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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅱ.『デモン教』 妖精青アイコン2 ~ 接触 ~  剣月青ライン

 二人は、教祖の家に着いた。  なんてことのない、一般的な家であり、特に裕福にも見えない。  門を飛び越え、扉の前まで来ると、クレアが扉を叩き、少し経ってから、日中に マリスが見た教祖自身が、夜着姿の寝ぼけ眼で出て来たのだった。  教祖にとっては考えもつかなかった。来客が、見慣れない二人の少女であったこと に。 「こんな夜中に、いったいなんだね!? きみたちは! 」 「あら、夜中なのに、ひょこひょこ出てきたってことは、いったいどなただと思って たのかしら? 」  と、不敵な笑みで、マリスが言い返す。 「ちょっと、お邪魔しますわ」  睨むかのような真剣な表情のクレアも、続く。  二人は、強引に、家の中に押し入った。  教祖の男は、ひとりで住んでいるようだった。護衛の軍人たちのいる様子はない。 「どうしても、今夜中にお聞きしなければならないことがあるんです。正直に、 お話ししていただきますわ」  静かな声でクレアがそう言うと、教祖は「無礼な! 」という目を、二人に向けた。 「おとなしくした方が、身のためよ」  腕を組んだマリスが、ずいっと進み出ると、 「そうですわよ」  クレアがてのひらに炎をボッと、浮かび上がらせる。  教祖は、「ひーっ! 」と叫んだ。  マリスは、自分よりも、彼女の方が、よほど脅しになっていると思った。 「あなたの話では、納得行かない点がいくつかあるのよ。はっきり答えてもらうわ」 「なななな、なにをだね!? 」  教祖は目を白黒させて、二人の娘を交互に見る。  教祖の威厳などは、もう存在しなかった。 「あたしが一番引っかかったのは、この世の終わりが来るとかなんとか言っていた ことよ。証拠でもあるの? 」  その魔物の予言を知っているのは、魔道士の塔と、ごく一部の魔道士だけだと、 マリスは認識している。それを知っていたのか、はたまた単なる偶然なのか。  知っていたのだとすれば、この組織の背後には、ヤミ魔道士が控えているかも知れ ないのだった。 「しょ、証拠だと……? し、知らん! そんなものはない! 」 「まあっ! 自分でもよくわかっていないことを、人々に言いふらすなんて、それで よく教祖だなんて言えることね! やっぱり、あなたは、ウソつきのペテン師、 詐欺師だったのね! 」  クレアの手の上の炎が、ボッと勢いを増す。 「ひえーっ! まっ、待ってくれぃ! 確かに、私には、宗教の心得はないが、 まったくウソばかり言っているわけではないのだ! 」  バタバタと逃げようともがく教祖を、マリスが、しっかり取り押さえる。 「じゃあ、どこが本当だと言うのです? 」  クレアが男を睨みつける。 「い、いや、その……」  男がはっきりせずに言葉を濁す様子に、クレアの炎が、ぼわーっと膨れ上がった。 「やっぱり、詐欺なんじゃないのー! もう許せませんわー! 」 「ヒィーッ! やめてくれー! 殺さないでー! 」 「あなたの言葉で、いったい何人の人が、邪悪な黒蛇なんかを拝むようになって しまったか、わかっているんですか!? この世の終わりが来た時、デモン教の信者 だけが助かるなんて、根も葉もないデマカセを言って! 自分たちだけは助かりたい からって、魔族に媚を売ってまで生きるなんて邪道だわ! 魔族から人々を守れるの は神なのよ! それなのに、そんなニセモノの宗教を一生懸命信じている人たちから お金まで巻き上げて、のうのうとしているなんて、人として許せないわっ! 今すぐ、 そんなことは、おやめなさい! 」  クレアに追いつめられ、教祖はあわあわ言うしか出来ない。 「あの宗教は、あなたたちだけが考えたモンじゃないんでしょう? 一緒にいた黒い 軍服の男たちは、いったいなんなの? 」  声を落として、マリスが尋ねた。  マリスには、彼らの身体付きが、鍛え上げられたものであるのを見抜き、ただの 詐欺師の用心棒にしては、仰々しいところが、引っかかっていたのだった。 「そ、それは……言えん! 私の口からは、言えぬのだ! 」  男は、これまでとは違った脅えを見せ始めた。窓の方を気にかけているのが、 マリスにはわかった。 「クレア、結界よ」  マリスに頷くと、クレアは、短く呪文を唱え、結界を張った。  見た目にはわからないが、取り囲まれた三人は、がくんと微かな衝撃を感じる。 「さ、この中なら、どんなヤツにも聞き取れないわ。安心して白状していいのよ。 デモン教のウラには、魔道士でも潜んでいるのかしら? 例え、魔道士でも、結界の 中での会話は聞き取れないはずよ」  教祖はビクビク周りを見渡すが、魔道には慣れていないようで、結界の意味も理解 していないのが表情からもわかる。そのため、なかなか口を開こうとしない。 「しょーがないわね。クレア、また催眠術よ。こいつの意志と関係なく、口を割らせ る魔法、できる? 」  マリスに言われたクレアは、魔道書をパラパラとめくっていき、見つけると、本の 通りの仕草をしながら、呪文を唱えた。  そわそわしていた男は、ピタッと動きを止め、目は座り、催眠状態となった。 「そもそもデモン教は、どうやって、何の目的で作られたの? 」  単なる金儲けであれば、魔族を崇拝させなくとも、他の方法だってあったはずだと 睨んでいたマリスが、静かな声で尋ねた。 「……彼らに声をかけられたのが最初だった……」 「彼らって、あの二人の軍人ね? 」 「……いいや、違う。……もっと、位の高い者たちだ」 (位? )  マリスもクレアも、顔を見合わせてから、尋問を続ける。 「それは、どこかの軍の組織なの? 」 「……詳しくは、私も知らない。私はただの詐欺師だった。だが、彼らに説得された。 これが成功すれば、お前のところには、もっと金が入り込む、と。詐欺師がうまい話 に乗るわけにはいかず、断ると、彼らは、恐ろしいものを見せたのだ。ああ、あんな ものは、見たことも、聞いたこともなかった! ……恐ろしい! なんと恐ろしかっ たことか……! 」  教祖はガタガタと震え出した。 「その恐ろしいものって、魔道士の魔法? 」  男は震えながらも、強い口調で続けた。 「魔法なんてものじゃない。人間の形はしていたが、あれは……悪魔だ! 悪魔に 違いない! でなければ、あのようなものなど、人間ごときに作れるわけはない! 」  クレアがマリスを見た。 「マリス、どうもこの人の裏の組織には、魔道士はいないみたいだわ。もし、いたと すれば、私のこんな即席の術程度で、この人が口を割るわけないもの。とっくに洗脳 でもしているはずだわ」 「そうね」 「それに、私の魔法も、そろそろ限界みたい。結界と催眠術、二つの魔法を同時に 使うのは、まだ慣れてないから……」 「わかったわ。これだけでも、聞けてよかった。もう術を解いていいわよ」  クレアが指をパチッと鳴らすと、教祖の頭は、ガクンと下を向いた。  マリスたちは、眠った男をベッドまで運んでから、そうっと、窓の外に出た。


黒羽ライン

「結局、あいつは詐欺師だったみたいだけど、問題なのは、あいつを裏で操っている 組織だわ。どうも、引っかかるのよねえ」  夜道を、宿に向かい、二人はひたすら駆け抜ける。 「そうよね。なんらかの方法で、あの人を脅して、デモン教を広めようとしている みたいだったわ」 「ねえ、クレア、その組織のことが、はっきりとわかるまでは、人々を救うところ までは無理だと思うの。あの教祖の怯えようーーあれは、尋常じゃないわ。相手の ことを、もっとよく知るまでは、迂闊に手を出さない方がいいわ」 「でも……」 「朝になったら、ケインたちにも相談して、この村を出るのは、もう少し待ってもら いましょう。ヤミ魔道士とは関係ないのはわかったけど、『悪魔』って言葉が出て 来た以上、放っておけないわ。もしかしたら、魔物と関係しているのかも知れない。 だから、今日のところは、このまま宿に帰りましょう」 「……そうね。……そうしましょう」  まだどこか諦め切れないクレアであったが、黙って、マリスの後に続き、走る。  その時、微かに、何かの気配を感じたマリスが足を止め、クレアを止まらせた。  辺りは暗闇であり、唯一、三日月の弱い光だけが頼りだ。  この噴水広場を越えれば、宿はもう目と鼻の先だった。  かさかさっと、何かが暗闇で動く。  はっと、マリスが身構える。  それは、いきなりやってきた。 「危ないっ! 」  マリスはクレアを横に突き飛ばし、向かって来たものを正面から捕らえ、そのまま 投げ返した。  かしゃっという、石畳を刃物がこすった音を立てて、着地する。 「何者っ!? 」  マリスの呼びかけには、答えは帰ってこないが、それが、じりじりと二人の様子を 伺っていることは、気配から察することは出来た。  既に呪文を唱え終わったクレアが、両手を上に伸ばすと同時に、パアッと、辺りが 明るく照らされる。  人の頭くらいの丸い灯りが、広場を照らした。 「ああっ! 」  クレアとマリスは、同時に叫んでいた。  彼女たちを襲ってきたものの姿が、はっきりと見えたのだ。  それは、一見ヒトだが、明らかに、ヒト離れしていた。  人間の男よりも、一回りは大きく、実に引き締まった筋肉質の体格で、ヒトと大い に違うのは、全身が緑がかった皮膚をしていたことだった。  頭には髪の毛らしいものは一本もなく、太い皮のベルトが身体のあちこちに巻かれ、 それを、ボルトのような鉄の金具が、身体に食い込むように打ち付けられている。  その顔には、眉もなく、目は白目も黒目もなく、緑色のガラスを嵌め込んだようで あり、尖った耳の上には、ナンバーが刻印されている。  武器らしいものは持っていない。だが、その必要はないことが、すぐにわかる。  そのものの手がみるみる変形していき、五本の大きな鉤爪(かぎづめ)へと伸びて いったのだった!  「なんなの、これはっ!? まさか、……合成獣(キメラ)!? 」  マリスの視線が、それの足元に移った時、さっと身体中に緊張が走る。  足の先も、手よりは短い鉤爪に、鋭く尖っていった。  その人間の限界を越えるほどに発達した筋肉と、手足の爪を見たマリスは、洞窟で 戦った魔物ゴート・デーモンに、どこか似ていると思った。  クレアの背筋にも、緊張が走る。 「キメラって……、獣同士を合成した……? 」 「ええ。だけど、これは、ただの獣同士ではなさそうな……」  マリスが答えかけた時、シュウウウウッ! っと、それは飛び上がった。  風を切るような音だ。  シャッ!   鉤爪が宙をひっかく。  よけたつもりであるマリスの頬に、血がにじむ。  シャッシャッ!   無言で繰り出される爪を、マリスがよけていく。  クレアは、炎の術を、それの背に放った。  合成獣は、片方の爪で防いだ。  その時出来た一瞬の隙をついたマリスの強い蹴りが、それの腹部に命中した。  だが、転がるように下がっただけで、何のダメージも受けてはいない様子だ。  彼女へと、長い爪が襲いかかる。  ぱしっと、はたいてよけたマリスは、今度は、合成獣の頭部へと、ハイ・キックを 浴びせた。  ぐしゃっ  彼女の靴のつま先には、鋼鉄が仕込んである。それをまともに喰らったの頭部は、 半分近く潰れた。  「見た目と違って、身体は案外モロいのね」とマリスが言おうとして、崩れた部分 を見て、あっ! と声を上げそうになった。  その血は、どす黒い緑色だった。 「……こいつ、ただのキメラじゃないわ! 」  ほんの瞬間であった。  マリスが意表を突かれ、合成獣が方向転換し、クレアに向かい、突進していった のは。  マリスが直ちに追うが、追いつけない。 「クレア、よけて! 」  呪文を唱える間を与えず、曲がった爪が、彼女に振り下ろされた。  咄嗟に後ずさる彼女だったが、腹部に赤い線が数本走った。  と同時に、勢いよく、血が吹き出し、意識を失った彼女は、地面に崩れた。 「クレア……! 」  マリスが駆け寄り、彼女を抱え起こす。  息はあるが、クレアの顔は真っ青だ。  合成獣が、背後から襲いかかる。  充分に引きつけたマリスは、左足で素早く回し蹴りを喰らわせた。  鋼鉄を仕組んだつま先の当たった脇腹からは、またしても緑色の血が流れるが、 マリスの足にも、爪痕が浮き出る。 「〇〇三六号、もうそのくらいでよいだろう」  その一声で、獣の動きが止まる。  路地から、現れたのは、ひとりの男であった。  マリスはクレアを抱えたまま、キッと、男を睨み据えた。  それは、彼女が昼間見た、軍服の男のひとりであった。 「ちょっと、それはいったいなんなの? あんたのペット? そんな危険なモン、 放し飼いにされたら困んのよね! 」  睨みつけるマリスを、男は、じろりと見下ろす。 「小娘、なかなか武道に長けているらしいな。たかが人間相手に、こやつがここまで のダメージを負うとは思わなかった。なにせ、常人のパワーとスピードを上回るよう 訓練したつもりだったのでな」  男が片手であしらう動作をすると、緑の合成獣は、ひょっひょっと跳躍していき、 どこかに消えた。 「だがな、その自信が、己の身を滅ぼさぬよう、ほどほどにしておくのだな。これ 以上、我がデモン教に関わるのは、やめた方が身のためだ。次は、この程度では済ま さない」  男は、冷たい視線を二人の少女に浴びせてから、背を向けた。 「待って! あんたたちは、いったい何者なの? それに、あのキメラは……! 」 「あれは、キメラなどではない」  男は一言だけ告げると、そのまま去っていった。


葉ライン

「クレア! 大丈夫か! クレア……! 」  宿屋では、彼女の意識はまだ戻らないでいた。  この町には、魔道士がいなかったため、クレアの傷には、宿屋の主人のアルコール (とりあえず、宿主が飲もうと思っていた分しかなかった)をかけ、布で拭くと、 マリスが町娘の服に着替えさせた。  さらに、宿主から借りた薬箱で、カイルとマリスが応急処置をする。  カイルは、ベッドに寝かせたクレアの側で、声をかけ続けていた。 「どうだ? クレアの様子は」  扉を開けたケインの手には、薬草の束が抱えられていた。  怪我に効く薬草を摘んできた彼は、そのほとんどを宿屋の主人に渡し、一階では、 主人がそれを煎じていた。 「これは、マリスの分。傷に当てて」  椅子に座らされたマリスは、頬に薬草を当てる。足の傷には、ケインが薬草を当て た。 「なあ、クレア、全然目を覚まさないぜ。まさか、このままヤバいことになんて、 ならないだろうな」  カイルが動揺する。 「滅多なこと言うなよ」ケインが叱るように言う。 「だって、ヴァルもミュミュもいないんだぜ。今、治療の魔法ができるのは、唯一 クレアだけだってのに、その本人が重傷じゃ、誰が治すんだよ……」  ヴァルドリューズがいないことを、マリスは、ここでも、痛烈に思い知らされる。 「一か八かだわ。単なる気休めにしかならないかも知れないけど……」  何かを決心した表情のマリスは、クレアに近付いた。  彼女の眠った顔は、まだ真っ青だ。  出血は抑えられたが、傷口が、思ったよりも深いと、手当をする時にわかった。  マリスは、痛々し気に、クレアの顔を、真上から見つめた。 「マリス、何する……」  カイルの言葉が途切れた。  マリスは、そっと、クレアの唇を覆っていた。  彼女には、守護神であるサンダガーから、授かった術があった。  生命力を分け与える術である。  相手が死にそうなほどの重傷を負った時、自分の生命力を削ってでも助けたい時に 使え、と。  彼女は、頭の中で必死に念じた。  生命エネルギーをクレアに、と……。  砂漠のジャグ族の村でも、似たようなことがあったのを、思い浮かべる。  クレアの意識の中で戦い、彼女の埋もれていた精神を見付けた時も、このように、 自分の生命の一部を、彼女にそそいでいた。  マリスの唇から金色の光が柔らかく輝き、クレアに伝わっていく。  光が止み、唇をそうっと放すと、男たちが黙ってその様子に見入っていたことに 気が付く。 「……おい、なんだったんだ? 今のは」  カイルが、ぼう然としている。 「前に、ジャグの村で、あたしが、クレアの精神に入り込んで、取り憑(つ)いた巫女 と戦ったでしょう? その時に、サンダガーから教わったの。口から、自分の生命 エネルギーをそそぐことができるって。身体のすべての機能が回復するって言ってた けど、おそらく、ここまで傷が深いし、出血があると、回復には時間がかかると思う わ。その間は、絶対安静にしていないと」  クレアの面は、蒼白なままであった。 「……やっぱり、気休めにしかならなかったのかしら……」  マリスは悲しそうに呟くと、疲労から、ふらっと、近くの椅子に座った。  カイルが、心配そうにクレアを見守る。 「……ヴァルがいないってことが、こんなに痛かったなんて、ね……」  呟くマリスに、ケインが振り向いた。 「ヴァルがいれば、クレアの怪我なんか、すぐに治ったのに。……いいえ、ヴァルが いれば、あの教祖の家にも行かなかったし、クレアだって怪我もしないで済んだんだ わ」  生命力が減り、弱気になったかのように、気落ちしたマリスの瞳は、潤み始めた。 「あたしが守ってあげるって言ったのに……それどころか、逆に重傷を負わせて……。 クレアにもしものことがあったら、あたし……」 「もう、何も言うな」  顔を覆うマリスを、ケインは抱え込んだ。 「起きてしまったことは仕方がない。それに、俺がマリスでも、きっと同じことを したと思う。マリスが悪いんじゃない。だから、自分を責めるな」  マリスの瞳から、涙があふれた。  しばらくして、宿屋の主人が、煎じ終わった薬草を器に入れて運ぶ。  カイルがそれを少量、スプーンに取り、息を吹きかけて冷ましてから、クレアの口 に運んだ。  その様子を、マリスは、ケインの腕の中から眺めていた。  心の中で、ヴァルドリューズを呼びながら。 (早く戻ってきて。早く、クレアのこと、助けてあげて……! )


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