Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜4.-1〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅳ.『吟遊詩人の唄』 妖精青アイコン1 ~ 情報収集 ~  剣月青ライン

 翌日、町の、若い男女の出で立ちで、マリスとケインは食堂を訪れる。  この村で購入した衣服は、洗練された先進国の出身であるマリスからすれば、 悲しいデザインであったようだが、とにかく目立たないようにするためには、致し方 なかった。  この日、寂れた食堂は、珍しく賑わっていた。  二人がテーブルにつくと、賑やかな理由はすぐにわかった。  吟遊詩人である。  三角帽子を被った、二〇代ほどのまだ若い男と見受けられる。  吟遊詩人には欠かせない弦楽器を持つが、庶民の楽器にしては珍しい、小型の竪琴 リュラを背負っていて、離れたテーブルで、客とペラペラ話をしていた。 「あら、リュラだわ。この辺りでは珍しいわね」  マリスが、その楽器に目を留めた。 「それでさ、旦那、この先のダフロ山では、昼間は山賊、夜は魔物が出るそうなんで さあ」 (なに? 魔物? )  ケインとマリスは互いに目配せすると、食事を続けながら、その吟遊詩人の話に 耳を傾ける。  が、その客が「食べてる時に魔物だなんて、やめてくれ」といって、彼を追っ払っ てしまったので、その話は中断されてしまった。  その後も、懲りずに、他の客にも話しかけるが、ことごとく追い払われてしまい、 とうとう二人のところへと、回ってくる。 「やあ」  気軽に声をかける吟遊詩人。  帽子を深々被っているので、顔は見えないが、声の感じから、人の良さそうな 雰囲気であることがわかる。 「きみたち、僕の情報いらない? 」 「何を知ってるんだ? 」ケインが尋ねる。 「北の王国ファルガームから南の島まで。僕の冒険の旅による貴重な体験談を聞き たいなら、銀貨一枚からお願いします」  詩人は、皮の巾着袋を、テーブルの上に置いた。 「さっき、どこかの山では、昼は山賊、夜は魔物が出るって言ってただろ? その話 を、詳しく聞きたいな」  ケインが言うと、吟遊詩人は、残念そうな溜め息をついた。 「なんだ、そんなことか。ダフロ山だよ。この村を、西方面に行ったところにある、 二つ続きの小さい山さ」 「魔物って、どんなものが出るんだ? 」 「さあ、僕は見たことはないけど。噂では、黒い靄(もや)とか、トカゲのちょっと デカいのとからしいよ」  下等モンスターらしいことが、二人にはわかった。 「ということは、例え次元の通路があったにしても、それは自然にできたもので、 巨大ボスはいないだろうから、放っておいても大丈夫ね」  マリスが小声でケインに伝える。 「ねえ、きみたち、それよりも、僕が南の島に行ったときの話を、聞いてみたくは ないかい? きみたちだって、いずれその地へ向かうかも知れないでしょう? 」  男は、はしゃいだ声を出した。 「いい。別に聞きたくない」ケインが冷たく断る。 「だったら、……そうだ! サルみたいな巨人族と、ある剣士が戦った話は? それ とも、南の海に住むクラーケンのことは知ってる? 草原のケンタウロスは? 」  次々繰り出される途方もない話に、ケインはうんざりした目で彼を見ているばかり である。 「ねえ、本当に聞きたくないの? 」  あまりのしつこさに、とうとうケインが折れた。  安いから聞いてやる、さっさと済ませろ、との条件付きで。  男は嬉しいあまりに飛び上がり、椅子を寄せてきて、足を組んで座った。 「じゃあ、とびきりの冒険話を聴かせてあげよう。南の海のクラーケンだよ」  ポロロ~ン  詩人は、膝の上で抱えたリュラの弦を、奏でてみせた。  柔らかい、美しい音が、品良く鳴り響いた。 「おいおい、唄で、かよ? 」 「当たり前じゃないか。僕は吟遊詩人なんだぜ。それじゃあ、いくよ~! 」  詩人の男は、これまでの柔和な顔を、途端に険しくさせたかのように、弦を激しく 弾き出した。  柔らかかった音色は、爪を立てた、鋭い音を発した。  そして、彼は、低く、野太い声で、唄い始めたのだった。   竪琴ライン  それは、穏やかな航海だった  太陽は熱く、空気はけだるく、波も温かい  ウミドリまでもが、ぼう然と飛び、どこへいくのか  そんな日だったのさー  突然黒雲が空を隠し、  穏やかだった波は、形相を変え、  鬼のように怒り狂う  何事か  ただの嵐でないその中で  乗組員が見つけた!   黒い海の中から現れた、そいつを見て叫んだのさ!   タコだ! タコのバケモノだ!   他の奴等も騒ぎ出す  イカだろ!   よく見ろ、クラゲだ!   いや、タコだ!   巨大イカーッ!  クラゲのバケモノーッ!   大ダコーッ!   看板を狂ったように駆け回る船員たち  クラーケンの長い足が一振り  そして、みんな死んだのさー!    竪琴ライン (……なんだったんだろう、今のは……? )  ケインもマリスの目も、彼に釘付けであった。 「とまあ、こんな感じです」  男は帽子を取ると、腕で額の汗を拭い、朗らかに笑う。  さらっとした栗色の、セミロングの髪が覗くが、またすぐに帽子を被ってしまった。 「……なんか、後味悪い唄だな」  ケインがぽつんと呟いた。 「……なんか、リュラの奏法も、違う気するし……」  と、マリスもぽつんと呟いた。 「やかましいぞ! 朝っぱらから気色の悪い唄なんかうたうな! 」 「こっちは、食事中なんだぞ! 」  周りの客からは、明らかにクレームが発生していた。 「待って! ねえ、あなた、何か、他に知ってることない? 」  食堂から追い出された吟遊詩人を、マリスは追いかけた。  弦楽器リュラを背負った、しょぼくれた後ろ姿が、立ち止まる。 「どんなことが聞きたいんです? 」  詩人は、テンションの下がった声を出した。 「例えば、どこかに魔道士の医者がいるとか、魔物が出るにしても、もうちょっと 普通のヤツとか、なんでもいいから、もっと身近なものよ」  彼は少し考えてから、そのうち思い付いたように顔を上げた。 「ああ、そういえば、ヨルムの山の、もっとその先に、伝説のドラゴンの谷があると 聞いたことがありますよ」 「……そういうおとぎ話みたいなのじゃなくて、もう少し現実的なものよ」 「そうそう、ある樹海を隔てて別の次元に入ると、妖精の住処(すみか)があるとも 言われていますね。そこには、ある勇者を待っているものがあると聞きます。その 勇者っていうのは、世にも珍しい剣を持っている人らしいんですよ」 「なんですって? 」  またまた非現実的と思われる話であったが、この話には、マリスは引っかかった。 「勇者と妖精が、なにか関係あるの? 」  思わず聞き返すが、 「おーい、マリス、……なんだ、ここにいたのか」  食堂から、ケインが出て来るのに気を取られ、再び視線を吟遊詩人に戻した時には、 そこには、誰もいなかったのだった。 「ちょっと、吟遊詩人の人! どこに行ったのー? 話は、まだ終わってないのよー」  きょろきょろと辺りを見渡し、マリスが呼びかけるが、不思議なことに、彼の姿は、 どこにもなかった。  まるで、始めから存在していなかったように。 「どうしたんだよ、マリス。勝手に出て行っちゃって」 「さっきの人に、もっと他のことを知らないか聞こうと思って、ついさっきまで話し てたのに、急にいなくなっちゃったのよ」 「あの吟遊詩人がか? 」 「ええ。一瞬で消えるなんて、魔道士じゃあるまいし……。だいいち、あの人は、 魔道士なんかじゃなかったわ。魔力は感じられなかったもの」 「あの男、ただのおかしな吟遊詩人とは違うのか……? だったら、一体何者……? 」  マリスは、吟遊詩人の立っていた場所を、目を凝らしてみる。  ケインも、マリスの見ている方向を向く。  マリスは、彼の言っていたことを、頭の中で反芻(はんすう)し、考えていた。  妖精の住処と伝説の剣を持つものーーそれは、ミュミュとケイン、または、カイル に関係あるというのだろうか? と。  キツネにつままれたような気分であった。


葉ライン

「なあ、バヤジッド、この近くに、魔道士の医者はいないか調べられないか? 」  吟遊詩人から聞いたダフロ山に向かいながら、ケインが木のペンダントを開き、 木の魔道士の肖像画に話しかけた。 「そうですねぇ、魔道士の医者ごときを見つけるには、こちらからは遠過ぎて、よく はわかりませんが……」  人間のものとは思えない、何重にもいろいろな音程の声が重なった声が答えた。 「じゃあ、魔物や、次元の通路の情報は? 」 「そうですねえ。南の海のクラーケンなんかどうです? 」  ケインもマリスも、目が点になった。 「あのさあ、さっきもそんな話を聞いたばかりなんだけど、それって、流行りの冗談 か何かなのか? 」  呆れたケインが、力なく尋ねる。 「おや、そうでしたか? 私が先日、あなた方が行きそうなところを占ったところ、 南の海も候補に上がったものですから」  バヤジッドの意外そうな声に、ケインもマリスも目を丸くした。 「へえ、そうなんだぁ? そもそも、南の海って、ホントに、そんなもんいるのか? 」 「そのような言い伝えがあると聞いたことはありますが、正確にはわかりません。 なにしろ、私は、南方面には、ほんの数えるほどしか赴いたことがありませんから」 「六〇〇年以上生きてるのに? 」と、マリス。 「そうなんです。私の体質が、どうも南には不向きみたいでして、以前、友人に用が あって、南国へ行った時、あの熱さと湿度に耐えられずに、身体が反り返って、傾い てしまったんですよ。それ以来、行ってないですね」  マリスとケインは、顔を見合わせた。 (どーゆーことなの? この人、本物の木で出来てんの? ) (……なのか? )  二人は気を取り直した。 「そうだわ、バヤジッドさん。傷が早く治る薬なんて、持ってないかしら? クレア が、今大怪我しちゃって大変なの。ここらへんには魔道士の医者がいないから、もし、 薬だけでもあれば、早急に、こっちに送ってもらいたいんだけど」 「ええっ!? 」  ペンダントの絵の動きが、ピタッと止まる。 「どなたかお怪我をされてしまったんですか? ああ、だから言わんこっちゃない!  やはり、ヴァルドリューズさんがいなくては、あなたがたの旅は無理があるんですよ」  うっ、とマリスが黙る。 「なあ、そんなことよりも、傷薬はあるのか? それだけ教えてくれ」  ケインが、少しムッとする。 「傷薬ですか? そうですねえ……ありません。魔道士は、自分で回復魔法がかけら れますから、必要ないので」  木の魔道士は、あっさり否定した。 「……ああ、そう……」  ケインは、がくんと肩を落とす。 「やっぱり、あの診療所に頼るしかないかしら……」  マリスがケインを見る。 「今、皆さんのおられるあたりには、特にたいした魔物もいないようですよ。ところ で、ヴァルドリューズさんは、まだ時間がかかりそうなんですかね? 早いとこ 戻ってきていただかないと、皆さん、本当に危ない……」  ケインが、ペンダントを閉じて、無造作にポケットにしまう。  バヤジッドはそれに気付かず、ごにょごにょとまだ喋っていたが、やがて、それも フェイド・アウトしていった。 「結局、たいした情報は得られなかったわね。……となると、ダフロの山賊たちでも 締め上げてみましょうか? 」  ケインは、そう言ったマリスの顔を見て、溜め息を吐くと、ひとこと言った。 「とりあえず、聞いてみるか」


山

 そして、目標地点に着いた。 「いるいる! 大きいのやら小さいの、ハゲにモヒカン、大きな宝箱を抱えて酒盛り しているアタマの悪そうな野盗たちが! 」  岩に隠れて様子を伺うマリスが、嬉々としている。 「あくまでも、情報収集が目的だからな。わかってるよな? 」 「うん」 「……ウソだろ? 」  ケインにはお見通しであったが、構わず、既にマリスは走り出していた。 「あなたたち、ちょーっとお聞きしたいんだけど」 「なんだ、この町娘は? 」  山賊たちは、人相の悪い顔を向けた。 「この近くには、魔道士のお医者さんはいないかしら? または、魔物が出るという こわーい噂を聞かなかった? 」  山賊たちは、大きな杯を手にしたまま、じろじろと彼女を眺め回した後、目配せを 交わし合う。 「知らねえな。それより、ねーちゃん、お医者さんごっこだったら、俺たちが教えて やるぜ! 」 「こわーい目にも、合わせてやろう! 」  杯を放り出すと、狂気に満ちた雄叫びを上げ、賊は、一斉に襲いかかった。 「待ってました! 」  マリスは、ひらりと飛び上がると、先頭の者に、どかっ! と蹴りを入れた。  それが呻き声を上げて吹っ飛ぶと、後ろの者も、巻き添えを食い、吹っ飛ばされる。  何が起きたかわからず、はたまた走り出したら急には止まれず、後から山賊の波が 押し寄せる。  幾度となく繰り出されるハイ・キックに、大の男が、哀れなほど呆気なく、次々と 飛ばされていった。 「この小娘が! 」  段平を大きく振り翳した禿げ頭が、マリスの後ろを取った。  それを、難なく、すいっとよけた後、マリスが、刀のみねの部分を、片手で、 がっしり掴む。  賊は、信じられない顔になる。  彼女の手を振り解こうと、躍起(やっき)になるが、びくともしない。  その間にも、マリスの方は、他の賊たちを蹴り飛ばしている。  かかってくる山賊の数が徐々に減ってきた頃、マリスは、禿げ頭から段平を引った くり、放り投げた。  刀を奪われ、思わずよろける賊の足を、引っかけて転ばせ、足首をしっかり掴むと、 マリスは、賊の身体ごとぶんぶん横に振り回した。 「なんてことしやがるーっ! 」  他の賊たちは、叫びながら、弾き飛ばされていく。 「もうその辺でやめとけ」  マリスが振り回している賊の禿げ頭を、ケインが両手で挟んで止めた。 「いいじゃないの。もうちょっとだけ」 「だめだってば。こいつらをいじめに来たんじゃないんだから! 」  ケインは力づくで、そのまま賊を取り上げた。  スキンヘッドだったため、すべってしまい、賊は勢い余って、そのまま、ぽーんと 飛んでいった。  ケインは一歩踏み出すが、わざわざ取りに行くこともないと判断し、やめた。  そして、マリスによって弾かれ、積み上げられている山賊の山に向かって言った。 「あんたらに、聞きたいことがある。魔道士の医者を知らないか? 魔物の噂でも かまわない。なにか知っていることはないか? 」  立ち上がれる賊は、ひとりもいない。  皆、呻き声を上げるばかりである。 「答えないと、首の骨へし折るわよ」  まだ口の聞けそうな賊を、掘り出したマリスが、首に腕を引っかけた。  賊の男は、恐怖に見開かれた、血走った目になり、慌てて喋り出した。 「魔道士の医者は知らねえ! だが、この先の、ニーデル山には、魔物が出るって 噂だ。確かに、そう聞いた。だから、俺たちも、そこを避けて、移動してきたんだ。 本当だ! 」  マリスの表情が輝き出す。  掴んでいた賊を、元通りに転がし、ケインを振り返った。 「聞いた? ニーデル山には、魔物が出るんですって! 魔道士の医者は相変わらず わかんないけど、魔物情報第一号ねっ! 」 「あ、ああ……」  突っ立っていたケインであったが、次第に腹を抱えて笑い出した。 「なによ? なにがおかしいの? 」 「いや、……マリスって、やっぱり暴れてる時が、一番楽しそうだな、って」 「まあ、なによ。そんなことないわよ」 「良かったよ。クレアのことで、まだ落ち込んでるんじゃないかって思ってたから」  おかしそうに笑うケインは、片目を瞑った。 「たいしたお姫さんだな」 「……それ、褒めてるの? なんだか、ビミョーね」  眉を寄せるマリスだったが、ケインが自分のことを心配してくれていたのがわかり、 怒るに怒れないでいた。  そこへ、人の声が聞こえてきた。 「え~ん、え~ん! 」 「そんなに泣かないでくださいよ。困ったなぁ」  どこかで聞いたことのある男女の声だ。  二つの人影が、さらに近付いて来る。 「あ~ん、あ~ん、スーちゃあ~ん、スーちゃあ~ん! 」  そうこうしているうちに、彼らが、二人の目の前で立ち止まった。  ピンクのひらひら衣装の上には、似つかわしくない黒いマント、金髪のくるくる 巻かれたセミロングに、胸元には、小さい水晶球を下げている小柄な少女。  もうひとりの男も、金髪のセミロングで、皮のチュニックを着た、身なりから旅の 剣士とわかる。  ケインとマリスが、ばったり出くわしたその二人は、まさに、即席で結成された 『現実主義の黒い騎士団』を名乗る、魔道士の少女マリリンと、優男(やさおとこ) 剣士クリスであった。 「ああっ! 男女(おとこおんな)のマリスだぁ~! 」  目を真っ赤に泣きはらしたマリリンが、マリスを指さし、のんびりとした大声を 張り上げる。  その甘ったれた喋り方は、相も変わらず、マリスの神経を逆撫でした。 「これは奇遇ですねえ。マリスさんに、ケインさん」  クリスが親し気な笑顔で進み出た。 「お前たち、どうしてここに? 」 「あなたがたとバトルをしている最中に、『魔道士の塔』の邪魔が入って、お互い、 空間を伝って逃げたでしょう? あの時に、仲間たちとはぐれてしまったんですよ。 だから、スーさんもダイも、あのよくわからない魔道士とイワコウモリも、みんな どこに行ったのか、行方がわからないんです」  ケインの質問には、クリスが、さらっと答える。  その間中ずっと、マリリンは「スーちゃあ~ん、スーちゃあ~ん! 」と、ぎゃあ ぎゃあやかましく泣いていた。 「ところで、そちらも、いつもの人たちとご一緒じゃないんですね。いやあ、それに しても、山賊が累々と転がっている、このような治安も風景も悪いところを、お二人 で歩いていたなんて、随分変わったデートですね」 「デートじゃないっ! 単なる情報収集だよ」  にこにこしているクリスに、ケインが即座に否定した。 「おや? あなたたち、付き合ってたわけじゃないんですか? 」 「俺は、『デートで、何も、こんなところに好き好んで来るわけない』って意味で 言ったんだ」 「では、付き合ってはいない、と? 」  詰め寄るクリスに、ケインはたじろいだ。  ちらっと、目だけでマリスを見るが、マリスは別段変わらない様子だ。 「……ま、まあ、……付き合ってるわけじゃ……ないけど」 「それなら良かった! だったら、僕とお付き合いしませんか? マリスさん」  優し気な笑みを湛(たた)えたクリスが、マリスを正面から見据え、その手を握った。 「こら、気安く触るんじゃない! 」  ケインとマリスが、クリスの手を払い除けるのは同時だった。 「なんでですか? 付き合ってないって、言ってたじゃないですか」  けろっとした顔で、クリスがケインを見る。 「彼女は、お前なんかが簡単に、近付ける人じゃないんだぞ」 「じゃあ、ケインさんはいいんですか? 」 「俺は、ヴァルから、彼女を頼むって言われてるんだ」 「悪い虫がつかないように、ですか? 」 「いや、そういうのとも、ちょっと違うが……」  二人の男がごちゃごちゃやっている最中に、マリスはひらめいた。  さっと、少女魔道士に向き直る。  マリリンは、まだビービー泣いていた。 「マリリン、あなた、治療魔法できるわよね!? 」  そのマリスの声に、ケインも、ハッとして、マリリンに注目した。  マリリンは、涙で髪が頬にへばりついたぐちゃぐちゃの顔を上げる。 「それが、どうしたっていうのぉ~? 」 「できるの? できないの? 」 「できるけどぉ~、なんなのぉ~? 」  マリスは興奮気味に、彼女の細い肩を掴んだ。 「治療して欲しい人がいるの。お願い! その人を治してあげて! 」 「そうなんだ、マリリン! 」  ケインも、真剣な表情で続く。  マリリンは、わけがわからなそうに、マリスとケインの顔を交互に見つめる。 「あなた方の方にだって、魔道士の方が、お二人もいるじゃないですか」  クリスが、首を傾げる。 「わけあって、今は別行動しているのよ。クレアが重傷を負っているの。なんとか 一命は取り留めたけど、彼女を助けるために、魔道士の医者を探していたの。あなた だって、まったく知らない仲じゃないんだから、お願いよ、クレアを助けてあげて! 」 「頼むよ、マリリン! 」  マリリンは、しばらく、ぽか~んと口を開けていたが、我に返った。 「ふぅ~ん、そうなんだぁ~。あのおねえさんがねぇ~。……あ! 」  途端に彼女の目が、小ズルく輝いた。 「だったら、あんた、マリリンちゃんに、あやまってよぉ~」  マリリンの人差し指が、マリスに突きつけられた。 「なによ、なにを謝るってのよ? 」 「それよぉ、その顔よぉ。いっつも、マリリンのこと、いじめるじゃないのぉ。 マリリン、なんにもしてないのにぃ」 (なに言ってるのよ。あんたが、ぶりぶりしながら、あたしに突っかかって来るん じゃないの! )  と言いたかったマリスも、クレアのためだと、抑えた。 「わかったわよ。……今まで、悪かったわ。ゆるしてくれないかしら? 」  マリスがしおらしく、頭を下げた。  マリリンが、ずいっと進み出て、マリスを見上げる。 「だぁ~めぇ! 」 「なんだと、このガキ! ヒトがおとなしく謝ってやってるってのに、話が違うじゃ ないのよっ! 」 「きゃっ! こわぁい! 」  マリスがぶつ真似をすると、マリリンは大袈裟に耳を塞いで、しゃがみこんだ。  その仕草が、マリスには、余計にカチンと来るが、それも抑えた。 「ねえマリリン、ふざけないでよ。あたしたち、一刻も早く、クレアを助けたいの。 お願いだから、治療してあげて。もちろん、ただでとは言わないわ。あたしにできる ことなら、なんでもするわ。だから、……お願い! 」  マリスが真剣に頼み込む。  マリリンは、おそるおそる立ち上がる。  その芝居がかった動作も、マリスには気に入らなかったのだが。 「じゃあさぁ、そこのお兄さんが、デートしてくれたら、治してあげてもいいよ」  今度は、マリリンの指は、ケインを指していた。 「えっ? 俺? 」


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