Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜6.-4〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅵ.『全力疾走』 妖精青アイコン4 ~ 対ソルジャー ~  剣月青ライン

 とうに、昼を回っていた。  ちらっと、マリスを見たケインが、ぎょっとした顔になった。 「……マリス、……武器はどうした? 」  その言葉に、カイル、クレア、クリスも驚いて振り向く。 「ふっ、どうも、あたしの破壊力に、ついて来れなかったみたいでね」 「全部ぶっ壊したのか!? あんなにあったのに!? 」 「壊したんじゃないわ。壊れたのよ」 「同じだよ! どうするんだよ、武器なしで、あんなに大勢に立ち向かう気か? 」 「武器なら、まだこれがあるわ」  手に装着したシルバー・ナックルを、マリスが自慢げに見せた。 「それじゃあ、思いっきり接近しないと意味ないじゃないか。……しょうがないなぁ」  ケインは、諦めたように、バスター・ブレードを彼女に手渡した。 「それ貸すから、壊すんじゃないぞ」 「ありがと! 」  マリスはウィンクすると、ウキウキと大剣を両手で握る。 「だーっ! だから、どうして、あなたがたは、こんな緊迫した場面で、そんなに リラックスしてんですかーっ!? 相手をよく見てください、あんなにいるんですよ!  僕がざっと数えたところ、全員で六〇人はいますよ! 後ろからも、ほら、三〇人は やってきます! 例え、運良く、隣町に入れたとしても、彼らは、どんどん出て来て、 きりがないでしょう。僕はもうヘトヘトだし、……あなたたちは、疲れを知らないん ですか!? 」  ぜーぜー言いながら、クリスが喚(わめ)いていた。 「んん~、いい響きだぜ~」カイルが満足そうに、うんうん頷く。 「ううっ! なんて人たちなんだ! 」クリスの何度目かのたじろぎであった。  クレアも息を切らしてはいたが、泣き言も言わず、皆に付いて行こうという意思は 感じられる。 「さーて、いよいよよ、皆、準備はいい? 集まってきたやつらを、一気にやっつけ るわよ! 」 「ああ、僕、マリスさんの見方、変わっちゃうなー」  クリスだけが、ぶつぶつと言っていたが、マリスの知ったことではなかった。 「ソルジャーども、かかれっ! 」  指揮官の合図とともに、前方から強化人間たちが、わっと押し寄せた。  マリスは、さっそく大剣をブン! と振る。  風圧が起こり、それだけでも、強化人間たちの身体が押し戻されるが、それらは 躊躇(ちゅうちょ)することなく、前進する。 「サイバー・ウェイブ! 」  背後に回り込んだ敵の動きを読んでいたカイルの技が、うねり出す。 「きゃあっ! 」  皮膚が溶け、べろべろになったソルジャーたちを、目の当たりにしたクレアが悲鳴 を上げる。  動きの弱まったそれらを、カイルが、どかっ! と、蹴り飛ばした。  いかにも、「俺の側にいれば安心だぜ」と、売り込んでいるようであったが、肝心 のクレアは、見てはいなかった。 「仕方がない。僕もそろそろ行きます! 」  クリスも自分の魔法剣を、敵の密集した方へ向ける。 「必殺トリプル・ぴよぴよ・ハリケーン! 」  彼のロング・ソードから風が吹き荒れ始めると、  ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ!   マリリンの仕掛けた魔法効果だった。 「う、うわああっ! なんだ、このヒヨコはぁっ!? 」 「いっ、息が出来ん! 」  小さい手乗りの黄色いヒヨコたちが、何百匹も一斉に、竜巻のごとく男たちを取り 囲み、つっ突きまくった。 (拝見するのは二度目だけど、つくづくくだらない技ね)  マリスは呆れた。 「はーっはっはっはっ! そのヒヨコの恐怖は、体験した俺にしかわかるまいっ! 」  カイルは、出来るものなら何でも自慢にしていた。  だが、一行の、華麗な技と剣さばきは、それから長くは続かなかった。 「悪あがきは、そこまでだ」  黒い制服の男たちも、ソルジャーたちも、一旦退く。  一行も、さっとまとまった。  隣町へは、もう目と鼻の先だった。  デモン教に、道を塞がれ、敵の奥からは、ウマに乗ったグラドノスキー少佐が、 新たに黒服とソルジャー軍団を連れている。 「ちっ! 町へ入れたとしても、先回りしてやがったか」  カイルが舌打ちする。 「あんな風に層が厚くては、今までのような強行突破は無理でしょう。しかも、僕 たちがやってきた後ろからも、ぞくぞくと、ウマに乗った男たちと、強化人間たちが 来てます」  クリスが、さっと目を走らせたまま、一行に告げた。 「思った通り、集結したわね。ケイン、いよいよ切り札よ」  マリスの隣で、ケインは頷き、ドラゴン・マスター・ソードを握り直す。  強化人間たちを見つめるその青い瞳には、もとは大勢のヒトであったものたちが、 あのような姿にされ、言いなりになるソルジャーへと仕立て上げられてしまったこと、 そして、元の人間の姿には戻れないことによって、悔やまれ、悲痛な表情が浮かぶ。  彼らは、もう救われない。  断じて望まなかったであろう魔物化した姿も、これ以上利用され、人々を手にかけ ることも、彼らにヒトの心が残っていれば、生きていることを苦痛に感じたかも知れ なかった。 「元が人間だった奴等に、ダーク・ドラゴンの力を使うのは気が引けるけど…… こうすることで、彼らが救われるのなら……! そして、これ以上、被害を広げない ためにも……! 」  ケインが剣を静かに構え直す。  クレアは、ハッとしたように、彼の横顔を見つめた。  マリスもカイルも、止(とど)めを刺さなくてはならない役割の彼が背負う、重い 責任を、黙って見守っていた。 (……そうなんだわ。強い人には責任がある。それを全うするためには、心に痛みを 伴う。ケインはやさしい人だから、いくら敵とはいえ、倒さなくてはならないのが 元は人間というのは、心が痛いに決まってるわ。私だったら、そんな役目は重過ぎて、 耐えられないかも知れない……少なくとも、今の私では、耐えられない)  クレアの視線は、マリスへ、そしてカイルへと移っていく。 (マリスもカイルも、それをわかってる。ケインに押し付けて安心してるんじゃなく て、彼にしか出来ないことだから、彼に任せるしかない。だから、一緒に分かち合っ ているんだわ) (私の悩みなんかよりも、もっと大規模で、プレッシャーのある、そんな戦いの中に、 今いるんだわ……! ) (……ごめんなさい。昨日はひどいこと言って。……頑張って! ケイン……! )  クレアは、口には出せなかったが、心の中で彼にエールを送り、剣を構えた。  一行より前に進み出たケインは、呪文を唱え始める。 「この世のすべての闇の源(もと)   ダーク・ドラゴンの意志よ。  我が偉大なる神の剣に、  共にすべてを解き放たん! 」  ケインの髪が、ふわりと浮かび上がる。  マスター・ソード全体を、黒い吹き荒れる風が包み隠すと、黒い西洋竜の巨大な影 となった。 「なんだ、あの不吉な影は! 」 「ドラゴン……なのか!? 」  軍服の男たちは動揺し、後ずさる。  一〇〇人近くいたソルジャーたちは、怯えたような声を出すが、命令により、次々 と黒い竜の影へと飛びかかる。  ダーク・ドラゴンは、彼らを一飲みするかのように、口を開け、一気に掬い上げる。 ソルジャーの身体は、簡単に空中に舞い上がった。  目を閉じたケインは、剣を握り直し、念じる。  黒い半透明なダーク・ドラゴンの目の部分が見開かれ、黄色く光った。  と同時に、口から黒い炎が吹き出した。  ソルジャーの数十人が炎に巻かれ、断末魔の叫びを上げる。 「クレアさん、見ないで! 」  クリスが、クレアを抱え込んだ。 「でも、……ケインも辛くても頑張っているわ。だから、せめて……」 「いいえ、今のあなたには、酷過ぎます。急いで復帰しようと思わなくていいんです。 ゆっくりで……」  クレアには、そのクリスの言葉は有り難かった。  頭では見守ろうと思っていても、まだ心が付いて行かないのだった。  ソルジャーの恐怖は、まだ彼女の中で消えない。 「……ごめんなさい、私、まだ……」 「いいんですよ、クレアさん、今はまだ……」  涙ぐむクレアを、クリスがやさしく肩を抱く。 「……おい、それ以上、うちの女子に馴れ馴れしくすんじゃねーぞ」  カイルが横目で睨む。  ダーク・ドラゴンの巻き起こす竜巻と炎が包むのは、あくまでも強化人間であった。  二〇人ほどの軍人たちは、恐怖に見開かれた目でその光景を見つめ、なすすべなく、 騒然としたままである。 「……き、貴様、魔法が使えたとは……! だが、所詮は若造、まだまだ甘い!  我々を倒さなかったことを、今に後悔するぞ! 」  グラドノスキー少佐の言葉に、ケインは、キッと顔を上げた。 「俺がお前たちに情けをかけたとでも? お前たちが人間だから、攻撃するのを躊躇 (ちゅうちょ)したとでも思っているのか……! 」  それまで見たこともない、ケインの怒りとも、遣る瀬ない思いとも取れる様子に、 一行も息を飲んで見つめる。 「強化人間たちは、元の姿には戻れないし、もう自分の意思ではどうにもならない。 それに比べて、お前たちは、まだ人間だ。自分でものを考え、自分の意思で動くこと が出来るはずだ。だから、猶予を与えたんだ。お前たち一人一人、考えて欲しい。 こんな非人道的なことがまかり通っているお前たちの組織に、疑問はないのか?   お前たちのやっていることは、本当に、世の中にとって必要なことなのか? お前 たちこそ、組織の上のヤツに操られて、いいように使われているだけなんじゃないの か? 取り返しのつかないことをしてしまったとは思わないのか? もし、ちょっと でもそう思った時、自分はどう行動するべきなのかを、考えてくれ。人間なんだから、 考えられるだろ? 自分の頭で。もうそれが許されないソルジャーたちとは、違うん だから……! 」  悲しみに、むなしさに瞳を歪ませたケインは、マスター・ソードを軍人たちに向け た。 「今度会った時も、お前たちが同じことを繰り返していたら、いくら人間でも、容赦 しない! 人間が人間を食い物にするーーそんなのは、もう人間じゃないと思うこと にする! 」 「ふん、聞けば聞くほど何を甘いことを……! 」  グラドノスキーは薄笑いを浮かべ、ケインを睨みつけると、軍人たちに戦闘態勢を 取るよう指揮する。 「ざっと、三〇人。精鋭部隊らしいが、強化人間どもよりはマシだぜ」 「僕も、まだ魔法剣の魔力は残ってますよ」 「ま、魔力が切れたって、そこそこの腕があんだろ? 」 「お互いにね」  カイルとクリスは顔を見合わせ、苦笑いした。  クレアが剣を握り直し、マリスもバスター・ブレードを両手に構えた。  一行と軍服を着た男たちの睨み合いとなり、一触即発という時であった。 『クリス~、スーちゃんたち、見つかったよぉ~! 』  どこからともなく、間の抜けた少女の声が降り注ぐ。  軍人たちも、一行も、敵を視界に入れたままで、空を見上げた。 「ああ、マリリンさん! 助かりました! 僕はここです! 早く引き上げて! 」  クリスが空中を見上げて、叫んだ。 「おい、お前! 自分だけ助かろうってのか! 」  カイルがクリスに掴みかかると、クリスは「シッ! 」と、口に人差し指をあてて から、素早く囁いた。 「皆さん、早く! どこでもいいから、僕に掴まって」  彼の差し出した腕に、カイルもクレア、マリス、ケインも掴まった途端、彼らの 見る景色は一変し、空間のうねりの中へと移り変わったのだった。  残された軍人たちは、目の前で一行が忽然(こつぜん)と消えてしまったことに、 信じられずに辺りを見回しているばかりであった。


ピンク

「うぎゃっ! なんで、あんたたちまでいるのよぉ~! 」  うねりの中の、薄いピンク色の膜の中には、マリリンがいた。 「なんでもなにも、あんた、本当に、あたしたちを助ける気がなかったってのー!? 」 「待てっ、マリス! 早まるなっ! 」  マリスがマリリンに殴りかかりそうになるのを、ケインが両腕を掴んで止める。  マリリンは、きゃーきゃー逃げ回り、クリスの後ろに隠れた。 「ここは、マリリンの結界の中じゃないか。あの子の機嫌を損ねると、結界から俺 たちごと放り出されるぞ」  ケインが諭す。  仕方なく抑えたマリスは、額に浮き出ていた血管をおとなしく引っ込めると、 にっこり笑顔になった。 「ありがとう、マリリンちゃん。助かったわ! ごめんなさいね、驚かしちゃって♥」  そのマリスの変貌振りに、ケインもカイルもびっくりして後ずさった。  マリリンは、クリスの後ろから、そろりそろりと顔を覗かせたが、にっこりと 微笑むマリスを見て一言、 「……コワい……! 」  むかっとしたマリスは、思わず握り拳を作るが、怒りの矛先をマリリンに向ける わけにはいかず、とりあえず、ケインに突き出した。 「うわっ! あぶねー! 」  ケインは無事によけられたが、冷や汗を拭う。 「あんたが止めるからよ」  マリスはマリリンに対する怒りの顔を、ケインに向けていた。  ケインは、グラドノスキーたちに見せていた表情ではなく、普段の調子に戻って いた。 「ひとまず、デモン教からは逃げられたな。奴等のいないところまで、このまま乗っ けてってくれると有り難いんだけどなぁ、マリリンちゃんよぉ」  カイルが半分脅かすような笑顔を、彼女に向ける。  マリリンは、面白くなさそうに、クリス以外の一行をじろじろ見ていた。 「ああ、そうだ。これ、お土産ですよ」  クリスがポケットから布袋を出し、中身をバラバラとこぼした。赤や緑、青に輝く 石に、クリスタルーーいろいろな色や形の宝石だった。  戦闘前に、野盗の宝箱からいただいてきたものだ。  キラッと、マリリンの赤紫の瞳が輝き出す。 「ねっ、ねっ、これ、どうしたのぉ? 」 「いやあ、マリリンさんのために、さっき僕が買ってきたんですよ」  誰も否定はしなかった。 「……本当に、もらっていいの? 」 「ええ。よかったら、スーさんにもあげてください」 「わぁ、クリス! ありがとぉ~! 」  マリリンは、宝石を両手ですくい、大喜びであった。 「この際ですから、この人たちのことも、運んであげてはいかがです? 宝石の 似合う女の子は、やさしくなくっちゃ。ね? 」  クリスが首を傾けて、やさしくマリリンに微笑む。  その貴族的な微笑みで、かなりの女性を落としてきたことが伺える。  マリリンは、クリスと宝石とを、交互にじーっと見た後、一行を見て、バカにした ように肩をすくめて笑ってみせた。  むかっとした一行であったが、皆、怒っていない振りを心がける。 「そう言えば、マリスさんは、貴族だったんですよね? かなり高位だったのでは?  ということは、貴族のお友達は多いのではないですか? 」  いきなり何を言い出すのかと、クリスを見るマリスであったが、彼が密かに送る ウィンクで、理解した。  マリスは、マリリンに、また笑顔を作った。 「あたしの国は、国際交流が盛んだったからねぇ。国内国外問わず、男爵から伯爵、 公爵、もちろん、王子様の知り合いもいっぱいいるわよ。そうだわ、今度、マリリン に紹介してあげる」 「ええっ!? 本当!? 」  マリリンは身を乗り出した。  その大きな瞳は一層きらめき、星まで浮かぶほどだ。 「その代わり、あたしたちを、ヨルムの山の近くまで、連れて行ってくれない かしら? 光速でなら、ほんのすぐそこのはずよ」 「ヨルムの山? 」  カイルとクレアは、わけがわからず顔を見合わせるが、ケインはハッとする。 「うん、いいよぉ! 」  ご機嫌なマリリンは、一気に、結界で移動中の速度を上げた。 『サンキュー、クリス。恩に着るわ』と、マリスは、目で合図する。 『どういたしまして』と、クリスもウィンクで返す。 「覚えてたのか。ヨルムの山に、皆で行こうって言ったこと」  ケインがマリスの近くに寄った。 「当たり前でしょ? 次の目的は、ケインのドラゴン・マスター・ソードよ。とんだ 邪魔ばっかり入って、つい忘れがちだったけどね」  そう。マリスは、次の目的地を、マスター・ソードに関係あると思われる、 『ドラゴンの谷』にと決めていた。  あの謎めいた吟遊詩人の仄めかすドラゴンの谷ともうひとつ、樹海の先の妖精の国。  それらは、マスター・ソードに、ケインにとって重要な場所であるらしい。 「どうせ、ヴァルの戻らない間は、ゴドーのじいちゃんの任務は中断だわ。それに、 マスター・ソードを強化することだって、目的は同じことにつながるわけだし。 だから、まったく中断ってわけでもないわ。ああ、野盗退治は中断になるけどね」  マリスは何の気なしに言った。 「ありがとう」  ケインが照れたように、小さく笑った。 「べ、別に、マスター・ソードのためだけに行こうって言ってるんじゃないのよ。 もし、魔石があるんだったら、それを見てみたいなーって……、ほら、皆だって見た いんじゃない? それに、『ドラゴンの谷』なんて、本物のドラゴンを見られるかも 知れないし、面白そうだと思っただけよ」  一瞬、彼の笑顔に、童顔の中にも大人の男らしさを垣間見たような気がしたマリス は、珍しく慌てて、彼から目を反らした。 エピローグ 「じゃあな、マリリン、クリス。またな」  ケインが上空に向かい、大きく手を振る。  マリスも、クレア、カイルも手を振る。  クリスを乗せたマリリンの結界は、もう見えなかった。空間を移動し、仲間と再会 するのだろう。  そこは、ヨルムの山の麓(ふもと)にある町だった。  デモン教などは、影も形もない。  組織との戦いは一時休戦とし、マスター・ソード関連の旅へと切り替わる。  辺りは、夕方から夜になりかけていた。  宿屋に行く前に、ここから近いというドラゴンの谷の情報を、少しでも入手して おこうと、人の出入りが多く、情報の多い酒場へと、四人は歩き出した。


看板

 木製の分厚い両開き扉を、押し開ける。 「いらっしゃい! 」 「へい、らっしゃい! 」  威勢のいい元気な男たちの声が出迎えた。  活気のある居酒屋のようで、客も多く、なによりも店員の若者たちが、生き生きと していた。 「へー、珍しく景気のいい酒場だな」  カイルが嬉しそうに、きょろきょろと店内を見回す。 「お客さん、すまねえな。今夜は大繁盛でさ、カウンターしか開いてないんだけど、 いいかねぇ? 」  人の良さそうな、だが体格のいい若い男が、カウンターを指さす。四人は、分厚い 木で出来たカウンターと、高い止まり木に腰かける。 「いらっしゃい! ご注文は……」  厨房から、店主の、太った中年の男がやってくるが、それまで浮かべていた人の いい笑みが、瞬時に止まった。 「……お、お前……ケインか!? ケイン・ランドールか!? 」  店主の男が、驚いた声を出した。 「……ハッカイ! 」ケインも驚きのあまり、目を見開く。 「なんだぁ? 知り合いだったのか? ケイン」  カイルが、のんびりと言った。  店主は、慌ててカウンターの外に出て来た。ケインも席を立ち、駆け寄る。 「ケイン! 本当に、ケインなんだな! 」 「ああ! 」 「お前、大きくなったなあ! 」 「ハッカイこそ! 」 「バカヤロ、俺はもともと大人だったろーが」 「そうじゃなくて、横が、だよ」 「それは、そうだ! 」  太った店主のハッカイは豪快に笑い、ケインの背をばんばんと叩いた。 「俺の昔の傭兵仲間で、ハッカイだ」  ケインは店主と肩を組み、仲間に紹介した。 「ケインの友達かあ。長旅で疲れただろう? 二階が開いてるから、よかったら、 使ってくれ」 「うわあ、ホントかよ? ありがてえ! 」  カイルが飛び上がって喜んだ。 「いろいろ積もる話もあるが、とりあえず食べて、今日はよく休め。明日、ゆっくり 話そうぜ」  人の良さそうなハッカイの言葉に甘え、一行は、二階の部屋に泊まることにした のだった。


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