Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜5.-3〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅴ.『蒼い紋章』 妖精青アイコン3 ~ 再会 ~  剣月青ライン

 紫の瞳が、ゆっくりと開いた。  目だけで、マリスは辺りを見回す。  そこは、暗い洞穴の中であった。  頭はぼうっとしていて、肩の傷は、ずきんずきん痛む。  気分は、よくはなかった。  横向きになっていた重い身体を、やっとのことで起こす。  怪我をした左肩は、ケインがいつも巻いていた赤い布が、包帯のように、肩から 腰にかけて巻かれ、縛ってあった。 「……ケイン……? 」  洞穴の中で、小さく呼びかけてみるが、返事はない。  彼どころか、生き物の気配すらしない。火をたいた跡も、なにもない。 (……そうだわ、ケインが……、毒と熱に浮かされていたあたしの処置をしてくれて、 ずっと寄り添ってくれていた……あれは、夢じゃなかった)  マリスは、眠っていた彼の顔と、腕の感触を思い出す。  ふと、冷たいものが、彼女の足に触れた。  マスター・ソードであった。  その時、マリスの脳裏に、ある一場面が浮かんだ。  ケインと蒼い大魔道士の部下との、戦っている場面が。 (そうだった。あたしは、サンダガーに連れられて、そのバトル・シーンを見ていた んだったわ! )  彼らの戦闘場面が、次々甦る。 (……行かなくちゃ! )  洞穴には、微かに光が差し込んでいる。マリスは、その光の方向へ、岩壁を伝い ながら、よろよろと進む。  ケインの処置と、カイルの薬が効いたおかげで、毒が回るのと、傷が化膿するのは 防げた。  頭が重く感じるのと、熱はまだ完全に下がらないまでも、彼女の身体は、よろめき ながらも、歩けるまでには回復していた。  万全の体調ではなかったが、マリスは行かずにはいられなかった。 (あたしが行っても、一緒に戦ってあげられない。でも、せめて、マスター・ソード を届けるくらいは……! )  洞穴を出ると、昨日の嵐とは打って変わった明るい日差しが、樹々の間から差し 込んでいた。  眩しさに目が慣れず、てのひらでよける。 (ケインと魔道士は、どこかしら? )  マリスは、マスター・ソードを両手に構え、そっと目を閉じる。 (あなたのご主人様は、どこにいるの? )  精神を集中させ、心の中で、そう呼びかけていた。  もちろん、剣が答えるわけはなかったが、魔力を感知することの出来る彼女は、 どこかで激しく魔力が放たれるのを捉えた。 (あっちだわ! )  彼女は、重い身体を引き摺るようにして、向かった。


剣ライン

「なかなかしぶといヤツめ」  魔道士の青白い顔の額には、汗が浮かんでいた。  彼の計算よりも時間がかかっているようで、思った以上に、魔力を消耗していたと 見える。  緑色の頭ばかりの大きい『ひとつ目』と、大剣を構えた、皮のチュニックの青年が、 向かい合う。  マリスは、近くの大木に手をつき、身体を支え、じっと戦況を見守っていた。  『ひとつ目』は、獣神の結界からマリスが見た通り、神出鬼没であったが、青年に は、もう予測が出来るようになっていた。炎の攻撃も浴びずに済み、大剣を振り回す。  だが、彼の一瞬の隙をついて、魔族が、ひとつしかない目から、炎を吹き出させる と、青年の身体は、一気に炎に包まれた。 (ケイン! )  駆け出そうとしたマリスの足が、止まる。  炎に包まれたケインは倒れずに、いきなり魔道士へと踏み込んだ。 「なっ……! 」  魔道士が慌てて、杖で防御する。  真っ赤な炎に包まれたケインの振り翳す大剣と、青い宝玉の杖で受け止めた魔道士 とは、まさに、赤と青の炎が、それぞれを包み、ぶつかっているように見える。  そしてーー  バキッ!   杖が折れたと同時に、ケインが、そのまま魔道士に斬りつけた。 「おわあああああ……! 」  魔道士の口から、悲痛な叫び声が飛び出した。  同時に、『ひとつ目』魔族の姿も消えた。  炎が引いて行くとともに、ケインが不敵に笑うのが、マリスには見えた。 「……な、なぜだ……? 貴様……! 」  肩から斜めに大きく斬り込まれた魔道士は、理解できず、困惑した表情で、ケイン を見上げていた。 「お前ら魔道士は、魔力に頼り過ぎだ。自分の魔法に自信があるほど、遠隔操作の ように魔法を操るやり方で、楽に戦おうとするんだ」  呼吸を整えながら、彼は続けた。 「俺は、幼い頃から戦場を生きてきた。気配だけでなく、殺気で見分ける術(すべ)が 身に付いてる。さっきの魔族には、気配はなかったが、戦っているうちに、下等魔族 に有りがちな、一定のタイミングと法則も、掴めてきた。それと、お前の目の動きだ」 「……私の……目……の動き……だと? 」  喘ぎながら、魔道士の目は見開かれた。 「そうだ。魔族の現れる方向を意識していたようだな。それもヒントになった。 お前を倒せば、召喚された魔族も消えることはわかっていたから、魔族に気を取られ ている振りをしながら、お前の隙も狙っていたんだ。残念だったな」 「私の……隙をつくために……、わざと、炎に巻かれた……のか……! 」 「ああ、今のはな」  ケインの目は、そこで真面目になると、大剣が、魔道士の身体を、最後まで切り 裂いた。  断末魔の叫びと供に、そこには魔道士だった黒いマントを着たものが、真っ二つの 肉塊となり、どしゃりと地面に崩れ落ちたのだった。  それを、黙って見つめるケインの横顔は、どこか憐れむようでもあった。  マリスは、身動きできずに、その場に立ち尽くしていた。  その彼が、彼女に気が付いた。 「……マリス! 」  それまでの、戦闘中の引き締まった表情から一変して、いつもの笑顔になり、駆け 出す。 「マリス、もう大丈夫なのか!? 」  ケインは、ガシッと、彼女の両腕を掴んだ。 「痛いわ」 「あっ、ご、ごめん! 」  苦笑するマリスから、ケインは慌てて手を引いた。 「おかげさまで、大分良くなったわ。まだ熱はあるみたいだけど」 「そっか」  心の底から安心して微笑むケインに、マリスは、マスター・ソードを返した。 「どうして、剣を両方とも持っていかなかったの? しかも、バスター・ブレード じゃ重いから、長期戦になった場合は不利でしょう? マスター・ソードのダーク・ ドラゴンの技なら、あんな魔道士も、魔族も、すぐにやっつけられたのに」 「そういやあ、そうだよな」  マリスは目を丸くしてから、睨むように、ケインを見上げた。 「ちょっとー、あの魔道士の結界を破ったのも、今バスター・ブレードで戦ってたの も、みーんな思い付きだったの!? 」 「えっ? 」 「勝てたからいいようなものの、偶然じゃ、意味ないでしょう? 伝説の剣を持つ 戦士のくせに、まったく、危なっかしいったら、ありゃしないんだから! もうっ、 心配したんだからねっ! 」 「し、心配……してくれたのか? 」 「当たり前じゃない! 」  目を吊り上げたマリスに責め立てられたケインは、顔を赤らめ、頭をかいた。 「俺は、ただ……マリスにも何かあった時のために、護身用に、剣置いといた方が いいと思って。そうなると、怪我してるんだから、バスター・ブレードじゃ重い だろうから、単純にマスター・ソードの方を置いていっただけなんだけど……」  マリスは、あんぐりと口を開けた。 「……それだけ? たったそれだけの理由で、あなた、バスター・ブレードで戦って たの? 」 「マスター・ソードの魔石が散って旅に出てからは、俺、ほとんどバスター・ ブレード一本で戦ってきたから、疑問にも思わなかったし」 「……まったく、なんていうか……人が好(よ)すぎるっていうか……」  開いた口がふさがらないマリスを見るケインは、微笑んだ。 「それよりもさ、俺、町へ行って、ウマでも買ってこようと思うんだ。その服は肩の ところが破れて、血まみれだから、ついでに町娘の服も買って来るよ」  マリスは、肩に巻かれた赤い布を、改めて見た。 「あんな芝居のマントでも、いろんな使い方があったりして、結構役に立つものなの ね。ちょっとした防寒にも使えたり、包帯みたいにも出来たり」 「ああ、俺のようなカネのない傭兵からしたら、いちいち防寒着買うと高いし、荷物 にもなるもんだから、ただの布で何とかしのげないかな、って考えたこともあってさ。 今回は、たまたま貧乏が役に立ったかな? 」  あはは、と彼は笑った。 「とりあえず、マリスは、さっきの洞穴で、待っててくれ。俺が町へ下りていって、 必要なものを揃えてくるよ。ついでに、ここがどこなのかも調べてくるから」 「わかったわ」  洞穴へと歩き出したマリスは、足元がおぼつかない。ここへ来る時は夢中であった ので、気にならなかったが、ホッとして緊張の糸が切れたこともあり、岩や石が ごろごろしていて、雨露に濡れた草や苔で、すべりそうになる。  突然、マリスの身体が、ふわりと浮いた。 「……! 」  ケインが抱き上げたのだった。  彼は、すまなそうに言った。 「ごめん、洞穴まで、そんなに遠くはないから、つい戻ってろって言ったけど、まだ 熱もあるんだし、ちゃんと治ってないんだから、付き添うもんだよな」 「だ、大丈夫よ。そんなことしてくれなくたって、ひとりで歩けるってば……! 」  マリスがジタバタ暴れる。 「無理すんな。こんなところに人はいそうもないから、誰かに見られてるわけでも ないんだし、遠慮するなよ。マリスは、女の子なんだから、少しは甘えろ」  マリスはバタつくのをやめた。カーッと、顔が上気していく。  ケインは微笑んでから、視線を前方へ移し、洞穴へと歩き始めた。  うっかり、お礼を言うタイミングを逃してしまった、とマリスは思ったが、ケイン の方は、そんなことは気にしてはいないようであった。  無駄のない筋肉の腕が、彼女を抱えている。  その柔らかく、心地の良い感覚には、覚えがあった。  夕べ見たものは夢ではなく、確かに、この腕の中にいたんだと、彼女は実感した。  少しだけ、彼を頼もしく思ったことを、彼女は認めた。  ケインのことは、底知れない強さを秘めた戦士だと認めながらも、まだまだ危なっ かしいような気がしないでもなかったが、魔法治療の代わりに、薬草や経験で、 マリスやクレアの手当をしてくれたことは、魔法に頼っていた彼女には思い付かない ことばかりであった。  旅をしてから、自分以外の人間を頼もしく思ったことは、ヴァルドリューズ以外は 初めてであった。  彼女は、それを、嬉しく受け止めていた。  本当は、マリスの肩の傷ーー布に覆われてはいたがーーに、ケインの腕が当たって いて、少々痛むのだったが、せっかくの厚意を無にしてはいけない気がした彼女は、 黙っていることにした。  そして、洞穴の入り口が見えてきたところであった。 「ねえ、もういい加減に戻りましょうよ」 「えぇ~? もぉ~? 」  二人がどこかで聞いたことのある声がする。  ケインが足を止め、声のする方を見る。  二人連れ男女の影が、はっきりと現れた。  顔を合わせた四人の間には、緊張感のある空気が流れた。 「あぁ~!? マリスにケインさん~! 」  間の抜けた、少女の声であった。  そう、それは、またしても、マリリンとクリスであった。 「あっ、あんたたち! 」 「お前たち……! 」  マリスとケインは同時に叫ぶが、 「はー、今度は、お姫様抱っこで、お姫様ごっこですか? 相変わらずの騎士 (ナイト)ぶりですね、ケインさん」  まったく悪びれる様子もないクリスが、目を丸くしている。  マリリンが、赤紫色(マゼンダ)の瞳を大きく見開き、お口も大きく縦に開くと、 二人を指さした。 「うわぁ~! お姫様ごっこだって~! スーちゃんに言いつけちゃおーっと」 「バッ、バカッ! やめてよっ! 」  マリスは慌ててケインの腕から飛び降りたが、考えてみれば、スーに言いつけられ たからといって、どうということはないのだった。 「ところで、お前ら、今度こそ、逃がさないからな! 」  ケインが、マリリンの腕をむんずと掴んだ。 「何すんのよぉ、痛いじゃないのよぉ! 」 「デートすれば、クレアの治療をしてくれる話だっただろ? よくも、俺たちを担い でくれたな。約束は約束だ。絶対に守ってもらうぜ」 「うわ~ん、クリス、助けてぇ~! 」  マリリンが泣きわめくが、クリスは肩を竦めた。 「だから言ったじゃないですか、マリリンさん。意地悪はもうやめて、彼らは本当に 困ってるんですから、今度こそ、助けて差し上げたらどうです? 」 「ふん、わかったよぉーだ」  頬を膨らませたマリリンは、ぷいっと横を向いた。   ケインが、マリリンの視界に立ち入った。 「ペナルティーとして、もうひとり、治してもらうぜ。マリスの怪我も治せ。毒の 治療もできるだろう? 」 「ええーっ! マリスさん、お怪我なさったんですか!? 」  反応したのは、クリスであった。 「マリリンさん、早いとこ治療しておあげなさい。毒が少しでも残っていたら、大変 ですよ! 」  ケインとクリスに詰め寄られた彼女は、渋々、マリスの左肩の後ろに回り、赤い布 を解いたマリスの傷口に、触れない辺りで、手をかざす。  紫に腫れた傷跡が、急速に消えていく。と同時に、マリスの気分も良くなって いったのだった。  マリスが、痛みのなくなった左腕をぐるぐる回すと、なんの支障もない。 「治ったわ! 熱も下がったみたい! 」  マリスは嬉しそうにケインを向いてから、マリリンに向き直った。 「マリリン! 」  ボカッ!  「びえーっ! 」  マリスがマリリンの頭を殴ると、マリリンは火がついたように泣き出した。  両手を腰に当てたマリスが、追い打ちをかける。 「あたしたちを担いだバツよ。こんな辺鄙(へんぴ)なところにまで来ていたなんて、 いったいどーゆーつもり? あんた、本当に、クレアのこと治す気なかったっての?  ちゃんと責任取ってもらうわよ。さあ、早くあたしたちを、昨日会った町へ運んでよ。 そして、今度こそ、クレアの治療をしてもらうからね。当然のことながら、タダで お願いするわ! 」 「ええ~ん! 」  マリリンの悲鳴に誓い泣き声が、洞穴に充満した。 「やれやれ。治った途端に、これか」  唖然としているクリスの横では、ケインが肩を竦め、だが、大いに安心したように マリスを見つめたのだった。


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