Book6看板 Dragon Sword Saga6 〜Ⅰ.-1〜
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~ 第6巻『魔の兵士』 ~

妖精青ライン
そっちへ行っては危ないよ

黒いヘビなんて、いやしない
魔界の入り口とは別の扉が
開かれようとしている

禁忌の紛(まが)い物
哀れな産物

造り出されし悲しき兵士に
唄う鎮魂歌(レクイエム)を


ーーある吟遊詩人の唄より


妖精青ライン

プロローグ  伸び放題の草木が生い茂る荒れた山の中。  土褐色の肌をさらし、まだ明るいうちから酒を飲み干す男たちがいた。  上機嫌な大声で語り合い、酒を注ぎ合う。  腰には、通常より大きい段平、鉄の棒、または、ハンマーなどが下げられ、弓矢を 背負う者も。  ヘアースタイルは、モヒカン狩りから坊主頭、不潔な長髪など。  一様にして人相が悪く、知能も高くは見られない。  それらは、人里へ下りてきては悪さを働く不道徳者の集団ーーすなわち、山賊や 野盗などと呼ばれていた。  彼らの囲んでいる中央には、金貨や宝石、宝箱がある。  村人や、通りすがりの商人たちから取り上げた品々を、悦に入って眺めながら、 酒と肉の塊を頬張る。  それが、日常茶飯事であることは、彼らの当たり前の様子から見当が付く。 「許せないわっ! 」  そう言いながら、目尻をキッとつり上げたのは、一見清楚な美人ーー魔道士見習い クレアであった。  彼女は、すっくと立ち上がり、ずかずかと野盗に向かっていく。 「あなたたちっ! いい加減になさい! 」  突然、お叱りを受けた野盗たちは、ヒヤッとして振り返るが、相手がまだ二〇歳前 の女子と知るや、「なんでえ、脅かすんじゃねえ」とこぼし、安心した。 「おい、ねーちゃん、女ひとりで、俺たちの中に入ってくるとは、いい度胸してる じゃねえか」 「神官服着てるところを見ると、おめえ巫女さんかい? 」  クレアは、魔道士を目指す前は巫女であった。淡い色の質素な神官服のワンピース は膝丈まであり、ロングブーツを履いている。  黒い艶のある長い髪が、淡い色の服の上で、美しく映えていた。髪と同じ黒い瞳も、 宝石のように美しい。  野盗たちは、彼女の整った顔を見てから、値踏みするように、上から下まで見回し た。  人相だけでなく目付きも相当に悪く、額や頬のナイフ跡も、通常の女子供では 恐がり、抱き出すほどである。  だが、彼女は一歩も引かなかった。 「なかなかの上玉だぜ。これなら、高く売れそうだ」 「こりゃあ、いいや! 『逆に狩られるなんとやら』とは、このことだ! 」  野盗たちは立ち上がった。  クレアよりも、ずっと高い位置に頭が動いて行く。 「いいか! 高く売るために、なるべく無傷で捕らえるんだ! 」 「おう! 」  舌なめずりをしながら、野盗が彼女に向かって行く。  そこへ、ひらりと、白い甲冑の、彼女よりも少し背のある者が現れる。  夕日色に輝く巻き毛に、暁の瞳。一見少年のようであるが、よく見れば、それも 少女である。 「ほほう、もうひとりバカな小娘がいたとはな。まだガキだが、こっちもまとめて 売りさばいてやるとするか! 」  紫の瞳は、ピクッと歪められた。 「子供ですって? 聞き捨てならないわね」  甲冑の娘は面白くなさそうに微笑んでみせ、手前のモヒカン男に掴みかかると、 一気に背負い投げた。  男は叫び声を上げ、どしゃっと地面に叩き付けられる。 「なめやがって、このガキどもが! 」 「野郎ども、いくぜー! 」 「大人をからかうとどういう目に合うか、教えてやろう! 」  そのセリフは、彼女たちは幾度となく耳にした。  だが、それを実行出来た大人を、二人は知らない。  野盗たちが、次々と甲冑の少女に投げ飛ばされていく間に、攻撃呪文を唱え 終わったクレアが、両のてのひらから暴風を吹き出させた。 「よそ様の物に手をつけてはなりませーん! 」  賊のほとんどが強風に煽られ、叫びながら、すっ飛んで行った。  呪文は唱えるのに、少々時間を要する。  その間、少女戦士が時間稼ぎをする。  役割分担は出来ていた。  むろん、勝負はあっけないほど早々についたのだった。 「思い出した……! 『逆に狩られる不運なムシ』だった」  野盗のひとりが、それだけを言い残し、気絶した。


剣月青ライン  Ⅰ.『四人だけの旅』 妖精青アイコン1 ~ 戦う乙女 ~  剣月青ライン

「……あのさあ……」  ケインが溜め息混じりに何かを言いかけるが、すぐに諦めた。  クレアと同じ一八歳のこの青年は、毎度のことを、今更どうこう言うのも疲れたと いうように、呆れていた。  栗色の髪に、大きな青い瞳をした、年齢よりも若く見えてしまう童顔に似合わず、 伝説の剣を二つも保持している傭兵であり、いくさのない時はよろず屋をしている。 「わー、すげえ宝の山だなー」  ウキウキと宝箱を物色しているのは、長い金髪の美しい傭兵のカイルであった。  彼の青い瞳はキラキラと輝く。 「こんだけおタカラがあったら、当分働かなくてもやっていけるぜ! 」  じゃらじゃらとリブ金貨やリブラル銀貨をあさっている彼に、クレアが顔を向ける。 「だめよ。それは、ちゃんと持ち主のところに返すんだから」 「そんなの無理だぜ。奴等、いろんなところで強奪してるんだぜ。この近くの村とは 限らねえんだし、だいいち、硬貨なんか誰のものだか区別つかねえし」 「じゃあ、一番近い村に行って、寄付しましょう」 「ええっ!? 」  カイルが悲惨な声を上げる。 「あの……、俺たちの旅の資金にしちゃダメなのかな? 」  彼が、遠慮がちに、クレアに尋ねるが、 「ダメです」  ただちに答えは帰って来た。 「よそ様のものを、断りもなく自分たちのものにするなんて、野盗のやることです。 私たちは、ヴァルドリューズさんのいない間に、少しでも経験を積んでおこうと、 こうして、修行を兼ねた正義の旅をしているのです。宝が目的なのではありません。 宝がもらえなくても、経験という貴重な財産が備わっていくのです。それこそ、宝に 代え難い、大切なものなのです」 「まーた、そんな綺麗事言う」  カイルがぶつぶつ言うが、クレアに一睨みされると、慌ててごまかした。 「いくら相手が野盗だからって、こっちからケンカ売っといて『正義』はないんじゃ ないか? 」  ケインが呆れた顔のまま言った。 「いいじゃないの、この際、カタいこと言わないでさ。悪党は、遅かれ早かれ、 こういう末路をたどるのよ。練習台くらいの役には立ってもらわないとねぇ。 それくらいでしか、人様のお役になんて立つことないんだから」 「私も、マリスと同じ考えよ。悪いことをしておいて平気でいるなんて、許せない。 世の中、それでは通らないということを、彼らに教えてあげるのよ」  少女戦士マリスに、クレアが続いた。  世間知らずの彼女にこのようなことを言われては、野盗もおしまいである、と 彼らは、ちらっと思った。  元巫女であった彼女だが、「祈りましょう」ではなく、「わからないヤツには制裁 を加える。それもまた愛」という理屈であるようだった。  街の風景を見下ろせる広々とした丘では、穏やかな風が常に吹いている。  甲冑をケースにしまったマリスは、皮の少年服に着替え、髪を横にひとつに束ねて 座り、ぼうっと景色を眺めていた。  マリスとコンビを組み、護り役でもある上級魔道士ヴァルドリューズは、過去の 因縁に方を付けるため、ここにはいない。  ケインの連れていた、口の悪い妖精の子供ミュミュを助けるためでもある。  祖国のベアトリス王国を出てから一年が立つが、考えてみると、マリスの側から 彼が離れたことはなかった。  意思の疎通が出来ず、彼女が彼を避けていたことはあっても、まったくの離れ 離れになったことなかったと思い出す。  無口で、自分のことはあまり話さない彼ではあったが、その存在感は大きかった。  離れてみると、開放感を味わうでもなく、少しだけ淋しいような気が、マリスは していた。  彼が高度な魔道の使い手であったために、その腕を頼りにしていたことも大きい。  彼女がひとりでいても、何かあれば必ず助けに来ていたのは、今度ばかりは期待 出来ない。  戦闘に於いては、彼女には絶対の自信がある。彼との召喚魔法もしかり、彼女自身 の操る武術は、無敵と言ってよい。彼女は、決して、敵が怖いわけではなかったが、 自分自身のどこかが欠けてしまったような心境であることには違いなかった。  なぜそう思うのか、マリスは考えていた。  この人だけは一緒にいてくれる、自分を護ってくれる……ヴァルドリューズとは、 彼女にとって、そういう存在であった。  恋愛感情はなくとも、一番信頼出来ることであった。 (愛する人との絆が、一番の結びつきであると言い切れないのが、悲しいところだけ ど……)  マリスは苦笑いをした。  これまでの偏った経験を思い起こすが、どうも愛する人というものは、皆、彼女の 手から、すり抜けていくように思えてならない。それは、彼女とて、彼らのせいと ばかりは言えないこともわかっていた。自分にも反省すべきところはあったと認めて もいる。  それ以外の特殊な要因として、守護神が獣神サンダガーであることが上げられる。 その宿命に振り回されてきたことが大きいのではないか、とも思う。  国に置いて来た婚約者であるセルフィス王子も、彼女を守り切れなかった。  幼馴染みのダンが、彼女の前から突然姿を消した。  その後も、出会った男は、彼女の戦いの中に生きる運命を受け入れられず、彼女の 能力(ちから)にも恐れを成して、去って行った。  愛情など、彼女が思っていたほどあてにはならないものだと思う反面、ヴァルド リューズならば絶対に裏切らないと、確信し、信頼するようになっていったのだった。  恋人でなくても、肉親でなくても裏切らない。  それが、彼女と彼の間にある絶対の関係であった。 (男の人なんて、みんな同じ。あたしのことを綺麗だとか、かわいいとか言って 近付いて来ても、いざとなったら逃げ出すんだわ)  彼女は、そう思うようになっていった。  恋人よりも、信頼できる仲間さえいればいいと、この一行で旅をするようになって から、彼女の中では、その思いは膨らんで行ったのだった。  ヴァルドリューズのいない今も、彼女はひとりではない。  それは、とても心強く、有り難いことだと考えると、淋しさは紛れていった。 「マリス、魔力を抑える方法が見つかったわ」  宝箱を寄付した後、町外れの丘でぼんやりしている彼女を見付け、クレアが魔道書 を片手にやってきた。 「ヴァルドリューズさんもおっしゃっていたけど、やっぱり瞑想が一番効果的みたい よ。私、インカの香を買ってきたの」  魔道士の修行促進にも効果があると言われている香だ。  マリスは、胡座(あぐら)をかいた格好で、彼女を見つめた。 「二人でやると、相乗効果があるみたいよ。私もついでにもっと魔力を高めたいし、 そうなったら、今よりも、もっと抑えないといけなくなるから、どうせなら、一緒に 修行しない? 」 「ええ」  マリスの返事と同時に、クレアは嬉しそうに、香を取り出し、いそいそと準備を 始めた。 (可愛いなぁ。健気だし。あたしが男だったら、口説いちゃうなー)  マリスは、自分にはないクレアの健気さに感心し、彼女の上品な手元に見蕩(みと) れた。  魔道書を見て、クレアとああだこうだ言いながら、修行をするのが、マリスに とっては新鮮であり、士官学校に通っていた当時の仲間たちとわいわいやっていた 頃を思い出し、懐かしくもあった。  二人が夕食を摂りに、食堂へ向かうと、ケインとカイルが先に来ていた。 「へー、ずっと修行してたのか? 偉いなあ! 」  ケインが感心して二人に微笑み、ミルクの入ったツボを傾けた。 「あなたたちは、何をしていたの? 」  クレアが尋ねる。 「俺は武器屋に行ったり、街をプラプラしたりしてたけど、カイルはナンパしてたぜ」  何気なく言ったケインに、カイルが食べ物を頬張ったまま、反論した。 「ナンパじゃねーって! お前なー、そういう言い方は誤解を招くって、いつも 言ってんだろー? 俺はただ、女の子に、焼き菓子ご馳走になってただけで……」 「まあっ! ナンパした上に、タカッたというの!? 」  クレアは、丸テーブルの隣に座るカイルを睨んだ。 「えっ? あ、いいや、俺は断ったんだけどさ、向こうがどうしてもって言うもん だから、つい……」  どうしても菓子をおごりたい女の子なんて、いるんだろーか? と、ケイン、 マリスは横目で彼を見ていた。 「あっ、いたわ! あそこよ! 」  町娘が三人現れる。 「ねえ、傭兵さん、旅のお話聞かせてくれる約束でしょう? 」 「その魔法剣のお話も! 」 「早く、早く~! 」  娘たちは、長いスカートをひらひらさせ、カイルを両脇からがんじがらめにし、 きゃっきゃ喜んでいた。 「あら、もうひとり傭兵さんがいるわ」  そのうちのひとりが、ケインに目を留めた。  普段は男装のマリスは、この時も少年服を着てはいたが、髪をおろしていたので、 さすがに少年には見られなかった。  資金稼ぎのために、王子役で芝居に出た時に、町娘たちから追いかけられて、 すっかり懲りてしまい、以来、動き易いよう少年のような格好をしてはいても、 長い髪は下ろし、少年と間違われないようにしているのだった。 「あら、ホントだわ。こっちの人もカッコいいわ~! 」  町娘たちは、ケインの周りにも寄っていき、それをカイルは面白くなさそうに見て いたが、当のケインは眉間にシワを寄せて、彼女たちをちらっと見ただけで黙って いる。  そして、別の店に行こうとしつこく誘われるが、「行かない」とはっきり断った ので、娘たちは、あっさりとケインから離れ、まだ食べ終わっていないカイルだけを 拉致して、連れて行ったのだった。  夕食を終え、昼間取っておいた宿へ、三人は向かう。 「明日は、もう少し先の街に行ってみましょうか」 「そうだな。魔物の噂も聞かないし、せいぜい野盗ってとこだけど、きみたちが 倒してるから、もうこの辺りにはいないだろうし」 「じゃあ、ケイン、カイルが帰ってきたら、そう伝えておいて」 「ああ」  マリスとクレアの部屋で地図を見ながら予定を決めると、ケインは、隣にある、 自分とカイルの部屋へ戻っていった。  夜着に着替え、それぞれのベッドにもぐり込み、枕元の灯りを消すと、ふいに クレアが呟いた。 「……ヴァルドリューズさん、元気かしら……? 」  暗闇をいいことに、安心して大きな欠伸(あくび)をしていたマリスは、慌てて口を 閉じた。 「あれから、もう五日経つわ。……マリスは、心配じゃないの? 」 「そりゃあ心配だけど、ヴァルのことだから大丈夫だろうし、ミュミュもきっと無事 よ。相手だって、大魔道士クラスってわけじゃあるまいし……」  マリスは笑いながら、軽く言った。  しばらくして、クレアが話し出す。 「マリスが魔力を抑えられるようになってしまったら、ヴァルドリューズさんが合流 する時、あなたを探しにくくなってしまわないかしら? 今まで、あなたの魔力を 辿って、駆けつけてくれたんでしょう? 」 「ああ、まあね。でも、あたしもよくはわからないんだけど、単に魔力の強さだけで、 あたしの居場所がわかるわけではないみたいよ。魔力の波長というか波動によるよう なの」 「そうなの? 」 「特に、あたしとヴァルは、ゴドーのじいちゃんから魔力を分けてもらってて、 似たような波動だから、感じ取りやすいのかもね」 「ふうん……。私には、まだまだ波動までは区別つかないわ」 「なかなか難しいみたい。出来ない方が、普通だわ」  マリスが笑った。  クレアは、笑わなかった。 「マリス、明日も一緒に修行してね」 「ええ」  それ以上、クレアは、マリスに話しかけなかった。


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