Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜6.-2〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅵ.『全力疾走』 妖精青アイコン2 ~ スランプ ~  剣月青ライン

「スランプなんて、一時的なものだよ。皆、そういうのを繰り返し、乗り越えていっ て、それまで以上に強くなっていくんだ。俺だって、なったことあるけど、克服 できた時っていうのは、案外あっけなかったりしてさ。だから、クレアも大丈夫だよ。 時間が経てば、元通りか、それ以上に魔法が使えるようになってるはずだよ」  落ち込んでいるクレアに、ケインが言い聞かせていた。 「でも、それは、武道の話なんでしょう? 」  クレアは、恨めしそうな目で、彼を見上げた。 「同じことよ。あたしは、武道も魔法も経験あるけど、スランプなんて、ホントに 一瞬よ。焦らないで、今まで通り修行していれば、いつの間にか切り抜けられるもの だわ」  マリスも、明るく励ました。  クリスとマリリンは、離れたところに座り、黙っている。  クレアは、気落ちしたまま目を反らし、弱々しく言った。 「大丈夫、大丈夫って言うけど、それは、あなたたちだったから、言えることなん じゃないかしら。二人は、私なんかよりも、戦闘の才能があるんだもの。だから、 すぐに克服できたのかも知れないけど、私には、才能なんてないもの。自分でも わかるわ。これは、きっと、一時的なものじゃないって」  今にも泣き出しそうな瞳は、黒く潤んでいく。 「あぁ、そうそう! 中には、そーゆー人もいるんだってねぇ。なにかのショックで、 魔法が使えなくなるとぉ、カンを取り戻し切れなくてぇ、一生そのままって言うのも 聞いたことあるよぉ。そこが、剣士とか武道家とは違うかもねぇ」  マリリンが、のんびりと言った。  クレアは、びくっと身体を震わせ、うつむいた。 「ちょっと、マリリン! 余計なこと言わないの! 」  マリスが睨むが、マリリンは知らん顔をした。 「とっ、とにかく、頑張ってるうちに、なんとかなるわよ。それは、クレアの気持ち 次第で……」 「気持ちだけじゃ、どうにもならないことだって、あるわ! 」  マリスの言葉は、クレアの今にも泣き出しそうな口調で、打ち切られた。 「今まで、皆の足を引っ張らないように努力してきたつもりだったけど、所詮、私の 実力(ちから)なんて、この程度のものだったんだわ。私は、身も心も、マリスほど 強くない。あなたみたいに、戦士としての天性の才能があって、もともと強かった人 には、わからないわ」  クレアの瞳は、涙を必死に堪えていた。  マリスは、何も言えずに、彼女を見つめる。 「確かに、マリスには、天賦(てんぷ)の才能があっただろうけど、そんな言い方ない んじゃないか? マリスだって、クレアのこと、なんとかしてあげたいと思ってるん だからさ。魔法がスランプの間は、いっそのこと、剣を使ってみたらどうかな?  違うことするのは気分転換にもなるし、剣の腕だって上達してるんだから、これを 機に実戦積めば、もっと上達していくよ」  ケインが穏やかに言うが、クレアは潤んだ瞳を、ケインにも向けた。 「ケインもマリスと同じで、生まれついての才能があったのよ。旅に出てから初めて 剣を扱った私の剣の腕なんて、たかが知れてるわ。私の実力程度じゃあ、下等 モンスターはおろか、野盗だって、ひとりも倒せやしないわ」  うっ、とケインは言葉に詰まった。  彼女に剣を教えていた彼のその反応から、現時点での彼女の腕前を、皆は理解でき た。 「だ、だから、もうちょっとやれば、野盗のひとりくらいは剣でも充分倒せるように なるってば。俺もちゃんと特訓に付き合うからさ、もう少し頑張ってみよう……」 「そういうのを、偽善って言うんだわっ! 」  その断言的な言い方に、ケインは口を噤んだ。 「所詮、あなたたちみたいな、才能があって強い人たちには、わからないのよ。呪文 を唱えようとすると、デモン教のソルジャーに襲われた恐怖が甦って……それに振り 回されるのは、私の精神が弱いからなのも、わかってる。なんとか振り払おうとする んだけど、気持ちばかりが焦って……だけど、どうにもならなくて……。  だから、そんなふうに慰められると、哀れまれているみたいに思えて、かえって 辛いの。お願い、私のことは、放っておいて。命を助けてもらっておいて、こんな ことを考えてしまうのは、自分でも嫌なんだけど……本当にごめんなさい」  堪えていた涙が、彼女の頬を伝っていく。クレアは、顔を覆い、啜り泣いた。  ケインもマリスも、それ以上、彼女にかける言葉は見つからなかった。  止めようのない風が、いつまでも岩山を吹き続ける。 「ま、いいんじゃねえの? たまには、思いっきり落ち込むのもさ。別段、悪いこと でもないさ。気の済むまで、落ち込んでろよ」  岩によりかかっていたカイルが、草をくわえたまま、気楽そうに言った。  クレアは、それには何も反応せずに、泣き続ける。 「俺には、今のクレアの気持ちもわかるぜ。確かに、お前ら二人の腕は、並みじゃな いもんな。そんなヤツらに、頑張っても、できなくてあがいてるヤツの気持ちなんか、 わかんねえだろうって、俺も思うぜ。できるヤツに励まされると、余計に落ち込む こともある。今は、そっとしといてやれよ。立ち直るのは、本人次第なんだからさ」  そう軽く言ったきり、カイルも何も言わなかった。  『治療』と『空間移動』の魔法を使い続けたマリリンが、魔力回復のために休んで いる間であった。  クレアとカイルから離れた岩に座り、遠くの暗い森を眺めながら、ケインは、ぼそ っと呟いた。 「俺は、自分に武道の才能があるかどうかなんて、考えたこともなかった。レオンの 圧倒的な強さを側(そば)で見ていると、やっぱり、自分はまだまだだなぁ、って思っ て。自分には、あそこまでの才能が感じられなかったからこそ、ひたすら追いつき たくて特訓に励んでいたつもりだったんだ」  ケインの話に、背を向けて岩に腰かけているマリスは、じっと耳を傾けていた。 「俺がスランプを乗り切る時は、力を抜いて、前向きに考えていた。だから、クレア に言ったのは、気休めじゃなくて、本当にそう思ってたからなんだけど、……単に、 俺が、単純バカなだけだったのかも」 「そんなことないわ。スランプの時は、ひらすらその時期が去るのを待つしかないん だもの。焦ると煮詰まるばかりだから、気楽に構えてた方がいいに決まってるわ」  ケインは、仲間たちやマリスからしても、何の迷いもなく、素直に、すくすくと、 まっすぐに育ってきた人物に見えた。  しかし、マリスには、彼と一緒に戦い、近くで彼を見ているうちに、おそらく彼は、 迷った時はプラスの方向に考えられ、強くなりたいという思いから這い上がり、成長 してきたのだろうと、感じられた。 「正義と偽善も、常に意識してきたつもりだったのに、あんな風に面と向かって 言われると……正義感の強いクレアに言われたってのが、余計ショックだったなぁ」  ケインは、少し淋しそうに言った。 「あたしは、自分でも強いのは自覚していたけど、才能っていうより、好きで特訓 してたから、その成果だと思ってただけ。気休めでも、哀れみでもなく、本当に クレアのこと応援していたのよ。か弱くて、バトル慣れしていないながらも頑張って る彼女に、ちょっとでも力になりたかったの」 「わかるよ。俺だって、そうだ」  それきり、二人は森を見据えたまま、黙った。 「ま、初めて戦闘に参加した仲間が、あなたたちとあれば、あのように落ち込むのも、 わからなくはありませんけどね」  二人の後ろから、クリスがやってきた。 「僕自身、傭兵として、いろいろいくさも経験してきましたが、あなたたちほど、 ずば抜けた人たちは、そうそういませんでしたよ。カイルさんも含めて」  クリスは、二人に、にっこり笑ってから続けた。 「僕は、大抵のことは器用にそこそここなせてきたものだから、あんまり練習熱心で はありませんでしたが、ダイの奴は真面目でね。正直言って、格闘に関しての天才的 な才能というものは感じられませんでしたが、あいつは、すごい努力家なんですよ。 だから、才能のある人というのが嫌いなんですね。その人たちを、努力で負かして やりたいと思っているんです」 「ダイって、誰だっけ? 」 「さあ? いつも、こいつとつるんでる、あの格闘マニアじゃないか? 」 「ああ! 」  こそこそ話す二人の会話が聞こえたクリスが、仕方のなさそうに笑う。 「あのお嬢さんも、今は焦って余裕がないだけなんでしょう。怖い思いもしちゃった わけですしね。自信さえ取り戻せば、元通りの、素直でかわいらしい人に戻るんじゃ ないでしょうか」 「なんで、お前が、クレアのこと、そんなにわかるんだ? 」  と、ケインが怪訝そうな顔になる。  クリスは、声をひそめた。 「フェミニストの僕が言うのもなんですが……うちの騎士団よりも、そちらの騎士団 の女性の方が、『いい女』に思えましてね。興味をそそられてしまい、つい目が 行ってしまうんですよ」  眉間に皺を寄せるケインに対し、マリスは満足そうに頷いた。  そこで、クリスは、真面目な顔になった。 「それはそうと、あなたたち、変な組織に目を付けられてるんでしょう? マリリン さんの水晶球で見た、あの組織の連れた、黒い魔物のようなキメラたち、あれは異常 です。今のところ、被害は診療所だけで、町の人には崇められているみたいですから、 町を襲うわけではなさそうですよね。ヴァルドリューズさんもいらっしゃらないなら、 あんなのと、マトモにやり合うことはありませんよ。彼らの仲間に魔道士がいない なら幸いです。マリリンさんの回復を待って、すぐに、ここから離れた国に行きま しょう! スーさんや、ダイを探すのは、それからでも遅くはないでしょうから」 「クリス、あなたって、思っていたよりも、いい人なのね」  彼は、マリスに笑いかけた。 「おや、ひどいなあ。まあ、マリスさんとデートしたから、僕も、こういう気持ちに なったのかも知れませんよ。またデートしてくださいね」  クリスがにこやかに微笑みながら、マリスの手を握った。  マリスが彼に手を握らせたままにしておいたのを、ケインは面白くなさそうに見て いたが、何も言わなかった。


剣ライン

 翌朝早く起きたクリスが、皆を起こした。  マリリンが、また姿を消したというのだった。 「すいません、皆さん。夕べ、マリリンさんにも念を押したんですけど、彼女、どう しても、スーさんたちを先に探したいと言って聞かなくて……、それでも、最後には、 しぶしぶ納得してくれたように見えたんですけど、朝になったら、この通りでして」  クリスが、バツが悪そうに頭をかきながら、説明した。 「おいっ、おめえら、何度俺たちを担ぎゃあ、気が済むんだよっ! 」  カイルがクリスの襟元を掴んだ。 「すいません。でも、僕も被害者でして」 「そんなこたぁ、知るかっ! 早く、あのマリリンてお子ちゃまを探さんかい! 」 「そう言われましても……。僕も、魔道士じゃないんで」  のらりくらりと躱(かわ)すクリスに、カイルが呆れかけてきた。 「なんで、お前は、仲間に置いていかれて、へーきな顔してられんだ? 」 「いやあ、いい機会だから、この際、この『白い騎士団』に入れてもらおうかなー、 なんて」 「そんなのはだめだっ! 」  そのセリフは、カイルだけでなく、ケインまでが加わっていた。 「なにも、お二人して、そんなに僕のこと嫌わなくても、いいじゃないですかー」  睨む二人に、クリスは愛想笑いをする。 「そ、それよりも、どうしましょう。私たち、どうやって暗黒秘密結社の目から逃れ たらいいの? 」  両手を組み合わせ、クレアがおろおろする。ゆっくり落ち込んでいる場合ではない ことは、わかっていた。 「確か、昨日マリリンの水晶球を見たところ、あたしの記憶だと、この一つ先の町の 門まで、奴等の見張りがいたわ。だから、目指すのは、最低でも、二つ先の町になる わね。デモン・ソルジャーだけが相手だったら、カイルの『浄化』で半減させられる けど、あの軍服たちは、人間だから効果ないし、ケインのダーク・ドラゴンの技は、 最後に取っておきたいしね」  マリスが考えていると、クリスが何かを思い付き、人差し指を立てた。 「僕の魔法剣の技もありますよ」 「魔法剣って……」  ぴよぴよぴよぴよ……と、無限のヒヨコを彷彿とさせる、皆の頭の中には、黒い 騎士団とのバトルが甦った。クリスの魔法剣の『風』に、マリリンの魔法でヒヨコの 効果をつけたものだ。 「……あんな緊張感のないモノで、魔物じみたソルジャーを……? 」  ケインもカイルも、怒るどころか、完全にしらけていた。 「やっぱり、お前は連れて行けない。こっちは、ただでさえ、メンバーは縮小され、 戦力も欠けてるってのに、そんな足手まといまで、面倒見れるか」  ケインが、信用の無い目でクリスを見る。 「どうせ、私は足手まといよー! 」  わあっ! と、クレアが泣き出した。 「えっ!? い、いや、クレアのことじゃなくて……! 」  ケインが慌てて弁解するが、クレアには聞こえていない。  目を丸くしていたマリスは、気を取り直した。 「クリス、念のために聞いておくけど、あなたの方からマリリンに連絡取ることは できないの? 」 「う〜ん……」クリスは少し考えてから、ポンと手を打った。 「そうだ。魔法剣のヒヨコはどうでしょうか? 伝書ヒヨコとして、マリリンさんの もとへ、飛んでいってもらうのは? 」 「アホかっ! 」  カイルとケインのダブル・エルボーが、クリスに直撃する。 「もういい、わかったわ。マリリンを呼ぶことは、一〇〇パーセント有り得ないのね」 「えっ? ですから、魔法剣のヒヨコで……」 「クドいっ! 」 「あうっ! 」  またしても、二人のコンビネーション・ブローが、クリスのボディーに入った。 「とにかく、今さら、変装したり、なんだりの小細工は、もう無駄だわ。奴等を、 出来るだけ一カ所に誘(おび)き寄せたら、ケインのダーク・ドラゴンで一気にやっつ けましょう! 彼らだって、町中では、あの殺人鬼どもを、そうハデには使えないで しょうから、町では、強行突破よ」 「ふっ、お前らしいな。特攻隊の気分だぜ」  マリスの作戦に、カイルが、そうでなくっちゃあ、というように、ウィンクして みせた。普段は面倒臭がるところだが、彼も、時々は、そういうこともやりたくなる ようだった。 「何にせよ、武器も防具も必要だろ? 新しい野盗リーダーに、奴等の武器を集め させておいたから、物色してみるか? ついでに、お前の甲冑も、宿屋から持って 来といてやったぜ」  カイルが、くいっと親指を後ろに向け、笑ってみせると、彼の適当に指名した 新リーダーの小男と他野盗たちが、武器を集め、白い甲冑の入ったケースも持って 来ていた。 「さすが、カイル! 気が利くじゃない! 鎧、もう諦めなきゃいけないかと思って たわ。大変だったのに、わざわざ持って来てくれたのね! 嬉しい! ありがとう! 」  マリスは、カイルの首に飛びついた。  カイルは得意気に「まあな」と笑い、マリスを軽く抱く。  クリスが、あんぐりと口を開けて二人を見てから、ケインを向いた。 「あれ? ケインさん、止めないんですか? 」 「べ、別に……仲間相手だし、マリスの方からなら……」  ケインはクリスを横目で見ながら、ごにょごにょ言い訳をした。  マリスとカイルは、さっそく、野盗が盗んでいた宝箱を開けてみる。 「ねえ、盗んで来たものを、また盗むなんて、よくないんじゃない? 」  いつもよりも、弱い口調で、クレアが言う。 「いいの、いいの。こいつらからの餞別(せんべつ)ーーつまり、もらったってことで。 ああ、どれにしようかしら! 」  マリスは、ウキウキと宝箱や、積み上げられた武器を物色した。 「あら、この段平、よく手入れがしてあるわねえ。こっちのハンマーなんて、野盗 ならではの武器よね! こんな時じゃないと使うチャンスもないわ。……あら、 シルバー・ナックルまであるわ。これは、ちょっと、あんたたちには、もったいない んじゃなくて? あたしがもらっておくわ。いいわよね? 」  マリスは、大胆不敵な笑みで、野盗たちを見渡し、有無を言わさず、武器をかき 集めた。 「クレアも、こういう防具をつけておいた方がいいぜ」  気が進まなそうなクレアには、革でできた軽めの防具を、カイルが選んだ。 「うわー、宝物もいっぱいあるなあ! これ、もらっていいですか? 」  クリスは、宝石を手に取り、喜んでいた。 「お前、戦う気あんの? 」  ケインが呆れ顔で、クリスを見る。 「いえ、後で、マリリンさん手懐(てなず)けるのにいいかと思って。彼女、光りモノ に弱いみたいなんですよ」  ウキウキと宝飾品を集めるクリスであった。  その隣で、ケインは、物色だけして、なにも盗らなかったーーもとい、もらわなか った。  彼には、伝説の武器が二つもあるので、必要ないと思われる。  白い甲冑を身にまとったマリスと、カイルは、持てるだけの武器を持ち、一行は、 山を下りていった。


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