Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅴ.1〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅴ.『高位の魔族』 妖精緑アイコン1 ~ 忍び寄る魔の手 ~ 剣月緑ライン
空間移動

 ジュニアが俺を抱えると同時に、目の前の景色は、溶け出したように、ぐにゃぐ にゃになった。目を閉じても、はっきりと、空間を越えていると感じられる。 「ちっ。やっぱり、いやがったか」  舌打ちするジュニアの声で、目を開けると、まだ空間の中なのだろう、いろんな色 がうねり、混ざり合っているように見える。  この場所の形も凸凹しているのか、それとも、まっすぐなのか、広いのか、狭いの かもわからない。  こんなところに、魔道士でもない、生身の人間が長時間いるのは、不可能だ。  俺は、目を閉じ、深呼吸して、精神を集中してから、ゆっくりと目を開けた。  少し離れた前方には、やはり、例の黒いフード姿が見えたのだった。 「てめえ! マリーちゃんを、どこにやりやがった!? まだこの城の中に いることは、わかってんだぞ! 」  ジュニアが口火を切る。 「ほう。先程より、威勢がいいな。仲間連れだからか」  おもむろに、フードの頭をもたげて、魔道士が、陰湿な声を発した。 「マリスを返してもらう。そこをどいてくれ」  魔道士のうつろな瞳が、俺を捕らえる。 「こちらには、いない」 「ウソだ! じゃあ、なんで、おめえは、さっきから、そこで見張ってんだよ! 」  ジュニアが食ってかかる。 「領主様のお部屋に張っていた結界を、解いていただけだ」  いんいんと、魔道士の声が不思議な空間の中で響く。  俺は、妙な胸騒ぎがしていた。 「ジュニア、時空の中じゃなくて、『もとの世界』へ戻ってくれ」  一瞬、怪訝そうに俺を見るジュニアだが、すぐに言う通りにした。


ぼやぼや廊下

 そこは、あの暗い回廊の終点である、大理石の彫刻の扉――領主の部屋の前だった。  マリスに限って、大丈夫なはずだ。  だけど、なんで、こんなにも、ここは静かなんだ!?   もし、彼女に何かあれば、とっくに暴れて、破壊音のひとつやふたつ、聞こえて きてもいいようなものだ。  ひゅん……  後ろには、あの魔道士も、現れる。 「領主とマリスは、どこへ行ったんだ? 彼女を、どうしようというんだ? お前 たちは、一体、何を企んでる? 」  焦る気持ちを抑え、出来る限り冷静に振る舞う俺に、魔道士は、うっそりと、口を 開く。 「別に、私は、彼女をどうこうしようなどとは思っていない」 「じゃあ、他の質問にする。どうして、そこの森には、妖魔たちが巣くってるんだ?  魔物に賞金を懸けているくせに、なぜ森の妖魔たちを放っておく? 」 「彼らは、たいして害はない。こちらが、何もしなければ、何もしてはこない」 「なぜ、遠くの魔物にまで、多額の賞金をやる? その他にも、聞きたいことは、 いろいろあるが、今の俺たちには、時間がない。領主やお前たちが、何を企もうと、 今それを問いただし、戦う暇はない。彼女さえ返してもらえば、余計な詮索はしない で、この場は、立ち去ると約束しよう。だから、おとなしく彼女のところへ案内しろ」  といって、すらっと、マスターソードを抜いて見せた。  魔道士の目が、細められる。 「これが、何かは、わかるだろう? 伝説のマスターソードだ。後ろには、バスター ブレードだってある。お前が、どんなに魔道に長けた者だったとしても、この二つの 剣が相手では、無傷では済まされないのは想像つくだろう。無駄な戦いをするよりも、 さっさと、俺を彼女のもとへ連れて行く方が、早いと思うが」  魔道士は、しばらく、じっと俺を見ていた。  ジュニアも、後ろで、無言でいた。 「……わかった。娘を返すだけで良いのなら、案内しよう。その代わり、本当に、 これ以上、この城に、かかわらないと約束するか? 」 「もちろん」 「ならば、こちらに来るがよい」  魔道士は、俺たちが、側に近付くと、マントで俺たちを包み込み、空間を渡った。  


黒羽ライン

 真っ暗闇だった。 「おお! なんと、白く、柔らかい肌だ! 素晴らしい! 」  領主の声みたいだ。ついでに、唾を、じゅるじゅる啜り上げるような音まで、聞こ える。  俺の心臓が、どくどくと速くなっていく!   時空のうねりの中だったが、なんとなく、真下には、ぼんやりと、何かが動いて いるのが、見えてきた。  山のような白い塊と、その下には、赤いものが、ちらっとだけ見える。  徐々に、その一角だけ、はっきりとしてきた。  魔道士の結界も、角度を変え、そこへ向かう。  予感は的中した。  それは、ガマガエル領主とマリスだった!   愕然と、そのありさまを目にしていた。  領主は、耳まで裂けた口の中から、気持ちの悪い、大きなピンク色の舌を出し、 マリスにまたがり、頬を、ベロベロなめ回していたのだった!   そして、その口は、大きく開いた。  ヒトの頭など、簡単に飲み込めるくらいデカく!   俺は、魔道士のマントの中で、暴れると、そこから夢中で飛び出していた。  魔道士の、俺を止める声が聞こえたが、構うもんか!   身体に何かがまとわりつく。  ぬるぬる、ねっとりとし、ぎゅうっと締め付けられたかと思えば、急に弛(ゆる)み、 風が吹き通っていくような、さわやかな感覚もやってきた。これが、生身で空間を 通った感触か。  だが、そんなことはどうでもいい。  俺の身体が、急激に落下していく。  どのくらいの高さからかは、わからない。  それよりも、マリスを――!   どしゃっ!  「ぐえええっ! 」  何かの上に、俺は落っこちた。と同時に、カエルを潰したような声が聞こえ、 そいつは、ビタン! と、床に落ちた。  思ったほど、衝撃は感じられず、痛みもない。というより、痛みを感じる間もなく、 俺はガバッと、起き上がった。 「マリス! 」  夢中で彼女を抱き起こした。  そこは、やたらに白を基調とした部屋だった。  白いレースのカーテン、白い家具、白い床に敷かれた、白地に金の縫い取りのある 敷物などの、超豪華な部屋。  そして、俺が降り立ったのは、真っ白な、ふかふかとした柔らかい、天蓋付きの ベッドの上だった!   赤い東方系衣装の上に羽織っていた薄布を剥がされ、剥き出された肩と腕、鎖骨の あたりや、頬は、ぐっしょりと濡れていた!   領主が舐め回した跡だというのは、一目瞭然だった。人間のものとは違う唾液の 異臭も、漂っている。  あの大きな口に飲み込まれるのは、なんとか避けられただけ、ほっとした。   マリスは眠らされているみたいで、強く揺すっても、ぐったりと、俺に身を預けた ままだった。  その表情は、上気したように、頬はほんのり色づき、どこか艶かしい。  ふつふつと、俺の中には、怒りが込み上げてきた。  ベッドの下では、あの領主が、どこか打ったみたいで、うめき声を上げ続けている。  それを、俺は、睨みつけた。 「おい、ケイン! 無茶すんなよ! 」  領主の向こうに、ひゅんと現れたのは、ジュニアと、今まで俺たちを運んでくれた 魔道士ジョルジュだった。 「お前は、生身の人間なんだぜ! まったく、あそこからここまで、たいした距離 じゃなかったから、良かったものの。そうじゃなかったら、お前は、今頃、別の時空 に迷いこんじまうところだったんだぞ! ま、そうなっても、別に、俺の知ったこっ ちゃないけどな」  ジュニアが、半分呆れたように言っていたが、今の俺には、ほとんど耳に入って なかった。 「おお、ジョルジュ! 一体、どうしたというのだ! なぜ、勝手に私の部屋に入っ てきた? 悪趣味だぞ! 」  領主は、やっとのことで起き上がると、白い、やたらにレースの目立つパジャマ姿 を晒(さら)した。 「悪趣味は、てめえだ! 」  カッとなって、ベッドの上に、マリスを横抱きにしたまま立ち上がった俺を、ビク ッと、領主は振り返った。 「おお! 貴様か、私を蹴り飛ばしたのは!? 貴様たちは、とっくに帰ったと執事 から聞いておったのに、どうやって、ここまで――」 「そんなことは、どーでもいい! 」  俺は、背負っていたバスターブレードを引き抜き、すごい早業で巻いていた布を 取り外し、領主の目の前に突きつけた。 「あわわわ! なんだ、その大きな剣は!? この私を、一体、どうしようというの だ!? 」 「黙れ! この妖怪オヤジ! 」  俺は、とっくにキレていた。  勢いよくバスターブレードを一振りするが、ジョルジュが空中から取り出した杖で、 受け止めるのは、わかっていた。 「その娘さえ返せば、我々には関わらないのではなかったか」  抑揚のない冷静な声だ。が、俺の頭まで冷静になるわけではなかった。 「うるさい! お前たち、マリスに何をしたんだ! 」  剣を奴等に向けた時だった。 「きゃははははは! 」  脇に抱えていたマリスが、いきなり笑い出した。  びっくりして見ると、またすぐに眠ってしまったみたいで、ぐったりしている。 「おまえら、マリスに変な薬でも飲ませて、狂わせたな!? 可哀想に……!  なんて、ひどいことを! 」  再び、刃を領主に向けた。 「ま、待て、青年! 確かに、私は、彼女が、そのう……あんまり、おいしそうだっ たもんだから、つい……だが、誓って、変な薬などを投与したりは、しておらんよ! 」 「きゃはははは! 」  領主のセリフに続いて、またもや彼女が笑い出す。 「だったら、なんで、こんなにバカみたいになってんだ! 」 「そ、それは……」  領主は、両手を合わせて、懇願するように、見上げた。 「火酒じゃよ! 特別に加工した無職透明無味無臭の火酒を、水だといって飲ませた のだ。飲んだ方が、もうちょっと……そのう、……色っぽくなるかと思って……」  むかっ!  「この外道がー! 」 「ひーっ! 」  俺の振り下ろした大剣は、またしても、魔道士ジョルジュの杖に、止められていた。 「……あら? ケインじゃ……ないの。……どうしたの? 」  その声に、はっとして、抱えていたマリスを見る。  彼女は、寝ぼけ眼(まなこ)で、俺を見ていた。 「……マリス、俺がわかるのか? ……大丈夫か? 」 「ええ」 「良かった……! バカにさせられたわけじゃなかったんだな! ほんとに良かっ た! 心配したんだぞ! 」  俺は、安心して、マリスの両肩を掴んだ。 「……ケイン……」  とろんとしていた彼女の瞳は、潤い、きらめいていく。  その様子から、思わず目を離せないでいると、自然に、彼女が、俺の胸に、もたれ かかってきたのだった。  抱きしめてもいいんだろうか?   いや、だけど、酒に酔ってて、よくわかっていない彼女に、つけこんでることに ならないか?   どくどくどく……と、心臓が、速くなる。  おそるおそる、彼女の身体を包み込もうと、腕を曲げていくと―― 「おえええええっ! 」  思いっ切り、彼女は戻していた! 


紫ライン

「ごめんなさい! ケイン、ほんとに、ごめんなさい! 」  ジュニアに連れられて空間を移動している間中、ずっと、マリスは、俺に謝って いた。  戻してスッキリしたとはいうものの、まだフラつきながら、俺の腕に掴まっている。  ジュニアの魔術で、俺の服は元通りにはなった。  が、服を汚されたことなんか、構わなかった。  王女とはいえ人間。気持ちが悪かったら、吐くこともあるだろう。  俺が、腹立たしくてしょうがないのは、そんなことじゃなかった。 「無理にでも、俺が付き添っていくべきだった! 何もなくて、本当に良かったけど なあ、お前、自分で大丈夫って言って、簡単についてったじゃないか。俺とジュニア が行かなかったら、今頃どうなってたか、わかってんのか? あんなおぞましい、 妖魔に侵されたカエル野郎なんかの餌食に――ああ! 思い出すだけでも、不気味だ ぜ! 」 「ええ、ほんと、ケインが来てくれて、助かったわ。だけど、あれが、まさか火酒だ ったなんて……」  酒の中でも、かなり強い蒸留酒で、それを他の飲み物で割って、一〇倍くらいに 薄めて飲むのが普通だ。  いくら酒に強くても、ストレートで飲む人はいない。  そんなものをさらに加工して悪用するとは、なんて卑劣なヤツなんだ!   クレアのことがあって、急ぎだったから、見逃してやったが、あんなヤツが、魔物 の死体を集めて企んでいることなんか、きっとロクでもないことに決まってる。 「たかが酒だったから良かったものの、もし毒だったら、その場で死んでたんだぞ! 」 「もっともだわ。でもね、あの領主さんの話を聞いてるうちに、なんだか可哀相に なっちゃったのよ。奥様や、お子さんを、原因不明の病で、次々亡くされて。  中でも、二番目の奥様の若い頃に、あたしがそっくりだったから、つい話をしたく なっちゃったんですって」  あの妖怪オヤジがマリスと、結婚記念の肖像画に描かれているのを想像して、余計 にムカッ腹が立った。 「あんなヤツに奥さんなんかいたように見えるか? 妖怪だぞ、妖怪! 昔は多少 まともで、百歩譲って奥さんがいたとしても、あいつがお前みたいな綺麗な女と、 結婚できるわけないじゃないか! 」  マリスが、目を見開いて、俺を見直した。頬には、徐々に赤みが差していく。  あれ? 今、俺、何か言ったか?   俺の方も、カーッと、顔が赤くなるのが自分でもわかり、おさまれー! と念じて いたのだが、なかなかおさまる様子もなく……だが、頭の中は、ちょっとだけ、冷静 になった。 「ごめん、マリスに怒るのは、筋違いだよな。だけど、マリスは、変なとこ世間知ら ずなんだよ。いいか? これからは、絶対に、独りで行動すんなよ。必ず、俺か ヴァルを連れていけよ」  マリスの肩に手を置いた。  ——って、自分が、彼女の側にいるのを正統化しているように聞こえなかったか、 気にもなったが、マリスは、そうは受け取っていないのか、おとなしく頷いていた。  そこへ、ジュニアが、割って入る。 「いや、ケインや、あの兄ちゃんじゃ、ゴツくて無理なこともあるだろ? そういう 時は、俺様が一緒に行ってやるぜ。  魔道士たちの変身の術じゃあ、せいぜい自分の背丈くらいの人間になりすます くらいしか出来ないだろうけど、俺様の術じゃ、どんなものにも変身出来る。 例えば、イヌやネコみたいに小さいものや、トリみたいに羽ばたいたりも出来るん だぜ」 「あら、それは、便利ね! 」  マリスが、ぽんと手を打った。 「それなら、男子禁制の場所とかも、一緒に連れていけるわね」 「だろー? これなら、女子の入浴所にも、一緒に入っていけるんだぜー! 」 「なにぃ? 女子の入浴だと!? そんなの、ダメに決まってるだろー!?  そんな時は、ミュミュを連れてけばいいんだ! 」  と、俺が言うにもかかわらず、ジュニアのヤツは、ぽわ!っと、煙を立てて、 黒いカーリーへアの、小さなイヌに化けた。 「かーわいいっ! 」  ヘテロクロミアの小さなイヌは、きゃんきゃん鳴き、尻尾をふりふりして、マリス に飛びついた。 「これなら、どこへでも連れていけるわね! 」  マリスは、ますます、自分の欲しかったペットだと言わんばかりに、イヌになった ジュニアを抱きしめていた。  かわいいと得だった。  俺が、そんな風にマリスに触れられることなんか、有り得ないのだから。  ――などと、羨ましく思っている場合ではない!  「だからって、風呂やら着替えやら寝室やらは、ぜーったいダメだからな!  わかってるのか!? 」 「わかってるわよ、そんなの」 「そうそう、俺様も、誓って、そこまではしないぜ」  そのイヌ・ジュニアの目が、にたっと笑っているように見えたかと思うと、ヤツは ますます調子に乗って、マリスの胸に、甘えるように顔をうずめた。  同時に、俺の目が、更に吊り上がって行くのがわかる。 「悪魔の誓いなんか、アテになるかよ」  即座に、イヌ・ジュニアを引っ掴んで、マリスから引き離す。  ジュニアは手足をバタバタさせながら、煙を出し、元の姿に戻ったが、腕を組んで 立ち、余裕綽々(しゃくしゃく)の態度で、俺を見下すように、見上げている。  こいつ……! なんだかんだ、マリスに取り入ろうとしてる。  そうやって堂々と、彼女に触れることも出来るし、いつか、魔族に取り込んでやろ うというのか!?   俺も、負けじと、ヤツを見返した。  ズウウゥン……!   いきなり、それまで、俺たちを包み込んでいた周りの空気に、圧力が加わったよう な、一変して、がくんと重たくなってしまったような感じがした。  しかも、それは、一瞬のことではなく、当分は続きそうだと、予感させられた。 「これは……魔界か!? 」  ジュニアの声に、思わず俺もマリスも振り返る。  それまで、俺たちを連れて空間移動中だったジュニアは、進むのをやめ、周りを 見渡していた。  今までの、うねっていた景色とは、一変して、辺りは真っ暗な闇と化していた! 


黒羽ライン
魔空間
黒羽ライン

「魔界……だって!? 」  俺とマリスは、顔を見合わせた。  ジュニアの身体は、その暗闇の中で、青白く発光していた。  はっとしたように、自分の手足を見てみると、俺の身体は、ほとんど発光などは しておらず、微かに、ぼやーっと白っぽい輪郭が見えているだけだった。  そして、マリスは、ジュニアと違い、全身が黄金色に発光していた。 「お待ちしておりました。我らが若君。ご復活、おめでとうございます」  ぼうっと、正面に、青白い炎が灯(とも)ったかと思うと、それは、徐々にヒトの形 となり、炎は消え、マントに包まれた、青白く光る姿が現れたのだった。 「お前は……! 俺の、第一の家臣、△◎◆♧! 」  ジュニアが、俺たちを押しのけて叫んだが、名前は聞き取れなかった。 「若さま」  青白く光る家臣は、すーっと移動してくると、ジュニアの前で跪(ひざまず)き、 彼の手を取った。  その移動の仕方は、いかにも不自然で、『足を使わずして』だった。 「△◎◆♧、久しぶりだな。一〇〇三年ぶりかあ」  ジュニアが、嬉しそうな声を出した。 「御喜び申し上げるのが、大変遅くなり、申し訳ございません」 「いいよ、別に。お前も多忙だからな」  魔界の王子の家臣である青白く光る男は、すらっと立ち上がると、異様に背の高い、 痩せた男だということがわかった。 「この人間どもは、一体どうされたのです」  ぎろっと、冷たい視線が、俺たちに注がれた。  氷のような目だった。  細く鋭く、透き通った目。  少しだけ、背筋が寒くなる。 「なあに、ちょっと訳ありでさ、一緒に行動してたまでよ」  王子は、気さくに答えていた。魔族の男は、王子に視線を戻す。 「そのお姿では、まだ王の呪いは解けてはいらっしゃらないとお見受け致します。 いかに、ご不自由をされたことか。  ですが、ご安心下さい、若君。この△◎◆♧が来たからには、もう安心です。  お父上である魔王陛下の呪いを、完全に解くことは、わたくしめには出来なくとも、 この魔空間に於いては、若のお力を解放するくらいのことは出来ますゆえ」 「なにっ!? 本当か!? 」  歓喜の声をあげるジュニアの後ろで、俺とマリスは、再び、顔を見合わせた。  恐れていたことが――!   この空間で、ジュニアに本来の力を取り戻させてしまったら、ヤツはもう、マリス の言うことなど、聞きはしないだろう。  そして、魔族の敵となろう伝説の剣を持つ、この俺のことも――!  二つの青白い発光体は、ゆらゆらと、暗闇の中で、炎のように揺れて、俺たちを 振り返った。


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