Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅴ.-3〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月赤ライン  Ⅴ.『黒い騎士団結成! 』 妖精緑アイコン3 ~ バトル3 ~  剣月赤ライン

「今のは、ちょっと、マリリンが油断しただけだもん! 今度は、本気で行くから ね~! 」  マリリンは、ほっぺたをぷーっとふくらませ、地面にストンと降り立ち、杖を振り 上げた。 「マリリン、オリジナル魔法ナンバー・イレブン、巨大ブタの舞いっ! 」  杖を両手に持ち、円を描き、その中に、五芒星を描く。  それは、宙に描かれた魔法陣であった。  マリリンのちょうど顔の前では、薄いピンク色のものが、膨らんで行くとともに、 形を成していく。  それは、人の倍はあろうかという塊であり、さらに膨張を続け、三倍、四倍と、 膨れ上がった。 「クレア、逃げて! 」 「なんだか知らないけど、クレア、よけろー! 」  ふざけたネーミングに似合わず、大技だということがわかったマリスとケインが 叫んだ。  だが、クレアは、逃げようとしない。  受けて立つわけでもなく、あまりの巨大な魔力を前に、なすすべもなく、動けなく なってしまったようだった。 「ふふふ。目の前にいるほど、巨大な魔力の威力が伝わり、動けなくなるのが普通だ もんね。ま、こんなもんでいいかしらねぇ」  ピンク色のものは、足元から徐々にはっきりと形作り、二本足で立つブタへと変化 する。それが、頭部まで到達しようという時だった。 「きゃーっ! 」いきなりマリリンが叫び声を上げ、飛び上がった。  ピンクの巨大ブタはシュボッと消えた!  「どうしたの!? マリリンちゃん! 」スーが驚く。  マリリンは、きゃーきゃー叫び、走り回っていた。 「今よ、クレア! 」 「はいっ! 」  マリスの合図とともに、クレアが得意の風の魔法をマリリンめがけて放つ。 「きゃーっ! 」  マリリンは、ぼわっと舞い上げられると、ひゅるひゅる~と回転しながら、離れた 草むらに、べしゃっと落っこちた。  いったい何が起こったのか、ケインにも、黒い騎士団にも、わからなかった。 「やったわ、クレア! 」  マリスが嬉しそうにクレアのもとへ走っていき、飛びついた。 「よく頑張ったな! 」  ケインも駆けて行き、クレアの肩を、ぽんと、嬉しそうに叩いた。  だが、クレアは、マリスとケインには少々微笑んだだけで、真面目な表情に戻り、 ある一点を見つめた。  勝ったというのにあまり喜んでいない彼女を、不思議に思ったケインとマリスは、 クレアの見つめる方を見てみる。  草が生え、木が一本立っている。  クレアは、その木に近付いた。二人も後に続くが、近付くにつれ、そこに誰がいた のかを、思い出して行く。 「カイル」  クレアが、木の枝を見上げ、呼びかけた。  そう、そこには、カイルが寝そべっていたのだった。 「一体どうしたっていうのよ、マリリンちゃん」  スーが、マリリンを抱え起こす。マリリンは、目を回したまま、泣きながらスーに 訴えた。 「え~ん、スーちゃあん! 突然、背中に、ムシが引っ付いてきたのぉ~! 」 「なんですって!? 」  スーが、マリリンの背を見ると、五、六匹のアオイモムシが、もぞもぞと這って いた。二人は、大騒ぎしていた。  その様子を見ていたケインとマリスは、はっとして、木の上を見上げる。 「あなたがやったのね? カイル」真面目な瞳を向けたクレアが言う。  彼は、がさがさっと音を立てて、木から飛び降りると、何事もなかったように、 歩き出した。 「待って」 「なんだよ、また文句かよ。……あーゆー子は、ムシとかは嫌いだろうと思ったんだ よ。悪かったな、勝負の邪魔しちまって」  振り向かずに、彼は、それだけ言った。  クレアが首を振る。 「確かに、私ひとりの力で、あの子に勝ちたかったわ。だけど、やっぱり、まだそれ は無理みたい。あなたに助けてもらわなくちゃ、勝てなかったわ。それなのに、 私ったら、さっき、あなたに、あんなにひどいこと言っちゃって……あなただったら、 クリスさんにも勝てそうだったから、つい悔しくて……。  さっきだけじゃないわ。ずっと、そう。私がジャグの巫女に取り憑かれて、マリス が彼女を追い出そうと、私の身体の中で戦っていた時だって、私には、ちゃんと あなたの応援が伝わっていた。だけど、目覚めた時、ヤナの取り憑いた後遺症から、 あなたのこと、拒絶してきちゃって……。謝ろうと思っていたのに、ずっと意地張っ てて……本当に、ごめんなさい。それから、……ありがとう」  クレアは、おそるおそるカイルの背に向かって、目を向けた。  ケインもマリスも、黙って見守る。  カイルは、ゆっくり振り向くと、少し照れたように笑ってから、言った。 「魔法、ちょっとはうまくなったじゃないか。これからも、この調子で、頑張れよ」  彼は、ぽんとクレアの肩に手を乗せた。  クレアは、瞳を潤ませて、嬉しそうに、彼を見上げた。  ヤナの後遺症だった潔癖性は、完全に治ったらしく、カイルが彼女に触れても、 もう彼女は彼を突き飛ばしたりはしなかった。  ケイン、マリスも、ほっとしたように二人を見つめた。  だが、カイルの顔は、曇った。 「だけど、俺の心は、未だ深く傷付いている。そりゃそうだよな。女性に拒絶など されたことのないこの俺を、あんなに、いとも簡単に突き飛ばすんだもんなあ。 あれは、相当堪(こた)えたぜ」  彼は、眉間に皺を寄せ、そこに指を当てると、いかにも悩めるふうであった。  クレアは、途端に、おろおろし始める。 「そうだったの……そんなに、あなたを傷付けてしまっていたなんて……! ごめん なさい! 私、いったい、どうしたら……」  クレアが困ったように、瞳を潤ませると、うつむいてしまった。 「な~に、簡単さ。チューしてくれたら、治るさ」  言うが早いか、彼は、びっくりして顔を上げるクレアの唇に、自分の頬を押し付け た。 (す、すばやいっ! )  ケインは目を見開き、マリスはあんぐりと口を開いた。  クレアは、何が起きたのか理解出来ていないようで、パチパチと瞬(まばた)きを 繰り返す。 「うん。これで、傷は癒えた、癒えた」  カイルは、にっこりクレアに笑いかけた。 「キャーッ! なにさせるのよ、なにさせるのよ、なにさせるのよ、なにさせるのよ ーっ! 」  ようやく状況を理解したクレアが、顔を真っ赤にして、手を振る。それには構わず、 カイルは、ご機嫌で口笛を吹いていた。  黒い騎士団は、つまらなそうにして、皆でそっぽを向いている。 「いいなあ、白い騎士団は仲が良くて。勝ったことよりも、僕は、そっちの方が、 良かったなあ」  思わず、羨ましそうに、そう呟いたクリスなどは、仲間から反感を買い、キッと 睨まれる。 「さあ、次は、いよいよケインの番ね。頑張って」  マリスがにこにこしながら、ばんとケインの背を叩いた。 「ああ、俺も戦うんだっけ? 」  自分のことはすっかり忘れていたケインが、前に出る。 「ここまでの対戦成績は、黒い騎士団が二勝、白い騎士団が一勝だが、いよいよ副将 同士の戦いというわけだ。ふっ、わけのわからん魔法対決は、もう終わりだ。ここか らは、純粋かつ高潔な武道の戦いといこうじゃないか」  そう言って腕組みをして進み出たのは、格闘マニアの異名を持つダイであった。 もうひとつの異名とやらを、ケインは忘れてしまった。  ダイも純粋な武人ではあったらしく、ケインと同じく、やはり、魔道はわけが わからないと思っているらしいことはわかった。 「俺の欲しかった伝説の剣を、そんなガサツな女などにやりやがって……!  せっかくの機会だから、そいつを賭けて戦ってやりたかったものを」  ダイは、じろじろとマリスとケインを見比べた。 「何度も言うが、俺は、バスター・ブレードを、マリスにあげたわけじゃない。 ちょっとの間だけ、貸してやってるだけだ」 「まあいい。賭ける剣はなくとも、貴様とは、本気で勝負してやる」  ダイは、シュッシュッと拳を繰り出し、軽くウォーミング・アップしている。 「あんた、剣は使わないの? 」  スーが、ダイを見下すようにして尋ねる。中肉中背の彼よりも、彼女の方が高く、 さらに厚底のブーツで、高身長のケインやカイルと並ぶくらいであった。  ダイは、スーを見上げて答えた。 「当たり前だ。俺は、いくさの時以外は、滅多に剣などは使わぬ主義なのだ。真の 武道家というものは、剣などに頼らぬ。己の拳が、充分な武器となるのだからな」 「あっそ」彼のやたら真面目くさった説明を、スーは、退屈そうに聞いていた。 「よって、ケイン・ランドール、貴様も、武道家のはしくれならば、剣などに頼らず、 素手で、この俺と勝負してみるがいい! 」  彼は、ピシッと、ケインを指さした。 「望むところだ」  ケインは、腰に差していたマスター・ソードを、鞘ごと外した。  ダイが彼を睨み据えた。対して、彼も、それを受けて返す。 「レディーッ、ゴーッ! 」  スーの合図と同時に、ダイの右拳が飛ぶ。ケインは、それをはたいて躱(かわ)す。  続いて、左拳が下から来るが、それもよける。  身のこなしも、技のキレも、なかなかのものだと、ケインは思った。  蹴りに転じる時なども、スムーズだ。自負するだけあるようで、彼は、なかなかの 格闘家だと言え、本来ならば、じっくり対戦してもいいとすら、ケインは思ったが、 これは、彼の望むバトルではなかった。 「どうした、ケイン・ランドール。一向に打ってこないではないか。よけてばかりで は、真の格闘家とは言えぬぞ! 」  これほどの動きの中、ダイは、呼吸を乱さない。よく鍛錬されていることは、 ケインにも伝わる。相手の実力は、少し拳を交えただけでも、互いにわかる。 「あら、あの格闘マニアの男、なかなかやるじゃない」  スーが、ちょっとだけ感心したような声を上げた。  彼は、少し気を良くしたようで、ふっと笑った。  その瞬間、彼の脇腹のあたりに、隙が出来たのを、ケインは見逃さなかった。  どすっ!   ダイの拳をよけざま、ケインは、その隙に、重い一撃を喰らわせた。ダイの動きが 止まる。 「……うっ、ううっ……! 」  ダイが、呻き声を上げ、どさっと地面に倒れた。  その場は、し~んと静まり返っていた。 「勝負あったな。悪いな、ダイ。俺、このバトル、あんまりやる気なかったんだ。 これが、ちゃんとした武道大会でもあったなら、もうちょっと気合い入れたんだけど さ。じゃ、そーゆーわけで」  ケインは、しんとしている中、彼を担ぎ上げると、黒い騎士団の方へと歩き、 マリリンの前に降ろした。 「『治療』してやんな。ここって、モロに受けると、苦しいとこなんだぜ」  マリリンは目を白黒させていたが、そのうち、手のひらをダイの脇腹に向け、回復 呪文を唱え始めた。 「……き、貴様……よくも、この俺との高潔な武道試合を、こんなフザケたやり方で、 汚すとは……! 覚えていろ! いつか、貴様を、本当に倒してやるからな! 」  ダイが苦し気に、呻くようにケインに言った。 「さ、次は、マリスの出番だよ。良かったな」  ケインは、にこにこと、マリスの肩を叩く。思いのほか出番が速まった彼女は、 きっと喜んでいるはずと思っていた。 「あなた、やっぱり、あたしに、本当の実力隠してたわねー! 」 「えっ? なんのこと? 」 「まーた、トボケちゃって! あたしと特訓してる時、実力出し切ってなかったで しょ? あんな重たい突き、あたし、受けたことないもん」 「だ、だって、……女の子を、本気で殴れるわけないだろ? 」 「まっ! あたしほどの達人相手に、本気にならずにいられるなんて、随分、お強く ていらっしゃうのね! 」  ふんと、マリスは腕を組んで、背を向けた。 「せっかく早くマリスに順番回るよう協力したのに……勝ったのに、なんで怒られ なきゃならないんだよ」  思わず、ケインが、カイルとヴァルドリューズを見るが、カイルは、はーっと口を 開いて見ており、ヴァルドリューズは、いくらか目を丸くしていたように見える。 「わけのわからないうちに、お互い二勝二敗になっちゃったけど、いよいよ最後の 対決に移るわよ」 「望むところだわ」  スーとマリスが、ずいっと進み出て、視線を絡み合わせた。 「女戦士というものは、男の戦士とは違って、ただ強いだけじゃダメなのよ」 「まったく、同感だわ」  威圧的な笑みを送るスーに、マリスも、いつもの不敵スマイルで答える。 「よって、どちらが女戦士としてまさっているか、勝負よ。その上で、剣の腕を 競ってあげるわ」 「あたしが単なる『おとこおんな』じゃないってこと、教えてあげる」  二人の女戦士たちは、どうやら、剣以外でも、競い合う気らしい。 「よって、最後の決戦は、ここにいるみなさんが審査員よ! 特に、男性諸君! 」  スーが、張り切って拳を振り上げる。 「はいはーい、みんな寄ってらっしゃ~い! 」  マリリンが、二人の前に、全員を召集する。 「今からぁ、男性の皆さんにはぁ、知性・教養・色気・腕っぷしなどの項目にわたり、 この二人のどちらが最強の女戦士かを審査してもらいますぅ。あくまでも、公平に 審査して頂くためにぃ、マリリンの特性魔法を、みなさんにかけますぅ。それにより、 味方だからという理由で、点を入れるのを避けられることができぃ、より厳密な審査 ができるというものですぅ」 「どうして、男性だけが審査員なの? 」と、クレア。 「決まってるじゃないの。女の価値は、男の評価で決まるものでしょう? 」  身も蓋もない言い方のスーであった。  女性の価値は、決してそれだけではないと、ケインは思い直したが。 「というわけで、そこの魔道士見習いのおねえさんと、マリリンは、このバトルに 関しては、まったくの傍観者となりま~す。では、さっそく審査の方々には、準備に 入ってもらいま~す! 」  マリリンは、まず、黒い騎士団クリスの前に立った。 「ヒヨコさん、ヒヨコさん、心のヒヨコさん。この人の上に、来てくださ~い。 えいっ! 」


pink魔法

 マリリンが取り出す例のピンク杖が、クリスの頭の上に向けられると、そこには、 ピンクのヒヨコが、ポッと現れた。 (またしても、ヒヨコ!? )  同じようにして、マリリンは、ケインの頭の上にも、カイル、ダイの頭の上にも、 ピンクのヒヨコを召喚したのだった。  だが、黒い騎士団のヤミ魔道士ズィールと、ヴァルドリューズの上には、ヒヨコは 乗らない。 「んもう、スーちゃ~ん、この人たちの上には、ヒヨコさん来てくれないよぉ~。 二人とも、結界張っちゃってるみたいでぇ。どうするぅ? 審査から外す~? 」  マリリンの声に、スーが、ヴァルドリューズをちらっと見てから、悔しそうに舌打ち する。 「しょうがないわね。じゃあ、審査員は、戦士のみなさんのみにお願いすることに するわ」  と、両手を腰に当てて、そう言い放つ。とてもお願いしている態度ではなかった。 「二人とも、きっと、こんなバカバカしい審査なんか、したくないんだろう。いいな あ、上級魔道士は、拒絶できて」 「同感だぜ」  ケインとカイルは、肩をすくめた。 「では、最初の審査で~す。どちらが女らしいでしょうか。お花を使った問題で~す」  マリリンの杖の先から、ぽんと、一輪の白い花が現れる。 「さて、このお花の名前は、なんでしょう~? 」 「ルナリア」マリスが即座に答えた。 「ピンポ~ン! 正解で~す。それでは、これは? 」  白い花は消え、オレンジの大輪の花が現れた。 「ファナ・ローズ」またしても、マリスが答える。 「またまた正解で~す。お花には、詳しいんですかぁ? 」 「まあね。特に、このファナ・ローズには思い入れがあって……。前に、セルフィス が、あたしに最も似合うよって、言ってくれたお花なの」  マリスが、ポッと頬を赤らめて答えた。  少しはにかんでいるマリスを見て、ケインは、かわいいと思った。  と、その時、ケインとクリスのヒヨコが、ぴよぴよ言いながら、くるくると頭の上 を走ったのだった。 「おお~! 早くも、審査員の心をつかんだようです、マリス選手! あなたの女 らしさに、お二人の先生方のヒヨコが反応していますぅ! 」 「やったわー! 」  マリスが拳を振り上げて喜び、飛び跳ねた。 (これって、そーゆー審査なわけ? 問題に答えた数ではなく? )  ケインを始め、皆もそう思ったに違いなかった。 「カイルさんは、どーして点を入れなかったんですかぁ? 」  マリリンが、ピンクの杖の先を、カイルに向ける。 「俺以外の男の話で、かわいくなられてもなあ」カイルが腕を組んで答える。 「なるほど。『点数が欲しかったら、俺に媚(こ)びろ! 』というワケですねぇ?  では、ダイさんは? 」 「俺は、別に、それくらいのことでは、何とも思わなかっただけだ」  ダイは面白くなさそうな顔ではあったが、真面目に答えていた。 「それでは引き続き、お花を使った課題第二弾に入りま~す」  マリリンが元気に杖を振ると、白や黄色、水色などの、いろいろな種類の花が 現れた。 「さあ、これらを使って生けてみてくださ~い! 」 「なんですって!? 」  マリスとスーの声はそろっていた。 (あれ? マリスのヤツ、見かけによらず花のことは詳しいし、貴族のたしなみだか で、当然フラワーアレンジメントくらいは出来そうなものだが……)  ケインも、カイルも、意外に思った。  二人の女戦士は、たかが花を生けるだけで悪戦苦闘している。  勝手にこのバトルを取り仕切っているマリリンも、味方のスーに有利なことばかり やらせているわけではないようだ。  出来上がった二人の作品は、もともと美しかった花々を、どうやったらここまで ……と、一同がくびを傾げたくなるほど、イビツなものになっていた!   スーは力任せにブッ刺したらしく、折れ曲がっている花が多く、マリスなどは、 なぜか全部葉がむしり取られており、花の首までもがなくなっているものまであった。  それらの作品は、滑稽(こっけい)を通り越し、恐怖感までをも人々にもたらして いた。  花だけで、そこまで出来るとは、甚(はなは)だ珍しい。  審査の男たちのヒヨコは皆、じっと目をつぶってうずくまっているか、震えている かのどちらかであった。 「あらぁ? これは、どうも不評みたいですねぇ」  さすがにマリリンも、にこにこ顔の額に、うっすらと汗をにじませていた。 「だから、あたしは、むやみに花の命を奪うのは、好きじゃないんだってばー! 」  マリスが自分の作品をひっくり返した。 「なんで女戦士が、花なんか生けなきゃなんないのよ。必要ないでしょう! 」  スーが、マリリンにすごみをきかせて睨む。  その二人を見た審査員の頭上のヒヨコは、さらに怯(おび)えて、縮こまった。 「く、くだらん! どこが知性・教養の勝負なのだ」  ダイが言った。彼のヒヨコも、口を尖らせ、ぴーぴー叫ぶ。 「そーだよ。女らしさを競うんだったら、手っ取り早く、色気で勝負しろよ」 「あっ、それ、面白そうですね」 「だろー? 」  カイルにクリスが賛成し、二人のヒヨコは、ぴーちくぱーちく言いながら、バタ バタとはしゃいでいた。  ケインのヒヨコは、うとうと眠っていた。 (俺同様、ヒヨコもやる気がないらしい……) 「それでは、審査員の先生方のご希望にお応えして、お色気審査のコーナーに移り ま~す! 」 「おおーっ! 」  マリリンのその言葉に前向きなのは、やはりカイルとクリスであった。  と、そのヒヨコたちも。 「具体的に、どのようなことをすれば、色気が比べられるのでしょうかぁ?  マリリン、コドモだからわかりませ~ん」 「そうだなあ。長年いろんな女を見てきた俺としては、女の色気っていうのは、 まず、やさしさだな」  カイルが威張って言った。 「なるほど。言われてみれば、そうですね。さすがカイルさん」  クリスも手をポンと叩き、にこにこと同意した。褒められたカイルは、ますます 得意気になった。 「というわけで、お前ら、審査員である俺たち全員に、やさしくしろよ」  カイルが勝ち誇ったように、二人の女戦士に言い渡した。 「やさしくったって、あんたたちが相手じゃあねえ。イマイチやる気が起きないわ」  スーが、めんどくさそうに、黒髪をかき上げると、またしても、ちらっとヴァルド リューズを見る。彼は、当初からずっと、まったく関心がないようで、ずっとそっぽ を向いている。  マリスも気乗りがしないらしく、手持ち無沙汰に欠伸(あくび)をしている。 「ふん。くだらん。女戦士が、なぜ色気などで競わなくてはならぬのだ。戦士と あらば、男も女も関係ない。強さのみが、その価値を決めるはずだ」  ダイが言い放った。  カイルはちらっと彼を見た後、溜め息をついた。 「まったく、おめえってヤツは、ほんとロマンのかけらもねえなあ。女戦士ってのは なあ、男みたいに、がむしゃらに戦って強ければいいってもんじゃねーんだよ。 女ならではのやさしさや、色仕掛けなんかだって、立派な武器なんだぜ。  女であることを最大限に生かせるヤツこそが、真の女戦士と言えるんだ。ただ強い だけじゃ、かわいげがねえだけだ。真の女戦士というものは、そういった、男には ない、神秘的なカッコよさがあるんだ! 」  カイルの熱弁に、耳を傾けていたスーとマリスの目が見開いた。 「真の女戦士って、なんてカッコいい……! 」  二人は、うっとりと空中を見つめた。 (もしもーし、きみたち、自称女戦士じゃなかったんですか? )  ケインは、そんな二人を見て、ちょっと思った。 「よくはわからんが、それならば、とにかく早くやったらどうだ。そして、さっさと 剣の勝負に入れ」  ダイが、むすっとする。 「では、ご希望通り、あなたから」  と、マリスがにこにことダイに近付いていくと、ダイが、はっとしたように顔を 上げる。 「ま、待て! 貴様、なんのつもりだ」ダイが後退(あとずさ)る。 「決まってるじゃないの。カイルの言う通り、あなたにやさしくするのよ」  マリスが、にっこり笑顔をダイに向ける。 「だったら、私は、そこの金髪の彼からにするわ」 「そうこなくっちゃな」  スーのことはあまりよく言っていなかったカイルではあったが、にやにやと嬉し そうにしている。 (俺の番も、いずれ回ってくるんだろうか? どーしよー……)  ケインのヒヨコは、そわそわと落ち着かなくなって来ていた。


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