Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅶ.2〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅶ.『精神バトル』 妖精緑アイコン2 ~ 回復 ~ 剣月緑ライン

『こら、起きろ』 (……ん……? ) 『起きろってば。ったく、しょうがねーなー。ヤナの技をモロにくらっちまいやがっ て。油断するからだぜ』  はっきりしない意識の中で、マリスは、以前もこのようなことがあったような感覚 を覚える。 (……いつだっけ? その時も、やっぱり、あたしは意識を失ってて……)  その時、何かが唇に触れた。  暖かい光が、身体の中に注ぎ込まれていくように感じる。みるみるそれは、足の先 にまでも広がっていく。  次第にはっきりとしていく意識の中で、マリスは、うっすらと目を開けた。 「……!? 」  黄金色の髪をたなびかせた白い顔が、目の前に迫っていた。徐々に、それが何を しているのかも、わかってきたのだった。 「あ、あなた、……サンダガー!? 」  それは、マリスとヴァルドリューズが召喚する時のような、金色の甲冑ずくめでは なく、まだベアトリスにいた時の、正確には、マリスの意識の中で、初めてサンダガ ーと出会った時のように、生身の人のような、白い布を身体に巻き付けた、神がかっ た姿の彼であった。  緑色の宝石をはめこんだような、美しいがつり上がった、どちらかというと邪悪に 見える瞳も、そのままである。  完全に意識の戻ったマリスは、サンダガーの腕に抱えられていることがわかった ところであった。 「途中でやめんな」  彼はそういうと、かぷっと、マリスの唇を、食べるように覆った。 「なっ、なにすんのよっ! 」  マリスは暴れて、サンダガーの顔を押しのけた。 「人が寝てる間に、なんてことを……! 卑怯者っ! 」 「こらっ! バタバタ暴れんな! お前に生命エネルギーを注いでやってるんじゃ ねーか」 「生命エネルギー……? 」  マリスは、とりあえず、手を止めた。 「そうだ。ヤナの攻撃をまともにくらったお前の精神は、大きなダメージを受け、 マジで危ないところだったんだぞ。この巫女のねーちゃんの身体ん中で、お前の精神 のみが死んじまったら、お前の方こそ、廃人になっちまうんだぜ。知らなかったのか よ? 」  サンダガーの見下ろすマリスの顔面が、蒼白になっていく。 「……し、知らなかった……」 「けっ。まったく、そんなこったろうと思ったぜ」  彼は、呆れた顔で、肩をすくめた。 「待ってろ、もうちょっとで、全快だ」  サンダガーの顔が、近付く。 「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 」 「ああ? なんだよ」  彼は、怪訝そうに、顔を歪めた。 「生命エネルギーって、……あの、そういうやり方しかできないの? 回復魔法みた いに、てのひらから光線出すとか……」 「なんでだよ」  首を傾げるサンダガーに、マリスの顔は、ボッと赤くなり、キッと、彼を睨みつけ た。 「なんでもなにも、あなたねー、この微妙なお年頃の女の子に向かって、もうちょっ と気の利いたやり方考えといてくれないわけ? 」 「これが一番手っ取り早いんだよ。生死をさまよってる人間を、じっくり回復して、 どーすんだよ。死んじまうじゃねーか」 「そっ、それは、そーだけど……なんか、これじゃあ、まるで……キスしてるみたい じゃないの……」  サンダガーは、じっとマリスを見下ろすと、突然笑い出した。 「神が、そんな俗っぽいことするかよ。はーははは! 」 (だって、あなた、そーとー俗っぽいじゃないのさ)  マリスは、呆れた目で、神を見据えた。 「今のお前は本体じゃなく精神なんだから、特に、こうするしかねーんだよ。実際に 口づけてるわけじゃねーんだから、なにも、そう意識することはねーだろ」 「そ、それはそうなんだけど、……不本意な男から、そういうことされるのは、どう も気が進まないし、……だいいち、精神に口づけられてるなんて、もっとイヤな響き だわ」  そう言われても、サンダガーは、気にもせず続ける。 「これはな、お前にも使える能力なんだぜ。もし、誰かが死にそうになった時、そい つを助けたければ、お前の生命エネルギーを、そいつに注いでやればいいんだ。自分 の生命力を減らしてでも、助けたかったら、使ってみな。そういう風に念じるだけで、 相手に伝わるはずだからよ。俺様は、生命力あふれる神様だから、その加護を受けて いるお前にも、出来ることなんだぜ。どうだ? いいこと知っただろ? 」 「……そんな都合のいいこと、ほんとに……」 「できるさ。だから、お前が、巫女のねーちゃん助けたかったら、その能力を使えば いいんだ。ぐっすり眠れば、お前の減った分の生命エネルギーは、元に戻るんだから、 心配することはねえ。ただし、注ぎ過ぎには注意しろよ。自分の生命まで危険になり 兼ねないからな」 「でも、クレアが廃人になっちゃったら、生命力を分けても……」 「大丈夫だ。身体のすべての機能が復活するからな。廃人だったとしても、ちゃんと 目を覚まして復活するはずだぜ。ただし、今回の場合は、ねーちゃんに巣食ってる ヤナを倒さないことには、復活しても、『ヤナとして』復活しちまうけどな」 「そう。わかったわ。じゃあ、さっさと、あいつを倒さなくちゃ」  マリスは、サンダガーの腕の中で、起き上がる。 「だから、回復してやってるんだろ、お前を」  サンダガーは、マリスの肩を押し、彼女の身体を自分の腕の中に押し戻すと、唇を 重ねた。  暖かいエネルギーが、彼の唇を通して、彼女の全身に行き渡る。  精神のみではあっても、身体のきかなかった部分が、軽くなっていき、痛みも、 けだるさもなくなっていくのがわかる。 「……ねえ、サンダガー」 「黙ってろ」 「……怒ってないの? 」 「なにがだよ」 「……あたしが、ベアトリスの辺境に迷い込んじゃった時、そこの次元の歪みから 脱出しようとして、あなたを煽てて騙したことがあったわ。あれ以来、怒って、 もう出て来てくれないかと思った。でも、あなたは、こうやって、あたしを助けて くれてるし、クレアのことだって心配してくれてる」 「俺は神なんだぜ。そんな細けえこと、いちいち根に持つかよ」 「……そう……」 「いいから、もう黙ってろ。回復に時間かかるぞ」 「うん……」  マリスは目を閉じ、あとは、獣神に身を任せた。  しばらくして、マリスの精神は復活したのだった。 「じゃ、行くか」 「えっ? 」  マリスは驚いて、サンダガーを見上げた。 「行くか、って……? 」 「もちろん、俺様も、一緒についてってやるに決まってんだろ」 「あなたが? なんで? 」 「なんでえ、その疑り深い目は。お前ひとりじゃ、あのヤナは倒せねえ。だから、 俺様が、手伝ってやるのよ」 「手伝うって……わーっ! だめだってば! ここは、クレアの精神の中なのよ!  あんたみたいに、山ひとつ刮(こそ)げとっちゃうような大雑把(おおざっぱ)な技、 こんなところで使ったりしたら、それこそ、クレアの精神が、破壊されちゃうじゃな いの! 」 「けっ、あの巫女のねーちゃんの精神なんか、前から、ぶっ壊れてんじゃねーかよ」  サンダガーは、腕を組んで、悪態をついた。 「なんてことを……! そりゃあ、クレアは、潔癖で真面目なあまり、時々おかしな ことを言うかも知れないけど、精神に異常をきたしてんのは、あんたの方だってば、 カミサマ! 」 「とにかく、ついてこい、マリス」  獣神は、いきない走り出した。 「ま、待ってよ! 」  マリスは、慌てて後を追った。 「ヤナ! 」  サンダガーの声に、白い装束の巫女ヤナが、振り返る。 『誰です? お前は』  マリスは、足をすべらせそうになった。 「てめえ、巫女のくせに、神である俺様を知らないのかよ? 」  そういうサンダガーは、たいして気分を害してはいないようで、両腕を組み、仁王 立ちになった。 「俺様は、何を隠そう、ゴールド・メタル・ビーストの化身、獣神サンダガー様だ! どーだ、恐れ入ったかー! はーっははは! 」 (はっ、恥ずかしいヤツっ! こんなところに来てまで)  マリスは、呆れながら、獣神を見上げている。 『獣神ですって!? 汚らわしい獣の神が、いったい、どうして、こんなところに! 』 「それを言うなら、てめえもだろ? 女神モラこそは、ジャグの作ったまがいものの 神、邪神に違いねえっ! 」 『なんですって! なんということをいうのです! 』  ヤナの身体は、また大きく揺れ出した。  サンダガーは、調子づいた。 「お前たちの種族では神だと崇めていてもなあ、俺様は、本家本元のカミサマだぜ!  ホンモノは出来が違うのよ、出来が! はーっははは! 」 『うそです! モラ様は、作り物なんかではありません! 』  ヤナの身体が、ぐにゃぐにゃと揺れていく。 「だったら、なんだって、そんなに動揺してるんだよ? おめえが、モラ様の第一の 巫女なんだったら、呼んでみろよ、ご主人様をよ。ちゃんと待っててやるからよ」  ヤナの身体は、ますます揺れ、形をとどめるのも難しく、蒸気のようにゆらめく ばかりであった。 『おお! モラ様! あなた様を崇拝し、死しても尚、あなた様を信仰している使途 ヤナを、お救いください! そして、どうか、この不届きな邪神に、天罰を! 』  だが、何かが起こる様子はない。 『この邪神は、恐れ多くも、あなた様を、まがいものなどと呼んだのです!  モラ様! 』  ヤナが両手を天に向かい、掲げるが、やはり何も起こらない。 「ふん、やはりな。ヤナよ、教えてやろうか、モラの末路を、そして、真実を」  マリスは、サンダガーに注目した。 「モラは、邪神ゆえに、他の女神たちによって、一〇〇年以上前に、倒されてんだよ。 女神たちの戒律を守ることが出来れば、神として認めてもらえるかどうかの瀬戸際だ ったが、所詮は邪神。邪の心を捨て切れなかった。そればかりか、ある女神の座を 乗っ取ろうとしたため、返り討ちにされ、滅ぼされた。  それから一〇〇年たった今でも、あの魔界の王子を封印し続けられたのは、王子に たいした魔力が残されていなかったことも大きいが、後は、お前の、モラに対する 信念のみだったわけだ。  邪神であるモラ自身は、とっくに滅びてんだよ。それを、お前だって気付いていたはずだ。  とっくに、モラの神託なんかは聞こえなくなってた。だが狂信的に信仰していた お前は、真実を認めたくなくて、自己暗示をかけた。  そんなのは、もはや、信仰心とは言えない。お前の、自分の間違いを認めたくない ゆえの、自己満足にしか過ぎない。そんなお前は、巫女とは呼べねえよ」  冷めた瞳を、ヤナに浴びせる。  ヤナは、サンダガーに対して、憎悪を募らせていくのが、マリスから見ても充分 わかる。  ヤナが怒りを隠せない目でサンダガーを睨むと、突然、クリスタルの塊を――マリ スに放ったものよりも、さらに巨大なものを大量に、サンダガー目がけて、飛ばした のだった。  サンダガーの受けたダメージは、マリスにも及ぶ。マリスが防御のため、ダメもと で両手を突き出すが、サンダガーが手で制し、クリスタルの塊を一睨みしただけで、 その巨大な塊は、ひゅんと空中で消えてしまったのだった。 「さーて、では、本家本元の神の力を見せてやるか! 」  獣神は、片方のてのひらを、ヤナにかざす。 「待って! ここは、クレアの中よ! 」  マリスは、必死にサンダガーの腕にしがみつくが、彼の腕を降ろすことはできず、 ぶら下がっているだけであった。 「そんなことはわかってるから、安心しろ」  ピカッ!   サンダガーのてのひらから、金色の光が伸びていき、ヤナの身体を、いとも簡単に 突き抜けた。 『ぎゃーっ! 』  煙のように揺れていたヤナの身体は、一瞬で、塵(ちり)のように舞った。 「まだまだだぜ。完全に消滅させねえと、巫女のねーちゃんに影響出ちまうからな」  そう言うと、サンダガーは、もう一度、今度は大きな金色の丸い球を、同じところ に向け、発射させた。  マリスが出したものよりも強く、美しく輝き、大きさも、何倍もあった。  ヤナの断末魔の叫びが響いたが、塵と化した身体も、金色のボールも、一瞬にして 場から、なくなっていた。 「これで、ヤナは消滅した。さ、巫女のねーちゃんを探すぜ」 「え、ええ」  消滅――撃退でも、成仏でもなく、消滅であった。  マリスが苦労したヤナを、サンダガーは簡単に倒し、今回は、いつものようにやり 過ぎなかったのは、クレアの精神の中だということを、配慮してのことだろうと、 マリスは、少しだけ、彼を見直した。  その後、二人は、くまなく探しまわったのだが、クレアの意志らしきものは、なか なか見付けられずにいた。 「どうしよう、クレア、見つかんない……」 「大分、存在が『薄くなっちまった』だろうし、ヤナのヤツによって、随分、深い ところまで、沈められちまったのかも知れねえな」 「クレアー! クレアー! 」  マリスが呼びかけながら、うねりの中を歩き回るが、進めば進むほど見つかる様子 もない。ぽたぽたと涙が彼女の頬を伝っていく。 「せっかく、ここまできたのに、クレアを助けることが出来ないの? このままじゃ、 ヤナは倒しても、クレアが廃人に……! 」  はたはたと、マリスの頬を、涙がとめどなく流れていく。 「おーい、巫女のねーちゃんやーい。どこだー? 」  キッ! と、マリスは、横目で、サンダガーを睨んだ。 (こいつ、邪悪な顔とはいえ美形の神のくせに、なんで、こんなに無神経なのかし ら!? ヒトが、感傷的になってるってのに! )  その時だった。 『……マリス……』  微かに、聞き覚えのある声のような思念が、伝わって来る。 「クレア? クレアなの? 」  マリスは、夢中で、声のする方を探した。 「こっちだ」  サンダガーが走る後を、彼女も追う。  急な斜面が現れた。 「こんなところがあったなんて」  うねりの斜面を見上げているマリスに構わず、サンダガーが、崖になっている斜面 を、ふわっと舞い降りる。  マリスも、そのように念じて、続いていく。念じるだけで、魔法でなくても、降り ていくことができた。 「あそこだ! 」  サンダガーの指差す先には、ほとんど透明の、両手ですくえるくらいでしかない、 小さな水溜りがあった。 「クレア……! 」  マリスの心臓が、どくんと大きな音を立てた。 (まさか、もう手遅れなんて……! )  獣神とともに、崖の底へと降り立ち、足元の水溜りを見下ろす。 「間違いねえ。これが、あの巫女のねーちゃんだぜ」  サンダガーの声も、マリスには、心なしか、静かに聞こえる。 「クレア……! 」  マリスは、脱力して、がくっと膝をついた。 「そんな……! 信じられない。こんな僅かな水溜りが……これが、クレアだなんて ……! 」  マリスの頬を、また涙が伝う。 「さっき教えた生命エネルギーを注いでみろ」  サンダガーが言う。 「注ぐったって、こんなのにどうやって」 「どこでもいいから、やってみろ」  マリスは、はらはら泣きながら、水溜りの中央に、そうっと口をつけた。  水ではなく、精神の塊であったのは間違いないと、感じられた。冷たくはあっても、 透明ゼリーのような、少し弾力が感じられる。 (生命エネルギーをクレアに……生命エネルギーをクレアに……! )  マリスは、精一杯そう念じていた。  しばらくすると、透明な塊は、大きく、ヒトの形へとなっていき、マリスの口づけ ているあたりが、ちょうど顔のような輪郭が出来ていく。と同時に、青白く発光して いったのだった。  人間らしい形になった塊を、彼女は、両腕に抱え込んだ。  それは、やがて、今の彼女のように半透明のヒトとなり、青白い発光も消えていく と、クレアの姿になっていた。 「クレア! 」  クレアの瞳が、うっすらと開いていく。 「……マリス……? 」  か細いが、微かにそう言ったのがわかり、マリスは感激して声が出せず、代わりに、 彼女を抱きしめ、泣いていた。 「良かった、クレア、もとに戻って! 」 「マリス……私……」  まだうつろな瞳の彼女を、再度、マリスは抱きしめた。 「マリス、ありがとう……助けてくれて」  途切れ途切れの言葉に、マリスの頬は乾くことはない。 「ほらほら、そのくらいでやめといてやれ。このねーちゃんは、まだ『病み上がり』 なんだからよ。そんなに精神の部分に刺激を与えちゃいけねえぜ」  サンダガーが、マリスの腕からクレアをそうっと抱きかかえると、その崖の斜面を ゆっくりと浮かび上がっていった。マリスも続く。 「これで、ねーちゃんも自然に目を覚ますことができるだろう」  ヤナと戦った、マリスが初めに辿り着いた場所まで戻り、半透明のクレアの身体を、 そこに寝かせ、サンダガーは言った。 「じゃ、俺たちも、そろそろ戻るぞ」 「クレアは、あのままで本当に大丈夫なの? 」  うねりの地に寝かせている半透明の身体を、心配そうに、マリスが見つめている。 「大丈夫だ」  そこへ、 『……クレア、……クレア……』  マリスが、耳を澄ませる。 「これは、……ケイン!? ケインがクレアを呼んでるんだわ! 」  嬉しそうに、天を見上げる。 「な? ちゃんと、呼びかけているモンもいるようだし、これで、ねーちゃんは、 廃人になることなく、目を覚ますだろう。さ、帰るぜ、マリス」  マリスはサンダガーに手を引っ張られ、すうっと浮かんでいった。


キラキラ

 身体は、初めは動かなかった。かすんでいた景色も、徐々に、はっきり見えるよう になっていく。なんだか騒がしい。なんだろう……?   マリスは、何度も、まばたきをした。 「気が付いたか」  ヴァルドリューズの碧い瞳が、いつもと変わりなく、マリスを見下ろす。 (どことなく、やさしく見えるけど、気のせいかな? )  彼に手伝ってもらったマリスは、ゆっくりと身体を起こし、座ったまま、ヴァルド リューズを見上げた。 「ご苦労だったな。思ったよりも時間がかかったので、心配したぞ」  「ほんとか~? 」と、疑いたくなるような平坦なセリフではあったが、マリスに は、彼なりに心配してくれていたのだろうと、受け取れた。  隣に寝ていたはずのクレアの身体が、そこにないことで、彼女が先に目を覚まし、 回復しているのだと、安心した。 「クレアは? 」 「あちらだ」  ヴァルドリューズの指し示す方に、一行の男たちと、マリスの見知らぬ女の子、 クレアがいるのが見られた。 「良かった。クレア、ちゃんと立ってる」  マリスが、安堵の笑顔になったところだった。 「きゃーっ! 悪魔ーっ! 」 「うわーっ! 」  近付いていった魔界の王子ジュニアを突き飛ばすと、いきなり、クレアのてのひら から、白い電撃が放たれた!   ジュニアは、ぶすぶす黒焦げになり、ぱたんと、倒れた。 「……なに、あれ……」  マリスの口からは、呆然と、言葉がもれていた。  死ぬ思いで戦ったマリスは復活したが、感動の再会など、そこにはありはしなかっ た。 エピローグ 「マリスのおかげで、こうして戻ることが出来たの」  クレアが、皆に、精神の中でのマリスの戦いを伝えた。 「そーだよ、すごい戦いだったんだぜ! マリーちゃんだって苦戦して、かなり危な かったんだぜ。あの獣神が出て来なかったら、マリーちゃんこそ、廃人になっちまう とこだったんだ! 」  黒焦げから自然回復したジュニアが、威張るように腕を組んだ。 「そ、そんなに、大変だったのか!? 」  ジュニアに術を解かれ、元通り男に戻ったケインは、今度は、自分の声に、内心 驚く。  マリスは、腕を組み、横目でケインを見た。 「だいたいね、ケインたら、どこに行ってたのよ? クレアが大変な時に、側につい てもあげずに。もっと仲間思いな人だと思ってたのに、白状なのね! 」 「そ、それは……、どうせ、俺がいても何も手伝えないなら、と思って、トアフ・ シティーの領主を倒しに……」  マリスは目を見開いてから、ケインを正面から見据えた。 「あら、あたしたちが大変な思いをしている間に、自分は、そんなおいしいことして たの? そっちだって、後で、あたしが退治してやろうと思ってたのに、せっかく の暴れられるチャンスを、横取りしてくれちゃったってわけ? 」 「しょうがないだろ。マリスにあんなことした領主を、どうしても許せなかったんだ から」  ケインが、少しだけ頬を赤らめ、マリスから目を反らした。  マリスが、目を丸くして、ケインを見直す。 「敵を討ってくれたの? ケインて——」  ケインの頬が、ますます赤らむ。 「やっぱり、仲間思いだったのね? 」  マリスが、嬉しそうに微笑んだ。 「いや、仲間思いって……ああ、まあ、そうかな」  ケインはごにょごにょ口の中で言った。 「でも、正義を貫く勇者が、私情を挟んでいいのかしらねぇ? 仲間の仇を取るため とはいえ、正義のための剣を使うなんて」  マリスは、わざと意地悪く言った。  ケインは、「うっ! 」と、言葉を詰まらせる。 「そうだぞ、ケイン。だいたい、お前は、あの剣の恐ろしさもロクに心得ず、いつも 簡単に使おうとしやがって! 魔族の俺様からみても、お前は充分危険人物だぞ! 」  マリスの隣に寄って来たジュニアも、腕を組んで威張る。 「しかも、女になったら、あたしより可愛かったし」 「そ、そんなことないよ」 「あー、それは、俺様の美的センスのおかげだけどな」  ケインが困っているのを充分確認してから、マリスは、ふっと瞳を和ませた。 「でも、……ありがと」  困った顔のまま、頬を赤らめたまま、ケインは、微笑するマリスを前に、何も言え ないでいた。 「えっ? マリーちゃん、もう説教終わりかよ!? ちょっと甘いんじゃないの!?  またケインばっか依怙贔屓(えこひいき)しちゃってんの!? 」  側でごちゃごちゃ言っているジュニアに取り合わず、マリスは、ヴァルドリューズ の方に向いた。 「それで、結局は、どうだったの? 」  ヴァルドリューズは、トアフ・シティーでのことを、ざっと皆に伝えた。  怪し気な領主は、実は妖魔であり、それと組んでいた魔道士の塔お尋ね者のヤミ 魔道士ジャクスターが、魔物の死体を集め、加工し、売りさばいていたこと。  そして、魔物の肉を食べて、魔物化した人間は多く、謎の変死を遂げたりしていた が、中には、何の症状も現れない者もいた。  その代わり、彼らは、それぞれある特殊な能力を身につけているというのだった。  彼らは、ある闇の集団に引き取られていった。  ヴァルドリューズがその組織のことを詳しく聞こうとすると、ジャクスターが自害 してしまったということだった。 「なんて非人道的な、恐ろしいことを……! 」  クレアが、両手を口に当てる。 「まったく、ひでえことするやつらだぜ。で、その領主の城は、どうしたんだ? 」 「焼いた」  カイルの質問に、ヴァルドリューズは、あっさりと答える。 「それじゃあ、きっと、今頃、トアフ・シティーは、大騒ぎになってるだろうな」  カイルは、にやにや笑った。 「それで、マリスの方はどうだったんだ? サンダガーが出て来たって言ってたけど、 何で? 」  はっと、マリスが、尋ねたケインを見る。  サンダガーに抱えられ、口づけられた場面が甦る。 (……ま、サンダガーの、生命エネルギーの能力のことは、別に言わなくてもいいか ……)  ケインの心配そうな顔を見ているうちに、マリスはそう判断し、巫女ヤナのこと、 女神モラの末路、サンダガーの圧倒的パワーによって、ヤナを消滅出来たことを、 さらっと説明するに留めた。 「……てことで、今度は、ちょっと街で資金繰りをしてから、次元の穴を探し、魔物 を退治していきましょう」  マリスが、皆の顔を見回した。 「この世にはびこる悪を倒し、正義のために、みんなで力を合わせて、頑張りましょ う! 」  いつものごとく、クレアもにっこりと続いた。 「ジュニア、まずは、トアフ・シティーへ飛んでちょうだい。あそこがどうなったか 見届けてから、どこかの都市で、稼げそうなところを当たるのよ。じゃあ、お願いね」 「ちょっ、ちょっと待ってよ、マリーちゃん! こんな大勢を、俺ひとりで運べって いうの!? 」  ジュニアが慌てる。 「当たり前でしょう? ミュミュはひとりずつしか運べないし、ヴァルの魔力は、 なるべく減らしたくないんだから。さあ、やってちょうだい」 「ちぇーっ」  ジュニアは、いやいや結界のような空間で、一行を包み込むと、姿を消した。  彼らには、空間ごと移動しているのが、なんとなくわかったが、それは、すぐに 止まってしまった。 「だめだよ、マリーちゃん。マリーちゃんとあの女の子の『白のパワー』が強過ぎる みたいで、これ以上無理だよ」  マリスに睨まれ、魔界の王子が身をすくめる。 「あんたってば、いったいどんな役に立つっていうのかしらね! しょうがないわ。 ヴァル、お願い」  ヴァルドリューズが結界を張り直す。  その間、ジュニアは、よいしょっと肘を付き、横になっていた。  それを見る限りでは、皆には、なんだかんだ言ってはサボっているのが見え見えだ った。 「ああ、あんたはダメよ。自分で行けるでしょ? ヴァルの結界で行くのは、あたし たちだけよ」 「ええーっ! 」  ジュニアが不平一杯の声を上げた。 「ひどいよー! 俺、マリーちゃんが、ヤナと戦った時に、魔力使って中継してた から、すっげえ疲れてんだぜ。ちょっとくらい休ませてくれたって……」 「いやなら、出て行けばいいじゃないの。これなら、いつでもお返しするわよ」  マリスが、ジュニアの目の前に、黒い宝石ダーク・ストーンをちらつかせる。 「ううっ、なんてこった! どうして、俺様は、こんな悪女に惚れてしまったんだ ろうか!? 」 (惚れたとは言っても、所詮は魔族だからか、惚れた女に、あまり誠実なようには 見えないけど……)  ケインは、しょうもなさそうに、魔界の王子を見た。  ジュニアが嘆きながら、ふいっとヴァルドリューズの結界から、出て行く。  ようやく、彼らは、新しい目的地へと向かうことになったのだった。


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