Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜Ⅰ.-3〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~


剣月青ライン  Ⅰ.『四人だけの旅』 妖精青アイコン3 ~ 恋する乙女 ~  剣月青ライン

(おそろしいことを聞いてしまった……)  別段おそろしいことというわけではなかったが、マリスには、何とコメントして いいやら、見当も付かない。一緒に喜んであげることも出来ないでいた。  ただ、頬をピンク色に染め、ああでもない、こうでもないと悩んでいるクレアを 目の前にすると、本物の初恋であると、実感するばかりであった。  恋の経験のある彼女にしてみても、『初恋』とは、こんなにも初々しく、清らかな ものなのかと、感心してもいた。  同時に、男の人を信じられなくなり、愛する人との絆を信じられなくなっている 自分を、クレアよりも二歳下であるにもかかわらず、なんと擦れた人間であるのか、 と不純に思えて仕方がなかった。  しかし、ここは、せっかくの友人であるクレアが恋に落ちたのであれば、マリスと しては、応援してやりたいのは山々であったのだが、その相手が、クレアの魔道の 師匠であり、マリスの相棒であるヴァルドリューズであったとは。 (全っっっ然、気付かなかった。……果たして、あの朴念仁(ぼくねんじん)に、 彼女の想いが通じるものなのか……)  マリスが一番に心配したのは、それであった。  ヴァルドリューズは、一年も一緒に旅をしているマリスから見ても、未だによく わからないのだった。 「マリスは、ヴァルドリューズさんと、ずっと一緒にいるのに、こういう気持ちには、 ならなかったの? 」 「あたしっ!? 全然! そりゃあ、頼りになるとは思っていたけど、しいて言えば、 父親みたいにしか……」  マリスの発言に、クレアが大きく目を見張る。 「……考えられないわ。側に、あんなに素敵な人がいるのに……」 「いやいや、考えられないのは、そんなふうに思ってしまうあなたの方だってば」  マリスは、目を丸くしたまま、返した。 「だってさあ、あいつ、自分のことなんにも喋んないじゃない? まあ、それでも、 始めの頃に比べれば、大分人間らしくなったけどね。それにしても、ヴァルなんかの、 どこがいいの? 」  クレアは、考え考え、打ち明けた。 「底知れない強さはもちろんだけど……、東だけではなく、西の方の感じもする顔立 ちに、緑がかった青色の不思議な瞳、男の人なのに髪にも艶があって、綺麗だし…… 声も落ち着いていて、大人って思えるし、あまり喋らないところも厳かだし……。  一見つかみ所がなくて冷たそうにも見えるけれど、戦いの後にかけてくれる言葉 から、私のことも見守ってくれていたんだと思えて、ああ、この人は、見ていない ようで、ちゃんと見てくれてるんだって、そう思ったら……」  彼女の話は、延々と続いた。 「要するに、『超イケメンで、神秘的で、冷静で、オトナで、無駄口をたたかない =素敵♥』ってことね」 「やだっ、マリスったら、そんな風に言い切らないでよ」  クレアがはにかみながら笑う。  マリスは、さっと分析した。  綺麗なイケメンとは、男慣れしていない女子が、一番受け入れ易いタイプかも知れ なかった。  かくいう彼女も、セルフィス王子が初恋の相手だったというのも、無骨な男子では なく、雅(みやび)なイケメンであったから、というのも大きかったのではないか、と。  彼女は、カイルを思い浮かべてみる。  彼も、自称イケメンであったが、ヴァルドリューズとは違うタイプであった。 (ヴァルが綺麗に整ったイケメンなら、カイルは、ちょっとズルそうな、ワルそうな ところがウリのイケメンかしらね)  ケインも、決して悪くはない顔立ちではあったが、彼は、どうしても誠実さが一番 に出てしまっていたため、女がピンとくる魅力的な顔というのとは、違うようで あった。本人も、自分の童顔を気に入らないと、以前話していた。  神秘的というのも、ケイン、カイルには存在しない。  普通の傭兵に神秘的な者を探す方が難しい。  魔道士は神秘的ではあっても、整った顔という者というものは少ない。  顔の造りの問題ではなく、暗いところでじとーっと修行していると、大抵が難しい 顔になってしまうものだった。眉間の皺はつねに刻まれ、目付きも悪くなって来る。  太陽の下で駆け回っている傭兵たち(?)の方が、健康的で、健全でもある。  ふとマリスは考えた。  そのような暗い人種の中で、ヴァルドリューズのようなイケメンは本当に珍しい、 と。 (あの顔の造りを壊さずに修行してこられたっていうのだって、言われてみれば、 不思議だわ。眉間に皺なんかも、あたしに呆れた時くらいなもので、滅多に刻まない し……。それらが、あたしには非人間的に思えて近付き難かったのが、クレアのよう な人から見ると、神秘的と映るらしいわね) (とにかく、『不良っぽいイケメン。俗っぽく、ペラペラと陽気によく喋る、女好き』 というカイルは、『超イケメン。神秘的。冷静。オトナ。無駄口をたたかない』とは、 大いにかけ離れているわ……)  マリスは、さらに、カイルが気の毒に思えてしょうがない。  彼のことをどう思っているかは、この際、聞かない方が懸命だ。  マリスは、顔を上げた。 「ケインのことは、どう思う? 」 「ケインはいい人だわ。話し易いし、面倒見もいいし、……いいお兄さんのような 感じかしら? 向こうも、わたしのことは、妹のように思ってるって、言ってくれた ことがあったし」 「はあ、そうなの……」  マリスは、純粋な彼女と誠実な彼は、一見お似合いだ、などとも思ったのだが、 わからないものだなと思った。 「私、思うんだけど……」  クレアが声の調子を落とし、不安気な瞳を、マリスに向けた。 「ヴァルドリューズさんは、本当は、誰か、心の中で想ってる人がいるような…… そう思う時があるの」 「あいつが? 」 「そう。そして、それは、私が思うに……マリスなんじゃないかしら? 」  ずずずっ!   マリスは、ベッドから滑り落ちた。 「なっ、なーんで、ヴァルが、あたしのことを? 」 「だって、いつも、あなたのことを気にかけているわ」 「だ、だから、それは、あたしを護るよう、じいちゃんから命じられてるからで。 ……ほら、あいつの額に、カシス・ルビーがついてるでしょう? 命令に従っている だけだから。  だってさ、ダグトのヤツが、ヴァルを挑発した時も、あたしが人質の時は何にも 表情変わんなかったのが、ミュミュが捕まった途端、急に心配を顔に出したくらい なのよ。現に、じいちゃんの司令に背いて、あたしから離れてあの子を助けに行っ ちゃったじゃない? あたしよりも、ミュミュの方が大事みたいよ」 「そうなのよね……。ミュミュもいたのよね……」  マリスは明るく冗談めかして言ったのだが、クレアは、はあと重い溜め息を吐いた。  早くも、恋に悩む乙女であった。  マリスは、さらに笑顔を取り繕った。 「大丈夫よ。ミュミュが懐いてて、ヴァルがミュミュを大事にしたところで、それは 親子関係みたいなモンなんだろうし、あいつが妖精のことを女として見るわけない じゃない? 」  だが、ますますクレアの気持ちは沈んでしまったように、溜め息がつかれた。 「それなんだけど、……私、図書館で読んだことがあるの。ふと妖精のことに触れて あったところが、目に入ってしまったんだけど、妖精でも、ニンフは成長すると、 人間の娘に姿を変えることもできるんですって。神話によると、神様や人間と一緒に なったニンフも多いそうよ」 「ああ、確かに、そんな話も聞くわね……。あのミュミュもいずれは、人間の女の子 のようになれるのかしらね? 」 「どうしよう! ミュミュが、もし人間になってしまったら……人間になっても、 ヴァルドリューズさんと、今までみたいにくっついて歩いていたら……! 私、 とても耐えられない」  クレアは、今にも泣き出しそうになった。  恋する乙女は、情緒不安定であった。  マリスが思うには、まともに考えれば、ミュミュが人間になったところで、ニンフ はニンフであり、幼い妖精であったからワガママでも許されたのが、人間であれば、 質(たち)が悪いの一言だろう、と。  姿だけは立派になったところで、ヴァルドリューズが恋人にするわけはないと思う のは、誰もが想像できることであったが、恋という感情が、冷静な判断を出来なくし てしまっているのだと、マリスは思った。  それが、初恋では、なおさらだと言えた。 「大丈夫よ、クレア。ヴァルは、あたしの見たところによると、オトナの女の方が 好きに違いないわ」 「えっ!? なんですって!? 」  クレアが血相を抱えて身を乗り出したので、マリスは、慌てた。 「い、いいえ、だから、その……よくはわからないんだけど、……ある人と、ちょっ といい雰囲気だなーって、あたしが勝手に思ったことがあったってだけで……」 「それは、どんな人だったの? 」  クレアの視線には、マリスでさえ、逃れ難いものがあった。  恋する乙女は強し、である。 「綺麗で強くて、やさしい人だったわ。彼女も、ヴァルと同じ東方の出身でね、 ……つまり、あたしの師匠でね。ヴァルとはタイプの違う人ではあったけど、 神秘的なところもあって……」 「そうなのよね。東洋の人特有の神秘的な雰囲気って、あるものね」  クレアの声には、元気はなかった。 「ヴァルドリューズさんには、やっぱり、同郷の人がお似合いよね? しかも、 そんな大人の女性と仲が良かったなんて……ああ、どう考えても、私には、おこが ましいことだったんだわ! 」 「だ、大丈夫よ、クレアだって、東洋の人に負けず劣らず、綺麗な黒い髪だし、 黒い宝石みたいな綺麗な目をしてるし、……あいつの好みから、まったくかけ離れて いるわけじゃないんだと思うわよ」 「でも、……ああ、やっぱり、彼には、大人の女性が似合っているような気がして きたわ」 「そ、そんなことないわよ。クレアは、可愛いんだし、絶対ヴァルともお似合いよ! 」 「……本当? 」 「もちろんよ。ただね、あたしが心配なのは、あいつ、こういうことには、鈍感だと 思うの。朴念仁(ぼくねんじん)だし。クレアの気持ちにだって、気が付いていないと 思うわ。だから、ここは、思い切って、彼が返ってきたら、想いを告白してみたら どうかしら? 」 「告白ですって!? いやよ、だめよ、そんなこと! 私、絶対にできないわ! 」  クレアは泣きそうになった。 「私、彼には気付いてもらえなくてもいいの。このまま、師匠と弟子のままでも…… 見てるだけでも、充分、幸せなの」  マリスは、思わず目を見開いて、彼女を見つめた。 「やっと芽生えた恋心を閉ざし、不完全燃焼で終わらせちゃうの? せっかく好きに なったんだから、相手に気持ちが伝わらなくちゃ、何も始まらないわよ」 「いいの、始まらなくても。やっぱり、私には無理なんだもの」  先まで、マリスをたじろがせたほどの強いものは、一気に弱気になっていた。 「ね、勇気を出して、言ってみたら? 」 「ダメよ! 無理だわ! 私はマリスとは違うのよ」  クレアの目の瞳に、滴が滲み出た。 「わかった、わかった! だったら、無理に告白することは勧めないわ。ヴァルが、 自然に、あなたのことを振り向くまで、待ってることにする? 」  しかし、彼女は、それもあまりお気に召さないようであった。 「……でも、それだと、いったいいつになるか……。気付かれないまま、旅が終わっ てしまうんじゃないかしら」  乙女の想像は、果てしなく続くのだった。


キラキラライン

 小鳥のさえずりが聞こえたマリスは、目を覚ました。 「クレア、もう朝よ」  珍しく、クレアが寝坊している。  夕べは、おそらく、恋に悩んだまま、ろくに眠れなかったのだろう。  マリスは、愛し気な気持ちで、クレアを見つめ、もう一度、彼女の肩を揺すり、 声をかけた。 「クレア、クレア……」 「ん、ん~、ヴァルドリューズさん……」  苦笑しながら、なんとか彼女を起こしたマリスは、宿屋の一階にある食堂に、 引っ張って行った。  先に来ていたカイルとケインは、さっそくパンをかじっていた。  クレアは、にこやかにケインの隣に座る。 「どうしたんだ、クレア? 随分、機嫌いいじゃねーか。いい夢でも見たのか? 」 (カイル、なんて鋭い! )  マリスは、内心ドキッとした。 「あら、わかる? ええ、とてもいい夢だったわ」  クレアが、いかにも幸せそうな表情になり、頬を両手で押さえた。  マリスは内心ヒヤヒヤしていた。  彼女の気持ちが誰にあるかを知れば、ここにいる男二人はショックを受け、落ち 込んでしまうのではないか、と心配した。  もしも、それが、魔物退治に影響を及ぼしてしまったら……?   だが、彼女の心配をよそに、クレアは喋り続けていた。 「夢の中に、ヴァルドリューズさんが出てきたの」 「へー、ヴァルが? 元気だったか? 」  と、ケイン。  相変わらず、彼は、すっトボケていた。  予知夢だとでも思ってるんだろうか? とマリスは呆れた。 「魔道士の塔のあの男は、やっつけたらしかったわ。もちろん、夢の中で、そう言っ てらしただけで、本当は、どうかわからないけど。それでね、その後に……」  クレアは沈黙した。ポーッと、宙を見つめている。  一人マリスだけは、まだヒヤヒヤしていた。 「おいおい、なんだか、随分いい夢だったみたいだな」  カイルがミルクを飲みながら、からかうように言った。 「いやだわ、からかわないでよ」  クレアが、ピンク色の頬になった。 「ヴァルドリューズさんが、私に言ったの。『今から修行するぞ』って。 ……きゃっ! 」  クレアは、きゃっきゃと笑いながら、食事に手を付け始めた。 (…………………………………………………………………………………………………………………………………それだけ? )  マリスはぼう然とした。 「そうか……。それは、よかったな……?? 」  ケインは、わけがわかっていなかったが、とりあえず、そのように相槌を打って おいた。  カイルは気にも留めない様子で、ガツガツと食べ物を頬張っていた。 「どうしたんだ? マリス。まだ眠いのか? 」  俯せていたマリスは、よろよろと、テーブルから顔を上げた。 (恋する乙女って、わけがわからない……)


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