Book5看板 Dragon Sword Saga5 〜Ⅱ.-1〜
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~ 第5巻『点と線』 ~


剣月緑ライン  Ⅰ.『その後のトアフ・シティー』 妖精緑アイコン3 ~ 資金稼ぎ ~  剣月緑ライン

「いつも、すまないねえ。そんなことまでしてもらっちゃって」 「いいえ」  食後の器を、外のポンプの水で洗いながら、ケインは首を振った。  三歳位の子供が、しゃがんでいる彼の背にぶつかると、そのままよじ上る。 「こら、キエル! お兄ちゃんの邪魔しちゃ、だめでしょう」  大きく張り出したおなかをさすりながら、女性は、やんちゃ坊主を叱るが、彼の耳 には届いていない。 「そろそろ、子供達連れて、散歩に行ってきます」 「ああ、ありがとうね」  洗い物が済んだケインは、よちよち歩きの子供を背負い、キエルの手を引いて、 その家を出た。  出産を控えたまだ若い母親は、縫い物の内職をしていたので、ケインは、街で、 荷物を運ぶ仕事をした後、この女性の二人の子供たちの面倒を見たり、買い物をする 等して、女性の内職がはかどるよう、手伝いをしていた。  背におぶった子の方は、特に泣きもせず、三歳児のキエルの方は、いくらかケイン に懐いてきていた。 「ウマになれ! 」  キエルは、ことのほか、おウマさんごっこが好きであった。  街のすぐ側の草むらで、毛布を敷き、眠ってしまったキエルの妹を降ろして寝かせ た後、ケインは、命令通り、四つん這いになって、彼を背に乗せて進む。  そのうち、原っぱをひらひら飛んでいるムシを追いかけ回したり、穴を掘ったりと、 キエルは勝手に遊ぶようになっていく。  ケインが以前、『バク転』や『空中三回ヒネリ(自称)』をやって見せると、 キエルが非常に喜んだまでは良かったが、「オレもやるー! 」と即座にひっくり 返り、頭を地面に打ち付けそうになったのを、ケインが慌てて止めたことがあった。  間一髪で間に合ったため、後頭部を強打せずに済んだが、以来、真似されると危険 なことはしないよう、ケインも気を付けるようにした。 「おーい、キエル、そろそろ買い物行くぞー」 「やだーい! もっと遊ぶんだーい! 」  三歳児は、ケインの言うことなど、聞きはしない。  が、彼が、さっさと赤ん坊を背負い、移動しようとすると、慌ててやってくる。  常に、このような調子であった。  街に戻り、頼まれていた買い物を済ませたケインは、今度は、夕飯の支度をして いた。その間は、母親が子供達の相手をし、それで、この日の仕事は終わりだった。  翌日も、同じような予定である。  仕事が終わり、皆で寝床として選んだ草原(資金が足りないので、まだ野宿で あった)に戻ると、今度は、クレアとの特訓が待っている。  ヴァルドリューズの提案で始めた、クレアの剣術とケインの魔法防御力を鍛える 訓練は、二週間余り続いていた。  その間も、カイルとマリスは別の場所で野宿をしているのか、未だ、行動は別で あったが、クレアとマリスが同じ食堂で働いていて、完全に行方が知れないわけでは なかった。  カイルは、マリスと、博打屋から、がっかりしたように出て来たり、時々、女の子 と楽し気に歩いていたりするのをケインも見かけていたので、拗(す)ねて出て行った ように見えた彼ではあったが、久しく出来なかった自由な生活を、満喫しているよう でもあった。


トアフ・シティー

 数日後、いつものように、ケインが子守りの子供達を連れ、街を歩いていると、 広場には、大勢の人だかりが出来ていた。 「さあさあ、腕に覚えのある人は、こっちに並んだ、並んだ! 」  聞き覚えのある声に、足を止め、ケインが、離れたところから覗いてみると、中心 にいたのは、カイルとマリスであった。 「よっ、お兄さんたち、いいガタイしてるねえ! どう? 彼女と勝負してみない? 」  カイルが愛想笑いをし、たかっている体格のいい男たちに声をかける。 「おい、本当だろうな? 本当に、その娘に勝ったら、金貨一〇〇枚くれるんだろう な? 」  人相の悪い大柄な男が、脅すように、カイルに言った。 「もちろんだぜ! なんなら、彼女もつけましょうか? 」  じろっと、男はマリスを睨むが、その視線は、上から下までを、何度も往復する。 「見た通り、彼女は、東方出身の謎の美少女だぜ! こう見えても、東洋が誇る数々 の極上の奥義で、天国にも昇る思いを、皆様にお届けすることを、約束するぜー! 」  カイルのセリフに、マリスは横目で彼を見るが、「おおっ! 」と、周囲からは、 感嘆、驚嘆の声が湧く。 「参加費は、たったの銀貨一〇枚! 一〇リブル——安い短剣くらいだぜ! 今なら お得! 勝てば、一〇〇リブに、美少女がついてくるぜー! 」  わらわらと、人々の列が、それとなく出来て行く。 (あいつら、どうやら資金集めは忘れてないようだけど……)  地道に稼ぐのとは、まるでかけ離れていた。  ケインは呆れて、そこから立ち去ろうとしたのだが、既に、一人目と彼女のバトル は始まっていた。  背が高く、大柄ではあったが、野盗とは違う、腕に覚えのあるような一見普通の 町民の男が、マリスに向かい、右拳を突き出す。  彼女は、ひらり、ひらりと、難なくよけると、男の隙をつき腕を取り、軽く背負い 投げた。 「はい、ごくろーさん」  尻餅をついているその男は、何が起きたのかわかっていなさそうであったが、 さっさとカイルに追い払われ、納得がいかなかったのか、列の一番後ろに、また並び 直したのだった。  ケインの見たところ、マリスは加減していて、圧倒的な強さを見せ付けてはいない。  相手に、「なんとなく勝てそうだから、もう一回チャレンジしてみるか」と思わせ る演出なのだろう、そして、それは、おそらく、カイルの入れ知恵だろう、と予測が ついた。 「俺は、今までの奴等とは、わけが違うぞ! 」  数人目の男が、ずいっと進み出る。  筋肉隆々の自慢の腕を、ぶんぶん振り回し、マリスに襲いかかっていった。  それを、さっとよけた彼女は、男の腹に、一発食い込ませた。  明らかに加減しているのが、見ているケインにはわかったが、男は唸(うな)ると、 戦闘不能になった。 「なー、ケイン、いつまで見てるんだよー。揚げイモ買ってくれるって言ったじゃな いかよー」  やんちゃ坊主の声に、ケインは我に返った。  遠目から見ていたつもりが、つい夢中になってしまい、赤ん坊を背負ったケインは、 迷子にならないよう、キエルの手を引きながら、徐々に、見やすい位置へと移動して いたことに気付く。 「シッ、揚げイモなら、後で絶対買ってやるから、もうちょっと待ってろ」  そのままケインが見入っていると、カイルが硬貨の入った革袋を持ち上げ、満足 そうに笑う。  その向こう、人だかりの隅の方に、黒い人影が見えた。  昨日も、どこかで見かけたようにケインには思えたが、ジュニアだろうと、特に 気にも留めないでいた。 「はい、次の方! おおっと、またしても素晴らしい体格の持ち主だー! 」  カイルの声と同時に進み出てきたのは、確かに大柄で、茶褐色の皮膚をした、野盗 のような人相の悪い男だった。 「その前に、にいちゃん、この娘に勝った時の賞金、金貨一〇〇枚ってのは、本当に、 用意してあるんだろうな? 」  顎の無精ヒゲをいじりながら、疑わしい顔を、カイルとマリスに向ける。 (金貨一〇〇枚なんて、絶対にあの二人が持っているわけはない。それがバレれば、 列を作って彼女に挑んだ奴等に、一斉にボコボコにされて……)  ケインの心配をよそに、何の気なしに、マリスが、ジュニアを呼ぶと、魔界の王子 が、パッとその場に現れた。  人々はざわめくが、魔道士か何かだと思ったようで、すぐに動揺は収まった。  ジュニアが手にしていた革袋の中身を、マリスが開いて見せる。  彼の術で、中には金貨が入っていた。  その黄金色の光を認めると、野盗のような男は納得したのか、遠慮なくマリスに 攻撃を開始するが、案の定、すぐに負けてしまった。 (あれっ? )  ケインは、先程の、観客に混じった黒い影を、もう一度、目で追った。  やはり、それは、まだあった。  ジュニアは、カイルの隣で、腕を組んで惚れ惚れしながら、マリスの戦闘を見守っ ている。 (……てことは、あの影は、ジュニアじゃなかったのか? )  黒い影は、そのうち、ひゅんと消えた。  周りも騒いではいない。  魔道士に慣れているこの街では、魔道士がいたところで珍しくもないか、とケイン は思い直す。 「揚げイモー! 揚げイモー! 」  服を掴んで引っ張り、騒ぎ立てるキエルを連れ、ケインはそこから離れた。


アイビーライン
看板
アイビーライン

「よう」  昼はクレアが、夕方はマリスが働く食堂に、ケインは夕飯を食べに来ていた。  子守りの家の主人が、この日は珍しく早く帰ったので、早めに上がれたのだ。  ケインはカウンターに腰掛けると、マリスに、ブタのスープ定食と木の実酒を注文 した。  マリスは、木の実酒のツボを、ケインの前に置く。 「最近、ストリート・ファイトは、どうだ? 結構、稼いでるみたいだけど」 「見たの? 」  マリスは、目を丸くした。 「俺の方も、荷物運びとか、子守りのバイトでちょこちょこ稼いでるから、少しは 貯まってきたよ。そろそろ、宿にも泊まれると思うんだけど、……お前たちも、 そろそろ戻って来て、一緒に泊まらないか? クレアも心配してるよ」 「……クレアの剣の方は、どうなの? 」 「ああ、頑張ってはいるが……まだまだかな」  何かを考えているような彼女だったが、厨房で呼ばれて、奥へ行ってしまう。 「おお、ちょうどカウンターが二席空いているぞ」  入って来た二人連れの客が、ケインの隣の席に着く。 「あっ! 貴様は……! 」  その声に、ケインは、隣の客たちと目が合う。 「スープ定食、お待たせ。いらっしゃいませ。……あら? 」  ケインに定食を運んだ、カウンターの中にいるマリスが、手を止めた。 「おっ、お前は、あの時の、小娘……! 」  ケインの隣の客、黒い短髪の男が、動揺したように、マリスを指さす。  ケインの記憶も、徐々に甦る。 「荒野でマリスとトカゲの肉を奪い合い、オアシスでも絡んで来た、ジャグ族の村 でも出会った傭兵の――」 「…………………………………………………………で、どちらさまでしたっけ? 」  マリスが作り笑顔で、にっこり尋ねる。 「青いジャガーのダイだ! 何度行ったら覚えるのだ! 」  ダイは、黒髪の生え際をピクピクとさせ、マリスを睨みつける。 「やあ、またお遇(あ)いしましたね、美しいお嬢さん。その赤い装束、いつ見ても、 お似合いですよ」  ダイの隣に座っている美青年傭兵が、金髪をかき上げ、マリスに、朗らかに笑い かけるが、彼女は気が付かなかった。 「まあまあ、ダイさんとやら、落ち着いて。ここは、お店の中なんだし、あたしも お仕事中。お話なら、後でゆっくり聞かせてもら――」 「何を悠長なことを言っている! お前が、俺にした仕打ちを、忘れたとは言わせん ぞ! 」  ダイがマリスのセリフを打ち切る。  ケインは、またいつものことかと、構わず、ブタ肉の入ったスープを啜った。 「ねえ、ダイ、そんなことよりもさあ、まずは食べない? 僕、おなか減っちゃった よ」  クリスが、ぽんぽんとダイの肩を叩く。  彼もケイン同様、彼らの争いに興味はないようだ。  そのうち、注文したものが来ると、二人とも、ガツガツと食べ始めた。  ケインは、木の実酒のツボを傾けながら、何気なく、店の中を見回した。  なかなか好印象な食堂だった。  壁にも絵が飾ってあり、テーブルの上にも、一輪ずつ、花が生けてある。  客層も、柄の悪い者などはおらず、どこかの街の商人たちが、寛(くつろ)いでいる 様子も見られる。  そのような小綺麗な店であったので、マリスやクレアが仕事をするのに賛成出来た のだ。  ふと、奥の方の席で、彼の視線が止まった。  テーブルに、ひとりで腰掛けて、ツボを傾けている人物だ。  男は、黒いフードを深く下げているので顔は見えないが、その身なりといい、陰湿 な雰囲気といい、一見して、魔道士であることがわかる。 (昼間見かけた黒い影は、こいつだ! )  ケインの直感は、そう告げていた。 「貴様、聞いているのか! 」  ケインが、隣からする声に気付いて振り向くと、ダイが真正面から見据えていた。 「なんだ? 何か用か? 」 「用か? ――ではないっ! 」  ダイは、ケインの鼻先に、人差し指を向けた。 「その背中に背負っているものは、世にも珍しい伝説の剣だな? 貴様のような冴え ないヤツが、そんなものを持っているとはな。面白いっ! その剣を賭けて、俺と 勝負しろ! 」 「はあ? 」  ケインには、面白くもなんともなかった。 「ダイは格闘マニアだからね。きみ、彼は、一度決めたら、とことんやり抜くよ。 ほんと、シツコイんだから」  クリスが、ケインにも見えるよう顔を覗かせて、あははと笑った。 「お前は、俺の悪口を言っとるのか!? 」  ダイがクリスを振り向いても、クリスは笑っているだけだった。 「それなら、あたしと勝負しない? 」  カウンターの中から、マリスが人差し指を立てた。 「ほほう、やっと、この俺と勝負する気になったか」  ダイが、笑った。 「あたしのいい練習相手になるもの! もし、この人が、そこそこ強かったら、 これからも、あたしの特訓に付き合ってもらうことにしようかしら? 」 「えっ? 」  ケインが目を見開いて、マリスとダイとを見る。 「なんで……? 」 「その方が、ケインだって、クレアにずっと付き合っていられるでしょ? 」  それへは何か言いたげな顔をしただけで、何も言えないでいたケインであった。


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