Book7看板 Dragon Sword Saga7 〜Ⅲ.-3〜
アニメ紫妖精右タイトルdragonバナー1アニメ紫妖精左

~ 第7巻『ドラゴン・マスターと竜』 ~


剣月青ライン  Ⅲ.『癒しの谷』 妖精青アイコン3 ~ ベビー・ドラゴン ~  剣月青ライン

「なっ、なんなんだよ、そいつ」  癒しの谷では、ケインの連れた、オレンジ色の皮膚をした、トリのような、爬虫類 のような巨大生物を、カイルが嫌そうな表情で見ていた。  マリスとクレアも驚き、しばらく口を利けないでいた。 「うん。なんか、ドラゴンっぽいんだけど」 「ぽいってなんだ、ぽいって? お前、ドラゴン・マスターなんだろ? ドラゴン なら、それとはっきりわかるもんじゃないのかよ? 」  カイルが詰め寄るが、ケインは苦笑いをした。 「なんだか、はっきりとは感じられないんだ、ドラゴンらしい思念が。だけど、何か のドラゴンの子供だと思うんだ」 「……変なドラゴンじゃないだろーな? 」 「変なドラゴンて……なんだよ? 」 「実は、魔族とか? 」 「まさかぁ。だって、こいつ、魔族に襲われてたんだぜ。魔界に棲む最強のダーク・ ドラゴンは、もうマスター・ソードに取り込んであるし、他のドラゴンは、どっちか っていうと、妖精に近い種族なんだ。ドラゴンは、その種族ごとに独立してて、 かかわり合うことは、ほとんどないんだけどな」  ふと、マリスが辺りを見回す。  木々に遮られがちな木漏れ日が、夕焼け色を帯びて来ている。 「ここにも、『夜』は来るらしいわね。見通しが効かなくなるし、さっき、ケインが 魔族に遭ったように、また出て来るかも知れないから、夜は、密林にはいない方が いいわ。その子に、はやくドラゴンの巣へ案内してもらうことは出来ないかしら? 」  ケインは、マリスに頷いてみせた。 「この子のことは、そうだな、仮に、『ベビー・ドラゴン』とでも呼んでおくか。 さあ、ベビー・ドラゴン、お前の仲間たちはどこにいるんだ? うちはどこだ?  俺たちを、案内してくれないか? 」  ベビー・ドラゴンは、愛くるしい瞳でケインを眺めるが、他の反応はしない。 「あなたのお仲間が、マスター・ソードの魔石も、持っているんじゃないの?  お願い、あたしたちを、そこへ連れて行ってくれない? 」  両手を組み合わせたマリスも、ケインに並ぶが、ドラゴンは、マリスに視線を移し ても、歩き出そうとはしなかった。 「はあ、やれやれ。やっぱり、人間の言葉なんか通じないのかもな。ミュミュでも いれば、多少、言葉はわかったかも知れないのになー」  ドラゴンのおとなしそうな様子から、カイルが少しほっとしたように笑った。  途端に、ドラゴンは、皆と、癒しの谷に背を向けると、密林の方へと歩いていった。  顔を見合わせた一行は、期待を胸に、黙って、ドラゴンの後に続く。  ベビー・ドラゴンが、伸び切った草を踏み倒しながら進んでいくと、ちょろちょろ と川の流れているところに出た。  川に近付くと、屈み、ぺろぺろと水を飲んでいる。  四人は、辺りを見回してみた。  癒しの谷と同じく平和な空気が流れ、ドラゴンがいそうな気配はない。  水を飲み終わったドラゴンは、また草むらの中へと入っていく。  次に、皆が目にしたのは、特殊な木の実を生やした、背の高い樹木であった。  ヒトの拳ほどもある丸い実は、赤や黄色、緑など色とりどりで、葉は三日月型を しており、人間界では見掛けないものであった。  ベビー・ドラゴンは首を伸ばし、赤い実に食いついた。  しゃくしゃくと音を立て、その大きな口からは、果実の甘い匂いと汁が、流れ出て いる。  四人は、黙って、その景色を眺めていた。  カイルも、その実を食べてみたかったのだが、ドラゴンがくれるはずもなかったの で、仕方なく、「ま、人間界じゃない食べ物食って、腹壊したり、毒だったりする かも知れねえしな」と自分に言い聞かせ、我慢することにした。  気の済むまで身を食べたドラゴンは、再び歩き出す。  しばらく歩き回った後、立ち止まったのは、草の生い茂る中にある、ただの岩の前 であった。  四人が辺りを見渡すが、特別なものは、何もない。  そのまま、ベビー・ドラゴンは、岩の近くに腰を下ろしてしまうと、目を閉じ、 じっと動かなくなった。  四人には、どう見ても、近くに、ドラゴンの住処があるとは思えない。  ケインも、ドラゴンの気配を感じることはなかった。 「……どうしたんだ? 寝ちまったのか? 」  カイルが、ドラゴンに聞いた後で、ケインを振り返る。 「はっ! 」  ケインが、ベビー・ドラゴンを、もう一度見た。  つーんとした匂いが、あたりに立ち込めた。  岩の前に座っていたドラゴンが、ぶるぶるぶるっと、身体を震わせてから立ち上が ると、その前にはなかった、緑色の泥のようなものがあった。 「……排泄してる」  ケインがぼう然と呟いた。 「うわー! 」 「きゃーっ! 」  カイルとクレアが悲鳴を上げて、飛び退(すさ)った。 「黙ってついてきてればいい気になって……ちょっと、あんた、道草食ってないで、 さっさとうちへ帰ったらどうなのよ! 」  腕を組み、マリスが、イライラしてドラゴンに言った。 「ま、まあ、待て。こいつには、悪気はないんだから」  ケインが、マリスをなだめる。 「さっさと仲間のところへ案内すればいいものを……! 仲間がいないんだったら、 あんたを焼いて食ってやるからー! 」 「ド、ドラゴンを食うのか、きみはーっ!? 」 「グピー! グピー! 」  言葉は伝わらなくとも、雰囲気からか、恐怖を感じ取ったベビー・ドラゴンは、 ケインの後ろに回り、鳴き喚き立てた。 「だいたい、ケイン、あなた、ドラゴン・マスターなんでしょ? ドラゴンの言葉が わかるんじゃないの? 」 「そ、そうなんだけど、この子は、なぜだか、『口を閉ざしてる』みたいなんだ。 何が原因なのかは、わからないけど」  マリスが、横目でベビー・ドラゴンを見る。 「もしかしたら、本当に迷子なのかも知れない。だから、こうして、うろうろして いる間に、この子の仲間が見つけてくれるのを待つのも、いいのかも知れないぜ」  ケインが必死にマリスを説得する。  ドラゴンの弱々しい瞳を、マリスが、じっと見据えた。 「……しょうがないわね。どうせ、吟遊詩人がいないんじゃ、あたしたちは元の世界 にも帰れないんだから、時間はあるけど」  マリスは、諦めたように言った。 「だったらさあ、お前、俺たちを運べよ」  カイルが強気な言い方で、ドラゴンに言った。  ドラゴンは、カイルをも、怯えた目で見つめている。 「だけど、乗せてもらおうにも、この子の胴体からすると、二人くらいしか乗れな そうよ? それに、まだ子供なんだから、乗るなんて、可哀想じゃないかしら? 」  クレアがケインに同意を求めるように言う。 「まあ、子供といえど、ドラゴンだから、人間二人くらいの体重なんて、軽いもんだ けど……なんか、可哀想だよな」  ケインもクレアに頷く。 「だったら、早いモン勝ちだー! 俺が一番乗りだぜ! 」  カイルがドラゴンによじ登り、無理矢理背に足をかけた。 「カイル、俺の話聞いてた? 」とケインが眉間にシワを寄せた。 「ピギャーッ! ピギャーッ! 」  ドラゴンは身体を揺すって、カイルを振り落とした。 「なにすんだよ! 」  懲りずに、カイルがよじ登るが、やはり振り落とされる。 「ちょっとだけ、乗せてみてよ」  今度は、マリスが飛び上がり、なんとかドラゴンの背に乗ると、首にしがみついた。 「ピーッ! ピーッ! 」  ベビー・ドラゴンがカイルの時以上に暴れると、マリスも地面に落ちた。 「こいつ、どこまでも……! 」  カイルとマリスが、キッと、ドラゴンを睨みつける。  ドラゴンは、ますます恐怖におののき、鳴き喚いた。 「待て」  ケインが遮る。  上空を見つめている彼に習って、三人は空を見上げた。  一匹の獣のようなトリのようなものが、空高く旋回している。それは、徐々に舞い 降りてきた。  近付くにつれ、それがトリではないことに、一行は気が付いた。  雄叫びとともに、翼から、ぼわっと、強い風が地面を叩き付ける。周りの草は、 はらはら飛び散り、木々も、しなって軋んだ。  よほど足を踏ん張らないと、人間など飛ばされてしまうほどであった。  それは、四人の前に着陸した。  ベビー・ドラゴンよりも、はるかに大きく、ヒトで言えば、五倍ほどの高さがある。  一つ一つが、人間の持つ盾ほどもある鱗をまとった、眩(まばゆ)いばかりの黄金色 に輝く、どちらかと言うと、東洋龍のように、細長い身体に四本の短い足を生やし、 長く尾ひれのついた尾、ベビーと同じくコウモリのような折れ曲がった大きな翼を 持つ。  二本の木の枝のような角、黄金色の鬣(たてがみ)に覆われた、爬虫類のようでいて、 違うようにも見える、身体よりは、小さく柔らかそうな鱗で埋め尽くされた顔、ワニ のような尖った大きな口には牙が覗き、赤く、鋭い瞳は、静かに、一行を見下ろして いた。 「……古代の竜……ゴールド・ドラゴン……! 」  ケインの口からは、信じられない響きの声がもれていた。  それは、まさしく、伝説のドラゴンに、他ならなかった。  ケイン以外の三人は、初めて目にするドラゴンを前に、信じられないような顔で、 ただただ突っ立っていることしか出来ずにいた。  その大きさと、魔物にはない威厳のようなもの、人間界ではお目にかかることの ない物質に思われる黄金の鱗ーーなどから感じられた神々しさに、四人とも、しばら く目を奪われ、口を利くことすら忘れてしまった。 「ピギャーッ! ピギャーッ! 」  ベビー・ドラゴンが、自分の倍以上もある東洋龍の側に、よちよちと駆け寄って いった。  ゴールド・ドラゴンの赤い眼が、じろりと、四人の人間の若者を見回した。  我に返った四人の心臓は高鳴り、カイルが、ごくんとつばを飲む。 「お、俺たち、敵じゃないぜ。そいつが、道に迷ってたみたいだったから、一緒に、 巣を探してやってたとこなんだ」  身の危険を感じずにはいられなかったカイルが、ケインが語りかけようとする前に、 言い訳をしていた。 『……そうか? ベビーの声が、敵に遭遇した時のように、恐怖にかられていたので、 てっきり、魔族が現れたのかと思っていたが……』  四人は、身を固くした。  ドラゴンは、ヒトの言語で、語りかけていた。  実際には、思念によって、意思を伝えたという方が正しい。  ベビー・ドラゴンがすり寄り、なにかを囁くような動作をしている。 「おい、あいつ、俺たちのこと、言いつけてんじゃないか? 」  カイルが冷や汗を流しながら、マリスに囁く。 「場合によっちゃ、逃げるわよ」  マリスがカイルにそう返すのが聞こえたケインは、しょうもなさそうに二人を見る。  クレアは、どうしていいかわからずに、青ざめた顔で両手を組み合わせ、おろおろ していた。  ベビーの話は、終わった。  ゴールド・ドラゴンが、顔を上げる。  四人は緊張して、ドラゴンの言葉を待った。 『あなたが、竜神のゲートをくぐってきた、ドラゴン・マスターか? ベビーが、 魔族に襲われているところを、助けてくれたそうだな。感謝する』  ドラゴンは、ケインを見下ろして、そう言った。  一同、ほっと胸を撫で下ろす。 『だが、あの二人は、彼を、恐怖に陥れたらしい』  ドラゴンが、カイルとマリスの方を向く。 「うわー、やっぱりバレてる! 」 「シッ! ビクビクしないの」  逃げ腰になっているカイルを、マリスが小声で窘(たしな)めてから、何食わぬ顔で、 ドラゴンに微笑んだ。 「怖がらせるつもりはなかったのよ。ただ、あたしは、あなたのようなドラゴンに 会いたかっただけ。ベビーに案内してもらおうと思ったんだけど、どうも意思の疎通 がうまくいかなくてね。そんなつもりはなかったんだけど、怖がらせてしまったの なら、ごめんなさいね」  その彼女のセリフには、ケインもカイルも、クレアまでもが、彼女のいつもの不敵 さを感じた。 『言語の違う者同士、ましてや、違う種族であれば、意思伝達がうまく行かぬのも 当然。ベビーよ、おそれずともよい』  ドラゴンのその言葉に、一同、またしても、ホッと安堵の溜め息を吐いたのだった。  ベビーは、腑に落ちない様子ではあったが。 『時に、そこの人間の娘よ。不思議なことに、お前は、どこか、我々の種族と似た オーラを発している。何者か? 』  ドラゴンは、マリスを見て、厳かな平坦な調子で尋ねた。 「あたしが? 」  マリスは、首を傾げた。 「……もしかしたら、あたしの守護神が、サンダガーってことが、関係しているのか しら? 」 「彼女は、獣神サンダガーの巫女なんだ」  と、ケインも口を添える。 『おお、サンダガー様だと……! 』  ドラゴンは、眼を大きく開き、マリスを見下ろした。 (様……? )  サンダガーに様を付けたのを聞き慣れなかった、マリスを始めとする四人全員が、 眉間に皺を寄せた。 『我らの種族と遠いつながりを持つ、ゴールド・メタル・ビーストの化身であられる 獣神様と、関係の深いお方であったか! 』 「え、ええ。まあね……」  関係の深いと聞いた時、マリスは、鳥肌が立つほど嫌な気がしたのだが、苦笑いで、 相槌を打った。 『なんと珍しいことか……! 』  それきり、ドラゴンは、感慨深い思いにかられたように、黙り込んでしまった。 「……それで、あのう、ちょっとお聞きしたいんだけど……」  ケインが、切り出した。 「あなたのお仲間は、どこだ? そして、このドラゴン・マスター・ソードの魔石を 知らないだろうか? 」  そう言って、ケインは、腰に差した剣を抜いて見せた。  ドラゴンの瞳は、再び見開かれた。 『魔石……ドラゴン・マスターの持つ剣の……! 』  ドラゴンの頭部が、マスター・ソードの正面にまで下げられた。  前方に突き出た長い口の両端からはみ出た牙、爬虫類や魔物とよく似た、縦長の 瞳孔に、身体を覆う鎧のように固い皮膚。一見、魔物と判別し難い容姿。  食い入るように見つめるその様子は、気の弱い者であれば、卒倒し兼ねないほど、 恐ろしい形相ともとれた。  カイルとクレアは、思わず後ずさりしてしまい、マリスも一歩下がり、側にいた ケインの背に隠れ、彼の腕を掴んでいた。  当のケインも、緊張した面持ちではあったが、怯む様子はなかった。 「マスター・ソードの力を封印した、白か透明の魔石を知らないだろうか? それを 探しに、俺たちは、『ここ』へ来たんだ」  ドラゴンは、しばらく二の句が告げず、ただただケインと、獣神を守護に持つ マリスとを、交互に見つめていた。  やっとのことで、ドラゴンは、彼らに、思念を送ることができた。 『……なんということだ! 獣神様の遣いと、伝説の勇者が、一度に、我らのもとへ ……! 』


ゴールド・ドラゴン


剣月緑ライン剣月緑ライン剣月緑ライン Indexボタン Backボタン Nextボタン