Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅴ.-1〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月赤ライン  Ⅴ.『黒い騎士団結成! 』 妖精緑アイコン2 ~ バトル1 ~  剣月赤ライン

 翌朝。  久しぶりに見る、マリスの白い甲冑姿であった。金色の模様が神々しい。  少年服の上から、ベアトリクス王国の銀色の甲冑を作り替えた白い鎧に、白い マントをはおったマリスは、両手を腰に当てて、振り向いた。 「また前みたいに鎧ずくめだわ。ちょっと重いけど、鍛えられてちょうどいいかもね」  宿の手続きを済ませに、カイルとクレアは先に部屋を出ていた。  宿屋の一室には、マリス、ケイン、ヴァルドリューズ、その肩にとまっている ミュミュがいる。 「それにしても、……王女の称号を捨てて、本当に良かったのか? それだけは、 してはならぬのではなかったか。ますます女王の思うつぼだぞ」  ヴァルが冷ややかな、だがどこか心配しているようにも取れる目で、マリスを 見下ろしている。 「いいのよ。あの国のことは、完全に割り切ったんだから。セルフィスのこともね ……」 「……そうか……。私個人は、お前にとっては、その方が良いと思う」  マリスの瞳に、どこか吹っ切れたものを見たヴァルドリューズは、少し安心した ような微笑をした。 「これで魔物退治に専念できると思うわ。さ、行きましょう」  ベアトリクスから来たヤミ魔道士の、宙に浮いていた結界の中に、閉じ込められて いる間中、地上に着くまで、泣いていたとは見えないほど、マリスは、さっぱりと した表情であった。  目の前で見ていたケインも、そこにはいなかったヴァルドリューズではあっても、 割り切ったようなマリスの様子には、安心していた。 「てことで、次なる目的地エルマ公国だけど」  宿屋を出た広場では、ヴァルドリューズ、ケイン、クレア、カイルの顔を見渡して、 マリスが言った。 「エルマ公国は中原に近く、魔道士の塔支部もあるわ。あたしもヴァルも目を付けら れてるから、慎重に、なるべく彼らに気付かれずに、次元の穴を塞ぎ、その間に、 ジュニアには、魔物から他の地域の次元の穴を聞き出してもらい、それから、エルマ の次の目的地を決めましょう」 「おう! 任せといてよ、マリーちゃん! 」  マリスの足元に、黒いイヌに変身したジュニアが、尻尾を振ってから、スッと消え た。 「それで、行き方なんだけど、今回は魔法抜きで行った方がいいと思うの。国境まで は空間移動で行くとして、そこを越えたら馬車で七日くらいで行けるみたい」 「えーっ、ずっと空間を渡っていかないのか? 」  カイルが面倒臭そうな声を上げた。 「またそうやってすぐに人をあてにするんだから。エルマには、魔道士の塔があるっ て聞いてなかったの? 空間を渡るには、かなり魔力を使うんだから、すぐに探知 されちゃうでしょう? 」  間髪入れずに、クレアが咎(とが)める。 「その通りよ。ヴァルじゃなくても、ジュニアの魔法でも同じことよ。だから、 歩いて入国するのが、一番無難なの」  と、マリス。 「それでは、エルマ公国に向かって、しゅっぱーつ! 」 「この世にはびこる悪を倒し、正義のために、みんなで力を合わせて、頑張りま しょう! 」  いつものように、マリスにクレアが続く。  その時だった。 「お待ちなさい! 」女の声が聞こえたと思うと、 「とう! 」  男のかけ声も聞こえ、どこからともなく、五人の人影が現れ、一行の目の前に立ち 塞がったのだった。 「正義の白い騎士団とやら、今日こそ、決着をつけてやるわ! 覚悟なさい! 」  中央にいる背の高い女戦士が、ビシッと、マリスに剣を向けた。 「……あなたたちねえ、……一体、なんなのよ」  マリスの口からは、溜め息と呆れた声が出ていた。 「スーにマリリン、ダイにクリス、それにコウモリを肩に乗せた謎の魔道士がいる わ! あれは、誰なのかしら? 」  ケインの隣では、クレアが解説していた。  彼らの前に現れたのは、背の高い、露出度も高い、長い黒髪の美人女剣士スー、 金髪で小柄な美少女魔道士マリリン、自称格闘マニアのダイと、その連れのハンサム な優男クリス、そして、これは、一行も初めてお目にかかるが、肩にイワコウモリを とまらせた、黒いフード付きマントをはおった長身の男がいた。  男は一見して魔道士とわかるなりであった。まだ二〇代前半くらいと思われたが、 全体に暗い空気を漂わせ、陰険な細い目をしていた。頬のこけた、あまりハンサム とは言えない顔である。 「……お前ら、仲間だったのか? 」カイルが、意外そうな声を出す。 「ふん、つい最近知り合ったのだ。聞けば、彼女たちも、貴様らとは因縁があるらし いな。まったく、貴様という女は、どこにでも、ケンカの火種を蒔いて行くのだな」  ダイが小馬鹿にしたように笑い、肩を竦めて、マリスを見下した。 (ヒトのことは言えないと思うのだが……? )  ケインは、心の中で思った。 「お金で雇ったのよ。あれから大分稼いだからね」スーは自慢げに笑った。 「……じゃ、あたしたちは出かけるから」  マリスが、あっさりと手を振って歩き出す。 「待てと言ってるでしょう! 」スーが、またもや剣先をマリスに向け直した。 「なによ」マリスが横目で見る。 「昨日、魔道士の塔の男ドーサが言ったように、私たちは領主様の館へ、行ったわ。 そしたら、館の中まで凄まじく燃えてて、どうも有り金全部燃え尽きてたらしいの。 そのおかげで、私たちは賞金をもらえなくなっちゃったじゃないの! 」 「そーよ、そーよ! マリリンの水晶球が言ってたんだから、白い騎士団の誰かの 仕業だって。昨日出来たのは、妖魔の棲み付く森を焼き払っただけで、領主様の資産 も燃えちゃってたから、結局、マリリンたち、タダ働きだったんだからねー! 」  マリリンは、両手をグーにして、内股でぶりぶり身体を揺すりながら怒った。 「まあ! いいことをしたからといって、お金なんかもらおうと言うの? なんて あさましい! 」  クレアが言った。 「そう。大事な金ヅルを失って、あたしたちに八つ当たりに来たってわけね。それも、 こんなに大勢連れて」  マリスが呆れて肩をすくめた。 「当たり前よ。そっちが五人いるのに、こっちが二人じゃ不利じゃないの! 正義の 白い騎士団に立ち向かうには、せめてこれくらい揃えないとね」  スーが、長い艶のある黒髪を、パサリと色っぽい仕草ではねのけ、自慢げに言った。 「……それで? あなたたちは……? 」  聞いてあげなくてはならない雰囲気を悟ったマリスが、聞きたくもなさそうに、 いかにも義理で尋ねる。  待ちに待っていたかのように、スーがひらりと跳び直し、残りの四人もそれに従い、 ひらりと一歩下がる。 「世にも珍しい美人女剣士のスー! 」  スーは髪をかき上げ、ポーズを取る。 「次! 世にも珍しい美少女魔道士のマリリンちゃん! 」  スーに呼ばれたマリリンが、ピッと片足を上げ、両拳を顔の下に持って行き、 かわいさをアピールしたつもりのポーズを取った。 「次! 青いジャガーの異名を持つ旅の格闘家……あんた、誰だっけ? 」  スーのセリフに、全員足を滑らせた。ヴァルドリューズと謎の魔道士を抜かして。 「青いジャガーのダイだっ! 」  ダイは首筋とこめかみに血管を浮き上がらせて怒鳴った。 (仲間にも名前を覚えてもらえないのか……)  ケインとカイル、マリス、クレアは、同情的な顔になった。 「ああ、そうだったわね。……それからっ、イケメン剣士クリス! 」  スーの声に、優男クリスが、キザな仕草で金髪の前髪を掻き揚げ、緑色の瞳を きらめかせ、「やあ! 」と、マリスとクレアにやさしく微笑んだ。  他の者は、まったく目に入っていないようだ。 「最後に、謎の魔道士ズィール! 」 (おいおい、仲間なのに『謎』なのか!? )  白い騎士団から見て当然謎であるズィールは、じーっとしていて、特にポーズを 取るでもない。ただ、沈んだような冷たい黒い瞳で、見つめているだけだ。 「ちょっと、あんた、キメのポーズ考えておかなかったの? しょーがないわねえ」  スーが両手を腰に当てて、その魔道士に言った。 (そういうわけではないと思うのだが……? )  再び、白い騎士団は、同情的な目になった。 「五人揃って、名付けて『現実主義の黒騎士団』! 」  彼らは、それぞれが勝手なポーズを取った。魔道士は動かないままであったが。 「はあ? なによ、それ」マリスが思い切りくだらなそうに顔をしかめた。 「あんたたちが『正義の白い騎士団』なら、マリリンたちは、『現実主義の黒い騎士 団』なんだもん! 」  マリリンは、ふわりと短いスカートを風になびかせ、人差し指をマリスに突きつけ た。  なんの意味もないアクションに、一行には思えた。 「あなたたちねえ……」  マリスは呆れて次の言葉がなかなか出て来ない。 「まあ! 私たちの真似をしたのね!? なんて人たちなのかしら! 」 「だ、だからさ、クレア、そーじゃなくてさー……」  真に受けて怒るクレアを、隣のケインが宥(なだ)めようとするが、 「結成を記念して、いざ勝負! 」  スーが既に勝ち誇った笑いを振りまき、細剣サーベルを振る。 「知らないわよ、そんなの」ぽろっと、マリスが呟く。 「マリス、ここまで言いがかりをつけられて、黙っているつもりなの!? あなた らしくないわ! 彼らはお金で魔物をやっつけるかどうかと決めているのよ!  利のないことには、例え目の前で困っている人がいても助けなかったじゃない。 お金がもらえないのも私たちのせいにして、おまけに似たような人材を集めてきた かと思ったら、グループ名までパクるなんて! まったく、まねっこ乞食もいい ところだわ! 」  クレアは彼らの挑発に、すっかり乗っていた。 「私のリベンジも兼ねて、ここは、彼らとーー」  そうクレアが言い終わらないうちに、 「話は決まったわね。ここでは人の邪魔になるわ。向こうの丘で勝負しましょう! 」  スーが両手を腰に当てたまま、くるっと向きを変えて歩き出した。 「アホくさ! みんな、構わないで行くわよ」  マリスがクレアの腕を引っ張り、反対方向へ歩き出した。 「逃げる気? 」  スーが威圧的にマリスの前に立ちはだかった。 「おおかた、私たちに恐れを成して、尻尾を巻いて逃げるんでしょう? そんなに ガチガチに鎧なんか着込んじゃって、私と剣の勝負をするのが、よっぽど怖いと見え るわ。  それとも、この私の美貌を直視すると、自分の色気のなさを実感してしまうから かしら? そうなのね? 一時、私に対抗して謎めいた少女を装っていたみたいだけ ど、やっぱり少年騎士に逆戻りじゃない? まあ、その方が、あんたにはお似合いよ。 その代わり、どう見ても男にしか見えないけどね。ほーっほほほ! 」  スーは、いつもの耳につく高笑いを、大袈裟にやってみせた。  マリスの鎧は防御のためだけでなく、彼女の異様に高い魔力を外部に漏らし、探知 されることを避けるためでもある。それを、白い騎士団で知らない者はいない。 「マリス、相手にするな。先を急ごう」ケインがマリスの耳元でそう促すが。 「ふっふっふっ……」  マリスは、くるっと、スーに振り向き様、人差し指を突きつけた。 「じょーとーじゃないの、この露出狂! このあたしが、あんたなんか怖がると 思って? 男にしか見えないですって? あたしは、ちゃんと色仕掛けだって 使えるんだからねーっ! どっちが最強の女戦士か、勝負してやろーじゃないの! 」  マリスは、いつもの勝ち気で不敵な笑みを浮かべていた。 「ふん、望むところだわ! 」スーもマリスを見下す。 「みんなっ! エルマは後回しよっ! こいつらを叩きのめしてからでも、遅くは ないわっ! 」 「マリスまでが、簡単に挑発に乗ってしまったか! 」ケインが愕然とする。 「どーでもいい敵の時ほど『地』が出るな、あいつ……」と、カイルが力なく笑う。 「それでこそ、マリスだわ! 素敵よっ! 」  喜んでいるのは、クレアくらいであった。


ラインアイビー

 ところ変わって、スーに連れて来られた小高い丘。  草が青々と茂り、樹木もところどころに生え、人気(ひとけ)はあまりない。  「一対一の五本勝負よ」  やり方は、スーとマリリンが勝手に決めた。 「どちらも、戦士三人に魔道士二人だから、戦士対戦士、魔道士対魔道士の組み合わ せでいけるはず。主将が最後、その前が副将ね。主将はもちろん、騎士団の団長だか ら、あんたと私ね。副将は、好きに決めなさい」 「じゃあ、ケインやって」  胸の前で腕を組んだマリスが、ケインを振り向く。  ケインには、くだらない戦いになるのは目に見えていたので、さっさと終わらせて、 マリスにつなげばいいと思っていた。 「ほう、貴様が副将となると、こちらのチームでは、この俺がやるのがふさわしい」  ダイが、ふふんと、ケインを挑発するように笑う。 「今日こそ、その貴様の背中のデカイ伝説の剣を賭けて、勝負するのだ」 「ああ、この剣なら、今は彼女に貸してるんだ。悪いな」  親指をマリスに向けて、ケインがあっさりと答えた。重い物を女の子に持たせる わけにはいかないからと、戦闘中以外は、今まで通り、彼が背負うことにしていた。 「なにぃっ!? そうか、俺様に負けるのがわかってて、その小娘に剣を預けたのだ な!? なるほど、そう来たか! 」  ダイがあまりにもがっかりしているので、ケインは思い付いた。 「その代わり、こっちの剣を賭けてやろうか? 」  ケインがマスター・ソードを掲げて見せながら、挑発的に微笑んでみせた。 「誰がそんな普通のロング・ソードなどいるかっ! 俺が欲しいのは、伝説の剣だけ だっ! 」  ケインも皆も、無言だった。 「じゃあ、まず、第一回戦は、謎の魔道士ズィールから行くわよ! 」  スーに言われ、陰気な雰囲気をまとった魔道士が、一歩進み出た。 「おっと、いきなり凄そうなヤツだぜ! 」カイルがマリスに言う。 「それなら、こっちはヴァル、頼んだわよ」  マリスも不敵な笑顔で、ヴァルドリューズを振り向く。 「ヴァルなら楽勝だな」  カイルもケインも、白い騎士団の誰もがそう思い、いきなり大物同士の魔道対決を 期待した。  が、ヴァルドリューズは、その場から動こうとはしなかった。 「私は、そのようなことには興味はない。無駄に魔力を使うだけだ」  ズィールの方も、スーに促され、仕方なく出て来たので、戦闘を仕掛けるでもなか った。 「……ってことは、こっちの不戦勝でいいのかしら? だって、そちらは、リングに すら立っていないんですものね」  スーが、にんまりと笑う。  どこからどこまでがリングかは、誰にもわからない。 「ちょっと、ヴァル! あんなヤミ魔道士なんかより、あんたの方が絶対強いに 決まってるんだから、さっさとやっつけて来てよ! 」  マリスが、ぶーぶーヴァルドリューズに文句を言うが、彼はもう口すら利こうと しない。 「決まりね。ズィールの不戦勝だわ」  スーがふふんと笑った時だった。 「お兄ちゃんは、ほんとは強いんだから! そんなヤツなんかに負けるもんかー! 」  ミュミュがヴァルドリューズの髪の中から、顔を覗かせた。 「なっ、なんだ、あれは!? エルフか!? 」  ダイは、ミュミュを見たのは初めてであった。クリスも「へー! 」と感心し、 謎の魔道士ズィールも、ピクッと僅かに眉を動かした。 「エルフじゃないよ、美少女ニンフのミュミュだよー」  ミュミュがぱたぱた飛び立ち、ヴァルドリューズの肩の上に、ちょこんと座り、 彼の頬にくっついた。 「ふん、相変わらず、生意気な妖精ね。あんたなんて、ズィールの肩に乗っかってる、 あのイワコウモリと同じで、役に立つんだか立たないんだかわかんないくせに」  スーのセリフに、ミュミュがヴァルドリューズの肩の上で飛び上がった。 「あんなイワコウモリなんかとミュミュを一緒にするなー! ひどい、ひどいよー! 」 「うるさいねっ! だったら、あんた、あのコウモリに勝ってみせなさいよ。そう やって、いっつもその魔道士の影に隠れていないでさ。その魔道士の不戦敗の分、 あんたが取り戻してやれば? 」  ミュミュがピタッと止まり、コウモリを、おそるおそる覗く。  イワコウモリはピクリとも動かず、置き物のようだ。  ミュミュは、スーに再び顔を向けた。 「いいよ。あんなヤツ、ミュミュだって、やっつけられるもん。それで、お兄ちゃん の仇(かたき)を討ってやるー! 」  スーは、人を怒らせることに長けていた。 「レディーッ、ゴーッ! 」  スーの仕切りで、ミュミュがコウモリに向かって行く。 「おーい、ミュミュー、あんまり無理すんなよー! 」 「そうだぞー。俺たちに任せて、怪我する前にやめとけよー! 」  ケインに続いて、カイルも叫ぶ。  ミュミュは、ふーっとズィールに近付き、イワコウモリを、あちこちから睨む。 「……バカッ! 」  コウモリは、身動き一つしない。ズィールが、じろっとミュミュに目を向けただけ だ。  イワコウモリは黒い羽で身体中を包み込んだまま、何も聞こえていないのか、黄色 く光る目を、まっすぐ前方に向けている。  悪口で相手を攻撃していたミュミュは、ピタッと止まると、腰に手を当て、ふふん と笑った。 「こいつ、全然戦おうとしないよ。ってことは、ミュミュの『ふせんしょう』でいい んだね? やったー! これで、お兄ちゃんの仇を取れたー! 」  ミュミュがぴょんぴょんイワコウモリの頭上で、飛び跳ねた。 「キーッ! 」  突然コウモリがバサバサと大きく羽を広げ、身体を大きく見せると、牙を剥き出し て、ミュミュを威嚇(いかく)し始めた。 「なっ、なにさー! 」  ミュミュはびっくりして後退(あとずさ)るが、シュッシュッと拳を突き出し、殴る 真似をしてみせた。 「キエーッ! キエーッ! 」  コウモリがズィールから飛び上がると、ミュミュをその鋭い爪の生えた足で掴もう と、向かっていく。 「きゃーっ! 」  ミュミュが必死に逃げ回る。それを、コウモリは、バシバシと羽で叩いて攻撃し 始めた。 「うわ~ん! 」ミュミュが泣きながら、コウモリから逃げる。 「ミュミュ、もういいから戻っておいで! 後は、俺たちでなんとかするから! 」  ケインが叫ぶが、ミュミュは空中に浮かんだまま、くるっとコウモリを睨む。 「もうちょっとで、ミュミュの『ふせんしょう』だったのにー! えいえいえいっ! 」 「キーッ! キーッ! 」  ミュミュはコウモリの羽攻撃を受けながらも、目をつぶり、泣きながら、ポカポカ と殴り返していた。 「はん、もう見ちゃいられないわね。次のバトルに行きましょ」  低次元だが、ある意味壮絶なペット同士の争いに、呆れたスーが、再び戦いを仕切 り直した。  哀れなミュミュは、一生懸命戦っていたが、そのまま放っておかれた。 「次! こっちは、イケメン剣士クリスで行くわよ」  スーの声に、美青年クリスが、セミロングの金髪を掻き揚げて登場した。 「フッ、金髪でイケメンと言ったら、俺の出番だな」  カイルがにやっと笑い、肩より伸ばした、クリスよりも長い金髪を、さらっと跳ね 上げた。 「お手柔らかに頼みますよ」と、にっこり笑いかけるクリス。 「ま、本気になるまでもないだろーけどな」  トボケた口調で返すカイルだが、二人の間には、ただならぬ空気が流れている。  彼らが直接言葉を交わすところは、皆の記憶では初めてではあるが、どうやら、 既に互いをライバルだと定めていた様子だった。  伊達男同士のプライドがそうさせているのだろう。彼らならではの、すなわち、 どちらが格好良くて、女にモテるかを競い合う宿命を持って生まれたとでも言うべき か。  恨みはなくとも、出会った時から、彼らはライバルなのであった。  クリスの方は、優しく雅(みやび)やかな、貴公子のような雰囲気を持つ。それが、 女性を近付きやすくしているが、時々、歯の浮くセリフを言うところや、鼻につく わざとらしい仕草が、どうも男性からすれば「気に入らねえヤツ! 」と映ってしま うようだった。  一方、カイルは、彼と同じく細身の体型ではあっても、なよなよとした感じはしな い。顔立ちも、クリス同様、整ってはいるが、彼のように自分がハンサムだという ことを鼻にかけた感じは、一見しない。  もちろん、ハンサムは充分自覚しているが、整った顔立ちをわざと歪めて品のない 顔をしたり、にやりと不敵な笑いを浮かべるところなどは、クリスのような「優美な 貴公子」とは程遠い。  だが、それが、逆に親しみを覚え、彼が男性にも、素直に格好良く映る理由でも あった。  その上、博打や剣の腕もあり、それが好印象にプラスされる。チャランポランな 性格でも、許されてしまうのも(品行方正な人間以外になら)、彼ならではだろう。  貴公子や好青年には見られなくとも、彼には、妙な色気があった。  クリスに似合うのが、蝶や花のように清楚で可憐な女の子だとすれば、カイルには 華やかな踊り子のような大人の女性が似合う。  妙に戦う気満々の二人を挟み、スーが戦闘開始の合図を出す。  二人の傭兵は、腰に差した剣を抜いた! 


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