Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅴ.-1〜
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~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅳ.『ドラゴンの谷』 妖精青アイコン1 ~ 魔族と伝説の剣 ~  剣月青ライン

『なぜ、イサナを殺した』  感情を押し殺した、スグリの念であった。  ボルボと呼ばれる魔族は、高らかに笑い声を上げた後、スグリを、にやりと見た。 『ここ数百年の間、我々魔族は、竜族に手を出さないできた。だが、先ほど、俺の 部下がやられた。下等な奴であったから、どうってことはないが、そのおかげで、 これまでの、竜族と魔族の均衡は崩れた。そちらがその気ならこちらも、と同じこと を仕返したまで』 『我らに手を出さずにきただと? 嘘を言え! 』  スグリの隣にいたゴールド・ドラゴンのイリシオが、わなわなと身体を震わせて、 叫んだ。 『お前たちは、長年、我々を苦しめてきたではないか! 』 『それでも、あの戦闘以来、一頭も殺してはいない』  ボルボの青白い、人間に近い顔は、薄ら笑いを浮かべているままだ。  その態度に、余計にカッとなった竜たちを、スグリが、なんとか抑えていた。 「その下等魔族をやったのは、俺だ」  ケインが、声を張り上げた。 「お前の仲間が、ドラゴンの子供を襲っていたからだ。もしかしたら、殺す目的では なかったのかも知れないのに、ドラゴンと魔族との事情などわからずに、俺が勝手に 斬ったんだ。だから、このことは、竜族には、関係ない」  ボルボの冷たい眼光が、ケインの青い瞳をとらえる。 『ほほう。では、貴様が、その落とし前を付けさせてくれると言うのか。俺を、上級 魔族と知りながら、たかが人間の身で? 』  死人のような目が、青く光る。  ケインを含め、魔族以外の者たち全員、ぞっとした。 『ボルボよ、これを機会に、もう無駄な小競り合いはやめよう。そちらが、我々を 脅かさねば、こちらも、魔族には、二度と手は出さぬ。それでは、いけないか』  そう提案したスグリを、驚いたように、注目したのは、ドラゴンの四頭であった。  ケインたち四人も、ちらっと、スグリを見た。 『今さら、何を言い出すんだ、スグリ! 』 『怖じ気付いたか!? 』 『イサナの仇(かたき)はどうなるのだ!? 』  自分たちは、意を決して、魔族と戦うために、こうしているはずではないかと、 その赤い眼たちは、訴えている。 『それは、出来んな』  あっさりと、ボルボの答えが、返って来た。 『仲間の楽しみを奪うことは、いくら俺でも、哀れで出来ぬわ』  またしても高笑いするその魔族に、ドラゴンたちは、怒りと、嫌悪感を募らせて いく。  スグリは、首を横に振ってから、改めて、ボルボを見た。 『まともな話が通じるとは、私も思ってはいなかったが、どうやら、これで、心置き なく、貴様を叩き潰せそうだ』  そう言ったスグリの眼光が、ぎらっと瞬いたと思うと、その口から、閃光が走り、 ボルボの身体を一気に包んだ。 「いきなり先制攻撃かよ!? 」  眩しい強い光と風圧に、目を庇いながら、カイルが慌てた。 「あら、なかなかやるじゃない! 」  マリスも片腕で防御しながら、満足そうに、スグリにウィンクした。  だが、ボルボの姿は、既にそこにはなく、そこから斜め上に浮かび、人間と竜を 見下ろしていたのだった。 「よーし、作戦通りに行くぜ。サイバー・ウェイブ! 」  慌てていたように見えたカイルであったが、既に体勢を整えていたところから、 いつでも身構えていたことがわかる。  魔法剣はタイミングを逃すことなく、魔族に銀色の霊気を発射していた。  が、またしても、それが到達する前に、魔族の姿は、消えていた。 『なるほど、浄化の魔法か。さすがに、俺でも、ある程度のダメージは負ってしまう だろう。だが、それは、あくまでも、当たればの話だ』  ボルボの声が、そう聞こえたと思うと、カイルの身体だけが、大きく弾き飛んで いた。  何が起こったのか、それは、ヒトの目では、わからない。 「カイル! 」  ケインとマリスが振り返る。クレアが、カイルに駆け出した。 「危ない、来るな! 」  苦しそうに起き上がりながら、カイルが叫ぶと同時に、スグリの念が送られた。 『シャラ、ウシオ、シールドだ! 』  二頭のドラゴンが、魔族とカイル、クレアの間に立ち塞がり、翼を広げ、その翼や 口から、特殊な光線を発した。 『ちっ! 』  ボルボが宙に浮いたまま、悔しそうに舌打ちする。  ドラゴンの二頭がかりの防御光線は、それほど強力であったのか、ボルボは、それ 以上近付こうとはしない。 「カイル! カイル! 大丈夫? 」  クレアが、心配そうに、彼を抱き起こす。  カイルには、どこを、どのように攻撃されたのか、わからない。  ただ、左の胸に、大きなショックを覚えているのは確かだった。 (あいつ、心臓を狙ってきやがった……! 人間の急所を知っている。いきなり 殺さなかったのは、殺そうと思えば、いつでも殺せるってことを、俺たちに知らしめ るためか……!? )  カイルの額に、冷や汗が浮かび上がった。  身体に受けたダメージだけではなく、魔族に対する恐怖のせいもあったと言えた。  カイルの考えていたことと、同じことを、ケインとマリスも感じていた。  ドラゴンのシールドの中では、クレアが目を閉じ、治療の呪文を唱え、掌を、 カイルの左胸に向けている。  しばらくして、目を開いたクレアが、小さく、呟いた。 「……できない。……まだ『治療』が出来ないわ……! 」  みるみる彼女の目に、涙が溜まっていく。 「なぜできないの? こんな大事な時なのに……! 私の身体は、とっくに治って いるんだから、魔法だって、もう使えるはずなのに、どうして? 仲間が大変な時に、 役に立てないの? 」  クレアの様子に気付いたケインが、近くにいるベビードラゴンを振り向いた。 「ベビー、カイルを直してやってくれ。そして、あの二人に、ずっとついててやって くれ」 「グルルル、ピー! 」  ベビーは一声鳴くと、ケインの言う意味がわかったのか、竜たちのシールドの中へ と、すんなり入っていき、カイルに向かい、口から、別の光線を吐き出した。  カイルは、その温かい光を浴びて、少しずつ痛みが引いていった。 『おおかた、浄化の技で、俺の力を半減させようと思い付いたのであろうが、うまく いかなくて残念だったな』  ククククとボルボの笑い声が、空にこだまする。 『イリシオ、ワカクサ、彼らを援護しろ! 』  スグリが叫ぶと同時に、ケインとマリスにも、一頭ずつドラゴンがつき、それぞれ が防御光線を張った。 『ヒト族よ、我々に乗れ』  ドラゴンの思念が伝わると、ケインとマリスは、すぐさま竜の背に飛び乗った。  スグリと、ケインたちを乗せた二頭のドラゴンは、空中に飛び上がり、ゆらゆらと 浮かんでいる魔族目がけて、一気に突っ込んでいった。  魔族は、咄嗟に姿を消し、次の瞬間、また別の方向に現れるが、ドラゴンには読め ていた。ボルボが消える前から、彼らは、方向転換して追っていく。  ケインとマリスを乗せたドラゴンーーイリシオとワカクサには、もともと思念で 通じ合っていたため、わざわざ口に出さずとも、彼らの行きたい方向に向かっていた。  その巨体に似合わず、ドラゴンたちの動きは、敏捷であった。  ボルボを追いながら、口から光線を発射させる。 『ほほう。戦い方を忘れていたと思っていたが、勘は鈍ってはいないようだ。 一〇〇年前の戦闘を、彷彿(ほうふつ)とさせてくれるわ』  ボルボが感心しているとも、馬鹿にしているとも取れる笑いで、竜たちの攻撃を、 僅かに躱(かわ)しながら見据える。  スグリを始めとするその五頭は、ゴールド・ドラゴン族の中でも特に勇敢で、戦闘 に長けたものたちであった。一〇〇年前の戦いにおいても、魔族をかなり手こずらせ たのが伺える。  ケインもマリスも、結界に護られているカイル、クレアも、ドラゴンと魔族の戦闘 を目の当たりにして、その時の凄まじさ、凄絶さを感じ取っていた。  からかうような逃げ方のボルボに、ケインはマスター・ソードを向けた。  そして、イリシオに跨がったまま、剣を振りかざした。 『なにっ!? 』  ボルボの顔色が変わる。


火炎

 剣先から、勢いよく、大量の炎が、ボルボに向かって行く。  渦巻く炎は、ドラゴンをも飲み込むほどの巨大な竜巻のような形になり、とてつも ないエネルギーで、ボルボの身体を包んだ。  異空間で、マスター・ソードの魔法を放ったのは、初めてであった。  ケインには、その威力は、三つの魔石を揃えたマスター・ソードよりも、上回る力 に思えた。  よけたはずのボルボは、右腕を庇って、現れた。  右の腕全体から、黒い、燻った煙が立ち上り、肉の焦げたような異臭を放っている。  それには、竜たちも、マリス、カイル、クレアも、当のケインでさえも、驚いて いた。 (……思った通りだ! ここでは、人間界よりも、マスター・ソードの威力が発揮 出来るんだ……! )  ケインの身体が、思わず武者震いした。 (……いけるかも知れない! )  彼が思うと同時に、マリスも、カイル、クレアも、ドラゴンたちも、士気が高揚 していく。 『その威力……まさか、人間界に伝わる……伝説の剣か? 』  ボルボは目を細めた。 「そうだ! これは、伝説のドラゴン・マスター・ソードだ! 」  剣を高く持ち上げてみせたケインが、声を響かせた。  ゴールド・ドラゴン族も、三人の人間たちも、ケインとボルボとを見上げた。 『ベビードラゴンなぞに乗って登場した、ただのロング・ソードを持った間抜けな 人間かと思えば、……おのれ、この俺を欺(あざむ)くとは、小癪(こしゃく)な! 』 「へっ? いや、そんなつもりは、なかったんだけど……」  今は、ゴールド・ドラゴンのイリシオに乗るケインが、目を丸くする。  そして、やはり、自分は強そうに見られないのだな、と少しがっかりした。 『まさか、貴様が、六〇〇年ぶりに現れた、マスター・ソードの継承者とは……!  お前が、神の遣わした人間なのか!? 』  ボルボの鋭い目が、ケイン一人に向けられる。 「だとしたら、どうする? このまま戦いをやめて、魔界へ帰るのが、お前のためだ ぜ」  剣を、自慢げに肩に担ぎ、ボルボの青白い顔に向かって、ケインが挑発的に笑って みせた。 「ケインたら、……なんだか、いつもと違うような……」  クレアが思わず呟いたのが、カイルにも、マリスにも聞こえる。 「あいつ、意外に魔法が効いたからって、まさか、調子に乗ってんじゃねぇだろう な? 」  ベビードラゴンの治療で復活したカイルが、起き上がる。  彼らの近くに浮かび、慎重な目で、魔族とケインのやり取りを見ていたマリスが、 小さく言った。 「違うわ。ケインは、おそらく……」  マリスのセリフは、ボルボのセリフに、かき消された。 『誰が帰るものか! 伝説の剣を持とうが、たかが人間。竜族同様、恐るるに足らぬ わ! 』 「だったら、この俺と、一対一で勝負しろ! 」  ケインの剣先は、ボルボに向けられた。 「やっぱりだわ! ケイン、あなた、あたしたちを魔族の注意から反らすために、 自分に魔族を引き付けようと……! 」  マリスが声を上げると、カイル、クレアも、はっとした。 『ほう、なるほどな』  少し余裕の笑みを浮かべたボルボの姿が、一瞬で消えた。  さっとケインの顔色が変わり、 「マリス、よけろ! 」  と、ドラゴンに乗ったまま、マリスへと駆けつけるが、間に合わない。  ボルボが、マリスの背後に現れた。 『いいことを教えてくれたな、お嬢ちゃん』  マリスを乗せた竜が、必死に方向転換するが、既に、ボルボの手刀が、彼女の背に 突き出された。  黒い火花が散った。 「マリス! 」  ケイン、カイル、クレアが叫ぶ。 『……くっ! 』  しかし、顔を苦痛に歪めたのは、ボルボの方だった。  正面を向いたままのマリスは、顔色一つ変わっていない。 『小娘……貴様……! 』  マリスは、瞬時に、大剣を背に、盾にしていた。  ボルボの無事な方の腕が、ぐしゃりと不自然に伸び、曲がっている。  その先が、錐のように硬質化しており、それが、マリスの背に襲いかかるのを、 大剣が防いだのだった。  黒い火花は、その時の衝撃だった。 「さすがバスター・ブレード。よく効くこと」  マリスは感心して笑うと、両手に握り直し、一気に薙いだ。  空中へ逃げ延びたボルボの表情は、ますます焦りを募らせている。 「わかったー、ケイン? あたしは、護ってもらわなくても大丈夫だからねー!  安心して、自分のペースで戦って」  余計な心配だったか、とケインは苦笑し、剣をかかげて、マリスに応えた。 『なんということだ……! 我々魔族にとって、厄介な剣が、同時に二つも揃って いようとは……! 』  そのボルボの思念は、そこにいるものたちの他、遠く離れたドラゴンの巣にまで、 伝わっていった。 『長老、彼らの強さは、本物なのですか!? 』 『ボルボがあのように押されているとは、信じられませぬ! 』  竜の洞窟では、煌々(こうこう)と複数の赤い光が輝く。  中央にいる年老いた白金のドラゴンが、ゆっくりと頷いた。 『彼らは、我々滅びゆくゴールド・ドラゴンのために、神の遣わした、最後の希望で あるのかも知れぬ』  重々しい威厳のある思念に、ドラゴンたちの瞳に、新たな意志が現れていく。 『いける。ボルボひとりなら、このまま消し去ることは、可能かも知れない……! 』 『そうだ! あの人間たちが、あれほどの力を操るのであれば、ボルボどころか、 他にもいる数人の上級魔族どもとも、渡り合えるだろう! 』  竜たちは、徐々に、勇敢であった頃の勢いをとりもどしつつあった。


炎フラッシュ

 マスター・ソードが灼熱の炎を吹く。  かろうじて避けているボルボの表情には、ますます余裕の色が失せる。  接近戦でしか腕を発揮できない、バスター・ブレードを持つマリスには、近付かな ければいいが、遠距離攻撃を仕掛けて来るマスター・ソードの魔法には、ほとほと 手を焼いているようだった。  上級魔族と言えど、魔界において最高の攻撃力を持つと言われるダーク・ドラゴン の力の前には、保身で精一杯である。  例え空間に逃げ込んで、人間たちの目を欺けたとしても、ゴールド・ドラゴンには 嗅ぎ付けられてしまうので、攻撃を交わすのに必死なボルボは、自分から攻撃を 仕掛けるどころではないようだ。  マスター・ソードからは、炎の他に、雷、鋭い氷の刃なども、発動される。  マリスたちも、ケイン本人も見たことのない、凄まじいエネルギーであった。 「よし、俺も! 」  回復したカイルが、魔法剣の霊気を飛ばす。


浄化

 ケインに気を取られていたボルボの背には、銀色の霊気が、竜巻のようにうねり ながら、当てられた。 『おわあああああ! 』  魔族は、叫びながら、回転していった。 「やったか!? 」  地上では、カイルが、確かな手応えを感じていた。 「すごいわ、カイル! かなりのダメージを与えてるわ! 」  瞳を輝かせて、立ち上がるクレアに、カイルはガッツポーズをして見せた。 『おのれ、小童(こわっぱ)どもめが! 調子に乗るな! 』  ボルボの背から、しゅうしゅうと銀色の煙が燻っている。そのまま、片方の掌を、 カイルへ向けた。  カイル、クレア、ベビードラゴンをシールドで守っていた竜二頭ごと、目には見え ない強力な風で、大きく飛ばされた。  スグリが攻撃光線をボルボに発射し、ケイン、マリスをそれぞれ乗せた竜たちも、 炎や光線を口から発射し続ける。  ボルボの無事である方の腕が、ひゅんと消えると、それは、自在に伸びて行き、 マスター・ソードを狙った。  だが、マスター・ソードに弾かれると、別の方向から、黒いぬめりを帯びた、 いくつもの鞭がしなって、やってくる。  それは、足か手か。  ボルボのマントの下からは、あらゆる方向へと、ヘビのような触手を連想させる、 不気味な生きた鞭が、数えられないほどの数が、ケインと、彼の乗るイリシオや、 スグリに伸びて行った。  そればかりは、いくらドラゴンのシールドを持ってしても、防ぐことは不可能で あった。  ケインの頬や足を掠(かす)っていき、イリシオ、スグリの身体をも、切り傷が増え ていく。 (気配がまったく読めない! まだマスター・ソードの『白の魔石』を手に入れて いないから。今は、ドラゴンがよけてくれるから、致命的な傷は負わないで済んで いるが、あの魔族ひとりでも相当厄介だ。仲間の魔族を呼ばれる前に、なんとか方を 付けないと……! )  ケインは、自分の弱点に気が付いていた。  一方、マリスの乗るワカクサは、飛ばされたカイルたちの方へ、向かっていた。 「ちょっとぉ、なんで逃げるのよー。あたし、まだあいつとロクに戦ってもいないの に」  不機嫌な声で、マリスが、自分の乗る竜に訴えた。 『接近して上級魔族とやり合うなど、自殺行為だ。それよりは、お前の仲間たちを 援護してやれ』 「なんだかんだ言って、やっぱり魔族が怖いのね」 『なんと言われようと、あやつの力は、一〇〇年前に、とくと知っているのでな。 私がやられれば、いくら魔物斬りの剣があっても、お前の命だって、危ないのだぞ』  ワカクサは、マリスを、カイルとクレアの前に無理矢理降ろすと、すぐに引き返し ていった。 「ははは。お前がいると、自分の戦いたいように戦えないってことか。だから、置い てったんだな」  吹き飛ばされても、かすり傷程度で済んだカイルが、おかしそうに腹を抱えていた。 「このあたしが、戦闘に参加出来ないなんて……! 」  マリスはカイルを睨むと、面白くなさそうに、繰り広げられている空中戦を、 見上げた。  たいした怪我を負わなかったクレアも、同じく空中戦を見つめている。 「ケインやスグリさんたちだけに、任せてばかりじゃいけないわ。私の魔法だって、 実戦の緊張感の中であれば、もしかしたら、発揮出来るのかも知れない。お願い、 ドラゴンさん、私をあそこへ連れて行ってくれない? 私、なんとか頑張ってみるわ」  クレアのそのセリフには、一変して、マリスもカイルも慌てた。 「危ないわよ、クレア! 相手は魔族なのよ。容赦なしなのよ」 「そうだぜ! ケインやスグリさんたちだって、あいつには、まだ致命的なダメージ を与えてないんだ。それだけ、あの魔族は打たれ強いし、おまけに攻撃だって、見た ところ、まだ一〇〇%は力を出し切ってもいないんだろう」 『彼らの言う通りだ』  シャラが、マリス、カイルに続いた。 『ボルボの力は、まだまだあんなものではない。今は、マスター・ソードの威力に、 少々面食らっているに過ぎない。それも、徐々に解消されていくことだろう。長期戦 になれば、我々や人間には、不利な戦いとなる。上級魔族は疲れ知らずの上、疲れて 戦闘能力の減ってきたものを、いたぶり、恐怖を与えてから殺すのが好きなのだ。 逆に言うと、恐怖心を抱かないうちに殺すことは、好まないが』  クレアは、そのドラゴンの言葉に、身震いした。  カイルは、黙って頷いていた。  マリスは目元を引き締め、空を見る。 『奴が本来の力を発揮すれば、娘よ、言いにくいが、おぬしが一番に殺される。我々 から見ても、当然魔族から見ても、おぬしの戦闘能力が、一番低い』  見下ろされる赤い瞳を、クレアはショックを受けて、ただ見つめていた。 「バッ、バカ! なにも、今、スランプで落ち込んでるクレアに、追い打ちをかける ことないだろ? 余計に、魔法が使えなくなっちゃうじゃないか! 」  カイルがシャラを睨むが、マリスが制する。 「シャラさんの言う通りよ。悪いけど、クレア、無茶はしない方がいいわ。真っ先に 餌食にされるのは、どう考えても、あなただわ」 「お、おい、マリス、お前まで、そんなこと……! 」  マリスにまで言われたことに傷付いたクレアは、うつむき、その瞳は潤んでいた。  カイルが、クレアとマリスとを交互に見て、おろおろしている。  マリスは、クレアの両肩に手を乗せ、クレアの瞳を、じっと見ながら、付け加えた。 「ただし、よく聞いて。それも、『今だけ』よ。今に、きっと、あなたの力が必要に なるわ。あたしには、そう思えるの。だから、早まらないで」  半信半疑なクレアの視線に、マリスは、真剣な表情で、頷いてみせた。


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