Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅳ.-1〜
アニメ紫妖精右タイトルdragonバナー1アニメ紫妖精左

~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅳ.『ドラゴンの谷』 妖精青アイコン1 ~ 竜族の王 ~  剣月青ライン

『……これは、私ひとりでは、とても判断出来兼ねる事態だ。客人、我が種族の王の ところまで、ついて来られるが良い』  ゴールド・ドラゴンは、背を向けて座ると、折れ曲がったいくつかの筋のある翼を、 地面に付けた。  それを伝って、四人に、その背に乗るよう、促しているようだ。 「お、おい、ゴールド・ドラゴン族の王だって? 」  カイルがどぎまぎして、皆の顔を見回した。  その横で、クレアも、おろおろしたように、両手を組み合わせた。 「大丈夫だ」  ケインが、皆に頷いてみせる。マリスと目が合うと、マリスは、強気な光をたたえ た瞳で、微笑んでみせたので、ケインも、いくらか安心した。  ケインが先頭に乗り、続いてマリス、おどおどしながらクレア、最後にカイルが、 ドラゴンの背に跨がった。  金色の翼が、ばさっばさっと上下すると、その風圧で、辺りの木々はきしみ、葉が 散っていく。  竜の巨体は、四人の人間を乗せて、ゆっくりと、空へ舞い上がっていった。  その後ろに、ベビー・ドラゴンが、同じく翼をはためかせ、ついてきていた。 「そんなに固くならなくても、大丈夫だよ」  ケインの背に、しがみつくようにしていたマリスと、同じように、マリスの背に しがみついているクレアに、振り返ったケインが、微笑みながら言った。 「周りの様子をよく見てみるとわかるよ。俺たちは、ドラゴンの結界に守られている から、振り落とされてしまうことはないんだ」  マリスとクレア、カイルは、辺りを見渡す。周りの景色が、めまぐるしく変わって いき、それは、魔道士が『光速(こうそく)』で進んでいる時と、似たような感覚で あった。 「マスター・ソードの魔石を、初めて手に入れた時も、これくらいの大きなトリに 乗って、時空を越えたんだ。懐かしいな」 「……そうだったの」  マリスが腕の力を緩めたのがわかると、ケインは、視線を前方へと移した。  ケインの胸は、ドラゴンに会えることと、魔石への期待で、ますます高鳴っていっ た。  間もなく、彼らは、ある洞窟の前に降り立っていた。  癒しの谷と、それほど代わり映えのない景色の中に、大きな岩山がある。  そこに、巨大なクレーターのような穴が、ぽっかり開いていた。 『この奥に、王がおられる』  そう言うと(正しくは、そのような思念で、彼らに語りかけていた)、ドラゴンは 翼を折りたたみ、トリに似たかぎ爪のある二本足で、穴の中へと歩いて行った。  巨大なドラゴンが、ゆうに通れるほどの大穴である。その後に続くヒトの、何倍も の高さのところに天井があった。  穴の中は、ひんやりとしている。  鍾乳洞のように、周りの岩は、でこぼことしていて、時々水も垂れてくる。  ツララのように、天井から下に向かって垂れ下がっている形の岩もあれば、地面 から積み上げられたような、丸みを帯びた岩も、いくつも突き出している。  足場も、登ったり下りたりと、険しい山道に似ているだけではなく、天井や地面 から湧き出ている水滴のせいで、何度もすべりそうになるのが、ヒトにとっては厄介 だった。  暗闇の洞窟の中では、自ら光り輝くゴールド・ドラゴンの身体だけが頼りだ。  時々、ベビーが振り返り、小さく鳴き声を上げる。まるで、『もう少しだ』と、 彼ら人間を励ましているかのようだった。  奥まで進んでいくと、道幅が急に広くなった。 『足元に気を付けるが良い。ここからは、下りになっている』  竜の声の通り、そこからは、岩が不規則に並んでいて、だんだんと地下へ下がって いくような造りになっていた。  皆、足場を、余計に注意して下りていく。  カイルが、クレアの手を取り、気遣いながら、ゆっくりとついていくる。  それを、時々振り返って確かめながら、マリスについていたケインが、竜の後を 追う。  その脇を、ベビー・ドラゴンが、慣れた足取りで、下っていく。  一行にとっては、緊張の続いた長い道のりであったが、実際は、さほど時間は 経っていなかった。  岩の階段を降りていくと、生き物の息づかいらしき音が、皆の耳に入ってくるよう になり、それとともに、グルルル……と、獣が喉の奥を慣らしているような音まで、 聞こえてきていた。  ベビーが鳴らしていたよりも低く、唸るような、地を伝って感じられるほどの、 大きな振動であった。 『今、戻った』  先頭を歩いていたゴールド・ドラゴンは立ち止まると、前方に向かって、そう言っ た。  その途端、真っ暗だった闇の中で、赤い光が、ポツポツと増えていった。 「きゃっ! 」  クレアは小さく叫ぶと、近くにいたケインの背に隠れ、おそるおそる覗いた。  クレア以外の者は、竜と、その赤い光から、目を反らさないでいた。 『皆の者、さきほど、竜神のゲートをくぐられたドラゴン・マスターと、我が竜族と かかわりのある獣神様の巫女に、その友人方を、連れて参った。彼らを、このまま、 王のところへ、連れていく』  重々しい声のようなドラゴンの思念に、赤い光が一挙に増えた。 「ひっ! 」  思わず、マリスも、クレア、カイルも後ずさる。  闇の中が、金色に輝き出し、彼らの目の前にいる竜と、同じ形であったのがわかる。  赤い光は、ゴールド・ドラゴンたちの目であった。


goldラインgoldラインgoldライン

 四人の前には、一匹の、少々小柄なゴールド・ドラゴンがいた。両翼を折り畳んで 座っている。  たむろしていたドラゴンたちのところとは、少し離れた横穴の中であった。  金色の光り輝く身体も、他のドラゴンよりも光が弱く、身体の色も、白に近い金色 をしていて、皮膚には深く刻まれた皺が多く見られたが、二本の角は、まだまだ瑞々 しい。 『これは、珍しい。ヒトを、このように目の当たりにしたのは、もうはるか昔のこと であったが……。ドラゴン・マスターとは、おぬしか? 』  ケインが進み出て、頭を下げた。  彼の深い青い瞳と、ドラゴンの赤い瞳がぶつかり合う。  赤い瞳の光は、他のものたちほどの強い輝きは感じられなかったが、威厳のある ドラゴンの面構えであると、ケインは思った。 『確かに、おぬしの周りの空気からは、ドラゴンの卵を育てた者のまとうオーラが 感じられる。それが、ドラゴン・マスターである証(あかし)。そして、そこの娘か?  獣神様の巫女とやらは』  吟遊詩人の唄や、書物などで、人々の間に伝わる神話によると、ドラゴンは、動物 やヒトを喰らい、野山を荒らし、決して、人間と友好的な関係などではなく、悪者の イメージが強いものであった。  また、多くの場合は、宝物を抱えていて、勇者がドラゴンを倒し、宝をもらう話も 珍しくはなかった。  そのような言い伝えを耳にして来た人間たちにとっては、実際に、ドラゴンを目の 当たりにして、怖じ気付かないわけはなかった。  さすがのマリスも少々臆したのか、ドラゴンの王に、じっと見つめられ、身動きが 取れない様子だった。 『……なるほど。確かに、この者は、獣神様の籠を受けているようだ。金色のオーラ が見える』  その老いた竜王の言葉に賛同するように、今まで彼らをここまで運んできた竜は、 頭を垂れた。 『ドラゴン・マスターよ』  赤い二つの光は、再びケインへと注がれた。  ケインもまた、見つめられている間中、身動きすることは、ままならなかった。  長(おさ)の竜の瞳とは、それほどまでに、威厳が感じられた。 『ここは、ヒトの住む世界にはあらず。魔の力を操る者ですら、この領域に足を踏み 入れることは、容易ではない。お前たちは、ヒトの身で、なぜ、わざわざ、ここまで やってきたのだ? 』  四人の中でも、クレアの恐怖は、ほとんど頂点に達していた。震える身体を抑える ことができずに、クレアは、両手をもみ絞るのが精一杯であった。  隣に立っていたカイルが、それに気付き、少しでも安心させるように、黙って、 クレアの方を引き寄せた。  沈黙は続いていた。  巨大な二匹の竜を前にして、臆することなく話せる人間など、いはしなかった。  やがて、我に返ったケインが口を開く。 「お初にお目にかかります。挨拶が遅くなって申し訳ない。俺たちは、ゲートで宣言 したように、ドラゴン・マスター、獣神の巫女、そして友人たちとで、あなたがたの 種族にお会いしに来た。俺たちのような人間が、ここへ来られたのは、マスター・ ジャスティニアスの導きによってだ。ここへ来たのは、魔石を探しにだ。ドラゴン・ マスター・ソードの魔石のことを知っておられるならば、是非、教えていただけない だろうか? 」  一旦、口を開いてしまえば、あとは流暢に言葉が出て来た。ケインは、王の目を、 じっと見つめた。  竜王の瞳も、しばらくケインを見つめていた。 『迷いなき眼をしている。まぎれもなく、マスター・ジャスティニアスの育てた ドラゴン・マスターと見受けた。ここへ来た理由も承知した。して、獣神の巫女よ、 おぬしはいかがだ? 』  王は、マリスに目を向けた。  驚いたマリスは、まばたきをしてから答えた。 「あ、あの、私も、同じです。ジャスティニアス様の遣いの者から、あなたがたの ことをお聞きし、きっと会えると思って、ここまで参りました。魔石と、あなたが たが関係あると信じて」  マリスの手は、微かに震えていた。目の前の竜に、恐怖するのは薄れてきており、 今では、竜族に現実に出会えたこと、その王と、実際に対話していることに、感動 しているのが大きかった。  そして、この竜との対面は、徐々にではあったが、カイルの冒険者としての血も 騒がせ、クレアにも、奇跡が真実になった感動を与えていった。  ゴールド・ドラゴンの王は、ゆっくりと、四人の人間を眺め回した。  その間、口を利く者は、ひとりもいなかった。  赤い双眸(そうぼう)は、ゆっくりと閉じられた。  幾分、顎を上げた姿勢になると、王は、再び思念を送ってきた。 『……ドラゴン・マスター・ソードの魔石……覚えておるぞ。たしかに、それは、 ここにあった。ワシが預かって、護っておったのだからな』  ケインの目が見開かれ、マリスも、カイル、クレアも、身を乗り出すように、竜を 見た。 『……だが、それは、ヒトの世界で言えば、何百年も昔のこと。その時も、確かに、 おぬしのようなドラゴン・マスターが、ここへやってきた。魔石を探しにな』 「そ、それで、……魔石は……? 」  興奮を押し殺して、ケインが問う。 『持って行ってしまったよ。それきり、ここには、魔石はないのだ』  ケインを始め、ぼう然となった。 「待って。本当に……本当に、魔石は、もうないの? 白の魔石(パール・メテオ) でも、光の魔石(ブライト・クリスタル)でも、……もうないって言うの? 」  興奮した声で、マリスが食い下がるが、竜族の王は、うっすら目を開け、ゆっくり と頷いた。 『持っておれば、ドラゴン・マスターに獣神様の遣い、その来訪を心より祝し、 すぐさま魔石を差し出したであろう。だが、差し出したくとも、それは、数百年前の ドラゴン・マスターに預けてしまったのだ。それ以来、現在まで、我らの種族が魔石 を預かることはなかった。どこかで、別の種族が持っているのだろう。……大変な 思いをされて、ここまで来たようだが、……真に、残念であった』  一行は、ただぼう然と、立ち尽くしているのみであった。 「……そんな……」  ケインは、無意識のうちに、呟いていた。


goldラインgoldラインgoldライン

「ごめんな、皆。俺のために、ここまで一緒に来てくれたのに、肝心な魔石がなくて ……」  竜の穴から出たところで、ケインが、皆に頭を下げた。 「別に、俺は構わねえから、そう気にすんなよ。伝説のドラゴンにも会えて感動した し。……まあ、ケインにとっては、魔石がなかったんじゃ、骨折り損かも知れねえ けどな」  カイルが、いつものように、リラックスした調子で言った。 「本当に残念だわ。私は、怪我が治っただけでも充分有り難いから、私たちのことは、 気にしないでいいのよ」  クレアも、気遣うように、ケインに言った。  マリスも、何かを言いかけようとするが、言葉が見つからない。  ケインは、ぎゅっと自分の拳を握ると、しばらくして、皆の顔を見渡した。 「吟遊詩人が現れるまでは、俺たちは、もとの世界へは帰れない。ドラゴンの王様も 言ってくれたように、それまでは、ここにいていいってことだったから、皆、好きに しててくれていいよ。幸い、彼らは、一部の言い伝えにあるような、残忍で獰猛な 性質のドラゴンではないから、安心してくれ」  そのケインの言葉で、彼らは、しばらく休むことにした。 「ねえ、ケインをひとりだけにしておくなんて、可哀想じゃない? こんな時こそ、 皆で元気付けてあげた方が……」  青い草むらの上に座り込んだクレアが、カイルに言った。  あぐらをかいて、草を一本口にくわえたまま、カイルが答えた。 「いいんだよ。あいつ、ひとりになりたそうな感じだったからな。あいつが、あんな に落ち込んだのって、俺たちと旅をしてからは初めてだし。下手な同情は、余計に 気を遣わせちまう。よっぽどうまい言葉が見つからねえ限りはな。ま、どうせ、ここ にいるのも、吟遊詩人が現れるまでの辛抱だ。現れた時には、あの吟遊詩人のヤツを、 とっちめてやろうぜ。『なんだ、てめー、このホラ吹き野郎! ドラゴンは、魔石 なんか持ってなかったじゃねーか! 』ってな」  と、面白おかしく言ってみせたカイルに、少し笑ってから、クレアはうつむいて 考え込んだ。 (あの吟遊詩人さん、私を癒しの谷に連れて来るのも目的だったって、言ってたわ。 ただそれだけなら、もう目的は果たしているのに、なぜ私たちを……いいえ、ケイン をドラゴンに会わせたのかしら? 魔石がないのなら、その必要はないと思うんだけ ど。……マリスが、ドラゴンを見たがっていたから? ……なんてことは、ないわよね……)  クレアは、正面にいるマリスに、視線を移動させていった。  マリスは腕を組み、岩にもたれかかって、景色を眺めていたが、ずっと上の空で あるようだ。 (……ケイン、落ち込んでた。悪いことしちゃったかなー、ドラゴンと魔石が絶対 関係あるだなんて、言っちゃって……)  マリスは後ろ髪引かれる思いで、癒しの谷に似た景色を、ぼんやり眺めていた。  空は、夕焼け色から、青く染まり、人間界の夜の訪れと似た景色だった。  癒しの谷と同じく、谷はあったが、大きさは比べ物にならない。こちらの谷は、 ドラゴンたちが水浴びができるほどに大きく、広かった。  豊かな川の流れは、夕日を浴び、きらきらと反射している。青緑の葉や、赤い実の なった大木も、人間界にあるものと、少し違った形である。  マリスたち三人から離れ、それらを、岩の上で眺めていたケインのもとへ、やって きたものがいた。 「……ベビー……? 」  ケインの隣には、さきほど助けたベビー・ドラゴンが、足を折り曲げて座った。 「グルルル……」  ベビーは、愛嬌のある黒い瞳で、彼を見つめ、喉を鳴らしていた。  ケインは、手を伸ばして、赤い実のなった枝を折り、ベビーに差し出した。  ドラゴンの子供は、おいしそうに、実に食いついた。  あどけない様子で、実を食べるドラゴンを見つめているうちに、ケインの表情は、 次第に、ほころんでいくと、ベビーの首を、やさしく撫でた。 「グルルル、ピー! 」  ベビーは、嬉しそうに、ケインにすり寄った。 「……魔石は、なかったけど……ま、いっか。お前に会えたんだもんな」  ケインが、ベビーの背もさすると、ベビーは喜んでいるように、喉を鳴らし続けて いた。  新たに、ケインが枝を折ると、ベビーは、その枝になった実にもかぶりつき、 しゃこしゃこ音を立てながら、食べていた。 「よく食うなぁ! 」  ケインが感心して、ドラゴンを眺めていると、ベビーは、ケインの頬を、舐め始め た。 「うわっ、よせよ。くすぐったい! 」  唾液まみれの、ざらっとした舌に、ベロベロと頬を舐め回され、ケインは、少し 痛いような、くすぐったいような感じがしていたが、ますますベビーをかわいく 思った。 『どうやら、ベビーは、おぬしを気に入ったらしい』  振り返ると、この竜たちの住処(すみか)に案内したドラゴンが、のしのしとやって きて、ケインの後ろで止まったところであった。 「あんたの子か? かわいいよなぁ! 」  じゃれて、ケインの手に軽く噛み付いてくるベビー・ドラゴンを、うまくあしらい ながら、ドラゴンに振り返る。 『その子に、親はいない』 「……そうか」  ケインの表情が、少し陰った。  ドラゴンは、続けた。 『先ほど、私たちの仲間を見て、気が付かなかったか? 』  ケインは、ドラゴンの尋ねた意味がわからず、じっと見つめ返す。  ドラゴンは、人間には、到底理解し兼ねる表情のままだ。 『気付かぬのも無理はないが、……我々ゴールド・ドラゴンの種族は、雄(オス)だけ だ。正しくは、雄だけしか残されていないのだ』 「……!? 」


剣月緑ライン剣月緑ライン剣月緑ライン Indexボタン Backボタン Nextボタン