Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅳ.-2〜
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~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅳ.『ドラゴンの谷』 妖精青アイコン2 ~ ゴールド・ドラゴンの末裔 ~  剣月青ライン

 その時、ベビー・ドラゴンが、ぱくっと、ケインの腕ごとくわえたが、彼は、それ を振り払うどころではなかった。 「それは、どういうことなんだ? ゴールド・ドラゴン族は、雌(めす)もいただろ う? それとも、俺の思い違いか。雄だけでも、子孫を増やせるのか? 」 『そうではない。以前は、当然、雌もいた。子供も、そのベビー・ドラゴン以外にも、 大勢いたのだ』 「じゃあ、どうして? ……皆、病気かなにかで亡くなってしまったのか? 」  ドラゴンは沈黙してから、再び、思念を送った。 『……魔族だ』  ピクッと、ケインの眉が動いた。  ベビーはケインの腕を吐き出すと、怯えて身体を縮ませた。 『つい最近のことだ。いや、おぬしたちヒト族からすれば、約百年ほど前に当たるが、 魔族が襲撃してきたのだ……! 』  竜の思念から、その時の怒りが、ケインにも伝わっていった。 「おかしいと思ったんだ。さっきも、下級魔族なんかが、ベビーを襲ってて。なぜ、 竜神の領域であるこの神聖な地に、魔族が入って来られるんだ? 雌がいなくなって しまったことと、関係あるのか? 」  ドラゴンを見上げるケインの瞳には、深刻な色が現れた。 『魔族どもを仕切る、上級魔族の入れ知恵だった。魔王と王子が不在となって以来、 力を持った上級魔族が、少しずつ、魔界からの通路を広げ、各界へ侵出してきている のだ。侵略と称して』  ケインの目が見開かれた。 「人間界にも出来た魔界の通路ーー次元の穴と同じものが、ここにも……! 」  ドラゴンは、ゆっくりと頷いた。 『各種族のもとへ、強力な魔力で、通路が築かれていった。これまで、上級魔族は 魔界にだけ居座り、中級以下の魔族が、通路を造り、人間界へと現れていただろう。 強力な結界を持つ種族の世界へは侵出不可能であったはずが、徐々に、魔族が行き来 し始めた。魔王の復活に向けての準備なのだ』  ケインの頭の中に、それまで忘れていた、マスター・ソードを造った神ジャスティ ニアスの話が、断片的に甦った。 「……そうか。マスターの話からも、魔王復活の余波は、あらゆる種族に、影響を もたらしていそうだったからな」 『ここにも、強力な結界を持つドラゴンがいた。王の妃だった。だが、妃が寿命で 亡くなると、結界が弱まり、妃の後を継ぐ雌ドラゴンは、子供を病で亡くすと、気落 ちし、結界がさらに弱まった。長年魔族など侵入したことのなかった時代が続いたた め、我々も警戒を怠った。すると、権力争いの起こっていた魔界の上級魔族が、ここ に目を付け、ドラゴンを喰らい、力を取り込めば、魔界で最強を誇るダーク・ドラ ゴンの力をも凌ぐとの考えから、力を付けようと、竜族の子供を襲い始めた。そこで、 我々ゴールド・ドラゴンは一丸となって、魔族と戦闘を始めた。結果は、一見、我々 の勝利で、魔族たちは退散していったが、その後で、我々は、やつらの本当の目的に 気付いたのだ……! 』  ゴールド・ドラゴンの赤い眼が、細められた。 『魔族の主導者が、以前と異なり、狡猾なものとなった。その者の指図で、やつらは、 子供と雌ばかりを狙っていた。私たちは、魔族が去ってから、そのことに気が付いた。 遅かった。すべての雌と子供たちが殺され、卵までもが踏みにじられていた! 』  ケインの目が、大きく見開かれた。 「……それが、魔族の、本当の狙い……」 『その子は、まだ母親の胎内に残っていた卵から、戦闘の後で生まれた。母親は、 既に息絶えていた。母親の味わった恐怖が伝わっていたのか、その子は、生まれつき、 口を利かないのだ。生まれてから一〇〇年が経つが、未だベビーのままで、成長も 止まってしまったかのようだ。そして、彼もまた雄。これで、ゴールド・ドラゴンは、 今生きている我々のみだ。もう子孫が生まれることはないのだ』  そこで、ドラゴンは、黙った。  しばらくしてから、ケインが口を開いた。 「魔族には、もう立ち向かわないのか? 」 『むろん、妻や子供の死を悼まないものなどいない。皆で、仇を討つつもりであった 矢先、のこのこと奴等はやってきた。願ってもいないことだった。ここぞとばかりに、 皆で、やつらに襲いかかった。しかし、仲間を喰らい、パワーアップした狡猾な僅か 数人の上級魔族を前にして、我々ゴールド・ドラゴンの力は及ばなかったのだ。 すべて、やつらの計算通りであった。やつらは、我々を追う体力など使わなくても よく、ただ、我々が向かっていくのを待ち受けていれば良かった。我々は、簡単に、 返り討ちにあった。その時の残虐な光景は、今でもはっきりと覚えている。その戦闘 後、ベビーを含め、現在は、二九頭しか、この世にゴールド・ドラゴンは残っては いない。いずれ、この二九頭に寿命が来てしまえば、ゴールド・ドラゴンの存在自体 が、この世から消えてなくなるのだ』 「……そんな……! 」  ドラゴンに思い入れの強いケインには、特に大きなショックであった。  なんといって言葉をかけていいか、思い付かない。 『……つい独り言が過ぎたな。ドラゴン・マスターよ、つまらない感傷に付き合わせ てしまって、悪かった』 「いや、そんなことはない。……辛いことだっただろうに、よく打ち明けてくれたよ。 ゴールド・ドラゴン族の現状は、理解したつもりだ」  ゴールド・ドラゴンの赤い瞳が、少し和らいだように、ケインには見えた。  二人の間には、不思議な、友情のような感情が湧いてきた気がしていた。 「あなたの名前は? 」 『スグリだ』  それは、ケインたち西洋系人種には聞き慣れない、異国の響きがあった。  ヴァルドリューズのような東洋出身者であれば、古典の東洋語に響きが似ていると 親しみを覚えたであろうが。  ドラゴンが立ち去った後も、ケインは、腰かけていた岩の上から、動くことが出来 ないでいた。  蹲っていたベビードラゴンが顔を上げ、心配そうにも取れる表情で、ケインを見つ めている。 「……お前の父さん、母さんは、いなかったのか」  放心したように呟いたケインは、立ち上がると、ベビーの首を撫で、遣る瀬ない 想いで見つめながら、立ち去る直前のスグリの話を思い起こした。 『なにも、おぬしが心を痛めることはない。これは、運命だったのだ。我が種族が、 この世に生まれ出でた頃からの。我らゴールド・ドラゴンは、神竜的存在に近い。 魔族とは、遅かれ早かれ、衝突する運命だった。残る余生は、我々だけで、ひっそり と生きてゆく。時々ちょっかいを出して来る魔族とは、血を見るまでの戦いには発展 しない。それでも、厄介であるには違いないが、これ以上の犠牲は、もう出せぬのだ。 ……魔石のことは残念であったが、ここではない他の地で、早々に見つかることを、 願っている。お前たちは、待ち人が来次第、帰ってくれ』と。  ケインの群青色の瞳は、真剣に輝いていった。 「強くなれ、ベビー。お前が、最後のゴールド・ドラゴンなんだ。運命なんて、…… 変えてやれ」 「グルルル、ピー? 」  ベビーは、ケインを、小首を傾げて見つめるばかりであった。 「う~ん……、こんなかわいいヤツに、魔族とバトルなんか、難しいか……。だけど な、ベビー、俺だって、小さい頃は、女の子みたいだとか、かわいいとかって言われ てたんだぞ。それが、頑張って、まだ子供のうちでも野盗を倒せたし、今では、 なんとか、一端の戦士くらいにはなれたんだ。お前だって、頑張れば、出来るかも 知れないんだぜ! 」  励ますように言うケインに、ベビーは、今度は、反対側に首を傾げ、くりくりと した黒い瞳を向ける。 「う~ん、俺の言うこと、わかんないかな? 」  ケインが、ベビーと同じ側に首を捻った。  その背後で、くすくす笑う声がする。 「何を、子供のドラゴンと、真剣に話してるの? 」  マリスであった。  樹の後ろから顔を覗かせたマリスは、おかしそうに笑っていた。 「魔石がないことがわかって落ち込んでるかと思ったら、心配して損しちゃったかし ら? 」 「ふ〜ん、マリスが、俺のこと、心配ねぇ……」  疑わしい目を向けたケインであったが、内心、嬉しく思った。 「心配してたのは、マリスだけじゃないぜ」  マリスの後ろから、カイルも顔を出し、クレアも、遠慮がちに姿を現した。 「みんな……! 」  ケインは、嬉しそうに、皆の顔を見回した。 「ゴールド・ドラゴンのスグリさんだっけ? あたしたちがやってきたのがわかった のか、あたしたちにも、彼の思念が伝わってきたわ。なんとなく声かけづらくて、 黙ってたんだけど……ちょっとショックだったわね。もう子孫はいないなんて」  マリスは歩きながら話し、ケインの隣まで来ると、彼の目の前に手を伸ばし、 ベビーの首を撫でた。  怯えたように首を引っ込めていたベビーも、マリスに撫でられているうちに、最初 の頃の脅えもなくなり、喉をグルグル鳴らしていった。  その様子は、クレアには、愛おしく見えたのだが、カイルはどこか引っかかる思い がした。  野生のドラゴンが、まるで飼い犬のように見えたからだった。  そして、そう感じたのは彼だけでなく、マリスも、ケインもであった。 「ケイン、この子を助けた時、言ってたわよね、下等魔族に襲われていたって。それ を聞いて、どうも解せなかったんだけど、さっきの話を聞いて、納得したわ」  マリスは遠くを見据えて、声のトーンを落とした。 「本来のゴールド・ドラゴンなら、例え子供であろうと、その程度の魔族なんて、 追い払えるんでしょう? だけど、魔族とドラゴンとの戦いに、ドラゴンたちは破れ ただけではなく、戦意を完全に喪失してしまったんだわ。そのおかげで、竜族本来の 勇ましさはなくなり、ただ残された時間を生き延びるだけでいいと、無気力に生きる ようになっていった。だから、ベビーは闘争心というものを、誰からも見て学ぶこと はなかったのね。そうして、闘争本能も消え失せていき、こんな風に人間にも、簡単 に懐くようになって。あたしのことは最初警戒していたにも関わらず、あれから、 そんなに時間も経っていないのに」  聞きながら、心の中の疑問を次々とマリスに言い当てられていくような気がした ケインの瞳は、揺らぎ始めていた。  マリスは、ベビーの愛嬌のある仕草を見つめ直し、続けた。 「ゴールド・ドラゴン族は、ホントに、もうおしまいだわ。雌がいないだけじゃなく、 精気さえもなくしてしまったんだもの。それが、ショックよね。あの戦闘好きのバカ 獣神サンダガーの遠縁とは、とても思えないわね……」  マリスのベビーを見る目が、淋しそうに笑った。  ケインの瞳は、ますます遣る瀬ない色に染まっていく。  マリスは、それを認めてから、淡々と続けた。 「そうなると、もう後は、魔族どもの思い通りね。まあ、いたぶって殺すのが好きな 魔族にとっては、精気のないわずか三〇頭足らずのドラゴンなんか、本気で相手に する気もないから、時々ちょっかいを出すくらいにしているのよね。でも、いつ一気 に襲ってくるかはわからないわ。下等とは言え、魔族が意を決して襲ってきたりした ら、今の彼らでは太刀打ちできない……! 」  いきなり、マリスは、ベビーを撫でていた手を、ケインに掴まれた。  クレアも驚いたように、ケインを見る。  カイルは、視線を地面に落とし、拳をわなわなと震わせていた。  キッと睨むような、ケインの深く青い瞳は、それ以上喋らせまいとしているのが、 マリスにもわかった。  だが、その瞳を見据えながら、彼女は話を続けた。自分の話すことは、間違って いないと、自信を持って。 「無気力な種族は、魔族につけこまれやすいものだわ。人間だってそうよ。あたし たちが最初に出会った村も、そうじゃなかった? 」  四人とも、思い出していた。  彼らが出会ったのは、クレアの出身である、さびれた村だった。  魔物に脅かされていたその村では、村の存続のために、若い娘を生贄として、魔物 に差し出していた。  誰であろうと。  クレアも、目を固く瞑った。  カイルは、地面を見たまま、拳を強く握り締める。  ケインの青い瞳と、マリスの紫色の瞳がぶつかる。  遣る瀬ない想いをますます募らせたケインの瞳は、上から、マリスを威圧するよう だった。  対するマリスの瞳は、一向にたじろぐ様子はなかったが、そこから目を離せば、 敵に食われるという警戒心も現れていた。  ベビーは、そんな目の前の二人の、ただならぬ空気を、まったく何とも感じていな いのか、自分の身体をペロペロと舐め回していた。 「……痛いわ、ケイン。放して」  苦痛に歪んだアメジストの瞳に気が付き、ケインは我に返って、手の力を緩めた。 「もう、なにするのよ、乱暴ね。女の子の手を、そんなに強く掴むもんじゃないわ」  マリスが、さっと自分の手を引き抜いた。 「……ごめん」  手首を振るっているマリスに、ケインが目を反らし、ぼそっと言った。


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 洞窟の中は、四人が、先に訪れた時と違い、騒然となっていた。  四人とベビー・ドラゴンが戻ったのがわかると、一番近くにいた竜が、彼らを振り 返り、重々しく言った。 『仲間がやられた……! 』 「えっ!? 」  四人は、耳を疑い、竜たちの間をくぐっていき、それを見た。  一頭のゴールド・ドラゴンが、無惨に死んでいた。  身体中血まみれで、外部の損傷はほとんどなく、まるで、とてつもない強大な力で 引きちぎられたとでもいうような、残酷な殺され方であった。  見るに耐えられず、顔を覆ったクレアを、カイルが抱え寄せる。  マリスも口に手を当て、ケインも、声を発することすらできなかった。  話によれば、出口とは別に、外へ抜ける道があり、そこを出たところで魔族に遭遇 したらしく、死体を見つけた竜が、ここまで運んで来たということであった。 『こんなに、巣の近くにまで、やつらが来るとは……』 『あんたらのせいだ! 』  一頭の竜が、赤い瞳をらんらんとさせて言った。  それをきっかけに、他の竜たちも、四人のヒトを振り返り、睨みつけた。 『あんたらが、俺たちのテリトリーで、魔族を殺ったりしたから、やつらの怒りを 買ったんだ! 』 『神の剣を持つドラゴン・マスターや、獣神の巫女といえば、やつらにとっては敵に 当たる。そのあんたたちを、俺たちゴールド・ドラゴンが迎え入れたと見なされ、 その当てつけに、仲間を殺されたんだ! 』  恐怖から来る怒りのために、誰かのせいにしなくては、いられなかった竜たちは、 口々に、ケインたち人間を批判する言葉を吐いた。 「けっ! 何言ってやがる! ケインがベビーを魔族から助けなきゃ、お前たちの 唯一の未来であるベビーだって、殺られてたんじゃないか! だったら、助けなくて 良かったってのか? まったく、勝手なことばっかり、言いやがって! 」  クレアを庇うように抱えたまま、カイルが、カッとなって言い返す。 『お前たちが来るまでは、こんなことはなかったんだ! 戦闘では、魔族に仲間を やられてはいても、それ以来、細々と、誰も欠けることなく、平和に過ごして来られ たんだ。それが、いきなり、これだ。お前たち人間が、不吉なものを招いたんだ! 』  竜たちは、四人を取り囲むようにして、はるか上方にある、赤く光る眼で見下ろし た。 『王よ、こいつら人間は、ここに来るべきじゃなかったんだ! 早く追い出さないと、 また仲間が……! 』 『そうです、王よ。まったく、スグリのヤツが、こんな厄介者どもを拾ってくるから だ! 』  四人は、初めて気が付いたが、竜たちの奥では、先ほどの、白っぽい、年老いた ゴールド・ドラゴンと、その隣にいる、彼らを案内してくくれた竜スグリとが、 じっと、この様子を伺っていた。  一行は、身を寄せ合い、竜と睨み合った。  顔から手を離したクレアは、胸の前で両手を組み合わせ、心配そうに、竜たちを 見回す。  そのすぐ隣のカイルは、竜に、負けじと睨み返している。  クレアの前では、ケインが庇うように、マリスの前に立つ。 『だいたい、ドラゴン・マスターだって、白い魔石もクリスタルも探しているという ことは、黒い魔石しか入手していないってことだ。黒い魔石には、ダーク・ドラゴン が封印されている。神寄りの俺たちとは真逆である、魔界に住む魔族の竜しか棲んで いない剣なんて、既に不吉じゃないか! そのお前の剣のダーク・ドラゴンが、魔族 を招いたんじゃないのか! 』 「それは、違う」  ケインは、静かに、押し殺した声で、遮った。 「俺は、ここへ来る間も、来てからも、ダーク・ドラゴンを召喚してはいない。この 中にいるのが、魔界に棲むドラゴンであっても、俺は、その意思を自由に操れる。 ダーク・ドラゴンも、魔族に対して仲間意識があるわけじゃない。戦う時は、魔族 相手でも容赦はしない。だから、安心してくれ」 『だったら、やはり、お前が魔族を殺したのが、やつらの怒りを買ったことになり、 このような警告をされたことになるのだ! 』  竜たちは、口々に、ケインに矛先を向け、文句を言った。 「そうだとしたら、……悪かった」  ケインは、遣る瀬ない想いを浮かべた表情で、言った。  それを見て、居たたまれなくなったようなマリスは、彼らを一瞥してから、口を 開いた。 「ふ~ん、仲間が、宿敵にやられたっていうのに、そうやって、ヒトのせいにする わけ? そんなヒマがあったら、さっさと、仇でもなんでも討ちに行けばいいものを」  彼女の冷めた声に、竜たちは、一斉に、赤い眼を、マリスに向けた。  そのたくさんの目には、さすがに怯んだカイルとクレアが、身を縮めた。  ケインは、はっとしたように、マリスを振り返った。 『小娘、生意気なことを……! お前に、何がわかるというのだ! 』 『そうだ! 獣神様の巫女でも、お前は、ただの人間ではないか! 仲間を殺された 俺たち竜族の気持ちが、お前になどわかるものか! 』  竜たちは、一層、感情的になってしまい、今にも、マリスたちヒトに食いつかん ばかりであった。  マリスは、口を一文字に結んでから、再び開いた。 「そんなの言い訳にしか聞こえないわ。あなたたち、魔族に好き勝手されて、悔しく ないの? 仲間を、こんな無惨なやり方で殺されて、頭にこないの? これ以上、 犠牲は出せないなんて、いかにも悟ったようなことを言ってるけど、……所詮は、 腰抜けたちの集まりってことじゃないの! 」  くわっ! と、一頭の竜が、大きな口を開き、マリスに襲いかかるが、本気で彼女 を食おうとしたわけではないことは、彼女にも、ケインにもわかっていた。 「やっぱりだわ。脅かすことしかできないの? 」 『なんだと、小娘! もう我慢ならん! 』  竜たちが、ますます目を吊り上げた。  それを止めようと、ベビーが鳴き立てながら奔走するが、ドラゴンたちの目には 入っていない。 「待ってくれ! 」  ぎゃあぎゃあ騒ぐ竜たちを制したのは、ケインであった。  ケインは、ベビーの首を安心させるように、軽く叩いてから、巨大なドラゴンたち を見回した。 「ずっと考えてたんだけど……、皆で、一気に魔族をやっつけることを、考えてみる わけにはいかないか? 俺も加勢させてもらう」  竜王の瞳が、まっすぐに、ケインにそそがれた。  それに気付く様子もないドラゴンたちは、面食らったようにざわめきながら、 ケインを見下ろしている。  クレアは困惑した顔で、竜とケインとを見ている。  カイルも、目を丸くして、ケインを見るばかりだ。  マリスは、一瞬目を見開くが、納得したような笑顔になって、ケインを見つめた。 『何を言っている? いかにドラゴン・マスターといえども、ただの人間ではないか』 『そんなことは、すべての魔石の力をそろえてから言え。魔族に致命的な神の技を 持つホワイト・ドラゴンの力もないくせに! 』 『たったちっぽけな人間のひとりや二人が加わったからといって、我らの不利は、 目に見えている! 』 『高位魔族どもには、我々ドラゴンが束になり、かかっていっても、通用しなかった のだぞ』 『身の程知らずにもほどがある! 』 『余計なことをして、これ以上、魔族の機嫌を損ねるわけには、いかんのだ! 』 『さっさと、お前たちの世界へ帰ってくれ! 』  ケインの提案は、竜たちの怒りに火を注ぐばかりだった。  ケインは、背負っていた大きな剣を引き抜き、地面に刺した。 「俺には、巨人族の剣ーー今は、マリスに貸してはいるが、この世で最強の剣と言わ れている魔物斬りの剣バスター・ブレードもある。上級魔族といえども、魔界の王と までいかないのなら、充分太刀打ちできるはずだ。それに、マスター・ソードの ダーク・ドラゴンは、やつらの攻撃など、簡単に吸収できる」  竜たちは、ケインの胸まである大剣に見入ってから、顔を見合わせた。  腕を組んだマリスは、ケインを見た。 「本来だったら、ここにもうひとり黒魔道士がいるはずでね、わけあって、今はいな いけど。彼がいれば、獣神サンダガーを呼び出すことが出来るわ。そしたら、戦いは、 圧倒的に有利になるんだけどね」  竜たちは、サンダガーの名前を聞くと、目を光らせ、期待するかのように彼女を 見た。 「残念ながら、あたしだけでは、サンダガーは召喚できない。クレアもまだ魔法が 回復していない。カイルも戦ってくれるとして、果たして、彼の魔法剣とあなたの剣 だけで、高位の魔族を倒せると思うの、ケイン? 」 「気が進まないなら、手出しは無用だ。俺だけだって、戦ってみせる」 「なんで、違う種族のことなのに、そんなにムキになるの? 彼らの悲惨な過去に、 同情したから? 」  マリスの質問は、彼を責めているようには聞こえなかった。  むしろ、ケインの想いを誘導しているようだった。  それに乗っかり、彼は、今まで抑えてきていた感情を、徐々に吹き出させていった。 「同情なんかじゃない。俺は、幼い頃、野盗に村を襲われ、母親を亡くした。まだ 小さくて頼りにならない俺だったが、いつも強くなりたいと思っていた。身体も大き く、力があっても、それを振りかざし、力のないもの、弱い者が常に虐げられるーー そんな理不尽な法則は、俺がきっと破ってみせる……! ずっとそう思ってきたんだ。 だから、俺は、能力(ちから)を振りかざして弱い者をいたぶる奴等が許せないんだ!  ましてや、仲間がやられても、仇すら討とうとしない、煮え切らない感情も、嫌い なんだ! 」  ケインの拳が、固く握られた。  クレアは、はっとして、彼を見上げた。  カイルも、もやもやがすっきりしたような表情で、ケインを見ている。  マリスは、後押しするような微笑を、向けていた。  ケインは、竜の顔をそれぞれ見上げて、強く言った。 「俺は、あなたたちのような神的存在じゃないから、寛大には構えられない。仲間が やられたら悔しいし、許せない。理屈じゃない。卑劣なヤツの思い通りには、死んで も、なりたくないだけだ」  竜たちは、黙っていた。  呆れているもの、何かを考えているもの、「しかたがないじゃないか」などと、 ぶつくさ言っているものなどがいた。  それらを見回してから、マリスが仁王立ちになって、言い放った。 「とにかく! ここに、ドラゴン・マスターの勇者と、あなたがたの遠縁である獣神 サンダガーの巫女であるあたしと、その仲間たちが、あなたがたゴールド・ドラゴン 族に出会ったなんて、これが単なる偶然だと思う? きっと、サンダガーの思し召し に違いないわ! 実を言うと、今の話し合いの最中に、サンダガーから、ご神託が 下りましたの。『是非、戦い(やり)なさい』……ですって」  手を腰に当て、仁王立ちになったマリスは、なぜか、人間より巨大な竜たちを、 見下ろしているような印象を与えた。  ケインも、カイルも、クレアも、拍子抜けしていたが、 (しれっとしやがって……。まったく、ドラゴンが相手でも、こいつは、ちっとも 変わらないな)  と、顔を見合わせて、思わず、小さく笑いをもらしたのだった。


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