Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅵ.-1〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月赤ライン  Ⅵ.『勇者伝説』 妖精緑アイコン1 ~ エルマに向けて ~  剣月赤ライン

 エルマ公国。そこには、魔界と人間界をつなぐ異次元の通路、通称『次元の穴』が 存在しているという。  魔族の王復活の予兆からか、ここ数年の間、そのような次元の穴が、世界のあち こちに現れ、そこから魔物たちが出現し、人々を苦しめているのだった。  白い騎士団一行は、その次元の穴を塞ぎ、各地をまわる旅をしている。  砂漠族の村で仲間に加わった、魔界の王子ジュニアは、一足先に、エルマに入国 している。そこの魔物たちから、この他の地にいる次元の穴の情報を聞き出すために。  エルマは、中原の小さい国ではあるが、同時に、魔道士の塔支部のあるところでも あり、入国者の監視の厳しいところであった。  通常の入国審査であれば、偽の身分証明でも通ってしまうが、プラスして魔道士も 監視しているとなると、魔力の強さも見抜かれてしまうため、今回は、魔力の強い マリスと、魔力を抑えることが出来るヴァルドリューズも、魔道士の塔からはお尋ね 者であるので、変装が必要だった。  魔道士の塔取り締まり班による、ヤミ魔道士狩りも、始まっているせいで、これま でのように、返り討ち可の魔道士たちや、蒼い大魔道士、その他の刺客と違い、戦い を避けねばならない厄介な組織が加わってしまったことになる。  そのため、マリスには巫女の、ヴァルドリューズには神官の衣装を手に入れようと、 目的地であるエルマの近隣である、小さな街に寄ることになった。  マリスとヴァルドリューズは、魔法道具屋を訪れていた。  それまでにも、トアフ・シティーで、白魔法のアイテムを購入したばかりなので、 今回は、衣装のみ購入すればいい。 「神官服って、こんなにするの? 」  魔法道具は、ただでさえ高価なものであったが、相場よりも高く感じたマリスは、 思わず店の主人に訴えた。 「このあたりには、魔法アイテムは、うちでしか取り扱ってない上に、最近、魔道士 協会が、値段をつり上げちまったもんだからねぇ」  丸いメガネをかけた店の老人が、腰をトントン叩きながら、すまなそうに言う。  『魔道士の塔』公認の魔法道具を扱う組織が、魔道士協会である。  巫女用の服はリブ金貨二〇枚で、神官服は金貨二五枚。ヴァルドリューズの額の カシスルビーを隠すための神官用の帽子が金貨三枚であった。 「なんて金額! トアフで身体を張って、汗水流して働いたお金が、ここで一気に 吹き飛んでしまうなんて……! 」  といって、勝利の目に見えたストリート・ファイトで、楽に儲けていたマリスの その嘆きは、地道に働く者からすれば、あまり心に響かなかっただろう。  今、無理をしてすべてを購入してしまうと、旅の資金は底をつき、生活費も賄えな い。  マリスとヴァルドリューズは、ひとまず店を出ると、街の通りから少し離れた、 林に入った。 「えーっ、また金がいるのかよー」素っ頓狂な声を上げたのは、カイルだった。 「トアフであんなに稼いだのに、この上また働かなくちゃならないのかよ」 「ちょっと、ちょっと、実際働いてたのは、あたし。あなたは呼び込みだけだってば」  マリスがカイルを肘でつつく。 「エルマだけじゃなく、これから先も、魔道士の塔のある国を通らなくちゃいけない かも知れないよな。後々のことを考えても、ここで、神官服を手に入れておいた方が いいのかもな」  ケインが現実的な意見を述べ、その隣にいるクレアも賛成する。 「あ〜あ、簡単に、早く、お金が儲かるラクな仕事、どっかにないかしら? また ストリート・ファイトでもしようかしら」 「だけど、この街は、エルマに行く通過点だからな、どっちかっていうと、休憩した いヤツが多いんじゃないかなぁ」  マリスとカイルが腕を組み、考えている。  クレアは、皆の顔を見回していて、ケインとヴァルドリューズは、林の入り口から 見える街の様子を伺う。  その時、林の奥から、人の悲鳴が聞こえた。 「うわあああ! 」 「きゃあああ! 助けてえ! 」  ケインが走って戻る前に、マリスとカイルは駆け出していた。 「チャンス! 人助けのお礼って手があるぜー! 」 「こら! 人助けは、金関係なく、するもんだろ! 」  ケインが追いつき、クレアとヴァルドリューズも後から追った。  樹々の間をくぐり抜け、細い小道を辿ると、視界が開けた。  そこには、彼らの予想通り、人が襲われていた。あまり見かけない赤や青のマント 姿がまず目に入る。彼ら五人が、見るからに普通の町民に向かい、木の枝を振り翳し、 襲いかかっているところであった。 「たぁーっ! 」 「うぎゃあああ! 」  マリスは走ってきたそのままの勢いで、赤マントの一人に飛び蹴りをくらわせた。 男は悲鳴を上げ、どたっと地面に倒れる。 「うわあっ! なっ、なんだ、きみたちは!? 」  他のマントの男たちが驚く。野盗にしては、言葉遣いが丁寧であった。 「そこのアヤシイ奴ら! 罪もない町の人たちを、襲うんじゃない! 」  ケインが、町民の前に立ちはだかり、目の前の、緑のマント姿男の腹を拳で突き、 腹を抱えた男が、簡単に倒れた。  マリスはさらに一人を投げ飛ばし、クレアも風の魔法で、残り二人を巻き上げた。 「もうやめてくれえ! 」マントの男たちは、泣き叫んだ。  襲われていたはずの町民たちも、呆気に取られたように、マリスとケイン、クレア を見ている。 「……あんたたち、……いったいなんなんだ? 」  町民の一人が、呆然と口を開いている。  助けられた割には、感謝をしているというよりも、未知の生物でも見るような感じ だ。 「……あのさあ、ちょっといいか? 」カイルが割って入る。 「この人たち、ちょっと様子が違うみたいなんだけど」  カイルの後ろからは、ひとりの男が歩いてきた。口髭、頬髭、あご髭、すべての 髭を生やし、メガネにフードのような帽子を被った中年の男だ。 「いやあ、素晴らしい! 実に素晴らしかった! 」  男は、髭に覆われた口をほころばせ、マリスたちに向かい、拍手を送った。 「なんなの、このおっさんは? 」  マリスが、小声でケインとクレアに言い、二人もどうしたものかと顔を見合わせる。 「実は今、私たちは、この街に公演に来ていてな、その出し物の練習中だったのだよ。 私は、その監督なのだ」 「……ってことは、これは、お芝居!? じゃ、じゃあ、街の人が変な野盗に襲われて たわけじゃ……!? 」  ケインが慌てて一同を見直す。 「だから、何度もやめてくれって言ったじゃないか! 」  気絶している赤いマント男を抱えながら、青いマントの男が、殴られて赤く腫れ 上がった頬を抑えながら言う。 「そ、そうだったの? あら、全然聞こえなかったわ。ごめんなさいね」  マリスはごまかして笑うが、被害に遭った彼らは恨めしそうに見ている。  ケインとクレアはぺこぺこ頭を下げて、謝り続けた。 「まだ稽古の段階だったから、衣装やメイクはせずに、やっていたのだよ。だから、 きみたちが助けた方が、本当は盗賊の役でな」 「……ってことは、町の人を襲っていたように見えていたのは……」 「そう、盗賊を退治する勇者一行だ」  ケイン、クレアの顔は、「ひっ! 」と青ざめた。  マリスなどは、「それにしては、さえない人たちね」と密かに思っていたが。 「ああ! 正義の使者であるこの俺としたことが、勇者役の人たちを攻撃してしまう とは! 」  ケインは嘆いた。 「私だって、人々を救う巫女であったのに、なんてひどいことを……! 」  クレアも両手を頬にあて、おろおろとする。 「だが、私は思ったのだ。きみたちこそ、私の探し求めていた人材であると! 」  監督という男が、いきなり大声を出し、ケイン、マリス、クレアの手をそれぞれ ガシッと掴んでから続けた。 「観客にも覚えやすいよう、マントの色で識別された、レッド、ブルー、ピンク、 グリーン、イエローの五人の戦士たちによる『勇者伝説』を、今まで演じてきたのだ が、なにしろ、人気の演目なもんでな、他の旅劇団でも取り上げられることが増えて いるのだ。なので、ここらで、他の劇団とは違う演出でいこうと思っていたのだ」  監督は、歩きながら、熱弁を振るう。 「リアルなバトルシーンによる『勇者伝説Ⅱ』! いかに本物らしいアクションに するかと、試行錯誤していたのだ。そこで、きみたち、是非、我々の芝居に、出演 してみないかね? 」  白い騎士団一同、すぐに口を利く者はいなかった。 「……『勇者伝説』? あの有名な……! それの、『Ⅱ』があるんですか!? 」  ケインが、茫然とした口調で呟いた。 「そうなのだよ。『勇者伝説』の続編である『勇者伝説Ⅱ』! 私が考案したのだ! 」 「えーっ! すげえ! 」興奮するケイン。 「ケイン、知ってるの? 」と、クレア。 「ああ。昔、連れて行ってもらったことがあるんだ。お芝居だったり、曲芸だったり、 旅の一座が来るとな。庶民の間では、カードゲームと同じくらい人気のある娯楽 だったんだ」  カイルも知ってはいたが、彼は博打の方に興味があったので、ケインほど芝居に ハマってはいないようだった。 「『勇者伝説』は、俺も幼い頃から好きだったから、レオンの傭兵仲間たちと一緒に、 勇者ごっことかして遊んだもんだぜ。思えば、俺、子供だったから、ずっとイエロー 役で。一度でいいから、リーダーのレッドを、やってみたかったんだぁ」  クレアも、マリス、カイルも、目を丸くした。 「そーかい、そーかい。わかった! その辺のことは、考慮してもいい。私も、きみ が襲われている側を守るようにして戦う姿は、レッドにふさわしいと思ったのだ! 」 「本当ですか!? 」 「ああ、本当だとも! 」  監督とケインは盛り上がっていた。 「なあ、どうする? 」  ケインが、そわそわと落ち着かない様子で、マリスを振り向く。  やりたくてしょうがないのを懸命に抑えているつもりでいる。誰から見ても、そう 見える。  マリスは、くすっと笑ってから、進み出た。 「協力してあげてもいいわ。その代わり、ギャラは高いわよ」 「そんな、マリス、高いなんて……。俺、レッドが出来るだけで充分だし」 「それじゃ、エルマに行くための神官服が、買えないでしょう? 」 「う〜ん……といっても、ギャラは、当日の観客数にもよるしなぁ。約束まで出来る かどうか……」 「ねえ、監督さん、急にリアルなアクションをするっていうのは、その辺の人に出来 ることではないわ。もちろん、あたしたちは、お芝居に関しては、どシロウトだけど、 武道に関しては、小さい頃からずっと鍛えてきたし、ケインとカイルは傭兵だから、 戦いのプロよ。常に、ちゃんと訓練してきたあたしたちだからこそ、リアルなバトル シーンも可能なのよ」  出演者、しかも、主役の勇者たちに怪我を負わせたことをもみ消すほどの、マリス の恩着せがましい交渉術により、報酬は高めに設定された。  ケガ人のケガは、クレアとヴァルドリューズにより、すべて治療された。  ミュミュを除く白い騎士団五人は、旅の一座のテントに招かれ、監督の説明を受け る。  監督は、清楚な美少女であるクレアと、整った顔立ちのヴァルドリューズにも、 目を留めていた。  報酬が絡めば、カイルは二つ返事で引き受けたが、クレアは、演技など出来ないと、 なかなか首を立てに振らない。  だが、監督から泣きが入り(その辺は、演じ慣れていたようであった)、人助けに 加えて、勇者役に怪我を負わせた責任を取ることになるならと、最後には納得したの だった。  ヴァルドリューズの方は、座っているだけでいいということで、渋々承諾した。 出演する人数が多いほど、資金も貯まりやすいと、マリスが耳打ちしたので、彼も 割り切るしかなかった。  全員の承諾を得てから、監督が、内容を話す。 「舞台は、ある国の荒野から始まる。国王のおふれにより、国中の勇者が集められ、 悪の盗賊団に連れ去られたお姫様を救うという内容だ。そのお姫様役を、お嬢さん、 あなたにやって頂きたい」 「えっ、私ですか? 」クレアは驚いた。 「きみのように美人で気品のある若い娘さんは、大変珍しいのでな。まさに、姫の イメージにぴったりなのだ! 」 「そ、そんな。姫だなんて……」  クレアが恥ずかしさと緊張で、顔を赤らめた。  ケインがマリスにからかうような目をしてみせる。  マリスには、彼の言いたいことはわかっていた。「ここにホンモノの王女がいるの に、全然気付かれていないな」と。  それには、マリスは別段、気に障るようでもなかった。 「勇者たちは、姫を助けようと悪者に向かっていくが、敵も強い。しかも、無敵の ドラゴンまで連れているのだった。その悪のリーダー役は、きみにお願いしたい」  監督が、カイルに言った。 「ドラゴンを飼ってる盗賊団のリーダーか。悪くねえな」  カイルは、その役が気に入った。 「国中の勇者をかき集めても、そのドラゴンには勝てず、王様も、頭を悩ませていた ところに、ひとりの強い旅の剣士が通りかかる」  監督が、ケインを見て微笑む。 「主役といっていい。その役を、きみに頼みたい」 「それは、レッドなんですか? 」 (『そこ』かよ? こだわるのは)  カイルとマリスは、目を丸くする。  監督が、笑いながら頷くと、ケインは、うっとりと空中を見つめ、勝手に想像を 膨らませている。芝居自体が初体験にも関わらず、主役ということに、プレッシャー も感じていない、というか、プレッシャーなどは思い付きもしない様子だ。


剣ライン

 ケイン演じる剣士が、苦戦しながらも、ドラゴンを倒すことに成功し、無事に王女 を救出する。二人は、一目会ったその瞬間から恋に落ちるが、王女に婚約者がいた ことで、泣く泣く別れることに。王女は他国の王子のもとへ、剣士は、新たな旅へと ひとり去る。  マリスの役は、その隣国の王子役であった。男役であるのは構わない彼女であった が、王子役というのが、あまり暴れられそうになく、少しだけ、つまらないと思った。  ヴァルドリューズは、クレアの父親である王の役である。座っているだけで、 劇団員の一人が、吹き替えでセリフを言うことになっていた。 「ふ〜ん、ストーリー的には、ありきたりな感じね。アクションで見せるんだから、 まあ、いいか」  マリスがそう言う側から、ケインが、身を乗り出す。 「いい話だーっ! 」  その大きな群青色の瞳は、キラキラと輝いていた。  マリスとカイルは、ひとりで乗り気になっているケインを、遠巻きに見ていた。 「命がけで、お姫様を救ったのは、旅の剣士さんだというのに、このお姫様は、何も しないで、ボーッとしていた王子様なんかと結婚してしまうのですか? 愛し合って いる二人を別れさせてしまうなんて、ひどいと思います」  クレアまでが、感情移入していた。 「ありがとう、クレア。その気持ちだけで、俺は充分だ! 」  ケインは、またうっとりと宙を見つめていた。 (……大丈夫かしら? この人)  マリスは、ケインの夢見がちな様子に、ちょっとだけ呆れた。 「ところでさー、監督さんよぉ、俺の率いる盗賊団では、攫(さら)って来たお姫さん を襲っちゃう場面てのはないの? その方が、リアルだと思うんだけどなー」  カイルが監督に笑いながら言う。 「いやよっ! いくらお芝居でも、そんなの絶対いやっ! 」 「じょーだんだよ、じょーだん」  カイルは、いやがるクレアの顔を見て、満足げである。  巻物になっている台本を受け取り、翌日から、練習に入ることになった。


飾り飾り

「ねえ、マリスは、お芝居って、見たことある? 貴族の間では、どんな感じだった のかしら? 」  夕食後、宿屋では、クレアとマリス、ヴァルドリューズが同室で、ケイン、カイル は隣の部屋である。ヴァルドリューズは、インカの香を香炉にセットしていた。  女性二人と彼だけが同室であることに、もう一行は慣れてきていた。  ベッドに座って、台本を眺めていたクレアが、隣のベッドの上に、身体を投げ出す ようにして、俯(うつぶ)せに寝そべっているマリスに、尋ねていた。 「そうねぇ、あたしも、伯爵家の両親に連れられて、特に母親に連れられて行った ものだったわ。芝居小屋といっても、テントじゃなくて、綺麗な建物があったのよ。 または、そういうのが好きな貴族が、自宅を提供してたり、ほら、舞踏会が出来る くらい、広い館に住んでるもんだから、そういうことも可能でね」  クレアは、感心して、マリスを見た。 「貴族たちの舞踏会の余興で、伶人たちの演奏をバックに、いろんな役の人たちが 出て来て、物語を、歌ですすめていくものもあったわ。幼い頃は、おとなしくそれを 見ていることが出来ずに、親に怒られていたか、途中で眠ってしまってたから、どん なものだったか全部は覚えてないけど。貴族に好まれていたものは、まずは美しく なくてはならなかったし、子供向けのものは、あんまりなかったわね。  妻がいるのに、他の女性との間に燃え上がってしまう恋の炎がどーのこーのっての が、なぜかウケてたみたいだし、貴族の女の子たちの間で流行っていた恋歌なんかも、 美しい形容のものが多くて、単に現実離れした、淡い恋物語ばかりだったけど。  あたしは、同じ年頃の女の子たちが憧れるような恋物語なんかには、あんまり興味 もなくて、幼馴染みのダンや、仲間たちと、野盗どもをやっつけて遊んでる方が楽し かったから」  マリスは苦笑しながら、思い起こす。 「ベアトリクスを出てから、ヴァルと旅してきたけど、お芝居なんかを見てる余裕は なかったわ。だいたい、任務遂行しか頭にない、そこの朴念仁(ぼくねんじん)と、 お芝居を観たところで、デートのような気分に浸れるわけでもないしさ。サンダガー を召喚する修行と、魔物を倒す戦闘ばっかりで」  マリスが、からかうようにヴァルドリューズを見るが、聞こえているのかいないの か、彼は何も反応していなかった。 「そ、そうなの? 」  クレアはヴァルドリューズを気遣うように見てから、マリスに視線を戻した。 「私は、巫女だったから、一切娯楽は禁止されていたわ。それに、私のいた村は、 知っての通り、さびれてたから、旅芸人の公演なんかはなかったの」  クレアは淋しそうに笑った。  マリスは、その笑顔から、しばらく目を反らすことが出来ないでいた。  それから、起き上がり、クレアの持つ台本に目を落とす。 「それにしても、監督さんたら、あたしを、最後にちょこっとだけしか出番のない 王子なんかにしちゃって。セリフだって、一言しかないし。ハデに暴れてた方の あたしを、こんな目立たない役にして、ケインは主人公の旅の強い剣士だなんて、 ちょっと割が合わない気がするけど」  冗談ぽく言い、それに対してクレアが笑うのを見てから、マリスは、微笑んだ。 「……クレア、せっかくだから、楽しみましょう」 「ええ、そうね」  クレアも、嬉しそうに顔を上げた。


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