Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜5.-1〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅴ.『蒼い紋章』 妖精青アイコン1 ~ 結界の外へ ~  剣月青ライン

 蒼い大魔道士ビシャム・アジズは、黒の大魔道士と呼ばれるゴールダヌスと敵対 するとも、好敵手(ライバル)とも噂されている。  半ば魔神と化してしまったという伝説の大魔道士であるゴールダヌスと、ほぼ同等 の実力を持つ。  マリスの聞くところによると、アジズは、マリスやゴールダヌスの祖国である ベアトリクス王国を、喉から手が出るほど欲しがっている、と。  マリスと、ベアトリクス王国セルフィス王子の高い魔力にも関心があり、ケインの 持つ伝説の剣をもなんとかしたいと、アジズ本人から語られたことのあるマリスと ケインにとって、最大の敵であるといえた。 (マリスとセルフィス王子のことは、価値を感じたから、手に入れたいんだとしても、 俺の剣に関しては、単に邪魔だから、どっかへやっちゃいたいだけに過ぎないんだろ うけど)  目を閉じているマリスを抱え、片膝をついた姿勢のまま、油断のならない目で、 ケインが魔道士を見上げている。 「まさか、本当に、お前があの場にいようとは。マスター・ソードのケイン・ ランドールよ」  魔道士は、表情のなかった顔を、少しだけほころばせた。が、それは、親し気な 微笑というより、してやったりという見下す笑いであった。 「蒼い大魔道士様の占いとやらが、当たったってわけか? 最も、お前たちの仲間に は、ちょくちょく出会ってるけどな」  ケインが、苦笑いをする。  魔道士は、もとの無表情に戻る。 「まだ名もないあの新人魔道士が、エルマ公国で貴様を見掛けたと報告に来たのでな。 それ以前にも、砂漠で遭ったらしいが、大魔道士様は、あまり本気には取らずに おられた。  今回の、エルマでは、どうやら、貴様の単独行動らしいという、その新人からの 報告により、それでは、遠くへは飛べまいと踏んだ大魔道士様が、エルマの周辺で、 貴様を捜すよう、私に命じられた。例の王女とヴァルドリューズと、離れたのが、 貴様の運の尽きであったようだ」  魔道士は、細い目で、ケインを見下ろした。 (……どうやら、こいつは、マリスのことを、どこかの町娘とでも思っているようだ な)  ケインは、ふとマリスを見る。  毒で全身が痺れ、頭も意識も朦朧(もうろう)としている彼女は、意識のない振りを したまま、実際話すこともままならなかったが、耳を傾けていた。  もし、ケインを知る新人魔道士プーの報告が正確であったなら、彼女の瞳の色を 確認していたなら、その魔道士には、彼女がアジズの探すベアトリクス王女だと、 すぐにわかったはずであった。  そして、幸いなことに、クレアとの特訓の成果が現れていたマリスは、白い甲冑を 装着していなくても、魔力を抑えることに成功していた。  といって、意識が薄れつつあるマリスも、彼女を抱えるケインも、この魔道士の 結界の中にあり、蒼い大魔道士への直行便に乗っけられている。不利な状況である ことには代わりはない。  魔道士が、彼女の正体に気付いていないらしいのが幸いした。  ケインは、出来るだけ、魔道士に話を合わせ、注意を、自分の方に向けようとした。 「今回に限って、遭遇したのが、新人魔道士の方じゃなくて、上級の魔道士のあんた だったとは、俺も運が悪かったぜ。やっぱり、ヴァルたちと離れたのが、いけなかっ たなぁ。……それで、蒼い大魔道士は、俺をどうする気だ? 」  魔道士は、前方を見据えたまま答える。 「マスター・ソードに大変興味を抱いておられる。なにしろ、その剣は、大魔道士様 に限らず、魔道士の間でも興味深い剣なのでな」 「だけど、これは、手に入れた本人にしか使いこなせないんだぜ」 「そこなのだ、厄介なのは。以前、貴様とマスター・ソードを手に入れようとして、 失敗したザンドロスは、勝手に魔神バール・ダハを召喚しようと目論んでいたようだ が、馬鹿な奴だ。結局は、貴様に破れた。  大魔道士様は、なんとかマスター・ソードを手に入れ、剣の謎を解明するおつもり だ。そのためには、貴様ごと手に入れなければならないというのが、大変不本意で あるようだが」 「それじゃあ、俺を洗脳してマスター・ソードを操ろうとしていたザンドロスと同じ か。剣を研究し、用が済んだら、俺を消すつもりで」 「ほほう。物わかりがいいな」  魔道士が、わざと感心した声を出す。 「だがな、マスター・ソードも俺も、魔道での戦いに慣れてなかった二年前とは違う。 そう簡単には、捕まらないぜ! 」  言うが早いか、ケインは、マリスの握っていたバスター・ブレードを素早く掴むと、 マリスを脇に抱えたまま、魔道士に向かっていった。 「ふっ、悪あがきを」  魔道士が、『光速』で移動中の結界を止め、右手を、彼に向ける。  切りかかると見せたケインは、魔道士と自分たちとの間の『空間』に、剣を振り 下ろした。 「なっ、なにを……!? 」  バスター・ブレードは、空間を切り裂ける。  結界を破られた魔道士はダメージを受け、苦しそうに跪(ひざまず)いた。  そのままケインは、マリスもろとも割れ目に身を投じた。


青ライン

 突然、視界が開ける。  それまでの時空のうねりから、景色は一変していた。  激しく雨が降り、雷鳴の轟く、嵐のまっただ中であった。 「なっ……なに? 」  空中で、うっすら目を開くマリスを右手に抱えたまま、ケインはバスター・ ブレードをその手に持ち替え、左手でマスター・ソードを引き抜いた。  下は、川幅のある、流れの速い川であった。  身体中を、激しく雨に打たれながら、一気に川へ急降下する。 (ちょっと、なにするのよ! 魔道士の空間移動は、現実の世界じゃどこ通ってるか わからないんだから、やたらめったら、そこから飛び出すのは、危険極まりないの よ! )  と、捲(まく)し立てたかったマリスであったが、黒いソルジャーの毒に冒(おか) された身体は動けず、口を利くのもままならない。 (こんなことなら、もっと早く意識を失っておけば良かったのにー! )  朦朧とする意識の中であっても、マリスはそんなことを後悔していた。  魔道士の登場により唱え損なった呪文を、ケインは、再度唱えていた。 「マリス、起きてたら、息を止めろ! 」  言いながら、マリスの頭を自分の胸にしっかりと、固定するように、抱え込む。  二人は、川へ突っ込んだ。  衝撃は、最小限で済んだ。  二人の身体は、半透明の黒い竜の背に掬(すく)い上げられた。


黒竜

 どこをどう飛んできたのか、マリスにはわからなかった。  だが、マスター・ソードに棲むダーク・ドラゴンが二人を運び、地面に着地すると、 ケインがマリスを洞穴に運んだらしいことはわかった。 「ダーク・ドラゴンが洞穴を見つけてくれて、助かった。あの魔道士のいたところ からは大分離れられたけど、用心に越したことはない。マリスの魔力は押さえられて いるみたいだから、運がよければ、このまま見つからずに済むし、見つけられたに しても、多少の時間は稼げるだろう。その間に、応急処置をしておこう」  彼女を地面にゆっくり降ろすと、ケインはマスター・ソードを立て、つい最近、 洞窟でしたのと同じように、念じて、剣先に、鈍い光を灯した。 「ちょっと、ごめんな」  うつぶせに寝かせられたマリスの、背のファスナーが開けられていく。  左の肩甲骨から肩にかけて、数本、ソルジャーの錐が抉った、生々しい傷がある。 「やっぱり……毒のせいで、傷口が、紫色に腫れてきてる。そのまま、動かないで」  マリスが目を半分開く。  柔らかいものが、マリスの肩に当たり、吸い取られていくのが、彼女には感じられ た。  ケインが、傷口から毒を吸い出しているらしいことがわかった。  小さく呻き声がもれる。 「痛いか? もうちょっと我慢してくれ」  温かい唇がもう一度触れる。血液と一緒に毒を吸い上げ、吐き出す。それを繰り 返す。  彼の髪を伝うしずくが、彼女の背に落ちる。  痛みと痺れとで、マリスの意識は、ほとんど失われかけていた。 「これで、だいたい毒は抜けただろう。カイルからもらった化膿止めの薬を塗るけど、 ちょっと染みるかも知れないよ」  彼の指が傷に触れた時、激痛が走ったおかげで、マリスは失いかけていた意識を 取り戻した。 「火で消毒すれば完璧なんだけど、あれは残酷だよな。女の子だから、火傷(やけど) の痕(あと)が残っちゃうのも嫌だろうし。それに、火を焚けば、見つかる危険もある からな。染みるか? でも、もうちょっと我慢してくれよ」  言いながら、彼は、ぺたぺたと彼女の背に、薬を塗りたくった。 「……い、痛いってば……! 」  マリスは、絞り出すような声で、やっとのことで言った。 「気が付いたか? 」  ホッとしたようなケインの声であった。 「……気絶して……おきたかった……のに……! 」  痛みで目を強く瞑ったまま、マリスが途切れ途切れに言う。 「それだけ喋れれば大丈夫だ」  ケインの手が、マリスの額に触れた。 「……やばいな。熱が出てきたか」 (毒攻撃受けて、雨に打たれて、川にも飛び込んだんだから、当たり前だわ)  それは、声にはならなかった。 「化膿止めの飲み薬もあるぜ。苦いかも知れないけど、飲んでおくか」  ケインがマリスを仰向けに抱え起こし、小瓶の液体を口へ流し込む。 (苦っ! 苦過ぎるっ! )  青臭い、様々な薬草を煎じた薬の匂いと、出し切った茶殻が発酵したような、 はたまた腐ったチーズのような匂いと消毒の匂いの混じった液体を、目を瞑ったまま 顔をしかめて飲み干すと、マリスの意識は遠のいた。 「まずかったか? 大丈夫か、マリス? 」  心配そうなケインの声を聞きながら、マリスの意識は、そこで止まった。  ケインは、斜めにかけていた赤い布(芝居の仕事の時にもらったマントだった)を 広げ、マリスの身体を起こして抱えたまま、彼女と自分を包んだ。 (風の術を弱めにして、温風に出来るだろうか? )  包んだマントの対角同士を結び、飛ばないよう、下になった角の部分に座り、右手 で掴んだマスター・ソードの柄を地面に付け、左手にマリスを抱えたまま、ケインは 慎重に念じた。  温かい風を起こすことは出来た。彼の思い描くような、適度な温風であった。  彼が黒魔法を使えば使うほど、剣の中のダーク・ドラゴンと仲良くなっているのか、 意思も伝わり易くなっていく気がした。    そのうち、彼とマリスの服も、髪も、肌も、乾いていった。


剣

  (……寒い……。でも、温かい……)  次第に意識がはっきりとしていったマリスは、ゆっくりと目を開けた。  ケインの顔が、あまりにも近くにある。  彼は目を閉じ、眠っているようだった。  マリスは、自分が、無駄のない筋肉でできた弾力のある腕に、抱えられていたこと に気が付いた。  彼女の頭痛も、多少収まっていた。  朦朧としていた意識も、はっきりとしてきた。  カイルの薬が効いてきているのだと思った。  自分の服も、髪も、自分だけでなくケインの方も、乾いている。  マリスには、なんとなく状況を察することができた。  おそらく、ケインが、マスター・ソードの黒魔法を加減して使い、自分たちの身体 を乾かしたのだろう。  その後、身を隠すのに、火を焚いて温めるわけにはいかない中では、原始的な方法 ではあるが、マントに二人とも包まり、彼が自分の体温で、悪寒に震える彼女を温め ていたのだろう、と。  ケインの胸に凭(もた)れかかっていたマリスには、どくん……どくん……と、心臓 の鼓動が伝わる。  それを聞いているうちに、再び眠気に襲われたマリスは、寒さも痛みも、気に ならなくなり、代わりに、温かさと心地良さが訪れる。 (人の肌って、……こんなに、柔らかかったっけ……)  ぼうっとしながら、そんなことを考えていたマリスは、目を閉じていった。


gold羽

『よお、久しぶりだな』  その声には、彼女は聞き覚えがあった。  おぼろげに、白い顔に吊り上がった緑色の目、人相の悪い金髪長髪男が見える。 「……サンダガー!? 」  マリスは、ガバッと起き上がった。  痛みなどは感じない。町娘の服は、肩のところは破れてもいない。  そこが、普通と様子の違うことがわかる。  それまでいた洞穴と違い、ぼやーっとした、何色とも判断し難い景色から、異空間 にいる、と。  はたまた、ただの夢であるのか。 『情けねえなぁ。てめえが、そこまでダメージ受けるなんざあ、珍しいこった』  彼女の守護神である獣神は、からかうように笑った。 「ちょっと、笑い事じゃないでしょ? あたし、ホントに苦しかったんだから。今度 ばかりは、もうだめかと思ったんだからね! 出てくるんなら、もっと早く出て来た らどうなのよっ! 」  獣神は、腕を組んで笑った。 『そういつもいつも俺様をアテにするんじゃねえよ。俺様は、気の向いた時にしか 出て来てやらねーんだからよ』 「……サボってんじゃないわよ」  マリスが横目になる。 『一命を取り留めたと思って安心しやがって。やっぱ、てめえは、かわいげねーな。 あーあ、おめえなんかに『つく』んじゃなかったぜ』  マリスは、ぶすっとして獣神を見る。 『それにしても、おめえ、ヴァルドリューズがいないと、なんにもできねーのな。 情けねえ! 笑っちまうぜ! はっはっはっ! 』  腕を組んだまま、そっくり返って笑うサンダガーを、余計に不機嫌な顔で、マリス は見ていた。 『あいつも、グルーヌ・ルーの力を借りてるから、普通の人間にはできないことまで、 できるわけだがな』 「そう言えば、ヴァルの様子、わからない? 」  サンダガーは、腕を組んだまま、ちらっと、マリスを見た。 『わかるけど、秘密だ』 「なんでよ」 『言っただろう? 俺様は気まぐれなんだよ』 「ごまかさないでよ」  獣神はニヤつくのをやめ、少しだけ真顔になる。 『分野が違うことには、首を突っ込まないのが、神々の間の決まりなんだ。だから、 余計な詮索はしないことにしてるんだよ。どうせ、知ったところで、お前には関係 ないんだからな』  マリスには、なんとなく、彼は、ヴァルドリューズの様子は詳しく知らないのだろ う、と思えた。 『それはそうと、お前、最近、あのマスター・ソードの男と、随分親しいじゃねえか』  獣神は、突然、話を変えた。 「親しいって……なによ? あんただって、見てたんじゃないの? クレアは怪我 しちゃうし、カイルは彼女に付き添ってるんだから、今動けるのは、あたしとケイン しかいないでしょう? 」 『そんなことは、どーでもいい! 俺様が言ってるのは、そんなことじゃねーよ。 さっき、マスター・ソード関係のヤツとも接触してただろ? 本来、あんなものは、 マスター・ソードの保有者だけが会えばいいもんだろ? それを、ヤツは、お前に まで、自分の存在をちらつかせやがった。それが気になる。お前、実は、俺様の知ら ないところで、ジャスティニアスのヤツと、密約交わしてるんじゃねーだろーな? 』  サンダガーは、じろじろとマリスを見回した。 「は? 何言ってんのよ。単なる偶然でしょ? マスター・ソードを造ったのが、 ジャスティニアスって神様だっていうのも、さっき聞いたばかりなんだし」 『俺様は、どーも、あのケインて男は好かん。いずれ、俺様に楯突(たてつ)くような 気がするぜ』 「ケインが? なんで? あなたとかかわるようなことがあるの? 」 『ヤツが、直接俺と関係はなくとも、俺とジャスティニアスの間には、関係あるんだ よっ! 』  サンダガーは、地団駄を踏まんばかりに、イライラしていた。 『だから、わかったか。お前は、なるべく、あいつらから離れろ。ジャスティニアス の使いとか、マスター・ソードの関係者とは接触するな。だいたい、ヴァルドリュー ズのヤツまでが、俺様に内緒で、マスター・ソードの一つ目の魔石なんか見付けやが って……! なーに考えてんだ』  マリスは、だんだん、獣神がだだっ子に見えて来てしまい、真剣に話を聞く気が しなくなってきた。 「ねえ、あなたのわけのわからないそんな話はどうでもいいから、あたしを早く治し てくれない? 毒攻撃受けて、熱も出てるんだから」  サンダガーは、眉と口を、への字にひん曲げた。 『このワガママ娘が! 俺様をなんだと思ってやがる! まだ自分の立場がわかって ねえみてえだな。俺様が、たかがひとりの人間ごときを守ってやるなんてことは、 数百年から千年に一度しかない一大イベントなんだぜ? お前が好き勝手暴れて こられたのも、たいした怪我を負わずにいられたのも、ぜーんぶ、俺様のおかげ なんだ! それを、感謝もせずに、アゴでコキ使おうとは、この不届き者が! 』  完全に機嫌を損ねたサンダガーは、そっぽを向き、腕を組んだまま、黙ってしまっ た。 「……悪かったわよ。そうよね。あなたの籠(かご)を受けられるってことは、相当 ラッキーなことなのよね? だからこそ、あたしは素手でも充分強いのよね? 日頃 から感謝すべきだったわ」  マリスは、おとなしくそう語り、従順な目で、彼を見上げた。 『ふん、当たり前だ。おめえが強いのだって、俺様譲りなんだからな』 「これからは、ちゃんと感謝するから、機嫌を直して。ね? お願い、カミサマ♥」  マリスは両手を祈るように重ね、にっこり笑ってみせた。 『……てめえ、砂漠の時みてえに、調子のいいこと言って、まーた俺様をノセようっ てんだな? もう騙されねーからな! 』  サンダガーはガミガミ怒ると、また『ふん! 』とそっぽを向いた。 (えーっ、じゃあ、どうしろっていうのよ? もー、めんどくさいわね)  マリスの方も、両手を腰に当て、呆れ返るが、永遠に、このような夢の中にいる のも嫌だったので、仕方なく尋ねた。 「どうしたら、機嫌直してくれるの? 」  獣神は、少し考えてから、振り向いた。 『お前、俺様を拝め! 』 「は? 」 『お前だって巫女なんだからな。俺様の力を、もっと受け継ぎたくば、俺様に、毎日 とは言わないから、祈りを捧げろ。ポペの砂漠には、俺様の神殿もあることだしな。 俺様だって、人々から崇められる神に昇格したってことでな』  マリスは、口をぽかんと開けた。 (なーにが『ポペの砂漠』に神殿よっ! せっかく、あたしが名付けようとしたのに、 先にラクガキしちゃってさ。しかも、あんな大変なところ、二度と行きたくもないわ) 『俺様に祈りを捧げれば、貴様も、よりパワー・アップし、俺様との絆(きずな) だって、深まるはずだぜ。そうしろよ。そうだ、それがいい! 』  彼は、マリスにビシッと指を突きつけ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。  マリスは、別に彼と絆を深めなくても構わなかったのだが、ここは仕方なく従う 素振りをする。 「……わかったわ。あなたを崇拝するわ」 『はーっはっはっ! これで、俺様も、一般の神々のように、人間に崇め奉られる 存在になったぜーっ! 』  サンダガーは両手を腰に当て、踏ん反り返って、大声で笑った。 (なるほど、行くとこ行くとこ邪神邪神って言われて、気にしてたのかしら?  こんなことで、獣神サマはご満足らしいわ)  マリスは呆れたように、力なく笑う。 『それじゃあ、小娘、今から、貴様に面白いものを見せてやろう。ついてこい』  サンダガーは、腕を組んだ格好のまま、すーっと移動していった。  それを、マリスは走って追いかけていく。実際の怪我をした彼女ではなく、夢の中 のようなものであったので、彼女でも走れはしたが。 (一緒に連れてってくれればいいのに。まったく、気が利かないんだから)  心の中で文句を言いながら、マリスは獣神の後を追いかけた。


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