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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅱ.『デモン教』 妖精青アイコン1 ~ ソルダルムの村 ~  剣月青ライン

 朝食を摂った後に出発したした四人の一行は、道中、野盗に出会うこともなく、 無事にソルダルムの村へと辿り着いた時には、夕方になっていた。  酒場で夕食を摂り、いつものように、男女二人ずつに分かれ、宿屋に泊まる。  その翌日のことであった。  人気のない野原で、魔力を抑えるイメージトレーニングをしていたマリスと、近く で、別の魔法の修行をしていたクレアは、一息入れるため、村の中心街へ行ってみる ことにした。  これまでと違い、噂通り寂れている村であった。店も少なく、活気がない。  これでは、野盗も目を付けないだろう。だから、この村に着く間、野盗に出くわさ なかったのであろう。 「……なんとなく、モルデラと似ている気がするわ。あそこほどではないけれど」  マリスの隣で、クレアが呟く。  中心街から外れたところに出ると、岩肌のような道が続き、その正面に、一際高い 建物が現れる。  宗教的なデザインであり、礼拝堂のようであった。 「今まで見た建物の中で、あそこが一番立派みたい。行ってみましょうか? 」  クレアが言った。  礼拝堂となれば、巫女であったクレアには、親しみのあるものであった。  マリスにとっては、洗礼と言って、閉じ込められた窮屈な生活を思い起こさせる場 でもあったのだが。 「何用か? 」  礼拝堂の前には、門番であるのか、二人の中年男性がいた。  二人とも、魔道士のように黒いマントをはおってはいたが、中身は普通の チュニックで、顔つきも魔道士と違い、普通の村人のようであったので、殉教者 だろうかと、クレアもマリスも思った。 「旅人か? 」  質問に、少女二人は頷いた。 「ひやかしなら、帰ってくれ。ここは、純粋な教えを聞くものだけが立ち入りを 許される場所なのだ」  少年服を着たマリスだけであれば、そのように言われるのも理解出来たが、クレア は神官服である。巫女だと判断されるのが通常であるのが、宗派を尋ねるまでもなく 追い返そうとするのには、二人とも意外に思った。 「こちらの礼拝堂では、どちらの宗派なのでしょうか? 」  クレアが丁寧な口調で尋ねた。 「デモン教だ」 「デモン教……? 」  クレアが怪訝そうな顔を、彼らに向けた。  彼女だけでなく、マリスも初めて耳にする名前だった。  しかも、『デモン』とは魔族ーー悪魔を意味する魔族の意味であり、宗教に付ける には、不吉な名である。 「どちらの神様を崇めていらっしゃるのですか? 」  門番の男たちは、じろっとクレアを見た。 「神などではない。私たちが崇拝しているのは、ダーク・サーペントだ」 「なんですって……!? 」  クレアとマリスの声は、同時だった。 「ダーク・サーペントなんて、伝説の魔物ではありませんか。なぜ、そのようなもの を拝むのです!? 」  クレアが興奮したように尋ねる。 「お前たちのような、普通の神を拝む者たちには、理解できないことだ。さあ、 ここから早く立ち去るのだ! 」 「で、でも……! 」  なんとか問いつめようとするクレアの肩に、マリスは手を置き、囁いた。 「行きましょ。彼らには、何を言っても無駄だわ」 「だって……」 「いいから。ここは、一旦引きましょう」  クレアは、後ろ髪を引かれるように、時々振り返りながらではあったが、マリスと 去ることにした。 「とにかく、寂れたとこだぜ、ここは。流行りものもなにもあったもんじゃねえ。 ちらほら町娘や、若い男たちもいるにはいたが、皆、生気のないカオしてやがるし、 ひどく時代遅れな格好だったぜ。酒場も、兼食堂の昨日のところしかなかったし、 食い物も、あんまりうまくなかったしな」  誰もいない野原では、食べ歩き出来そうな饅頭すらなかったと、カイルががっかり しながら報告した。 「武器屋はなくて、道具屋はあったけど、農具くらいしかなかったよ。傭兵みたいな ヤツも見掛けたけど、この村の人間というよりは、通りがかっただけってとこだろう な。それとな、妙な噂も聞いたんだ」  ケインの話に、一同耳をそばだてた。 「つい最近来た異国の集団が、変な宗教を広めているらしい。婆さんが路地裏に座り 込んで、骨董品みたいなものを大事そうに磨いていたのが目に留まったんだけど、 それは、焼き物の黒い大蛇だったんだ」 「黒い大蛇ですって……!? 」  クレアがマリスを振り返った。 「ダーク・サーペントーー伝説の魔物だわ」  マリスは、ケインとカイルを見上げた。 「あたしたちも、さっき、それを拝んでいるという礼拝堂を見つけたのよ。追い払わ れちゃったけどね」 「なんだって!? 」  ケインとカイルも驚き、マリスとクレアとを見つめる。 「なんで魔物なんか拝んでるんだよ? そんな宗教、ホントにあるのか? 」  カイルの質問に、クレアは首を横に振った。 「私たちの馴染みである神を崇拝するものとは違うの。彼らは、デモン教って言って たわ」 「デモン教……? 」 「宗教にしては、不吉な響きだな」  カイルとケインは、顔を見合わせる。 「この前、カイルの仕入れた情報に信憑性が出て来たわね。『ソルダルムの村は、 最近孤立してしまっている』って言ってたじゃない? あの礼拝堂には、あたしたち 旅の者を入れてくれるような雰囲気ではなかったわ。おそらく、この村が周りから 孤立してしまったのは、その宗教のせいじゃないかしら? 」  三人は、マリスに頷いた。  それを見届けてから、マリスは、一呼吸置いて、話を続けた。 「この村を、ざっと歩いてみて感じたけど、野盗もいなければ、魔の気配もない。 ここには、魔物はいないみたいだわ。だけど、どうもイヤな予感がするわ……」  静まり返る中、マリスは口調を変えた。 「とにかく、この村というよりも、その宗教が気になるわ。ちょっとだけ、調べて みない? 」 「賛成よ。宗教なのに神を崇めず、汚らわしい魔物なんかを崇拝するなんて、おかし いわ。きっと、詐欺師かなにかの集団だわ。騙されている人々を救わなくては! 」  クレアが、キリッと目元を引き締める。  マリスは、もう少し違う見解であった。 「詐欺師であるかはともかく、……どうも厄介な集団であるような気がしてならない わ」  彼女は、静かに呟いた。


黒羽ライン

「待て。後ろに連れているのは誰だ?   礼拝堂の門番が、厳しく問う。 「わたくしの親戚にあたる者たちにございます。久しぶりにこの村に戻ったものです から、デモン教のことは存じ上げず。なので、この度、礼拝に参加させることになり ました」  黒いマントを頭から被った老婆が、説明した。  ケインが見掛けた黒いヘビの像を磨いていた人物だ。  その老婆の後ろには、マリスとカイルが、同じように黒いマントを頭から深々と 被り、恐れ多そうに下を向いていた。  老婆には、クレアの術がかかっている。魔道書を頼りに、催眠術をかけたのだ。 無論、時間が経てば、その時のことは忘れてしまう。  門番の二人は、それ以上老婆の言うことを怪しむでもなく、三人を通す。  礼拝堂の扉が開かれると、それほど広くないスペースに、びっしりと、人が集まり、 その数は、ざっと一〇〇人はいると思われる。  前方には、大きな祭壇らしいものもあり、その奥の壁には、黒い大蛇がねじくれ 曲がっている像が掲げられていた。 「あれが、ダーク・サーペント様じゃよ」  列の最後尾に座ってから、魔法をかけられた老婆が、親戚だと思い込んでいる マリスとカイルに教える。 「もうすぐ教祖様がお見えになる。そのまま静かに待つのじゃよ」  そう言うと、老婆は、神殿で使われる十字架とは違う形のペンダントを取り出し、 ぶつぶつと一心に唱え始め、もう彼らのことなど構うことはなかった。  二人が見たところ、そこにいる人々も、似たように頭を低くして、ぶつぶつ言い ながら、じっとしていた。 「うわー、異様な光景だぜ」  カイルが、こっそりマリスに言った。 「まったくだわ」  それから、しばらくして、教祖の登場だった。  背の低い、髭を生やした中年から老年にかけた男性だ。  教祖というからには、絢爛豪華な法衣をまとった、いかにも生臭坊主を想像して いた二人であったが、意外なことに、普通の村人と同じ服装の上に黒マントという 出で立ちであったのだ。 「全然教祖って感じじゃないよなぁ。こりゃあ、クレアの言ってたように、ますます 詐欺師路線が強いぜ」  カイルがマリスの耳元で囁く。  教祖の後ろには、二人の男が立つ。  黒マントをはおった者ばかりの中で、その二人だけがマントを身に付けていな かった。  彼らは、兵士の軍服のような格好をしており、腰には剣まで差しているのだった。 (教祖の用心棒かしら? ) (いったい、誰から護るために?)  マリスとカイルは、下を向いたままで、顔を見合わせた。  教祖の男が語り始めた。  二人がよく目にする、理解し難い話を独りよがりに唱える祭司長と違い、理路整然 としている。 『もうすぐ魔王が復活し、世は暗黒の時代となるだろう。魔物がこの世界を支配し、 人間を始め、あらゆる地上の生物は、絶滅の危機に晒されるであろう。  だが、デモン教を信仰しているもののみは、奇跡的に助かるのだ。  伝説のダーク・サーペントが、我らを守ってくれることを約束する。  そして、世に溢(あふ)れ返った魔族たちとも、共生していくことができるのも、 彼の導きによるのだ』  という内容であった。  クレアを連れてこなくて、本当に良かったと、マリスもカイルも思った。  『明らかに、神の教えに反しています! 魔族と手を組むとは何事ですかっ!  そんなの間違ってます! 』と、アツく叫び、室内に嵐を巻き起こすのが想像出来る。  教祖の話が終わると、人々は、祭壇にお布施を乗せていき、礼拝堂を出て行った。 「教祖様、質問があります」  裏門から出て行こうとする教祖と、それを挟んでいる体格のいい軍服の男たちが、 振り返った。  彼らの目は、怪訝そうに、マリスとカイルとに注がれた。 「私たちは、今日この村に戻ってきたばかりなので、デモン教のことをよく知りませ ん。詳しく教えていただけないでしょうか? 」 「ほう、新しい信者かね? 入門するには、金貨五〇枚が必要な上、お布施として、 金貨三〇枚を納めることになっておる」 「なんでそんなにお金がかかるんですか? 」 「決まっておるだろう。人々を救うためには、是非とも、このデモン教を世に広めな くてはならぬ。そのための活動資金だ。今はまだこの村でしか活動はしておらぬが、 じきに、他の町をもめぐらなくてはならぬのだから」  教祖は、大真面目に『それが自分の与えられた使命であり、それを世の中に広める ことに命を賭ける』とまで言うのだった。 「そもそも、きみたち、魔物というのはだね、非常に恐ろしいものであり……」  魔物のことなどは、二人も詳しく知るが、彼は延々と喋り続けていた。  自分の広めつつあるデモン教とやらを、心底信じて疑わず、全財産注ぎ込んでいる とも言う。  軍服の男たちは一言も語らず、身動き一つしていないが、彼らの冷たい視線を、 マリスとカイルは捕らえた。  彼らの背後には、なんとなく大きな組織を思わせるような感じがしたのだった。


葉ライン

「そんなのぜったいにおかしいわ! 」  カイルの話を聞いたクレアが、案の定、怒り出す。 「お布施の金額も高過ぎます。そんなの、純粋な宗教とは言えないわ」 「あれは、多分、詐欺師だな。変な将校みたいな奴等は、文句言うヤツを鎮圧する ために、教祖と一緒にいるんだろう」 「武力で教えを説くなんて、ますます邪道な……! 」  カイルののほほんとした調子とは違い、クレアは真面目に怒っていた。 「その用心棒みたいな奴等と教祖の三人しかいなかったのか? 俺が噂で聞いた時は、 確か集団だったけどなぁ」  ケインが首を傾げる。 「マリスは、どう思う? さっきから黙ってるけど、なにか気になることでもあるの か? 」  ケインが、マリスの顔を覗き込む。 「うん……ちょっとね……」  クレアが、マリスの手をしっかりと握った。 「マリス、その教祖たちを、とっちめましょう! 」  そう来るとは思ったマリスであったが、首を振らなかった。 「単なる金儲けだろ? 放っとこうぜ」  カイルが面倒くさそうに言った。 「だいたいさー、あんな教えを聞いても、俺は、ちっとも黒ヘビなんか拝もうって 気は起こらなかったぜ。魔族と共存なんて、したいとも思わねえしな。カネだって、 ビタ一文やるもんか。  クレアのいたモルデラの村もそうだったけど、魔につけ入られる方にも、原因は あるもんだ。なにがいいのか悪いのかの判断もてめえじゃ出来ずに、ただ何かに すがろうとしている人間ってのは、奴等みたいなのからすれば、引っかけやすいんだ よ。  そんなモンのカモになるような連中には、同情すらいらねえと、俺は思う。こんな シケた村は、余計な首など突っ込まずに、さっさとオサラバしてしまった方がいいん じゃねえ? 」  カイルは、かなりうんざりした様子だった。  彼が、礼拝中も我慢がならなず、ずっとそわそわしていたのをマリスも知っている。 「でも……」 「下手にかかわらねえ方がいいぜ。あんなわけのわかんねえ奴等相手にするよりも、 俺は、魔物退治してた方がよっぽどいいね」  言いかけていたクレアは、カイルにそう言われ、返す言葉もなく、黙ってしまった。 「ケインは、どう思うの? 」  上目遣いに、クレアはケインを見た。 「俺もカイルと同意見だな。名前だけで、実際魔物とも関係ないんだったら、先を 急いだ方がいい。俺もカイルと同じように、騙されている方も悪いと思う。俺たち 傭兵は、生き残るためには、何が本物かを見抜いていかなければならないんだ。  そうでなくては、敵に踊らされ、命を落とすどころか、味方の隊まで巻き込んで しまい、全滅し兼ねない。何かにすがって生きるなんて生易しい考えじゃ、生きては いかれない世界なんだ。自分の身は、自分で護る以外にはない。それができないヤツ から死んで行く。  ここの村人たちは、お布施で安心を買っているんだろう? そんなことをしていら れるうちは、まだ幸せってことだ。わざわざやめさせるのも、かえって余計なお世話 だとすら思うぜ」  二人の傭兵は、揃って、この件にはもう関わりたくないと言っているのだった。 (それが一番正しいのでしょうね)  心の中で、どこか引っかかっていたマリスも、彼らの意見を聞いているうちに、 吹っ切れてきた。 「よしましょう、これ以上、あの宗教に関わるのは。ヴァルもいない今は、あまり 余計なことでは動かない方がいいと思うわ。魔物にしたって、獣神サンダガーじゃ なくちゃ倒せないほどのものは避けようとしているくらいなんだから」 「そうだよな。クレアの気持ちもわかるけど、ここは、ひとまず先を急ごう。魔とは 関係ないのだったら、なおさらだ」  ケインが、クレアを気遣うように、肩に手をかけた。  やがて、クレアは、諦めたように頷いた。


夜空

 夜、宿屋の一室では、そうっと窓を押し開け、そろりそろりと慣れない仕草で、 飛び出した者がいた。 「クレア」  夜道を走る神官服の少女は、驚いて振り返った。 「マリス……! 」  見開かれた瞳は、どこか彼女を恐れるようである。 「教祖の家は、こっちよ」  マリスは、にやっと笑った。 「マリス、それじゃあ……! 」  クレアの表情が、だんだんと明るくなっていく。 「そんなことだろうと思ったわよ。男どもは反対したし、あたしも彼らと同じ意見だ ったけど、クレアの気持ちもわかるから。多分、ひとりで、なんとかしに行くんじゃ ないかってた」  クレアに歩調を合わせたマリスは、走る速度を少し落とした。 「私、宗教を名乗って人々を騙すというのが、許せなかったの。もちろん、私自身、 神に救いを求めてばかりいた自分に嫌気がさしたから、モルデラを出たのだし、確か にケインの言うように、戦いの中で生き抜くには、何もかも自分で判断しなくては ならないし、正しいものを見極められる目を養わなくてはならないというのも、 わかってはいるわ。  だけどね、騙された人々の中には、いろいろな事情があって、それが本物だと信じ て信仰していた人もいると思うのよ。それを心の支えにしなくて生きていけないくら いに。その人たちの純粋な気持ちを踏みにじるっていうのが、どうしても許せなかっ たの。これは、巫女だった名残からきている意地みたいなものでもあるから、皆の手 を煩わせるまでもなく、私ひとりでなんとかするつもりだったの」  息を切らしながら、クレアは語っていた。 「自分ひとりでなんて、水臭いわね。あたしがいるじゃないの。最近、クレアが野盗 を倒してくれちゃうもんだから、あたしも暴れ足りないのよ。一言、声かけてくれれ ば、喜んで同行するわよ。……クレアは、……あたしの初めて出来た女友達ですもの。 どんなことでも手伝うわ」 「マリス! 」  クレアは、マリスに飛びついた。 「ありがとう! そんなふうに言ってくれるなんて、私嬉しい! 」  マリスは、照れたように笑った。 「マリスがついててくれるなら、私も元気が出てきたわ。ほんと言うとね、ひとり じゃ心細かったの。だけど、朝になれば、次の街へ出発してしまうから、今夜中に なんとかしないとって思って……」 「あたしが守ってあげる。クレアは安心して暴れてちょうだい」  クレアは本来、決して攻撃的な気質ではなかった。  それが旅に加わってからというもの、自分で考え、許せないものは許せないと はっきり言い、自分の意志のままに行動を起こすまでになった。  か弱い乙女の身で、そこまでに変わった彼女に、マリスはエールを贈りたい気持ち だった。 (恋を知った女は、やっぱり強いのかしら? )  マリスは微笑ましく、そして、頼もしさも、クレアに対し、感じたのだった。


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