Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅴ.2〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月紫ライン Ⅴ.『高位の魔族』 妖精緑アイコン2 ~ 魔空間 ~ 剣月紫ライン

黒羽ライン
魔空間
黒羽ライン

 二つの青白い炎のような影が、俺とマリスに向き直っていた。  背の高い痩せた男の姿と、それより少し低いところに、魔界の王子ジュニアの姿が ある。  彼の色違いの目は、それぞれの色に光っていた。  俺は、いつでも剣に手がかけられるように構える。 「……これは、これは……! よりによって、なんと珍しい人間どもだ! 」  痩せた背の高い魔族の男が、声を上げた。  魔道士のような平坦な喋り方よりは、多少抑揚がある。 「そちらの娘は、世にも珍しい獣神を背負っている。このようなヒトを見るのは、 実に一〇〇〇年ぶりのことだ! 」  王子の第一の家臣だというその魔族は、感嘆にも似た声で言う。 「そして、その隣にいるのは、伝説のバスターブレードとマスターソードを合わせ 持つ、非常に稀な人間であるな。その二つを同時に手に入れるなどとは、今まで類を 見なかった。これは、神側のいたずらか、単なる偶然か! 」  男の、氷のような冷たい目が、俺に注がれる。  ジュニアの目の光が、一層強まった。 「なっ? どっちも、俺たち魔族にとって、脅威になる存在だと思わねえか? 」 「それは、もう」  二人は顔を見合わせてから、視線を俺たちに戻す。


黄金クロス

「それにしても、たかが人間のくせに、なんという魔力だ、あの娘は! あれでは、 行く先々で、魔物どもを刺激してしまうだろう。それでこそ、獣神を操れるとも言え るが」  どうやら、奴等のように発光している光が強いほど、それが魔力の象徴となってい るらしい。  俺などは、もともと魔力0(ゼロ)なので、やっと身体の輪郭が見えるくらいだが、 マリスは黄金色に光り輝いている。  他に魔道士や神官などの魔力の高い人間がいれば見比べられ、彼女の魔力が、どれ だけ人離れしているかが、もっとはっきりわかったことだろう。 「あの娘の母親は巫女だと。だから、魔力が高いのは生まれつきなんだろう」 「少なくとも、ここまでの魔力になるまでには、巫女や神官の素質が必要でしょうか ら。でなければ、獣神などが背後についたり、ましてや、呼び出したりすることは できないでしょう。一〇〇〇年前の人物も、やはり、そうでした」  家臣は、ジュニアに対しては、非常に丁寧な物腰だった。 「そして、伝説の剣の持ち主たちは、例外なく、魔力のあまりないものたちであった」  ゆっくりと、凍るような視線を、男は、俺に注いだ。 「神との戦いは、我々魔族との間では、いわば宿命のようなもの。別段、珍しくも ない。だが、ヒトとの戦いは、楽な面もあれば、非常に厄介な面もある。魔力がない というのは、我々にとって、まず探知がしにくく、予測がつかない。おかげで、予定 外のところで、仲間を多く失ったこともあった」 「神に守られたその女のことは、ひとまず置いておくとして、……ケイン、やっぱり、 お前は、俺たち魔族にとって、邪魔な存在らしいな」  それまでの、ジュニアの少々愛らしく思えていた顔立ちが、にやっと獰猛な笑顔に なっていく。 「お前が、俺を倒そうとしたのと同じように、俺にとっても、お前は、今のうちに 潰しておいた方がいいような気がするぜ」  そう言い終わらないうちに、ヤツの姿が揺れる。 「うっ! 」  何かに強く突き飛ばされたような衝撃を感じると、俺の身体は、闇の地面を転がっ ていた。 「ケイン! 」  金色に輝いたマリスが駆け寄り、俺は抱き起こされた。  腹の、突かれたあたりが、痺れ、痛み出した。  俺は片方の目で、前方を睨み据えた。 「どうやら、この魔空間では、家臣の言ったように、俺の力は戻ってきているらしい な」  ジュニアは、さっきの位置から、まったく動いてはいない。  ただ片方の手を、俺に向かって、突き出しただけだった。 「さすが、生身の人間だぜ。他愛もない。この程度の力で、そこまで吹っ飛ぶとはな」  クックックッと、王子は笑い声を漏らした。  そして、ヤツは、マリスの取り付けた、ゴールダヌスの発明だという銀色の首輪と 鎖を、簡単に外してみせた。鎖は、てのひらの上で、シュボッと青い炎に焼かれて、 粉と化した!  「俺を生かしておいたのを、今さら悔やんでも遅いぜ。ここは魔空間だ。よっぽどで なければ、中等以下の魔族ですら、入っては来られない。魔道士なんかは、なおさら だ。てわけで、泣いても叫んでも、あのヴァルドリューズって兄ちゃんは、助けに来 てくれないぜ。ヤツとお前が、俺に与えた何倍もの恐怖を、じっくりと、お前にも 味わわせてやるぜ! 」  ジュニアの身体を、ぼおっと、青白い炎が包み始めた! 彼の獰猛な顔は、ますま す邪悪さを増していった!  「△◎◆♧、お前は手を出すな。こいつは、俺の獲物だからな」 「御意にございます」  ジュニアの後ろにいる青白い物体は、彼に深く頭を下げてから、一歩退いた。  途端にジュニアの身体をまとっていた青白い炎が、一気に燃え上がり、ひとつの うねりとなって、俺に襲いかかる!  「ケイン! 」 「危ない! どいてろ、マリス! 」  俺は、彼女を突き飛ばし、俺から離し、マスター・ソードを盾にした!   ぎゅるるるるる……!   剣を通じて、びりびりと衝撃が全身を走る。  思わず手放してしまいそうになるが、ぐっと、柄を掴み直す。  俺にとっては、長い時間だったが、きっと一瞬のことだったのかも知れない。  でかい炎のうねりは消え、俺は、少しだけ乱れた呼吸を整えながら、変わらない 立ち位置のジュニアを見据えた。  今までの魔道士や、魔獣の攻撃を吸収した時とは、明らかに、剣から伝わる衝撃の 度合いが違う!   だが、ヤツの方は、たいして大技を放ったわけでもない。  これが、魔族の力なのか!?   こんな奴等をこれから俺たちは、相手にしていこうとしていたのか!? 


魔法陣剣

「さすが、ドラゴンの巣くう剣。この俺の力でさえも、たいして堪(こた)えてはいな い、か」  ジュニアは、余裕の笑みで、腕を降ろした。 「あの剣には、ダーク・ドラゴンが巣くっておるようですな」  ジュニアの背後で、家臣の魔族が言った。 「ダーク・ドラゴンか。魔界でも手を焼く最強のドラゴンがあの中にいるとなると、 俺たち魔族の攻撃は、すべてそいつに食われちまうってことか。ふん、ますます厄介 だな」  ジュニアが、にやりと笑う。 「しかし、操っているのは、彼の精神によるようです。従って、彼の精神が弱まれば、 ダーク・ドラゴンは使えなくなるでしょう」 「わざわざ精神を弱めることはないぜ。ヤツが死ねば、関係ないんだろ? 」  そう言ったジュニアは、青と緑に光る二つの目を、俺に向け、またしても、獰猛に 微笑み、口の周りに舌を這わせた。 「しかも、今のところ、ホワイト・ドラゴンの力は、あの剣からは感じられませぬ」  家臣の男が、付け加えた。 「ほう。なるほどな。ということは、俺たち魔族に致命的な白の技は、まだ使えない、 と」  奴等は、なんだか魔道士たちよりは、マスター・ソードに詳しい。それが、俺には 意外だった。  つかつかと、魔界の王子は、俺に近付いてくる。  奴等の攻撃を防ぐことは、なんとか出来たとしても、奴等も言っていたように、 致命傷を与えることは、今のマスター・ソードではできない。バスター・ブレードだ って、ここまでの高位の魔族ども相手に通じるかどうかわからない。  だが、やってみるしかない。  なんとか奴等が、剣の届く範囲に近付いて来るのを、狙ってやるしかない。  俺のマスター・ソードを握っている手に、汗と力がこもっていく!  「あがいてみるか? 最後まで」  クックックッと、またジュニアが、酷薄な笑いを浮かべる。 「思いっきり、死の恐怖を味わったら、後は、ラクに死なせてやろう」  ヤツが、もうすぐ俺の目の前で立ち止まった時だった!  「そんなことしたら、あたしが許さないから!! 」  マリスが、いきなり立ち上がって、ヤツに殴りかかった!  「うわああああ! マリーちゃん、ごめんなさあい! 」  ジュニアは泣き叫びながら、殴られた頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ!  「……わ、若……? 」  離れたところでは、拍子抜けしてたような、間の抜けた家臣の声がしていた。  マリスの攻撃はなおもやまず、ぼかぼかとジュニアを殴っていた。  ジュニアは、わあわあ泣き叫びながら、マリスの攻撃をその身に浴びていた。  それは、はっきり言って、今まで、俺が受けたジュニアの攻撃なんかよりも、何倍 も凄まじかった!  「あんたがケインを殺すですって? よくも、そんなこと、あたしの前で言えたわ ね! いい度胸してるじゃないの! 誰があんたのこと助けてやったと思ってるの よ? この恩知らず! あたしの命令が聞けずに、そんなことしようものなら、今 こそ、あたしが殺してやるわ! 」  ジュニアの背に馬乗りになったマリスは、殴り続けた。 「ごっ、ごめんよ、マリーちゃん! もうしないよ! だから、お願いだから、もう 怒らないで! 」  マリスが、頭を抱えながら泣き叫ぶジュニアを殴る手を止めた。 「絶対!? 絶対に、もうケインを、あたしの仲間を殺そうなんてしないわね!? 」  マリスが両手でジュニアの顔を挟むと、無理矢理上に向かせた。  ぐきっと、音が鳴った。  人間だったら、俯せからその体勢は、絶対無理だ。  ヤツの首は完璧ねじれていたが、そこは魔族だから可能なのか、痛みも感じていな いのか、むしろ、マリスの顔と近付いたヤツの顔は、ポッと赤く染まったようにも 見える。  ジュニアは鼻をグズつかせながら、こくこくと頷き、涙で余計に光っている従順な 瞳を彼女に向けていた。 「……若……? 」  家臣の伸ばしかけた手は、途中で止まっていた。  俺も彼も圧倒され、その光景を見ているしかない。 「どうしたのです、若? そんな人間の、しかも、神のついた小娘などに……?  今の若のお力を持ってすれば、そのような小娘ごときを払いのけることなど、造作も ないではございませぬか」  と、拍子抜けしたままの声で、家臣は続けていた。 「そうなんだけど、つ、つい、身体が反応しちまって……、俺としたことが……! 」  なんとなく、ジュニアの青白く光る面(おもて)が、カーッと赤面していってるよう な。 「なんてこった! 俺は、本当に、この女の……身も心も、この女の奴隷になって しまったのか!? 」  ジュニアは、ぶるぶると両手を震わせている。  わけがわからず、俺もマリスも、家臣の男も、呆然と、ヤツを見ていた。 「どうしよう、△◎◆♧! 俺は、人間の女に……こんな乱暴者の小娘なんぞに、 ……惚れちまったのかも知れない! 」  ばたっ。  俺もマリスもコケていた!   家臣も、どう反応していいか、すぐには見当が付かないみたいで、動きが止まって いたのだが…… 「何をおっしゃるのです! 人間の娘など、それも、神側の娘などに恋心を抱くなど、 以(もっ)ての外(ほか)です! 」  家臣の男は、今までは見せなかったが、ちょっとだけ、怒った顔をした。  マリスも疑り深そうな顔で、コケたついでに、ジュニアからどいていた。 「そうさ! きっと、そうに違いない! 初めてマリーちゃんに殴られた時から、 そうだったんだ! まるで、俺の中に、鋭い錐(キリ)のようなデカい刺(とげ)が、 ぐさっと刺さったみたいだった! そして、そこから全身を貫くようなおぞましい 快感が駆け巡った。きっと、これが、恋に違いない! そうだろ? △◎◆♧! 」  まったくよくわからない表現で共感しがたく、意味不明だが、両目をぎらぎらと 輝かせて立ち上がったジュニアは、家臣である魔族の男に、同意を求めた。 「……確かに、恋とは、そういうものと言いますが……」  ブツブツと呟くように答える家臣だった。  恋の感覚も、人間とは違って、随分と痛そうなものらしい。 「魔族なだけに、マゾ!? 」  隣で、マリスが、くだらないことを呟いていた。  恥ずかしい!   良かった、俺、口に出さなくて。 「とにかく、生まれてこの方一一七〇年、恋などしたことのない俺様だったが、…… そうかあ、これが恋かあ! 」  ジュニアが、うっとりと上空を見つめる。  それは、おめでとう……としか、言いようがない。 「というわけで、△◎◆♧、俺は、マリーちゃんたちと旅を続ける。だから、放って おいてくれ」  今の今まで、俺を殺そうとしていたジュニアは、いきいきとした笑顔を家臣に向け ると、しゃあしゃあと、そのようにのたまっていた。 「若っ! 何を言っているのです! またそのような気まぐれを起こして! 魔族が 人間どもと共存出来るわけはないのですよ! 」  家臣は、血相を抱えて、ジュニアを説得にかかったが、ヤツは、楽しそうに口笛な んぞを吹いていた。 「あたしは、やーよ! もう、あんたなんか、連れてかないわ。この先も、あたしの 知らないところで、いつ、ケインやヴァルが狙われるか、わからないもの」  それは、有り得る話だ。  ジュニアは、心外だとでもいうように、態度を一変して、慌てて、マリスの足元に すがった。 「そんなこと言わないでくれよおー! もうしないって、言ってるじゃないかー! 」 「いやよ! やっぱり、魔族なんか信用できないわ! 」  そう言って、マリスは、非常にも、ジュニアを蹴っぱくった。  ジュニアが、吹っ飛ぶ。  む、酷い……。  さっきまでジュニアに攻撃されてた俺だったが、その様子を見て、ちょっとだけ、 ヤツを哀れに思ってしまう。  が、倒れる直前に、ヤツの表情が嬉しそうに変わり、起き上がると同時に、必死な 表情に戻った。 「本当だよ! 本当に、もう悪いことはしないよ! 他の人間どもにも、しないから さー! 頼むよ、側に置いてくれよー! 俺が道を外したら、そうやって、時々殴っ たり、蹴ったりしてくれればいいからさ! 」  ヤツは、一生懸命マリスに懇願していた。  聞いててちょっと、ぞわっとした。やっぱり、ドMなんだろう。 「だめっ! あんたは、さっきケインのこと本気で殺そうとしたわ! その時から、 あたし、あんたを許せなくなっちゃったんだから! あたしが、ヴァルやケインの 言うことを聞いていれば、仲間をこんな目に合わせずに済んだのよ。あたしが、あん たを生かしておいたせいで……! だから、もう一緒に連れていくことなんて出来な いわ! 」  それだけ言うと、マリスは腕を組んで、ジュニアに背を向けた。 「もうしないよ! 俺の言葉が信用できないなら……」  ジュニアは、必死な顔で、懐(ふところ)から何かを取り出した。 「若っ! それは――! 」  家臣が慌てて止めるのも聞かず、ジュニアは黒い石、黒曜石のような宝石を、 マリスに差し出した。


黒石

「ダーク・ストーンだ。人間流に説明すると、これは、俺の魂と同じだ。これを持っ た者に、その魔族は絶対服従を約束する。闇で行われているヒトと魔族との契約には、 欠かせないものだ。これを持っている人間が必要とした時に、その魔族を召喚する ことができる。これを、きみに預けておく」 「いやよ! そんなものいらないわ! 」  ぷいっと、マリスは腕を組んだまま、横を向いた。 「若っ! 若ほどのお方が、そのような下級魔族の真似事など、してはなりません! 」  家臣を包んでいた青白い炎が、急に燃え上がった!  「お前は黙ってろ! 」  ジュニアが手で制する。  魔族の世界では、上下関係は絶対なのか、それ以上、家臣の魔族は近付こうとは しなかった。 「な、マリー、もらってくれ」  ジュニアは、もう一度、ダーク・ストーンをマリスに差し出した。  マリスは、目を固く閉じて、首を横にぶんぶん振っている。 「マリス」  俺は、彼女の耳元に、口を近付けた。 「魔物のことを詳しく知りたかったんだろ? その方が、対策を立て易いって、言っ てたじゃないか。この魔空間にいる間に、俺も、そう思うようになった。奴等は、 やっぱり得体が知れない。  貴重な魔族の情報源ともなる魔界の王子が、お前に絶対服従を誓うと言ってるんだ。 さっきのトアフ・シティーの森でのことを思い出してみろ。ヤツがいれば、しょっ ちゅう湧いてくる下等モンスターどもなんかを無駄にやっつけなくて済むし、空間 移動だってできる。それに、俺たちは、これからみんなのところに戻って、クレアを 助けなきゃいけないんだ。そこまで戻るには、空間を移動していかなきゃ、間に合わ ない」  マリスが、心配そうに俺を見上げた。 「……だけど、ケイン、もし、またあいつが……」 「俺なら大丈夫だ。もし、ヤツが、お前の知らないところで俺を襲おうとしても、 簡単にやられたりしないよ。ヤツは、今のこの空間では魔力はあっても、俺たちの 世界ではヒト程度なんだ。それなら、たいしたことも出来ないだろ? 大丈夫だから、 あの石を、もらってこいよ」 「たしかに、この場では、こうするしかなさそうだけど……」  俺は、マリスの背を、ぽんと叩いた。  一歩進み出たマリスは、ちらっと俺を振り返り、ぶすっとした顔で、黒い石を受け 取った。  ジュニアの顔が、みるみる明るく輝き出した。 「ありがとう! マリーちゃん! これで、俺は、正真正銘きみの奴隷さ! 」  彼は、にこにこと、満面の笑みを浮かべていた。  奴隷になれて、ここまで喜ぶヤツも珍しい。  ……が、そもそも、王子だったこいつに、奴隷が勤まるのか? 


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