Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅳ.-2〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月紫ライン  Ⅳ.『点と線2』 妖精緑アイコン2 ~ 運命 ~  剣月紫ライン

「やっぱり、邪悪な感じがすると思ったら……お前、そうやって、モンスターを自分 に召喚したのは、一度や二度じゃないな!? 」 「ふわっふわっふわっ! 」  巨大な岩のドラゴンは、黄色い目をぎょろっと動かし、ケインとマリスを見下ろし、 牙を生やしたワニのような口を開いた。 「この姿になれば、今まで負けたことなどないのだ! 貴様らなど、ひねり潰して やるわ! 」  これまでの甲高い彼の声と違い、おどろおどろしい声は、結界の中と言えども、 放電し続けている黒い空に響いていた!   あたりは、風が吹き荒れていた!  「マリス、後ろに来い! 」  マリスは、マスター・ソードを構えたケインの後ろに回る。  マスター・ソードの刃全体を包む赤い炎が、標的に向かい、ゴオオオオオッ! と、 渦巻きながら発動する。  岩のドラゴンと化したビビの足に当たると、炎はバチバチと足を伝い、あっという 間に、炎が全身を取り込んだ。 「ふはははは! 効かぬわあ! 私の身体は、火炎系の術に強いのだあ! 」  笑い声は、地面をも揺るがす。 「だったら、これならどうだ! 」  ケインが更に剣を一振りすると、剣先からは、吹雪のように、雪がドラゴンの足に 吹き付けられ、みるみる氷の柱へと変えていく。 「小僧、氷系の術も使えたか。なかなかやるではないか。だが、その程度の魔法では、 私にダメージを与えることなど出来ぬのだあ! 」  パリン! と氷柱がはがれ落ちて、現れたのは、岩肌のドラゴンの足そのままで、 傷一つ付いていない。 「それでは、こちらからも行くぞ! 」  黄色い目が、カッと見開いた。 「右へ飛べっ! 」  ケインとマリスは同時に右方向へ飛んだ。  目から発射された光線が地面を直撃すると、ごごごご! という地響きと共に、 地割れが起こった。 「なんて破壊力だ! 」  黄色い目は、またしても二人に向けられた。 「もう一度右だ! 」  ケインが叫ぶのと同時に、大きく右へ飛ぶ。マリスもぴったり彼の後についていく。  またしても、地割れが起こる。 「このままだと、立ち位置がなくなるわ! 」マリスが叫ぶ。 「ふわっふわっふわっ! その通り! 」  岩竜は上空に向かい、炎を吐いた。 「その地面全部崩れた時、この私が結界を解けば、貴様らは、地上まで真っ逆様だ!  生身の人間では、まず助かるまい。小娘、貴様は女王陛下のご命令だから、かろう じて命は助けてやっても良いが、多少は痛めつけて大人しくさせなければ連行出来ぬ 上に、私の気も収まらぬというものよ! 」  言い終わるか終わらないうちに、目から発射された光線を、ケインの剣が受け止め る。強い衝撃が来る。 「ケイン、なんで、いつかみたいに、ドラゴンの影みたいな技を使わないの? 」  マリスが声を張り上げる。衝撃を受け続けるには、彼の身体にも負担がかかるよう に見えたのだった。 「……今度は、俺が、試したい。俺の選択が正しかったのか、を」  呻くように言いながら、ケインは続けた。 「ヤツは自分の技に溺れ、今は、俺の攻撃はたいしたことないと油断してる。この まま、俺がヤツの注意を引きつけておくから、その間にマリス、……バスター・ ブレードを使え! それで、ヤツを叩き斬るんだ! 」 「えっ!? で、でも、これは、ケインのお父さんの形見で、その意思を継ぐ人以外は 使えないんじゃ……? ベアトリクスにとっては、あんなんでもヤツが正義で、 あたしが悪かも知れないのよ? あたしが使ったことによって、巨人族が、剣を回収 に来ちゃったら……! 」 「俺は、自分の選択が正しかったと、思ってる。例え、ベアトリクスにとっては マリスが悪だったとしても、俺は、マリスの味方だ! 」  ぽたっと、後ろからケインの首筋に、熱いものが零れたと思うと、マリスが彼の 背からバスター・ブレードを引き抜いた。  そのまま、瞬時に巻いてある布を外すと、彼の肩に手をかけ、ひらりっと飛び 上がったのだった。  マリスの脇から援護射撃で、ケインがドラゴンの目に氷の技を浴びせた。  目の表面に、氷の膜が張り、光線は、マリスには発射出来ない。  ざっくりと、岩竜の足が斬られる!   どす黒い緑色の体液が、どばあああっと吹き出し、バランスを崩したドラゴンが、 叫ぶとともに崩れ落ちた。  ドラゴンの巨体が、のたうち回る。すかさず、マリスが両手に構えた大剣で、 ズバッと、腹を切断した!  倒れ込んだドラゴンは、もはや動き回る力も、残ってはいないようだった。 「これくらいで死なないことくらい、わかってるのよ。あんた、命は助けてやるわ。 その代わり、ここの結界を、元通りの森の位置まで、ゆっくり降ろすのよ。それから、 結界を解きなさい。  あたしは、今は白魔法は使えなくとも、呪文は知ってる。あんたの呪文が合ってる かどうかくらい、ちゃんとわかるんだからね。いい? ちゃんと正しく唱えるのよ、 わかったわね? 」  マリスは、ドラゴンの首の付け根に、バスター・ブレードを突きつけた。  ドラゴンは、ヒ~ヒ~と弱々しく鳴き声をもらすと、呪文を唱えた。  がくんと、その場所全体が沈み、地響きを伴い、振動しながら、ゆっくりと降下 していくのが、ケインにもマリスにも伝わる。  その後、ビビの変身したドラゴンは、姿を消した。


ビビ結界

「呪文は正しく唱えられていたわ。結界は次第に解かれていくはず。どのくらい かかるかわからないけど、地上に着くには、まだ時間がありそうだわ」  マリスは、バスター・ブレードを両手で持ち替え、ケインに差し出した。 「ありがと、ケイン、貸してくれて。……嬉しかった」  ケインは大剣を受け取り、じっと刃を見つめてから、口を開いた。 「巨人族も、取り返しには来ないみたいだな」  からかうように、マリスを見た。  マリスも、ほっとしたように笑う。  その笑顔を見つめてから、ケインは決めた。 「新しい剣を作るまで、使っていいよ。重くてイヤじゃなければ」  ケインはバスター・ブレードの柄を、彼女に向けた。  驚いたマリスは、彼を見上げる。 「本当に? ケイン、本当に……あたしが使ってもいいの? 」 「いいよ。俺も、剣二つも持ってるんだから、もっと早く貸してあげれば良かったよ」  ケインが、にっこり笑った。  驚いたままのマリスだったが、改めてバスター・ブレードを見つめる。 「ケイン! 」  いきなり、マリスは、ケインの首に飛びついた。 「なっ! どっ、どうしたんだよ? 」 「あたし、ゴドーの水晶球で見た時から、バスター・ブレードが欲しいって思ってた の。ありがとう! ホントにありがとう! あたし、大事にするわ! 」 「お、おい、あくまでも『貸す』だけだからな。『あげた』んじゃないだぞ」 「わかってるわよ。それだけじゃないの。あたしを……信じてくれたから」  ケインの心臓は飛び出しそうになっていた。予想外のマリスの行動は、もしかした ら、これも愛技なのかと思うことで、いくらか冷静になれた。  マリスはバスター・ブレードを受け取ると、地面に置き、隣に座った。  刃に、布を巻きつける手つきを、すぐには動けないでいたケインは、しばらく 立ったままで、見つめていた。 「ねえ、あたしの過去がわかったんだから、ケインのも教えてよ」  またまた、彼女の言動に、彼は驚かされる。 「剣を手に入れた話を聞く時間まではないかも知れないから、また後日、ゆっくり 聞かせてもらうとして……旅に出る前、どうして、別れちゃったの? 」 「あ、……ああ、そんなことか」  彼にしてみれば、マリスが飛びついてきたほどの、感情を揺さぶられることでは、 もうなくなっていた。  次第に、ケインは、鼓動が元の速さに戻って来るのを感じながら、話し始めた。 「マスター・ソードを狙った蒼い大魔道士の部下ザンドロスと、砂漠で会った名前の ない魔道士ーーお前が、名なしのプーって名付けた、あいつだよーーが、マスター・ ソードを渡さないと、村を攻撃するって脅してきた。その決着をつけた時に、 ある衝撃で、マスター・ソードの魔石が飛び散り、魔石の力もなくなってしまった。  剣を手に入れた時は、力を活かして、世の中の役に立ちたいと思ってたけど、 それ以来、俺は思ったんだ。もしかしたら、この先、こんな風に、俺は魔道士や モンスターとの戦いに、自分が望まなくても、かかわっていくのかも知れないって。 彼女のいるあの平和な村を、再び戦いに巻き込んでしまうのは、嫌だった。  だから、俺は旅に出ることにし、彼女にも一緒に来るかと尋ねた。絶対守るから、 だから、一緒に行こう、と。……だけど、彼女は、首を立てに振らなかった」  マリスが、じっと耳を傾けているのを見て、飽きてるようでもないのを確認して から、彼は続けた。 「俺の好きだった人は、魔道士を目指していてな、昔、魔道士だった両親を戦いで 亡くし、だから、彼女は、戦いは嫌いだったんだ。  でも、俺との旅を断ったのは、それだけじゃなくて。ザンドロスとの戦いの際、 俺の安否を気遣うあまり、彼女は、水晶球を……俺の近い未来を覗いてしまった。  そして、……『私は、あなたの運命の女(ひと)ではないの』……と。それって、 彼女にとっても、俺が運命の男(ひと)じゃなかったってことでもあるわけで。  運命なんか気にしないで、一緒に来て欲しかったと思うのは、単なる俺のわがまま だったのかって、ずっと気になってて……。  ……ま、そんなもんだよ。別に、マリスに比べたら、たいした話じゃないだろ? 」  ケインは、諦めたように力なく笑った。  マリスはじっとケインを見つめていた。 「ううん、そんなことない。もし、その場に、あたしがいたら、……彼女のこと、 ぶん殴ってたかも」  ケインは目を丸くした。 「ごめんね、乱暴者で」  マリスはケインを気遣うように見て、彼に怒った様子は見られないのがわかって から、続けた。 「よく使うのよね、魔道士って『運命』って言葉。まあ、魔道士に限らずだけど。 確かに、運命って、ちっぽけな人間ごときには抗えない、大きな力ではあるし、 あたしも随分作用されてきたとは思うけど。でもね、よっぽどのことでない限り、 大抵の自由はきくものだと思うのよ」 「『運命』を相手に、よくまあ、あっさりと言いのけるもんだな」  ケインは変に感心し、また彼女の話に興味が湧いた。 「魔道士の占いだって随分外れてるわよ。あのゴールダヌスでさえ、伝説の大魔道士 だなんて言われてた彼でさえよ。誰も運命なんて言い当てられないわ。誰もが占って 出た結果を覆すことだってあるわ。  国と国という大規模ないくさでさえ、奇跡って起こるものなのよ。  そんなことに比べたら、個人のたかが恋愛沙汰くらい、どうってことないと、思わ ない? 」  マリスは、すっと立ち上がり、ケインの隣に立ち、遠くを見つめた。 「誰にもわかりはしないのよ、運命なんて。だったら、その通りになるかならないか わからないそんなものに、左右される前に、自分で選べばいいのよ。自分がどうした いかを」  ケインは、横からマリスをーー紫の瞳を、食い入るように見つめた。 「つまりね、あたしが言いたいのは、……キツい言い方かも知れないけど、……その 彼女には、その村を出て行ってまで、あなたに付いて行く気がなかったってことなの よ。運命って言葉を理由に。その言葉に、既に、負けてしまったんだわ」 「それって、俺は、彼女にとって、そこまでの存在だった……とも言えるよな」 「失礼な言い方で悪いけど、……所詮は、そういうことよ。だから、ケインは、 そんな彼女のことなんて、……気にすることないのよ」  マリスの口調はやさしく、和らいだ瞳で、彼を見上げる。 「もしかして、……慰めてくれてる? 」 「いくらあたしだって、そこまで、思い上がってなんかいないわ。ケインに言ってる のを装って、実は、自分のことを確認してるに過ぎないんだから」  ケインは、真面目な表情になって、マリスを見直した。  マリスは、視線を反らした。 「あたしもね、最初は、セルフィスのこと、置いてきちゃったのは、やむを得ない ことだって、決して、あたしの意志じゃなかったんだって、ずっと思ってたけど、 ……今思うと、やっぱり、それは、あたしの意志だったのよ。  あたしは、彼を守るより、……彼と一緒になることよりも、戦いを選んだの。この 間、砂漠で、偶然ベアトリクスの辺境に迷い込んじゃった時、はっきりわかったの」 「……でも、まだ王子に……未練があるんじゃ……? 」 「未練がないと言えば、正直……嘘になるわ。でも、それは、彼に対しての恋愛感情 なのか、ただ放っておけないのが癖になってるだけなのか、微妙なところなのかも。  あたしが旅に出てから婚約は白紙に戻り、王女の称号を捨て、それが受理されれば、 全部あのクソ女王陛下の望む結果にはなるわけだけど、あたしは、あたしの運命に 負けるわけじゃないと思ってるの。だから、称号を捨てることなんか、なんとも思わ なかったわ。  すべては、なるようにしかならないんだから。  この戦いの最後は、ジュニアのお父さんとの対決になるのかも知れないけど、 それさえも、なんとか乗り越えてやるわ。それからが、本当の、あたしの人生の 始まりなんだもの! 」  アメジストの瞳は眩しく輝いていた。そこには、揺るぎない強い意志が、明らかに 現れていた。 「マリスは強いな」  ケインが呟くと、彼女は、困ったように笑った。 「……な~んて、偉そうなこと言ってるように聞こえちゃった? あたしにだって 弱い部分はあるわ。だからこそ、強くなろうとしちゃうの。弱味を人に見せたくない だけ。  それに、ホントのところはね、……何も言わずに去って行った幼なじみのダンも、 婚約者だったセルフィスも、……あたしを守り切れなかったんだなって。すっごく 身勝手な言い分なんだけど」 「……マリス……」  ケインの手が、彼女の肩に向かって伸びていく途中だった。 「あー、全部話したら、なんだかすっきりしちゃったわ! 」  マリスが両手を上に伸ばし、伸びをした。  一瞬、呆気に取られたケインだったが、くすっと笑った。 「マリスは剣も格闘技も完璧だし、とっさの状況判断も冷静で的確だった。それだけ じゃなく、演技、愛技なんかも使えるし。俺から見れば、戦士として完璧だったよ」 「そうかなぁ。完璧な戦士って、ひとりだけ、女性でもそういう人を知っていたから、 あたしも彼女のようになりたいと、ずっと思っていたわ。でも、あたしは、まだまだ 完璧な戦士には、ほど遠いの」  ケインは、首を横に振った。 「だけど、俺は……完璧な人間よりも、どこか欠点のある人の方が……好きだけどな」  マリスが、改めてケインを見る。  アメジストの瞳が、潤んでいく。 「……やっぱり、ケインは、今まで出会った人たちと違うのかも。さっきだって、 巨人族が取りに来ちゃうかも知れないのに、こうして、あたしに剣を貸してくれた。 詳しい事情も知らせてなかったのに、あたしを信じてくれた……」  涙の粒は、マリスの頬を伝い、連なって落ちて行った。  思わずそれに見蕩(みと)れていたケインは、すぐに真面目な表情に戻った。 「俺だけじゃない。カイルもクレアも、皆だって、あそこにいたのが、俺じゃなく たって、マリスのことを信じるよ。仲間なんだから」 「……うん」  マリスの瞳からは、それまで耐えていたものが一気に吹き出したように、とめどな く流れ出るのを、手で拭い続ける。  反対に、ケインは、つられて溢れ出しそうになる想いを、解放するわけにはいかな いでいた。 (ホントは、まだ一六なんだもんな。いろいろと我慢してきたんだろう。多感な時期 であるだけに……。年齢より大人びて見えてはいても、運命だか宿命だかによって、 無理矢理引き出される結果となってしまったのか、実はまだ完全に成長し切ってない 部分もあったんだろう……)  泣きじゃくるマリスを、ただケインは、見つめる。  恋人であったなら、すぐにでも強く抱きしめ、口づけていた。  そのような衝動に駆られるが、自分を仲間だと信じてくれている彼女には、それは してはならないと、必死に自分に言い聞かせ、ケインは彼女への想いを抑え込んだ。 (……王女を放棄したからって、喜んでる場合じゃない。まだちゃんと受理されて ないし、受理されたとしたって、それにかこつけるようなまねは、したくない)  触れてしまえば、想いを抑え切れる自信がない。  といって、泣いている女の子を放っておいて良いものか。  しばらく悩んだ末、ケインは口を開いた。 「俺たちは、きみを見捨てたりしないよ。マリスが運命を変えるところを、必ず、 見届けるから」  兄のような気持ちでやっと言うと、うつむいたまま、光るものを拭うマリスの頭を、 ケインは、からかうのを装って、くしゃくしゃっとしたのだった。


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