Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅳ.−1〜
アニメ紫妖精右タイトルdragonバナー1アニメ紫妖精左

~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅳ.『トアフの領主』 妖精緑アイコン1 ~ トアフ・シティーへ ~   剣月緑ライン

「お前みたいな不良巫女が、そんなことして大丈夫なのかよ? 」  カイルが、疑り深い目を、マリスに向ける。 「そうねえ。ヴァルから説明してよ。あたしが言うより、皆も安心出来ると思うのよ」  カイルの態度に腹を立てるでもなく、マリスはヴァルに言った。 「マリスでも大丈夫だ。私もゴールダヌス殿から伺ったが、少なくとも、サンダガー のように、ヒトに神を召喚する場合は、神官、巫女などの、白魔術系の素質が必要 なのだ。母親は巫女であったため、マリスには、生まれつき高い魔力が備わって いたという。その上、ベアトリクスの神殿で洗礼を受けたからこそ、巫女の中では、 その能力も高い。  サンダガーが彼女に乗り移る時、彼女の身体の周りに白い煙のようなものがたち こめるのを、二人とも知っているだろう? それは、白魔法の呪文によるものなのだ。 神を召喚するには、媒体を神聖化する必要がある。その呪文は、彼女自身によるもの なのだ」  感情の、まったくこもっていないヴァルの話は、そこで終わった。  いかにも、自分の勤めは果たしたと言わんばかりに。 「じゃ、じゃあ、それも、……白魔法? 」  俺たちに、マリスが頷いた。 「あたしも、一時期は白魔法を使えたんだけど、『全身浄化』の呪文が使えるように なった引き換えみたいに、それまで使えてた白魔法が、使えなくなっちゃったの」  いまいちピンと来ない俺たちだったが、今の説明で、なんとなくわかった気がした。


紫ライン

 ぐるるるるるる……!   俺たちの目の前には、サイの頭に人間の身体をした、ヒトよりも一回り大きい獣人 が、数十匹といた。  さっき、俺たちのいた岩山から、さほど遠くはない森の茂みの中だった。  聞こえていた地響きは、いつの間にか止んでいて、動物たちの移動も済んでいるの か。  おそらく、あの地響きは、魔界の王子の復活によるものだったのだろう。  そのように、仰々しく復活した割には、ヤツは、あんまりたいした能力はないみた いだったけど。  ミュミュとカイルは、眠っているジャグやクレアを、村の中心まで、ミュミュの 空間移動で何往復もして運んでいたので、ここにはいない。  奴等、モンスターが数十匹、かかってこようと、俺とマリス、それにヴァルがいれ ばラク勝なのは、目に見えていた。  あっけなく、勝負はつき、俺たちの前には、緑色の体液を飛び散らせた、不気味な 魔物の死体が、ごろごろと転がっている。  マリスは、俺の貸したマスターソードで、勢いよく奴等をぶった斬っていき、 ほとんど、彼女ひとりでやっつけてしまっていた。  俺もヴァルも、一応構えてはいたのだが、最後まで出番はなかった。  マリスは、手をパンパンはたくと、満足そうに、俺たちを見て、笑った。 「それじゃ、あたしは、こいつらを現金に換えてくるわ」 「待て」  ヴァルが引き止めた。 「トアフ・シティーへは、ケインも連れて行け」  俺は、耳を疑った。  が、確かに、ヴァルは、そう言ったのだった。 「ケインを? ……わかったわ」  彼らは、俺の意志も確かめずに、勝手に決めた。  ヴァルが空間から銀色の鎖を引っ張り出し、マリスに渡すと、マリスがジュニアを 呼びながら、鎖をたぐりよせた。 「いててて! そんなに引っ張るなよ」  先程出会ったばかりの、魔界の王子が、何もない上空から、鎖のつながった腕を、 前に突き出した格好で、舞い降りてきた。 「げっ! これ、みんな、お前らがやったのか!? 」  正確には、マリスひとりだが。  ジュニアは、魔物たちの死体を目の当たりにすると、左右の色違いの瞳を、思い切 り開く。 「ひでえ……! なんてことを! 俺の仲間どもを……」  彼は、しばし茫然と、その光景を見つめていた。  無理もない。  俺たちにとっては、人々を脅かす魔物だが、ヤツにとっては、かわいい僕(しもべ) なのだから。  が―― 「ま、いっか。俺の直属の部下じゃねえもんな」  と、開き直ったのだった。 「さすが、魔族。血も涙もないわね」  マリスが半ば感心したように、腕組みをして言った。  きみに言われちゃあ……。 「こいつらと、あたしとケインを連れて、トアフ・シティーまで飛んで欲しいの」 「わかったよ」  彼は、意外と素直に返事をし、パチッと指を鳴らすと、魔物の死体が消えた。  彼らのやり取りの横で、ヴァルが、そっと横にきた。 「いいか、ケイン。奴は、魔力はたいして感じられんが、それは我々を油断させる ためかも知れん。どんなに人間臭くても、相手は魔族だということを、常に忘れるな。 怪しいと思ったら、すぐに斬れ」  ヴァルは、俺の耳元で、静かに言い、俺も、静かに頷く。  ちょっとは、俺のこと、頼りにしてるのかな?   たいしたことは出来ないらしいと言っていた割に、彼は、ヤツを警戒しているようだ。 「じゃ、行ってくるわね」  ヴァルに手を振るマリスと、俺の肩に、ジュニアが手をかけた時、目の前の視界は、 まったく別物になっていた。


黒羽ライン

 きっと、さほど時間は経っていないだろう。  身体に絡み付くような、時空を越える時につきものの、あの独特な違和感は消え、 いきなり地に足が着いたので、驚いて、目を開けた。  ジュニアは、ヴァルのように、「もうすぐ着くぞ」などと、親切に予告してはくれ なかった。


トアフ・シティー

 目の前には、一変して、都会の風景が広がっていた!   甃(いしだたみ)の地面が続き、露店や商人たちの群れ、行き交う町人、馬車、小さ な滝のある造られた泉などが、目に飛び込んできていた。  ただ、もう少し、一目に着かないところに、ジュニアが現れてくれれば良かった ものを、このような人通りの多い地帯にいきなり現れた三人組を、道行く人々は驚い て目を見開いていた。  だが、それも、一瞬のことで、すぐに、何事もなかったような空気が復活する。 「トアフ・シティー――少しは、魔道に慣れてる国みたいね」  隣で、マリスが静かに言った。 「まずは、人の集まってそうなところにでも行って、換金してくれる場所を探そう か? 」 「そうね」  俺たちは、さっそく、酒場へ向かった。  ビヤ樽の並んだ、ごく普通の、酒場のカウンターにいる、ちょっと無愛想な、太っ たオヤジが、じろっと、俺たちを見て言った。 「注文は? 」 「いいえ、ちょっと、お聞きしたことがあるだけなので」  なにしろ、このところ、ロクな食事をしてこなかったから、本来なら、思いっきり 飲んで、食いたいところなのだが、金もないし、時間もない。  従業員の運ぶ美味(うま)そうな肉の焼いた匂いと、酒の匂いには、ついつられそう になるが、ここは、ぐっと我慢。  俺は、続けて、オヤジに尋ねた。 「ここの町で、魔物を現金に換えてくれるという噂を聞いたのですが、どちらへ行け ばいいのでしょうか? 」 「領主様が魔物に賞金をかけるようになってから、他国からも、賞金稼ぎが、ぞくぞ く来るようにはなったが、まさか、おめえたちのようなガキまでが、やってくるとは。 お前ら、本当に、魔物を捕らえたのか? 」  オヤジは、「注文もしねえで、まったく、近頃のガキは! 」とでも言いたげな顔 で、鼻の下に生えた髭をいじって、余計に、俺たちを、じろじろ見た。  確かに、今、俺たちは、魔物を持ち歩いてはいないが、それは、ジュニアが空間に、 しまっておいてくれているからなのだ。 「ちょっと人目につかないところに隠してきたの。その領主様のいらっしゃるところ を、教えて下さらない? 換金して頂いたら、その帰りには、必ずこちらに寄らせて 頂くわ」  マリスの珍しく丁寧な物腰に、俺は首の後ろがくすぐったい気がしたのだが、東方 の赤い魅力的な装束に身を包んだ、パッと見、謎の美少女に、にっこり笑いかけられ た酒場のオヤジは、気を良くしたみたいで、しかめっ面を、いくらかほころばせたの だった。  こういう時、女はお得だった。どーせ、中身はわかりゃしないんだから。


黒羽ライン

館の森

黒羽ライン


 そのオヤジに教わったとおり、町の中心から離れた森に出た。  夜になりかけているということもあるだろうが、やたら薄暗い森だ。  領主様とやらの館のある敷地は、かなり広いらしく、この森が既に敷地のうちなの だという。 「この森を通る間にも、魔物に出くわしそうね。まさか、賞金稼ぎにやる賞金はない、 なんていうつもりなんじゃないでしょうね」 「まさか……な」  マリスと俺は顔を見合わせる。  森に、一足踏み入れた途端だった。  木々一本一本が、森全体が、一斉にざわめいたのだった!   風もないのに、さわさわ、ざわざわと、森に巣くうものたちの、異物の侵入を拒む ような、ただならぬ神経質な空気が、俺たちに降り注がれている。  今すぐ、俺たちを襲うでもなく、遠くから、高いところから、俺たちの進んでいく ところ、いくところ、ざわめきが待ち受けていたのだった。  普通の人間では、到底我慢は出来なかったかも知れない。  魔物の姿は見えず、ざわめきだけが先回りしているのだ。  いっそのこと、例え恐ろしい異形の魔物であろうとも、姿を現してくれた方が、 何倍もマシだ。 「皆、俺様の復活を喜んでやがるぜ! 」  マリスの隣で、ジュニアが感動していた。  そうか、お前のせいか!?   その時、 『魔だ。強い魔力を感じる』 『あいつだ。あの人間の女だ』 『なぜ、人間なのに、あれほどの魔力を……? 』  姿は見えないが、耳を澄ますと、そのような言葉が聞き取れる。  魔物の声なのだろう。  霊感のほとんどない俺でさえ、奴等の言葉が、こうもはっきりと聞こえるというの は、ジュニアが一緒だからか、それとも、この場所が、それだけ魔物の力が大きいと いうことなのだろうか?   俺が今まで足を踏み入れたことのない領域に、どうやら、入り込んでしまったよう だ。  ふと、隣のマリスを見てみる。  彼女などは、俺よりは、その世界に慣れているせいか、全然驚いてもいないようだ った。  ただ凛とした表情で、そのまま森を突き進んでいる。 『人間のくせに、以上な魔力だ』 『危険だ。我らには危険だ』 『今のうちに、何とかしなくては……! 』  森のざわめきが一層大きくなった時、マリスは、目だけ俺に向けた。  俺も、黙って見返す。  こんなところで、戦闘が始まろうというのか!? 「えーい、静まれ! 」  いきなり、ジュニアが吠えた。  森の見えない妖魅どもが、一瞬で静かになる。 「さっきから聞いてりゃあ、なんだ、てめえら! せっかく、この俺が復活したって のに、騒いでたのは、俺様の復活を喜んでいたわけじゃなかったってのか!? 」  彼は、地団駄を踏んで、怒っていた。  それは、魔界の王子である彼にしてみれば、非常に心外だったに違いない。 『王子だ! 王子殿下が、ご復活なさった! 』 『我らが王子殿下、ばんざい! 』  妖魅どもは、今初めて気が付いたのか、慌てたように、口々に、ジュニアを讃え 始めた。 「ふん! なんでぇ、白々しい! 」  彼は、腕を組んで仁王立ちになり、そっぽを向いた。完全に、機嫌を損ねていた。 「お前ら、隙あらば、この女の生気を吸い取ろうと思ってただろうが、俺の命令だ、 この森を抜けるまで、一切こいつらには手を出すなよ。わかったか」  妖魅どもは、次第におとなしくなっていき、あの妙なざわめきは、だんだん薄れて いった。 「へー、お前、そんなことができるのか。おかげで、戦闘にならずに済んだぜ」  思わず感心して言うと、彼は手を腰に当てて、えっへんと威張ってみせた。 「魔力は全快してなくても、俺様の威厳は健在さ! どーだ、すごいだろー! 」 「別に、あんな魔物たちが襲いかかってきたところで、痛くも痒くもないけどね」  暴れられなくて、残念そうに、マリスが言った。  その時、近くで女の悲鳴が聞こえた。  俺とマリスは、一気にダッシュしていった。


黒羽ライン

「きゃあああ! 」  ひとりの女性が、小人くらいのものに衣服を引っ張られている。  そいつは、一見して、明らかに、小人族とは違う。緑色のつるつるした皮膚をして、 背中は曲がり、でこぼことしている。  頭には二本の触角が、うねうねと動き、長く尖ったエルフのような耳が、左右に 張り出した、魔族の小人だった!   俺は、マスターソードを突き出し、小人と女の間に入る。  すぐにぶった斬ってもよかったのだが、ジュニアの手前、躊躇った。  ヒトにとっては敵でも、ヤツにとっては同じ種族なのだ。  この場では、できれば、彼に、さっきみたいに引っ込めてもらった方がいいだろう。 「ジュニア、あいつを止めて」  同じように思ったのか、マリスが言うと、ジュニアは、片手を小人に翳した。 「げぴっ! 」  小人は、変な音を発して、俺の目の前から消え失せた。 「殺したの? 」  マリスも俺も驚いてヤツを見る。 「ああ。どうせ、またすぐに湧いてくるからな」  ヤツは、何事もなかったかように、平然としていた。  なんだ、だったら、遠慮せず、ズバッといけばよかった。 「大丈夫ですか? 」  俺は、後ろに庇った女の人を振り返った。  よく見ると、彼女の腕には、赤ん坊が抱かれていた。 「ありがとうございます。ああ、なんとお礼を申し上げてよいやら……」  気が抜けたのか、一見して町民のその女の人は、へなへなと、その場に座り込んで しまった。 「なぜ、こんなところを歩いていたの? しかも、子供連れで、さっきの妖魔は、 きっとその子を狙ったんだわ。下等な魔物でも、魔物ってのは、赤ん坊の生き血が 好きなものよ。いかにも、こんな魔物の巣の中を、お守りや魔除(まよ)けもなしに 通ろうなんて、無茶もいいところだわ」  明らかに、その女性の方が年上であるにもかかわらず、マリスがずけずけと言った。 「しかし、僕がやっつけてしまいましたから、もうご安心下さい。美しい奥さん」  誰かと思ったら、俺の横にジュニアが来て、やさしく彼女の肩に手をかけると、 左右の色の違う宝石のような瞳をきらめかせた。  その瞳に魅了されたように、女性はしばらく、ヤツから目を反らすことが出来ない でいるみたいだった。 「やあ、かわいい赤ちゃんだなあ! あれほど、お母さんが大変な目に合っていたっ てのに、こんなにぐっすり眠っているとは、たいした子だなあ! 」  ジュニアは、にこにこしながら、母親の手から、赤ん坊を抱き上げると、あやし 出した。  こいつ、子供好きなんだろうか!?  「ところで、さっきも聞いた通り、どうして、こんなところを歩いていたんです? 」  へたり込んでいる母親に、再度尋ねてみると、彼女は、我に返ったように、俺を 見上げた。 「領主様のところへ、年貢を納めに参ったのです。その帰りに、ついうっかりと、 いつもの道を通ってしまったのです。いつもは、もっと早い時間で、子供を連れては いませんでしたから。しかし、この森では、早い時間帯であっても、子供を連れて いる時は、別の道を通らなくてはならないのです。魔物が子供を狙って現れることは 聞いてはいましたが、まさか、本当に――」  話の途中で、ジュニアが、カプッと、赤ん坊の腕に噛み付いた!   俺も母親もびっくりした。 「こら! 何してんの! 」  マリスが、ごつっ! と、ヤツの頭を殴った。  ヤツは、呻きながら、殴られた頭を押さえてしゃがみ込む。  わんわん泣いている赤ん坊を、俺が引ったくって取り上げ、女性に返した。 「いてえなあ! あんまり美味しそうだったから、つい……。なんだよ、ほんの出来 心じゃねえか! 」  ジュニアが涙目になって、マリスを見上げる。  どうやら、『違う意味で』子供好きだったらしい。 「そ、その人は、人間じゃないのですか!? 」 「や、やあね。そんなことないわよ。冗談よ、冗談! 」  マリスが取り繕った笑顔になって、ジュニアの頭を無理矢理押さえ、謝らせた。


剣月黄ライン剣月黄ライン剣月黄ライン Indexボタン Backボタン Nextボタン