Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅲ.-2〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月赤ライン  Ⅲ.『点と線』 妖精緑アイコン1 ~ 魔道士の男 ~  剣月赤ライン

「ケイン、ケイン……! 」  ゆっくりと、重い瞼(まぶた)を押し上げたケインの顔の上には、心配そうな顔で、 はばたきながら、彼の頬を揺すっていたミュミュがいた。 「……あれ? ミュミュ、どうしたんだ? 」  ケインは、野宿している寝袋から、ゆっくりと身体を起こし、伸びをした。 「何度起こしても起きないんだもん。それに、うなされてたよ」 「うなされてた? 俺が? 」  ミュミュは、こくこくと何度も頷いた。 「こわい夢でも見たの? 」 「こわい夢? そんなの見たかなぁ? 」  ケインは欠伸(あくび)をすると、いつも寝泊まりしているその野原に、自分たち 以外誰もいないことに気付く。 「クレアも、ヴァルのおにいちゃんも、いつもの食堂に食べに行っちゃったよ。 みんなも、もうそろってたけど、ケインがなかなか来ないから、ミュミュ迎えに来た んだ」 「そっか。結構、眠ってたのか。そんなに疲れてた覚えはないんだけど……」  どこか腑に落ちない様子で、ケインは寝袋をたたみ、ミュミュを肩に乗せ、朝食を 摂りに出かけた。 「よお! 珍しく寝坊か? 」  食堂に着くと、ケインに気付いたカイルが、大テーブルの、自分の隣席に招いた。 もう片方の隣にはマリスが、その隣にはジュニア、ヴァルドリューズ、クレアの順に、 ぐるりと座っている。 「お前と昨夜話してた通り、今夜からは宿に泊まることになったぜ。俺も、いい加減、 柔らかいベッドで寝たいしさ」  この数日、博打で勝ち続けているカイルは機嫌が良かった。  隣でスープを啜っている手を止めたマリスも、口を開いた。 「昨日はインカの香をわざわざありがとう。おかげで、ここのところ、ちょこちょこ 見る悪夢からは、昨日は解放されて、よく眠れたわ」  マリスは、ほっとしたような笑顔になった。 「悪夢だって……? 」  ケインが怪訝そうにマリスを見直すと、マリスは、自分の隣で、拾って来た 黒カエルを手掴かみで食べている魔界の王子に、目だけを向けた。それで、ケインは、 それがジュニアの仕業らしいとわかった。  何の気なしにカエルを頬張ったジュニアが、パンをかじって、ミルクのツボを傾け るケインを、ふと見ると、テーブルに乗り出し、じーっと見入った。 「なんだよ、ジュニア。俺の顔に、なんか付いてるのかよ? 」 「……夢魔の匂いが微かにする」  ジュニアが言った。 「夢魔!? 」  ミュミュが、びっくりしたように、テーブルの上で、ぴょんと飛び上がる。  ケインが不思議そうに、ジュニアとミュミュを見る。 「夢を食べる動物だよ。魔族の中でも、ちびエルフみたいに自然派のヤツでさ、魔界 でも、人間界に一番近いとこにいるから、きまぐれで、たま~に現れたりするのさ。 ああ、さては、ケイン、夢食べられちゃったんだろう? 」  ジュニアが意地悪そうに、ヘテロクロミアの瞳を歪めてみせた。 「悪い夢を食べられちゃったんならいいけど、いい夢だったら大変だよ。いい夢が 減っちゃって、そのうち、悪い夢しか見れなくなっちゃうんだよ」  ミュミュが心配そうな顔をして、ケインを見上げた。 「う~ん、昨日、夢なんか見たっけ? 」  思い出そうとするケインであったが、何も思い出せそうにない。 「ほ~ら、やっぱり食われたんだ。だから、思い出せない」  ジュニアが食べかけの黒カエルを、ぶんぶんとケインの目の前で振った。 「気色悪いなぁ。やめろよ」  言いながら、ケインは、不思議な感覚に、一瞬捕らえられた気がした。 「……そう言えば、なにかしら夢を見たような気がする」  と、宙を眺めながら、うすらぼんやりとした記憶を辿る。 「……なんか、不思議な、夢とも、そうでないようにも思えたんだ。……そうだ、 女の人がいた」  それまで食事を続けていた者までが、手を止め、彼に注目した。 「色が白くて、切れ長の緑色の瞳に金色の髪……やたら赤い唇が印象的だった。 ……そんな人が現れて、その後がよく思い出せないんだけど……」 「ケインが女の夢をねえ。……ああっ!? 」  カイルが突然大声を上げたので、ケインも、一行も驚いた。  ケインの襟元を掴んだカイルは、襟を開けた。 「何すんだよ! 」 「お前、これ……口紅(ルージュ)じゃねえの!? 」 「ええっ!? 」  ケインが驚いて自分の胸元を見下ろすと、確かに、赤々と、はっきりとした 唇の形の赤い跡が、鎖骨と胸にいくつも付いていたのだった。 「こんなの、いつの間に……? 」  一行も驚いて、彼の胸元を覗き込む。  彼は、咄嗟に隣のマリスを見た。マリスも目を丸くしている。 「こいつぅ! さては、昨日、俺と酒飲んだ後、誰か女引っかけたんだろー?  お前も、なかなか隅に置けないな! 」  カイルが彼の首を抱え込み、じゃれ始めた。 「知らないよ! 俺は、あの後、普通に帰っただけだよ! 」 「珍しく寝坊したのは、そういうわけだったのかあ! 随分と情熱的な女だったんだ なあ! やるじゃねーか! 」 「違うって! 」  ケインが必死に言い訳するのは、マリスに当ててであった。彼女にだけは、誤解 されたくなかった。  だが、必死の面持ちでマリスを見る彼には、彼女は、単に物珍しそうに自分を見て いるだけで、少しでも不快に思っている様子は感じられない。  それが、彼の言い訳を信じていないから、というようには見えなかったのは、 ケインにとっても救いであったが、かといって、妬いているようにも見えず、それに 対して、がっかりしている自分にも気付く。  彼女に、ほんの少しでも希望を抱くのは、甘い考えだと、すぐさま、彼は悟った。 「これ、取れないよ。ヘンだよ」  ミュミュが、ケインの鎖骨をぺたぺた触って言った。 「ほ〜らな、やっぱり、夢魔の仕業だぜ」  得意気な笑みを浮かべたジュニアが、カエルを口に入れ、騒動に幕を降ろした。


ライン緑

 腑に落ちないままのケインであったが、一行は、そんなことなどすぐ忘れ、もう 話題にすることもなく、朝食後は、さっと宿を決め、荷物を運び入れた。  その際に、宿屋の主人が言う。 「お客さん、もうすぐ朝礼が始まる。悪いけど、あんたがたも出てくれないかね? 」 「なんだよ、それ? 町の仕来(しきた)りだかなんだか知らねえが、よそモンの俺 たちには、関係ねえだろ? 」  カイルが肩をすくめた。 「いや、今、この町にいる者全員に、お達しがあるそうなんだよ。だから、旅人にも 出てもらいたいんだと」 「……ったく、しょうがねえなあ」  カイルは、皆にも、肩をすくめてみせた。皆も、不思議そうに、顔を見合わせて いた。


トアフ・シティー

「……ということでして、えー、我が町内での細かな行事その他のことは、引き続き、 町長であるこのワシが行い、あー、領主様に納めて頂いていた年貢は、祭司長様に お願いすることとなりました。えー、つきましては――」  街の広場には人々が集まり、正面には、小太りな初老の男が、木をくり抜いて 作った拡声器を手に、もたもたと喋り、一行は人混みの後ろから、要領の悪い、 長い話を聞いていた。  町長が下がると、今度は、真っ白な法衣をまとった、祭司長と紹介された老人が、 進み出る。その横には、対照的な、黒いマントの、中背の痩せた男が立っている。  祭司長は、いちいち言葉を区切り、語尾を強めて話す癖があった。そのため、 祭司長という物々しいイメージよりも、威勢のいい商売人の爺さん、といった方が ふさわしいと、一行には思えた。 「……と、いうわけでぇ、領主様代行は、祭司長であるこのワシが行う。年貢を納め る期日なぞは、今までと、一緒で、良い。そして、今日は、その記念として、祭日と する。商人たちは、前もって知っとるので、準備は整っておるぞ。今日は、存分に 楽しもうぞ! 」  町民たちの歓声が上がった。 「へー、そりゃあ、いいことだ」  カイルが嬉しそうに、隣のケインに言った時であった。 「なお、その収益金の六十五%は、ワシが預かり、年貢と神殿の基金とする」  町民たちがざわついている中、一行には、かすかに、その祭司長の声が聞き取れた。 「……あいつ、実はセコいな」 「職権乱用だよな。ほんとに、祭司長か? 」  カイルとケインは、呆れた顔になっていた。  周りの歓声でかき消されていたが、祭司長の紹介で、隣の黒いマントの男が進み 出る。祭司長は、拡声器を、男に手渡した。  男は、冷たい目で町民たちを見回してから、拡声器を口元へ運んだ。 「お初にお目にかかる。諸君、私は、魔道士の塔本部から派遣された、ドーサという 者だ」  男は、マントの中から、てのひらほどの、紫色をした平たい石を取り出し、皆に、 ゆっくりと見せた。  魔道士たちの使う、ルーナ文字というものを、模様化した銀色の刻印が、されて いる。 「『魔道士の塔』の印だわ」  クレアが、マリスと頷き合ってから、ケインたちに耳打ちした。  魔道士ドーサは、手にしていたものを懐に戻してから、先の平坦な口調のまま続け た。 「今回、私がこの街へ来たのは、諸君への忠告のためだ。まず、諸君の領主であった ものの敷地、あそこにある森は、妖魔が棲み着いている。火を放って、完全に燃やし てしまった方が、良いだろう。その作業は、即刻やり給え」  ドーサは、横柄な物の言い方であった。  一見、中年くらいの年齢だが、眉間に刻まれた縦皺と、こけた頬に、鋭い目付きが、 一般的には悪人面に見えてしまう、損な外見であった。  加えて、横柄な命令口調は、魔道士ではない他の普通の人間を、見下しているよう にも取れてしまうため、祭日を喜んでいた時とは一変し、町民の間からは、口々に 文句が出ていた。 「なぜ、そんなこと、あんたに命令されなきゃ、なんないんだ! 偉そうに! 」 「そうだ、そうだ! 魔道士の塔が、この街に何の用だ!? 帰れ、帰れ! 」 「妖魔がいるというのがわかってるんなら、魔道士であるあんたが倒してくれたら、 いいじゃないか! 」  そう喚(わめ)く声がした時、ドーサの口の端が、片方だけ、吊り上がった。 「この私が、自ら、妖魔に侵されたあの森を、焼き払ってやっても良い。だが、 ……高くつくぞ」  町民たちは、一瞬のうちに、静まり返った。  そのドーサの表情を見れば、彼は、はったりなどではなく、確かな腕を自負して いるのが、一目でわかったからであろう。  そんな中で、ケインは、「ああ、魔道士の塔は、やっぱり、噂通りがめついのか なあ」と、呑気に考えていた。 「すぐに優秀な戦士や魔道士を募り、領主の森に向かわせた方がよいだろう」  ドーサに言われた町長の小太りな男が、ぺこぺこしながら、また前に出る。 「えー、というわけで、あー、今のお話にもあったように、うー、この街にいる勇敢 な者たちは、前に出て来てくれぬかのう。あー、町民でも、そうでない者でも構わぬ」  再び、もたもたと、町長が喋り出した。 「あのドーサってヤツ、森を焼き払うのはついでで、実は、ヤミ魔道士を調べに来た に違いないわ。あたしたちは、知らん顔してましょ」  マリスが、一行をさっと見回して言い、彼らも頷いた。 「その話ぃ、あたしたちが乗りますぅ~」  甲高く、可愛らしい、甘えた声に、そこにいた者は振り向いた。  二人の女が抱き合い、ふーっと飛んで来て、舞い降りる。  ひとりは背の高い、露出度の高い黒い衣装に、長い黒髪。腰には、細い剣を差して いる。もうひとりは、セミロングの、ふわふわしたブロンドを、両側で真っ赤な リボンで結っている小柄な少女。 「スーにマリリンだわ……! 」  クレアが呟く。  まさに、その二人であった。 「おお! あなたがたは、賞金稼ぎの常連でいらっしゃるな!? いやあ、あなた がたであれば、安心して任せることができますな! 」  町長の面は輝き、それまでとは打って変わって流暢な喋り方となった。  一行には、例の二人は、この街の出身であるだけあり、町民の信頼を集めている ことが受け取れた。 「その代わり、もらうモンは、もらうわよ」  スーが豊満な胸の前で腕を組み、町長や祭司長を見下した。  街の長からすると、魔道士の塔の男に頼もうが、彼女たちに頼もうが、どちらに せよ、高くつくには変わりはなかっただろう。 「行きましょ。あたしたちには関係ないわ」  マリスが呆れた声を出し、一行は、人混みをすり抜けていった。


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