Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅲ.-3〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月紫ライン  Ⅲ.『点と線』 妖精緑アイコン3 ~ 宮廷魔道士 ~  剣月紫ライン

 宿屋の一室では一行が集まり、マリスの両脇にケインとジュニアが、マリスの正面 にはカイルがテーブルに、クレアは戸口寄りのベッドに腰かけ、ヴァルドリューズ は部屋の隅の窓側に立っていた。  ヴァルドリューズの焚いた香の結界が、部屋中に広まった頃であった。 「ねえねえ、せっかく祝日になったんだから、みんなで遊びに行こーよー! 」  テーブルの上では、ミュミュが透明の羽をぱたぱたさせ、ひとりずつの目の前に 飛んでいっては、そう言い回っていた。 「その前に、資金も貯まってきたんだったら、次の目的地を決めよう。それから遊び に行っても遅くはないだろう? 」  ケインが言った。 「なにか、魔物の噂とか、聞かなかったか? 」ケインが皆の顔を見回して尋ねると、 「ああ、それなら、俺様が知ってるぜ」  テーブルで、ケインの真向かいに座っているジュニアが、小さい黒トカゲを口の中 に放って言った。 「ジュニアは魔族だから、次元の穴の場所がわかるみたい」  マリスが何気ない表情で答える。 「本当か、ジュニア!? 」 「ああ。ここから一番近いところだと、エルマ公国だな」  ケインは期待したように、半ば、感心したようにジュニアを見つめる。  ヴァルドリューズが鋭い目付きになったのは、誰も気付いていない。 「エルマ公国ねえ……中原が近いわ。せっかく、アストーレから砂漠を超えたのに、 また戻るの? 」  マリスがうんざりした顔になった。 「仕方ないよ。このトアフ・シティーが割と中原寄りだからさ。ここから一番近い 次元の通路って言ったら、そうなっちゃうよ」  ジュニアが言った。 「エルマには、小さいが魔道士の塔支部がある。だから、例え次元の穴を通じて魔物 が侵入してきても、彼らがなんとかするだろう。それよりも、もっと大規模な次元の 入り組んだところがあるはずだ。そこから塞いでいくべきだろう。まだ行っていない 辺境がある。そこへ向かう方がいいだろう」  ヴァルドリューズは、普段の平坦な口調で言った。 「ええっ!? 荒野や砂漠を越え、変な種族の村まで行って、やっと普通の町に来たっ てのに、また辺鄙(へんぴ)なところに行こうってのか!? せめて、もうちょっと都会 を旅してからにしようぜ」  カイルが焦ったように言う。 「う~ん、辺境って言うと、俺様のデータじゃ古いから、その辺の魔族でも捕まえて 聞いてみりゃあ、もっと詳しいことがわかるんだけどなぁ」  ジュニアが腕を組み、首を傾げる。 「だいたいさー、そいつの言うこと、本当に信じられるのかよ? 次元の穴を塞ぐっ てことは、魔族がこっちの世界に来る通路を塞がれるってことだろ? 魔族の不利に なるようなことを、魔界の王子であるこいつが、わざわざ教えてくれるなんて、 ちょっとおかしくないか? デマを流してる可能性の方が強いと、俺は思うぜ」  カイルが、ミシアの実をガジガジかじりながら、いかにも疑わしい目をジュニアに 向けている。  皆からすれば、似た者同士の二人ではあったが、カイルがジュニアを快く思わない のは、近親憎悪のようにも取れた。 「ちっちっちっ! 」  そんなことは全く気にも留めないジュニアが、人差し指を振り、にやっと笑う。 「わかってないねえ。上の言うことには絶対服従って、上下関係がうるさいのは、 下々の魔族のやることなんだぜ。しかも、オヤジが復活していない今は、俺様が魔界 の王も同然だ。生憎、こっちの世界に来ちまったもんだから、公務は家臣に任せっ ぱなしだけどな。  人間の間じゃ、親を息子が売るなんてことは考えられないのかも知れないが、魔族 は違う。絶対服従は、上下の関係においてのみであって、俺とオヤジは単なる上下 関係じゃない。親子なだけだ。人間どもと違って、血のつながりだけじゃ、情は湧か ない。  だから、マリーちゃんやお前らが、オヤジを倒してくれるんなら、俺にとって、 こんな都合のいいことはないんだ。俺の封印も解けるし、オヤジが倒れた日にゃあ、 俺が晴れて魔界の王になれるんだからな。  それに、俺は、マリーちゃんに正真正銘惚れてるんだ。だからこそ、魔界で王ヅラ して、どっかり居座らずに、ここに、こうして、人間なんかの奴隷にまで成り下がっ たんだ。  好きでなきゃあできないぜ、こんなことは。血のつながりだけじゃあ、こうはいか ない。とにかく、お前ら人間には理解出来なくとも、俺様の中では、筋が通ってる ことなんだよ」  ケインとカイルは、彼のまるで筋の通らない理屈を、ぽかーんと口を開けて聞き、 わかったようなわからないような顔になっていた。 「ミュミュ、ジュニアの言ってること、わかるよ。この人、ウソついてないよ」  ミュミュがテーブルの真ん中で、ジュニアを指さし、皆の顔を見渡した。 「ありがとう、お嬢ちゃん。きみがもっと大人だったら、惚れてたかも知れないな」  フッとニヒルに笑い、ミュミュを見下ろしたジュニアであったが、ミュミュは、 それに向かい、ピッと小さい舌を出すと、すぐにヴァルドリューズの方へと飛んで いった。 「じゃあ、まずは、中原に近くなっちゃうけど、エルマ公国を目指し、その間に、 ジュニアに情報を集めてもらってから、辺境を目指しましょう。こいつの言ったこと がウソだったりしたら、あたしが責任取るわ。だから、とりあえず、今は彼の言う ことを信じましょう」  マリスは皆の顔色を伺いながら、普段よりは遠慮がちに言った。  ケインがそれに頷いた。カイルもクレアも、半信半疑にジュニアを見つめた後、 仕方のなさそうに頷いた。 「次の目的地も決まったんだから、もういいでしょう? 今日はパーッと遊ぼうよー。 せっかく祝日になって、みんなもこうして揃ってるんだしさー。お祭り行こうよー、 お祭りー! 」  ミュミュがヴァルドリューズの手の上に乗っかり、遊びたくてしょうがなさそうに、 羽をぱたぱたぱたぱたさせた。 「悪いけど、俺、先約があるから」  カイルが三つ目のミシアの実を手に取り、何気なく言った。 「どうせ、また女の子なんでしょう」  クレアが横目で呆れたように彼を見る。カイルは口笛を吹いて、あさっての方を 向いていた。 「ケインは全然デートしたことないよね」  からかうように、ミュミュがケインの上で旋回する。 「はいはい、どうせ、俺は仕事ばっかしてモテませんよ~」 「だから、たまには遊びなよ。カイル以外は、お祭りに行けるの? 」 「あたしも、人と待ち合わせてるから」マリスが立ち上がった。  さっと、ケインとジュニアがマリスを見る。 「ねえねえ、それって、女の人? 男の人? 」ミュミュが好奇心に瞳を輝かせる。 「男の人よ。広場の泉のところで会うことになってるの」  といったマリスの服装は、皮の少年服であり、デートとは程遠く見える。  立ち上がったマリスは、驚いた顔のケインとジュニアには気付かず、そのまま部屋 を出て行った。 「そんな! 本当に男と会うのかい!? 待ってよ、マリーちゃん、俺、そんな話、 聞いてないよー! 」  ジュニアは慌てて後を追って出て行った。 「さーて、それじゃあ、そろそろ俺も行くかな」  何事もなかったように立ち上がったカイルは、出口に向かうが、突然立ち止まると、 腹を押さえ、慌てて出て行った。  彼のいたテーブルの上には、ミシアの実、五、六個分の皮が散乱していた。 (そりゃあ、腹も壊すわ。食い過ぎだってば……)  ケインは内心呆れていた。


トアフ・シティー

 残った三人とミュミュで露店を見回り、安くなっていたインカの香を購入した ヴァルドリューズが立ち止まった。 「では、私はここで失礼する」  ケインとクレアは、驚いて彼を見上げた。 「えーっ! お兄ちゃんも、行かないのー? 一緒に行こうよー」  ミュミュが残念そうな声を上げた。 「せっかくですから、ヴァルドリューズさんもご一緒に」  クレアも両手を組み合わせた。 「私は祭りなどに興味はない。インカの香を手に入れることが目的。図書館で調べ ものがある。なので、今日は、若い者同士、楽しんでこい」  ヴァルドリューズは珍しく微笑み、背を向けて、行ってしまった。 「えーっ! お兄ちゃんがいないんじゃ、ミュミュ、つまんない」  ミュミュはぷわぷわ浮いていたが、フッと消えた。 「なんだよ、自分がお祭りお祭りって騒いでたくせに。しょうがないなー、ミュミュ のヤツは」  ケインは、ミュミュの消えた辺りを見ながら、呆れたように笑った。 「じゃあ、二人で行くか? 」  ケインが軽く言うと、しばらく考えていたようなクレアが、顔を上げた。 「やっぱり、私も図書館へ行くわ。師匠が勉強してるのに、弟子が遊んでるわけには いかないもの」 「……だよな」  一人取り残されたケインは、なんだかちょっと淋しく思った。  そこへ、ケインにだけ、ヴァルドリューズの声が聴こえてくる。  ケインの表情が徐々に引き締まり、駆け出していった。


ライン緑

「なかなかやるじゃないの」  森の中では、相手の拳を腕で防御し、払いながら、マリスは言った。 「今までのファイターたちに比べたら、一番マシかもね」  にやっと笑ったマリスに、相手は真面目な、怒ったような顔で返す。 「当たり前だ。俺は格闘一筋だからな。そこらへんのシロウトと一緒にするな」  相手の男ーーダイは、マリスの手首を掴み、引き寄せた。マリスはよろけること なく、その場に留まり、両者睨み合いとなった。 「待て! 」  ダイがゆっくりと首だけ振り向いた。 「なんだ、貴様か、ケイン・ランドール。何をしに来たのだ? 」  マリスも目を見開いてケインを見る。 「そんなことやってる場合じゃないんだ、マリス、早く一緒に戻るんだ。手を放せよ、 ダイ」 「ふん、俺との勝負を受けない弱者になど、命令される覚えはない」 「なに? 俺が、いつ勝負を受けないと言った? 」 「ついこの間、話を反らしたではないか! 」 「……そんなことあったっけ? 」 「思い出せないのなら教えてやろう! この女の働く店で、お前と再会した時、 その伝説の剣を賭けて、俺と勝負しろと言ったのに、貴様はロクに返事もしなかった ではないか! 」 「……ああ、そう言えば」  ケインは、そんなことはすっかり忘れていた。というより、その話には、本気で 取り合うつもりはなかったのだった。 「とにかく、手を放せって言ってるだろ。ストリート・ファイトはもう終わりだ」 「こらっ、何をするのだ、ケイン・ランドール! 」  ケインが、マリスの手首を掴んでいるダイの手首を、上から掴む。ダイは呻くと、 手を放した。 「いててっ! ちっ、この馬鹿力が! 今度こそ、その伝説の剣を賭けて、俺と勝負 するんだぞ。この俺から逃げられると思うなよ、卑怯者め」  憎々し気に、ダイは、自分よりも身長の高いケインを見上げ、睨んだ。 「は? 俺がか? 俺は別に逃げてないけど? 」 「ふん、いつまでたっても、この俺と勝負しないではないか」 「なんなら、今度じゃなくても、今でも構わないけど? 」  けろっとしている顔のケインから、視線を反らさずに、ダイは、一歩後ろに下がった。 「いや、今度でいい。忘れるな! 」 「……」  ケインもマリスも、黙ってダイを見つめる。 「おいっ、てめえ、マリーちゃんをイジメるなよ! 」  そう言いながら、突然ダイの隣に現れたのは、ジュニアだった。  意表をつかれたダイが驚いて飛び退(の)く。 「なっ! なんだ、貴様はっ! 魔道士か!? 変な術など使って、いきなり出て きやがって! 」 (明らかに、登場が遅いぞ、ジュニア。お前、俺が来たから、安心して出て来たんだ ろ? )  ケインは、横目でジュニアを見る。  ジュニアとダイは、わあわあと捲し立て、子供のように言い合っていた。 「マリス、早くヴァルのところに戻るんだ。ジュニア、俺たちを運んで、空間移動 してくれ」  ケインがマリスの腕を掴んだ時であった。 「もう遅いみたい」  マリスが油断なく、辺りの様子を伺っている。  ケインにも、目の前のジュニアたちと自分たちの間に、水の膜でも出来たような、 現象を目の当たりにした。  二人には、ケインとマリスの声は聞こえていない。異様な雰囲気にも気が付いて いない。 「危ないっ! 伏せて! 」  マリスがケインに飛びつき、そのまま飛ぶ。  途端に、どおおんという地響きとともに、二人のそれまでいた草の生えた地面は、 炎に包まれた。 「何者っ! 」  マリスが、ある一点を見つめた。  ぼわっと空気が揺れ、そこには、黒い人影が現れた。 「お久しぶりですな、王女。やっとお会いできましたね」  重苦しい声が、いんいんと樹々の間に広まった。 (くっ、ジュニア……! )  ケインがジュニアを見るが、ダイと言い合いをしている姿は、徐々に黒い靄(もや) となり、消えていく。  ケインたちのいる辺りも、もともと薄暗い森が、一層暗くなる。  彼はその時、偶然マリスの腕を掴んだのが幸いして、自分も、こちら側ーーつまり、 相手の結界の中にいられたのだと知った。  マリスが、不敵な笑みになる。 「本当に久しぶりね。一年以上経つかしら」 「正確には、一年と半年二十三日ぶりということになりますな」  マリスが小さく舌打ちする。 「相変わらず、細かいヤツ! 」  黒い影の顔は、既にはっきりと見えていた。  その年配者のような声は想像を裏切り、外見は意外に若く中年くらいの、冷たい 青い瞳の男であった。白い面に、黒く長い直毛、そして、その額には、見慣れた赤い ルビーが光っていたのだった。 「そちらの青年は、初めてお目にかかりますな。わたくしは、この度、王女探索の命 を受けて、ベアトリクス王国から参った宮廷魔道士、ザビアンと申す者にございます。 以後、お見知りおきを」  ザビアンと名乗った魔道士は、ケインに向かい、深々とお辞儀をした。 (こいつが、ヴァルが言ってたベアトリクスの魔道士団……! )  ケインの目が鋭くザビアンを見据える。 「さて、王女殿下」 「あたしは帰らないわよ」 「そうですか。やはり、お帰りにはなりませんか」 「当たり前でしょ」 「では、強制送還するしかありませんね」 「それも、真っ平ごめんだわ! 」  マリスが言うと同時に、ケインはマスター・ソードを抜き、彼女の前に出た。  魔道士の、彼を見る目が、細められた。 「ほう。あなたも、我々に刃向かおうというのですか。身の程知らずな。我々ベアト リクス魔道士団の実力がわかっておらんのでしょう。女王様からの指令は、王女を 連れ帰ることのみですが、邪魔立てしようというのであれば、容赦は致しません」  魔道士ザビアンの背後には、ポツポツと黒い影が現れ、一〇人の小柄な痩せた 魔道士の姿へと変わっていく。 「ヴァルがこいつらの気配を察して、俺に『心話』で教えてくれたんだ。ここは、 俺がなんとか食い止めるから、マリス、なんとか逃げるんだ。そして、ヴァルに 知らせるんだ」  振り返らずに、ケインが小声でマリスに言う。 「おやおや、いきなり逃げる相談ですか? これは意外ですね。しかし、残念ながら、 ここは、既に私の結界の中。森の外に出たり、逃げることなどは不可能ですよ」  ケインは、あえて舌打ちしてみせた。だが、彼には策があった。 (バスター・ブレードは空間を裂くことも出来る。なんとか奴等の隙を突いて結界を 破ったら、マリスだけでも脱出させよう)  フェルディナンド皇国の紅(くれない)通りで出会った、蒼い大魔道士の結界をも 破った背中の剣を頼りに、ケインは慎重にマスター・ソードを構え直した。 「よいか、王女は生かして捕らえるのだぞ。青年は、邪魔なようなら殺しても構わん」 「御意」  ザビアンが、手下の痩せた魔道士たちに命令する。彼らは、じりじりと、二人に 近付き、そのうちの一人が、てのひらから炎を放った。  それを合図に、残りの九人も次々と、ケインに向け、赤い炎を発射させる。  待ってましたとばかりに、マスター・ソードがそれらを簡単に吸収した。  次に彼らが放った電撃技も、同様だった。  ひとりの魔道士の姿が、ひゅんと消えると、ケインの目の前に現れ、氷の塊が、 まるでいくつもの剣のように伸び上がった!  ガシャッ!   キーン!   マスター・ソードに受け止められた氷の剣は、ケインの身体に触れることなく、 パキパキと折れていく。  いつの間にか、マリスがケインの後ろから飛び出し、魔道士のひとりに飛び蹴りを 喰らわせた。 「武器も持たずに、ムチャすんな、マリス! 」  ケインには三人の魔道士が、交代で呪文攻撃を浴びせる。  彼は、剣で魔法を防ぎ、蹴りや拳で反撃するという、いつもの戦法で迎え撃つ。  マリスに氷の魔法で攻撃する魔道士がいた。氷は、ケインに向けられた鋭いもので はなく、波打ち、彼女に向かって伸びていった。  マリスは側転を連続してそれを避け、呪文を唱えている途中の魔道士を盾にした。  盾にされた魔道士は波に飲まれ、あっという間に氷の岩に閉じ込められてしまった。  捕獲が目的であったので、身代わりとなってしまった魔道士も、死ぬことはないと 読んでのことだった。  ケインにまとわりついている魔道士たちも、彼を殺そうというよりは、彼の注意を 自分たちに向け、マリスから遠ざけようとしている。  心配するケインをよそに、マリスは水を得た魚のように、華麗に飛び回っていた。 「どうやら、貴様の剣には、魔力がかかっているようだな」  じっと戦況を見守っていたザビアンが、目を細める。 「この剣の正体を教えてやろうか? 」  剣の柄を掴み直して、ケインの目が笑う。  同時に、マスター・ソードを一振りすると、剣先からは真っ赤な炎が吹き出し、 地面すれすれにうねりをあげていく!   炎は、マリスの周辺にいる魔道士三人に当てられ、彼らは、たちまち火ダルマと なってのたうちまわった。他の魔道士たちの、即座に唱えられた呪文によって消火し、 また傷も癒される。  それがわかった上でのケインの攻撃であった。命を奪うほどの強力な技ではなく、 魔道士の攻撃のタイミングを減らすのが目的だった。  彼は、魔道士団に、マリスを引き渡さなければいい、とだけ思っていた。隙を見て 結界を破り、彼女を逃がせばいい、と。 「なるほど。ただの魔力をかけた剣ではなさそうだな。魔法剣か? 」  ザビアンが冷淡な青い瞳の表情も変えず、問いかけた。 「魔法剣じゃない。正義の剣、マスター・ソードだ」 「マスター・ソード……だと!? 」  ザビアンの瞳が、初めて見開かれた。  部下の魔道士たちにも、すぐさま動揺が現れ、攻撃の手が止まった。 「そのようなことが……まさか、本当に……! 王女と、マスター・ソードの使者が、 ……手を組んだというのか……! 」  彼らの驚きようは、ケインには思いもよらなかった。  マリスも彼の後ろへ戻って来ていた。二人は、少しずつ、彼らと距離を取ろうと、 そうっと一歩ずつ、下がっていく。 「マスター・ソードは、『正義の剣』であるはずだ。数百年に一度しか、その使者は 選ばれず、正義を貫き悪を倒すーー確か、そのような目的に使われる剣であったはず だ」  ザビアンが、じっとケインを見据えた。 「なのに、なぜ、王女に味方する? その女は、見たところまだ少女だが、……我が 女王陛下に謀反を企て、そのお命ですら奪いかけた、極悪非道の性悪娘なのだぞ! 」  ザビアンが、ケインの後ろにいるマリスを指す。 (……マリスが、……女王を殺そうとしただって!? )  思わずケインは、首だけマリスを振り返った。  マリスには動揺は見られない。冷静な表情のままだ。  だが、紫の瞳は、僅かに細められた。  その瞳に込められた真意は、傍(はた)からは読み取れない。


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