、侮れぬ……! 』  左腕を庇うリリドの顔が、歪められた。  すかさず、マリスのバスター・ブレードが、振り翳された。 『生意気な小娘め! 』  リリドの骨の腕が掴みかかるに見せかけるが、黒いマントの中から無数の鞭が飛び 出した。  マリスが、ケインを抱えて飛び退る。  鞭は、バウンドし、勢いを増して、二人を目がけて、襲いかかる。  バスター・ブレードが一薙ぎすると、ぶちぶちと切れ、黒い血を振りまいた。 「マリス、やっぱり、きみには、リリドの攻撃が見えるんだな? 」  彼女と一緒に、なんとか飛ぶケインが、息を切らしながら尋ねた。 「全部は見えちゃいないわ。だけど、攻撃の気配を読めば、わかるわ」  何もないところへ、マリスが大きく大剣を振り下ろす。  そこからも、魔族の体液が飛び散った。 「どうしたら、わかるようになる? 」  ちらっと彼を見たマリスは、ケインの右手を自分の右肩に回し、左手に大剣の柄を 握らせ、自分の右手でしっかりと握る。  左手は、彼の腰に回し、二人の身体は、固定された。 「目で見ようとしてもだめよ。邪悪な気配を感じ取るの。邪悪な気配は、簡単に言う と、『嫌な感じ』よ。空気のような波動ではなく、心に直接侵入されるような」  口早に、彼女は説明すると、横によけ、身を引いたと見せると、何もない空間を 切り裂いた。  ぶしゅ~と、液体が、ケインの顔にもかかる。 「そこにいたのか……! 」  ケインは、マリスに言われたように、邪悪な気配を読み取ろうと、感覚を研ぎ澄ま せた。 『小癪(こしゃく)な! 』  リリドの怒りは増々募っていき、絶え間なく、見えない攻撃は続いた。  華麗に『武浮遊術』を使いこなせるマリスも、さすがに、ケインを抱えたままの 不自由な体勢では、呼吸が乱れ始めていた。  ケインは、マリスの疲れに気付きながら、必死に、魔族の気配を読もうと努めた。 『ふっふっ、お前のそのオーラ、どこぞの神が憑(つ)いていると見えるが、所詮、 貴様は人間。勢いが衰えておるのが、わかるぞ』  リリドの放ったのは、大蛇のような巨大なベビ型の魔物であった。  魔物は、二人を巻き取ろうとするが、バスター・ブレードに切り刻まれる。 『ええい、厄介な剣じゃ! 』  リリドの、イライラとした声が響く。  突っ込もうにも、負傷したケインを気遣ったマリスは、自分からリリドに斬りかか ることは出来ないもどかしさもあったが、自分に合わせるケインの動きから、彼も 相手の攻撃には見当が付くようになってきたのがわかり、そのまま受け身的な攻撃を 続けた。  マリスとバスター・ブレードを通して伝わる敵の感触を、ケインは掴みかけていた。 「だんだん、わかって来たよ。邪悪な気配ってヤツが……! 」 「そのようね! 」  マリスが、敵から目を離さずに、嬉しそうに応えた。 (ベビーは、ちゃんと、竜族の世界に戻れたのか? )  ちらりと、それが、ケインの脳裏を掠めた時であった。 『……! 』  リリドが、攻撃をやめた。  遠くから、微かに、ベビードラゴンの声がする。 「ベビーが来たんだわ! 」  マリスがケインを誘導し、形のはっきりしない地面を、蹴って駆け出す。 『逃がすものか! 』  リリドの黄色い瞳が、獣のように、くわっと見開かれる。  リリドの子供だという、ぶよぶよした生き物と、大蛇、無数の鞭も、二人に襲い かかった。 「サイバー・ウェイブ! 」


浄化

 銀色の、これまで見たことのない大波が、マリスとケインの身体を通り抜け、魔族 たちを飲み込んだ。  リリドの叫び声と、魔物の断末魔の叫びが入り混じる。 「ケイン、マリス! 無事か!?  」  ベビードラゴンの上には、魔法剣を振り翳したカイルと、その後ろに、マスター・ ソードを、しっかりと抱えたクレアが乗っていた。 「カイル! お手柄よ! 」  マリスが、ケインを抱えながら、駆け寄った。 「良かった! ケインも無事だったか! 血まみれのマスター・ソードが、天から 降って来た時は、もしかしたら、やられちまったのかと心配したけど、間に合って 良かったぜ! 」  カイルは腕で目を拭うと、クレアと共に、マリスからケインを下ろした。 「さ、ベビー、ケインの治療をしてやれ」  ベビードラゴンに、カイルがそう言った時だった。 『おのれ、貴様たち、もう許さんぞ! 』  魔空間全体が揺れたと思うと、青白いリリドの本体と、それにまつわる数十匹の 魔族が、同じく青い輪郭で現れたのだった。 『たかが人間の分際で。私だけで充分であったはずが、どのような偶然か、運か、 ことごとく、てこずらせ、邪魔をしおって、まったく忌々しい! もう手加減は せぬぞ! 』  リリドと、他のさまざまな獣じみた影が、ゆらりと動くと、それぞれの邪悪な念が 巨大なひとつの塊となって、四人とベビードラゴンとを襲った。  マリスがバスター・ブレードを握り締め、カイルも魔法剣を構え、浄化の魔法を 放とうとした直前であった。


クリスタル盾

 彼らと魔族との間に、巨大なクリスタルが出現した。  まるで、盾のように現れた、人の三倍はある、白く輝くクリスタルは、リリドや 他の魔族の攻撃を、すべてはね返したのだった。  そのただならぬ魔力に圧倒されたマリスの口から、ぼう然と言葉がこぼれた。 「……防御結界……!? 」  はっとして、マリスが隣を見る。  彼女の隣では、クレアが両のてのひらを、魔族に向け、その前方に、クリスタルの 盾が出現している。 「……で、出来たわ……! 魔法が、……復活したわ! 」  感極まってそう呟いたクレアの身体は、みるみる白く輝くオーラに包まれていった。


黄金クロス

「えっ!? わ、私、一体……!? 」  マリスも、カイルも、ケインも、当のクレア本人も、驚き、困惑した。  咄嗟に、クレアは、吟遊詩人の言葉を思い出した。  「きみの後ろに、ルナ・ティアが見える」と。  戦いと癒しの女神が、彼女を護っているのだと直感した。 「ベビーちゃん、今のうちに、ケインの手当をしてあげて! 」  クレアが早口にそう言うと、ベビードラゴンはさっそく口から回復光線を吐き、 ケインに浴びせた。 『そんな娘などが、白の魔法を使えたとは……! ええい、このような結界など、 早く突き破るのだ! 』  リリドと魔族たち、そして、彼女に呼ばれた魔族が、ぽつぽつと、数十人現れた。  クレアの身体が震える。 (こ、怖い……! だけど、ここで私が頑張らなくちゃ、皆、助からないわ! 防御 結界が出来たんだもの。他の魔法だって、きっとできるはず……! )  恐ろしさを頭から振り払い、クレアは、気を引き締め、じっと魔族たちを睨んだ。  魔族たちの攻撃が勢いを増し、次々襲いかかるが、クリスタルの巨大な盾は、 びくともしない。 「いいわよ、クレア! その調子よ! 」 「はい! 」 「ね? あたしの言った通り、クレアの力が必要だったでしょ? 」  そうウィンクしたマリスに肩をたたかれ、クレアは嬉しそうに頬を染めながら、 さらに、精神を集中させた。  突如、彼らの後ろから、現れた青白い影があった。  魔族であった。  ハッと、皆に緊張が走るが、魔族とカイルの目が合うと、浄化の魔法を警戒したの か、それ以上近寄ることはしなかった。 「どうしたよ、え? 魔族さんよ? 浄化されるのが怖いか? 」  カイルが、口の端をつり上げて笑い、剣を振る真似をすると、魔族は慌てて消えた。 「ケインの治療ももうすぐ終わりそうだわ。ここは、カイルとベビーに任せて、 あたしたちは攻撃するわよっ! 」 「は、はいっ! 」  いきなり結界から飛び出すマリスに、クレアが慌てて続く。  クリスタルの盾は、消えた。  それを待っていたとばかりに、得体の知れない魔族たちの攻撃も、再開した。  マリスが主に右側の攻撃を、バスター・ブレードで防ぎ、魔族を一気に薙ぎ払って いく。  断末魔の叫びを上げ、消滅していく魔族の中を、飛び回る黄金色のマリスは、見る 者には神々しく映る。  一方、クレアは、白く、キラキラと輝くオーラをまとい、踏みしめるように、歩き ながら、魔物たちに、てのひらを向ける。  ケインやカイルなどは、青白い輪郭がうっすらと見えるだけで、ベビードラゴンは、 そのままはっきりと、存在がわかる。ここでは、魔力の強さが、一目瞭然であった。


白魔法

 クレアが、防御結界を解いたと同時に、発動させていた『白』の攻撃呪文が、空中 で炸裂する。  彼女も、魔族の気配を読み当てることができるため、攻撃は無駄がなく、的確で あった。  クレアの放った、白い星々で造られたように見える、水しぶきのような風が、 大きく渦巻いていくと、大量の魔族たちを搦め捕り、飲み込むように消滅させて いった。  背後に現れた魔族には、呪文を唱える時間はない。  クレアが咄嗟に両手を向けると、先に出現させた盾と似た、白く透明なクリスタル が、宝石ほどの大きさで、大量に噴き出し、魔族に突き刺さり、或は、めり込んで いく。


魔法

 魔族たちは、次々絶叫しながら、飛び散り、消滅していった。  僅かな時間の間に、形勢は逆転し、魔族は窮地に追い込まれていった。 『あれは、人間の使う白の究極魔法……! いや、違う。……ルナ・ティアの術か!?  なぜだ!? なぜ、あのような小娘などが……!? 』  今度は、クレアの起こした白い炎の中で、断末魔の叫びを上げ、魔族たちが次々と 消滅していく。  リリドは驚愕を隠せない顔で、ひとりの魔道士見習いの少女を見つめた。  その顔には、初めて、恐れが浮かんでいた。  まるで、それまで使えなかった分貯められていた魔力が、一気に放出されている ように、一行には思えた。  『魔物斬り』の大剣を持つマリスは接近戦のみ可能であったが、クレアの魔法攻撃 は遠距離でも攻撃でき、一度に大量の魔族を消滅させられた。 (出来る……出来るわ! 今まで、魔法が使えなかったなんて、嘘みたいに!  しかも、なんて綺麗な技なの!? これが、ルナ・ティアの力……! )  白魔法を発動させるたびに、クレアの鼓動が高鳴っていき、顔は紅潮していく。  魔族を倒す手応えを感じていくうちに、徐々に、彼女は、自信も取り戻していった。 『小癪な人間どもめが! 我が力、思い知るが良い! 』  リリドの声が一際大きく響くと、またしても大きな揺れが生じ、巨大な手でひねっ ているように、一気に空間がねじれた。 「きゃあ! 」 「うわあ! 」  それまで立っていたところの重力が、急になくなってしまったように、一行は、 バランスを失い、暗闇の中を真っ逆さまに落ちていった。  だが、いくらもしないうちに、何かの上に、どさっと落ちた。  マリスもクレアも顔を上げると、ばさばさっと、風圧が起こった。 「ゴールド・ドラゴン!? 」  マリスが叫ぶ。  そこは、ゴールド・ドラゴンの背の上であった。


ゴールド・ドラゴン


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