Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜3.-2〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅲ.『禁忌(タブー)』 妖精青アイコン2 ~ ソルダルムの医者 ~  剣月青ライン

 隣町へ到着したのは、夕方過ぎであった。  怪我人に負担をかけず、休み休み、ゆっくり進んできたためだった。  道中は、野盗に出くわすこともなく、たいした山も越えずに済んだ。  これで、一安心と思いきや、三人が町民に尋ねると、この町にも魔道士の医者は なく、ただの医者のみであった。 「当分は、安静にしていないとなりませんな」  中年のまだ若い医師は、クレアの診察が終わると、そう告げた。 「かなり高熱が出ている。おそらく、細菌の感染によるものだろう。ごく弱い菌でも、 体力が弱まっている時や、ましてや、深い傷を負っていたら、起こり得ることだ。 アルコールと薬草で応急処置がしてあったからまだ良かった。これで、最悪の事態は 避けられそうだ」  その医師の言葉で、はあーっと、三人は安心して床に崩れた。  だが、医師の言葉には、続きがあった。 「ただし、完治には、リハビリを含め、一ヶ月は必要だろう」  三人は、普段どれだけ魔道に頼っていたかを思い知った。治療の呪文さえ唱えて しまえば、怪我など一遍に治ってしまうのに、薬や薬草で治療するのがここまで難儀 であるということを、改めて実感した。  同時に、普段は気にしていなかった薬草の存在が、とても有り難く感じる。  以前、白魔法を使えたマリスは、旅をして魔法が使えなくなってからも、常に ヴァルドリューズが隣にいたため、魔法で治してきた。そのため、特に必要として いなかったので、薬草のことは詳しくは知らない。  となると、魔法には縁のなかった傭兵であるケインやカイルが頼りになった。  病院のベッドが空いているということで、クレアをしばらく病院に預けることに する。  彼女の身の回りの世話を、カイルが買って出た。着替えや手当は女性看護師がする ことになっているので、カイルはあくまでも雑用だった。 「おい、カイル。俺たちと離れてるのをいいことに、ナースさんたちに手ェ出すん じゃないぞ」 「おおっと! 相変わらず、鋭いなー、ケイン」  そんな冗談が、彼らの口から出るようになったのは、余裕の出て来た証拠だった。  マリスとケインは、診療所に近い宿を取った。


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「マリス、そろそろ聞かせてくれないか? 」  夕食後、宿に戻ると、ケインが切り出した。  彼がマリスの部屋に入ると、ドアを閉め、窓もしっかりしまっていることを確認し、 誰にも聞かれないよう壁からも離れ、部屋の中央に二人で座り、インカの香を焚く。 「デモン教のヤツと、あのキメラ。カイルの『浄化』の技が、俺の助太刀のためでは なかったんなら、いったい何のためだったのか」  ケインは、声のトーンを低くして、尋ねた。  マリスも、低い調子で話す。 「あの男が言ってたわ。あれは、キメラーーつまり、合成獣なんかじゃないって。 キメラとは、違う生き物同士を融合させたものよ。神の造りしものを、人為的に融合 した、本来造ってはならない生物なの。  キメラ造りに精を出しているのは、大抵がヤミ魔道士で、奴等の中には、魔物同士 を融合させ、新たな魔物を作り出している輩なんかも、いるそうよ。そのようにして 造った魔物は、好きな時に召喚でき、普通の魔物よりも確かに召喚が出来、手懐け やすく、命令にも忠実らしいわ。  だから、あたしは、最初にあの変な〇〇三六号ってキメラを見て、やっぱり、 デモン教のバックには、ヤミ魔道士がいたのではないか、とも思い直したの。  だけど、あの男は言ったわ。『あれは、キメラなどではない』って。  頭がヤギ、上半身が人間の男で下半身がヤギのゴート・デーモンていうのが、 ついこの間の洞窟にもいたでしょう? あれに似た筋肉質のキメラのようなあいつは、 緑色の体液を流していた。それだけで、ヤツが普通のキメラではなく、魔物と融合 されたものだということがわかったんだけど、ではなぜキメラではないって、あの男 は言ったのかしら? それが、ずっと気になっていたの」  ケインは、マリスの話に、じっと耳を傾けていた。 「カイルの魔法剣の技は『浄化』。魔物には致命的だわ。あのキメラが、魔物同士 融合されたものだとしたら、一撃でやられていたはずよ。だけど、身体の周りが溶け ただけで、まだ生きていたわ。ということは、ヤツは、純度一〇〇%の魔物ではなか ったわけ。つまり、考えられるのは、魔物と、他の生き物との融合だということよ。 溶けたのは、魔物の部分だけで」  話しているマリスは、次第に緊張していく。  聞いている彼も、同じであった。 「どの魔物との融合かということではなくて、問題は、もう片方の生物は何か、 ということ。それと、……その製造法だわ」 「製造法……? 」 「そう。彼は、キメラじゃないって言ってた。それは、もしかしたら、キメラとは 製造法が異なるってことでもあるんじゃないかしら? クレアが感じたところによる と、デモン教には、魔道士はいないみたい。もしいれば、教祖を魔術で洗脳し、彼女 の術で口を割らせるなんてことはできないはずだって」  マリスとケインの視線が、ぶつかり合う。 「……まさかとは思ったけど……、実はさっき俺も気が付いたんだ。奴等の正体に ……」  ケインが静かな口調のままで、話し始める。 「あいつ、俺の剣を見て、バスター・ブレードだって知ってた。『魔道士は一緒か』 なんてことも聞いてきた。多分、ヴァルのことだ。あの男も、あの化け物も、俺の剣 を見て、怯えてたのは確かだ。怯えたから、襲ってきたんだ。俺もあの時、あの化け 物は、魔物なんだと思った。だけど、カイルの技で、完全に消滅するわけじゃなくて、 皮膚が溶けただけだったから、あれ? って思ったんだ」 「でも、彼らには、どうも、いい加減な情報が流れていたみたいね。『バスター・ ブレードを持った少女と魔道士の組み合わせ』だなんて。いくらあたしがヴァルと 旅を続けていて、女子が持つには大きいロング・ブレード振り回していたからって、 それをバスター・ブレードと勘違いするなんて……どうやら、情報網は、たいした ことなさそうね」  ケインは首を横に振った。 「奴等の情報は確かだよ。そのおかげで、俺はピンと来たんだ」  マリスは不思議に思い、ケインを見る。 「マリスがジャグの村で、クレアの精神の中で巫女と戦っていた時、俺とヴァルが トアフ・シティーで、領主と魔道士を倒しに行ったのを覚えてるか? あの時、俺は、 ジュニアの魔術で、女になっていたんだ」 「……ああ、そう言えば、そうだったわね。あの時のケイン、可愛かったわね」 「……思い出さなくていいから! 」  からかうように笑うマリスを、ケインは横目で見る。 「とにかく、ただの女装じゃなく、女の子の姿になっていた俺がバスター・ブレード を持ち、ヴァルと、奴等とで戦闘になった。そのことが、彼らデモン教の組織に、 正確に伝わったんだろう。あの軍服の男が、さっき、『ジャクスター』がどうのって 言っていただろ? ジャクスターってのは、領主と一緒にいた魔道士の名前なんだ」 「そうだったの……」 「マリスだって、奴等の正体は、もうわかったんだろう? 」  マリスは、引き締まったケインの面に、引き締まった瞳で、頷いてみせた。 「間違いない。デモン教は、きみが名付けた言い方で言えば、『暗黒秘密結社』だ。 そして、あの化け物はキメラではなく、違う製造法で造られたものーーすなわち、 魔物の肉を食べても魔物化しなかった人間『デモン・ソルジャー』だ……! 」  ケインとマリスの考えは同じであった。


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 翌朝、マリスは、町娘の格好に着替え、村人風姿のケインと出かけた。 「いつもの少年服の方が似合ってたな。マリスには、やっぱり、そういうおとなしい 服は似合わないな」  ケインがくすくす笑う。  だが、彼もここの村人と同じ皮のチュニック姿であり、傭兵には見えず、いつも 背負っている大きな剣は、持って来ていない。 「仕方ないじゃないの。あのカッコは敵に見られてるんだから。あたしだって、 こんなダサダサなカッコ、イヤだけど、あいつがいっぱい仲間連れて迫ってきたら 困るでしょう? ヴァルが戻ってくるまでは、奴等とはこれ以上関わらない方がいい んだから」  しばらくは、身を隠す彼らは、なるべく目立たないようにすることにしたのだった。  ヴァルドリューズの空間を渡る魔法が使えれば、簡単ではあったのだが。  町の食堂で、カイルと落ち合う。 「どう? クレアの様子」 「ずっと眠ってるぜ。熱がまだ高いけど、傷の方は治り始めてるって。巫女だと治癒 力が常人より高いから、らしいんだ」  カイルが肉をバクバク頬張りながら、いつもの口調だった。 「良かった……。なんとか回復には向かっているようで」  マリスとケイン、カイルは顔を見合わせ、ほっとした。  朝食後に、彼らは誰もいない野原へと移動する。 「なんだって!? 」  マリスとケインは、自分たちの見解を話すと、カイルの表情も深刻になった。 「どうするんだ? 奴等、今のうちに潰しておこうって言って、俺たちのこと、血眼 になって探すかも知れないぜ。変装しても、クレアが動けないんだ。奴等に、クレア を見つけられたらヤバいぜ。  だいたい、ケイン、お前が、あの時、あの男も一緒に殺しとけばよかったんだよ。 あいつは、俺たちがこっちの方角に歩いてくのを見てたんだからさ、じきに、この村 を探索に来るだろうぜ」  カイルが、ケインを「甘い! 」とばかりに睨む。 「あいつまで殺しちゃったら、それこそ、暗黒秘密結社が、あたしたちを追いかけて くるでしょう。あたしたちが村を出て行ったのは、ソルダルムの住民みんなが知って るのよ。村を出たところで、デモン教の男が殺されてたら、あたしたちの仕業だって、 村人全員が証言するに決まってるわ。  いいのよ、今回は。あの男には脅しをかけてやっただけでね。それに、奴等はすぐ には追ってこないかも知れないわ。多分、ヴァルが一緒だと思ってるでしょう。 あちらには、魔道士はついていないみたいだから、迂闊に、こっちには手は出せない と思っているんじゃないかしら。こっちも、引くって言っておいたんだし」 「じゃあ、なんでお前ら変装してんだよ? 」 「念のためよ。この町に聞き込みが来ても、今までのあたしたちのような成りをした 人を、ここの住民が見たことないければ、ここには来なかったのかと思って、他の村 を探しに行くかも知れないでしょ?   クレアの怪我が治るまでは、あたしたちもおとなしく、なんとかやり過ごさなく ちゃならないんだから。今までの、あたしとヴァルの旅とは違うの。あたしの判断 ミスで、もうこれ以上犠牲を出すことはしたくないの」  カイルもケインも、悲しそうなマリスの表情を見る。 「……そういうことなら、診療所の先生にも、変な聞き込みをされても、俺たちの ことは知らないと言ってくれるよう、それと、クレアを匿(かくま)ってくれるよう、 頼んでおこう」  カイルを先頭に、マリスもケインも、診療所へと向かった。  その診療所の手前で、ふと、カイルが足を止めた。 「隠れろ」  短くそう言うと、建物の間に身を潜める。  診療所の前には、例の黒い軍服の男が数人押し寄せ、医師と揉めていた。 「ちっ! もう追手が来やがったか」  カイルが舌打ちする。 「四人連れの若い男女を見なかったか。ひとりは大怪我を負っているのだから、 ここにいるはずだ」 「私は知らん」  威圧的な口調の男に、先の医師が断固と言い返す。 「怪我をした娘の顔はわかっているんだ。患者のいるところへ案内しろ」 「病人に迷惑だから、もう帰ってくれ! 」 「なあに、なるべく静かに見学するつもりだ。安心しろ」  男たちと医師のやり取りは、まだ続いていた。 「クレアを連れ出してくる」  様子を伺ったまま、カイルが小声で言った。 「病室は知ってる。ついてこい」  彼らは、カイルの案内する病室へと急ぐ。  石造りの建物の、端の窓から、カイルが室内を覗き込む。  二人には、待っているよう合図すると、窓に手をかけ、そうっと押し開けた後、 ひょいっと、音もなく、身軽に室内に入り込んだ。 「きゃっ! 」 「シーッ! 」  患者の世話をしている女性看護師が、驚き、悲鳴を上げかけたが、カイルが急いで 彼女の口に手を当てた。 「そこのクレアって娘(こ)の知り合いだ。少しの間、彼女を連れ出すけど、外にいる 軍服の男たちには黙ってて欲しいんだ。お願いだ! 奴等には、クレアがここにいる ことは黙っていてくれ。頼む! あんただけが頼りなんだ! 言う通りにしてくれた ら、後でデートするからさ」  カイル、手を握り、真剣な眼差しで、じーっと見る。  どぎまぎした女の頬は、みるみるピンク色に染まっていく。  彼女が頷くのを見届けるまでもなく、彼はクレアを抱きかかえると、もと来た窓 から、ひらりと舞い戻る。  と、ほぼ同時に、部屋のドアがバタン! と開いた。 「やめてくれ! 勝手に入るなんて、病人に失礼じゃないか! 」  ずらずらと続いて部屋に押し入る男たちを止めようと、医師が声を荒げる。  窓の下に身を潜めたカイル、ケイン、マリスは、部屋の様子に聞き耳を立てた。  冷たい表情の男たちは、じろじろとベッドに寝ている患者たちを見て回る。  そのうち、一番奥のベッドに目を留めた。 「おい、女。このベッドだけ患者がいないが? ここにいるやつらなどより、もっと 重傷を負った娘は、どこにいる? 」 「そのような方は、存知ません」  先の女が、平成を装いながら答えた。 「いないものはいないんだ。そんな大怪我をした娘などは来なかったと、何度も 言っているだろう? 町の医者は私しかおらんが、その娘に魔道士がついていれば、 わざわざここに来る必要はないのだから。わかったら、もう帰ってくれ! 」  どこか腑に落ちない男たちであったが、医師の言葉にしぶしぶ病室を出て行くこと に。  しばらくしてから、看護師が窓の下に隠れている彼らに声をかけた。 「あの人たちは、お帰りになりましたわ」 「サンキュー! みんな、あんたのおかげだ、恩に着るぜ! 俺、なんだか、きみに ホレちゃいそう」  カイルが、彼女の手をまた握る。  ポーッと、看護師の頬が上気していく。 (クレアを膝に抱えたままのたの体勢で、まったく、よくやるよ……)  一先(ひとま)ずホッとしたケインもマリスも、顔を見合わせて、仕方のなさそうな 顔で笑った。


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「さて、先生。たいして事情を話してもいなかったのに、なんで、俺たちのことを 匿(かくま)ってくれたんだ? 」  クレアを元のベッドに戻した後、奥の部屋で、人払いをしてもらうと、カイルが 切り出した。 「別に、あんた方を助けたつもりはないが、奴等が追っているということは、 もしかしたら、まともな人種なのではないかと思っただけだ」  カイル、ケイン、マリスが目をパチクリさせていると、医師は、笑ってみせた。  彼は、ソルダルムの村から出て来た医師であった。  デモン教に口答えをすると、彼らが高級薬を村人に安く売るようになり、医師の ところには患者がひとりも来なくなってしまったのだという。  それどころか、彼らに差し向けられた村人たちからも、追い出されるはめにまで なったということだった。 「まるで、あたしたちの辿って来た経過と一緒だわ」 「だから、あんたたちがソルダルムから来て、それを奴等が追っていると知った時点 で、ピンと来たのだよ」 「偶然とは言え、話のわかるお医者様にめぐり会えて、ホント良かったわ! 」  マリスとケインからは、笑顔が見られた。 「だけど、村を追い出されたあんたの言葉を、奴等は、本当に信じたのか? 自分 たちの組織に恨みを持っているヤツの言うことなんか、普通は信じないと思うぜ」  カイルが油断のならない目を向ける。 「それも考えられる。まだまだあんたらは、気を抜けない。あの娘の怪我がよくなる までは、なるべく目立たないようにすることだな。デモン教は、なにも軍服のあの男 たちだけではない。ソルダルムの民を、この町に張り込ませているおそれもあるのだ から」  三人は、顔を見合わせ、頷いた。 「あの娘さんだが、念のため、特別室に移しておこう。あの看護師を彼女の専属に して、他の手伝いの者にも秘密にしておこう」 「さすが先生! 話が早いぜ! 」  カイルが喜んで指を鳴らした。  三人は、診療所を出たところで、カイルが、こっそり、マリスとケインに言った。 「ああは言ってくれたものの、初めて会ったヤツをいきなり信用する気はねえから、 俺は、あの診療所で手伝いをしながら、奴等のことも見張っておこうと思う。もし、 またデモン教の奴等が現れても、俺がいれば、なんとか防御はできるし、俺たち自身 かたまって行動しない方が良いだろう。お前たちは、クレアの怪我が治った後は、 どこに向かったらいいかとか、情報を集めて、決めておいてくれ」  言い終わると、カイルは、片目を瞑って、にやっと笑った。  冗談めかしてはいても、クレアが助かり、有頂天になっているのではなく、抜け目 のないところが彼らしいと、マリスもケインも感心した。 「なるべく宿も変えた方がいいな。その時は、お前に知らせるよ」  ケインも、こっそりと返した。  カイルと別れると、宿には、ケインとマリスだけが帰っていった。


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