Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜6.-3〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅵ.『全力疾走』 妖精青アイコン3 ~ ダッシュ! ~  剣月青ライン

 野盗のいた岩山を下り、隣町へと入り込んだ途端、一行の予想通り、暗黒秘密結社 の集団に出くわした。 「久しぶりね。……ええと、なんて言ったかしら? 」  先頭に立ったマリスは、腕組みをし、正面の見覚えのある、冷たい表情の軍服男に、 不敵に微笑んだ。 「グラドノスキー少佐だ。ついでに、そちらの名も、伺っておこうか、小娘ども」  ひんやりとした響きの声が、男の口から漏れた。 「あたしは、マリス・アル・ティアナ。こっちは、ケイン・ランドール、後ろは、 『その仲間たち』よ」 「おい、省略すんな」カイルが文句を言う。 「小僧どもが何人束になろうと、知ったことではない。だが、貴様たちは、少々厄介 な人物らしい故に、今のうちに片付けておこうと、我が組織での意見は一致した。 多勢に無勢というのは、我々も気は進まぬのだが、許して頂こう」 (気が進まないだなんて、よく言えたものだわ)  マリスは、隣にいるケインに囁いた。ケインも頷く。  グラドノスキー少佐の合図で、ざざざっと、後ろに控えていた男たちが武器を取り 出し、身構え、緑や黒い身体をした、例の怪物たちも姿を現した時、クレアの身体が 強張(こわば)ったのが、皆にはわかった。 「クレア、剣を使うのよ。倒すことは考えなくていいわ。身を守ることに徹するの。 はぐれそうになったら、必ず、あたしたちの誰かと一緒に行動するのよ」  囁くマリスに、クレアは怯えた目を向けた。 「怖いのは充分わかってるわ。だけど、例えスランプでも、これは正念場。酷なこと 言うようだけど、なんとか頑張って! 」  マリスの真剣さの中にある悲痛な表情に、クレアは、自分を想うマリスの友情を 感じて、頷いた。 「突破口は、あたしとカイルで開くわ。カイルには、魔法剣でなるべくソルジャーた ちの力を半減してもらって、軍服どもは、あたしがなるべく戦力を削ぐようにするわ。 カイル、先頭に選んだのは、あなたが速いのは、決して『逃げ足だから』ではないと 信じてるからよ」 「ええっ? カイルも先に行っちゃうの? 」  思わずそう言って、クレアがカイルを、弱々しい瞳で見つめる。  それを、ちらっと見たカイルは、すぐにマリスに向き直り、笑った。 「オーケー。まかせろ」  そして、マリスは、ケインには別の役割を考えていた。 「ケインは、クレアを援護して。クリスも、クレアをできるだけ援護しながら、 ついてきて」  表向きはそのような理由であったが、実のところ、クレアだけでなく、クリスの 援護も含まれる。 「目標は町の中。万が一、そこにも敵が構えているようなら、あそこに見える山まで、 一気にダッシュよ」 「ひえ~っ、ダ、ダッシュですかぁ? 」  クリスがびっくりする。 「例えだ。そのくらいのつもりで、勢いを弱めるなってことだよ」  ケインが短く説明した。 「もし、はぐれたり、目的地が変わったりしても、あたしたちの通った跡は、すぐに わかると思うから」 「えっ? なにか手掛かりを置いて行ってくれるんですか? 」  クリスだけが、わけもわからず、皆の顔をきょろきょろと見る。 「ま、それは、そのうちわかるだろう」  ケインが笑いながら、クリスの肩に、ぽんと手をかけた。 「逃げる相談は、出来たかね? 」  グラドノスキー少佐が、相変わらず冷ややかな笑みで尋ねる。  化け物じみたソルジャーたちが、一行を見て、うずうずとしているのがわかる。  クレアの緊張は、一層強まった。 (荒療治かも知れないけど、クレア、なんとか、バトルのカンを取り戻して!  どうしても、魔法がだめなら、せめて、剣で身を守るすべを、この際身に付けて)  クレアを見守るマリスは、ケインと目を合わせた。 (クレアのこと、頼んだわよ)  ケインは、わかっているという風に、マリスに頷いてみせた。  そして、もう、マリスは振り返らなかった。  野盗の武器である、大きな段平を右手に握り締める。  隣に並ぶカイルも、ダッシュの体勢になる。  目を合わせた二人は、互いの心の中でカウントに入る。  そしてーー  カウントがゼロになった。  マリスとカイルは、一気に駆け出した。 「サイバー・ウェイブ! 」  ギュウウウウウン……!   早くも、魔法剣が、銀色の霊気を放出する。  カイルは、剣を、一気に横に振り切った。  銀色の美しい波が、キメラじみたソルジャーたちを、結界のごとく近付けさせ ない。  いつかのように、魔物の部分が消滅したおかげで、それらは、どろどろに溶けた 身体で迫ってきた。  マリスの飛び蹴りでぐしゃっと頭部が潰れ、段平が、すぱあっと、他のソルジャー を切り刻む。  両手には、上等なシルバー・ナックルも装着してあり、腰には短剣と、鎖付きの 打撃武器フレイルの一種モーニング・スターがある。そして、背には、東洋から流れ てきたものと思われる、西洋で言うメイスに似た、長柄の先に大きな球のついた、 これもまた打撃系武器である錘(すい)を背負っていた。  東洋の武術を極め、重いものを持つコツを知った彼女でないと、女子には持ち運ぶ ことすら難しい。  おそれよりも、彼女には、それらの武器を使いこなしてみたい思いが、勝っていた。 「お、おのれ、若造どもが……! 」  軍服の男たちは、マリスの戦闘ぶりを知っていたため、迂闊に近寄るまいと警戒し ており、接触するのは、もっぱらソルジャーたちであった。  魔法力を温存しておく必要のある魔法剣は、溶けて半分ほどの大きさになって しまったソルジャーたちを、切り裂くことに転じている。  ほぼ我流のカイルではあったが、剣の使い手としてなかなかのものだと、マリスも ケインも、買っていた。 「きゃあっ! 」 「うわあっ! 」  クレアとクリスの悲鳴が上がる。  襲われたのではなく、化け物と化したソルジャーたちを、冷静にケインの大剣が 薙ぎ払い、彼らの目の前で飛び散る不気味な肉片に、叫ばずにいられなかったの だった。  全員揃っていることを確認したマリスは、変化したソルジャーの鋼鉄の腕に破壊 された段平を放り捨て、武器をモーニング・スターに取り替えた。  長柄の先に、鎖につながった金属球は、放射状に突き出したトゲがあり、鎧をも 破壊する威力がある。王国では、様々な武器を訓練で使っていたので、重心が取り にくく、少々扱い辛いこのような武器も、すぐに使いこなせた。  段平を砕いた鋼鉄の腕を持つソルジャーも、金属球に、叩き飛ばされた。 「うぬう……! 」  戦況を見守っていたグラドノスキーの青白いおもてに、冷や汗が浮かび、表情も こわばる。  マリスのトゲ付き金属球は、軍服の男達を吹き飛ばし、カイルの魔法剣で弱まった ソルジャーたちを、次々破壊していった。 「道は出来たわ。カイル、一気に突っ切るわよ! 」 「おう! 」  手薄な方へと、突破口役の二人は駆け出した。  その勢いになすすべなく、身の危険を察した男たちが、恐れを成し、さらに道を 譲かのように下がった。強化人間であるソルジャーたちを盾に、自分たちの身を守る 方が先立った。  一行は、全員を倒すことは考えず、体力は、あくまでも走るためにとっておく。 「はあ。なんとか、第一関門は突破したかな? 」  カイルが、さほど呼吸を乱さずに言った。  街中の路地に身を潜めたマリスとカイルは、ケインたちを待ち伏せる。 「あいつら、あたしとケインともやり合ってるから、前回よりも、あたしたちの強さ を知ってる分、腰が引けてたみたい。ソルジャーを盾に、保身になんか走っちゃって さ。次に構えているやつらが初対面だったら、もっと気合い入れてくるかも知れない。 そうなったら、今みたいにはいかないかも。魔法剣の方はどう? 」 「ああ、まだ大丈夫だろ。無駄撃ちはしてねえからな」  そのうち、ケインがクレアの手を引き、クリスと一緒にやってきた。 「なんて人たちですか、まったく! 」  クリスが、ぜーぜー息を切らしながら言う。  クレアも息を乱し、喋るどころではなかった。 「デモン・ソルジャー。『魔物のケの入った強化人間たち』よ。恐ろしいやつら でしょう? 」 「僕が言ってるのは、あなたたちのことですよぉ! 」  クリスが、はあはあ言いながら続けた。 「まったく、なんという無茶をするんです、あなたがたは! あんなに大勢の軍人 たちと、強化人間とを、風のように煽(あお)ってしまって、まったく人間業(にん げんわざ)じゃありませんよ! ケインさんも、あんな大きな剣を振り回しても、 平気な顔してるし。あなたたち、いったいどんな鍛え方をしてきたんです? 」 「んん~、いいねえ、その反応! 」  カイルが嬉しそうに胸を張った。 「俺たちは、強いヤツばっかだから、褒めないし、驚きもしないんだよなあ。お前が いると、『やっぱ、俺だって強かったんだな』って実感できて、いいや! 」  誇らし気に笑っているカイルを、恨めしそうにクリスが見上げる。 「褒めてはいないですってば。そんなあなたがたが、僕は怖いと言ってるんです」 「んん~、んん~、いい響きだ! 」  カイルが手を腰に当て、小鼻を膨らませて、満足げに笑う。 「次は、このまま町の中を通っていくわよ。山道の方が見つかりにくいかも知れない けど、遠回りだし、足場も悪いから、すぐに体力を消耗しちゃうわ。どうやら、町の 住民たちは、家に閉じこもっているようね。やつらが邪魔に思って、そう触れ回った のでしょうけど、それは、こっちにとっても好都合だわ。こういう風に、路地に隠れ ながら進んで、なるべく体力回復するのよ。でも、奴等は、その先の、町はずれの 原っぱや、森に、あたしたちを追いつめたいはずだわ。人目の付かないところで、 一気に仕留めようと、ね。そしたら、またカイルの魔法剣の出番だわ。お願いね」 「ホントに、いくさみてえだな。面白くなってきやがったぜ! 」  カイルも、いつになくウキウキしていた。 「そうだわ、カイル。剣の魔法力がなくなってきたら、ケインと交代して、クレアの 援護にまわって。突破口は、ケインのバスター・ブレードに任せましょう」 「よっしゃ! 」カイルが大きく頷き、ケインも黙って頷く。 「あ、あなたたちには、緊張感というものがないんですかっ!? 僕の目から見ても、 あれは相当熟練した人たちでしたよ! 魔法剣の魔力がなくなるだなんて、不安は ないんですか!? 」 「んん~、いい反応だ! 」  驚き焦るクリスを、またもや、カイルが、気持ち良さそうに見下ろす。 「俺は剣だけだって、充分強いんでね。カンケーねえのよ」  少しは強がりもあっただろうが、カイルのセリスを、クリスは真に受け、あんぐり と口を開いてから言った。 「ああ、僕もクレアさんの気持ちがわかってきました! こんな人たちの中にいたら、 剣の腕には少しは自信のあった僕ですら、自信を喪失しちゃいます! きっと、 あなたは、強い者ばかりに囲まれているせいで落ち込んでしまったのでしょうけど、 それは、この人たちがおかしいんですよ! だから、あんまり気にしないことですよ。 あなたの見せてくれた魔法は、決して、人並み以下というわけではなかったのを、 僕は覚えていますから」  クリスが、戸惑っているクレアの手を握り、嘆くように慰めた。 「なんで、てめえがクレアを元気付けてるんだよ? 」 「簡単に手なんか握るんじゃない」 「うぎゃっ! 」  またしても、カイルとケインの蹴りが、クリスに飛ぶ。  その様子を見ていたクレアが、くすりと小さく笑った。 「そうそう、あなたには、笑顔の方が似合いますよ」  起き上がり様に、クリスが人差し指を立てて、にっこり笑いかけた。  クレアが、再び微笑む。 「何言ってんだ、このキザ男! 」 「口説いてんじゃねー! 」 「うわー! 」  嫉妬に狂えば狂うほど、彼らはピエロであった。  クレアが想いを寄せている人物がいるとわかった時、そして、それが誰かわかった 時、彼らは、怒りのぶつけようがないことを悟る。  さて、まさしく緊張感のない一行は、休憩後に、町の中を無事通り抜け、町外れの 林の中へと入って行く。それを過ぎれば、もう次の町であった。  林には、誰もいない。一見。  日差しを遮断され、薄暗い樹々の合間では、方々から殺気が感じられたため、強化 人間たちは、間違いなく、この中に潜んでいると、一行は油断なく辺りに気を配る。  シャーッ!   木の枝を伝い、上空から襲いかかってきたのは、強化人間ーーデモン・ソルジャー だった。  ざくざくざくっ!   ソルジャーの頭から胴体に、ナイフが数本刺さり、バランスを崩した。  カイルの放ったナイフだった。 「やるじゃないの、カイル! 」マリスがウィンクする。 「今のは、この方が速かったからな」と、カイルもウィンクを返す。 「それにしても、見通しの悪い林ね。あなたのサイバー技も、大木が邪魔にならない かしら? 」 「大いになるな、やつらに木の陰にでも隠れられたら。よしっ、ケイン、交代だ」  マリスの横に、ケインが並び、後列では、クレアを、カイルとクリスが挟んだ形に なる。  方々から異様な気配と殺気が集まる。五人は油断なく、辺りを見回すと、強化人間 たちが一斉に、木の上から飛び降りて来た。  鉤爪や、その他の凶器化した手足を突き出して。  前衛のケインとマリスが左右に分かれて飛んだのは、同時だった。  空中で、マリスはモーニング・スターをぶんぶん振り回し、当たったソルジャー たちは例外なく弾き飛ばされて行く。  目が回る前に、マリスは着地し、猛進してくるソルジャーに、武器を投げつけ、 潰した。  その後、背負っていたメイスのような、東洋の武器である錘(すい)に切り替えた。  人の頭よりも一回り大きな金属球のついた長柄を、両手に構えると、押し出すよう にして、敵を突き飛ばしていく。  マリスは、東洋の玉突き棒が気に入った。なんとなく、彼女の操る東洋の武道の 型とも相性が良いのか、しっくりくるのだ。  ケインは空中に跳び上がり、バスター・ブレードをぐるっと回し、ソルジャーたち を粉砕した。  着地すると、正面からの敵に突っ込んでいき、一振りで五匹ほどを薙いで行く。 こぼれたものたちは、カイルとクリスとで切り倒す。  クレアも両手で剣を持つが、左右のナイトたちのおかげで、出番はなかった。 「先へ進むわよ! 」  長柄の向きを変え、持ち手側の尖った先をスピアのように突きながら、マリスが 声をかけながら走り抜ける。  新たなソルジャーたちが押し寄せる。 「みんな、よけろー! 」  ケインの声に、ハッとマリスが振り返ると、怪力のソルジャーが、盾ほどもある 巨大斧と化した手で、木の幹を切りつけ、木が倒れるところであった。  一行は、即座に木の倒れる方向から、身を引いた。  ソルジャーは獣の吠えるような声を出し、巨大斧をケインに振り翳した。 「木を切り倒すほどの斧よ! よけて! 」  マリスが叫ばずにはいられなかった。  だが、ケインはよけず、バスター・ブレードを横向きに支え、盾にする。  斧の衝撃で、彼の足元は地面にめり込んだ。  が、バスター・ブレードは罅(ひび)が入ることなく、斧を受け止めていた。  マリスも、カイル、クレア、クリスも、ホッとしてから、それぞれの敵に対抗する。  しばらく睨み合いの続いたケインと斧のソルジャーだが、力ずくで大剣を叩き割ろ うと斧を振り上げた瞬間、バスター・ブレードが下から救い上げられ、黒く、強化 された身体を両断した。  さっと、ケインは大剣を素早く確認するが、刃こぼれはしていない。  すぐに現れる次の敵を相手に構える。  徐々に移動していく一行は、林を抜け、山道に出た。次の町は、すぐ目の前という ところで、またしても、デモン教の軍服男たちが立ち塞がる。 「ここまで辿り着けたのは褒めてやる。だが、貴様たちの運も、これまでだ」  グラドノスキー少佐ではない、別の男が指揮を取る。  武器を手にした同じ制服の男たちと、デモン・ソルジャーたちが、横一直線に はびこっていた。


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