Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅶ.-1〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月緑ライン  Ⅶ.『異次元バトル』 妖精青アイコン1 ~ エルマへ入国 ~  剣月緑ライン

 エルマ国境近隣の町で、マリスとヴァルドリューズは道具屋に寄り、変装のため、 神官服一式を手に入れた。  本来、神官服などは、神殿で手に入れるものであったが、分岐点となっているその 街道には、道具屋は一軒しかなかったため、さまざまなものを扱い、利益を独占でき る。それをいいことに、どの商品も、高価な値段がつけられていた。  一年以上旅をして来たマリスとヴァルドリューズも、そのような何でも屋は初めて であった。  目的のものを購入出来た二人は、人通りの少ない山道で、一行と落ち合った。  マリスたちが到着した時、ケインが赤い大判の布を、マントにしてみたり、首に 巻き付けたりしていた。 「なに、その赤い布。ちょっと趣味悪いんじゃない? 」  マリスが眉をひそめる。 「これ、仮縫いの時の、ジューク・フリードのマントなんだ。衣装そのものは、 これから先も公演で使うから譲れないけど、こっちならどうぞって、昨日、衣装係 さんから記念にもらったんだ」  彼は、嬉しそうに赤い布を、広げて見せた。 「でも、この格好にマントは似合わないし、だから、マフラーにしようかなーって 思ったんだけど、巻いてみたらちょっと重いし、見た目も、なんかヘンなんだよなぁ」  カイルもクレアも、先ほどから目を丸くしている。  マリスは、あんぐりと口を開けてから、片手を腰に当て、呆れた声を出した。 「まだヒーロー癖が抜け切っていないの? 」  言われたケインは、気にも留めていない。 「あんなに喜んでる上に、記念の品じゃあ、捨てろとは言えないし……」  クレアが、ケインには聞こえないよう、マリスとカイルに言った。 「だけどさ、あんな変なマントだかマフラーだかつけたヤツを連れてたら、一緒に いる俺たちまで、道行く人々からセンスを疑われちまうぜ」  カイルもひそひそ言う。 「しょーがないわねえ」  マリスはケインからマントを受け取ると、いろいろな方向から当ててみる。  マントをただの赤い布として、彼の右肩から斜めに引っかけ、左側の腰のあたりで 結んでみた時、ケインの姿は、それまでの、何の変哲もない傭兵から、ちょっと洒落 た傭兵に見えなくもないのだった。 「サンキュー、マリス! 」  ケインは単純に喜んでいた。  クレアは、いいか悪いかわからなそうに首を傾げ、カイルは、男の服には何の興味 も示さなかった。  そして、マリスたちの方の変身に、やっと取りかかる。  ヴァルドリューズが、黒いフード付きマントを広げ、念じると、それが宙に浮かび、 目隠しとなった。その中へ、まずはマリスが入り、巫女用の神官服に着替えた。  クレアのまとう薄紫色の詰め襟の神官服と似た、マリスの神官服は、淡い水色で あった。二人とも、中央の部分が、首からスカートの裾まで、一本の帯のように神聖 な模様が銀色の糸で縫い取られている厳かなものだ。  クレアの着ている方は膝丈であるのに対し、マリスの方は、足首近くまで隠れる ロング丈であった。生地を多く使う分、金額は高いが、長い方が、多少のガサツな 動きでもごまかせると、マリスは思ったのだった。  着替え終わると、ヴァルドリューズと交替し、マリスは、ミュミュが持つ鏡を 見ながら、仕上げに入る。  いつも高い位置で結っている髪は下ろし、以前トアフ・シティーで買った巫女用 アイテムである水色のリボンを、下の方まで巻き付けていき、髪を一束に編んで行く。  同じくトアフで購入した白魔法アイテム銀色のブレスレットなども、ついでに装着 しておく。  そのような出で立ちになれば、マリスも、なかなかしとやかな巫女の少女に見えた。  ヴァルドリューズは、濃い紫色に、銀色の縫い取りのある、丈の長い服だ。上半身 に、宗教的な模様が大きく入っていて、同じ生地と模様の帽子を被っている。  これで、二人とも、外見上は、巫女と神官であった。 「見た目は、それっぽくなったな」  ケインはマリスを眺めて、どこか嬉しそうに言った。 「マリスが巫女さんなのー? なんかヘンだよー」  ミュミュが首を傾げている。 「あら、そんなことないわ。これなら、どこから見ても、ちゃんと洗礼を受けた巫女 にしか見えないわ」  微笑むクレアに、マリスは「一応、あたしも巫女ではあるんだけどね」と呟いた。 「ああっ! 露出度のほとんどない巫女が、二人も! この白い騎士団から、 ますます色気が遠のいていくぜ! 」  カイルだけは嘆いていた。 「そうかあ? いいじゃないか、マリスの巫女スタイル。俺は、この方がいいと思う けどなあ」  ケインは素直に感心していた。  ケインて、巫女フェチだったのかしら? と、マリスは首を傾げる。  どう見ても、このような神官服が、自分では、とても似合ってるとは思えなかった のだ。  カイルがケインを振り向く。 「お前なあ、何言ってんだよ。巫女なんて、男と付き合えないんだぜ? そんな不毛 な人種は、世のため、人のため、これ以上増やすもんじゃねーぜ」 「まあっ! 不毛な人種だなんて、それは、いったいどういうこと? 私のことも、 そう思ってたの!? 」 「えっ! いや、そういうことじゃなくて……クレアは、今は転職して、魔道士 として修行してるんだから、その……」  クレアに睨まれたカイルは、慌ててごちゃごちゃとごまかした。  


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 衣装替えが済むと、一行は、ヴァルドリューズ、マリス、クレアの神官グループと、 ケイン、カイル(ミュミュは、カイルの髪の中へ隠れている)の傭兵グループに別れ、 エルマ公国へ入国する。  神官はともかく、巫女と傭兵が一緒に旅をするなどということは、滅多にないため であった。 「ふう、なんとか無事に入国出来たみたいね。ケインとカイルも、もう入国した かしらね」 「魔道士の塔の人は、門にはいなかったわね」 「この国は、入国審査だけは厳しいらしいから、これで、とりあえず安心ね」  マリスとクレアが、ほっとして話していると、後ろにいるヴァルドリューズが、 ふと顔を上げる。  つられた二人も同じ方向を見ると、山の間から、一本だけ突き出た塔があった。 「ふ~ん、なるほど。どうやら、あれが、噂に聞く『魔道士の塔』支部のようね。 ベアトリクスにあった宮廷魔道士の塔にも似てるわ。あそこから、魔力を探知して、 怪しい侵入者をチェックしていると思う」 「……じゃあ、私たちのことも……」  マリスとヴァルドリューズの顔を見ながら、クレアが深刻な表情になった時だった。  三人は、大きな魔力の波動を感じた。  魔道士の塔から、三つの黒い影が、高速で向かってくると、すっと、彼らの目の前 に降り立ったのだった。 「ふん、旅の巫女と神官であったか」  三人のフード付き黒マントを頭から被った男がひとり、一行をじろじろ見ながら 口を開いた。 「そこのお前」  マリスを指さす。 「随分と凄まじい魔力を身に付けているようだな。ただの巫女であれば、そこまでの 魔力は必要ないだろう。まさか、貴様、実はヤミ魔道士ではあるまいな」  中年の魔道士であったが、ひときわ険しい顔立ちのその男は、いかにもマリスを 疑っている口調である。  マリスのいつもの白い鎧であれば、ある程度魔力は抑えられたものであった。  上級魔道士であるヴァルドリューズと違い、自力では魔力を抑えられないマリス は、彼らからすれば、歩く凶器のごとく危険人物に見えたのだった。 「この者は、白魔道を極めている故、このように魔力が高いのです。まだ未熟では あるので、自分では魔力のコントロールができずにおります。それを兼ねた修行の旅 にございます」  ヴァルドリューズが、普段よりも、流暢(りゅうちょう)に語っていた。神官は、 魔道士とは違い、平坦な口調ではなく、抑揚もあったため、それに倣(なら)ったのだ。  そのように演技が出来るのだったら、芝居の仕事の時に、もうちょっと気を利かせ てくれればよかったものを、とマリスは思った。 「ほう、それほどまでに、白魔道を? では、そこの巫女、ここで、究極奥義を、 見せてみるがいい」  表情のない目を、三人の魔道士は、マリスに注いだ。  彼女には、魔法など使えるわけはなかった。  もっとも、ヴァルドリューズと旅に出る以前、一時期、彼女は、白魔道士として、 ベアトリクスでも力を発揮していたこともあった。  だが、雷獣神サンダガーを召喚する時に必要な、我が身を浄化する呪文を習得する のと引き換えのように、それまで使えた魔法が、使えなくなってしまったのは、以前、 ケインたちに説明した通りであった。  『全身浄化』も高度な魔法であるには変わりないが、禁呪である獣神の召喚に使う 際に必要な呪文だと答えるわけにはいかない。  クレアが、心配そうに、マリスを見る。  ヴァルドリューズは、それ以上、口を開こうとはしなかった。 「どうした? 出来ぬのか? 」  中央に立つ魔道士が、言う。  マリスは、上級の巫女のような神秘的な瞳を心がけ、口を開く、 「魔道を極める者は、やたらにその力を、人前にはさらさぬもの。ですから、ここで、 技を披露することは、なりません」  厳かな口調で、そう言った。 「通常はそうだが、これは検問だ。魔道士の塔が特別に許可するというのだ。気に なるようであれば、一般庶民には悟られぬよう私が結界を張ってやってもよい」 (あくまでも、あたしに白魔法を使わせようって魂胆ね)  ヤミ魔道士であれば、白魔法の究極奥義は習得出来るはずはなかった。白魔法の 神髄は神殿でのみ伝授されるものであり、巫女や神官の全員が使えるものでもない。  白の究極奥義を極めているクレアは、元来白魔法の筋は良かったと思われる。  それを見抜いたヴァルドリューズのもとで、さらに短期間のうちに魔力を高める 訓練をしたからこそ、可能であった。  この魔道士たちが、ここで、マリスが究極奥義の呪文を唱えられなければ、即刻 連行するつもりであるのは、一目瞭然だ。  だが、マリスは落ち着き払い、ゆっくりと目を閉じてから、しっかり、彼ら三人の 魔道士を見据えた。 「白魔道を極める巫女と、魔道士の塔とは、なんの関連もございません。わたくしは、 ティアワナコ神殿に仕(つか)える巫女であり、魔道士の塔に籍を置く魔道士とは 異なります。従って、あなたがた魔道士の塔の都合で、神聖な白魔法の奥義をお見せ することはできません」  マリスと、魔道士たちの睨み合いが、しばらく続いた。 「ティアワナコ神殿と言ったな。ベアトリクス王国の神殿だな? そこの巫女だと いう証拠はあるのか」  彼の冷静な瞳と平坦な言い方に、マリスも顔色を変えず、銀色のネックレスを、 神官服の胸元から取り出す。


クロス

 三人の魔道士たちは、それを手に取り、装飾のされたクロスに刻まれている神殿の 紋章を、じっと見つめていたが、やがて、中央のひとりが顔を上げた。 「疑って申し訳なかった。あなたは、本物の巫女であるようだ。それでは、修行に 励んでくれ」  魔道士たちは、一斉に飛び立っていった。  ティアワナコ神殿は、世界的に知られる神殿であり、そこで洗礼を受けたという ことは、一流の神官と、世では扱われている。  彼らの気配が完全に消えてから、マリスもクレアも、肩の力が抜けた。 「なんとか、無事、魔道士の検問も切り抜けられたわ。あの三人は、あたしを怪しん でいただけで、ヴァルのことは気付かなかったみたいね。ああ、あたしも、あなた みたいに、魔力を抑える訓練でもしておいた方がいいかしら」  ヴァルドリューズの目は、「それには、また厳しい特訓をしなくてはならぬのだぞ」 と、マリスに言いたげであった。 「それよりも、マリス。やっぱり、あなたは、本当に洗礼を受けていたのね。その ネックレスは、洗礼を受けた時に、神殿からもらう証明だもの」 「ま、まあね」  尊敬と親しみのこもった瞳のクレアに、彼女ほど熱心な神の信者ではなかった マリスは、多少の後ろめたさがあった。


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 街の食堂では、先に来ていたカイルとケイン、ミュミュの傭兵グループと落ち合う。 「この街には、意外と、神官や巫女が多くてさ、驚いたぜ。なんでも、聖地に向かう 道が重なってるらしく、巡礼の途中で立ち寄る人が多いんだってさ」  情報収集能力の高いカイルの話だった。 「巫女の集団がいてさ、ケインのヤツ、ぼーっと見蕩れてたせいで、向かいから来た ばあさんとぶつかってやんの」  カイルがケラケラ笑うのを、ケインが慌てて止めようとする。 「えーっ、ミュミュ、知らなかったー。かわいい子でもいたのー? どんな子?  どんな子? 」  ミュミュもいつもの好奇心旺盛な瞳で、ケインにまとわりつく。 「い、いや、ただ、あんなに清楚で、可憐な女の子たちの集団て、見たことなかった から……。やっぱり、町娘とは違うなーって、思っただけだよ」  ケインが、マリスの方を気にしながら、言い訳をした。 「お前なあ、あの子たちが、みんな清楚で可憐だと思ったら大間違いだぜ。そりゃ、 中には、そういう子もいるかも知れないけどな、巫女っていったって、まったく男に 興味がないわけじゃないんだぜ。現に、俺を見て、きゃーきゃー騒いでた子が多かっ たじゃないか。中身は、町娘と、それほど変わらないのさ」  カイルが威張った。 「それは、お前がナンパしようとするから、男に慣れていない巫女さんたちが、 怖がって逃げてたんじゃないか」  ケインが呆れて言い返す。 「まあっ! 巫女をナンパですって? なんてバチ当たりな! 」  クレアが怒り出す。 「こっ、こら、ケイン! そーゆーふうに言うと、誤解招くじゃねーか。俺は、ただ、 『巡礼? 大変だねえ。お茶でも飲む? 』って、かる~く言っただけで……」 「それの、どこがナンパじゃないっていうのよ! 」  慌てて言い訳したカイルは、かえって墓穴を掘り、一層クレアの怒りを買っていた。 「マリーちゃん、俺のこと、忘れてない? 」  いつの間にか、悲愴感を漂わせた魔界の王子ジュニアが、マリスの後ろに立つ。 「あれ、そう言えば……」 「うわ~ん! ひどいや、ひどいや! ヒトが真面目にシゴトしてたっていうのに、 エルマには、ちっとも来やしないし、来たら来たで、俺のこと、探してもくれない なんてー! 」  ジュニアは、後ろから、ぎゅーっとマリスに抱きつくが、弾かれたようにのけ ぞった。 「マ、マリーちゃん、……なんで、そんなカッコしてんの? 」  思い切り困惑した顔で、ジュニアは、マリスの着ている神官服と、髪にくくりつけ ている白魔法を強化するリボンとを見た。  魔族である彼は、今や、彼の天敵である白魔道士を装っている彼女に、触れること は出来ないようだった。 「ひどいや、ひどいやー! そうまでして、俺を拒絶するのかー! 」  ジュニアは泣き出さんばかりに、マリスにしがみつくが、バチバチッと、微かに 発した白い火花によって、弾かれていた。  そのうち料理が運ばれ、マリスは、まず一番大きい骨付き肉に手を伸ばす。 「だめよ」  隣にいたクレアが、パチッと、マリスの手をはたいた。 「なんでよー」  クレアは真面目な表情で言った。 「あなたは、今巫女なのよ。巫女は、肉類を食べることは禁じられているわ」 「あたしは巫女のフリしてるだけなんだってば。今までだって、肉食べてきたんだし、 巫女の称号は持ってても、巫女を本職にするつもりはないんだから、食べ物くらい、 いいじゃないの」 「いいえ。そんな神官服着たヒトが、肉を食べていたら、ニセモノだってバレバレ じゃないの」 「クレアの言う通りだ」  と、マリスのもう片方の隣からも、平坦な声が聞こえる。 「この国を出るまでは、巫女だということを疑われるような行動は慎んだ方がいい。 魔道士の塔の者が、いつまた現れるかわからないのだから」  ヴァルドリューズも、クレアに賛同していた。 「……ってことで、悪いな、マリス」  彼女の食べようとした肉を、カイルが、さっと取っていく。 「ああ、俺、巫女じゃなくてよかったー! 」  カイルは、おいしそうに、マリスの目の前で、ばくばく肉に食らいついたのだった。 「……あたしの肉……! 」  茫然としているマリスの正面にいるケインは、笑いをこらえていた。 「それで、ジュニア、世界各地の次元の通路の場所は、わかったの? 」  マリスは不機嫌そうに、野菜の切れ端の入ったスープを啜りながら、投げやりな 言い方をする。  ジュニアは、神官服のマリス、クレア、ヴァルドリューズから遠ざかって、カイル とケインの間に、無理矢理入り込んでいた。 「だいたいわかったぜ」  カエルかトカゲかヤモリのような不気味な黒い妖魅を口にくわえながら、ジュニア は巻き紙を取り出した。  それには、人間にとっては、わけのわからない文字がかかれていた。 「ここから一番近いのは、☆◎▲△国らしい。それから⦿◯◉、♠♥♦♣ときて、 †‡¶国、◎〒♯@国って具合だそうだ」  一同、ヴァルドリューズ以外は、テーブルの上に、突っ伏していた。 「あんたねえ、わかる言葉で言いなさいよ。どこの国だか、さっぱりわかんないじゃ ないの! 」  ジュニアは、けろっとした顔でマリスを見て、色違いの瞳をぱちぱちさせた。 「俺の知らない間に、世の中には、国が増えていたらしくて、俺だって、人間の言葉 ではなんて言われている国なのか、わかんないんだよ」  ふつふつふつ……!   『この役立たず! 』マリスの中では、その思いが沸き上がって来る。 「ジュニア、せめて、場所はわかるのか? 」  尋ねたケインに、 「それが、さっぱり」  ジュニアは肩を竦めて、笑ってみせた。 「わかんなきゃ意味ないでしょーが、この役立たず! せっかく、魔族からも情報を 仕入れられるかと思ったのに。封印されていた世間知らずの魔界の王子なんて、 アテになんないわ。こんな石、もう捨ててやるんだからー! 」  マリスはテーブルに足をかけて立ち上がると、ふところにしまっていたダーク・ ストーンを取り出した。それを持っていることは、ジュニアの主人であることを表す。 「ひえーっ! 待ってよ、マリーちゃん! お願いだから、捨てないでー! 」  ジュニアが慌てふためくが、神官服の彼女に触れることもできなかったため、 テーブルの上で、取り押さえることも出来ず、おろおろ叫んでいるばかりだった。 「まあ落ち着け、マリス! 」  ケインも立ち上がり、マリスの石を掴んでいる手を抑えた。 「ミュミュ、お前、確か、魔物の言葉がわかったよな? ジュニアの言っていた国の 名前、わかるか? 」  ケインがミュミュを見下ろす。テーブルの上では、足を伸ばして、青葉をかじって いたミュミュが、大きな瞳を彼に向けた。 「わかるよ」  一行の、ほっとした、安堵の溜め息がもれる。 「な? だから、ジュニアに調べてもらったことを、ミュミュに通訳してもらえば いいんだから、その石を捨てるのは、もうちょっと待っておいたら、どうかな? 」  そう言うケインの背から、ジュニアが顔を覗かせ、こくこく頷く。 「……仕方ないわね」  マリスは、元通り、ダーク・ストーンをしまう。  ケインも、ジュニアも、ほっと胸を撫で下ろしている中で、カイルが一言。 「……どーでもいいけど、お前らさあ、テーブルの上に立つなよな」  悲しそうな彼のセリフに、マリスとケインが我に返る。  テーブルの上の食べ物は、ひっくりかえり、床に落ちていた。  その中には、カイルがマリスから取り上げた、大きな骨付き肉まであった。  周囲の人々が注目しているのも、初めて気が付く。  嫌そうな目で見ながら、ひそひそと話す中年女性たちもいれば、店の従業員は、 青くなって、退いていた。  本来しとやかであるべき巫女が、椅子の上に立ち上がり、片足をテーブルに乗り 上げているのだから、無理もなかった。  ケインとジュニアなどは、まったくテーブルの上である。  マリスたち三人は、そそくさと椅子に座ると、おとなしく食事を続ける。 「お行儀が悪いわ。それに、食べ物を粗末にするなんて、いけないわ。そう神殿でも 教わったはずよ」  とどめは、クレアのお叱りだった。


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