Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅶ.-3〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月緑ライン  Ⅶ.『異次元バトル』 妖精青アイコン3 ~ 本当の敵 ~  剣月緑ライン

 ケインとヴァルドリューズの前には、異様なものが現れていた。  ヒトの丈の倍以上あろうかという黒い顔面そのものが、口であった。  口の入り口には、中心に向かってカーブを描く無数の牙があり、呼吸をするように、 開いては閉じている。  身体全体に黄色がかった突起を生やした、ヘビのように、くねくねと左右に波打ち ながら進む、巨大なワームといったところか。  透明な緑色の粘着液を足跡に残し、ゆっくりと近付いて来る。 「クロウラーであったか。あれが、この魔界への『通路』ーー次元の穴を作り出した 『主』だろう」  ヴァルドリューズが静かに言った。 「あいつが……! 」  同時に、ケインは、その不気味さに、クレアを置いてきたヴァルドリューズの判断 が、正しかったことを認めた。 「あいつが来る前に、早くマリスたちを……! 」 「今は、奴を倒すことに集中しろ」 「だけど……! 」 「心配するな。マリスたちを包んでいるのは、魔道士の結界だ。魔物ではない」 「魔道士だって!? まさか、魔道士の塔のやつらが、かぎつけて……!? 」 「それよりも、今は、とにかく『主』を倒すのだ。お前と私とで」  これまで、マリスとヴァルドリューズの召喚魔法『サンダガー』で倒してきたよう な強大な敵であるのを、ケインの攻撃と、ヴァルドリューズのバック・アップのみで、 倒さなくてはならないことに、ケインは一気に緊張した。  魔物の鋭い牙が襲いかかると、ヴァルドリューズがケインを抱えて飛び上がる。  飛べないまでも、クロウラーの方は、身体を持ち上げ、伸び上がり、牙で向かうが、 ケインを連れたヴァルドリューズが、器用によける。  ケインは、マリスとミュミュの消えた辺りを目で追うが、そこには何もなかった。 「ケイン、冷静になるのだ。お前がまず倒さなくてはならないのは、クロウラーなの だ。マリスの魔力の波動は感じられる。彼女やミュミュは無事だ」 「あ、ああ」  心配を引きずるケインであったが、視線を目の前の敵に戻す。 「さ、行ってくるのだ」  クロウラーの背に素早く回ったヴァルドリューズは、半ば強引に、ケインを突き 落とした。  瞬時に戦闘態勢のスイッチが入ったケインは集中し、マスター・ソードをクロウラ ーの背に突き立てた。  どす黒い緑色の体液が、噴水のように吹き出す。巨大な魔物は苦しげに、または 怒りに任せ、暴れた。  背に回ったケインは、剣をより深く突き刺す。  跳ね上がる魔物の上では、振り落とされないよう、必死に剣にしがみつくのが やっとだ。  そこから彼の見たものは、クロウラーの尾の先にある、赤い二股の触角であった。  反り返った二本の触角が持ち上がり、ケインに向かうのを、ヴァルドリューズが 盾のように、前方向を強化した防御結界を張った。  尾からは赤い稲妻が走るが、ヴァルドリューズの防御結界によって、防がれている。  振り飛ばされそうになりながらも、ケインは、ドラゴン・マスター・ソードの柄を 掴むてのひらに、力を込めた。 『剣に棲まいし黒い竜ーーダーク・ドラゴンーーよ  今こそ目覚め  偉大なるその力を  貸し与えよ! 』  魔物の体内では、ドラゴン・マスター・ソードから放たれたダーク・ドラゴンの 影が、暴れまくっていることだろう。  その感触は、ケインにしかわからない。  彼には、黒いドラゴンが彼の意志と連動し、魔物の体内を、隅まで駆け巡っている のが感じられる。  声ともつかない地鳴りのような叫びを上げたクロウラーは、これまで以上に跳ね 上がった。  勢いは衰えていくが、生命が絶たれるほどの感触ではない。 「……そっか、わかったぜ、ヴァル! こいつの本当の頭、つまり、脳は……『尾』 だったんだ! 」  ヴァルドリューズはケインと共に結界で包みこむと、浮かび上がった。  防御結界解除とタイミングを合わせたケインは、ダーク・ドラゴンを、クロウラー の赤い尾に向かわせるよう、剣を振りかざした。  緑色の血に濡れたドラゴン・マスター・ソードの刃全体が、黒い影に包まれると、 黒い西洋ドラゴンの形となり、クロウラーと対等の大きさにまで膨れ上がっていった。  そして、ためらうことなく向かって行き、魔物の尾を、食べるようにして削り去っ たのだった。  一瞬の出来事であった。  途端に、持ち上がっていた、牙に覆われた口が地面に沈む。  現実世界とは違和感のある異次元では、落ちる速度が遅い。  ヴァルドリューズの結界が、再び二人を包むゆとりもあった。  二人が、奇妙な感触の地面に降り立った時、クロウラーの身体は、もぞもぞと動い ていたが、力強さはない。  ヴァルドリューズの放った銀の炎が、それを燃やす。


銀炎

 肉の焼け焦げる匂い、焼けた脂の匂いが立ち込めるが、ヒトの料理する食用の動物 とは違う、獣臭いのを通り越して、腐った肉のような、我慢し難い匂いが立ち込めた。 「よくやったな、ケイン」 「ああ。異空間では初めてだったけど、なんだか、人間界よりも、魔法の威力が増し てる気がしたよ。俺、これでも、能力(ちから)を加減したつもりだったのに」 「私も加減したが、同じく、力は増幅されていた」 「やっぱりか? 後で詳しく考えるとして、今はマリスたちを……! 」  景色の混ざり合っていた異空間は徐々に消え、巨大な魔が完全に息絶えた証として、 そこはただの洞窟に移り変わっていく。  遠い天井の上空には、薄い緑色の膜が二つ、浮かんでいた。  一つにはケインとヴァルドリューズが、もう一つには、黒いマントの男がいた。  黒髪、黒い瞳の、東洋系の男だった。 「やっと見つけたぞ、ヴァルドリューズ」  酷薄そうな男の口からは、冷たい声が流れた。 「ヤミ魔道士の取り締まりには、俺も協力していたのだ。まさか、こんなところで 再会するとは、思っても見なかったが」  魔道士は、口の端を、少しだけつり上げて、笑ってみせた。  彼の右腕には、マリスが抱えられ、ミュミュは、彼らとともに、結界の中に浮かん でいたのだった。 「マリス! ミュミュ! 」  ケインの顔が青ざめた。  表情を変えないままのヴァルドリューズが、結界ごと、彼らを見据える。 「あなた、『魔道士の塔』の人だったのね? 」  黒マントの胸にある銀色の刺繍を見つけたマリスは、挑戦的な目で、魔道士の男に 不敵な笑みを送った。  ヴァルドリューズが口を開く。 「ダグト、なぜ、ここへ」 「言っただろ。ヤミ魔道士狩りだ。もっとも、それにかこつけて、俺としては、貴様 を探していたのだがな」  魔道士は肩を竦めて、ヴァルドリューズを見た。 「私に、何の用だ」  魔道士の塔のヤミ魔道士取り締まり班を目の前にしても、ヴァルドリューズは、 いつものごとく冷静沈着であった。  それを面白くなさそうに、ダグトは舌打ちしてから、語り始めた。 「とぼけるんじゃない。俺と貴様は、長年に渡るライバルであった。ラータン・マオ の宮廷でも、俺たちは、いつも互いの技を競い合っていた」  ヴァルドリューズは無言でダグトを見つめる。  ダグトは続けた。 「貴様が、グルーヌ・ルーの召喚に成功したことを知った俺は、非常にいまいましく 思った。それまで、あらゆる召喚魔法をこなしていた俺ですら、グルーヌ・ルーまで は召喚できなかったのだからな」  男は、薄い唇をつり上げた。 「他の宮廷魔道士たちと共に、ラータンからお前を追い出した後、俺は宮廷魔道士を 辞め、魔道士の塔に戻った。貴様が、まだ生きているという噂を耳にしたからだ。 なんとしてでも探し出し、今度こそ、貴様の息の根を止めてやろうと思ったのだ。 それが、こんな形で再会できるとは、思ってもみなかったが」  彼は既に、勝ち誇ったように、ヴァルドリューズを見下していた。 「貴様と行動を共にしている王女は、既に俺の手中にある。王女を返して欲しくば、 俺についてこい」  ヴァルドリューズは、じっと表情のない目で、彼を見つめている。動揺した様子は 見られない。  冷たいヤツね、とマリスは心の中で苦笑いしてから、言った。 「あなた、ヴァルがそんな挑発に乗ると思うの? 彼があたしのために、わざわざ 適地へ乗り込むわけないでしょう? 」  マリスの挑戦的な瞳に、ダグトの視線が移る。 「ほほう、お前たちは、恋人関係ではないというのか」  ケインが、はっとしたように、マリスとヴァルドリューズとを見比べるが、二人の 表情に変化はない。 「当っっったり前でしょ? 彼にも、あたしにも、好みってもんがあんのよ」 「それは失礼したな。だが、お前たちが組むと、とてつもないものまで召喚出来る のではなかったかな? 」 「そんなことしなくても、あたしたちは、充分、無敵だわ」 「ふん、気の強い女だな。ラン・ファ譲りか」 「あなた、ラン・ファのことを知って……! 」  言いかけた彼女の顎は、ダグトに掴まれた。 「マリス! 」  飛び出そうとしたケインを、ヴァルドリューズが制止する。  マリスは、キッと、ダグトを見上げた。 「連れて行くなら、勝手にすればいいわ。でも、ヴァルは、あんたなんか相手に しないわよ。万が一、戦ったって、勝つのは彼だわ。あたしは、そう信じてる」  それには、二人の信頼関係の程が現れていた。  ダグトの冷たい瞳が、マリスと睨み合う。  無言で戦っている彼らの横で、ミュミュは結界に、へばりついていた。 「お兄ちゃん……、ヴァルのお兄ちゃん……」  ミュミュの不安気な、か細い声に、ダグトの目が、ぎらっと光った。  しまった!   マリスが思った時には、遅かった。  ミュミュの周りに、薄い膜が出来たのだった。 「ミュミュ! 」  マリスとケインの声は、同時だった。  ミュミュが、彼女の周りにだけ出来た、小さい球の中で、わあわあ泣き出した。 「出られないよー!? ケイン! お兄ちゃん! 助けてー! 」  ヴァルドリューズの顔色が、僅かに変わる。 「ほう、どうやら、この妖精の方が、貴様には、大事だったらしいな? 」 「ちょっと、ヴァル! あたしん時は知らん顔してたくせに! どーゆーこと? 」  マリスが叫んだのと、ダグトが嫌味な笑い声を上げたのは同時だった。  即座に、ダグトは、片腕に抱いていたマリスを突き飛ばした。 「きゃああっ! 何すんのよー! 」   マリスの身体が落下していく。 「ヴァル! ミュミュを頼む! 」  ヴァルドリューズの結界が、ケインとの間で分かれた。  ダグトの笑い声が遠ざかり、ヴァルドリューズも消えたのを見届けたケインは、 暗い闇の中、マリスの後を追った。


剣風

「ダーク・ドラゴンよ、俺に力を! 」  ケインの無心の念が剣を通じて起こした風は、マリスを包み、降下を遅らせた。  追いついたケインは、バスター・ブレードを掴んだ右手でマリスを頭から抱えると、 左手のマスター・ソードを、再び真下に振り下ろした。  地面に跳ね返った風が、二人を巻き上げ、落下の衝撃を和らげた。  気が付いたケインは、マリスを抱きかかえたまま、地面に横たわっていた。 「……うまくいったのか……! 」  剣の黒魔法を、そのように使ったのは初めてであった。大きな賭け、だが、絶対に 成功させなくてはならない賭けだった。  大きな安堵の溜め息を吐いたケインは、感慨にひたる間もなく、念じた剣先に、 光の球を浮かび上がらせてから、近くの岩に立てかけ、マリスの息を確認した。  幸い、マリスが無傷で呼吸もしているのがわかると、ゆっくりと、仰向けに抱え 起こした。  彼女の瞼(まぶた)が、うっすらと開かれる。 「……ケイン? 」  ケインは彼女を強く抱きしめた。 「……良かった。本当に……! 」  抱きしめる腕に力が込められるほど、マリスには、彼の必死さが伝わる。 「ヴァルは、あのダグトとかいう魔道士を追って行った。後は、ミュミュだな。 それも、ヴァルがきっと助け出してくれる」 「……ありがと。……ケインが、あたしを助けてくれたのね……」 「ヴァルが、俺が飛び出した時に、結界で包んでくれたからさ」  マリスは、彼の手を借りて立ち上がった。よろめくのを、ケインが抱き留める。  頭を抑えながら、マリスは苦笑した。 「……にしても、あのダグトって、結界の中から人を突き落とすなんて、なんてヤツ なのかしら! 普通なら、そのショックで当分は立ち上がれないけど、異空間に慣れ ているあたしだから、なんとか耐えられたのよ。……ありがと。もう少ししたら、 歩けるから」 「うん。だけど、無理するな」  二人は、岩場に腰を下ろした。  マスター・ソードの灯(あか)りが、彼らの手元を、ぼんやりと照らす。  ケインは大剣を元通りに背負い、マリスを支えるように座る。  その時、洞窟の中に振動が起こった。  ハッと、見上げた二人には、高い天井が崩れかけ、岩が落ちて来るのがわかった。  異空間での戦いの影響かと、二人は思った。  とっさに、ケインがマリスを抱きかかえ、剣を持ち、横穴に逃げ込んだ。  ガラガラと天井の岩が崩れると、横穴の入り口は塞がれた。  ぼんやりと、緑色に光っている穴の中で、二人は倒れ込んでいた。  俯(うつぶ)せになっているマリスの上に、彼女を護るようにケインが覆い被さり、 落石を防ぐ。 「いててて……大丈夫か? 」 「ケインこそ、大丈夫!? 」  ケインが頭をさすりながら、背から、バラバラと、苔のついた石を振り落とした。  薄暗い中では、緑色に光っているものがある。弱々しい光ではあったが、それが 光苔(ひかりごけ)であるのが、マリスにはわかった。  光苔の並び方で、あちこちに岩が突き出ているのがわかる。  長身のケインとマリスでは、中腰になり、初めて通れるほどの高さしかない。 「怪我したでしょ? みせて……」 「えっ、べ、別に、このくらい……」  緊張して強張(こわば)るケインの頭を、膝立ちになったマリスは両手で包み込み、 自分の顔のすぐ隣に引き寄せた。  合わせて膝で立ったケインの顔は、ますます紅潮していくが、マリスに見られる 位置でもない。剣の光も消えているその場所では、彼にとっては幸いにして、それが 知られるほど、辺りは明るくはなかった。 「今のあたしは、神官服に、巫女アイテムを付けまくってるわ。白のパワーが強まり、 ベアトリクスにいた頃みたいに、白魔法が使えるのかも知れないわ」  ケインの後頭部を探り、落石したあたりを探る。彼は言わなかったが、彼の頭から 払い落とされた石の塊が大きかったのを、マリスは見逃さなかったのだった。  案の定、出血しているのを、彼女の指が探り当てる。  目を閉じた彼女は、指先に、全神経を集中させ、『治療』の呪文を唱える。  初歩的な白魔法であったので、このくらいはできるはずだと、自分を信じる。  彼女に頭を抱えられたケインには、とても長い時間が経ったように思えた。  心地の良い感触であったが、それに甘んじている場合ではない。彼女を抱きしめて いるなら安定するものの、密着しないよう気遣ったため、顔だけを突き出した不安定 な態勢で、緊張した時の経過を待つことになった。  落胆したように、小さく溜め息を吐いてから、マリスは言った。 「ごめん。『治療』は、出来なかったわ」  彼は顔を上げた。 「サンダガーを召喚するのに必要な『全身浄化』が出来るのと引き換えに、それまで 使えていた白魔法が出来なくなって。  こんなに、白魔法アイテムで身を固めてても、ダメだなんて……。そうだわ、 代わりに、これを……」  マリスは長い髪を、胸の前に持って来た。束ねていた、ホワイト・ドラゴンの刺繍 がされた水色のリボンを解く。ぱさっと、長い髪が広がった。  そのリボンを、ケインの額から、怪我をしている後頭部へと巻き付け、カイルの バンダナのように、後ろで結んだ。 「さ、できたわ。ここから出て、クレアに治してもらうまでの、応急処置よ」  ケインが、じっと彼女を見下ろす。 「……マリスって、意外とやさしいんだな」 「ちょっと、意外とって、どういうことよ? 応急処置なんて、いくさでは当たり前 だったでしょう? 」  二人はそこから移動することにした。出口を探しに。  マリスは長いスカートが邪魔で、裾を横にひとまとめに結んだ。  中腰になり、岩肌を手で探りながら進む。大剣を背負ったままの中腰が辛くなった ケインは、バスター・ブレードを杖のように突きながら歩く。  しばらく進むと、先の空洞ほどではないが、ヒトが立てるくらいの高さも、街の 広場ほどの広さもある場所に出た。  そこにも、光苔は生えていた。苔がどこまでも続いている。緑色に光る小さな宝石 が、一帯にちりばめられているかのようだ。 「……きれい……! 」  思わず、うっとりと、マリスは呟いた。  ケインが、振り返る。 「苔だぜ? 」 「あら、それでもきれいよ。ヒトの入り込まない辺境にだって、きれいなものはある わ。みんな、自然にできた宝石なのよ」  ケインはおかしそうに、だがどこか感心したように、微笑んだ。 「マリスって、やっぱ、変わってるな」  気にも留めずに、マリスは続けた。 「そう言えば、ケインは、マスター・ソードの宝石を探しているのよね? ここには、 ないのかしら? 」 「いや、俺が夢で見た景色は、ここじゃなかった。それこそ、人間界とは違う、幻想 的な森の中だった。そこに、ぽっかり泉が出来ていたんだ。……不思議だな。夢を 見た直後は覚えてなかったのに、今は自然に思い出せたとは」 「森の中に泉……。確かに、不思議な場所みたいね」  二人は、緑色に光る苔の中で、しばらく立ち尽くしていた。 「ヴァル、どうしたかな」  ふと、ケインが呟いた。 「ヴァルのライバルって言うからには、彼と同等か、それ以上の実力があるってこと だろう? ましてや、ミュミュを人質に取られているんだ。あれじゃあ、ヴァルの方 は実力を出し切れないんじゃ……? 人質取るなんて、いかにも悪者か、弱いヤツの やることだよなー。そんなヤツに捕まったミュミュも可哀想に。今頃、怖くて泣いて るかも」  マリスはおかしそうに、ケインを見た。 「いくら探しまわっても出口が見つからないっていうのに、自分たちのことは、全然 心配じゃないみたいね。普通は、こんな状況だったら、本当にここから出られるのか とか、このまま野垂れ死んでしまうかもとか、悲観的になるものじゃない? 」 「それは、マリスも同じだろ? 」  言いながら、二人は、互いが強い者であること、例え、多少の不安があっても、 それを表には出さないよう努めるだろうということに、気が付いた。 「しばらく休むか? ヴァルは、決着がついたら、俺たちを探してくれるだろう。 マリスの魔力の波動が、ヴァルには感じ取れるんなら、無駄に歩き回って体力を消耗 するよりは、彼を待っていた方がいいかも知れない」 「そうよね。やたら歩き回らない方がいいかしらね。この洞窟は、なんだか、さっき から横穴が多くて、どれが出口につながっているのかわからないし、光苔のある穴と、 ない穴があるのも気になるわ」 「苔がないっていうのは、……もしかしたら、……何かが通ったから……? 」  二人が顔を見合わせた時、どこからともなく、微かに物音がした。  見合っていた二人の表情も、引き締まる。 「もう次元の通路を造った『主』はいないから、魔物ではないはずだけど、自然界に だって得体の知れない生物はいるから、油断は出来ないわ。敵だと思われれば、すぐ に襲いかかってくるでしょうね」  小声で口早にそう言ったマリスは、ケインからバスター・ブレードを受け取ると ともに、そっと身構えた。  ケインも、マスター・ソードを引き抜く。 「……う、うう……! 」  獣の唸り声というよりも、人の呻くような声に近い。 「まさか、こんなところに、ヒトが……? 」  目を合わせた二人は、ゆっくり頷き、そろそろと、声のする方へと向かっていった。


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