Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅳ.2〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅳ.『トアフの領主』 妖精緑アイコン2 ~ 領主の館 ~   剣月緑ライン

 子連れの女性を森の出口まで送ると、俺たちは、再び領主のもとへと向かう。  魔力が全快していないとはいえ、やはり魔物どもを抑えつけてもらってるおかげで、 最初に感じた不気味なざわめきは、今度は感じられずに済んだ。 「そう言えば、あんた、なんで父親に呪いなんてかけられちゃったの? 」  ふいに、マリスが切り出した。 「親とはいえ、魔王を怒らせるなんて、一体どんなことをしでかしたのよ? 」  ジュニアは、自分に関心が行くのが嬉しいのか、殴られたことすらなかったように、 マリスに対して、親しみのこもった笑顔で答えた。 「親父が後で食べようと思って大事にとっておいた大好物と、愛人を奪ったんだよ」  あまりに唐突な、しかも人間臭いことを、さらっと、にこやかに言われたので、 俺もマリスも拍子抜けし、思わずコケそうになった。 「……そ、そんなことで……? 」  ヤツは、そう言った俺にもにっこり頷いた。 「どっちも、親父の一番のお気に入りだったのさ。だから、あえて奪ってやろうと 思ったんだけどさ」  俺たちは、あんぐりと口を開けたままだった。 「俺は、魔力を封じられて閉じ込められてただけだけど、彼女なんか、もっと可哀想 だったぜ。禿げ山のてっぺんに吊るされて、あの美しい身体中を、ガガどもにつつか れ、死なない程度に生かされてるって話だからな。今でも、生きてんのかなあ」 「そんなこと、淡々と……。お前、罪悪感とか、ないのか!? 」 「魔族だもん。あるわけないじゃん」  確かにそうだ。  だが、こいつを見ていると、ついヒト扱いしてしまう。  俺は、ヴァルに言われたことを思い出した。 『どんなに人間臭く見えても、奴は魔族なのだ』と。そして、そんなヤツほど、油断 してはならないのだと、改めて思った。 「日頃から、俺は親父とは合わなかったからな。ヤツを、ぎゃふんと言わせたかった んだ。オヤジの大好物である、三五七年に一度しか手に入らないフカザメの鰭(ひれ) を、一三年間煮込んだものに、その黒タマゴを散らせた、魔界で最高の珍味と言われ ている盛り合わせを、こっそり喰ってやった。最高にウマかったぜ!  それを、喰わせてやるって、オヤジ一番のお気に入りの女を誘った。  こう見えても、俺は魔界でモテる方だったんだぜ。落とせない女なんかいなかった んだ。  親父なんか、魔王ってだけで、好き放題やりやがって――!   女たちだって、そんな親父を怒らせるのが怖くて、言うことを聞いていただけに 過ぎないんだ。  だが、俺は違う! 術も使わず、実力でモノにしたんだ。彼女だって、俺のおかげ で、束の間でも、救われたに違いないんだ。一生食べられないかも知れない料理も 食えたんだし」  実力? それは、寄ってくる女たちも、立場上逆らえないからだろ?  ……ていうか、魔王の愛人、魔界の王子じゃなくて、珍味の方に釣られたんじゃ ないのか!?    「そういうのって、魔族の実力って言えるのか? 」  俺の問いに、ヤツは、ずるそうに瞳を輝かせた。 「何も、人々に恐怖感を与えるだけが、魔族のやり方じゃないぜ。知らず知らずの うちに、気が付いたら、魔族の手の中にあったってことの方が、上級の魔族の成せる 技なんだぜ」  俺は、ぞくっとして、ヤツの瞳を見返した。  やはり、こいつは、ヴァルの言った通り、側においておかない方がいいのかも知れ ない。  こいつを恐ろしいと思えなかったから、すぐに斬るのは気が進まなかったが、既に、 こいつを高位の魔族だと意識しなくなっていた自分を振り返ると、こんなに危険な ことはないのだった。  斬ろう! ヤツを。今のうちに――!   俺は、背中に背負ったバスターブレードに、手をかけた。 「やはり、お前は、俺たちヒトにとって、危険だ。お前がいて助かったこともあった が、悪いけど、斬らせてもらう」 「ひっ! 」と、ジュニアが後退った。 「な、なんだよ、急に! 俺は、魔力もたいしてないんだぜ。ほっといたって、何も 悪いことなんかできやしねえよ。さっきだって、思わず、赤ん坊に食いついちまった けど、別に、歯形がついたくらいで、あの赤ん坊が魔族になっちまうわけじゃないん だから、いいじゃねえか! 」  バスターブレードだと知って恐れているのか、それとも、ただの剣ですら、ヒトと 同じように怖いのか、ヤツは動揺して、よろよろと逃げ腰になった。 「待って! 斬らないで! 」  マリスが、ジュニアの首に飛びついた。 「どけよ、マリス。こいつだって、自分で言ってたじゃないか。気が付いた時には、 こいつに乗っ取られてるかも知れないんだぞ! やっぱり、ヴァルがやろうとした ように、変に情が湧く前に、こいつを叩き斬った方がいいんだ! 」 「だから、いざとなったら、それは、あたしがやるわ。お願い! 今は、こいつを 斬らないで! 」  ジュニアは驚いて、目を白黒させながら、俺と、首に巻き付いているマリスとを 交互に見ている。 「いれば何かと役に立つと思うの。それに、こいつは、いつか、何かの切り札に使え るかも知れない。だから、お願い! あたしが、もういいと思うまで、こいつを殺さ ないで! 」  マリスが、余計にヤツを強く抱きすくめた。  そんなヤツを擁護するなんて、絶対間違ってる!   しかも、なんで、抱きついてんだ?   俺の中に、むかむかするような、もやもやした思いが涌き起こる。 「……まさかとは思うけど、マリス、そいつに、既に、情が移ってるんじゃないだろ うな? 」  バスターブレードを構えたまま、静かに言った。慎重に、彼女のどんな表情も 見逃さないつもりで、じっと見た。 「そんなんじゃないわ。ただ、……こいつは、魔物の間に伝わって来たっていう予言 の内容を知ってるはずじゃない? それと、他の魔族たちに聞いてもらえば、魔王 の封印された場所や、復活する時期も予想出来て、対策だって、立てられるかも 知れないじゃないの」  あの予言には、別の解釈があると、ヴァルに打ち明けられたことがある。  魔王とサンダガーを戦わせてはならない。戦えば、世界は消滅するだろうという。  それを、マリスは、ヴァルから知らされていない。  確かではないということもあるが、そのような破滅的なことは、彼女の耳には入れ たくなかったのは、俺にだってわかる。 「ミュミュだって、魔物の言葉がわかるんだ。それだけなら、なにも、そいつの手を 借りなくたって、出来ることだろ? 」  うっ……と、マリスが、言葉を詰まらせた。  ヤツを手放したくない理由は、やっぱり他にあるんだろう。 「……わかったわ。正直に言うわ。納得しては、もらえないかも知れないけど……」  俺は、さっと緊張した。  最悪のパターンは、マリスが、こいつに惚れてることだったが、例え、そう打ち 明けられても、感情的にならないよう、心構えをしたつもりだった。 「あたし、……こういうペットが、欲しかったの! 」  マリスは、真顔で打ち明けた。  続きがあるのかと思って、しばらく黙っていたのだが、彼女も、それだけ言うと、 黙っていた。  わけのわからない顔で、まだ混乱しているジュニアがただひとり、きょろきょろと、 俺とマリスの顔とを、交互に見ていた。 「こういうペットって……どういう意味だ? 」  バスターブレードの柄を握り直し、彼女の心の中を探るように見る。 「普通の動物とかじゃなくて、ちゃんと言葉が通じて、魔物に食われることもなくて、 あたしのいいなりになるもの――ってこと」  ……やはり、俺には、納得がいかなかった。 「そんなものが欲しかったからと言っても、そいつじゃあ危険が大き過ぎる。そんな リスクを背負ってまで、必要なヤツか!? 」  マリスは、必死な面持ちで、食い下がって来た。 「あたしのわがままなんだって、充分わかってるわ。だけど、魔物に対抗するには、 必要だって思うのよ。それに、こいつは、既にあたしの僕(しもべ)なのよ。悪いこと は、あたしが責任もってさせないようにするから! ねっ? ジュニア、そうでしょ う? 」 「そうだよ! 人間に害を与えるようなことは、絶対にしないから、そんな物騒な もの、しまってくれよぉ! 」  ジュニアも、マリスと一緒になって、懇願した。 「あたしの言うことなら、何でも聞くでしょう? 」 「聞くよ! 俺は、たった今、心から、お前の下僕になったのさあ! 」  ジュニアは、跪(ひざまず)いて、マリスを見上げた。  見ていて、呆れた。  なんて調子のいい。死にたくないだけだろー?   まったく、茶番もいいとこだった。 「ねっ? お願い、ケイン! 今回は、見逃して! 」 「見逃してくれよー! 見逃してくれよー! 」  ヤツは、母親の後ろに隠れる子供のように、マリスの足にしがみついたまま、身を 隠し、涙目で、俺に訴えた。  そんなこと許したら、こいつは、四六時中マリスと一緒にいることになるだろう。  マリスが魔族に取り込まれる環境を与えてしまうと同時に、ペットみたいに、こい つを可愛がるなんて……!   尻尾を振るイヌみたいに、こいつがマリスに懐き、マリスも、イヌやネコを可愛が るみたいに、笑顔で、こいつを抱きしめたりするのだろうか。  そう妄想しただけで、本当に、本当に、嫌だった!     ——が――   俺は、バスターブレードを背中に戻した。 「ありがとう、ケイン! わかってくれたのね!? 」 「ありがとう! ありがとう! 」  二人は、俺の周りで、小躍りし始めた。  理解したわけでもなければ、情に訴えられたわけでもない。  ただ呆れてしまったのだった。


領主の館

「あそこが、領主様の館ね」  アホらしいことで時間を使ってしまったが、ようやく森を抜け、灯りのともった 建物が見えてきた。 「随分、大きな屋敷だな。城くらい、あるじゃないか」 「トアフ・シティーは、中原からは離れた、独立した都市だから、それだけで、小さ な一国も同じだと思えば、領主は王みたいなものだわ。それにしても、よっぽど金持 ちみたいね」  俺とマリスが、あれこれ詮索している間、ジュニアのヤツは、にこにこと、マリス の言うことに、いちいち頷いていた。助けてもらったからって、そこまでゴマをすら んでも……。 「魔物を退治したので、領主様にお目通りをお願いしたいのですが」  厳つい鎧に身を包んだ門番に、マリスが、にっこりした。  門番は、ふんと小馬鹿にしたように、鼻を鳴らして、面倒臭そうに門を開ける。 「あら! 誰かと思えば、あの時の小娘じゃないの」  妙に、威圧的な声だった。  よく見ると、背の高い女と、低い女の二人連れだ。 「は~い! お兄さん、また逢えたねぇ! 」  小柄な方の女が、「きゃっ! 」といいながら、手を振る。  こいつらは……スーにマリリン……!  俺たちが砂漠に入る前の荒野で出会った、背の高いナイスバディーを誇る女剣士と ロリっぽい自称美少女魔道士なのだった。 「ふ~ん、正義のためだとか言ってたくせに、結局は、あんたたちも、お金が欲しか ったんじゃないの。ほ~ら、ご覧なさい! 」  スーちゃんは、何もしていないのに、勝ち誇った笑い声を上げた。  今回ばかりは、彼女の言う通り、金が欲しかったため、何も言い返せない。  もともと、言い返すつもりもないが。 「今日は鎧じゃないのね? 私に対抗すべく、そんな服を着てみたのかも知れないけ ど、まあ、女には見えるようになったくらいのもので、まだまだ私たちにはかなわな いけどね。ほーっほほほ! 」  スーちゃんが、マリスをからかったが、初対面の時と違い、マリスはあまり構って いなさそうだったので、ほっとした。 「へ~、こんなお兄さんも連れてたんだー? ずる~い! 自分は男女みたいなくせ して、こんなにカッコいいお兄さんたちばっかり連れ歩いちゃって! どっちかひと り、マリリンにちょうだい! 」  マリリンちゃんも、かわいいお顔の割には、随分なことを言っていた。 「誰が、あんたになんか、やるわけないでしょ」  マリスが、マリリンの頭をコツンと殴る。  そんなに強く殴ったようには思えなかったが、途端に、マリリンちゃんが、 びーびー泣き出した。 「乱暴はよしなさいよ! 」  スーちゃんが間に入り、マリリンを抱えた。  マリスは、呆れた目で、二人を見ていたが、さっさと門の中へ入っていった。 「やーね! ほんと、乱暴なんだから! マリリンちゃん、大丈夫? 帰ったら、 今もらったお金で、好きなだけ飲み食いしましょう。そして、明日になったら、 オーダーメイドでドレスを作ってもらいましょう! 」 「うん! スーちゃん! 」  トモダチなのか、それ以上なのか、はたまたうわべだけなのか、利害関係なのか、 まったくよくわからない関係の彼女たちは、門の外につないであるウマの鞍に、 ずっしりと、重たそうな革袋を積み上げた。  袋の中身は、魔物を換金した金だろう。随分もらったらしいな。  それよりも、あのウマは、俺の譲ってあげたウマだろうか?  ……多分、そうだろう。


部屋

「ただ今、領主様は、お食事中でございます。しばらく、こちらでお待ち下さい」  執事の老人が、俺たちを、広い客室に通すと、重々しい扉を閉めた。  ソファくらいしかない、がらんとした広い部屋で、俺たち三人は、することもなく、 うろうろ歩き回っていた。  古くあらある、由緒正しい家のように思える。相当古いのか、結構カビ臭い。  壁には、歴代の領主の肖像画が、何枚も掲げられている。  天井にも、何か宗教がかった模様が書かれているし、絨毯も、東洋系の色彩で織ら れていた。


窓

「あの森、な~んか、アヤシイわ」  マリスは窓枠に腰掛け、さっき通ってきた森を見下ろしていた。  その横にいるジュニアは、イヌが尻尾振るみたいに、またしても、うんうん頷いて いた。  だから、そんなにゴマをすらんでも……。 「前に、スーたちが言ってたけど、もうこの辺では、魔物は捕れなくなってきたから、 遠出をしてるって。  でも、あそこの森には、下等だったけど、妖魔はいっぱいいたわ。遠出しなくても、 あそこの魔物を倒せばいいのに」 「下等なモンスターじゃ、わざわざ換金はしてくれないのかな? 」 「そうかも知れないわね」  俺に視線を向けることなく、彼女は森を見続けていた。 「街が、魔物に苦しめられているから、倒してくれたらご褒美をあげる、っていうん なら、わかるのよ。だけど、遠くの魔物を倒してまでも、金に換えてくれるなんて、 随分人が好(よ)すぎない? 魔物撲滅運動なんて、たかが領主がひとりで出来ること でもないし。神の神託が下ったなんて騒いでる、どっかの祭司長でもあるまいし、 よっぽど正義感が強いのか、あまりにも有り余っている金を持て余しているだけなの か、または……金を積んでまでも、魔物の死体が欲しいのか……」 「魔物の死体が欲しいだって? 」  マリスは俺を見ると、慎重に、言葉を選びながら、続けた。俺に話すことで、彼女 自身も、自分の考えを確認するみたいに。 「例えばの話よ。魔物の死体っていうのは、魔物を倒した証拠として、持って行く ものなんだと思っていたのよ。  さっきの酒場でも言っていたけど、あちこちから、賞金稼ぎが魔物を倒して、死体 を運んでくるらしいじゃない? そんなに死体ばかりが、ここに集まってきちゃった ら、いくらなんでも、処置が大変なんじゃないかしら。   だけど、ここの領主は、未だに魔物に賞金を懸けてるわけでしょう? 連れて来ら れた魔物は、一体どうしてるのかしら? 」  その時、窓の外で、カサッと、何か物音がした。 「ほら、また妖魔だわ。館のこんな間近にまで来てる。いくら下等な妖魔といっても、 こんなこと、普通の人間なら耐えられないはずだわ」 「お前だって、魔族を飼ってるじゃないか。ここの領主も、お前と同じで、相当な 物好きなんじゃないか? 」  ちょっとからかってみた。 「それだけなら、いいけど」  ぼそっと、彼女は呟いた。 「例え、何か妙なことを領主がしていたとしても、今の俺たちには、時間がないんだ。 金をもらったら、今度は、クレアの憑依を解かないといけないんだからな。そっちが 優先だ」 「わかってるわ」  マリスが、少し真面目な表情で頷くと、 「ヤナの憑依を解くだって? 」  ジュニアが、目をぱちくりさせた。 「ありゃあ、大変だぜ。悪いけど、あの娘(こ)は、もう助からないかも知れないぜ」 「なんだと、おい、いい加減なこと言うなよ! 」  俺がジュニアに詰め寄ると、ヤツは怯えてマリスの後ろに隠れた。 「だって、ヤナは、女神像に取り憑いてから、神聖な力がパワーアップしてんだぜ。 だから、魔族もうかつに近付けなかったんだ。  あんな強力な巫女の魂に、取り憑かれてんのを、無理矢理引き離そうとすると、 憑依は解けても、あの娘の人格が、もとに戻るかまでは、わかんねえぜ。  ただの記憶喪失がいいとこで、下手すりゃ、廃人同様になっちまう。  可哀想になあ。せっかく、かわいい娘だったのに。ヤナさえ取り憑いてなかったら、 絶対モノにしたのになあ! だけど、巫女だからダメか」  ジュニアは、わけのわからないことを言って、暢気に笑っていたが、いきなりマリ スが、ヤツの頭を殴った。 「いてっ! 」  ジュニアは、その場に蹲(うずくま)ると、「一体、俺が何をしたってんだ? 」と 言いたげに、マリスを見上げた。 「クレアは、あたしが絶対に救ってみせるわ! 廃人なんかに、させやしないんだか ら! 」  マリスに睨まれて、ジュニアは、「ひー! 」と叫んでから、おそるおそる切り出 した。 「だ、だけどさあ、あれじゃあ、普通の人間は受け付けないぜ? 彼女と同じ巫女だ とか、それに近い存在じゃないと……」 「だから、あたしがやるのよ。あたしの母親は巫女で、あたし自身だって、洗礼を 受けた巫女でもあるんだし、ベアトリクスの辺境では、白魔法で魔物も倒したこと あるんだから、白魔道士でもあったのよ」  まったく、様々な経歴の持ち主だった。  マリスの白魔道士姿って、凛々しくてカッコ良かっただろうなぁ(見た目は)……と、 白い道着をまとい、戦う姿を想像し、改めて感心した。  ジュニアの方は、ぽかんと口を開けていたが―― 「ウソだっ! 有り得ねえ! そんなことは、有り得ねえ! 」  思いっ切り叫んでいた。  ヤツが、マリスに心から服従しているわけではないことは、バレバレだ。 「なによ、うるさいわね。じゃあ、他に誰がやるってのよ。あんたが出来るとでも 言うの? 」  マリスも、さすがに機嫌を損ねていた。 「俺だって、ちょっとの時間なら、精神の中に入ることは可能だぜ。高位の魔族に なるほど、霊的な部分が強いからな。多分、それくらいは、今の俺でも出来そうだ」  それくらいは、なんていうが、それだけ出来れば、たいしたもののように思える。 「だから、あのおっかない魔道士の兄ちゃんに手伝ってもらって、マリーちゃんと 一緒に、あの娘の中に入ることは出来るぜ。そうしたら、ヤナを追い出すのも、 二人がかりで出来る」 「ちょっと、待て。……マリーちゃんて、誰だ? 」  俺が、ぞわっとして、ジュニアに尋ねると、彼はきょとんとした顔で、こっちを 見た。 「決まってんじゃねえか。彼女のことだよ」 「ええっ!? 」  指差されたマリスも、不気味そうに、ジュニアを見ている。 「なんなんだ、その変な呼び名は! 」 「だって、俺、身も心も彼女の奴隷だもん。自分のご主人様を、かわいく呼んで、 当たり前じゃないか」  ヤツは、人差し指を立てて、にっこり、俺とマリスに微笑んでみせた。 「ま、それは、置いといて――。あんた、あたしと一緒にクレアの中に入るって言っ てたわね。だけど、今のクレアは、神聖なものしか受け入れられないんでしょ?  魔族のあんたが入っていけるようなもんじゃ、ないんじゃないの? 」 「逆に、あまりにも邪悪なものが来れば、嫌がって出て行くこともあるんだぜ」  ジュニアは、また人差し指を立てて、サファイアの方の目を瞑(つぶ)ってみせた。 「ヤナには長い間、さんっっっざん世話になったからなあ。俺としても、お返しして やんなくちゃ、気が済まないのさ」  ヤツは、開いているエメラルドの瞳を、邪悪に歪ませた。  笑っている口元には、牙のような八重歯が覗く。  ああ、やはり、こいつは魔族なんだ。  そう思っていると、部屋の扉が、重々しい音を立てて、開いた。 「お待たせ致しました。ただ今、領主様のもとへ、ご案内致します」  先程の、青白い顔の、痩せた老執事が、ゆっくりな動作で、一礼した。  いよいよ、ご対面だ。謎の領主に。    俺たちは、顔を引き締めた。


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