Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅳ.-3〜
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~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅳ.『ドラゴンの谷』 妖精青アイコン3 ~ 戦闘準備 ~  剣月青ライン

「なあ、ホントに、魔族なんかとバトろうってのか? 」  四人は、洞窟から離れた密林の中を進んでいた。伸び切った草木をかき分けながら、 もう一度、カイルが、ケインとマリスとに尋ねているところだ。 「相手は上級の魔族なんだろ? マリス、お前も、ヴァルがいなくて、サンダガーに 頼れないのに、やる気かよ? クレアの回復魔法だって、まだ使えないんだぜ?  今度ばかりは、いくらなんでも無謀すぎるって、俺は思うぜ」  クレアも、遠慮がちではあるが、カイルに続いた。 「あなたたちには悪いけど、私もそう思うわ。吟遊詩人さんには『心の問題だ』とは 言われたけど、私、時々試してるけど、本当に、まだ魔法は使えないの。こんな状態 で、しかも相手は魔族だなんて、正直言って、……無理だわ」 「ソルダルムのお医者さんや、ハッカイからも、強力な傷薬をもらってるんだから、 回復なら、魔法に頼らなくても大丈夫さ」  ケインは、クレアとカイルに微笑んでから、前方に向き直り、先頭を進んで行く。 (賛同はしたものの……回復魔法に比べたら、薬は、痛み止めにはなっても、治りが 遅い。応急処置にしかならないわ。どれを取っても不利な条件だとわかってて、 それでも突き進もうという、あなたの熱い想いは、いったい何? 単なる自分の正義 のため? それとも、自分でも止められないほどの、強くなりたいという願望? )  正面を進む彼の背に、マリスは心の中から、そう問いかけていた。  ふいに、四人の頭上に、大きな黒い影ができると、強い風圧が起こった。  四人は、さっと身を強張(こわば)らせたが、それは、すぐに驚きに変わった。  上空には、ゴールド・ドラゴンの巨体が、五つ並んでいたのだった。 「スグリさん! 」  先頭を飛んでいるドラゴンに向かい、ケインが叫んだ。  ドラゴンは人間たちを見下ろすと、少し先の、密林を抜けるあたりまで飛んで行き、 地上に降り立った。  四人が密林を駆け抜けて来ると、スグリが、一歩進み出て言った。 『申し訳ないが、四頭しか説得出来なかった。我々五頭は、魔族どもと戦う決心を した。ご一緒させてもらえぬだろうか? 』  ケインを始め、四人は驚いて、スグリと、残りのドラゴンとを見つめていた。 「……ご一緒させてもらうも何も、もともとは、あなたたちの敵に、あたしたちが ケンカ売りに行くだけの話であって、お供させていただくのは、こちらの方だわ」  感動して、すぐには口が利けそうもないケインに代わり、マリスが、竜たちに、 にっこり笑ってみせた。 「グピー、グピー! 」  空を見上げると、ベビードラゴンが、まだ未発達な翼をバタバタさせていた。  スグリたちの後を追ってきたようだった。 「ベビー! 」  ベビードラゴンは、地上に着陸すると、真っ先に、ケインにすり寄っていった。 「危ないから、お前は、巣に戻ってろ。俺たちは、今から、魔族と戦いに行くんだぞ」  心配そうに語りかけるケインには構わず、ベビーは、くりくりと瞳を輝かせている。 『おぬしと一緒にいたいらしい。戦力にはならぬだろうが、子供と言えども、そやつ は、回復技が使える。おぬしたちの、怪我の手当くらいの役には立つであろう』  スグリが言った。 「なにっ!? ケガを治せるって? やったー! これで、死ぬことは、なくなったぜ ー! 」  カイルが安心し、小躍りして、はしゃいだ。  マリスやケイン、クレアも、少しほっとしたような顔になった。 『ところで、お前たち、どこへ向かっている? どうやって、魔族を探すつもりなの だ? 』  スグリの近くにいたドラゴンが尋ねた。 「マリスの、普段抑えられている魔力を、開放してもらう。以前、俺たちが、砂漠に 行った時のように。あの時みたいに、マリスひとりにしたりはしないけどな」  ケインが、マリスの肩に、ぽんと手を置いてから、竜たちに続けた。 「彼女の魔力に触発されて出て来た魔族を、片っ端からやっつけていこうと思う。 あなたたちの住処には、被害が及ばないように、できるだけ離れたところで、魔族を 誘き出すつもりだから、安心してくれ」  ケインのセリフを受けて、マリスは、竜たちにウィンクしてみせた。 『すまない。我々の問題であったのに……』 「とんでもないわ。少なくとも、あたしに限っては、暴れられるいい機会なんです もの。謝られる筋合いではないわ」  すまなそうなスグリに対し、マリスは、あっけらかんと笑ってみせた。 「……ってことで、ケイン、この先は、どうする? もっと遠くまで行ってみる? 」 『良ければ、我々の背に乗ってくれ。それならば、短時間で済む』  スグリが言う。 「ありがとう、スグリさん。お言葉に甘えて、背に乗せてもらうよ。できるだけ、 あなたたちの洞窟から離れたところに、連れていってくれないか? 」  ケインの言葉で、四人は、ひとりずつ、それぞれ竜の背に跨がった。  ケインがスグリの背に乗ろうという時、ベビードラゴンが、ケインの服をくわえ、 引っ張った。 「だめだよ、ベビー、悪いけど、遊んでいる場合じゃないんだ」 『おぬしに乗って欲しいのだろう』  そう言ったスグリに、ケインは驚いて、目をパチクリさせた。 「俺はバスター・ブレードも背負ってるから、皆よりもずっと重いんだ。それなのに、 ベビーに乗っかるなんて、可哀想だよ」  スグリに訴えるケインであったが、スグリはどことなく微笑んでいるような瞳に なって、返した。 『そのくらいは、ベビードラゴンと言えども大丈夫だ。おぬしさえよければ、乗って やってくれないか』  ケインはベビーを見て少し考えていたが、 「……じゃあ、試しに、乗せてもらうよ」  しゃがんで低い体勢になったベビーの背に、ケインが、そうっと跨がった。  その途端、ベビーは、ばたばたと翼をはためかせ、一気に上空へと舞い上がったの だった。 「うわっ、ベビー、無理すんな! 」  ケインが慌ててベビーの首にしがみつくが、ベビーの方は、嬉しそうに、ぐるぐる 旋回しながら、まだ飛び上がってもいないドラゴンたちを、得意そうに見下ろした。 「あーっ、ちょっと、ベビー! あたしたちのことは、乗せてもくれなかったくせ に! 」 「そうだぞー、ずるいぞー! 」  地上のドラゴンの上から、マリスとカイルが叫ぶが、ベビーには、どこ吹く風で あった。  スグリの合図で、残りの竜たちも、ベビーほど軽やかではなかったにしろ、空へ 舞い上がると、スグリを先頭に、一気に飛んでいった。


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 彼らが再び地上に降りたのは、見渡す限りの荒野であった。  先の密林や、癒しの谷のような美しい緑のあった場所からは、想像もつかない。  心なしか、天候まで、打って変わって、黒くもが立ち込めて暗く、夜が来たように さえ思える。 「へえ、『ここ』にも、こんな場所があったとはな。砂漠を思い出すぜ! 」  カイルが、たいして面白くもなさそうな声を出した。 「いいじゃない。いかにも、魔族が出てきそうだわ」  マリスが満足そうに、辺りを見回している。 「それじゃ、作戦通りに行く? 」  尋ねたマリスに頷いてから、ケインは、皆を見た。 「まずは、マリスの魔力を解放する。それに誘き出された魔族を迎え撃つ。ついこの 間のデモン・ソルジャーとの戦いを参考にして、始めに、カイルが魔法剣で、敵の 戦力を弱める。そこへ、俺たちは攻撃をしかける。簡単に言うと、こんな感じだ」  ケインが、カイルを見る。 「俺の魔法剣の魔力は、どこまで続くか、わからないぜ。もし、魔族がいっぱい現れ ちまって、剣の力がもたなかったら、どうするんだ? 」  カイルの問いには、スグリが答えた。 『ここは、竜神の聖地。入って来られる魔族は、ごく少量の、限られた魔族だけだ。 ベビーを襲った下等魔族は、おそらく、上級魔族が手引きしたのだろう。下等、中級 魔族だけでは、侵入は、不可能なはずだ』 「へえ。……ってことは、誘き出された魔族は、ありがたいことに、少数だけど、 ありがたくないことに、強えってことか」  カイルは肩を竦めるが、彼の青い瞳は、怯えているようではなく、余裕を感じさせ た。 「こんな時、ジュニアでもいればね。魔界の王子なら、魔族を押さえつけるのは簡単 なんだけど、タイミング悪いことに、ヤツはヴァルに拘束されてるわ。本領発揮する チャンスだっていうのに。まったく、役に立ちそうで、ちっとも役に立たないわよね」  マリスが一行を見回しながら、笑った。  そういう彼女の様子からは、不利な境遇に気落ちするでもなく、これから思う存分 暴れられることにウキウキしているように、皆には見えた。  いよいよ、魔族を誘き出す時だった。  マリスが、荒野を突き進んでいく。  すぐ隣には、ケインが付いている。  その後ろには、周囲を油断なく見渡すカイルと、竜たち、緊張した面持ちのクレア、 何を思っているかはわからないベビードラゴンが、続いていく。 「前にも、こんなことがあったわ」  語り出したマリスの横顔を、ケインが、ちらっと見る。 「まだベアトリクスにいた頃、辺境の魔物を、退治しに行く時だったの。その時と 違うのは、相手が、上級魔族ではなかったことと、……あたしが、白の攻撃魔法を 使えたということ」  マリスは、正面を見据えたまま、続ける。 「魔族には、白の究極魔法が致命的だわ。あの時のあたしなら、上級魔族でも、 なんとか太刀打ちできたかも知れない。けど、サンダガーを召喚するために覚えた、 たったひとつの呪文のために、その能力は失ってしまった。まるで、それまで身に 付けた白魔法と引き換えのように」  ケインは、黙ったまま、マリスの話に耳を傾けていた。 「結果的に、どちらが良かったのかわからないけど、呼び出せなくても、いざとなれ ば、あたしには、サンダガーがついてる。最悪の場合でも、命を落とすほどのこと にはならないと思うから、皆のことは、あたしが護るわ。なのに……」  普段とさほど変わらない、緊張した様子もない彼女であったが、彼女の手は、 わずかに震え、いつになく汗ばんでいる。  見ていた手を握り締めると、彼女は笑ってみせた。 「何をビビってるのかしらね。恐れることなんて、ないのにね。上級魔族なら、遠慮 なく叩きのめせるじゃない。サンダガーや、ヴァルがいなくたって、このくらい……」  握ったマリスの手に、ふわっと、ケインの手が被せられた。 「俺が護るから」  マリスが思わず足を止め、彼を見上げた。  ケインは、意外にも、微笑んでいた。 「試したことがないから何とも言えないし、これは、大きな賭けだったから、ぬか 喜びさせてもいけないと思って、さっきは言わなかったんだけど……。マスター・ ソードの中のダーク・ドラゴンが、力強く感じられるんだ。人間界にいる時よりも。 よくわかんないけど、俺の意思に、強く同調しているような気がしていて。 もしかしたら、マスター・ソードや他の魔法は、ここでは、人間界とは違う効果が あるんじゃないか、って思うんだ。この神寄りの空間では、この剣を造った神である マスターの恩恵を受けて、少しは有利に働くんじゃないかと」  マリスの目が、わずかな希望に、見開かれていった。 「その可能性は、ないとは言えないわね。むしろ、……あるかも知れないわ……!」  紫の瞳が、好戦的に輝いていく。  ケインは、確信を持った微笑みから、少し真面目な表情になった。 「サンダガーを呼べなくても、ヴァルがいなくても、……俺が護るから」  ケインは、もう一度、マリスの瞳を見つめながら、今度は、はっきりと言った。 「俺が、マリスを護るから」  マリスの瞳が、次第に戸惑うように、彼から視線を反らした。  構わず、ケインは、彼女の拳を強く握り直し、さらに何かを言おうと、口を開くが、 「あ……っ! 」  突然、マリスが声を上げ、ケインを再び見た。 「サンダガーに、祈りを捧げるのを、ずっと忘れてたわ! 拝めって言われてたのに。 果たして、あいつは、あたしの危機に、駆けつけてくれるのかしら……」  ケインは、何とも言えない顔になった。  そして、何も言えなくなった。  不安を頭から振り払うように首を振ったマリスは、無言になったケインと、荒野の 続きを、奥へと進んでいったのだった。  おおよそ目的としていた所まで来ると、マリスは立ち止まり、ケインから受け取っ たバスター・ブレードの柄を、両手で握り締め、精神を集中させた。  その少し離れた後ろに、ドラゴンたちと、カイル、クレアが控え、ケインは、 マリスのすぐ隣で見守っていた。  彼女の周りの空気が、揺らいだように見えたと思うと、しゅうしゅうと、金色の 湯気のように変化していく。  人間界ではない、異次元のせいか、以前、皆が見たものとは、違うオーラだと、 ケイン、カイル、クレアには思えた。  いよいよかと、四人も、ドラゴンたちも、これまで以上に、気を引き締めていく。  抑えていた魔力を解放しながら、マリスは、神経を研ぎ澄ませていた。 (感じる。とても遠いところからだけど、物凄い魔の気配が……! )  マリスの額に、一筋の汗が流れた。  その時だった。 「はっ……! 」  マリスは、咄嗟に宙に舞い、大きく下がった。  ケインは、その場に構える。  ドラゴンたちも、警戒を強くした。 「きゃあっ! 」 「どうした、クレア! 」  悲鳴を上げ、後ずさるクレアに、カイルが庇うように、前に出た。  クレアは震えながら、マリスのいたところを指さし、やっとのことで、口を開いた。 「……あそこに、魔族が……とてつもない魔力を持った魔族が、現れたわ……! 」  そのクレアのセリフと同時に、小さな竜巻が起こり、それが止むと、黒いひとつの 影が現れた。  それは、意外にも、ヒトの形をしたものだった。  黒いフードの付いたマントをはおり、青白い顔に、黄色く光る表情のない目。  こけた頬に、落窪んだ眼球の下には、深い隈が刻まれている。  まるで、人間の魔道士のような外見だが、青白い、死んだ人間のような顔をした その者は、マリスをギロッと睨むと、口を開いた。 『……ほう、これほどの魔力の正体が、たかが人間であったとはな』  背筋が凍るような、乾いた声だった。  マリス、ケインを始め、巨大なドラゴンたちですら、硬直してしまうほどの。 『……ボルボ、貴様であったか……! 』  スグリから、脅えと憎悪の混じった念波が、人間たちにも届く。  ボルボと呼ばれた魔族は、薄気味の悪い笑いを、口元に浮かべる。 『久しぶりだな、スグリ。一〇〇年ぶりくらいか。先ほどの、俺からの土産は、気に 入ってくれたか? 』  その言葉に、竜たちは、一層、身を固くした。 『貴様だったのか、イサナを殺したのは……! 』  スグリの思念が伝わり、ドラゴンたちは身を震わせる。  恐怖を超える憎悪は、一際大きく膨らんでいった。


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