Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅴ.-2〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月赤ライン  Ⅴ.『黒い騎士団結成! 』 妖精緑アイコン2 ~ バトル2 ~  剣月赤ライン

 美しい宝飾を、柄に鏤(ちりば)めた魔法剣。  カイルの剣は、『浄化』の作用のある銀色の霊気を生むことができるが、人体には 無効だ。  貴公子クリスは、手にしているロング・ソードを構え、両者は、睨み合っていた。  先手を打ったのはカイルだった!   突き出された魔法剣を、クリスのロング・ソードが弾く。すかさず、カイルが隙を 突き、剣を繰り出す。  ケインが認めていた通り、カイルは素早く、身のこなしも良い。  一行が、カイルの戦闘振りを、じっくりと見るのは初めてのことであったが、予想 通り、彼は、かなり戦闘慣れしているようであった。  ただし、剣術の基本の形とは違うと言えた。誰に教わったのか、見よう見まねで 覚えたような、自己流に近いが、ただがむしゃらに剣を振り回す野盗とは違い、無駄 な動きはなく、彼らしいスマートな剣術だった。  普段はいい加減ではあったが、彼が、この旅に加わる前も、数々の冒険をして来た に違いないことが伺える。  貴公子クリスも受けるばかりではなく、攻撃もしていた。出会う時は、いつもヘラ ヘラとしていた彼ではあっても、徐々に目が真剣になっている。彼も、一行が思った よりは剣の腕もあったが、カイルの方が一枚上手に見えた。  クリスの表情が、ますます深刻になっていくにつれ、カイルには余裕が見えてきた。  ケインの隣で、マリスが言った。 「敵も見かけによらず、思ったよりは剣の腕はあるみたいね。だけど、この勝負、 カイルの勝ちだわ」  ケインも頷いた。  誰もが、カイルの勝利を確信していた。 「どうした? もうおしまいか? 」  大きく飛び、距離を取ったクリスに向かい、カイルが言った。  クリスは、剣を降ろして微笑んだ。 「いやあ、結構、あなた強いんですねえ」 「当たり前だろ。俺はなあ、こう見えても、ガキの頃から剣ひとつで生きてきたんだ。 お坊ちゃん育ちの、どっかの剣士さんとは、ワケが違うんでね」  カイルが笑う。 「悔しいけど、剣の腕は、どうやら、あなたの方が上みたいですね。これでも、 いくさでは、負けたことはなかったのですが」 「それは、単に、今までの相手が弱過ぎたのさ。それとも、お前、弱そうなヤツを 選んで戦ったきたんじゃねーの? 」  カイルがクリスを見下すが、それでも、一向に気にしていないのか、クリスは にこにことしたままだった。 「おっしゃる通りかも知れませんね。僕は、自分より強い相手には、進んで向かって 行くタイプじゃないんで。逃げるのも得意だし、要領はよかったですからねえ」 「いわば、これは、お前にとって、初めての負け試合ってことになるのか」  鼻で笑うカイルに、クリスが、にっこり答えてみせた。 「それは、どうでしょうか」  彼の瞳が瞬時に鋭くなったと同時に、手にしていたロング・ソードに嵌(は)め込ま れていた緑色の宝石が、光り始めた!   はっと、マリスもケインも身を乗り出す。  クリスの剣から、強い風が吹き出し、カイルに浴びせられた!  「なっ、なにっ!? 」  よけようとしたカイルも、一気に風に舞い上げられた。予測もしなかった攻撃で あったにもかかわらず、なんとか彼は地面にひらりと着地した。 「へー、割と身軽じゃないですか」  今度は、クリスが感心したような、馬鹿にしたような声を出す。  そして、再度、剣先から強風を、カイルに向けて発射したのだった。 「サイバー・ウェイブ! 」  カイルの剣からも、銀色の霊気が飛び出し、クリスの風とぶつかる。双方の術は 打ち消され、二人の間には、何もなくなった。 「……そうか。てめえのその剣も、魔法剣だったってのか」  カイルが口元に笑いを浮かべながら呟いたが、目は、先ほどまでなかった真剣な 色を浮かべている。  クリスも、にこにこというよりは、挑戦的な目付きであった。  彼は、剣の柄に付いている緑の宝石を指さした。 「ここにね、魔力がかかっているんですよ。それがなければただの剣ですけれどね。 僕が今までいくさで負け知らずだったのには、こんなわけがあったんですよ」 「その通りだ」  格闘家のダイが、腕組みをして、誇らし気に、相棒に続く。 「そいつがただの優男であったなら、武道を極めたこの俺が、同行などするわけは あるまい」  カイルが小さく舌打ちする。それに気付いたクリスが、余裕で微笑みかける。 「ご安心下さい。この宝石の力では、今の風の魔法が精一杯ですから。けれど、最近、 特殊な技が使えるようにもなったので、ちょっと試してみたいんですが、いいです か? 」 「特殊な技だと? 」  うさん臭そうに、カイルが目を細める。 「はい。そこにいるマリリンさんが、やってくれたんですけど、風の魔法に、なにや ら特殊効果を付けてくれたんです」  思わず、マリスとケインは、顔を見合わせる。 「やっほー! キャハッ! 」  その向かいでは、マリリンが、きゃっきゃ飛び跳ねていた。 「特殊効果か。おもしれえ。やってみせろよ」  カイルが低い声で言い、にやりと笑った。 「カイル……! 」  珍しく、マリスが心配そうな面持ちで、引き止めるような眼差しで彼を見つめた。  クレアも、両手を組み合わせ、真剣な表情で見守る。 「それじゃあ、行きましょうか! 必殺トリプル・ぴよぴよハリケーン! 」  聞き返したくなるような、クリスがわけのわからない技の名前を言った途端、 ロング・ソードの先から、吹き荒れるような風が出て、カイルが、銀色の霊気で カバーした。  するとーー!   ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ!   手乗りの黄色いヒヨコたちが、何百匹も、一斉に、カイル目がけて降り注いで 行った!  「うわあっ! なんだこりゃーっ!? 」  ヒヨコは、ぴよぴよ言いながら、カイルをつつく。彼の姿は、途端にヒヨコに覆い 尽くされ、見えなくなった。 「カイル! 」  マリス、ケイン、クレアも叫ぶ。ヴァルドリューズまでもが、珍しく、一歩踏み 出し、その様子に見入った。 「なんだ、このヒヨコはーっ! 」  カイルが、襲いかかるヒヨコを追い払うが、さすがに、剣で薙いで行くのは気が 引けたのだろう。 「サイバー・ウェイブ! 」  銀の霊気のうねりが、ヒヨコを吹き上げて行ったその時だった。  ヒヨコを追い払う自らの銀色の光で気配が読み取れなかったのか、カイルに、 クリスが突っ込んでいき、ロング・ソードを突き出した。  魔法剣は弾かれ、カイルから離れた地面に落ちたのだった。  しばらくは、言葉を発する者は、いなかった。ばたばたとうるさく飛び回っていた ヒヨコたちも、ふいっと消えた。 「勝負あったみたいですね」  クリスは、カイルに笑ってみせると、剣を鞘に納めた。  キッと、彼を睨んでいたカイルであったが、そのうち、ふっと笑った。 「そうだな。ま、今日のところは、俺の負けだな」 「ええっ!? 」  カイルのセリフに驚いたのは、クレアだった。 「どうして? なぜ、自分から負けを認めてしまうの? 」  彼女はカイルに駆け寄って行った。カイルは、いつもと変わらない瞳で見下ろした。 「しょーがねえじゃん。負けは負けだよ」  けろっとして言うと、カイルは魔法剣を拾いに行く。 「そんな、あっさりと……。わかったわ。あなた、本気じゃなかったのね? そうな んでしょう? 私たちが一生懸命稽古に励んでいる間も、あなたは全然練習しないで、 遊んでばっかりいたから、あんな人に負けたんだわ! 悔しかったら、ちゃんと練習 して、あの人に勝ってみることね! 」  クレアが呷(あお)るように言うが、彼は知らん顔で、そこから離れた木の枝に飛び 乗り、寝転んだ。 「クレア」  マリスは静かに声をかけると、カイルにガミガミ言っていたクレアの手を引っ張り、 連れ戻した。 「クリスのやり方は、好きじゃないけど、カイルの隙をついた時の、あの一瞬の好機 を逃さなかったのは、彼の戦士としての才覚を、感じさせられたわ。あいつは、ただ の優男じゃなかったってわけね」  マリスが言った。 「剣だけで戦えば、きっとカイルが勝っていたと思うよ。マリリンがかけた特殊効果 に意表をつかれただけなんだ。だけど、戦いに『待った! 』はないんだ。今回は、 こんなお遊びのようなバトルだったから良かったものの、……悔しいけど、カイルの 負けには違いない。カイルだって、本当はショックなんだと思うよ。  カイルの剣は我流でも優れていた。だからこそ、あんなフザケた技に面食らい、 負けてしまったことは、非常に不名誉で、やるせなかったはず。俺だって、同じ目に 合わされたら悔しい。  だけど、あいつは、人に同情されるのが嫌いなんだろう。あんなふうに、なんでも ないようなフリを装ってはいるけど、相当落ち込んでるに違いない。だから、俺たち から離れた木の上になんか、寝転んでるんだろう」  ケインは、「俺たちというより、クレアに、最も見せたくなかったのかも知れない」 と、思い直した。  ケインの説明を聞くうちに、クレアは悔しそうにうつむくが、それ以上、カイルに 何か言うことはなかった。  くだらないと高をくくっていたバトルも、思いもよらぬ相手の勝利で、白い騎士団 は黒星二つとなってしまった。先に三勝した方の勝ちである。  次は、マリリン対クレアの因縁対決であり、クレアのリベンジでもあるのだった。  クレアが負ければ、その時点で、白い騎士団の敗北が決定する。それでも、マリス とスーはバトルを続行し兼ねない雰囲気でもあるのだが。  ケイン個人としては、本物の戦いではないのだから、『白い騎士団よりも黒い騎士 団の方が強い』という結果になろうとも、別段構わなかった。マリスとヴァルドリュ ーズの召喚魔法『サンダガー』は最強なのだから。  女戦士同士の戦いの焦点は、どうも意地のようであったが、それとは違い、実力で 競い合いたいのがクレアであった。 「クレア、落ち着いていくのよ」  いつになく深刻な表情のマリスは、単なる白い騎士団の名誉を守りたいだけでは なさそうである。 「先のあの特殊効果の魔法、あれは、意外によくできたオリジナルの魔法であった」  そして、珍しく、ヴァルドリューズまでもが、このバトルに口を挟む。 「あのマリリンという少女のことは、侮ってはいけない。彼女は、我々魔道士が使う 技と違い、独自の魔法を使うようだ。彼女の技を、頭で判断して対抗しようとするの は無駄だ」  クレアは、ヴァルドリューズを見上げ、聞き漏らすまいと、聞き入っていた。 「彼女の魔法に対する攻略法はない。感覚だ。今まで、ケインと特訓していたのを 思い出すのだ。戦って、相手の様子を見ているうちに、感覚を掴んで行く。まずは、 戦闘をできるだけ引き延ばし、相手の技を観察するのだ」 「はい。ヴァルドリューズさん」  ヴァルドリューズ本人は戦いには参加していなかったが、アドバイスをしている ところを見ると、実戦経験の乏しいクレアには、このようなバトルでもいいチャンス だと思っているのがわかる。 「さあ、準備はよくて? レディーッ、ゴーッ! 」  スーのスタートが切られた。  魔法対決であるので、武道や剣術と違い、充分に距離を取ったクレアと、マリリン の視線が絡み合う。  マリス対スーと同等な、メイン・バトルでもあった。 (クレア、大丈夫かな? )  ケインの頭を、少しの不安がよぎる。 「ププリカパパララプルルル~! 」  マリリンが、ふざけてるように聞こえる呪文を唱え、一行が以前見たオモチャの ようなピンクの杖が、手の中に現れた。  クレアは油断なく瞳を凝らし、両手を前に突き出し、いつでも呪文を発動させられ るよう構える。 「ふ~ん、とりあえず、様子見ってわけねぇ? それがいいかもねぇ」  マリリンは、くすっと小馬鹿にした笑いをこぼしてから、杖を一振りした。 「パッパラポロプルペレポロロ~! 」  ぴょんと飛び上がると、杖と一緒にくるっと回る。すると、吹雪が吹き荒れ、 クレアに向かい、降り注ぐ。 「防御結界! 」  クレアの周りを、見慣れた緑色の薄い膜が覆う。吹雪は、侵入出来ず、跳ね返って は消えた。 「へー、この程度の技なら、跳ね返せるんだー? 」  マリリンは、ますます小馬鹿にして笑うと、次の攻撃を仕掛ける。  吹雪がガラスの破片のような鋭い氷のかけらとなって、クレアに向かって行く。  が、またしても、クレアの結界の前には飛び散って行った。 「ま、このくらいは、当然よねぇ~」  くすくすマリリンが笑う。氷の粒は、徐々に大きく、鋭さも増して行く。  だが、それでも、クレアの防御結界には通用しなかった。 「やるじゃないか、クレア。マリリンの技を防いでる。防御結界は、完璧みたいだな」 「……だといいけど……」  ケインの後に、マリスが続く。マリスの目は、真剣に両者を見つめていた。 「傍目にはわからないことかも知れないけど、マリリンは、技を強化していってる。 水系の魔法ばかりで攻めてるのも気になるわ。彼女のことだから、まさか、それしか 出来ないわけではないでしょうに」 「だけど、マリリンの技に合わせて、クレアも結界を強めていってるんじゃ? 」 「そうだけど、このまま長期戦に入ると、クレアの方が不利だわ。早く攻撃に転じ ないと」 「でも、さっき、ヴァルは戦いを引き延ばすよう、クレアに言ってたぜ」 「相手の技に耐えてるだけが、戦いを引き延ばすやり方じゃないわ。相手の様子を 見ながらも、ちょこちょこ手を出してみる。それは、武道だけじゃなくて、魔法対決 にだって必要なことだわ」 「……そっか。魔道に疎い俺でも、少しわかった気がする。魔法と武道では、技の 違いはあるが、戦いにおいて基本的なところは一緒なのか。だから、ヴァルも、俺と クレアの剣の稽古には賛成だったのか」  ケインが感心していると、マリスが叫んだ。 「クレア、気を付けて。そろそろ違う技が来るかも知れないわ! 」  マリリンが、ムッとして、マリスを睨みつける。 「ちょっとぉ~、外野は口挟まないでくれるぅ? せっかく、驚かしてやろうと 思ってたのにぃ~」 (……てことは、マリスの言った通り、なにかとんでもない技を仕掛けようとして いたのか? )  ケインは、マリリンとクレア、マリスを見た。 「外野は、バトルの支障になるようなことは言わないように。よって、あんたんとこ のチームは、減点一だからね! 」  スーがマリスに注意し、バトルは続行される。 「ネタバレだけどいいや、やっちゃえ! サンダー・ボール! 」  マリリンが空中に浮かび上がり、杖を一振りする。杖の先からは、黄色い、拳ほど の球が発射する。それはその名の通り、雷のようにビリビリと放電しながら、勢い よく飛ばされた。  魔道士たちの使う電撃の技を、彼女なりにアレンジしたもののようであった。  クレアの結界は、薄い膜から鉄の壁へと変化した。  電撃ボールは弾き返されると、落下地点の地面を焦がす。小さい球の割りには、 威力はあった。 「やるじゃない、クレア! 」  マリスとケインが喜ぶ。クレアは、真剣にマリリンを見ているままだ。  クレアにとって、ひとりでバトルに立ち向かうのは、初めてのことであった。  それまで、戦いでは、常に仲間と一緒であったが、彼女としては、戦い慣れして いる一行の中で、唯一自分だけが力不足であり、ケインやカイルに援護してもらって いるのを痛感している上に、常に、周りの足を引っ張っているのを、気に病んでいた。 (だからこそ、今は、私の力だけで、試してみたい。例え、マリリンの方が、実力が 上でも……! )  キッと、クレアは、口元を引き結んだ。 「あたし、クレアが好きよ」  ケインの隣で、マリスが、呟くように言った。 「クレアは、今まであたしの周りにいた女の子たちとは違うの。かわいくて、か弱い くせに、それを利用しないで、強くなろうと頑張ってる。最初は、口うるさい世間 知らずのお嬢さんだと思っていたけど、今は、……友達だと思ってる。あたしの、 数少ない女友達かも知れないわ」  マリスは、はにかむように微笑んでから、続けた。 「そんな彼女を守ってあげたくなっちゃって……。ケインだって、彼女に、剣を教え てあげてたでしょう? あたしとしては、こんなくだらない勝負は、あたしが、あの スーのヤツをぶちのめせば、それでいいって程度にしか思わなかったんだけど、 どうしても、クレアを、マリリンに勝たせてあげたいわ」  そう言ったマリスに、ケインは微笑んだ。 「マリスは、男みたいだな」  どかっ!   マリスがケインの腹に膝蹴りした。 「なにすんだよ……」  苦痛に耐えられず、ケインは地面に片足を付いた。 (今まで、男扱いされても、かえって喜んでたくせに……。まさか、こう来るとは ……! )  近頃、マリスとは特訓していなかったせいか、彼女の技をもろに受けてしまった ケインは、腹を抱えた。 「まっ、乱暴ね。仲間を足蹴(あしげ)にするとは。リーダーとして失格……と」  スーは、ぶつぶつ言いながら、メモしていた。 「それじゃあ、いくよぉ~」  マリリンは、空高く浮かび上がると、宙に浮かんだまま、くるくると回り始めた。 「おおっ! なんだ、あれは! 」  彼女の仲間になったダイまでもが、驚いていた。  それは、異様な光景であった。  マリリンの回転からは、ピンクのハート形のものが、次々と湧き起こり、竜巻の ように、回転するのだった。


ラブラブ・タイフーン

「ああっ! あれは、いったい、どんな技なの!? 」  クレアが叫ぶ。 「ププリカパパララ・ラブラブ・タイフーン! 」  マリリンが呪文を唱えると、ハートマークは、一斉にクレアに襲いかかる。 「きゃーっ! 」  クレアが手のひらから風を吹き出させると、風に当たって落ちたハートは、じゅっ と音を立て、地面に溶け込んだ。  どのような効果を与えるのかは、詳しくは皆にもわからなかったが、当たれば火傷 (やけど)を負うであろうことは見当が付いた。 「キャッキャッ! ラブラブ・パワーに当てられた者は、その『熱い想い』に耐えら れず、みんなマリリンの言いなりになっちゃうんだから」  マリリンは、ピコッと片足を上げてみせる。 「あっ、だけど、よく考えたら、これって、女の人には効かないんだった」  ハートマークの嵐が去ったと同時に、マリリンは回転をやめ、周囲のほとんどが、 足を滑らせていた。 「……なんて、おそろしい技……! 人の深層心理にまで、入り込むなんて……! 」  クレアだけは、真に受けて、おそろしがっていた。 「だけど、魔法で、人の心を惑わすなんて、邪道です! 」  クレアは人差し指をマリリンに向けて言った。 「ふ~んだ! あーだこーだ言う前に、魔法で、かかってきたら~? さっきから、 おねえさん、全然仕掛けてこないじゃないの~」  空中に浮かぶマリリンは、腕を組んで、クレアを見下ろす。 「わかりましたわ。それでは、攻撃いたします」  クレアは突き出していた両手を降ろすと、目を閉じ、深呼吸をした。再び、瞳が 開かれると、唇が、静かに呪文の形に開く。  そして、再び、両手をマリリンに向けると、そこには、巨大な炎の球が、現れたの だった。


火炎

 これまで彼女が使ってきた火球よりも更に大きく、直径が、人の半身ほどもある。  マリリンの赤紫色(マゼンダ)の瞳が、ピクッと動く。 「へー、随分おっきなファイヤー・ボールだねぇ。結界で防ぐのも、ちょっと面倒か なぁ」  そう言うと、マリリンは、またしても奇妙な呪文を唱え、ピンクの杖を、真上に 振り上げた。  すると、そこだけに、大きな黒い影ができ、靄(もや)のように、揺らめき始めた。 「……ま、まさか……! 」マリスの顔色が変わる。  マリリンの真上に出来た、黒い空間からは、何か生き物の足が現れる。  毛や鱗(うろこ)などというものはなく、皮膚、それも、トカゲやヘビ、ワニを思い 起こさせる類のものであった。 「グアアアアア! 」  それは、雄叫びを上げて、姿を現した! 体長はマリリンくらいで小柄ではあった が、サラマンダーであることに違いはない。  サラマンダーが出るのと、クレアが火球を放ったのは、ほぼ同時であった!   マリリンが、ピンクの杖を、クレアに向けて振る。白い騎士団が砂漠で見た巨大 サラマンダーのように、赤い目と舌、黒光りする表面。翼のない、西洋竜(ドラゴン) に似た外観である。  それが、マリリンの前に来ると、クレアの放った、人の半分はあろうかというほど の火球を、ガバッと開いた口の中に、一気に吸収してしまった。 「サラマンダーの子供を、召喚したのか……! 」  一般の人間ほどの反応ではないにしろ、ヴァルドリューズは、彼にしては、珍しく 驚いている。 「子供なら、破壊力はそんなになくても、召喚しやすいもんね~」  マリリンは、誇らし気に、地上を見下ろす。 「この子たちは火が主食だし、それが攻撃技でもあるから、どんなに凄い炎だって、 一飲みだよ~。無駄に結界で防ぐよりは、この方が賢いでしょぉ~? 」  マリリンは、かわいく映るよう意識的に、両拳を顔の前に持って行き、きゃっきゃ 笑った。 「驚いたわ、あの子、召喚魔法まで使えるなんて」マリスも目を丸くする。 「だけど、確か、召喚魔法って、二〇歳にならないと使えないんじゃなかったかしら? 」  マリスに尋ねられたヴァルドリューズも、頷く。 「ってことは、マリリンは、あれでも二〇歳越えてるってのか!? 俺よりも年上だっ たのかー!? 」  ケインは心底驚いた。どう見ても、彼女は、一四、五歳か、もっと幼く見えた。 「……そう。召喚魔法まで使えたの……」  クレアが静かな声で言うと、マリリンを見据え、別の呪文を唱える。  氷の術だ。同じような大きな球であった。 「ベビー・サラマンダー、戻れ。ベビー・リヴァイアサン、カモ~ン! 」  マリリンが杖を上空に向けると、サラマンダーは元通り、黒い空間に戻り、代わり に、水色の、ヘビのような、サーペントにサカナのようなヒレの付いたものが、水の 中を泳ぐように、身体を波打ちながら、クレアの氷の技を飲み込んだ。 「無駄だよぉ~。マリリンは、火・水・地・風・雷の、どの術も食べちゃう種族を 呼び出せるんだからぁ。マリリンに攻撃をしかけるんだったら、定番の技じゃダメ だよぉ」  空中では、マリリンが、きゃっきゃ笑っている。 (だめだわ。どんなに威力を大きくしたところで、これでは通じないわ。なんとか 彼女に術を当てなくては……! )  クレアが、額の汗を拭う。 「勝負あったみたいね」スーが腕組みをして、ふふんと笑った。 「ほらね~。所詮、おねえさんは、マリリンの相手じゃなかったのよぉ~。これで、 わかったでしょぉ? 」  クレアは、二人にそう言われても引き下がらず、それどころか、二人を、じっと 見据えたのだった。 「まだ負けたと決まったわけではないわ」  ケインは、クレアの特訓に付き合ってきたが、彼女の魔法は、基本形の技しかなか ったのを知っている。だが、それらが通じないのでは、もうこれ以上対抗する手段は 残されてはいないはずであった。 (決定的な決め技がないなら、オリジナル魔法をばんばん使って来るマリリンに、 勝ち目はないのに、クレアは、引こうとしなかった。何か策があるのか、それとも、 ただ意地になってるだけなのか……? )  ケインもマリスも、黙って息を飲んだ。 「こんなに実力の差を見せ付けてもわかんないなら、いいよぉ、教えてあげるぅ」  マリリンのマゼンダの瞳が細められ、スーッと空中から地面に降り立った。  その時、微かにクレアの口元が動いたと思うと、マリリンの足元の地面が、ぼこ ぼこっと崩れたのだった。 「『地』の魔法!? いつの間に……! 」  マリリンは、はっとして、そこから飛び上がった。 「ずっと空中に浮いたままだったから、魔力の消耗を考えて、地面に降りることは わかっていたわ。それを待っていたのよ」  すかさず、クレアが、てのひらを彼女に向け、風を放つ。 「きゃっ! 」  舞い上げられたマリリンに、クレアは、更に電光をてのひらから走らせた。 「きゃーっ! 」  暴風の中、マリリンは、ぐるぐる回りながら、ビカビカと駆け巡る電光を、ピンク の杖で、なんとか防ぐ。 「えーい! ププルルル~! 」  対抗呪文のようなものを唱え、杖で大きく円を描くと、それまで彼女を舞い上げて いた風と稲妻は、さーっとなくなった。  召喚呪文を唱える隙を与えず、クレアの基本魔法と連続攻撃はタイミングも合って いた上に、マリリンだけを狙っていたので、周囲で見ている者たちには、何の被害も なかった。  その点では、以前の無差別攻撃からすれば、大きな進歩であるといえた。  だが、それは、マリリンの闘志に火を点けてしまったようでもあった。  彼女は、いつもの笑顔ではなく、悔しそうに、マゼンダの瞳を歪め、憎々し気に クレアを見た。


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