Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅱ.-2〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月緑ライン  Ⅱ.『魔道士の塔の魔道士』 妖精緑アイコン2 ~ 『魔道士の塔』の魔道士 ~  剣月緑ライン

「何もそう固くなることはない。ヤミ魔道士どもを取り締まっている連中なら、他に いる。従って、今、お前を捕えようと言うのではない。そちらの態度によっては、 事態は変わってくるが」  黒い魔道士の姿は、抑揚のない言葉でヴァルドリューズとケインに語りかける。  周りの人々は、彼らには、まるで気が付かないように、通り過ぎていく。  ケインとヴァルドリューズ、その魔道士を囲んで、何か球状の薄いものがあるよう に、ケインには見えた。  それは、既に、ヘイドの結界の中に、二人がいるということであった。 「ベアトリクスの内輪もめや、ラータン・マオの事情などには興味はない。あれらの 大きな国々には、時々起きることではあるのでな。だから、私には、お前と、ベアト リクス王女のことを、今さら二国に告げるつもりはない。その点では、安心してもら いたい」  ベーシル・ヘイドは、続けた。 「今回、『魔道士の塔』上層部員である私が、供(とも)も連れずに、ひとりわざわざ 出向いたというのは、ある重要な任務のためだ。  お前も知っていよう。トアフの領主の不吉な噂を。最も、その噂とは、『魔道士の 塔』においても、ごく一部にしか伝わっていないものであったが」  ヴァルドリューズの目が、僅かに細められた。  ケインは、黙って、二人の魔道士を、注意深く見つめる。 「『魔道士の塔』では、領主の企みを調べようと、調査団を派遣した。まだ下級の 魔道士たちであったせいか、彼らでは詳しいことまでは調べることが出来なかった。 彼らよりも優れた魔道士による結界に、近付くことさえできなかったのだ。  だが、それでも、ひとりだけ通信してきた者によれば、城の中では、ただならぬ、 恐ろしい試みが行われているということだった。  それだけ、念波を送ってくると、以後、彼らからの、宝玉を通じた通信は途絶え、 消息もわからなくなってしまった。  ヤミ魔道士の存在もおぼろげに察知していたこともあり、以来、『魔道士の塔』 では、この件に関しては、徹底的に調査をしようということになったのだ。その矢先 であった」  黒いマントの裾が、風もなくふわりと舞う。 「領主の城は燃やされ、既に倒されたらしい妖魔の黒焦げの死体と、僅かながら魔道 士同士の戦いの跡が見られた、と報告があった。  それは、勿論、魔道士ならではの調査によるものであって、普通の人間には、 わかる術(すべ)とてない。  領主の裏についていたヤミ魔道士ですら、かなりの上級者だったにもかかわらず、 そやつを上回る力を持つ魔道士の存在もあったとなれば、並の魔道士では難しいと 上層部では判断し、『魔道士の塔』の中でも、極秘に、私が直々調査を行うことと なったのだ」  魔道士が少し顔を上げる。 「ところが、いざ、こうして来てみると、どうだ。ベアトリクスが血眼(ちまなこ)に なって探しているというあの王女に、ラータンを離れ、『魔道士の塔』からも外れた、 優秀な魔道士であったお前までもが、ここにいた。  お前たちが、あの領主どもにかかわっていないはずはないだろう。領主と組んで いたヤミ魔道士を倒したのは、お前だな? ヴァルドリューズ」  ヴァルドリューズは、ゆっくりと頷いた。 「やはりな。お前の能力は、未だ健在ということか。ならば、余計な争いはしたくは ない。そちらの知っていることだけを、素直に教えてもらいたい。その代わり、お前 の欲しい情報も、出来る範囲で教えてやらないこともない」  『魔道士の塔』上層部員だというヘイドは、一層、声の調子を落とした。  階級はもちろん、その腕前も、魔道士の中ではトップクラスであることだろう、と ケインにも感じられた。  隣にいるヴァルドリューズでさえ、めずらしく警戒しているのが、碧い瞳に現れる。  だが、それほどの相手でありながら、男の方も、ヴァルドリューズとの一触即発を 避けたいというのは、ヴァルドリューズの実力をよくわかっていると見えた。  そのような両者の間には、互いの腹の中を探るように、しばらく沈黙が流れていた。  ケインが話を聞く限りでは、例のジョルジュと名乗っていたヤミ魔道士は、相当な 強者(つわもの)であった。  彼とヴァルドリューズの戦いを、実際は目にしていないケインとしては、普段の ように、ヴァルドリューズの圧勝だとしか思わなかったが、相手が厄介な魔道士で あったにもかかわらず、最後は自害にまで追い込んだ彼の実力は、ヘイドのような ベテランの魔道士とあっても、一目置いているほどであったのか。  魔道の世界には詳しくないケインですら、ヴァルドリューズの力には、改めて感心 した。 「そちらの条件を飲もう。領主とヤミ魔道士の企みは、この先、世界に大きな影響を 及ぼすだろう。『魔道士の塔』にも、早めに伝えておいた方がいい」  先に口を開いたのは、ヴァルドリューズであった。 「それが賢明だ」  ベーシル・ヘイドは、僅かに安堵をその口調にはらませる。 「では、さっそく、領主どもが何を企んでいたのかを、聞かせてもらおう」  対して、ヴァルドリューズが、重々しく語り始めた。 「領主は妖魔に食われ、一見、人間に近いが魔物であった。それに仕えていたのが、 『魔道士の塔』でもお尋ね者としていた、ヤミ魔道士のジャクスターだった」 「ほう……! ジャクスターのヤツであったか。きゃつは、なかなか厄介な存在で あった。それを、お前が倒したというのだな? 」  ヴァルドリューズは頷くと、話を続けた。 「彼らは、中級以上のモンスターに賞金を賭けていた。各国の賞金稼ぎから集めた 魔物を、食用の肉に混ぜ、良質の肉と偽り、または、さまざまな品に変えて、世間に 流出していた。  それを口にした人々は、特に症状の現れなかった者がほとんどだったというが、 やがて後遺症が出始め、大半が魔物化してしまった。  だが、中には、魔物化せず、代わりに、特殊な能力を身に付けた者がいることが 判明した。ジャクスターらは、そのような人間たちを、欲しがる謎の組織に、彼らを 売り渡していたそうだ。  私たちは、仮に、その組織を『暗黒秘密結社』と、特殊能力を身に付けた人間を 『デモン・ソルジャー』と名付けた」 「暗黒秘密結社に、デモン・ソルジャーだと――! 」  ベーシル・ヘイドの姿が、一瞬揺らめいた。 「そのような世にもおぞましい、非人道的なことが行われていたとは――!  たかが妖魔が、そこまで……」 「私が見たところによると、領主を騙(かた)る妖魔は、若い女性を喰らうことくらい にしか関心はなく、魔物を加工し、謎の組織ともつながりがあったのは、むしろ ジャクスターの方だったと言える」  ヴァルドリューズの淡々とした返答に、黒い魔道士は腕を組み、少しの間、沈黙 していた。マントの中の黒ずくめの服装らしく、組まれた腕も、黒い生地に覆われて いる。 「その組織の情報は? 」  ヴァルドリューズは首を横に振る。 「ジャクスターが自害したので、そこまでは聞き出せなかった。今のところ、その 組織を匂わすものは、我々の前には、現れてはいない」  再び、沈黙が続く。  やがて、ベーシル・ヘイドが、ゆっくりと頭を起こした。 「重大な話であった。打ち明けてくれて、感謝する」  相変わらず、抑揚のない言葉だったが、ひとまず、ケインは安心できた。 「礼として、そちらの知りたい情報を、限られた範囲ではあるが、提供しよう」  魔道士の言葉に、ケインはヴァルドリューズを見上げた。 「お聞きしたいことは、今のところはない」 「なんと、謙虚な奴だ。今の話では、その方面に関しては、お前の方が詳しいので、 仕方はないが」  ベーシル・ヘイドは、少しだけ、親しみを感じさせるような口調になった。 「ならば、忠告だけしておいてやろう。お前は、例の王女と組み、なにやら得体の 知れないものを召喚しているそうだな。しかも、それが、禁呪であるという噂も入っ てきている。  『魔道士の塔』では、ベアトリクスやラータンの件に関しては一切無縁ではあって も、禁呪となると話は別だ。ヤミ魔道士とされている上に、禁呪まで使用していると なると、『魔道士の塔』も黙ってはいない。  近々、調査団を世界各地に送り込み、この際、ヤミ魔道士を一掃しようという話も 出ている。相手がヤミ魔道士であれば、我々の間の『魔道士の誓い』にもある 『魔道士同士戦ってはならぬ』という法を、一部改正してな。  それと、もうひとつ、気になることがある。こちらに来てから気付いたのだが、 王女の側に、いつも潜んでいる黒い影――ヒトの形はしているが、なんとなく違う もののように思える」 (ジュニアのことだ)  ケインは思った。 「魔力だけで見るならば、妖魅どもと大差はないが、水晶球には、黒い不吉な影と しか映らぬ。あれが、何者なのかは、ここでは、聞かずにおこう。聞いてしまえば、 それこそ、お前を野放しにしてはいられなくなるかも知れぬというのでは、今後、 私にとっても、事実『魔道士の塔』にとっても、損なのでな」  ベーシル・ヘイドの口調には、それまでの緊迫感は、感じられなくなってきていた。 「お前のことは、よくわかっているつもりだ。例え、禁呪であっても、悪用すること はないと。私個人としては、できれば、お前を泳がせておき、時々なんらかの情報を、 このように提供してもらえばいいと思うのだが、頭の固い連中は、そうは思わぬ らしい。ヤミ魔道士というと、すぐに目の敵(かたき)にしおる」  彼の声には、僅かに、笑いさえ含まれていた。 「お前なら、『魔道士の塔』の調査団など、敵ではないだろうが、面倒なことには ならぬよう、せいぜい気を付けるのだぞ。  それから、もうひとつ、今度は、そちらの青年にだ」  ヴァルドリューズが、隣を見る。  ケインも、さっと緊張して、ヘイドの、深く下げられたフードに隠れた目の辺りを 見据える。 「世にも珍しい伝説の剣は、ヤミ魔道士に限らず、必ず闇のものと関わるであろう。 彼らの間では、野望を打ち砕くとされているようだ。気を付けるがいい。 では、ヴァルドリューズに青年よ、邪魔をしたな。また会おう」  黒い魔道士の姿は、空気の中に溶け込んでいった。  同時に、行き交う人々は、再び現実のものとなり、彼の結界が解かれたこともわか る。  ケインは茫然と、ベーシル・ヘイドのいた辺りを、見つめていた。 「彼は、私の上司だったのだ。私が、まだ『魔道士の塔』にいた頃の」  ヴァルドリューズも、ケインと同じ方向を見つめたままだ。 「魔道士にしては、なんだか話のわかるおじさんて感じだったな」  ほっとして、ケインは、ヴァルドリューズを見上げた。 「上層部に来るよう言われていたのだが、故郷であるラータンに仕えたいと、断って しまったのだ」 「あの人の言う通り、『魔道士の塔』の上層部に行っていたら、ヴァルは、今とは 違う道を歩み、マリスや俺たちにも、出会わなかったかも知れないんだな……」  ヴァルドリューズは、ケインに視線を移した。  少しだけ、その瞳は和んでいた。 「いや、私は、『魔道士の塔』とは合わなかった。どちらにせよ、抜けていたに違い ない。だから、多分、お前たちとも、出会っていただろう。そうなるように、なって いるのだ」  ケインには、ヴァルドリューズが、少なくとも、彼らに出会えて後悔しているよう には見えなかった。  ケインがヴァルドリューズに微笑む。  ミュミュも、ヴァルドリューズの髪の間から、顔を覗かせて、にこにこと頷いて いた。


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