Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅳ.3〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅳ.『トアフの領主』 妖精緑アイコン3 ~ トアフの領主 ~ 剣月緑ライン
館廊下

 古い回廊を進んで行く。  その長い回廊の床にも、長い敷物が敷かれている。大分、古いもののようだったが、 よく見ると、どこかで見たような模様だ。  そうだ! ジャグ族の織っていた模様と、よく似ているんだ!   マリスもジュニアも、黙って、俺の後に続く。  俺は、前を行く年取った執事に、それとなく話しかけてみた。 「さっきの部屋もそうだったけど、この館には、珍しい織物が多いんだな」  昔からそうなのだが、どうも、このように無言で長距離歩くのは、我慢が出来ない 性質(たち)なのか、別に、この執事と気が合いそうだと思ったわけではないが、沈黙 に耐えられずに、つい話してしまうのだった。 「代々、こちらの領主様は、各国の珍しい物をコレクションなさっておられたと、 お聞き致します。五八室の客間は、それぞれのお国柄で、室内を統一されております。 先程、皆様方に、お待ち頂いたお部屋は、東洋のある一国で揃えられた物にございま す」 「へー、他の部屋も、見てみたいもんだなあ」  まったく警戒を解いたわけではないが、俺は感心して、きょろきょろ見回した。  その時、天井と壁の間を、何か黒い小さな生き物が、ちょろちょろっと通った。  多分、また妖魅だろう。  が、何も、気付かない振りを装い、視線を執事に戻す。 「中原の国なんかの部屋もあるのか? 」 「中原には、あまり興味を持たれなかったと、お聞き致します。今は、アストーレ 王国が、かなり注目されるようになりましたが、以前は、ただの小さな国でしたし、 その周辺の国々にも、特には魅かれなかった模様です。  中原のお国のものは、せいぜい、フェルディナンド皇国の美術品と、マスカーナ 王国の衣装や装飾品ぐらいでしょうか」  フェディナンド――木の魔道士バヤジッドの国と、マスカーナも、アストーレで お会いした、俺にも親切にしてくれた、あのやさしい王子の国か。  ちょっと懐かしくなった。  執事とは、そんなたあいもない話をしている間に、やたらもったいつけた彫刻の 施された、石の扉の前に着く。 「こちらへどうぞ」  その重たそうな扉は、痩せた執事の手でも、簡単に開いた。


部屋

 中は広く、床には、見事な敷物が敷かれていた。  ジャグ族のものとも、中原のものとも違う。  俺は、こういうものには、あまり詳しくはないけど、それが、一見して、高い文化 と技術を持つ国のものだということは、すぐにわかった。  壁にかけられた大きなタペストリー、豪華な家具調度、いくつもの絵画、天井には、 きらびやかなシャンデリア――  そして、部屋の中央には、豪華な部屋に見合うソファに腰掛けた、大柄な人物が いた。  人物……だろう。……多分……。  彼は、ただの大柄なヒトというには、ちょっと語弊がある。  頭には、髪の毛が一本もなく、顔の肉はぶよぶよと垂れ下がり、首との境目が見当 たらない。  目がやたら大きく、ぎょろっとしていて、鼻は高くなく——ていうか、つぶれている。  その代わりと言ってはなんだが、口が物凄く大きかった。耳まで裂けている、と いう表現がぴったりだ。  胴体を、びらびらしたレースのやたら多い衣服が覆っているが、どうせ、中身も、 ぶよぶよと贅肉で包まれているに違いない。  全部の指にはめているごてごてとしたデカい宝石は、あまりいい趣味とは言えない。  片手に、高級な葉巻を持ち、肘掛けのすぐ横には、大きな宝石の付いた、豪華な杖 が置かれている。  身体の割に異様に細い足は、アストーレで出会ったモンスコール王子の靴と似た、 先の尖った、変な靴を履いていた。  彼は、きっと、欲しい物を手に入れるがまま、食いたい時に、食いたい物を食うが まま、贅沢三昧に暮らしているうちに、自分の足では歩けなくなるほどの巨体にまで なってしまった、人間の成れの果てだった!  「ようこそ。私が、ここのトアフ・シティーの領主、セバスチャン・トアフだ」  そのヒトであるものが、口を開いた。  声の調子からいうと、まだそれほど年寄りではないようだ。  それにしても、セバスチャンとは……ホントかよ?  「執事から聞いた。そなたたちは、魔物を倒してきたそうだな。どれ、見せてみよ」  領主は、ぎょろぎょろと、黄色い目を動かしていたが、ピタッと、何かに、非常に 興味をそそられたように、釘付けになった。  一瞬、その目は、俺に向けられているのかと思って、ぞっとしたが、よく見ると、 微妙に焦点がずれている。  彼は、俺の隣にいるマリスを見ているようだった。  そのマリスの目配せで、ジュニアが指を鳴らすと、俺たちの目の高さくらいの空中 から、ぼろぼろと、黒い残骸が、ジュニアの足元に落ちてきた。  領主セバスチャンは、それを驚きもしないで見ていた。  ……と思ったら、まだマリスを見たままだった。 「このとおり、俺たちは、魔物を数十匹倒してきました。お調べになられますか? 」  もうこんな不気味なオヤジのところから、とっとと消え失せたかったので、俺は、 早口になった。 「おお、そうであったな。ジョルジュ、ジョルジュよ、ここへ参れ」  領主が、身体の割に小さなてのひらを、ぴたんぴたん叩くと、その横の空間に、 黒い靄(もや)のようなものができ、だんだんとヒトの形を帯びていった。 「お呼びになられましたか、領主様」 「そなた、あの若者たちの倒して来たという魔物の数を、調べてくれ」 「かしこまりました」  そんな仰々しいやりとりは、もういいから、とっとと調べて金をくれ!   ジョルジュと呼ばれた黒マントの一見して魔道士は、死体の前に座り込み、てのひ らを翳しながら、じっとしていた。  ちらっと領主を見てみると、相変わらずマリスばかり見ていた。  当のマリスは、始めから、彼には関心がないらしく、彼の視線になど、気にも留め てはいないようだ。  普通の女なら、充分不気味がり、子供なら、泣き出してしまうほどだが。 「これらは、ミドル・モンスター、サイ獣人と判定致します。その数は、約三七匹と 思われます」  ジョルジュは、青白い顔で、うっそりと答えた。 「さようか。では、金貨三〇〇枚を、そなたたちに授けよう」  領主の口調は、ほとんどうわのそらだった。  そんなにくれるのは有り難いが、魔物が三七匹で三〇〇リブとは、一体どういう 計算なのか?   絶対、適当だろう。  魔道士も、ちらっと領主を見たが、何も言わなかった。 「褒美をすぐに用意致す。そなたたちは、先程の部屋で、休んでいてくれ」  領主は、そう言って、葉巻の火を消した。  


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「変な領主だったわね」  部屋に戻って、開口一番はマリスだった。 「ありゃあ、魔物に侵されてんな。あいつからは、邪悪な匂いが、ぷんぷんしてたぜ」  魔族の王子ジュニアも言う。 「それにしても、あの魔道士、お前の正体に気付かなかったみたいで良かったな。 お前が空間から魔物を取り出しても、驚いてなかったし」  ジュニアは腕を組んで、威張ってみせた。 「俺の魔力は、人間程度に抑えられちゃってるから、せいぜい魔道士くらいにしか 思わなかったんじゃねえの? お前たちみたいに、俺の復活を見たわけでもないんだ し。あのヴァルドリューズって、おっかない魔道士の兄ちゃんは、やたら勘が鋭いの か、特別だけどな」  そういうジュニアの額に生えている、一角獣のような角の周りには、アクセサリー を付けたのか、角自体がアクセサリーであるかのようにも見える。  腰の紐と尾のヘビも、姿を消していて、ただの紐になってるし。そうしていると、 どこか異国の民族にも見える。  異国のものを見慣れた領主たちだったのもあってか、そんなジュニアのことも、 怪しむことはなかったのは助かった。  たあいもない話が弾んでいた。もうすぐ帰れると思うと、俺を含め、皆も、待って いる時よりは、ほっとしているのがわかる。  そのうち、ドアをノックする音が聞こえるて、執事が現れた。 「ご褒美のご用意が、もう少々お時間がかかるとのことです。申し訳ございませんが、 もうしばらくお待ち頂けますでしょうか」 「別に構わねえよ」  ジュニアが、ご機嫌で答えた。 「それと、そちらのお嬢様。我が領主様がお呼びになっておられます。よろしければ、 少しの間いらして頂けませぬか? 」 「あたしのこと? 」  俺もジュニアも、マリスに注目した。 「そうでございます。お嬢様のお召しになられている、その東方の赤い装束に、大変 ご興味を持たれたご様子にございました。  短い時間で結構ですが、ぜひ、その旅のお話などをお聞きしたいと、おっしゃって おられます」  老執事は、会った時からそうだが、表情を変えずに、淡々と話している。 「う~ん、旅の話って言ってもねえ。これは、東洋に行って買ってきたものじゃなく て、砂漠のオアシスで、行商人から買ったものだし……」 「どこのお国のお話でも結構でございます。領主様は、あのように、多少、お身体が 不自由になってしまってからは、各国に、ご自分で赴かれることが出来なくなって しまわれたため、賞金稼ぎでいらした旅のお方のお話を聞くのが、唯一の楽しみでも あるのです。どうか、領主様と、僅かなお時間で結構ですので、お話ししては頂け ないでしょうか」  とかなんとか言っちゃって、マリスだけご指名ってのは、さっきの領主の目付きと いい、どう考えても、あやしいじゃないか。  マリスだって、あんな不気味なオヤジのとこなんか、二度と行きたくないだろう。  と思っていると、 「わかったわ。ちょっとだけ、お話ししに行ってみるわ」  彼女は、執事に微笑んだのだった。 「おい、正気か!? あんなガマガエルみたいなオヤジと、わざわざ二人っきりに なることないだろ? あいつ、さっきもマリスばっか見てたし、魂胆は、見え見え じゃないか」  マリスの腕を掴んで、小声で言う。 「そうだよ! マリーちゃん、取って食われちゃうぜ! 」  ジュニアも横から心配そうに言う。 「大丈夫よ。いざとなったら、ぼこぼこに――」 「アホか! それが、なおさら心配なんじゃないか」 「はあ、なるほど」 「いいか、俺たちには時間がないんだ。金を頂くまでが目的じゃない。クレアを助け なくちゃならないんだからな」 「わかってるわよ。大丈夫、すぐに戻ってくるわ」  マリスは執事と一緒に、廊下に出て行った。  あの領主自体は何も出来そうもないが、隣にいたあのジョルジュという魔道士―― ヤツがどれほどのものか、わからないが、とにかく、彼女が面倒を起こさなければ いいけど……。  俺とジュニアだけが部屋に残った。  ヤツは、落ち着かなそうに、部屋の中をうろうろ歩き回っている。 「ジュニア、少しは落ち着けよ」  あまりにも目障(めざわ)りで、注意した。 「俺、やっぱり、見てくる」  そう言い終わるか、終わらないうちに、ヤツは空間に、ふいっと消えた。  二人でいると、また俺が剣を向けると思って、逃げたのかも。  少なくとも、彼にとって、安全な場所は、マリスの近くだった。  ヴァルや俺が、ヤツを殺そうとしても、彼女だけは庇っていたからな。  今は、この城のものたちよりも、魔族であるジュニアの方が、まだ信用出来るくら いだ。  あいつが、空間から見張っててくれれば、多少は気持ちが違うのだった。 「おーい、ケイン」  空間から、いきなりジュニアが現れた。 「なんだ、やけに早かったな」 「それがさあ、領主の部屋に行く途中で、あのジョルジュとかいう魔道士に、ばったり 会っちゃって、待ってた部屋に戻ってろって、言うからさ」 「なんだと? じゃあ、マリスのいる部屋までは、行かれなかったのか? 」 「それが……」  ジュニアが真面目な顔になって、何か言いかけた時、部屋のドアが開き、またあの 執事が、今度は革袋を抱えて、現れた。 「お待たせ致しました。賞金をお持ち致しました」 「そうか。じゃあ、俺たちの連れを呼びに行く。そこまで、案内してくれ」  執事は、表情のない顔のまま言った。 「お連れのお嬢様でしたら、つい先程、裏口から、お帰りになられました。あのよう に、若く、お美しいお方は、妖魔どもに付け狙われやすいので、赤子と同じく、安全 な道を通って頂いたのです」 「なんだと? 」  俺は、疑うように、執事を見つめた。 「そうなんだよ、ケイン。あのジョルジュってヤツも、そう言ってたんだぜ」  後ろから、ジュニアが耳打ちする。 「なら、その彼女が帰っていった出口ってのは? 今なら、まだ追いつけるだろう」 「ごもっともでございます」


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 執事に案内された出口から城を出て、またさっきと同じく、鬱蒼(うっそう)とした 森に入り込んだ。 「なあ、ケイン、なんで、城を出ちゃったんだよ? マリーちゃんは、絶対、まだ 中にいるはずだぜ。早くしないと、あの領主のヤツが――! 」  側で、ジュニアがぎゃあぎゃあ言っていた。 「そんなことは、わかってる。ただ、城の奴等には、俺たちが出て行ったと思わせて、 安心させた方がいいと思ったんだ。どうせ、あのジョルジュって魔道士が、結界張っ てるだろうから。俺たちが帰ったと知れば、多少は結界も緩められ、潜入しやすいだ ろ? 」 「じゃあ、これから、マリーちゃんを助けに行くんだなっ!? 」  ジュニアは、キラキラと、サファイアとエメラルドの瞳を輝かせた。 「あのなあ、その『マリーちゃん』てのは、やめろよ。いまいち、マリスのガラじゃ ないんだよなぁ」  俺が呆れると、ヤツは、目をパチクリさせた。 「なんで? これは、俺が、ご主人様に敬意を表している呼び方なんだ。『マリス様』 じゃ、いかにも召使いじゃないか。  いくら、俺が、今はこんなだからって、そこまでは落ちたくないもんだぜ。だから、 『マリーちゃん』は『マリーちゃん』で、いいんだよ」  わけのわからないことを、彼は、アツく語っていた。 「だけど、どうやって、またあの城に忍び込むんだよ? 領主の部屋の前には、まだ あの魔道士が、うろついてるだろうし、あいつ、結構魔力高いぜ? 今の俺は、ヤツ を倒す決定的な能力は使えないんだし。こうしている間にも、マリーちゃんを救出 するのが遅れちまうし……」  無害な魔族ほど、こんな時は、役に立たないものである。  ジュニアは、あーでもない、こーでもない、と俺にベラベラ喋りまくっていた。 「お前は、俺を運んでくれるだけでいい。あいつらに、もし、何かよくない企みが あるんだとしたら、それがわかった時点で、俺が倒す」  と言って、腰に差したマスターソードの柄に、手をかけた。 「げっ! それって、……マスターソードじゃん!? 」  ジュニアが、驚いて、飛び退った。 「今さら、何言ってんだよ」  ジュニアは、大きく見開いた、宝石のような瞳で、じっと、マスターソードと、 俺を見る。 「そっちのもバスターブレードだし……なんで、お前が、伝説の剣を、それも二本も、 揃えてるんだ!?   ……まさか、お前が……俺たち魔族にとって、最大の敵になるヤツなんじゃ……」  俺を茫然と見つめるジュニアの口からは、譫言(うわごと)のように、そんな言葉が 漏れていた。  彼の左右の美しい瞳には、多少の怯えと警戒が、浮かんでいる。 「とにかく、マリスの腕についちゃあ、何も心配してないが、今、あいつは、何の 武器も持ってない。あのガマガエル領主なんかよりも、問題は、あの魔道士だろう。 あいつに素手は通じない。いくらマリスでも、苦戦してるかも知れない。  ジュニア、急いで、領主の部屋へ、俺を運んでくれ」


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